Fate / Next Legend  1章、帰ってこなかった日常  (M:??? 傾:セイバーエンド後)


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1: ふぇい  (2004/04/05 01:18:48)[fay at mxi.netwave.or.jp]

Fate / Next Legend

1章、帰ってこなかった日常

聖杯戦争から既に半年近くが経ち季節は夏を向かえようとしていた、一連の怪異も徐々に増してくる気温と湿度の不快さの中に忘れ去られようとして、当事者達の記憶の中にのみ残されていた。
衛宮士郎・遠坂凛・間桐桜もそれぞれ進級し、普段の生活に戻って・・・

「どうして毎日毎日、此処に来るんですか!」
「別に良いでしょ、ここは士郎の家なんだから。それを言うなら桜こそ毎日来なくても良いのよ、私が代わってあげるから」
「わ、私は!・・・・・って、どういう事なんですか先輩!」
「とっ、遠坂!」
「あら、士郎は私がいると邪魔なのかしら?」
「うっ!・・・・そ、それは・・・・・・」
「先輩どういう事なんですか!ハッキリしてください!」

いなかった。


聖杯戦争の一件で親しくなった士郎と凛。”魔術師”としては見習いの域を出ない士郎
             マスター
にとっては、凛はまたとない師匠だった。
凛も士郎の特異な才能に目を付け、更に持ち前の面倒見の良さから半人前の士郎を放っておけず指導を引き受けた。
もちろんその背景に好意がなかったと言えば嘘になる。セイバーがいなくなった後のシロウを心配していただけに内心では隙あらばと思っていた。
そして指導という名目で凛は毎日のように衛宮邸に入り浸り、その度に桜と衝突する事になった。

事の発端は聖杯戦争の直後だった。
士郎・凛・イリヤの当事者三人の間ではある相談が行われていた。
その中には桜の兄、慎二の行方不明の件についても相談され、間接的にだが結果だけが凛の口から桜に伝えられた。
もちろん本人もかなりショックを受けていたが、それよりも直後に発覚した事実の前にそのショックはすっかり消え去っていた。
実はその頃から凛が「衛宮君」と呼んでいた呼び方を「士郎」と改め、更には毎日のように衛宮邸に入り浸り、時には泊まり込む事もあるという事実を知ったことだった。
もちろん凛と士郎が魔術師だと言うことは知られるわけにはいかず、二人は勉強会だの何だのと色々と理由をこじつけていた。もちろん保護者を自称する大河も最初は反対したが凛にアッサリ論破されるとそれ以降は大人しくなった。
だが士郎に対して想いを抱いている桜にとってそれは許せない事だった。
さらにトドメとなったのはイリヤが士郎に「お兄ちゃん」といってベタベタと甘えたことだった。
まさかこの事が引き金になって長年秘密にしてきた凛と桜の関係を暴露する羽目になるとは当の二人も考えていなかっただろう。

「イリヤちゃん、少し先輩から離れてください」
「シロウは私のお兄ちゃんなの、だから私はシロウに甘えても良いの!」
「甘いわねイリヤ、兄弟だからって甘えて良いなんて事無いのよ!」
「ふ〜んだ、ねえ、シロウはかわいい妹の頼み事聞いてくれるよね?」
「あ、ああ・・・・」
「士郎!」「先輩!」

こんな風にたまれると断れないのが士郎だ、しかしそれに凛と桜が納得できないのも無理はない。
普段は冷静な凛と物静かな桜だがソレはやはり血縁のなせる技なのか、頭に血が上ると二人は同じようなリアクションを取ってしまう。
 
「凛も桜も私みたいなかわいい妹がいたらシロウの気持ちがわかるわよ」
「余計なお世話よ、おあいにくさま妹なんていたしても大したこと無いわよ」
「!!!何ですって・・・・・・」
「何よ桜、第一アンタの場合1年以上一緒にいて何もしていないんだから今更私が士郎と一緒にいても良いでしょ。だいたい・・・」
「どうして貴女は何時も何時も、私の邪魔ばっかりするんですか!どうして・・・」
「何言ってるのよ?アンタ何様のつもりよ、自分で何もしないで人の事ばっかり羨ましがって」
「貴女は遠坂の家で幸せだったかも知れないけど、私は、私は!・・・」
「何よ、お姉ちゃんだから我慢してとでも言うつもり、それこそバカバカしいわね」
「・・・・・・姉さん・・・貴女って人は!」
「何よ、やる気?妹だからって容赦しないわよ!」

凛の何気ない挑発のつもりの一言が桜の長年の心の檻に亀裂を入れた。決して言うまいと思っていた単語を口にしてしまった。
もちろん二人とも一度口にしてしまうと歯止めがきかない。10年間抑圧し続けただけあって二人ともあっという間に見事に息のあった姉妹喧嘩を繰り広げ、二人が落ち着いたのは一時間以上経った後のことだった。

「・・・・桜、遠坂」
「「あ・・・・」」

売り言葉に買い言葉、次から次に互いの旧悪の暴露、更には普段からの不平不満などなど次から次に出てくる事実に士郎は大体の事情を察した。

「そっか、桜も俺と一緒だったんだ。それで・・・」
「ち、違います!私は先輩のことが心配で・・・」
「ああ、確か士郎も養子だったのね・・・そうよ、私と桜は元々は姉妹で桜は間桐の家に養子に出されたの」
「姉さん!!」
「今更どう取り繕っても一緒よ、それよりイリヤ、いい加減士郎を放しなさい」
「えぇぇ〜〜〜〜」
「問答無用!」
「姉さん!先輩は物じゃないんですよ」
「ふ〜〜ん、まるで自分の物みたいな言い方ね」
「な、な、なんですって〜〜〜」
 
容赦のない凛はイリヤから士郎を取り戻す、文字通り首根っこを掴んでの横取り、それに桜が反発する。
それ以来、衛宮家では毎度のことのように凛・桜・イリヤの間で士郎争奪戦が行われた。
さすがのこの剣幕の前には「冬木の虎」と恐れられた大河も全く手の出せない状況だった。


「さ、桜もそんなに怒らなくても良いじゃないか。せっかくの姉妹なんだから」
「先輩は黙ってて下さい!」
「シロウ、ほっときましょう。それより今日はパイを焼くの手伝って」
「しかしなぁ、イリヤ・・・」
「大丈夫、どうせ夕飯までには落ち着いてるでしょ。」

衛宮邸に集まる人間は聖杯戦争の後、倍に増えていた。
もとから来ていた桜と大河に加え、凛と藤村家に引き取られたイリヤが毎日の用に来るようになり、最近ではみんな週末は泊まりがけになる事も多くなっていた。そして今日からは夏休みという事で衛宮邸には早速凛・桜・イリヤが集まっていた。
本来なら引率役を自負する(実際には全く役に立っていない)大河もいるはずなのだが、今日は教員一同の慰安旅行ため県外の温泉街に出かけていた。
もともと大河がいたところで凛と桜の衝突を止められるはずもなく、イリヤもここぞとばかりに漁夫の利を得てシロウを独り占めできるチャンスを有意義に使う事にした。
国へ帰る事を拒んだイリヤも今では藤村組で世話になっている。だが実質的には毎日のように衛宮邸に入り浸っていた。
さすがに年頃の少女が一日中家でごろごろしている事を懸念した大河の祖父雷河は組の人間や士郎達を使い、ついにはイリヤを士郎達の学校に通わせる事に成功した。
だが実際に一番苦労していたのは士郎達だった。
特に最初の難関はイリヤに一般常識をたたき込むことだった。
凛がどれだけ言っても聞かず、桜もイリア相手では押しが弱く、大河に至っては逆にやりこめられる始末。結局一般常識に関しては士郎に一任された。
そして凛は学力、桜が教養と言った風に分担して短期間でイリヤを学校に通えるように整えたのである。
もちろんこれらにおいても大河は何の役にも立たなかった。むしろ隙を見てはイリヤの勉強の邪魔をする邪魔以外の何者でもなかった。

「シロウ、生地はこんな物で良いの?」
「う〜〜ん、もう少し柔らかくしようか?」

偏った価値観で教育されてきたイリヤだったが士郎達の努力のかいもあって今ではすっかり年頃の少女と代わりがなかった。
以前のような無邪気さは少しなりを潜めたが基本的には元の通りの天真爛漫な性格に変わりなく、同年代の少女達とはその容姿も相まって一線を画しているが人気者であることに代わりない

そんなイリヤの最近の趣味がお菓子作りである。
以前から食事の手伝いはしていたのだが、料理ではどうやっても凛や桜に勝てないと判断して重点を菓子作りに切り替え、目下士郎のもとで特訓中だった。
士郎にとってもイリヤの教育に始まって凛や桜たちとの生活の慌ただしさはセイバーを失った穴を埋めるのに役立っていた。
しかしこれが「凛や桜を太らせてやろう」と考えているイリヤの策略とは誰も気が付いていなかった。
数ヶ月もすれば士郎や一緒にハードな鍛錬しているイリヤを除けば凛と桜、そして食っちゃ寝を繰り返す大河は確実に体重が増えているだろう。

「こんな感じ?」
「そうだな、じゃあ焼いてみようか」
「うん!」

凛と桜が衝突すると必然的に士郎がフリーになる、その隙をついてイリヤが士郎を独り占め。
イリヤにとって見れば士郎をフリーにするには凛と桜の衝突はもってこいなのだ、煽りこそすれ止めようなどとは露にも思っていない。
大河銘々の「悪魔っ娘」は二重の策略をしかけて衛宮家で暗躍していた。

「・・・・・そろそろ、夕飯の時間ね」
「えっ!もうそんな時間?買い物に行ってこないと・・・・・」
「私も一旦家に戻って忘れ物を取ってこようかしら?」

夏とはいえ既に日は傾き始め夕飯の支度を始める頃になっていた。結局今日も半日、凛と桜は不毛な争いを繰り返しその間イリヤは士郎を独り占めの一人勝ちと言う結果に終わった。

「桜、私も一緒に行く。お菓子の材料の補充があるの」
「そう?じゃあ先輩、お留守番をお願いします。何かリクエストありますか?」
「う〜〜ん、そうだな・・・食後にイリヤの作ったパイがあるからアッサリした物が良いな」
「わかりました。それじゃあイリヤちゃん行きましょ」
「あ、待って桜。私も途中まで一緒に行くから」




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