いぬみみせいばー でーとへんァ複諭Цぜセイバー 傾:ほのぼの・コメディ)


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1: てぃし (2004/03/27 00:36:16)[1192tisi at mail.goo.ne.jp ]

前回までのあらすじ
 セイバーに犬耳と尻尾が生えました。
 ただいまデート中です。



明るい店内、

クリームの優しい色あいの床。

照明は必要以上の光度で照らし、毛皮の一本でさえ明瞭だ。

ほわほわの物体が詰め込まれたこの光景は、こころの中の攻撃的な部分を容赦なく否定していた。

「こ、これは……」

「凄いだろ」

見渡す限りのぬいぐるみ。

プードル、チワワ、ペルシャネコ、ヨーキー、スピッツ、ライオン、ゴリラ、くま、うさぎ……

とにかく大小様々なぬいぐるみが、店内に行儀良く陳列してた。

その様子は圧倒的だ。

なにせ、どこを見てもぬいぐるみが映るのだ。

「セイバー、ここから好きなのを選んで」

「な!? いいのですか!?」

「うん」

セイバーは呆然と周囲を見てた。

その広大さに心奪われている。

「……あの」

「うん?」

「幾つでもいいのでしょうか?」

「……ゴメン。お願いだから一つに絞って」





 Fate/stay night ss

いぬみみせいばー でーとへん

 てぃし





新都のぬいぐるみ専門店。

ここはある種の聖域とさえ言える場所だった。

まず、広い。

無駄に広い。

一望するのが不可能なほどだ。

しかも、これがただの一セクション分でしかない。

他にあるセクションは二つ、この野生の王国に加えて、バービー帝国、軍事産業ファンシー犬ある。

……後ろ二つがすごい気になるが、ふれない方向で行こう。

あと、男女比率が圧倒的だ。

男が俺しかいない。

最早こうなると完璧な異物・珍獣扱いだ。

道行く人たちからは、ギロギロと突き刺すような目で見られていた。

まるで、女子高に紛れ込んだ、たった一人の男子生徒な気分だ。

ちくしょう、日本は民主主義なんだぞ。

救いはセイバーが両手を胸の前で組み、陶然としてることだけだ。

尻尾もパタパタと振られているが、ここの圧倒的なまでの『ふぁんしー』さのため、まったく違和感がない。

なにせ店員が全員、似たような格好だ。

男性店員はきぐるみを、女性店員は動物のコスプレをしてた。

ある意味、恐ろしい光景ではある。

「シ、シロウ……」

「なに?」

「やはり一つだけでしょうか?」

すごく悲しそうにセイバーが聞いてきた。

「あー、そうだね」

昼食で財布の中身は、ほとんどすっ飛んでいた。

夕食のことを考えると、ぬいぐるみ一つでもギリギリの予算だ。

「そうですか」

彼女は肩を落とした。

その手は巨大な熊のぬいぐるみを握っていた。

そして、先ほどから立ち去ろうとしては、思いとどまるのを繰り返していた。

「この子が、離してくれないのですが……」

「いや、それ、セイバーが握ってるだけだろ」

「で、ですが、シロウ! このように無垢な瞳を、ただ無視して通り過ぎろと言うのですか!?」

巨大熊を示される。

「うっ」

俺は思わず後退した。

その目は悲しみを含まない瞳で俺を見ていた。「ぼく、捨てられるの?」と言ってる気がするのは、こちらの罪悪感のなせる業だろう。

横には、真摯に懇願してくるセイバー。

ここで譲歩したくなってくるけど、さっきも考えた通り財政が厳しい。

とてもじゃないけどこんな巨大な熊を買える金はない。

俺は心を鬼にして言った。

「――お金が、厳しいんだ」

断腸の思いだった。

「え?」

「そうしないと、夕食が……」

おそらく、メザシとふりかけとご飯になる。

「そう…ですか……」

犬耳がへにゃん、と下がった。

取り成すように俺は言った。

「ほら、その分、いいもの捜そうよ、これだけあるんだから、セイバーにとって最高のものを見つけられるさ」

「…………」

セイバーは名残り惜しそうに手を離した。

俺はその手を強引に取った。

「じゃ、まず、こっちの方から見よう!」

「…………はぃ」

セイバーは、目だけで別れを告げていた。

なんだか母と子の別れの場面に立ち会ってる気分だ。

はぁ。

こころの中だけで溜息をつく。

本当に俺が買うぬいぐるみは一つですむのか?



気を取り直して、まずは、手近な『野生の王国』を探索する。

名前からも分かるように、ここにはキャラクター商品ではなく、既存の動物を模したぬいぐるみが並んでいた。

ぬいぐるみの種類は多種多様。

その膨大さは、「ここにあるやつだけで、動物百科事典を作れるんじゃ?」なんて思えるほどだ。

大まかに海洋動物と各気候ごとに分類され、森の小動物や、犬・猫がそれぞれに纏まっていた。

「あ、あっちの方だろ、セイバーの好きそうなの」

「どこです?」

「ほら、大きな動物とか売ってるし」

「あ、本当ですね」

サバンナ風のブースだ。

壁全体が独特の黄色に彩られ、某らいおん・王を連想させる所だった。

「へえ」

「いろいろありますね」

「ここならセイバーの好きなもの、見つかるんじゃないか?」

「はい」

セイバーは嬉しそうに、きょろきょろしてた。

先ほどから尻尾も大きく横に振られっぱなしだ。

俺もちょっと周囲を見てみる。

「ん? あれって、ライオンか?」

「ど、どこです!?」

切羽詰ったセイバーの声だった。

店の中央、一番目立つ場所にそれらしきものはあった。

特設ブースなのか、ガラスの中に展示してある。

「行きましょう」

「お、おい、手を引っ張るなって!」

しかし、そこではライオンが、

「あ」

「え」

シマウマを食い殺していた。

もちろんぬいぐるみなんだけど、いくらデフォルメしてあるとはいえ、血の飛沫まで表現してあるのはどうだろう。

何種類か別バージョンが横に並べられ、大口を開けた狩り直前の場面から、獲物が地面に倒れ伏し、ただいま食事中といった場面までスライド写真のように続いていた。

ライオンは凶暴な顔で食い千切り、シマウマは悲しげな瞳から涙を流していた。

下の方のプレートには『動物の真実』とタイトルが掲げられている。

いや、こんなところで真実見せられても、どうしろってんだ。

展示場の前で、一人の子どもが大声を上げて泣き、母親がそれをなだめていた。

無理もない。

子どもは、聞き取りにくい言葉を叫んでた。どうもシマウマのことがかわいそうだと言いたいらしい。

展示されてるものの効果もあり、ここだけ異様な雰囲気に包まれていた。

他のところのライオンが「がおーっ」ってな吠え声だとしたら、ここのは「GyAOOOOOOOOU!!!」って吠え声だろう。

間違った方向のリアリティがあった。

「シロウ、このような形の売り場は普通なのですか?」

「そんなわけないだろ、俺だって、こんなの初めて見たよ!」

「です、よね……」

泣きながら立ち去る親子を見送りながら、展示を改めて観察してみた。

「うわっ、骨まで表現してある!?」

「シロウ、もう、このような場所は立ち去りましょう、これは、良くない」

セイバーが撤退を主張した。

その目はシマウマへと、哀切を湛え向けられていた。

「甘いっ!」

「わっ!?」

突然、後ろから大声が響いた。

呆気に取られて振り返ると。

「甘い甜いあまいアマイっ!」

見知らぬ女性店員さんが、ずびしっ、とばかりに指を突きつけてた。

「そのような心構えで大自然を生き抜けるとでも思っているのかっ!」

「……え?」

「何者!」

セイバーが、俺を庇うように前に出た。

いや、それよりも、

「……なんで、狩人?」

他の店員が、動物系のコスプレなのに対し、その店員は原住民とでもいうような格好で、槍を手に持ち、弓を背負っていた。

一言で表現すれば女ターザンだ。

その鋭利な視線のまま、俺の質問には答えず、店員さんは叫んだ。

「見よ! この野生の素晴らしさをっ!」

先ほどの惨殺展示を槍で示した。

彼女が紹介すると、さらに血生臭さが増加するのは気のせいなんだろうか。

あ、槍の先から赤い液体が……

「これこそ野生の発露! 自然のあるべき正しい姿っ!! 愛らしい野生動物? ふかふかの触り心地? ハッ! そのような寝言は、一度でもライオンの群れに囲まれてから言って欲しいものだなっ!」

「……あー、俺は一応、戦争みたいのに参加したことがあるんだけど」

「……私もモン・サン・ミシェルの巨人と闘ったことがあるのですが」

「そう、アレは今から5年前の出来事だ。某国で『ちょっとした狩り』に出かけていた私はより多くの賞金を得ようと…」

「あ、だめだ。聞いてない」

「ですね」

店員は無意味なまでにハイテンションで自分の世界に入っていた。

そして、その勢いのままに宣言する。

「そう! 野生の世界は喰うか喰われるか! 弱いものは死ぬのが常道。この展示は子どもたちへ真実を伝えているのだ!」

大袈裟な手振りの演説だ。

ちょっと目が彼岸に逝ってる。こわい。

先ほどの子どもを思い出す。

「さっきまでここに居た、あの泣き叫んでた子のことを言ってるわけじゃないよな?」

まさかと思ったが、ここでも店員は予想を裏切った。

「ああ、そのとおりだ! 買ってくれなかったことは残念だが、これからあの子たくましく育つことだろう」

うんうんと自己満足に頷いてる。

このぬいぐるみを見て育つ子どもって、おい。

「それって、すっごい殺伐とした子になるんじゃないか?」

「何! 貴様、ハングリー精神を知らぬのか!?」

「ハングリーすぎるだろ! っていうか、ここだけ明かに雰囲気が違うぞ!?」

「そうです! 私はこのような理不尽を求めに来たわけではありません!!」

「ぬいぐるみの世界の方が理不尽だっ!」

「アンタが言ってどうすんだよ!?」

「それに…」

「いたぞ!!!」

突然、第三者の声が響いた。

「「え」」

「ちっ、もう見つかったかっ!」

「おい、ちょっと?」

「事情を説明してる暇はない。さらばだっ!」

謎の女性店員は走り去る。

迷い無く遮蔽を使ってるあたり、かなり逃げ慣れている様子だ。

後ろから罵り声が聞える。

「追え!」「今度こそ逃がすな!」「チクショウ、子どもたちの夢を壊しやがって、ぶっ殺してやる!」

スタンガンを持った、笑顔のきぐるみがその後を追っていた。

パンダや猫のきぐるみがテイザーを抱えて走る様子は、かなりの違和感がある。

爆音や着弾音をさせながら騒ぎは遠のく。「催涙弾か!?」「トラップに気をつけろ!」「甘い、そこっ!」「ぐあっ!」「撃て! 撃ち殺せ!」などの声を響かせながら。

「…………」

「…………」

「いこっか」

「はい」

とりあえず、見なかった事にした。

たぶん、これが正解だ。



  ◆◇◆



俺たちは、『野生の王国』を見回った。

異常だったのはあの場所だけで、他はごく一般的なぬいぐるみだった。

ちょっと安心だ。

たまに煤けた場所があるけれど、それは見ない方向でいこう。

「お、セイバー、これなんかどうだ?」

俺の腰ぐらいの高さがある、ほぼ等身大のライオンを指した。

写実的で精悍ではあるものの凄惨ではなかった。

ただ誇り高く、大地の上に立っている。

これぞまさに百獣の王って感じだ。

「……」

「セイバー?」

見た瞬間から、彼女は目をまん丸して、そのライオンを見ていた。

まるで、懐かしい友人に、前触れも無く再会したみたいだ。

「あっ、シロウ?」

「おお、戻ってきた」

「こ、これは……」

「うん、凄いな、かなり精巧にできてる」

「はい」

セイバーは、おそるおそるその表面を撫でた。

その指先はちょっと震えてる。

「セイバー、やっぱりライオンが好きなんだ」

「な!」

手を離し。

「そ、そんなことはありません。べ、別にライオンが好ましいとは思っていません!」

「本当に?」

「も、もちろんです」

上擦った声で言う。

俺はちょっと意地悪な気分になった。

「じゃあ、ここに欲しいものは無いんだよな? 次の場所に行こう」

手を取って移動を促がした。

そのまま2・3歩すすんで振り返ってみる。

「…………」

セイバーはついては来るものの、まるで、捨てられた子犬みたいな顔をしてた。

「はははっ」

「む、シロウ!」

「OK、ごめん。じゃあ俺はトイレに行きたくなったから、ちょっとここで待っててくれない?」

「え、ええ!?」

「その間に気に入ったものがあれば、買ってもいいしさ」

「あの、シロウ!?」

俺はワクワクしながらトイレに行った。

帰ってくる時が楽しみだ―――



  ◆◇◆



―――『私』は途方に暮れた。

たしかにこのぬいぐるみは『あの子』を思い出させる。

正直に言えば、かなり心引かれてはいる。

けれど、シロウは見てないのだろうけど、値段がとても高い。

シロウの財政では無理なことは分かっていた。

「む……」

買う事は無理だ。それを自分に言い聞かせた上で、目の前のぬいぐるみを見る。

たてがみがある所を見るとオスだろう。

その姿は、見る人によっては剣呑と表現するのかもしれない。

生き残るために研ぎ澄まされた、鋭利なフォルム。

四肢を踏み締め、遠くを睨み据えているその形は、どこか私の奥底に共感を呼んだ。

この者は、間違いなく『王』だ。

そしてまた、『あの子』――昔、一緒に過ごした子ライオン――が成長していたら、このような姿だったのかもしれないと想像した。

「……」

そっと、その毛皮を撫でる。

記憶の中にあるものとは違っていた。

暖かくはないし、くすぐったそうに暴れたりもしない。

城中を縦横無尽に駆け回る、迷惑な奔放さもない。

それでも、懐かしかった。

『王』であった時の数少ない、こころ慰められる記憶。

切り捨てようとしても、捨てきれなかった。何かを愛しいと思うこころ。

「ん……」

知らず、その背中に頬を寄せていた。

私の上半身を、その背中に乗せてもらう形になる。

やわらかい。

そして、なつかしい。

帰るべき場所に、自分がすっぽりとはまっている。そんな幻想が浮かんだ。

円卓の騎士、キャメロット城、玉座…………

その中に、私がいても良いと、心の底から思える所はなかった。

そこは役割を演じるための場所であり、私がその機能を果たすための場所だった。

むろん、そのことに自体に不満は無く。するべきこと、しなければいけないことをこなし、一人でも多くの民を救えることは誇りでもあった。だが、それでも、このような心地よさは無かったと思う。

このぬいぐるみは、この安心は、何かに似ている気がする。

「ああ」

そうか、

考えるまでもないことだった。

「シロウ……」

彼の人に、とても良く似た感触だ。



  ◆◇◆



「…………」

さて、どうしようか?

トイレから帰って来た俺の前には、本物志向なライオンに身体を乗っけ、楽しそうに尻尾を振ってる犬耳少女がいる。

目を閉じ、幸せそうに頬をすり寄せていた。

尻尾の先は上を向いて、メトロノームのように揺れていた。

頬は赤く上気し、口からは満足そうな溜息を「はぁ…」とはいてる。

ライオンの上で、昼寝中。

そう言われたら信じてしまうかもしれない。

けれど、耳と尻尾は自由に動き、たまにその口は微笑みに変わる。

ぬいぐるみを抱きしめている力も、顔の赤さに比例して強くなっていた。

……ライオンが、ちょっと痛そうに顔をしかめてるのは気のせいか?

遠くからは、「あれってライオン親子のセット販売?」と、興味津々な視線が集まっていた。

値札を見てみる。

……この値段だったら安い。

そんな感想が浮かんでしまった。

周囲からチラチラと見られる最中、俺は逃げ出すこともできず、こころの中だけで文句を言った。

(セイバー……いくら犬耳と尻尾生やしてるからって、ぬいぐるみの一部になってどうするのさ……?)

ざわざわと、少しづつ人が集まりだしていた。

冷や汗が出てくるのを自覚したが、それでも彼女を止められない。

ちょっと見惚れてしまうくらい幸せそうなのだ。

その笑顔を壊したくはなかった。

セイバーは、一際強くぬいぐるみを抱きしめ、ぽつりと小さな声をもらした。

「シロウ……」

ん?

聞き取るのがやっとの声だったけど、

もしかして、俺、呼ばれたのか?

「なに? セイバー」

「…………」

「…………?」

一拍遅れてから、セイバーの瞼がゆっくり開いた。

夢見る表情から、わずかに緑の瞳を覗かせた。

目と目が合う。

「……っ!!?」

限界まで瞳が大きくなった。

尻尾と耳、ぜんぶの毛が逆立つ。

「…??……!??」

事態をよく把握できてないセイバーに歩み寄った。

とりあえず、ぬいぐるみの一部になるのは止めろと言いたい。

だけど、その俺の行動がきっかけになったのだろう。

理解の色がその目に灯り、顔の毛細血管全部に血液が流れ込んだ。

口が開かれ。

「『風王結界』!!!!!」

絶風が出現した。

「わっ!!?」

声すら風で飛ばされた。

それは風と言うよりも、巨大なミキサーだった。

ぬいぐるみを多数巻き込み、上空に叩きつけていた。

天井と床にはとんでもない圧力がかけられ、金属のひんまがる嫌な音が発生した。

俺の足は床を滑り、吹き飛ばされないようにするのが精一杯だ。

口も瞼も開けられない、腕でなんとか防御する。

ぬいぐるみ売り場は、唖然とした空気に包まれた。

それは、『風王結界』がごく狭い範囲だけしか影響を及ぼさなかったためだろう。

魔力でできた風はその攻撃範囲を限定する。

彼らから見れば、突然、ぬいぐるみ売り場にド迫力のCG竜巻が発生したようなものだ。

お客にはそよ風すら行っていなかった。

数秒だけ発生した竜巻は、出現と同じ唐突さで消えた。

「…………」

腕を下ろす。

重力に従ってコヨーテや小象、チーターのぬいぐるみが落下する最中、嘘のように無傷なライオンの等身大ぬいぐるみが立っていた。

セイバーは乗っていない。

風の余韻は未だに残っていた。

俺はボサボサになった自分の頭を撫でつける。

「…………」

セイバーはどこに行ったのだろう?

まるで逃げ出したかのような、消え方だけど……

とてつもなく嫌な予感を覚え、俺は後ろへと振り返った。

そこには竜巻に驚いた人たちに紛れて、「待ち合わせた人がこないなあ」とでもいった雰囲気のセイバーが立っていた。

乱れていた服や髪も、きっちりとしている。

風の影響なんか微塵も感じさせない。

そして、

「シロウ、遅かったですね」

何事も無かったように言った。

まてや、おい。

「こ、ここには私の欲しいものはありませんでした、別の場所に行きましょうか」

俺の手をとって移動しようとする。

逆にその手を拘束し、俺はニッコリと笑った。

「セイバーさん?」

「う……、な、なんでしょう」

「まさか、いまので誤魔化したとでも?」

「さ、さあ、なんのことですか」

視線を逸らす。

だがその先は一定しなかった。

すっとぼけた表情をしていたが、尻尾は床をこまめに掃き、犬耳は怯えたように伏せられていた。

「セイバー、ちょっと目の前の事態を見てみようか?」

俺は破壊跡を指差す。

そこは、さながらぬいぐるみの遭難現場だった。

いや、それともバトルロイヤル後だろうか? 死屍累々とぬいぐるみは横たわり、勝者の等身大ライオンが毅然と立っている。

「こ、これは、酷いですね……」

「ああ、まったく」

きぐるみやコスプレ姿の店員が集まり、この事態を収拾しようとしてた。

無意識にせよ制御したのだろう、攻撃範囲は非常に狭かった。だが、その分、破壊力は圧倒的だ。

床には綺麗な円が描かれていた。

店員たちは、全員不思議そうな顔で調べている。

まあ、原因は結局不明で終るんだろうなあ。

「うう」

切り裂かれたぬいぐるみを、彼女は罪悪感に満ちた目で見てた。

「うん、セイバー、ちょっと。あっちに行こう」

「なぜです?」

「人気の無いところに行く」

「…………………そ、そのような必要はないと思います」

俺の妙に重苦しい空気を悟ったのだろう。

セイバーは怯え、後ずさりした。

もちろん、俺は握った手を離さない。

無言で、そのまま歩き出す。

「シ、シロウ! 行き先も言わずに、歩き出さないでください!」

「いいから」

「な、なぜか私の『直感』が今のシロウに絶対について行ってはいけないと全力で叫んでいるのです!」

「ああ、それは正解かも」

ずるずるずる。

俺はセイバーを引きずったまま歩く。

場所柄、まるで、セイバーがおもちゃを欲しがって駄々をこねているようだが、事実は違う。どちらかと言えば歯医者に行くのを嫌がる子どもを無理やり引きずっている状態だ。

「な、なにをするつもりですか!?」

「決まってるだろ、セイバーが悪い事をしたんだ。お仕置きをする」

「な!!」

「もちろん、セイバーだって悪い事をしたって思ってはいるだろ?」

「う、それはそうなのですが、シロウはどのような方法を選択するつもりですか?」

「日本古来の悪ガキ殲滅方法」

「ま、まさか……」

思い当たったのか、セイバーは青い顔をした。

尻尾も股の間に挟まれ、耳も震えながらペタンと閉じていた。犬特有の『怯えてる』表現だ。

そんなに嫌なのか?

まあ、俺もオヤジにされた時は嫌だったけど。

「お尻ぺんぺん、だ」

「い、いやですっ!!」

「おおっ!?」

セイバーの力が増大した。

急停止をさせられ、腕が抜けそうになる。

彼女はその場に腰を下ろし、涙目でこちらを見上げていた。

「あのようなことは、もう二度とゴメンです! シロウ! それだけは勘弁してください!!」

ウルウルと潤んだ目。

八の字になった眉や、俺の手に伝わってくる震えは、トラウマのレベルで嫌がっていることを示していた。

(……でも、ちょっとかわいいかも)

危ない方向性に目覚めそうだ。

「セイバー? 前に自分でも言ってたよな、悪い事をしたらちゃんと叱ってくれって。あれを実行するだけだよ。絶対に容赦しないからな」

「やです! シロウは鬼ですか!? せめて他のことにしてください!!」

他のこと?

「なら、この先、三日間、撫で撫で禁止とか?」

「な!?」

「それか、しばらく、おかずを1品減らす」

「なななっ!!?」

「さあ、どうする?」

「そ、そのようなこと、選べるはずも無いでしょう!」 

「だーめだ、どれか選ぶんだ」

怪我人こそ出なかったけど、この先、条件反射で『風王結界』を展開する、なんてことをされてはとても危険だ。

ここはマスター(主人)としても魔術師としても注意するべきだ。

「うう、シロウはマーリンですか?」

「何だよ、それ?」

「気にしないでください、私にとっての悪口です」

「まあ、とにかく俺は引かないからな」

「む……」

セイバーは懊悩してた。

小声であーでもないこーでもないと、呟いてる。

かなりの難問なのだろう。その苦しみ様は、尋常ではなかった。

……どうでもいいが、涙目でしゃがみこんでる犬耳少女と、それを無理やり引きずってる少年っていうのは周囲からどのように映るんだろうか?

「わかりました……」

セイバーが顔を上げた。

そこには意志が込められていたが、

「お」

「お?」

「お尻ぺんぺんに、します」

言う間にも顔は下がり、最後の方は囁き声だった。

「了解、じゃあ、行こう」





―――――ここからは、音のみでお楽しみください。



「シ、シロウ、こうですか?」

「うん、もうちょっと腰を上げて」

「……はい」

「さて」

「…………」

「セイバー、パンツ下ろすよ」

「な!」

「よいしょ」

「な、え!?」

「よしよし」

「な、なにをするんですか!?」

「だってこうしないと、お仕置きにならないだろ?」

「や! 返してください!!」

「だーめだ、いくぞ」

パンっ!

「きゃ!?」

パンっ! パンっ! パンっ!



5分後。



「う、うぅ……!」

「ゴメン、赤くなっちゃったね」

「え、な? シロウ! さわらないでほしい!」

「ん? 赤くなったから、撫でてるだけだぞ? ほら」

「ひっ、やっ……!」

「あー、ちょっと強く叩きすぎたな、ゴメン」

「そ、そう思っているのなら、手を離してください!」

「ん、ほら、遠坂から『治癒』の魔術もならったし、英霊のセイバーなら、魔力を流しこむだけでもだいぶ違うだろ」

「それはそうですか! 待ってください!!」

「なんでさ? とにかく、するよ」

「きゃ! だ、だめ……!!!」



―――なぜか30分経過。











――――――――――――――――――

あとがき

何故かここで終ります。
石は投げないでください〜。


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