Fate/stainless dream  (傾:クロスオーバー)


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1: 幻想夢幻 (2004/03/26 18:13:44)[gensoumugen_gm at msn.com]

―――夢を、視ていた。
 
 何度崩れ落ちようとも、それでも未来に向かって走り続ける少年の夢。

どんなに辛くても、どんなに哀しくても、それでも明日は来るのだと語る少年の夢。

 全ての人間に手を差し伸べ、絶対に救うと、救えると、そう信じ続ける少年の夢。

エミヤシロウの理想を体現したその少年の夢。

 エミヤシロウの夢そのものであるその少年の夢。

そんな夢を、視ていた。




Fate/stainless dream
by,幻想夢幻


プロローグ

−1−

「ふざけるんじゃねえ!!」

 その少年は叫ぶ。全身がずたずたになり、青かった学ランが血に染まってもなお、少年は両の脚で立ち、ただ前を見据えていた。その全身には極青の光が纏わり付き、その傍らには着物姿の妖女が傅く。どんな神話にもありえないその姿は、昔ではなく今を告げる、最も新しい伝説だった。

「俺は絶対に認めねぇぞ!人を殺して、不幸にして、そのことを恥じようともしない奴なんか、絶対に認めねぇ!」

 その少年は叫ぶ。声が嗄れ、咽喉が潰れ、血反吐を吐こうとも。それでも叫ぶ。まだ、終わらないと。絶対に、終わらせはしないと。その声は、その瞳は、その魂は。そう、叫んでいた。
 夜は絶対に明けるのだと。明日は必ず来るのだと。その姿は語っていた。

「俺は、絶対にお前を、許さねぇ!!」
「だったら、どうすると言うんですか?」

 別の声。コノ少年は、俺は知らない。だが、コノ声の主を、俺は知っている。

「さく、ら……?」

 俺は、ただ、呟いた。けどそれは、声にならない。
 当然だ。俺は―――エミヤシロウは死んでいるのだから。死者が喋る事など、ありえないのだから。
 けど、だとしたら、この光景を見ている“オレ”は何なのだろうか……?

「私を、殺しますか?」
「いや」

 桜の言葉に少年は即答する。

「拳固で、思いっきりぶん殴る!!」

 きっぱりとした、その言葉。それは闇を払う光のごとく、その場を覆う。

「悪事が過ぎんだ、この悪党!!俺の名前は■■■■■、悪をぶっ飛ばす少年探偵!!!」
「何が悪ですか!!私が本当に辛かったときには、誰も助けてくれなかったくせに!!!」
「だからって、他人を傷つけていい理由になるわけねぇだろうが!!」

 少年が―――玖珂光太郎が叫び、地面を蹴る。その走りは優雅でもなければ流麗でもない。履きつぶしたスニーカーはどたどたと騒々しい音を立てる。だが、それでもその走りは、世界記録を一つ二つ破る勢いであり、その脚に纏わり付く青い輝きは、闇を払う朝陽そのものだった。
 そして少年は叫ぶのだ。自身に付き従う光り輝く妖女の名を。

「ザサエさん―――GО !!!!!」

 黄金に煌く妖女が二本の長剣を携え、奔る―――。

−2−

「ん……」

 そこで、目が覚めた。

「妙にリアルな夢だったな……」

だが、どれだけリアルであろうと、夢は夢。現実ではない。

『次は〜冬木〜、冬木〜』
「っと、やべ」

 慌てて立ち上がる。ロンドンから日本の地方都市まで25時間。いい加減、ケツが痛い。
 なので、なんとなくこんな事を呟いてみる。

「I am the hip of my styeel……か?」
「何莫迦言ってんのよ」
「む……実際そんな感じなんだから仕方ないだろう」

 呆れた様に言ってくるのは俺の右隣に座っていた遠坂だ。俺の肩に顔を乗せて寝てたみたいだから、俺が立ち上がったせいで目が覚めたんだろう。
 ちなみに、俺の左隣に座っていたセイバーは俺が立ち上がったせいで『こてん』と真横に倒れ込んでいる。起きない所がすばらしい限りだ。
 ここ最近セイバーの睡眠時間が某苺狂並になってきている。俺と遠坂の二人で魔力を供給しているとはいえ、やはり聖杯無しでは色々と辛いのだろうか?俺にはそういった専門的な部分は良く分からないので、なんとも言えないが。

「しかし、日本も久しぶりね。町並みも結構変わってたし」
「一年ぶりだろ?日本は色々と変動が激しい国だし……」
「東京もまだ復興中だものね」

 遠坂は立ち上がって網棚の上のカバンを取りながら、呟くように言う。
 ―――2005年、7月23日。特定犯罪第五六八号、通称七二三事件。アイドル女優工藤美代子の自殺に端をなす連続殺人事件は、最終的に東京中心部、水道橋一帯に巨大な城が落下すると言う形で幕を閉じる。一瞬にして7万人以上の人名を奪ったこの事件は、日本と言う国における戦後最大の惨事となった。無論、自然現象でこんなことが発生するわけも無く、何者かによる大規模魔術儀式であったことは明白で、日本政府も心霊庁との提携の下、その大元を潰そうとした。東京と言う日本のど真ん中で行われた超大規模な魔術戦闘は、日本中―――あるいは世界中にライブで配信され、協会が上へ下への大騒ぎになったのは言うまでも無い。しかも、結局儀式そのものは止められなかったと来た。
 それから、約半年。首都の復興は急ピッチで行われ、目に見える傷痕そのものは既に消えたが、人々の心に残った疵は未だ癒えていないのが現状だ。故に遠坂は『まだ復興中』と言う表現を使ったのだろう。
 電車がゆっくりと駅のホームに入って行く。気の早い青い学ラン姿の少年が、ドアの前で開くのを今か今かと待ち構えている。









―――俺の名前は■■■■■、悪をぶっ飛ばす少年探偵!!!









「っつ!?」

 眩暈。いや、既視感とでも言うのか?俺は、知らないはずのこの少年のことを、知っている―――!

「士郎、どうしたの?」
「ん……いや、なんでもないよ、遠坂」

 少年から視線を逸らす。一瞬、その傍らに、着物姿の女がいた、気がした。

to be continued next episode.........




あとがき

ども、幻想夢幻、云います。今後ともヨロシク。
まぁ、何て云うか、似すぎてて逆に書き難い感じのする某弾除けゲームとのクロスですな。てか、絶対にあのバカがキャラを食いそうです。
どれほどかかるか分かりませぬが、出来れば最後までお付き合いくだされば……。
幻想でした。

2: 幻想夢幻 (2004/03/29 16:01:09)[gensoumugen_gm at msn.com]

 ある人は云う。魔術師とは嘘吐きだと。

ある人は云う。魔術師とは正直者だと。

 ある人は云う。魔術師とは頑固者だと。

ある人は云う。魔術師とは―――ただのバカだと。


Fate/stainless dream
by,幻想夢幻

第一話『バカの邂逅』

「久しぶりの我が家だなぁ……」

 深山町、衛宮亭居間。荷物を床に置くと、俺は軽く伸びをした。
 一年ぶりの我が家。室内も庭木も荒れていないのは、藤村組の面々や桜が偶に掃除や手入れをしていてくれていたからだろう。今日帰るとは伝えてあるけど、後で挨拶に行かないとな。
 
「シロウ、今日の昼食は如何するのですか?」

 いつの間にかちゃぶ台の前に座ってお茶を啜っていたセイバーが顔を上げて言った。そういえば、考えてなかったな。

「今日は帰ってきたばかりで冷蔵庫の中も空だし……出前をとるしかないかな」
「さんせーい。流石に料理なんて出来ないわ」

 ……遠坂。畳の上にうつ伏せで寝転がりながら言うべきじゃないぞ。それに、その……遠坂のスカート短いから、な。健全な男の目には毒だ。

「そうですか……久々にまともな食事が食べられると思ったのですが……」

 セイバー、一日で久々扱いですか? まぁ、遠坂が飛行機代ケチったせいで、機内食も出ないような凄まじい会社ので日本に帰ったのだが。その間の食事は、事前に用意しておいたおにぎりとサンドウィッチ、水筒に入れたコーヒーと紅茶だけ。だが、それでもセイバーにとっては地獄だったのかもしれない。

「悪い、セイバー。夕食は奮発するから我慢してくれ」
「……分かりました。では、カツ丼をお願いします」
「セイバーはカツ丼で、俺は天ぷらそば……遠坂、お前何にする?」

 紙切れに『俺:天ぷらそば セイバー:カツ丼×5+天ぷらそば×2』と書き込みながら、遠坂に問いかける。遠坂は畳に突っ伏したまま呻く様に『親子丼〜〜』と言った。
 メモに『俺:天ぷらそば 遠坂:親子丼 セイバー:カツ丼×5+天ぷらそば×2+親子丼×2』と書き込む。
 セイバーの後に俺と遠坂が頼んだものを付け足したのは、食べていれば必ずセイバーが物欲しそうに俺と遠坂の分を見つめて来るに決まってるからだ。セイバーの食事量は既に某沖縄出身の女空手家を超えている。孤児院で一緒だった世界的スターの義姉並だ。俺と遠坂の二人で魔力を供給しているとはいえ、やはり聖杯無しでは色々と辛いのだろうか?俺にはそういった専門的な部分は良く分からないので、なんとも言えないが。
 ……何か、前回もこんな事を言った気がした。最近こんなのが多い。俺も疲れてるのか?
 ともかく、電話をしようと立ち上がる。と。

「先輩、帰ってますか?」
  
 そこで、桜がやって来た。


 ―――interlude―――


 時間は、少し遡る。士郎達が乗った電車が駅に入ったとき。
 少年は、電車のドアが開いた瞬間に走り出した。ホームを駆け抜け、5、6段飛ばしで階段を駆け下り、改札に切符を通して、開く前にその上を飛び越えた。駅前を一瞬で通り過ぎ、それでも少年は走った。
 少年が立ち止まることは無い。おそらく、少年が立ち止まるのは自身が死ぬ時だけなのだろう。だとしたら、少年が死ぬときは永遠に来ないのかも知れない。
 少年の名は、玖珂光太郎。稀代の陰陽師、玖珂英太郎の孫にして、その直弟子。七二三事件を解決した5人の術者の一人にして『神殺し』を成す事で人間を超えた存在。そして、その頭上に異世界への門、コータロー・ワールドタイムゲートを保有する、次代の神そのもの。



 ―――ただし、本人は知らない。そんなバカだ。



 バカは、バカだから走り続ける。何故ならそう、バカだから。バカだから、立ち止まったらもう走り出せないと思っている。玖珂光太郎とはそんな人間だった。

「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ………」

 走り続けるのはその思いだ。両足が成すのはその具現。たとえ、その体が止まっても、その思いは走り続ける。
 それは、そう。■■■の理想そのものに他ならない―――!





 光太郎は、常人が徒歩1時間かける道程を20分足らずで駆け抜け、なだらかだが長い坂道を駆け上がり、足元から煙を上げつつ急停止した。ここまで全力失踪したせいで、汗で前髪は額に張り付き、息は切れている。だが、その瞳は真っ直ぐで、ただ、前を見ていた。
 
「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ………」

 視線の先にあるのは一軒の洋館。もし、光太郎が本式の魔術師ならば、そこに張り巡らされた複雑にして強固な結界に息を飲んだろう。
 だが、光太郎はバカだった。バカは、疑うことを知らない。だから、その眼は偽りを知らず、故に、ワナなどは見抜けるはずも無い。
 光太郎は軽く息を整えると、無策にそこへと踏み込んだ。だが、何故か招かれざる客を拒むはずの結界は作動せず。光太郎は洋館の玄関に辿り着くと、その拳を振り上げ―――。


























 ―――ノックした。

「トオサカさん、トオサカさん、いないのかーーーーー!!!???」

 どんどんと扉を叩きながら声を張り上げる。近所迷惑も甚だしい。と言うか、呼び鈴を使え、光太郎。

「う〜ん、ここで合ってるよな?」

 ポケットからクシャクシャになった紙切れを取り出す。
 紙には『着いたらここに行け』と言う走り書きと、住所が書き込まれている。彼の美しきクライアントが持たせたものだ。
 もう一度ドアをどんどんとノックすると『ミシ』となんだか厭な音がした。

「あ゛……」

 どんどんと言うかがんがんとドアを叩いていたせいで、微妙に凹んでいた。光太郎の後頭部にでっかい汗が一つ。
 セイギノミカタを目指すこのバカに、無かったことにして立ち去ると言う選択肢は無い。こうなった以上、最早いかなる手段を執ってもこの家の主人、即ち遠坂凛に会わねばならない。そして、謝らねば。

「……ザサエさん。中に忍び込んで居るかどうか調べてきてくれ」

 光太郎は呟くように言った。視界の隅に一瞬、困ったような表情の着物姿の妖女が見える。
 ……挽回しようとして更にドツボに嵌ろうとしている事に気付け、光太郎。

「あの……」
「ん?」

 今、正にザサエさんが遠坂家に進入しようとしたその時、光太郎に声をかけるものがいた。
 青にして群青ならぬ玖珂光太郎は、その声の主から『何か』を感じた。光太郎に魔術知識は無い。かけらも、そう、かけらもだ。だが、このバカは、自分の心だけで、ただ信じ、疑わないというその思いだけで、あらゆる物理法則を超越して魔術を使ってみせる。そして、バカは、バカだからこそ、他人の悪意には敏感なのだ。
 地面を蹴る。典雅に。優雅に。美しく。万能執事ミュンヒハウゼンに叩き込まれたその理想は、光太郎の中に息づいている。懐に手を突っ込み、札を掴む。玖珂は空中で華麗にムーンサルトを決めると、声をかけた相手に向き直った。死と飽食の精霊から舞踏と光の神へと昇格した絢爛舞踏ザサエさんがその傍らに着く。眼前には一人の少女。悲しい瞳を持った、一人の少女。
 光太郎は目を瞬かせると、懐から手を引き抜いた。札は持っていない。突然の事に目を白黒させている少女を視る。女が泣くのは嫌いだった。その顔が泣いてなくても、心が泣いている。純粋すぎる光太郎は、それが分かるのだ。けど、光太郎は何もいえなかった。女の扱いは苦手だから。
 
「えっと……この家に御用ですか?」
「ああ……あんたがトオサカさん?」

 ち、違います、と少女は慌てて首を振った。

「その、今は倫敦に行ってて、それで……」
「マジかよ」
「あ、でも、今日帰ってくるはずです。多分、先輩の家に……」
「先輩?」
「あの、学校の先輩だった人で、それで……」

 わたわたとしながら言う。その様子に、光太郎は頭を掻く。女の扱いは、苦手だ。

「良ければ、その先輩の家に案内してくれねぇかな?」
 

 ―――Interlude out―――


「……と、言うわけです」

 桜の説明を聞き終わり、俺は軽く頷いた。一方の学ラン姿の少年―――玖珂光太郎と言うらしい―――はドアの件に関して遠坂に誤っている。遠坂は『どうしたもんか』と言った顔で軽く肩を竦めた。

「それはいいけど、あんた、一体何しに来たの?」
「仕事だよ」
「仕事?」
「探偵やってんだ、俺」

 光太郎君は懐から名刺を取り出すと、俺と遠坂、桜に一枚ずつ渡した。
 名刺には『H&K探偵事務所 共同経営者 玖珂光太郎』と書いてあった。

「探偵……ねぇ。で、一体どんな仕事?」

 遠坂の言葉に、光太郎君の目が一瞬耀いた様な気がしたのは、気のせいではないはずだ。光太郎君は、真っ直ぐに遠坂の目を見ると、きっぱりと言い放った。

「勿論、悪をぶっ飛ばしにだ!!」

 ……遠坂、『もう一人バカが増えた』って言うのは、止めてくれ。
 とまれ。
 これが、俺たちと、玖珂光太郎の出会いだったわけだ。


to be continued next episode.........



あとがき

 ども、幻想です。
 今回は『士郎、光太郎と出会う』で終わりました。あと、自分はギャグを書くセンスが無いと確信しました。てか、ギャグにすらなってません。ちょっとガンプ( ̄▽ ̄;
 ところで舞台は2006年4月半ば。Gunsmoke Witch(2006年4月1日)の約2週間後になります。OVERS山さんは停止、バーミアン―――コータロー・ゲートは休止状態、晋太郎は吸血鬼狩りの真っ最中(のはず)です。
 はっきり言って自分で書いてて良く分からなくなってきました。感想、批評、待っとりますぜ〜〜!!
 
 


 


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