錬剣の魔術使い・第十一話 (M:士郎 傾:ほのぼの


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1: 福岡博多 (2004/03/25 18:05:11)[cukn01 at poplar.ocn.ne.jp]

 志貴さんが、昼食後、友人宅に出かけてから厨房を借り受けた。

 「ところで、なんで琥珀さんに習わないんです?」

 「そ、その、琥珀に習うと、ろくな事になりませんので。」

 「姉さんに習うのを、間違いです。」

 あ〜、なんとなく察しが付く。昨日、凛をダシに俺を、俺をダシに凛をからかう琥珀さんを思いだす。しかし、翡翠さんに断言されてる。文法、妙だけど。




 錬剣の魔術使い・第十一話




 「本番は明日なんで、今から凝ったものは無理です。で、チョコフォンデュにしようかと思うんですが。」

 気合を入れている秋葉さん、翡翠さんを前にして提案する。

 「チョコフォンデュですか?」

 「分かりました。」

 不服そうな秋葉さんとすぐ了承してくれる翡翠さん。もちろん、このチョイスには理由がある。
 聞いた話なら、バレンタインはいつも騒動がおき、その騒動が治まってから、志貴さんはチョコにありつけると言う訳だ。その中で、チョコは大抵原型をとどめて無いらしい。それならば、騒動が治まってから用意できるものがいいし、手順自体は複雑じゃないから、一夜漬けに適していると言える。

 「ですが、あまりにも単純すぎませんか?」

 別のものにしようと言わんばかりの秋葉さん。ま、実際に確かめてもらおう。
 二人にも、チョコをフォンデュ用に溶かしてもらう。湯煎を先ず教える羽目になったが。

 「そんな、こんなに違うなんて…。」

 「すばらしいです。衛宮様。」

 そう、チョコを溶かすといっても、技術がいる。自分達のと、俺のとの口当たりの違いに、二人は納得してくれたらしい。そして、黙々と真剣にチョコを湯煎する。元々不器用な感じの秋葉さん。掃除はこなすが、料理に関しては別人のようになる翡翠さん。二人の手つきは危なっかしいが、時間を掛けて二人が満足できるレベルにはなった。次は、フォンデュする物を選ぼう。

 「定番ですけど、イチゴやバナナと言ったフルーツは欠かせないですね。後は、クルミやアーモンド、ナッツ類を加えましょうか。」

 ヘタを取ったり、皮を剥いたりと言った下拵えの準備にする。ふと、翡翠さんが冷蔵庫から取り出した物を見て、危うく、イチゴを乗せたバットを落とすとこだった。なぜならそれは、

 梅の実を塩漬けにして発酵させた食品―梅干し

 だった。

 「ひ、翡翠さん?そ、それは」

 「志貴様は梅がお好きなのです。」

 迷いの無い目。退かぬ、媚びぬ、省みぬって感じだ。秋葉さんを見ると、

 「ひ、翡翠は少々、独特な味覚を持っていまして。」

 と、微妙に目を逸らしながら言ってくれた。う〜〜ん、困った。翡翠さんは、純粋に志貴さんが梅が好きだから使おうとしてるんだろう。けど、志貴さんは、おにぎりの具としてとか、梅肉を混ぜ込んだ梅の風味がする料理が好きとかじゃなかろうか。秋葉さんも、「翡翠は」と言っていたし。なんとなくだけど、今までも志貴さん、何も言わず食べてたんだろうな。しかし、これは、志貴さんにとっても、翡翠さんにとってもいいことじゃない。

 「翡翠さん、梅干しは使わないほうがいい。」

 「何故でしょうか?」

 これだけは譲りませんと言った感じの翡翠さん。しかし、俺も退けない。

 「チョコと梅干しの相性は良くないんだ。」

 「相性ですか?ですが、志貴様は、去年梅を使ったチョコを美味しいと言ってくださいましたが。」

 「なるほど、でもチョコフォンデュには向いてないよ。」

 「そうなのですか?」

 心配そうになる翡翠さん。よし、ここが勝負どころだ。

 「チョコとは別に、梅を使った料理を作るのはどうだろう?甘いものばかりじゃ志貴さんも飽きるだろうし。」

 老師と師匠の元で磨いた話術で誘導する。そこはかとなく悲しいけど。

 「分かりました。それでは梅サンドを作ろうかと思います。」

 「それじゃ、俺も手伝うよ。」

 「いえ、そこまでは」

 「いいからいいから。」

 まだ危機は脱してない。翡翠さんが作る梅サンドがいかなるものか、確認しなければ。


 想像以上だった。悲しそうな翡翠さんに罪悪感を覚えたが、梅サンドは処分。そして、梅の使い方を、翡翠さんに教授した。結果、間に挟んだ具材に梅の風味が薫るサンドウィッチが出来上がった。なんとなく不満そうな翡翠さんの様子が、気に病まれたが。
 明日の準備を終わらせ、琥珀さんに手伝いを申し出るも断られた。そう言えば、ルヴィアさんと琥珀さんがなんか仲良くなっていた。凛は夕食後、厨房を借りていた。覗こうとしたらガンド撃たれた。そして就寝。
 
 しかし、志貴さんも大変だな。もてるのもいいことばかりじゃないらしい。まあ、俺には縁遠い話か。

 なんて事を考えながら、眠りに付いた。


 ドゴォォォォォォォォォォンーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!

 そんな音で目が覚めた。すぐに部屋の外に出る。その後同時に、凛とルヴィアさんも部屋から出てくる。

 「士郎、今の音。」

 「ああ、外だ。二人は琥珀さんと翡翠さんを頼む。」

 「シロウはどうするのです?」

 「音の発震源に行く。」

 言って、音の鳴る方へと走る。外に出て、裏の林に向かう。そこには、

 「妾の邪魔をするなアルクェイド。」

 「引き裂いてあげる、そのチョコを。」

 対峙している姫君同士がいた。

 「ストップ、ストップ!!二人とも止めてください!!」

 満ちる殺気に怯みながらも、仲裁に入る俺。

 「士郎ではないか、なぜここにおる?」

 チョコの箱を脇に抱え、首を傾げるアルトさん。

 「士郎は私の味方よ!!」

 胸を張るアルクェイドさん。と、

 「士郎、士郎君がいるのかい?」

 アルトさんの後ろにいた奴が声を上げる。げ、まさか。

 「会いたかったよ、士郎君♪」

 「俺は会いたくなかったぞ、フィナ。」

 「つれないなあ。君になら抱かれてもいいと、常々思ってるのに〜。」

 「お前、ショタだろうが!!!」

 「だから、君が相手なら、受け―」

 「だああああ、それ以上言うなあああああああ!!!!!」

 「いい加減にしろ、フィナ。士郎よ、真祖の姫の言った事は本当か。」

 話を戻してくれるリィゾさん。白一色のフィナと対照的な黒一色の出で立ち。ちなみに中味も対照的。

 「いや、この場合、穏便に事を治める為の調停役と言うか、志貴さんの味方と言うか。」

 迂闊なこと言って刺激しちゃまずいよな。

 「つまり、汚らしい吸血鬼は帰りやがれということです。そうですよね衛宮さん?」

 いきなり、現れて何をおっしゃるんですか、シエルさん?

 「そうか、妾の前に立ち塞がると言うのだな?ならば、容赦はせぬぞ、士郎。」

 「いや、ちょっと待ってくだ―」

 「それなら、士郎君の相手は僕が。フフフ、さあ、僕の愛を受け取っておくれ♪」

 「黙ってろぉぉぉぉぉぉ!!!!偽・螺旋剣!!!!!」

 フィナに向かって飛ぶ空間を捻曲させる剣の矢。

 「君の愛が痛いよ、士郎君♪」

 「幽霊船団」の団員を盾に防ぐフィナ。防ぎきれずダメージを受けたが、なぜか嬉しそう。

 「し、しまったぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

 攻撃しちまった!!!敵対意志を表してどうすんねん!!?

 「わが主に仇なすものには容赦しない。」

 リィゾさんもやる気になっちゃた。どうしよ?

 「アルトルージュとプライミニッツ・マーダーは私がやる。士郎は白いのとは、何か相性悪いみたいだから、黒いのお願い。シエルは、白いのね。」

 指示を出すアルクェイドさん。

 「い、いや、話し合いによる解決を―」

 「まあ、妥当な判断だと思いますよ。命令されてるみたいで気に食いませんが。」

 止められそうにない感じ。

 「それでは行きます!!」

 シエルさんが動く。

 「僕のダンス・パートナーに、君では役不足だよ!!」

 「試してみなさい!!」

 激突しながら林の奥に消えて行くシエルさんとフィナ。

 「では、行くぞ、士郎。」

 剣を構えるリィゾさん。

 「ちょ、ちょっと、待ってください!アルトさん、アルクェイドさんも!バレンタインのチョコを渡すのに、なんで戦わなくちゃならないんです?落ち着きましょうよ!」

 「それはできないわ、士郎!!!なぜならこれは、女の戦いだから!!!」

 握り拳をして断言するアルクェイドさん。そげなこと言われても。

 「そうじゃ!!!妾も退く訳にはいかぬ!!!」

 二人とも理不尽に興奮状態だ。なんだって、こんなことにぃぃぃぃ!!!

 「士郎よ。」

 周りの興奮とは一線を画す落ち着いたリィゾさんの声。

 「私は、姫様の剣だ。姫様の前に立ち塞がるものは何者であろうと斬る。だが、それとは、別に、お前と闘ってみたいと思っていた。」

 殺気が膨れ上がる。この前の死徒とは比べ物にならない。冷や汗が噴き出す。

 「私は、全力をもって、お前と闘おう。お前も全力をもって、来い。」

 動かない。つまり、こちらの準備が整うまで待つと言うことか。

 「避けられませんか?」

 一縷の望みをかけて聞く。

 「最早、始まっている。」

 にべもない返答。次に余計な事を言えば、魔剣に首を落とされる。

 相手は、死徒二十七祖六位リィゾ=バール=シュトラウト。力を出し惜しみできる相手じゃない。ならば、衛宮士郎の全てをもって対峙しなければならない。

 「I am the bone of my sword」 体は剣で出来ている

 「Steel is my body,and fire is my blood」 血潮は鉄で、心は硝子

 「I have created over a thousand blades.Unknown of loss.Nor aware of gain」
 幾たびの戦場を越えて不敗。ただ一度の敗走もなく、ただ一度の勝利もなし

 「アルクェイドよ。妾たちは一時休戦と行かぬか?士郎の真の力、知りたくはないか?」

 「そうね、興味あるし。いいわ、乗ってあげる。」

 「Withstood pain to create weapons.waiting for one's arrival」
 担い手はここに孤り。剣の丘で鉄を鍛つ

 「I have no regrets.This is the only path」 ならば、わが生涯に意味は不要ず

 「My whole life was "unlimited blades works"」 この体は無限の剣で出来ていた

 瞬間、全てのものが破壊され、あらゆるものが再生した。炎が境界線となり世界を塗りつぶし、別の世界が顕れる。

 黄金の朝焼けの下、無限の剣が突き立つ丘―

 「「「固有結界!!!」」」

 驚く吸血鬼達。

 「まさか、固有結界持ちであったとはな。」

 「うわ、突き刺さってるの、これ全部、宝具よ。すごーい。」

 その世界の主は穏やかに闘いの始まりを告げる。

 「行くぞ、黒騎士。時の呪いは万全か。」


 闘いは始まった。降り注ぐ剣の雨。その間を縫って振るわれる斬撃。この剣の丘において、士郎は、全ての剣の動きを把握できる。ゆえに、剣の雨の中、自身も剣を振るえる。剣雨と剣撃。これが、衛宮士郎の固有結界内での闘い方だ。

 「ほえ〜、士郎、なかなか強いねー。」

 「うむ。余計、士郎を妾の死徒にしたくなったぞ。」

 「いえ、彼は、埋葬機関でこそ、その真価を発揮できるでしょう。……ここに刺さってるの、何本か持っていってもばれませんよね?」

 「あ〜〜、士郎君!!凛々しいよ、君の雄姿は♪」

 いつの間にか観客になっている白黒黄?白。

 「し、士郎!?」
 「シ、シロウ!?」

 駆けつけて来た凛とルヴィアが驚く。当然だ。魔法にもっとも近い魔術。禁呪。名の通ったそれの使い手が人ではない事を考えれば、驚かないほうがおかしい。

 「「綺麗……」」

 剣を使った剣舞ではなく、剣と共に舞う剣舞というべきか。個人的な感情を加味しなくても、黄金の朝焼けの中、繰り広げられる剣戟は、聖堂に飾られる一枚の絵のように荘厳であった。ただ、カレー味のスナック菓子を食べながら観戦する四人と一匹が、なんというか台無しにしていたが。


 リィゾ=バール=シュトラウトは、「剣を振るう者」である。ただ、彼は知っていた。己が、剣の道で「頂点」に立つ器でない事を。しかし、彼は磨いた。ただ、主君の剣として。不器用に、一心に。それは、衛宮士郎と同じと言える。鋼の意志で、数百年もの間、己が技を磨き上げてきた。ゆえに、重い。彼の一撃、一撃が。剣雨を、剣撃を押し返していく。数百年の研鑽と、三年余りの鍛錬。その差が徐々に現れてきていた。

 「おおおおおおおおお!!!!!!!!」

 「ハァァァァァァァァァ!!!!!!!!!」

 裂帛の気合と共に、二人の剣が交わる。

 ギィィィィン!!!!!!

 「グ!!!!」

 剣が手から離れる。まずい。そろそろ限界っぽい。魔力は底をつきそうだし、握力も心許ない。

 「ハァ!!!」

 追撃を、剣を引き抜き、受ける。飛ばされる。追撃。引き抜く。飛ばされる。そして、遂に、

 「うわ!?」

 足を滑らした。そして、その隙を見逃すリィゾさんじゃない。上段に振りかぶられる魔剣ニアダーク。

 「終わりだ、士郎。」

 そして振り下ろされる。

 「「イヤァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」

 そんな悲鳴が、遠くで聞こえた。




 あとがき:今回も短め。何か破綻してきたなあと思いつつ、懲りずに書いちまった福岡博多です。いやあ、バトルっぽいのも難しいなあ。リィゾとフィナの性格も、適当。ファンの人お許しを。翡翠に、料理教えるのは無謀だったろうか?まあ、目が渦巻いてなきゃ、人の話は聞く人だと思うので。やっぱ無理ある?自分でも、そう思います。やらなきゃ良かった!
 さあ、士郎、大ぴんちだ。逆転の手はあるのか!?乞う?御期待。

 

 


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