衛宮士郎の世界一周(逃亡)旅行(M:士郎・他 傾:ギャグ)


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1: 麻貴 (2004/03/24 15:12:36)[heartandlove at topaz.ocn.ne.jp]

衛宮士郎の世界一周(逃亡)旅行

 


俺――衛宮士郎は今アメリカにいる。

 修行の旅でもなければ、観光でもない…………逃亡しているんだ。

 誰から?分かりきっている。聖杯戦争が終了した後、俺の家に住んでいる二人の家族と 倫敦に行った赤い悪魔からだ。

 事の発端は一週間前―――遠坂が休みを利用して倫敦から帰ってきた時の事だ。



 あの日、事前に遠坂が帰国すると聞いていた俺達は空港まで遠坂を迎えに行った。

 空港の入り口にいた遠坂を見つけ、お互いが「久しぶり」と再会を喜んで、とても穏や かな時間だった。そう、あの時までは……

 その後家に戻り夕食を食べた後それぞれの近況報告をしていた。

 といっても、俺や桜、ライダーは別に変わった事もなく、ただ遠坂の話を聞いているだ けだった。

「――――ってな訳で、時計塔が半壊しちゃって、しばらく休学になっちゃたのよ」

 何でも、遠坂の大師父にあたる人が年甲斐も無くはしゃいで、時計塔を破壊したと言う のだ。

 それは良いが遠坂……胡坐をかいて、煎餅を食うのはやめてくれ。

 そして笑いながらそんな大変な事を面白おかしく語るな。

「で、どうするんだ遠坂。いつ復興するか分からないんだろう?」

「一年ぐらいっていう話だけどね。とりあえず直るまで暇な訳だし……そういえば士郎、 あんた魔術使ってる?」

「毎日ではないけど。身体も大分馴染んできたから、少しくらいなら問題ない」

 ニヤリと笑う。あの顔は何か良からぬ事を企んでいる顔だ。

「ねぇ、三人とも賭けをしない?」

「「「賭け?」」」

 声が重なる。

「そう賭け。士郎が逃げて、私達がそれを捕まえられるかをね。フィールドは地球上て、 制限時間は私が帰るまで」

 ああ……またとんでない事を言い出したよ、このお方は……。

「ちょっと待て!?何でそんな事をせにゃならん!?大体今の俺がこの面子から逃げ切れ る訳もないだろう!」

「士郎が逃げ切れば何でも言う事聞いてあげる。でも捕まったら、捕まえた人と結婚ね」

「なっ何を「何を言ってるんですか、姉さん!!」

 今まで静かに動向を見ていた桜が怒鳴る。頼むから耳元では怒鳴らないでくれ。

「何ってそのままの意味よ。言っておくけど私はまだ士郎を諦めた訳じゃないないかね」

「でも……先輩は私の恋人です!何で姉さんがそんなことを決めるんですか!?」

 顔を真っ赤にして必死に抗議をする桜。そんな桜の様子を楽しげに見る赤い悪魔。

「はっきり言ってあげましょうか?遠坂凛は衛宮士郎を今でも好き。そして、好きな人を 奪えるチャンスがあれば遠慮なくモノにする」

「なっ……!?」

 遠坂の突然の告白に俺は驚いた。(元)学校のアイドル遠坂が俺の事を好きだって言っ た事に。

「なっ……えっ!?ちょっと待て、それ本当か!?」

「士郎は気付いてなかったでしょうけどね。でもあなたは桜を選んだ。だから黙っていた けど、こんな機会滅多にないからせいぜい利用するわ」

 顔を真っ赤にして言い放つ。

「いや、気持ちは嬉しいが、俺には桜がいるし、それに今の俺の状態だと一ヶ月と持たん ぞ!?」

「その心配は無用よ。士郎は気付いてないでしょけど、今あなたの身体は魔力に満ちてい る。誰の助けなしでも固有結界を発動できるほどにね。それにちゃんとした食事と睡眠 をとっていれば、魔力の減少は最低限に抑えられる」

 それに修行にもなるし〜何て軽く言ってのける。

「それじゃあ、私や先輩がやると言わなければそのチャンスは巡って来ないでしょう?
 それに万が一ライダーが捕まえた場合どうするんですか?」

 桜が今まで黙っていたライダーの方を指差す。

「私は別に構いませんが?それに時々士郎からは精気をもらっていますし」

 ポッっと頬を染めるライダー……頼むからそこで俺たちの関係がバレるような言動はや めてくれ。

 ブチっ!

 あ……桜さんが本気切れてる。

「そうですか……先輩とライダーがそんな関係だったなんて……しかも私でも週に二・三 度なのに、ライダーとはほぼ毎晩ですか……」

 どんどん黒くなってくる。遠坂は既に避難ずみだ。

「ちょっと待て桜。それは誇張しすぎだぞ。回数は桜と同じぐらいだ、まあ桜が用事で出 て行っている時とかもたまにしてるけど……」

 あっ……墓穴掘った。なんで俺はこうもベラベラと喋るかなぁ。

「先輩を殺して私も死ぬ……それしかもう方法がない……」
 
 ライダー!照れてないで助けて下さい!!呑まれる!影に呑み込まれる!!

「桜、ちょっと聞きなさい」

「何ですか?姉さん……」

 遠坂が何やら耳打ちしている。

 それを聞いて、桜が少しずつ戻っていく。

「それもそうですね〜。でもそれだと姉さんが不利になりますよ?」

 何を言われたのか、桜が笑っている。

「承知の上よ。私が負けるはずないんだもの」

 遠坂も笑う。

 その様子がとても似ていたから、やっぱり姉妹なんだなぁ〜と思う。出している負の空 気まで一緒だし……。

「先輩!この賭けをやりましょう!」

「何故だ!?さっきまで嫌がっていたのに」

「さっきはさっき、今は今ですよ。先輩」

 それとも私と結婚したくないんですか?と睨んでくる……ていうか捕まる事確定かよ。

 これ以上逆らうとまた影に呑み込まれそうなので素直に従う。

「ルールの説明ね。士郎が出発した翌日に私達は出発する、お金とかは持って行っても良 いし、稼いでも良い。お互い潰し合いもありね。
 でもこれは賭けが始まった三日後から、そうしないと士郎が出発した日に全滅もありえ るからね」

 淡々と説明していく遠坂。それを真剣に聞いている桜とライダー。

 俺は縛られている状態で聞いている。

 賭け開始までに逃亡するのを防ぐためらしい。

「こんなとこかな……あっ、あと士郎を攻撃しても良いけど、殺してはいけない。半殺し ぐらいならいいけど」

 恐ろしい事を笑顔でさらりと言ってくれる遠坂。

 桜とライダーも頷かないでくれ。

「それじゃあ士郎、準備して、今から一時間以内に。逃げたらガンド千発打ち込むよ?」

 笑顔で殺気を放つ。可愛いけど恐ろしい……正直、逃げたい所だがガンド千発食らった 日には親父と再会するはめになるので勘弁だ。

 言われた通り準備をする。
 
 と言っても、最低限の服と金以外は別に持って行くモノもない。

 金が無くなっても働けば済む事だ。流石にあの三人も働いている間は何もしないだう。

「準備出来た?それじゃ出発して、何処でも良いから逃げるのよ。なるべく私に捕まりそ うな所にね」

 よほど俺を捕まえたいらしい。
 
 しかし、俺もそう易々と捕まるわけにはいかない。

 玄関を出て走りだす。
 
 目指すは空港……目的地はアメリカだ。

 もしもの為にバイトの給料を少しずつ貯めといてよかった。
 
 桜達も、最初から外国に行くとは思わないだろう。

 俺は逃げ切る!一年はちょっと長いけど、捕まって強制で結婚よりマシだ!

 俺には結婚する金なんてないしな。

 捕まえられるものなら捕まえてみろぉぉぉぉぉ!




 という訳で逃亡中である。

 あれから一週間……未だ遠坂たちに見付かる気配はない。

 この分なら賭けは俺の勝ちか?

 いや、まだ先は長いがそんな気がしてくる。

 遠坂の言った通り、ちゃんと食事と睡眠をとっていれば魔力はあまり減らない。

 それどころか更に満ちてくる感覚すらある。

 これならばたとえ見付かったとしても“Unlimted Blade Works”使用して牽制している 間に逃げる事が出来そうだ。

 あの三人がどんな手で俺を見つけ、攻撃してくるか分からないが、多分大丈夫だろう。

 とりあえずホテルに戻ろう。

 慣れない土地での仕事はつらい。

 そうして、ホテルの前に来た時に、後ろから―――

「士郎」

「先輩」

「士郎」

 と聞き覚えのある声が三つ響く。

 振り向き、声の元を見ると―――

「覚悟しなさい(して下さい)」

 笑顔で佇む、三人の姿が目に入った。



 続く


 
 後書き
 
 麻貴と申します
 頑張ってギャグにしたんですけどギャグになってるのでしょうかね
 基本は桜goodENDを基準にしていますが、展開次第では色々出るかもしれません
 その他オカシイ所もありますが(例:士郎の身体に魔力が満ちている)
 ご都合主義として、ご理解願います
 
 こんなSSでも読んでいただければ幸いです
 続きは出来るだけ早く書こうと思います

2: 麻貴 (2004/03/25 03:07:19)[heartandlove at topaz.ocn.ne.jp]

「覚悟しなさい(して下さい)」

 不気味に笑う三人の悪魔……凄まじい殺気を放ちながらこちらを見る。

 あれはもう半殺しでは済まないな、と心の中で人生の不幸を呪った。

「何で三人一緒なんだ?」

 逃げる為に準備をする。その間に素直に感じた疑問を口にする。

「潰し合いはあり……って言ったけど、協力してはいけないとは言ってないわ」

「そうですよ。だから私達は協力して、先輩を捕まえます」

「結婚の権利はそのあとゆっくりと話し合います」

 それぞれ順番に説明してくれる。

「ルール変わってないか?俺を捕まえた奴が結婚出来るんだろう?」

「三人で『協力』して捕まえるんだから、三人に権利が発生するわ」

「滅茶苦茶だ!そんなの俺に圧倒的に不利じゃないか!?」

「元より逃がす気などない!あんたはおとなしく捕まればいいの!!」

 言い合っている間に三人が捕獲態勢に入る。魔術を使う気なのか、遠坂の左腕が光る。

「おいっ!遠坂、まさかここでガンド撃つ気か!?そんなことしたら魔術師の存在がバレ るぞ?」

「心配無用よ。ライダー、桜、作戦通りに頼むわよ」

 遠坂の言葉に無言で頷く二人。

「先輩、覚悟して下さいね」

「士郎、おとなしくしていれば平穏に済ませます」

 二人で突っ込んで来る。ライダーより遅いが、桜も結構速い。

 桜……お前は体育が苦手なんじゃあなかったのかい?

 普段とはまったく違う速度で迫る桜に対しそんな疑問が浮かんだが、まずは逃げるが  先!

 後ろを向き、全速力で駆ける。
 
 サーヴァントであるライダーに勝てる訳はないのだが、人がいるからだろうか半分のス ピードも出していない。

 桜は元から体力に差がある。とてもじゃないが俺の全速力にはついては来れないだろ  う。

 遠坂は二人のやや後ろを走っている。左腕は光ったままで、すぐにでも撃てるようにし ている。

 俺は走りながら人通りの少ない場所を探す。

 魔術を使わなければ、あの三人は止められない。

 同時に向こうも魔術を使ってくるだろうけど、多分なんとかなるだろう。



「くっ―――このままでは逃げられます。リン、許可を下さい」

「そうね、だいぶ人も少なくなったし。桜、ライダーへの魔力供給量を正常に戻して!ラ イダー、全速で士郎を追ってちょうだい!」

「はい!」

「任せてください!」

 二人同時に答える。

「では、いきます!」

 ヒュッ、っと風を切る音と共に、ライダーが俺の横に現れる。

「うわ!?」

「士郎、観念しなさい」

 俺の動きを止めようと腕を伸ばしてくる。

 しかし俺の方も簡単に捕まるわけにはいかない!

「――投影・開始――」

 あらゆる工程を瞬時に行い、“それ”を投影する。

 最近分かったが、俺は実戦になると力を発揮しやすくなるらしい。

「そっそれは!?」

 俺が投影したものを見てライダーが目の色を変える。

 俺が投影したのは剣でも、槍でも、ましてや盾でもない。

 それは――――仮○ライダーBLACKの十六分の一フィギュア

 何故か知らないが、最近ライダーがハマっているその正義の味方の人形を投影した。

「ライダー……これが欲しいのならやる。そら!」

「あっ!?」

 投影した人形を思いっきり投げる。

 ライダーはそれを追っかけて行った。

「よし!うまくいった」

 小さくガッツポーズをする。

 後ろの二人が何か言っている。



「姉さん!ライダーが……」

「チッ!なんであんな人形を追いかけるのよ!?」

「少し前に藤村先生が『ライダーって言ったらこれよ!』何て言ってビデオを持ってきた んです。それ以来ハマってしまって……」

「あの虎……余計な事を……おかげで作戦が実行出来ないじゃないの!桜、あとでライダ ーに躾よろしく」

「分かっています。でも姉さん、ライダーがいないと私達では先輩に追いつけません   よ?」

「桜もガンド撃ちぐらい出来るでしょ?こうなったら仮死状態でも良いから捕まえるわ  よ!」

「はい」

「桜は士郎の右側に行って、私が合図したら士郎の二・三歩前方を狙って撃ってちょうだ い」

「分かりました」

「それじゃあ、いち、にの、さ―――うわっ!?」

「―――きゃあ!?」

 つまずき、転倒する。

 訳が分からず、呆然としていると私達を追い抜いて走って行く人がいた。




「うわっ!?」

「きゃあ!?」

 二人が驚きの声を上げる。

 後ろに振り返り見てみると二人が地面に手をついている。

 ……その後ろでライダーがフィギュアを持ってニヤニヤしているのは見なかった事にし よう。

 その二人を追い越し、迫る影があった。

 その速度は速く、俺と同じくらいだ。

 敵意は感じない。そして、その影は俺の隣に来ると話しかけてきた。

「ヨウ、シロウ。困ってるみたいだったから手助けしたけど、あれが前に言ってた三人の 悪魔かい?」

「そうだよウィル。そして今は捕まらないように逃走中だ。助けてくれたありがとう」

 走りながらお礼を言う。この少年はウィル・モンド(16)俺がアメリカに来て、初めて 出来た友達。

「良いってことよ。でもそうなると、別の国へ行くのか……残念だな。親父もシロウの事 気に入ってたのに……」

 俺がアメリカに来た当初、仕事を探していた時に声を掛けてくれたのがこのウィルで、 
 こいつの親父さんがレストラン経営をしている聞いたので親父さんに紹介してもら   った。

 親父さんも俺の料理の腕を認めてくれて、そのまま雇ってくれた。

「俺も親父さんには感謝してるよ。この賭けが終わったら、また会いに来る」

「分かった。その前に死ぬなよ、シロウ。紫の髪した姉ちゃんはともかく、他の姉ちゃん 達はかなり本気で殺しに来てるぞ」

「大丈夫だ。多分捕まったとしても死なないと思う」

 うん……多分死なないだろう。

 運が良ければ……。

 

 
 遠坂達は大分後ろを走っているが、俺の体力もそろそろ限界だ。

 その時、およそ百メートル先に一台の車が止まっているのが見えた。

 運転手らしき人がその側に立っている。

 よく見ると、見覚えのある顔だった。

「おおっ!あれは親父さんのレストランによく来て、俺に何かと世話を焼いてくれる
 スティーブ・ケスターさん(40)ではないか!?」

 何でこんな所に?と口に出す前にウィルが説明してくれた。

「俺が呼んどいたのさ。車に乗ればあの姉ちゃん達も追いつけないだろうからね」

 ううっ……本当に感謝してもし足りませんよ。持つべき者は異国の友ですなぁ。

「オイッ、シロウ!早く来い!出すぞ!」

 スティーブさんの車に飛び込み急いでドアを閉める。

「ありがとう、スティーブさん!それじゃあウィル、色々ありがとう。
 親父さんにもよろしく」

「ああ、伝えておくよ!じゃあなシロウ。死ぬなよ」

 軽い別れの挨拶を済ませ、車は猛スピードで発進する。

「スティーブさん、空港に向かって下さい。出来ればすぐに飛び立つ飛行機がある所へ」

「まかせろ!俺のフレンドには飛行機のパイロットもいる。そいつに頼んでチケット貰っ てきたぜ!行き先は聞いていないが、アメリカ国内では無い事は確かだ!金はまた今度 返してくれりゃあ良い」

 アメリカ人サイコー!ブラボー!なんて良い人達なんだぁ。俺誤解してたよ。

 アメリカ人って皆銃を持ってて、今は優しくてもいつか銃で脅されて酷い事されるん
 じゃあないかと思っていたけど、違うんですね。
 
 良い人もいるんですね。

 ええ、こんな良い人達に出会えた俺は幸せですよ。

 こうなったら何が何でも賭けに勝って、勝利のお祝いを皆でしましょう。

 遠坂たちの姿を確認するために後ろを見る。

 かなり遠くなっていた為に視力を強化する。

 遠坂と桜は肩で息をしながら立ち尽くすしている。

 ライダーはというと……手に持ったフィギュアに頬擦りをしている。

 う〜ん……そんなに欲しかったのか。ていうか頬を赤らめながらフィギュアを見る
 ライダー萌え。

 なにはともあれ、助かった。

 さあ、目指すは空港!目的地は……とにかく世界のどこか!



 ―――その頃、士郎を乗せた車が去っていくのを呆然と見ていた遠坂達は―――

「どうします姉さん?逃げられましたよ?」

「まさか手助けをする人がいるなんて士郎のくせに生意気だわ」

「ええ、予想外でしたね。何処に向かったんでしょう先輩は」

「空港でしょうね。私達に見付かったんだからもうここにはいられないと考えたんでし  ょ」

「次は何処の国に行くんでしょう?」

「さあねぇ。まっ今日はさっきのホテルに泊まりましょ。走りっぱなしで疲れたし、それ にライダーの躾もしなきゃならないし」

「姉さんも躾するんですか?」

「当然よ。ライダーがちゃんとすれば捕まえられたのにあんな人形に引っ掛かかりやがっ て、こうなりゃ思う存分殴らなきゃ気が済まないわ」

「そうですね……でも姉さん、ライダーも一応は女の子(?)ですから、殴るのはやめて あげた方が良いですよ。それよりもあの大事そうに持ってる人形とか、ライダーが
 持ってきた荷物の中にあるビデオとかを捨てるのがよ ろしいかと」

「そんなものを持ってきてたのか……こりゃ徹底的にやらないと駄目ね。桜、黒化するの はまだ早いわよ」

「それでは早く行きましょう……私もこれ以上自分を抑えるのは限界ですから」

 未だにフィギュアを持って惚けてるライダーを引っ張ってホテルまで戻る。

 その後、ホテルでは一晩中女性の悲鳴や泣き声が響いたという。




 続く



 後書き

 果たして読んでくれている方がいるのか?と心配になります
 二話目を投稿しました。麻貴です
 ギャグって何か難しいです
 どうすれば面白いのか?どうすればギャグになるのか?
 試行錯誤を繰り返しております
 
 これに懲りず書いていきますので、どうかお付き合い願います
                              麻貴でした

3: 麻貴 (2004/03/26 12:35:27)[heartandlove at topaz.ocn.ne.jp]

前回のアメリカでの逃走から二週間……あの後俺は無事に飛行機に乗ってアメリカ国外へ出ることが出来た。

 着いた先はオーストラリア……スティーブさんに貰ったチケットはいくらだったのだろ うか。

 また今度って事は次に会ったらって意味だよなぁ……ゴメンナサイ、返せそうにないで す。

 しかし、今はそんな事に頭を悩ませている場合ではない!次に桜達の襲撃にあったら今 度はどうやって逃げるか、だ。

 アメリカの時のような友達がいない、自分でチケットを買わなければ飛行機に乗れない。(本来当然の事だが……)

 当日にすぐ乗れる便があるかも分からない。

 金はあるんだけどなぁ……アメリカで貰ったのとここに来て働いたのもあるから困る事は多分ないけど……。

 本当にどうやって逃げようか……冷静に考えたら、この賭けは俺に絶対的に不利だ。

 よしっ!次に桜達にあったら、襲われる前に一つ意見してみよう。

 それが通るとも思わないが、何もしないでいるよりはずっと有意義なはずだ。

 このまま見付からずに時間切れになるのが一番好ましいのだが、何せ期間が長すぎる。

 一年も家に帰れず、外国を行き来しながら逃げるのは精神的にもよろしくない。

 うん……やはり一度抗議しよう。

 だけど、あの三人はどうやって俺を見つけたんだろうか……。

 俺は桜から魔力を貰う為にその…………してたけど、そのまま終わった後も魔力のレイラインが繋がっていた?

 もしそうなら、桜が俺いる場所を感知して、それを追って来ている事になる。

 日にちが空くのは移動するために金を稼いでいるからか?

 しかし遠坂はともかく、桜は間桐の家を売った金があるはずだ。

 それに俺の場所が分かるなら、桜の裏の性格からして遠坂と手を組まずに捕まえに来ると思う。

 と言う事で、この可能性は消えた。

 では、何故?ワカラナイ……。

「教えてあげようか士郎、私達が何であなたの居場所が分かるか?」

「簡単な事です。使い魔を世界中に飛ばしてるんですよ」

「それにいざとなったらライダーの天馬で探せるしね」

 ああっ!なるほど、使い魔を使っているか。確かに遠坂や桜は半人前の俺と違って一流の魔術師だしな。

 使い魔を世界中に飛ばすなんて造作もないよな。

 桜の魔力ならライダーの天馬も遠慮なく使えるし。

 ありがとう。遠坂、桜、おかげで謎が……って――――うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!見付かったぁぁぁぁぁぁぁぁ!

 逃げなくては!逃げ―――――そうじゃない……そうじゃないぞ衛宮士郎!自分で言ってたではないか、抗議すると―――。

 

 そうだ、抗議するんだ。こんな俺だけに不利なのは賭けとは言わない。それを言って、少しは改善しないと……。

「どうしたの士郎?前みたいに逃げなくても良いの?」

「おとなしく捕まってくれるんですか?それなら私達は大歓迎ですよ!」

 くっ……姉妹揃って笑顔。可愛いぜコンチクショウッ!結婚なんて条件がなければ、今すぐにでも捕まってやるさ!

「逃げるのは後だ。少しで良いから俺の話を聞いてくれ」

「ダメ!どうせ結婚は嫌だとか、手加減してくれって言うんでしょ!?そんなの今更聞けないわよ」

 今更も何も、最初から何一つ言わしてくれなかったじゃないか!?―――何て言ったら本気で殺されそうだからやめておこう。

「違う。遠坂の性格は良く知ってる。そんな事を言っても無駄なのも分かってる。話ってのはもう少し別の事だ」

 それじゃあ何?って顔で遠坂が俺を見てくる。桜も頭に?が浮かびそうな顔をしている。

 そんな顔もやはり可愛い。流石元学園のアイドルとその妹。出来る事ならこのまま押し倒したい!

 ああ、神様!俺に何か恨みでもあるんディスカッ!?

 何でこんな可愛い姉妹を敵に回してまで逃げなければならないんですか!?

 賭けの事なんて忘れて、日本の自分の家でこの姉妹と共にパラダイスな日々を送りたいのですよ僕は!!

 そ、そうだ……わざと捕まって、どっちかと結婚すればそれも実現可能ではないか!?

 どっちが良い……桜はバレたら影に呑み込まれそうだから、やはり遠坂か?遠坂なら(浮気も)少しぐらいは許してくれそうだしなぁ。

 よしっ!遠坂に捕まろう!それでこんな逃亡劇とはおさらばだ!ひゃっほ――――!!!



 
 ―――ちょっと待て、落ち着け!落ち着くんだ衛宮士郎―――捕まってどうする!?

 結婚という不条理な条件が嫌で逃げていたのではないか!?

 ここで捕まってしまえば、世話になった人達に申し訳が立たない!

 耐えろ!耐えるんだ!衛宮士郎!お前はやれば出来る!!

「どうしたの士郎?話って何よ?」

「先輩、どうしたんですか?どこか具合でも?」

 二人が顔を覗いてくる。
 
 その所為でまた思考が壊れかけるが何とか持ち直す。

「何でもない。立ち話もなんだから、あそこで話そう。話し終わるまでは捕まえようとしないでくれよ」

 すぐそこにあるカフェテリアを指して言う。

「分かってるわよ。でもなるべく手短にお願いね」

「もちろん、代金は先輩のおごりですよね?」

 桜……変わったなぁ。昔はそんなことを笑顔で言う娘じゃあなかったのに……恋人として、家族として複雑ですよ。

「そういえばライダーはどうしたんだ?さっきから一度も姿を見ていないけど」

「ライダーならあっちにいます」

 桜が指差す方を見る。離れていて良くは見えないが、確かにライダーと思しき人影が見える。

 さらによく見ると、膝を抱えて座り、指で地面に何かを書いているみたいだった。

 どことなく周りに漂う空気も暗い。

「ライダーの奴どうしたんだ?えらく落ち込んでるみたいだけど?」

「ちょっと躾をね。アメリカであんたを捕まえそこなったのはあのバカ娘の責任だから」

 英霊であるライダーを『バカ娘』呼ばわりですか?遠坂さん。他の魔術師が聞いたらびっくらこきますよ?

「だからライダーが大事に持っていたビデオとか、先輩が投影した人形とかを目の前でバラバラにして捨てたんです」

 ああ、だからあんなに沈んでるのか……俺が投影したのはともかくとして、ビデオはきついだろうなぁ……。

 その場から動こうとしないライダーに近寄り、声をかける。

「ライダー……辛いだろうが、今は我慢してくれ。ビデオなら藤ねぇがまだ持ってると思うから」

「……士郎」

 目に涙を溜めながら俺を見上げるライダー。

 頼むからそんな顔で見ないでくれ……また思考が壊れちまう。

「とりあえず、あそこのカフェに行こう。話したい事があるから聞いてくれ」

 『はい』と素直に頷いて付いて来るライダー。ああ……萌え。



 
 席に座り、話を始めようかと言う時に、こいつらは―――

「何を頼もうか?ここに着くまでほとんど何も食べてないからお腹すいたわ」

「そうですねぇ。でもいきなりたくさん食べると太りますから、まずは軽くサンドイッチにでもしましょうか」

「そうね。どうせ士郎のおごりだし」

「おい、俺だって使える金には限度があるんだから、ほどほどにしてくれよ」

「分かってるわよ。あっ、すみませ〜ん」

 本当に分かってるのか、遠慮なしに大量に注文をする遠坂と桜。

 そんな二人とは対照的にライダーは静かに座っていた。

「ライダーは何か欲しいモンはないのか?こうなったらもうヤケだから何でも頼んでもいいぞ」

「いえ……私はリンとサクラが頼んだモノだけで結構です。士郎に迷惑は掛けたくありませんから」

 何て言ってくれる。ライダー……お前だけが最後の心のオアシスだよ(謎)

「……それにその出来れば……士郎の精気が欲しいですし」

 ……前言撤回。やはり俺には心の休まる場所はない。

 注文したモノが運ばれてくる間に、俺は三人に言った。

 遠坂達に有利過ぎて、賭けとして不等だという事、一年間も家を空けておくのは主として許せないという事。

 それを聞いた遠坂達は―――

「確かにね。飛行機に乗れないかもしれないし、出発するまでの時間もある……それなのに私達は三人で襲う。これじゃあ賭けとして面白

 くないわ。前回はほとんど奇跡に近い逃走みたいだし」

「それに、家を空けっぱなしにしておくのも良くないですね。せめて一ヶ月に一回は帰って掃除しないと……」

 おおっ!中々の好反応。よし、このまま押し切れ。

「だからいくつか提案がある。一つ、俺を襲ったら、もうその国で俺を襲わない事。二つ、毎月十五日は皆で日本に帰って、家の掃除をする事。三つ、襲う日と帰る日が重なっ た場合は後者を優先する事」

 う〜ん……っと唸りながら何やら考えている二人。

 しかし運ばれてきた食い物を食べる事も忘れない。

 量にして日本にいた頃の晩飯の三倍以上はある、その量を瞬く間に食っていく。

 


 二十分もしないうちに料理は無くなり、皆の顔は満足気だった。

 紅茶を飲み、一息ついて遠坂が口を開く。

「士郎の提案受けましょう。元々私が暇潰しに始めたことだし、ずっと飛び回るのもお金 がもったいないしね。十五日だけとは言わずに何日か戻るのも良いでしょ」

 よっしゃあぁぁぁぁ!これで少しは楽になる!しかも遠坂直々に何日かの平穏が約束された!

 とりあえず、この賭けが始まって約三週間、そろそろ一回戻っても良い頃だな。

 それを遠坂達に言ってみよう。今なら結構すんなりと帰れるはずだ。

「遠さ―――『それじゃあ早く逃げなさい士郎』

 俺の言葉を遮り、遠坂が逃走を促してくる。

「えっ……!?」

 理解が出来ず呆然とする。

「えっ……っじゃないの!私達は食後の休憩してからあんたを捕まえに行くから、今この間に逃げなさいよ」

「いや……俺は一度日本に戻った方が良いんじゃないかと思ったんだけど?」

「提案は呑んだけど、全部じゃない。日本にいつ帰るかは私が決めるし、何日いるかも私が決める。言っとくけどこれ最大の譲歩よ」

「そ……そんな馬鹿な!?それじゃ俺の提案は一つしか受け入れられていないじゃないか!?」

「一つでも受け入れた事に感謝して欲しいわね!さっきも言ったけど、これは私が暇潰しで始めた事よ!だから私が楽しくないとやってい る意味がないの!」

「少し矛盾してないか?確かにこの賭けは遠坂の暇潰しみたいなものだけど、お前は始める前に、俺の事を好きって言ってたじゃないか?だから結婚なんて言ったんじゃなかったのか?」

「ええ、確かに好きって言ったわよ。それに結婚って言うのも本気。だから私が楽しみつつ、あんたを捕まえて結婚する!」

 お互い顔を真っ赤にして言い合う。話してるのは日本語なのでここにいる四人を除いて他の人は理解できないだろうが、男一人が女三人に囲まれて、言い争いをしているというこの状況が痴情のもつれか?と言うような雰囲気を出しているらしい。

 店員も道行く人も皆俺達の方を見ていた。

「遠坂……一旦落ち着こう。他の人達の注目の的だぞ」

 冷静になり、周りの状況を遠坂に告げる。

 遠坂はハッ!っとした様子で椅子に座り、黙ってしまった。

「まあいい、とりあえず逃げるよ。食後は三十分くらい休憩しないと、身体に悪いぞ」

 席を立ち、金を置いて走り出す。

 

 さあて、遠坂達が追いつく間に何か作戦練らないとなぁ……。




 続く


 後書き

 世界一周と言ってる割には全然移動していません。
 三話目投稿しました。麻貴です。
 これはギャグなんでしょうか?自分でも分かりません。
 面白くしようと努力はしていますが、上手くいきませんね。
 
 ちゃんと完結はさせようと思うので、よろしくお願いします。
 批評でも結構ですので出来れば感想を書いて下さい。
                            麻貴でした

4: 麻貴 (2004/03/27 15:38:41)[heartandlove at topaz.ocn.ne.jp]

 遠坂達と別れて一時間……あれから俺はいつ襲われても良いように広い空き地のような 場所に逃げ込んだ。

 逃げている間も遠坂達を何とか止める作戦を考えたが、何にも浮かばない。

 第一、あの三人に対して俺みたいな半人前があれこれ策を弄しても効果があるとは思え ない。

 う〜ん……どうしようか……真正面から突っ込んでも返り討ちに遭うのが関の山だし……。

 固有結界を使えば何とかなるかも知れないけど、あれはまだ完全に使いこなせてないか らどんな副作用が起こるか分からない。

 戦いの最中に気絶なんて破目になったら、そこでBAD END確定だしなぁ……。



 あーでもない、こーでもないと考えているうちに背後に三人の気配がする。

「来ちゃった……こうなったら腹括るかぁ」

 気合を入れなおし、後ろに振り返る。

「食後の休憩は終わったか?あんまり無理しない方が良いぞ」

 口では虚勢を張っているが、内心今すぐにでも逃げ出したい。

「無理なんてしないわよ。それよりも士郎、こんな所にいるって事は私達と戦う気?」

 あー……やっぱり怒ってるな。当然と言えば当然だけど。

「戦う気はないけど、戦わないと逃げれそうに無いからな。もし見逃してくれるなら、今 度とびっきりの料理を作るけど?」

「その手には乗らないわよ。セイバーじゃああるまいし。―――…………本当は食べたい けど」

 最後の呟きは聞こえないように言っているみたいだけど、聞こえてるぞ遠坂……。

 それにセイバーじゃあ……って本人が聞いたら怒るぞ?絶対……。

 『リン!その発言は聞き捨てならない。撤回を要求します!』何て幻聴まで聞こえてくる。

「そうか、残念だな。俺は賭けのついでに料理の修行をしているんだけどな」

「あんたこの賭け嫌がってなかった?それに料理の修行する暇あるなら、魔術の修行をし なさいよ」

「今でも賭けは嫌だ。でもせっかく世界を回るのだから、利用しないとね。魔術の修行も 毎晩欠かさずやってる。料理は昼間、バイトしな がら修行しているんだ」

「ふ〜ん……でも世界を回るって言ってもまだ二箇所じゃない。それだけしか回っていな いのにとびっきりを作るなんて言われてもねぇ」

「だから今度だって言っただろ?まだまだ別の国に行くんだから、その先々で修行する― ――……って桜?」

 遠坂の後ろで、むぅ…………っと唸りながらなにやら真剣に思案している。

 その横でライダーもどうしましょう……なんて呟きながら俯いている。



 五分ほど考えて答えが出たのか、桜とライダーが同時に顔を上げて―――

「姉さん(リン)、見逃してあげましょう!」

 ―――っとまた同時に言い放つ。

 この二人はやはりどこか似ている。

 対する遠坂は、ハァッ!?なんて言葉を漏らしながら二人を睨んでいる。

 その眼に恐怖を感じたか、二人が僅かながら後退する。

 しかし気を持ち直したのか、キッ!っと遠坂を睨み返す桜。



 その後、数分睨み合いは続いた。

 このままでは埒があかないと思ったのか遠坂が―――

「桜、本気で言ってんの?ここで逃したらもうチャンスはないかもしれないのよ」

 さらに強く桜を睨む。その視線はバーサーカーを消滅出来そうなほど恐ろしい……。

「姉さんはそうかもしれませんが、私にはライダーがいます。ここで逃してもライダーが いれば見つけるのは簡単です」

 かたや桜も負けてはいない。養子の出されたとはいえ、遠坂の家に生まれただけの事はある。

「でも、私とあなたは今協力関係にあるわ。勝手な行動をしてもらっては困るわね」

「協力はしていますが、行動を束縛されるいわれはありません」

「一方に不利益になるような行動したら協力した意味ないでしょ」

「どっちにも不利益になんてなりませんよ。だって先輩がとびっきりのお料理を作ってく れるんですから。姉さんも食べたいんでしょ?」

「そ……そりゃあ食べたいけど、それなら捕まえてからでも出来るでしょ」

「捕まえてしまったら他の国に回れませんから意味ないです。だからここは一旦見逃して、お料理の修行が終わったら捕まえるんですよ」

「それだと賭けの意味ないわ。士郎を捕まえれるか、捕まえられないかのどっちかだもの。修行が終わるまでなんて待ってたら時間切れになるかもしれないわよ」

「修行を終える必要なんてないですよ。一つでも多くの国を回らせれば良いんですから。 そして時間切れ寸前で捕まえるのが一番良いんです」

「制限時間は私が帰るまで、私が帰るのは時計塔が復旧したらで、復旧に要する時間がお よそ一年。だけど一年はまずかからないと私は思 う。最低でも教室と魔術師の工房、 あとは見た目だけ直せばほとんど問題ないんだから、かかったとしてもあと三ヶ月ちょ っと………… こんな短い期間に回れる国の数なんてたかが知れてるわ。お金も稼がな きゃならないしね」

 んっ!?今なにか、とても素敵な言葉を聞いた気がするぞ。

「遠坂、あと三ヶ月ちょっとって本当か?」

「私の計算ではね。時計塔が最低限の機能を取り戻すのに半年はまずかからないと思うか ら」

 ヤッタ―――――!!ということは、あと半年!いや、三ヶ月ちょっとを逃げ切れば、賭けは俺の勝ちになるんだ!

 そうなれば、この三人に対し一つずつ何か言う事を聞いてもらえる。

 どこまで聞いてくれるか分からないけど、何でもって言ってたから少々贅沢でも聞いてくれるんだよなぁ……。

 何にしようか……迷うなぁ――――



 っと、いかんいかん。まだ逃げ切れると分かってないんだ。出来れば逃げ切りたいけど、この面子だしな。

 だから俺が逃げ切るためには、今この状況を見逃してくれるという事が非常に重要だ。

 遠坂には悪いが、ここは桜とライダーを味方に引き入れよう。

「時間がないと判ったからには、なるべく多くの国を回れるよう努力するよ。金もここに 来てずいぶん稼いだしな」

 おお、おお、桜の顔がどんどん喜びに満ちていくのが分かる。

 でも遠坂は納得いかないような顔してるんだよなぁ。



 桜とライダーが俺の方へ歩いてくる。

 一瞬、俺を捕まえる気か?と思ったが、俺の目の前に来ると遠坂に向き直る。

「姉さん、やっぱりこの場は先輩を見逃します」

「私もサクラと同じ意見です」

 よし!サクラとライダーが仲間になった。

 ちゃっちゃら〜♪

 何てどっかのゲームみたいな事を想像しながら一人孤立した遠坂を見ると、わなわなと肩を震わせながら俯いている。

 あ〜あれは絶対にキレたな。その証拠にもうすぐ爆発するぞ。

「も〜うあったまきた!上等じゃないの!やってるやるわよ!あんた達を倒して、力ずく で士郎を捕まえてやるー!」

 ほらな。遠坂……魔術師はあまり感情を出してはいけないんじゃなかったのか?

 まあ今の遠坂にはそんな事を言っても無駄だけど……。

「桜、ライダー、後悔しても遅いわよ」

 右手に宝石を持ち、左腕はいつでもガンドが撃てるように準備する。

「後悔するのは姉さんの方です。宝石剣もないのに私に勝てると本気で思っているんです か?」

 瞬時に黒化する桜。もう黒化にも慣れたんですね。

「思ってるわ。今の私はあの時の私じゃない。時計塔に行って、色んな研究をした。その 成果を見せてあげるわ」

 おお、黒化した桜にも怯まない。でもそのキレイな足が少しだけ震えていますよ?遠坂さん。

「私もあの時とは違いますよ?かなり自由に影を操れるようになりました」

 ええ、その影で俺を何度も呑み込んでますしね。

「それじゃあお手並み拝見と致しましょうか」

「せいぜいしぶとく逃げてくださいね、姉さん……」

 ああ……二人の背後に竜虎が見える。




 二人の戦いは六時間にも及んだ。空は既に暗く、あたりに静寂が漂っていた。

 戦いの内容はと言うと、とても口には出来ない悲惨なモノだった。

 ええ……これならまだ聖杯戦争の方がマシですよ。

 何で桜の影の一撃で地面にクレーターが発生しますか……遠坂も桜ほどとはいかないけども、地面にぼこぼこ穴掘るし……。

 こんな派手な破壊の跡をつけて、誰がこの事態を収拾するんですか……。

 人払いの結界でも張ってたのか、人っ子一人見なかったけど、この跡だけは隠しようがないぞ。

 魔術協会が後始末やってくれんのかなぁ……こんな個人的な争いの為に、色々と隠蔽するんだろうか。

 しっかしこれだけ破壊しておいて当の二人は傷どころか汚れすら付いてないってどういうことだよ……。

 ライダーなんて正座したまま居眠りしてるし……器用なもんですなぁ。

 おっ?二人が何か話してる。何だろ?そこはかとなく嫌な予感がするんだけど……。



「中々やるわね、桜。でも私はまだ本気を出していないわよ?」

「嘘はいけませんよ姉さん。私の影を必死に避けていたではないですか」

 確かに、遠坂は襲いくる影を『うっきゃああぁぁ―――!』なんて真に愉快な叫び声を上げて逃げ回ってたしなぁ。

「そういう桜だって、私が開けた穴に何度も落ちかけて、その都度叫んでいたじゃないの!」

「叫んでいたなんて……あれはただ驚いて声が出ただけですよ」

 それを叫んだと言うんだぞ桜。

「桜、気付いてないようだから言ってあげるけど……」

 あっ……俺の直感が逃げろって言ってる。

「何ですか?」

「何もいま士郎を見逃さなくても、この賭けが終われば料理の修行なんていくらでも出来 るわよ?」

「……?それはどういう意味ですか?」
 
 むっ……話がやばい方向にいってる気が……。

「そのままの意味よ。見逃さなくても、士郎を捕まえたあとにでも世界中を回らせれば良 いんだから」

「あっ……」

 ふむ……確かにそうだ。何も賭けの最中じゃなくても、寧ろ終わってからの方が余裕を もって修行が出来るな―――って桜、その今気が 付いたと言わんばかりの表情のあと、邪悪な笑みを浮かべてこっちを見るのは止めてくれませんか?

 二人が近づいてくる……その顔は―――怖っ!超怖っ!これはもうあれだ、“蛇に睨まれて蛙”じゃなくて、戦車と対峙した歩兵の心境だ。

 圧倒的な力の前に只死に逝くのみ……思えば短い人生だったなぁ……。



 桜と遠坂が目の前に来て、俺は死を覚悟した。

 しかし、傍らで寝ていたライダーがハッ!っと眼を覚まし、俺の前に立つ。

「ライダー……そこをどきなさい」

「いいえサクラ……士郎を守れとの命令ですから」

「……誰からの?」

「あなたです、サクラ」

「私そんな命令してませんが?」

「いえ、夢の中で命令されました」

「夢!?サーヴァントが夢なんて見るんですか!?いえ、それは置いといて、夢の中の命 令なんて無効です!どきなさい!」

「たとえ夢でも、命令ですからそれは聞けません」

「ならもう一度命令します。そこをどきなさい」

「残念ですが、その命令は聞けません」

「何で!?」

「この身はサクラのサーヴァントですが、心は士郎と共にある」

「他人のセリフパクッてんじゃねぇ!このデカ女!」

 ガガーン―――ッ!

「デカ……女……いくらマスターとはいえ、それ以上私を侮辱すると許しませんよ?」

「どう許さないのかしら!?こちとらあんたに魔力を供給してんだ!これを断てばあんた は現界出来ずに消えるんだから何をされても怖くないわ!」

「消えるその瞬間まで、あなたに対し何らかの攻撃を加える事は可能です」

「やかましい!あんたみたいな中途半端な英霊が私に傷一つでもつけられると思ってんの か?デカ女!!」

「ま……また言った……許しません!覚悟を、サクラ」



 あ〜あ……口喧嘩始めちゃったよこの二人……。

 桜さん……最後の方は普段の桜さんでは想像もつかないほどに変わりましたね。

 家族として、恋人として、そんな姿は見たくなかったですよ。

 遠坂もびっくりして、目を丸くして停止してるし。

 あっ、あっ、桜さんそろそろライダーの魔力供給を再開してあげて下さい。少しずつ身体が透けてきていますよ。

 今ライダーを失ったら、凄く困るんじゃあないですか?


 あ〜良かった。元に戻ってきた。やはり、ライダーを失うのはつらいらしいですね。

 そこはいつもの桜で安心しましたよ、僕は。

 でもあのままライダーが消えてくれた方が俺は助かったんじゃないのか?

 いや!ライダーは既に大事な家族の一人だ!それを失ってしまってはこんな賭けなどやっていられない!

 そう、これで良かったんだ……これで……―――良かったのか?


 あれから三十分……まだ言い合っている。

 遠坂とあれだけ戦ってよく体力持つな。

 ん……?そういえば、俺はこんなに無防備なのになんで遠坂は捕まえに来ないんだ?

 見ると、俺のすぐ横で遠坂は二人の言い合いをじっと観察している。

 その姿に俺は見惚れた。

 俺の憧れだった子がすぐ俺の横にいる。

 ええ、もう心臓が爆発しそうです。

 今この場に二人しかいなければ、押し倒しています。

 ……そんなことをしたら桜さんに殺されますけどね。


「遠坂、俺を捕まえないのか?今ならお前の勝ちだぞ?」

 気持ちを押えつけ疑問を口にする。

「日付も変わったし、呆れて捕まえる気にもならないわ」

「もうそんな時間か……でも日付が変わっても、俺が遠坂達から逃げ切るまで捕まえる事 は出来るんじゃあないか?」

「それだと士郎が逃げ切るまで私達と戦う事になる。それはそれで良いんだけど、士郎の 身体が持つか分からないから桜と話し合って決めたの、日付が変わったらもうその国で は追わないって」

「そうか……良かったぁ。正直、遠坂達から逃げ切る自信なんて全然ないからどうしよう かと思ってた」

「でしょ?だから決めたの。ちなみに言ってきたのは桜よ。あとでお礼言っときなさい」

 桜さん!ありがとうぉ―――!!俺の事を心配してくれてるんですね!?いつも影で呑 み込もうとしてくるから、本当に俺の事好きなのかなぁって疑問に思ってたけどちゃん と心配してくれてたんですね!

「ああ、分かった」

 ええ、ええ!何回でも言いますよ。言いますとも、それに少しぐらいなら無茶な注文も聞いてもいいぐらいです!

「それと、夜が明けたら日本行きのチケットを人数分お願いね」

 はっ?今何と?遠坂さん。

「日本行きのチケット?」

「ええ、一度帰るわよ。士郎の家に。元々そのつもりだったし」

 遠坂、いつもは悪魔みたいな笑顔が今は天使に見えるよ。

 人数分ってのはちょっと痛いけど、帰れるならそれぐらいは出しますとも。


 
 よっしゃあ!―――一時的にとはいえ俺の家に帰れる!

 本来は当然の事が、今は異常に嬉しい。

 しかし、それが終わったらまた世界を逃げ回らないといけないんだなぁ……何日いるか分からないけど、出来るだけ資金貯めなきゃ。


 未だに言い争いをしている二人をみながら、静かに心に誓った……必ず生きてもう一度日本を出ると。

 戻っても生きている確証はないしね。



 続く


 後書き

 自分で書いてて思うのですが、何て先が気にならない作品なんでしょう。
 四話目投稿しました。麻貴です。
 何故か自分の考えとは違う方向に話が進む。
 もう既にギャグなのか何なのか分かりません。

 目標としては十話ぐらいまで続けたいと思いますのでよろしくお願いします。
                                   麻貴でした

5: 麻貴 (2004/03/29 04:34:04)[heartandlove at topaz.ocn.ne.jp]

 賭けが始まっておよそ一ヶ月……やっと(一時的とはいえ)我が家に帰ってきました。

 今回我が家に居られる期間は一週間……少し短いけど、あの赤い悪魔の決めた事に逆らうとガンド撃たれるから何も言えません……。

 何か忘れている気がする……何だろう?忘れてはいけない何かがあった気がする……。

 う〜ん……まっ良いか!思い出せないって事は大した事じゃないんだろう。



 それから三日間は何事もなく、過ぎていった。

 バイトをして逃亡資金を稼ぎ、久々に夜に安心して眠る事が出来た。

 平和な生活ってホント嬉しいモンですね……俺のような人生を送っている人には。

 しかし日本に帰ってきて四日目に“それ”はやって来た。



「士郎ーーーーーーー!!」

 藤ねぇだった。

 あぁ、そうか。何か忘れていると思ってたのは藤ねぇの事だったのか。

 そういえばあの時何も言わずに行ったからなぁ……桜達が偽の事情を話したらしいけど 、何と話したのかは聞いてなかったなぁ。

 聞く暇もなかったのだが…………。

 ズンズンッ!と近寄ってくる。比喩ではなく、本当に音を立てて……どうやったらこんな音が?

 俺が無事に帰ってきた事に安心したのか、喜びに満ちた顔で近づいてくる。

 そして目の前に来ての第一声が―――

「お土産は?」

 ―――だった……。



 心配してくれてたんじゃなかったんかい!?

 弟分の心配より土産の有無の方が重要なのか?この虎は!?

 ……まあしかし相手は藤ねぇだ。これぐらいは予測の範囲内だ。

 だから俺は……穏やかな表情で静かに、優しく―――

「ない」

 ―――っと絶望を告げる言葉を言うのだ。



「ガーーーン!!なんで!?なんでないの!?桜ちゃん達から士郎は料理の勉強の為に世 界を回るって聞いて世界中の珍しいお土産を楽しみにしていたのに!!私は士郎をそん な薄情な子に育てた覚えはないわよ!!」

 ウガーーーッ!っと背中にデフォ虎の幻影を放ちながら吠える吼える。
 
「何と言われようがないものはない」

「うそ!ウソ!!嘘!!!ぜっっったいにウソ!本当は食べちゃったんでしょ!?私が仕 事で忙しくて来れないのをいいコトに、桜ちゃん達と四人で全部食べちゃったんでしょ う!?白状しなさい!!」

 お土産と言ったら食い物なのか?この飢えた虎は!?

「俺達が藤ねぇを放っておいて食う訳ないだろう?本当に何もない。第一、回ったと言っ てもまだアメリカとオーストラリアだけだ。今回は一時的に帰って来たんだ。あと三日 もしたらまた行くよ」

「えっ…………?」

 今までの大声が嘘の様にピタッっと止まる。

「一ヶ月も掛かって回ったのは二カ国だけ?何してたのよあんたは?ところであんた英語 まともに出来たっけ?」

 いまさらですかい……。

「少しは出来る。あとは現地で直接聞いてりゃあ日常会話ぐらいはこなせるよ。二カ国し か回ってないのは金を稼ぎながら移動しているからだ」

「切嗣さんの遺産とか、今までのアルバイトの給料とかあるんじゃないの?」

「親父の遺産は使いたくない。バイトの給料は少しは貯金してたけど、元々生活費に当て てたからそんなにない。それに藤ねぇも桜も、よく食うから一ヶ月あたりの食費が増え た」

 そう、最近俺の家のエンゲル係数は上がりっぱなしだ。

 藤ねぇは相変わらず良く食うし、桜も藤ねぇほどではないがそれでも多い。

 ライダーも何だかんだで桜と同じぐらい良く食べる。遠坂は普段は倫敦にいるので、今 は関係ない。

「うっ……それは士郎のご飯が美味し過ぎるからだよぅ」

 食費という言葉を聞いて藤ねぇは子供でも使わないような言い訳を言ってくる。

「それでも限度ってもんがあるだろ?なんで飯三杯食った後に蜜柑やらどら焼きが食える んだ!?」

「なんでって言われても……ご飯とデザートは別腹だから」

 んなわけない。俺は知っているぞ藤ねぇ……体重が増えたって騒いでいただろ。

 その点に関しては桜もそうらしいのだが、確認はしたくない。

 恐らく聞いた途端に影に呑まれるから……。



「まあいい、とにかくそういう訳で、向こうでもバイトしてそれで移動しているから一ヶ 月で二カ国しか回れなかったんだ」

「でも何で、アメリカとオーストラリアに?料理の勉強ならもっと良い国があるんじゃな いの?」

「それもそうなんだけど、アメリカに行ったのはただの気まぐれ、オーストラリアに行っ たのは成り行き上仕方なくだ」

 一応全部本当のコトなんだが……。

「ふ〜ん……で、日本に戻ってきた理由は?桜ちゃん達も一緒に付いていってたみたいだ し、旅費が尽きたとか?」

「一ヶ月も家を空けておくのは主として許せないから。桜達は俺が発ったあとに、勝手に 来ただけで一緒には行ってない」

「でもそれじゃあ何で士郎の居る場所が分かるわけ?」

「一応連絡はしていたからな。世界を回ることは桜達と相談して決めたことだけど、連れ て行くには金が無かったし」

「なるほどねぇー。でもそれだけじゃあ理由になってないわよ?家を空けておくにしても 、私もいるんだから心配することはないと思うけど?」

「藤ねぇがいるから心配なんだ。藤ねぇに家の掃除とか任せたら何を壊されるか分かった モンじゃない」

 藤ねぇに掃除をやらせると必ず物が壊れる。

 今までだって色々壊されてきた……掃除機・テレビ・襖・冷蔵庫などなど。

 とにかく藤ねぇが掃除すると、掃除する前よりも酷く汚れる。

 そんな人に留守を任せたいと思いますか?


「何よぅ……私だって掃除くらい出来るモン」

 過去の惨劇を覚えてないのか?このタイガーは!?

「とにかくだ、あと三日ほどでもう一度行ってくる。それまではバイトをして、金を稼ぐ だけだ」

「お土産よろしくねー」

「まだ行かんわ!」

 虎の相手はバイトより遥かに疲れます。



 それから三日後―――

「それじゃあ一足先に行く」

 ふたたび逃走の準備を整え、桜達に別れを告げる。

「先輩、今度は手加減しませんよ」

「士郎、覚悟しておいて下さいね」

 最高の笑顔で恐ろしいコトを言ってくれますね。

「士郎、時計塔から連絡があったわ。あと二ヶ月ほどで最低限の修理が終わるみたい」

「じゃあこの賭けもあと二ヶ月で終了ってわけか……」

「ええ、そうね。だからなるべく早く捕まりなさいよ」

 笑顔の中にバーサーカーも裸足で逃げ出すような殺気を感じるんですが……。

「冗談。捕まるわけにはいかない。こっちも全力で迎え撃つからな」

 あぁそんな怖い顔で睨まないで下さい。

 ただの虚勢ですよ。言ってみただけですよ。

「良い度胸じゃないの……見つけても声を掛けないでガンドを撃ってあげるわ」

「私も影を使って締め上げます」

「私はこっそり正面にいって魔眼を……」

 だからぁ、ただの虚勢ですってば!そんな命に関わるようなことはしないで下さい。

「それは勘弁。じゃ、なるべく時間を掛けて追ってきてくれよ」

 一刻も早く逃げ出さなければ!皆の表情が怖いし。


 さあ、どこの国にしよう……料理の勉強もしないといけないしなぁ。

 ああ、今日も空は綺麗だなぁ



 続く


 後書き

 ギャグなんて書けねぇよ!っと開き直りました。
 五話目投稿しました。麻貴です。
 ネタが尽きました……。
 あとは思いつくままに書いていきます。

 どうか最後までお付き合い下さい。
                     麻貴でした

6: 麻貴 (2004/03/31 04:32:51)[heartandlove at topaz.ocn.ne.jp]

今度の国は中国です。

 何故に中国なのか?その疑問にお答えします。

 逃亡&中華料理の勉強のためです。

 衛宮家の主夫として、出来ない料理があってはならんのですよ。

 ―――いや違いますよ?遠坂の作った中華料理の味に嫉妬して、ライバル心を燃やしたとかそんなのではないですよ?本当に。

 それは置いといて、中国にやって来ました。

 えっ?言葉は話せるのかって?HAHAHAHAHAHA!そんなもの気合で何とかなりますよ(※なりません)

 ―――……ごめんなさい。嘘吐きました。本当は日本語を話せる人がいたので、その人に教えてもらいます。

 しかも都合よく料理店の店主だとか。

 何か語尾に『アル』とかつける怪しい感じに人ですがいい人です。

 その人に中華料理を教えてと言ったら快く承諾してくれました。

 そして、今その人の店の前にいます。
 
 看板に店名が書いていました。


 ―――黄州宴斎館
          岱山―――


 こうしゅうえんさいかんたいざん?あれー?デジャヴーだ。何か前にも同じ名前を見た気がするー。

 そういえば店主もどこかで見た気がする……思い出せない……。

 まあいいか、料理が習えて更に給料もくれるって言ってるんだから断る理由もないしねー。

 というわけで、衛宮士郎は中華の勉強をします。願わくばこのまま桜達が追って来ませんように……。


 

 

 中国に来て一週間が経ちました。

 桜達もまだ来てないみたいです。料理の方は結構上達しました。

 この店の味付けは少々独特なものらしいのですが、俺が習ったのはごく普通の味付けのものです。

 だってあんなに赤いモノは食い物に思えません。

 その味付けの所為で、この店に来る客は少ないです。

 ますますデジャヴーを感じます。

「店員さん、麻婆豆腐を三つくれ」

 おぉっ!?数あるメニューの中でもっとも敬遠されているマーボーを三つも頼むとは……正気か?

 しかしこれは客商売、そんな事は顔に出してはいけません。だから精一杯の愛想笑いで応えなければいけない。

「はい、分かりました―――えぇぇぇぇぇ!?」

 予想外の人物に遭遇しましたよぉ!?

「何だ?何をそんなに驚いている?さっさとマーボーを持って来い衛宮士郎」
 
 そりゃぁ驚きもするわい!何でお前がここに!?

「ウルサイアルよシロウくん―――あれ?言峰さんお久しぶりアルね」

「うむ。野暮用があったのでな、ついでに寄ってみた。店主マーボー三つ」

「アイヨー!任せるアルー!シロウくん、さっさとテーブル片付けてネェー」

 知り合いなのか?この二人……とりあえずもうすぐ昼休みだ、その時に問いただすとしよう。



「で?何で生きている?そして何で中国にいる?」

 一応聞いておくのが俺の義務だろう……何せこいつの殺したのは他でもない俺だし。

 俺が真剣に問いているのにこいつは―――

「いひへいふほはひょっほひはう」

 マーボーを口一杯に詰め込んで答えてきやがる……もう一度殺してやろうか。

「言っている事が分からん。飲み込んでから話せ」

「モグモグ……ゴクッ!――ふう……失礼した。では改めて話そう」

 真っ直ぐに俺を見据え、真面目な表情になる。なるのは良いが、レンゲはおけ!そして口についた豆腐も取れ!

「さて、お前は何故私が生きていると聞いてきたが、それは間違いだ。私は既に死んでいる」

「それはおかしい。お前は確かにここにいる。死んでいるならそれをどう説明するんだ?」

「慌てるな。これには少々深い訳があってな、話すと長くなる。もう一杯マーボーを食べてから話すとしよう」

 いかん、落ち着け俺!こんな奴に固有結界なんぞ使ったらどうやって桜達から逃げるんだ?

 一杯、たった一杯じゃあないか……。(既に十杯以上食ってるけど)

 それにこいつは客だ!客が大量に注文してくれるのは喜ばしいことじゃあないか!

 そうだ、ここは耐えるんだ衛宮士郎――!

「分かった。待っててやるからさっさと食え」

「話が分かるな。では遠慮なく」

「…………」

「…………」

「食うか?」

「食うかっ!」




「ふう―――待たせたな。では話すとしよう――何故私がここにいるのかを」

「下らない理由だったらマーボーの料金倍払ってもらうぞ」



「あの時、私が衛宮士郎――お前に敗れた時だ」

 聞いてねぇし……。

「詳しい話は省くが、私は世界と契約した。私の望みを叶える代わりにその死後を守護者としての役目を負った」

「その役目ってのはなんだ?」

「世界が危機に瀕した時それを食い止める為に守護者が呼ばれる。それが役目だ」

「ちょっと待て、それじゃあお前がここにいるのは世界が危機に瀕している?」

「いや、私がここにいるのは別の理由だ。それは私が契約時に叶えた望みだ」

「何を望んだ?他人の不幸を楽しむ人格破綻者のお前が――」

「その点はお前も同じだろう?衛宮士郎よ。お前も正常な人格とは思えんな」

「黙れっ!良いから答えろ!?何を望み、守護者になったんだ!?」

「マーボーだ」

「ハァ?」

「好きな時にマーボーが食えるというのを条件に契約した。だから今はマーボーを食えるだけ食う」

 阿呆か……このマーボー中毒者が!――っていつの間にかまたマーボーを食ってる!?

 

「もう一杯くれ」

「アイヨー、待っててアルねぇー」

 あぁ……店長もノリノリだ……。


 ここにいたら頭がどうにかなりそうだ……まだ桜達にみつかってはいないが、もう他の国へ行こう。

「店長、俺もうやめます。今までありがとうございました」

「アレッ?もう日本に帰るアルか?」

「いえ、他の国へ勉強に行きます」

「そうアルかー……寂しくなるけど仕方ないアルね。はい、これは給料よ。頑張ってくれたからちょっと多めに上げるアル」

「ありがとうございます。ではお元気で」

「また会えたら良いアルねー」

 良い人だったな店長さん……ただ一つ言峰と知り合いでなければもっと良かっただろう。


「むっ?何処へ行く、衛宮士郎」

 頬を膨らませてまで口に入れてやがる……おーまえはハムスターか!?

「今桜達とある賭けをしているんだ。中国に来たのだって桜達から逃げてるからだ。もうそろそろ見つかりそうだから他の国へ行く」

「そうか、縁があればまた会うだろう。さらだば、衛宮士郎」

「こっちは願い下げだ。じゃあな、エセマーボー神父・言峰綺礼」

 岱山を出て、空港に向かう。

 さてどこに行こうかな……。




 その一時間後、岱山を訪れた遠坂達が言峰に遭遇し、店は半壊したらしい。

 


 続く



 後書き

 設定の違いなどはお許し下さい
 六話目投稿しました。
 せっかく世界を回るならば中国でマーボーネタをって事で書きました。
 ギャグムズイです。シリアスなら楽に書けるのですが……。 
 
 では、また
                             麻貴でした

7: 麻貴 (2004/04/01 02:47:49)[heartandlove at topaz.ocn.ne.jp]

私、衛宮士郎の今回の国は――――――日本です。

 ふざけてませんよ?賭けのフィールドが地球上全てなんですから日本でも問題はありません。

 それに今まで世界を飛び回って来たのですから遠坂達もまさか日本に居ると思わないでしょう。

 名付けて、『灯台下暗し作戦』です!

 ……そこのモニターの前の人!「そのまんまやん」なんて突っ込みをしないで下さい!

 俺にネーミングセンスなんてあるわけない!これでも徹夜で考えたんだぞ!?

 おかげで三十分くらいしか寝てないんだぞ!?つらいぞ〜。


 

 それは置いといて、今俺は我が家の門の前に立ち尽くしています。

 理由は我が家に何か違和感を感じるからです。

 見た目には何も変わっていませんが、何と言うか雰囲気が変です。

 魔術の類ではないのですが、入りづらいです……。



 しかし、いつまでも外に居る訳には行きませんので、突入してみたいと思います。

 門を開けて、玄関に向かいます。

 ここまでは変化はありません。

 玄関を開けて、中に入ります。



 ―――そこで士郎特派員が見たものは―――!?



 周り一面が虎縞模様になった元我が家の壁や床でした。

 はっきり言って悪趣味です。見ていて気持ち悪いくらいに虎縞模様があふれています。

 虎縞だけならまだ良いのですが(良くねぇよ)所々リアル虎やデフォ虎もありました。

 犯人は分かりきっています。その人物は今も衛宮邸内にいるのも気配で分かっています。

 そいつは今、居間にいる(駄洒落にあらず)


「藤ねぇ!」

「な〜にぃ?」

 呑気にテレビ見ながら煎餅食べてますよ……このばか虎。

「な〜にぃ……―――じゃねぇ!なんで俺の家がこんなコトになっているのかきっちり説明してもらおうか!?」

 俺が真剣に怒っているのに……この虎と来たらまだ煎餅食ってやがる。

「なんでって、士郎達がいないならこの家は私の物。だから私好みに改装したのよぅ」

 えっへん――っと無い胸を張って自慢げに語るな!

「藤ねぇ……悪趣味だこれは……どこに向いても虎、トラ、寅!気持ち悪いわ!」

「なによぅ、これでも抑えた方なんだからね。本当は外も虎縞にしようとしたんだよ〜?」

 神様……もし存在するならこのバカな姉貴分を世から抹消して下さい。


「で、どうして士郎はここに?もう一回外国に料理の勉強に行ったんじゃあないの?」

 あからさまに話題を逸らしにきたな……。

 さて、どう言い訳しようか……はっきり言って何も言い訳を考えていませんでした。

「別にどこにいようが俺の勝手だろ?それにここは俺の家だ。帰ってきて何が悪い?そして今すぐこのふざけた模様を消せ!」

「いやっ!どうせ士郎はまたすぐどっかに行くんだから、士郎がちゃんと勉強を終えて帰ってくるまでこのままにしとくんだから!」

 う〜ん……目に涙を浮かべながら言われたら、何も反論出来ない……。


 ―――んっ?藤ねぇの後ろの壁……端の方がめくれてる?

「藤ねぇ、その壁のめくれてるのは何だ?」

 藤ねぇが驚いたように壁を見て、必死に笑みを作りながら―――

「ナンデモナイノ。キニシナイデ」

 棒読み&声が裏返ってる……怪しい、調べてみるか。

「ちょっとどいてくれ藤ねぇ」

「ダメッ!どかない!」

 明らかに何かを隠してる……。

「何でダメなんだ?ただ見るだけなんだから良いじゃないか」

「ダメったらダメ!それ以上近づいたら士郎の事嫌いになるわよ」

 そんな事出来ないくせに……しょうがない、あの手を使うか。

「あっ!?あんな所に大量のタイヤキが!」

「えっ!?どこっどこっ!?」

 隙あり!今だ!

「どこにあるのよぅ士郎――ってああ!?」

「ふっふっふ……こんな手に引っ掛かるとは、藤ねぇもまだまだ甘いな」

 情けない気持ちで一杯だけどな。頼むからいい年してこんな手に引っ掛からないでくれ。


 さて、これは何だ?良く見るとめくれた部分から元の壁が見える。

「……なぁ、藤ねぇ……もしかしてこの虎模様は……」

 めくれた先をつまみ、一気に剥がす。

 藤ねぇが何か言っているが気にしない。

 案の定、壁が見えた。ただ上から貼ってあっただけとは……。

「って言う事はこれ全部?」

 言いながらどんどん剥がしていく。

 ちらっと藤ねぇの方を見るとプルプルと震えていた。

 気にせずどんどん剥がす。半分も終わった頃、背後に異様な気を感じ振り向くと―――

「それ以上剥がすなーーーーー!!」

 ガオォ――――――!と虎の幻影と共に吼えた。

「それ以上剥がすとたとえ士郎でもゆるさないわよぅーーー!」

 吼える吠える。

「五月蝿いなぁ……こんなに虎模様に囲まれていたら本当に虎になるぞ。虎に」

「虎ってよぶなぁーーーーーー!」

「呼んでねぇよ!」



 シャキーーーーン!

 いきなり藤ねぇの手に真剣が!?何で!?

「これは妖刀・虎丸よ。士郎覚悟しなさい」

「いやっ!?ていうかちょっと待て!?何でいきなり真剣が出てくるんだ!?」


“説明しよう”

 誰だ!?こいつ!?

“藤ねぇこと藤村大河の怒りが頂点に達した時、妖刀・虎丸はたとえ火の中水の中、あらゆる時空を飛び越えて0.005秒で藤ねぇの元 

 に届くのだ。これを抜けば大変な事が起きる!それが妖刀・虎丸である。ちなみに自分はこの説明だけをする為に出された虎次郎(こじ

 ろう)だ、よろしくな”

 あ、よろしく。

“うむ、じゃ頑張れよエミヤシロウ。こうなった藤ねぇは中々止まらんぞ。では健闘を祈る”

 何だったんだ……今の?


「士郎〜……覚悟しなさいよ〜」 
 
 はっ!?呆けている場合ではない!逃げなくては!

「逃がさないわよ〜!」

 ちょっ!?ちょっと待って!?当たってる!先の部分が背中に刺さってる!

「藤ねぇ!やめてくれ!俺を殺す気かぁ!?」

「違うよ〜。ちょ〜っとお仕置きするだけ」

 そんな殺人鬼のような目で言っても説得力ないですよ〜。



 ううっ……俺はここで死ぬのか?こんな下らない事で死ぬのか?

 スッパーンッ!


 ん?いい音が響いたぞ……あれ?藤ねぇが後頭部にたんこぶ作って倒れてる。その後ろでハリセンを持ったライダーがいる。

「お怪我はありませんか?士郎」

「ライダー……サンキュ、おかげで助かったよ」

「いえ私はマスターの命に従っただけです」

 ん……ライダーがここに居るってことはもしかして……。

「無事だった?士郎」

「先輩、大丈夫でした?」

 ええ、怪我はないし、無事だったし、大丈夫でしたよ。

 でも、もうすぐで多分俺は死にます……。


 続く

 後書き

 話数稼ぎです。
 七話目投稿しました。
 もうどうにでもなれって感じです。

 では、また
                麻貴でした

8: 麻貴 (2004/04/01 15:55:34)[heartandlove at topaz.ocn.ne.jp]

 う〜……桜と遠坂とライダーの三人相手なんて久しぶりだなぁ……。

 これで二回目だったか……考えてみれば少ないなぁ……。

 でも俺だってただでは死なんぞ!死ぬ前に精一杯の抵抗をしてやる……出来ればな。

「遠坂、死ぬ前に聞かせてくれ……どうして俺の場所が分かったんだ?使い魔で見つけたのか?」

「違うわ。簡単に言えば、この家の結界を張りなおしただけ」

「張りなおした?」

「ええ、そうよ。この家に元々張られてた結界をベースにして、上から新たな結界の上塗りみたいな感じでね。だから前の結界の効力と更 にもう一つの効力を付けたの」

「そのもう一つの効力ってのは?」

「士郎が結界内に侵入した場合、ある特定の人物にその事を伝える。特定の人物は私と桜ね。だから分かったのよ」

 もう何でもありだな……しかも俺限定なんて……。

「それにしても早くないか?俺がこの家に入ったのって一時間ぐらい前だぞ?日本に残ってたのか?」

「中国に行ってたわよ。あんたと入れ違いになったみたいだけど……それからさっきまでホテルで使い魔飛ばしてたわよ」

 そうか……もしあの時まだ残ってたら遭遇してたんだな……何という幸運。

「それで、どうやってここまで?」

「ライダーの天馬に乗ってよ。あれなら飛行機に乗るよりずっと早いし、なによりお金が掛からないわ」

 なるほど……確かにライダーの天馬ならあっという間だろうな。桜の魔力量なら消えるも心配ないし。



「ところで衛宮君、私も聞きたいコトがあるんだけど良いかしら?」

 断ったらガンドを撃つんでしょう?遠坂様……。

 あなたが私を苗字で呼ぶ時はろくな事が起こりません。

 今でも天使のような笑顔に悪魔がちらついてるじゃあありませんか……。

「何でしょう?私めに答えられるコトでしたらなんなりと」

「中国のあんたが働いていた店に言峰がいたんだけど……何であいつが生きているの?あいつ大聖杯の前で死んだはずでしょ?」

 ああ、その事か……良かったぁ簡単な事で。

「あいつは死んだよ。あいつは死ぬ間際に守護者となる契約をして自分の望みを叶えるために現れたんだ。遠坂は何も聞いてないのか?」

「聞いてない。顔見た瞬間にぶっ飛ばしたし……」

 パワフルですね、遠坂様……。

「あの時の姉さん凄かったですねー、店が半壊してましたから」

「あれならバーサーカーにも遅れはとらないと思います」

 一体何をしたんですか?遠坂様……。


「で、もう一つあいつは望みを叶えるために現れたって言ったけど、その望みって何?」

 来ましたよぉ!最も答えたくない質問が!

 正直に答えないと俺が殺られるし……でも答えても何されるかわかったもんじゃないし……。

 どうする?どうする!?衛宮士郎、一か八か正直に話すか?それとも嘘でごまかしきるか……。

「衛宮君?質問に答えてね。あいつは何を望んだの?」

 正直に話すしかないようです。嘘を言ったら地獄以上のものをこの悪魔に見せられます。

「好きな時にマーボーを食えるコト、だそうだ」

「ハァ!?」

 遠坂様、その『ふざけた事言ってんじゃないわよ』みたいな表情で指を刺さないで下さい。

 少し魔力をこめるだけで最高級の威力のガンドがきそうで怖いです。


 それから約二時間かけて納得してもらいました。

 途中に何度もガンドが飛んできたんですが、それは根性で回避!――……さっきから頭痛がしますが気のせいでしょう。

「それじゃ、始めましょうか」

 遠坂様……その切り替えの早さはさすがです。

「始めるって何を?」

「決まってるじゃない。絶好の獲物をハンターが見過ごすと思う?」

 あぁ、そういう事ですか……つまり今から私を狩るってことなんですね?

 逃げましょう。闘って勝てる訳もないですし……。



 ダッ!っと玄関に向けて全力ダッシュ!

 でもライダーに邪魔される。

「逃がしませんよ先輩」

 あうぅ……桜の顔がとても邪悪に見える……悪魔二人め降臨っ!――って感じですよ。

 前にライダー、後ろに遠坂と桜……これって絶体絶命の危機ってやつですかぁ?

「覚悟しなさい」

「痛くしませんから大人しく下さい」

「士郎、抵抗は無駄ですよ」

 じりじりと包囲網を狭めてくる……怖いというより恐ろしいです。

 どうしよう……何か投影するか。でも何を投影しよう……。


「そのままジッとしてなさいよ士郎」

「すぐに捕まえます」

「たとえ抵抗しても無駄ですけどね」

 さらに縮まる包囲の網……とりあえず頭に浮かんだものを投影だ!

「―――投影・開『うがぁぁぁーーーーーー!!』

「「「何っ!?」」」

 あっ……藤ねぇが叫んでる。あれは相当怒ってるな、その証拠に目は右手には妖刀・虎丸と左手には――もう一本真剣が……。

「二刀流!?」

 あれはナンデスカ!?教えて、虎次郎(こじろう)!

“説明しよう”

 あっ来た。

“あれは魔剣・虎斬り。藤ねぇの怒りが臨界点を突破した時、4.35光年の彼方から時 空やら何やら色々越えて0.001秒で藤ねぇの元 に空間両断跳躍を果たすのである!抜けば多分死人が出る、それが魔剣・虎斬りである”

 なんか物騒ですね?虎次郎。

“ああなったらもう止まらんぞ。気を付けることだエミヤシロウ。ではまたな”

 出来ればもう会わないコトを願います。


「うがぁぁぁーーーーー!」

 二本の真剣を振り回しながらこっちに向かってくる。

「ちょっ!?藤村先生落ち着いて下さい!」

「きゃあ!……藤村先生、お家が壊れますからやめて下さい!」

「そんな危ないものを振り回さないで下さい、タイガー」

 ライダー!?今その禁句を言ったら…―――

「タイガーって呼ぶなぁーーー!」

 ああ……ますます怒り狂って暴れています。

「ライダー……あとで躾ね。桜、藤村先生を止めるわよ」

「はい!姉さん。ライダーはそこを動かないで、間違っても逃げようとは思わないように」

 姉妹揃ってあの暴走虎に向かっていく。

 勇気あるなぁ……まああの二人なら今の藤ねぇでも大丈夫だろう。

 ライダー……目に涙浮かべて、隅っこで震えてるのは何故だ?そんなに躾ってのは怖いものなのか?


 う〜む……凄い。暴走虎が怯んでる。

 やはり虎とはいえ、あの二人はきつかったか……。

 おお!?何かもうすぐ終わるっぽいぞ!

 藤ねぇが明らかに弱ってる。

 でも、藤ねぇの暴走が止まったら今度は俺を捕まえにくるんだよなぁ。

 今の逃げた方が良くないか?しかし次会った時に何をされるか分からない……。

 闘って勝てる可能性もないし……どうしよう。


 …………よしっ逃げよう!

 残っていたら死ぬのは確定だし、次に見付かるまでに何か対策を立てておこう。

 そうと決まったら即玄関へ。幸いライダーは隅で震えているし、二人もまだ藤ねぇの相手してるから逃げれる。

 出来るだけ速く、しかし気付かれないように……。

「サクラ、リンっ!士郎が逃げます!」

「先輩(士郎)!?」

 見付かった……でももう玄関の外だ!

 これなら足を強化して何とか―――

「士郎、私に速さで勝てると思ってるのですか?」

 ――なりませんよね。


 庭に行って、ライダーを撒こうとするが、やはり無理だった。

 さすが今回のサーヴァント中最速なだけあるなぁ。

 って感心してる場合じゃない!どうやって切り抜けよう……もうフィギュア投影してもダメだろうし。

「いつまで走っているのですか士郎?そろそろ捕まえに行きますよ」

 う〜ん……投影以外でなにか方法……そうだ!

「ライダー!土蔵に昔藤ねぇが持ってきた仮面ライダーのビデオがいくつかある!」

 ヒュンッ!

 はやっ!?今まですぐ横を走っていたのにもう土蔵の中に!?

 しかしこれで逃げれる。多分ライダーの躾はさらにグレードアップするだろうけど許せ、ライダー……。


「士郎待ちなさーい!!」

「先輩待ってください!」

 後ろで二人が藤ねぇの相手をしながら叫んでいるが、待てと言われて待つ人はいない。

 藤ねぇ、ライダー……成仏してくれよ。

 
 さあて、さっさと他の国へ行くか。



 続く

9: 麻貴 (2004/04/02 15:03:03)[heartandlove at topaz.ocn.ne.jp]

 もういい加減世界を回るのがいやになって来ました。今回の国はイタリアです。

 理由ですか?何となくです!

 イタッ!イタッ!石を投げないで下さい!いやっイタイです本当に。

 スミマセン!ゴメンナサイ!ちゃんと理由言いますんでやめて下さい……。

 理由はイタリアと聞くと自分はピザやスパゲティなどの食べ物がイメージとして出てくるからです。



 え?それがどうしたって?



 ……それだけですよ?

 イタイ!イタイッ!本当です!ふざけてません!やめて下さい!毬栗投げないで!刺さって死にます!




 え〜読者との触れ合いはここまでにしておきます。だって話が進みませんから。

 イタリアに来ても目的も無いので毎日色々なところを観光してます。

 たまに美味しい物があったらそれについてのレシピも教えてもらっています。

 料理の勉強という一つの目的はちゃんと果たしていますよ。

 お金ですか?稼ぎました、日本で。バイト先の店主・ネコさんに料理の勉強の為に世界を回るって言ったら、『応援するよエミやん』っ

 て言ってちょっと多めに給料をくれました。



 ちなみに前回の日本の騒動から既に一ヶ月経っています。

 この間に桜達の襲撃は一度もありません。

 藤ねぇとの戦いの疲れを癒しているのか、壊れた家の修復をしているのか、ライダーの躾をしているのか……。

 そういえばライダーの躾ってなにをするんでしょうね?

 桜が本気になったらライダーも抵抗できないみたいだし……まさか二人でライダーにあんな事やこんな事を?……ハァハァ。


 ―――はっ!?いかんいかん。俺には桜という恋人がいるではないか!

 でもライダーも美人だし、それに遠坂も………。

 ―――ってまたかっ!これは考えたら駄目だ!煩悩退散、喝!


 しかし一ヶ月も同じ国に居るのって、飽きますね。

 他の国へ行けよ!って思うんですけど金はあまり使いたくない……。

 金が余ったらそれがそのまま家の食費に回せるので。

 もしかしてこんな事を考えて移動しないから毎回毎回危ない目に遭うんじゃないか?

 いや、こうでもしなければ俺はそれこそ骨身削って働かないといけなくなる。

 これ以上この身体を酷使するのはいやだ!

 そうだ!これは自分の身を守る為にあえて、危ない目に遭っているのだ!

 だから少しくらい苦労を我慢すれば、あとの俺の負担は減る!――この賭け事態が既に少しの苦労で済まないけど……。


 考えてたら疲れてきた……気晴らしに公園でも行くかぁ。

 あれ?人がいない?昼飯時も過ぎてるのに……それに微量ながら魔力を感じる……まさか!?

「先輩久しぶりです」

 やっぱり……何て都合良く襲いにくるんでしょうねこの方達は……。

「今度は随分と時間掛かったなぁ桜。一体何してたんだ?」

「えっとですね、ライダーにあんな事やこんな事を」

 そっそれは!?さっきの妄想の!?マジですか!?

「嘘です」

 嘘かい!!?

 期待して損しましたよ!ええ確かに遠坂ならいざ知らず、桜がそんな事はしないと思いますけどね。

「でもそれに近い事はしましたよ」

 近い事ってナンデスカ!?それに近いことって一体なんディスカ!?もう俺の脳内はパンクしそうです!!

「嘘です」

 オイッ!!!いい加減にしないとさすがの俺も怒りますよ?桜さん!

 とりあえず平常心平常心。冷静に冷静に。

「本当は?」

「壊れたお家の修理と藤村先生の看病です。私も姉さんもちょっとやり過ぎてしまいました」

「具体的には?」

「え〜と……全治二ヶ月の大怪我を……それ以上はちょっと言えません」

 全治二ヶ月の大怪我以上の事があるんですかぁ!?桜さん!?

 一体何をしたんだこの悪魔達は?丈夫がとりえの藤ねぇに全治二ヶ月&それ以上の何かを負わしたその方法は何だ!?

 しかし今はそんな事を詮索している余裕はない。何故ならさっきから姿の見えない奴らがいるからだ。



「桜。遠坂とライダーは何処だ?桜一人ってことはないよな?」

「姉さんですか?それなら先輩の後ろに」

「なにぃ!?」

 咄嗟に横に飛ぶ。その瞬間―――

 ドンッ!×5

 俺のいた場所を五発のガンドが通っていった……弾の位置的に頭だなあれは。怖ぁ〜……。

「ライダーなら上に――」

 今度は後ろへ……。

 ザクッ!

 間一髪避けた。元いた場所には、鎖のついた短剣を握り締めたライダーが降って来た。完全に殺す気ですね、この方達……。

「桜、何で教えたの?」

 おお、怖い怖い。物凄い形相で睨んでますよぉ。

「だって、あの距離で避けるなんて思いませんでしたから。それに簡単に捕まっても面白くないじゃないですか?」

 桜様……何だかんだであなたも楽しんでいますね?だって表情がとても生き生きとしていますものね。

「そうだけど……あんまり無駄な時間は掛けたくないの。どうせ捕まえるならさっさと捕まえた方が士郎の生存率も高まるわ」

 この賭け自体が既に時間の無駄かと思いますよ遠坂様……。

 それに生存率って何ですか?今の状況で少し高まっても変わりないと思うのですが……。



 前のオーストラリアの時のように二人で喧嘩してくれないかなぁ……そうなったら猛ダッシュで逃げれるのですが……。

「リン、サクラ、そろそろやめないとまた士郎が逃げますよ」

 ちっ……ライダーめ、余計な事を。

「姉さん、まずは先輩を捕まえてどっちが先輩を物にするかを決めましょう」

 桜様、既に私めはあなたのモノですよ?何故に決める必要があるのですか?

 それはつまり遠坂の策略に上手く嵌っている証なのでしょうね。

 今更ながら正義の味方より桜の味方を選んだ事に多少の後悔を感じました。

 桜はもっと賢い子だって信じてたのに……。

「ええそうね。私もあなたが悔しがる顔を早くみたいわ」

 遠坂様、あなたの中では既に私は捕まって桜に勝っているのですね?

 でもそうはいきませんよお三方、自分もこの一ヶ月なにもしないでぶらぶらとしてた訳ではありませんので。



 ――――………………やばい!!考えた作戦を忘れてしまった!

 何だったかなぁ……本当に思い出せない。もう年ですなぁ、はっはっはっはっはっ……はぁ。

「それじゃあ」

「いきますよ先輩」

「お覚悟を」

 とりあえず応戦しないと……干将・莫耶を投影して最低限の身は守ろう。

「あら?逃げないの士郎?」

「逃げてもライダーに追いつかれるからな。もう仮面ライダーグッズで誤魔化せそうにないし」

 あっライダーがちょっと物欲しそうな顔した。

 でも桜に睨まれて元の表情に戻った。

 躾の効果か?

「いい度胸ね。ホントは死ぬ一歩前までと思ってたけど、四分の三ぐらいで許してあげるわ」

 どの基準で四分の三なんですか?遠坂様。

 喜んでいいのかどうか分かりませぬ。



「ライダー、士郎の足止め頼むわよ」

「了解しました。リン」

 思った通りです。ライダーを仕向けてあれこれやってる間に何か強力な魔術でも使うつもりですね。

 でも俺だってずっと鍛錬してきたんですよ。

 勝てないにしても接近戦主体ではないライダーの攻撃ぐらいは受け流して、それなりのことは出来るようになりました(多分)

 早速一撃を放ってきました。せっかちですねぇ。

 受け流して、捌いて、峰打ちをします。

 ライダーが少し苦しそうです。

 結構やるでしょう?

「ライダー!後ろにに飛んで!」

 むっ!?遠坂の手に両手合わせて六個の宝石が……そんなに使って大丈夫なのか?

「代金は衛宮士郎でツケといた」

 えぇーーーーー!!!酷い……たださえ金が足りないのにさらにあんな物まで……。

「……いくらだ」

「忘れた。でも0は8個以上あったわよ。帰ったら請求書を見て確かめて」

 終わった……俺の人生は終わった……。

「済んだコトにいつまでも落ち込んでいても仕方ないわよ」

「お前が勝手にやったんだろうがっ!―――ってやばっ!」

 宝石から魔弾が放たれる。

 その数、五十を優に超える。

「―――騎英の(ベルレ)

 その後ろでライダーが宝具発動してる―!?

           ―――手綱!(フォーン)」


「―――投影・開始」

 これを防げるのはあれしかない!

「熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)」

 間一髪間に合ったけど……さすがにこれはきついです。

「隙だらけですよ?先輩」

 黒化した桜が俺の背後に!?

 影の触手が俺に向かって来てる。

 このクラゲめ!


 片手はふさがってるし、どうしよう……成功するか分からないけど、あれを投影してみるかぁ。(この間0.05秒)

「―――投影・開始」

 魔術回路が悲鳴を上げる。

 だがそんなのに構ってる場合はない!

 目の前に迫る影の触手の前にもう片方の手をかざして“それ”の真名を口にする。

「邪悪を払う戦神の盾(イージスの盾)」


「なっ!?」

「えっ!?」

「あっ!?」

 三人がそれぞれ驚きの声を上げる。

 ライダーは少し怒りが篭った表情をしている。

 まあそれも仕方のない事なんだけど……。

 この盾の伝説は知っている。

 しかし桜の影の攻撃を防ぐにはこれしか思い浮かばなかった。

 許せライダー……。


 三人の攻撃が止んだ。

 今だ!

「―――投影・開始」

 三人が次の攻撃をする前にここから逃げなくては。



 バーサーカーの斧剣を投影する。

 攻撃の為ではない。俺はありったけの力でそれを地面に振り下ろす。

 大地が振動する。叩いた場所の土が四方八方に飛びちる。

「うわっ!?」

「きゃあ!?」

「くっ!?」

 三人が怯む。

 チャンス!

「―――投影・開始」

 本日四度目の投影……正直辛いけど生き延びるにはこれしかない。

 投影するのはバイクだ!

 出来るのか?と思うけどやるしか逃げる道はない。

 免許?HAHAHAHAHAHAそんなもの必要ないですよ(必要です)

 
 何とか成功した。

 我ながら奇跡としか言いようがない。

 俺の投影も捨てたもんじゃないなぁ。

 っとこんな事考えてる場合じゃない。

 見れば態勢を整えてるみたいだ。

 早く逃げよう。


「それじゃあ逃げる」

「待ちなさい士郎!そんなの卑怯よ!」

「何とでも言ってくれ!生きるにはこれしかない」

「先輩!次に会ったらもう手加減してあげませんから」

「それは勘弁してくれ、桜」

「士郎……賭けとは関係なしにあなたを殴ります」

「ライダー、本気で怖いから睨まないで下さい」

「あなたが悪いのです」

「あれは仕方なかったんだよ。って言っても無駄か……と言う訳で全力で逃げます。また会う日までさようなら〜」



 遠坂の罵倒、桜の怒声、ライダーの睨み、その他色々な障害を回避して逃げる。

 魔力量がやばい気もするけど、多分大丈夫だろう。

 時間切れまであと約20日ほど……どこか身を隠すのに最適な国はないかなぁ〜。

 あっ……やばい……バイクにヒビが……やはり慣れない物は投影するもんじゃないな。

 早く空港に行こう。





 続く



 後書き

 ご都合主義万歳!
 九話目投稿です。
 自分でも何書いてるのか分かりません。
 電波です。
 予定ではあと一話なんですがオチが決まりません。
 何とか終わるように努力します

 では、また

10: 麻貴 (2004/04/05 03:18:57)[heartandlove at topaz.ocn.ne.jp]

 もうすぐでこの賭けが終わります。恐らく最後になるであろう国はイギリスです。

 イギリスと言えばセイバーの故郷!(だったはず)

 少しの間だったとはいえ一緒に戦った少女……アンリ・マユに侵され、俺が殺した相棒……。

 助けたかった……でも出来なかった……俺が桜の味方をすると決めた時からもう既に未来は決まっていた。

 せめて彼女の故郷を知りたいと思った。この時代とセイバーの時代は違うけど、それでも知りたいと思った。

 そして分かった事―――それは……この国の料理は“雑”だってコトだ。

 うん、これならセイバーが俺の料理を幸せそうに食ってたのも頷ける。

 詳しいコトは言わないけど、酷かった……。



 賭け終了(予定)まで約十日をきりました。

 今はとある屋敷でバイトをやっています。

 賭けが終わる(予定)ので今後の食費稼ぎです。

 最初は喫茶店で働いていたのですが、あるお客様が『私の屋敷で働く気はありません?』って言いました。

 一度断ったのですが、その後言われた給料の額で一瞬で気が変わりました。……だって今の五倍って言われたら……ねぇ?

 遠坂の所為で余計な借金まで背負わされたこの身としては大変魅力的ですよ。

 
 と言う訳で、俺は屋敷の持ち主ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトさんに雇われた。

 初めのうちは掃除とか紅茶を淹れたりするだけだったが、ルヴィア嬢が和食に興味があったらしく俺に作れと言ってきた。

 とりあえず簡単なモノを作って出したら、それが気に入ったらしく俺に料理長になれと言ってきた。

 いきなり料理長ですよ?給料もさらに倍だとか……世の働いている皆さんが聞いたらたこ殴りにされそうです。

 実質その時に料理長を務めてた人に思いっきり殺意の篭った目で見られました。

 でもルヴィア嬢が怖いのか、何も言ってこなかったんですけね。ごめんなさい元・料理長さん。


 
 今日も元気に働いてます。

 しかしこの屋敷にはルヴィア嬢しかいないので料理長といっても飯時以外は普通の執事とやる事は変わりません。

 そんな訳で屋敷内の掃除をしていると、ルヴィア嬢からお客が三人来たので紅茶を出してくれと言われました。

 早速四人分の紅茶を淹れて部屋に向かいます。

 コンコンッ、とドアをノックして中に入ると―――

 分かりますね?そう二人から三人なった悪魔が居ました。

 ちなみに三人目はライダーのコトです。

 だって俺が部屋に入ってからずっとこちらを睨んでいるんで……下手したら魔眼を発動されかねない程の殺気が漂っています。

 前回のイタリアの時のセリフが脳に浮かびます。

『士郎……賭けとは関係なしにあなたを殴ります』

 今は殴るだけでは絶対に済まされません……。

 そんなにイージスの盾を投影したのが頭にきましたか?でもあの場ではそうするしかなかったんです。

 しかしそんな言い訳が通用するほど今のライダーは優しくないでしょう。



 出来るだけ表情を表に出さないようにしてテーブルの上に紅茶を置く。

 軽く一礼をして部屋を出ようとすると――

「シロウ、この三人はあなたに用があるとの事ですのであなたもこちらに座りなさい」

 死刑宣告にも等しい言葉をルヴィア嬢から言われました。

 三人の顔は笑っています。

 その笑顔がとても恐ろしいです。

 しかしこんな笑顔には少し慣れました。

 今まで何回を見てきた訳ですから慣れない方がおかしいのですよ。

 でもね……三人がそれぞれ密かに戦闘態勢をとっているのは何ででしょう?

 ルヴィア嬢は気付いているのかいないのか優雅に紅茶を飲んでいます。

 言い忘れてましたがルヴィア嬢はかなりの美人です。

 それも遠坂と並ぶほどの。しかも性格まで似てらっしゃいます。

 まあ今はそんな事はどうでもいいのです。

 今はいかにこの状況から逃げるか、ですから。


「どうしましたシロウ?早く座りなさい」

 ちょっと不機嫌になってきましたね、ルヴィア嬢も……。

 覚悟を決めましょう。

 幸いここはルヴィア嬢のお屋敷です。

 さすがの桜もここでは影を出せないはずです……既に触手が一本見え隠れしてますけどね。


「ミス・トオサカ。シロウに用との事ですけど、まずは私から質問してもよろしいですか?」

「どうぞ、ミス・エーデルフェルト。答えられる事ならお答えしましょう」

「何故ここにシロウがいると分かったのですか?」

「使い魔を飛ばして見つけました」

「なるほど……先日屋敷内に変な使い魔が侵入しましたが、あれはあなたの仕業だったのですね」

「ええ、そうです。失礼とは思いましたけど、士郎の居る場所を知るために少々屋敷内を探らせていただきました」

「あなた魔術師の工房を探る事がどんな事か分かってらして?今この場で口封じに殺されても文句は言えませんよ?」

 えっルヴィア嬢って魔術師だったの!?全然気付かなかった……どうりでこの屋敷に魔力が感じるわけだ。

 そういえば絶対に入るなって言ってた部屋がいくつかあったな……。

「分かっています。でもこの屋敷の全てが工房として機能してる訳ではないでしょう?私が探ったのは普通の部屋だけです」

「しかし他人の家を覗き見るなんて悪趣味にもほどがありますわ!」

「私だってそんな趣味は持ち合わせていません。私が探っていたのはあくまでそこの士郎だけです」

「たとえそうだとしても結果的に覗き見をしたのですから同じ事ですわ」

「うるさいわね!士郎がこんな所に来なければこんなバカみたいに広いだけの屋敷なんて見なかったのよ」

「広いだけとは聞き捨てなりませんわね!あなたみたいな貧乏人がこの屋敷の素晴らしさが分かるはずないですわ」

「誰が貧乏人ですって!?そういうあなたこそ借りた宝石を早く返せって催促してるじゃないの、この守銭奴!」

「あっ、あれはあなたが一週間以内に返すと言ったのに、期限が過ぎても返さないからしただけです!」

「私が一週間以内って言ったあとに『いつでも良いですよ』って言ったのは誰だったかしら?」

「あれは一週間のうちのいつでもという意味ですわ。無期限でという意味で言ったのではありません!そもそもあなたはレディとしての気 品がありませんわ。教室の扉を壊したり、机を折ったり、何であなたみたいな人が時計塔にいるのか不思議でなりませんわ」

「そういうあなただって実験道具を爆発さしたり、他の魔術師に全治一ヶ月の大怪我を負わしたり、それでレディだなんて笑わしてくれす ね」

「―――!!」

「―――!!」



 ルヴィア嬢がこれだけ興奮してるのは始めて見ました。

 後から知った話ですがこの二人、時計塔の同じ学科に所属していて毎日喧嘩が絶えないそうです。

 二人の先祖は師を同じにしていたそうで扱う魔術の系統も同じなんだとか。

 だからあれだけ反発しあうのですね。まあ性格が似ているという事も関係しているのでしょうけど。

 
 いつ終わるとも知れない二人の口喧嘩ですが、それに終止符をうったのは桜でした。


「あの……ルヴィアゼリッタさん。それで何故先輩はここにいるのですか?」

 二人の動きがピタッ!っと止まった。

 ルヴィア嬢は赤くなった顔を元に戻しながら、コホンッと咳払いをして―――

「ルヴィアで構いませんわ。シロウは私と婚約しました。婚約者と一緒に住むのは当然でしょう」

 何ていう嘘を吐きやがりました。


 桜の周りが殺気に満ちてきます。

 ライダーや遠坂は早々に避難し、いつでも援護が出来るぞー!的な位置にいます。

 ルヴィア嬢も桜の殺気に怯えています。

 ここで弁解しなければ俺の命は無いのです。

「桜違うんだ!婚約ってのはお嬢様の嘘で、俺はここで執事兼料理長として働いてるだけだ!」

「シロウ、お嬢様では無くルヴィアと呼ぶようにいつも言っているでしょう」

「名前で呼び合う程の仲ですか……私の知らない所でそこまでいっていたなんて……許せない……」

 なんでこんな時にそういう事いうかなぁ?この人は。

「ルヴィアさん!今のこの状況を更にややこしくする言動は控えてください。桜、本当に違うんだ。話し合おう、だからその影を引っ込め てくれ」

「もう誰も信じない……先輩を殺して私も死ぬ……そうだ……初めからそうしてれば全部上手くいってたんだ……」

 思考が闇に向かっていますね……ここは俺の気持ちを伝えないと駄目みたいですね。

「桜、落ち着けって俺が桜を裏切るはずないだろ?それとも桜は俺はそんな奴だって思ってたのか?」

「いえ……そんな事は……すみません先輩……私、混乱しちゃって」

「気にしなくていいよ。桜に信じてもらえれば俺はそれで良い」

 良かった……何とか落ち着いてくれそうです。

「でもここで住み込みで働いてたんでしょ?若い男女が一つ屋根の下で何も無いなんておかしいわよねぇ?」

 遠坂ーーー!なんでお前はそこでそんな事を言うんだ!?

 見ろ!桜が完全に黒化して、影も出てきちゃったじゃないか!

 せっかく収まりそうだったのにさっきより酷くなったじゃないか!

 ルヴィアさんも顔を赤らめてないで何か言って下さい!お願いします!



 それから桜の説得に半日を費やしました。

 桜は賭けが終わって帰ったら一週間桜の言う事を聞くという条件で許してもらいました。

 一旦休憩をして、やっと本題に入りました。

「それで?シロウに用とはなんですの?」

「率直にいいますと士郎を捕まえに来ました」

「それはどういう意味ですの?」

「今私達は賭けをしていまして、私が時計塔に帰るまでの間士郎が私達三人から逃げて、逃げ切れたら私達は士郎に一回の絶対命令権を渡す。私達が捕まえれば私達の誰かと結婚をすると言う賭けです」

「捕まえればシロウと結婚ですか……しかしそれは本人の意思とは無関係なのでしょう?ならばそんな結婚をしても意味があるとは思いませんが?」

「ご心配なくミス・エーデルフェルト。私達は士郎が好きですし、士郎も私達の事が好きだと言っています。現恋人はこの桜ですが、桜もこの条件に賛成だと言いました」

「本当ですの?ミス・サクラ」

「はい、本当です」

「シロウもそれで良いんですの?」

「遠坂の性格は良く知っています。俺が何か言った所で聞く耳ありませんでしょう。それに少なからず逃げきる自信はありました。そして未だに捕まっていません」 

「ええ、そうですね。今まで何処を逃げていたのかは分かりませんが、捕まっていないのはシロウの魔術師としての腕前が思いの外高かったのでしょう」

「俺が魔術師だって事知ってたんですか?」

「初めて見た時から気付いていました」

「なら何故俺を雇ったんですか?他の魔術師が工房に入るのはいけないのでしょう?」

「見たところシロウは半人前ですので、この程度なら入れても分からないだろうと思いましたの。念のために重要な所は入らないようにと言いましたし」

 やっぱ半人前なんだな……俺って。

 まあルヴィアさんが魔術師だって事も判らなかったし仕方ないけどな。



「ところでミス・トオサカ」

 ん?ルヴィアさんの声のトーンが変わったぞ。

「何でしょう?ミス・エーデルフェルト」

「その賭けは途中参加は出来ますの?」

「「「「へっ!?」」」」

 俺も含め全員が疑問の声を上げる。

 今この人はなんて言った?

「それはどういう意味でしょうか?ミス・エーデルフェルト」

 遠坂も困惑気味だ……。

「そのままの意味です。私もその賭けに参加したいですわ」

 そんな……今でも充分きついのにさらにルヴィアさんも加わったらもうDEAD END確定ですよ?

 それに万が一ルヴィアさんが捕まえたら俺と結婚しなくちゃいけないんだぞ?それでもいいのか?

「ミス・エーデルフェルト。私の話を聞いていました?士郎を捕まえたら結婚するんですよ?」

 聞くポイントが違うと思うがまあいいか……。

「ええ、ミス・トオサカ。シロウと知り合ってから少ししか経っていませんが、シロウは見込みがあります。私の元で修行をすれば素晴ら しい魔術師になれますわ」

 それはつまり結婚しても良いってことですよね?ルヴィアさん。

「しかし士郎の気持ちの問題もあります」

「それは結婚した後ゆっくりと愛を育めばいいのですわ」

 確かにルヴィアさんも綺麗だし嫌いじゃないけど……。

「残念ですけどミス・エーデルフェルト。何らかの理由でこの賭けが中断されないと途中参加は認めません」

「そうですか……なら仕方ないですわね」

「判っていただけましたか?」

「ええ、私もそこまで子供ではありませんので、認められないなら諦めますよ」



「良かった。じゃあ士郎、覚悟は良い?」

 立ち上がってこっちに向かってくる遠坂。

 扉は桜とライダーがいて逃げられない……窓から逃げようと思ってもあとで修理費請求されそうだから嫌だ。

「そうそうおとなしくしててね」

 じりじり寄ってくる……こんなあっけなく捕まるのか俺は?

 もう駄目だと思った瞬間――ルヴィアさんが遠坂の前に立ちはだかった。

「そこをどいてもらえますか?ミス・エーデルフェルト」

 遠坂は少し怒っている。それも当然かな。

「いいえミス・トオサカ。私は雇い主として使用人の身に危険が及ぶのを黙ってみている訳にはいきません」

 さっき途中参加OK?とか聞いてたのに変わり身早いなぁ……この人も。

「賭けに参加しようとしていたのに今は雇い主として守る?かなり矛盾してますねミス・エーデルフェルト」

「何とでもおっしゃっていただいて結構です。なんなら今ここで決着をつけても構いませんよ?」

 ルヴィアさんの手には宝石が握られている。

「良いんですか?あなたご自慢のお屋敷が壊れますよ?」

 いいつつ遠坂も臨戦態勢だ。

「壊れたら直せば良いだけのことです」

 緊張感が回りを支配する。

 一触即発の空気の中ドアをノックする音が響いた。



「何ですの?」

「お嬢様、時計塔から緊急の指令が届いています」

「……ちょっと失礼」

 ドアを開け執事さんから話を聞いている。

 その間も遠坂の動きには細心の注意を払っている。

 五分ほどしてルヴィアさんが振り向いて遠坂に向かって――

「死徒が現れたそうです。死徒は復旧しかけの時計塔を襲撃!全てを破壊した後に何処かへ逃げたそうですわ。そこで私とミス・トオサカ が協力して死徒の探索し発見次第排除との命令が来ました」

「何で私が倫敦にいるって分かったのかしら……」

「考えるのはあとにしません?情報によるとこの死徒は大して強くはありませんけど、人を何十人も襲っているらしいですわ。ぼやぼやし ているとさらに犠牲者が増えますわよ」

「そうね……士郎、桜、ライダー!あんた達も一緒に来て。人数は多い方がいいわ」

「賭けはどうするんだ?」

「一時中断。まずは時計塔からの仕事をこなすのが先よ。あと賭けの制限時間が延びそうね」

「何でさ?」

「あんた話聞いてなかったの?『復旧しかけの時計塔を襲撃!全てを破壊した』って」

「ということは……」

「私が時計塔の帰る日が延びたって言う事〜」

「なっ、なんだってーーー!?」

「残念だったわね〜士郎。あともうちょっとで時間切れだったのにね〜」

 嬉しそうに語ってくれるよこの悪魔め……。

「ミス・トオサカ。賭けは一時中断と言いましたわね。これで私も参加出来る様になりましたわ」

「仕方ないですねミス・エーデルフェルト。認めましょう」

「ルヴィアさん、私達三人は協力して先輩を捕まえてその後に結婚の権利の持ち主を決めるんですけどルヴィアさんはどうします?」

 桜……勧誘しないでくれ……。

「良いですわね。協力しましょう。でも結婚をするのは私ですわよ」

「それは分かりませんよ」

 あなた達の頭の中には俺が逃げ切るという未来はないのですか?

「「「「ありませんっ!」」」」

 ……断言されてしまいましたよ。

「さあ早く死徒を排除して士郎を捕まえましょう」

「そうですわね。このメンバーならば真祖クラスが出ない限り負けることもないでしょう」

「先輩♪今のうちに覚悟しておいて下さいね」

「士郎……あとで話がありますので体育館裏に来てください」

 皆やる気ですなぁ……そしてライダー、何処でそんな言葉覚えたんだ?



 そんな訳で期間が延長されてしまいました。

 赤色、桜色、黒色、金色の四色の悪魔に追われる身になりました。

 死なない事を祈ります。





 〜後日談〜

 あの賭けから半年が経ちました。

 結論から言いますと私衛宮士郎は捕まりました。

 死徒を退治したあと俺は他の国へ逃亡したのですが、さすがにあの四人には敵いませんでした。

 逃亡して一ヶ月も経たないうちに発見・襲撃・捕獲されました。

 その後日本に帰り、誰が俺と結婚する権利を得るかの戦いで恐ろしい事態が起こりました。

 場所は俺の家なのですが、桜の影で道場が吹き飛び、ライダーの宝具で土蔵が消滅し、遠坂とルヴィアさんの魔術で庭が焼けました。

 一夜にして衛宮の家は跡形も無くなり、四人は共倒れになりました。

 バーサーカーでも出来ないような芸当をやってのけた挙句に全滅ですよ?

 笑い話にもなりませんよ。

 今は壊れた我が家を何故か俺が修理しています。

 当の四人は遠坂の家で呑気に話し込んでいます。

 今回結婚の権利はなし!という事に決まりましたがいつか別の方法でまたやるそうです。

 どんな方法か想像したくありません。

 ん?なんだ桜?

 え?昨日遠坂と何をしていたか?

 昨日は……遠坂に呼ばれて部屋に行って――

 って桜!?何で黒化してるのですかぁ!?

 ちょっ!やめっ!やめて!触手を出さないで!

 影に引きずり込むのもやめてーーー!

 ああぁぁぁぁぁ………。




     完


 後書き

 ルヴィアの口調って難しいですね。
 最終話です。
 何とか予定通りに終わる事が出来ました。
 しかしオチ弱いですね〜。

 今まで読んで下さった方々ありがとうございます。
 また投稿しますのでまたよろしくお願いします。
 


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