Der Wecker einer weisen Prinzessin−届け奇跡は聖杯へ 7 M:凛、他 傾:シリアス


メッセージ一覧

1: 唄子 (2004/03/24 04:23:31)[orange.peco.chipi@m2.dion.ne.jp]

/7 殺人式

「間桐、なかなか良いんじゃないか、今日のお前?
自然にその構えが出来れば、まぁ一人前だな」

「あ、ありがとう御座います!主将っ!」

私と今話しているのは、弓道部の主将『美綴先輩』。
楽しく話せる人の一人。
性格はさっぱりしてて、竹を割ったような性格。
でも、気が利いて、誰にでも人気のある先輩。
私も、この先輩と話していると気持ちが良い。

「うんうん、さっきの構えは良かったわよ、桜ちゃん♪」

藤村先生も褒めてくれている。
でも、先生、部活中にえびせんを片手にはちょっと…
あ、こぼした。

笑みがこぼれる。
こんなにも日常が楽しい、
こんなにも木漏れ日が暖かくて、笑ってばっかりだ。
これもきっと…

「ははぁ、さては衛宮になにか嬉しい事言われただろ?
えぇ?直ぐに分るぞ、お前は嬉しい時は『弓構え』の時、無駄に力が入ってないからな」

「え?先輩には何も…?」

あの人の事を考えていたから、
美綴先輩の言っていることが解らなかった。

「えっ!?うーん、読み間違えたか。
私ゃてっきり、あの赤い悪魔に一泡吹かせられると喜んでいたんだけどなぁ」

そうか、そういう事か。
確かにそうだ―――――――

以前まではそうだった。
いや、昨日までは。
私の喜び、それは先輩にのみ収束していたから。
それ以外は、何も無かった。
まるで、からっぽの花壇に、一つだけ咲いていた花。
でも今は小さいけど蕾みたいにひっそりと、もう一つの喜びがある。

そんな気持ちがあることが嬉しくて、また微笑んだ。
こんなにも暖かい晴天の日は、楽しい気持ちは膨らみ続けるんだ、と。











剣戟は、僅か数回。
こちらが受けたのは二回、いや蹴りと拳もあわせれば四回を超えるか。
僕があいつに加えた数も、やはり同じくらいだろう。
じゃぁ何故に?
僕は、暫くは立てない、わき腹に一つ、太ももへ一つ、腕に一つ。
この差は――――解りきった結果か…。
しかも、あいつはまだ実力を出し切っていない。
まったく有難い話だが。
次はまずいだろうなぁ。

あいつは木々を抜けるように逃走した。
逃走、それは自分が有利ならそういうべきか言葉。
あれは傷を僅かに負ったのみ。
肩に、一撃。この剣ではなく、蹴りだったのが惜しい。
それが精一杯だった、所詮打撃は癒えるのが早いはず――――
だが、あいつは慎重なのだろう。
僕に止めも刺さず、睨んだ後すぐに…。

ふふ、ははは!
…まぁ、やっぱり逃走だろう。
この体の秘密に気づいたのは流石というべきか。
あのまま続けるようなら、こちらも形振り構ってられないのだから――――

襲撃者はもう居なくなっていた。
来る時はあんなにゆっくりしかけて来たのに、
帰るときは薄情なもんだ。
ははっ、桜が居る時に襲わなかっただけでも、
及第点を付けてやるべきか?

あぁ、暖かい。
日差しが、体から、足から入り込んで来るようだ…。
さっきまでの寒気、あいつの気配が消えたせいかも知れない。
今は、この陽気の中ただ眠りたかった。
暖かいこの陽だまりに沈むように、溶ける様に。

でも、まぁ命あっての何とやら、か。
そんな、自分にとっては冗談の様なことを考えて
暖かい泥に沈んだ。
気持ち良いけど、もう這い上がれないかもしれない不安。

せめて彼女を、この深い闇から―――――
そう想いながら、視界が、闇に覆われた。










「なんか意外よね、桜」

凛は、宝石をちゃぶ台の上でコロコロ転がして言ってくる。
ああ、あの宝石一つとっても凄いお金になるんだろうなぁ、
そう思って、お茶を一口ずずずっと…

「士郎…、ねぇちょっと聞いてるの?」

「んぁ?ああ、ごめん。聞いてなかった」

「桜の、あの昼間の態度。意外だったわねって言ってるの」

「ああ、以外って言えば、そうだなぁ。
桜が自分の意見をしっかり言うのって聞いたことないもんなぁ。あんま」

ん?なんか凛の背景にトンボが飛んでる。
なつかしいなぁ、シティー○ンターかぁ。
あれ?呆れられてます?俺…。
それにお前、そんなネタ今時の高校生は知らないだろ?

「はぁ、あんたの朴念仁振りには…、まぁ今更なんだけど。
あれはね…」

にやややぁ、と凛が楽しそうな顔してる。
何がそんなにおかしいんだ?
桜があんな風に言うって事は、まぁ良い兆候だろ?

「まぁ、私としても妹がライバルじゃねぇ…。士郎、桜は多分恋をしてるわよ」

「へっ?誰にさ?」

そこへ、セイバーも加わってくる。

「ほへはおほわく、ひきでふね?」

セイバー、お前咀嚼してから喋れ。
ほら、こぼしたぞ。
そもそも、なんでこんな多量えびせんがうちにあるんだよ?

「セイバー、良くわかってるじゃない?」

「馬鹿にしないで欲しい。私は士郎よりも多少は…」

悪かったな。朴念仁で。
口をえびせんの油で、光らせてるお前に言われたくない。

「やっぱりセイバーも女の子って事ね。
あんただけよ、乙女心がわからない朴念枯れ木男は」

「女の子とと言われるのは、昔ほど抵抗はありませんが、
士郎が朴念仁なのはもはや男女関係無しですから」

…ふ、そこまで言われると何だが清清しい気がする。
しかしなぁ、セイバーにまで言われるとは…
ついセイバーを見てしまう。
そりゃ、もと王様。人を見る目は確かなんだろうけど…
えびせんほうばってる姿は、ちょっとねぇ。

「ほぅ、この私にそこまで言われるのが気に入りませんか?
士郎。私とて元は国の王。その人物が何を考えているか、
瞳を見ただえで見抜くことも可能とするのですよ、ふふふっ。
それにLuckはA+、当てずっぽうでも大概はいけますからね…」

なんか、王様としてはまずい発言もあったような気もしたが…?
そんだけ言われたら、なんかくやしい。
俺だって、多少は、そのわかると思うし…

「おや、士郎。悔しそうですが。
では、勝負しましょうか?」

「勝負って、剣道か?お互いに手の内を読みあう…とか?」

「それは余り参考には、まぁならないことも無いですが。
そもそも戦闘は読み合いもありますが、
その時の空気を肌で感じ、直感に身を任すのですから。
しかし、それが出来ぬからといって朴念仁とは言わないでしょう?
ここはもっと簡単に。
いいですか、士郎。私が貴方を見つめます。
その瞳をみて、私の気持ちを当ててもらいたい。
では…」

そう言って、セイバーが体をずずいっとと寄せてくる。
これには、思わず息に詰まる。
ここ最近はすっかり意識してなかったが、
この少女、初め俺の剣となると誓った王は、美しい少女だったのだ。
瞳は明るい鶯色。
この国では珍しいその瞳も、そのキラキラと光を跳ね返す、金色の髪も
全てが、ただ美しい。
そして、そんな彼女が俺を見つめている…。
その瞳は、なにを…?
やっぱり俺は朴念仁なんだろうか…
いや、誰だって彼女に見つめれれば、言葉を失い、思考は逆上せてしまうだろう。
それは俺も同じ。
セイバーは何を思っているんだ…
解らないから、また瞳を見つめ返す、
そして、ますますその頭蓋を熱が犯して…

あ、彼女のうす桃色の唇が、かすかに震えている。
それが答えなの…か…?











と…

それが、それが…答え…?
しろうすき
士郎すき
士郎、好き…って、ええっ!?

「んなぁ!?お、せい、セイバーさん?」

いは鶯色の宝石は、その僅かに震える瞼によって隠されていた。
そ、それって、いや、おれには凛が…
い、いやぁ、セイバーも大事な人には違いないんだが、
で、でも
セイバーは目を開かない…。
俺も魔法にかかったように、その瞳を閉じてしまって…
何かを待つように、口元は緊張し、
頭の中に熱をもったなにかが蠢いて




壁にめり込んだ。
はらいっぱい、めり込んだ。


俺が悪いのか!?
…俺が悪いんだろうなぁ。
すまん、凛!セイバーは確かに可愛すぎた…
がくっ。

「フンッ!!壁に埋まったまま気絶した振りとは、情けないわね、ねぇ衛宮君?
もっとも気絶した振りかどうかは、このサイコガンで撃ってみれば分るかしらねぇ〜」

おいおいおいおーい!
いつからお前、コ○ラになったんだよっ!?
楽しそうにガント構えるんじゃない!!

俺が、そろそろやばいと思っていると、セイバーが立ちふさがる。
なんか、聖杯戦争以来だな、こんな展開…
敵は最強だけど…

「其処までです!士郎は私が守る!!」

おお!下克上ですかー?
ってか誰のせいですかー?

「へぇ、セイバー、主である私に楯突くと言うのね…フッ。
其処をどきなさいっ!?士郎は私のものなんだから殺生与奪権は私の手にあるのよっ!」

「いいえ、引きません!
私は士郎の剣となり、盾になると、誓ったのです!
例えこの身が砕け、大気に舞う一片のマナになろうとも、
彼の身を護る一陣の風となりましょう。
…凛っ!貴方こそ引きなさいっ!」

凛と、セイバーはなんだかカッコよさげな事を言いながら
ヒートアップしている。

「くっ!最早ここまでかっ!?
貴方とはいつかこのようになる運命だったのね…。
さようなら…、永遠に貴方のことは忘れないわ。
星屑になるがいいわ。
うてぇぇぇぇ!主砲一斉はっしゃぁぁぁぁ!!」

「くっ!避けてみせる!!」

ちょ、ちょっと…

「まてぇぇぇぇ!凛!セイバーも馬鹿なことやってるんじゃない!
お前たちでやりあう必要ないだろ!?
もう昨日の目的を忘れたのかよっ!
間桐臓硯を倒すんだろ、こんな所で何を…」




そう言うのを待っていたように、二人が息をあわせたように振り返ってくる。

「そう、士郎は目的を忘れているわ。
卒業したら、私達二人は倫敦へ行くのよね?二人で」

「ええ、士郎。凛のたわごとはともかく、目的を忘れてはいけない。
私は貴方を見届ける一振りの剣。私は常に貴方と共に。
あなたの理想へと進む姿を見届けると言った私を、貴方は受け入れた。
二人で共に理想を探すという目的はどこにいったのですか?二人で」



「……、三人じゃ駄目なのか?」

「無理」
「不可能です」

息あってるじゃないかよ。
二人して、俺をはめようとしていないだろうか?
く、空気が重い。
幸せは手の平いっぱい、緊迫はドーム3つ分ということだろうか?

ぴろりーん♪
ステータスと武器の情報が更新されました。

遠坂凛:魔術師のほかに宇宙指名手配犯の顔を持つ。
     武器は、腕仕込みのサイコガント。機嫌しだいではコンクリートジャングルも
     一晩で荒野に。能力A+++(対士郎兵器)




がららららぁ…と玄関の引き戸が。

助かった、誰か来た見たいだっ!
反射的に居間の外に体が向かう。

後ろからなにやら物騒な非難やら、ガントの流れ弾が飛んで切るが、この際、無視。


玄関の方で、桜の呼ぶ声が聞こえる。
よく聞けば、それが助けを呼んでいることが分った―――――










志貴は直ぐに、私の治療を受けたあと、
昨夜、士郎が使った大広間の布団に寝かされた。
今は士郎が看ているところだ。

傷は、思ったより浅そうだった。
思ったよりと言ったのは、志貴の容態より
桜の狼狽振りが大きかったからだ。

志貴に肩を貸して、玄関に立っている桜は、自分が死ぬような顔だった。

「志貴さんが、志貴さんが、先輩、志貴さんが…」

目元が定まらぬまま、桜は玄関で士郎を呼んでいた。
傍目に見た私が一瞬怯えてしまったから、
士郎本人はもっと驚いたことだろう。
そして志貴も。


志貴本人も、意識はわりかしはっきりしていたから、
士郎が肩を貸して、あげるだけでよかった。
大広間に行く途中、士郎の肩越しから志貴が桜に俺を言っていた。
桜は、泣きそうな顔で頷くだけだったが、それで少しは落ち着いたようだった。

セイバーは、桜に座るように促し、私は少し長めに蒸した紅茶にミルクを入れて
ミルクティーにして、桜に淹れる。

セイバー、私にも同じものを淹れ、私は桜から斜め前の位置に腰をおろした。

「桜、少し濃い目に淹れたわ。熱いけど、落ち着くと思うから飲んで頂戴」

セイバーが摩る背中の手を、目で礼を言い、
桜はカップに少しだけ口をつけ、
今度こそ一息ついたのだろう、すこし深く息をした。

「…姉さん、志貴さんの傷は…?」

「そんなに心配しなくても平気よ。士郎なんかもっと酷かったんだから。
傷は服装の裂けてる具合より、全然浅いのよ。
私特製の軟膏と、美味しい食事、ああ、これは桜担当ね?
これを三日も続ければ塞がるわよ。」

桜の表情に明かりが灯るように、ぱぁと笑顔が広がる。
セイバーもホッとした表情で胸をなでおろしているようだった。

「ふふ、桜もなんだか満更じゃなさそうじゃない?
あいつの事…」

「あ、あ、何言ってくるんですか姉さん!?そのいきなり…。
志貴さんはそんなんじゃないんです!」

セイバーと顔をあわせてニタリ。
桜も落ち着いたようだし、ここは少し姉らしく
愛を持って接してやらねば。

「あらぁ、顔が赤いんじゃない、桜?
熱があるのかしらね、ウフフ。
出会ったばかり不思議な男性。
それは、謎の力で影につかまりそうになる美しい少女を救った。
少女にとっての、漆黒のナイト。ああ!まさにドラマ的な出会い!
スラリとした長身の美青年、彼は儚げな微笑で少女につぶやく…、桜、怪我はないかい…?」

「ちょっと!もう、怒りますよ!姉さんは茶化しすぎです!」

セイバーが呆れてるような目で見てる。
この子にも、巻き添えになってもらおう。
私はセイバーの手をハシッと握って、切なげな目で訴える。

「ああ、志貴さん。私の為に、体中傷だらけ…。
もういいのです、私のことなど置いて、早く逃げてください」

「り、凛!?私になにを…」
(黙って合せなさい!後でクレープ奢ってやるから)

「!?…、こほん。
桜、君の為ならば、この身切り刻まれようと、決して離しはしない。
僕は君のナイト。ならば、どこに愛する主を置いて敵に背中を見せる騎士が居るというのか。
君は、僕が護る!」

「ああ、志貴様いけません!私のような者にそのようなお言葉を…、」
それに、私にはそのような尊き忠誠に、何をもってもお返し出来ません。
ですから、どうか私の事など、ご自分のことを一番に…」

「僕は、僕はただ貴方のことが…。
貴方がこの忠誠を、重荷と感じられるのでしたらこの身は
敵と共に朽ち果てましょう。
しかし、万に一つでも僕のことを思ってくださるのなら、一つだけ願いを。
それをわが身の糧としましょう」

「ああ、何でも仰ってくださいませ。私が貴方へ差し上げれるものであれば、
なんでも差し上げましょう。
ですから、そのような…、敵と朽ち果てるなどという事は…」

「ああ、良かった。
では、この身に貴方の祝福を。さすれば千の国、万の兵も退けて見せましょう」

「祝福?それはいかなる方法で…?
この身、魔道に落ちた身であって、けっして祝福の言霊など…」

「いえ、騎士を祝福する乙女が祈るは一つ。
優しき愛を奏でる、その唇に…」

セイバーが私の肩をそっと引き寄せ、そして…




うふふ、桜の見る目が満更でもない乙女の夢見る目に。
ちょっとやりすぎただろうか?
セイバーも意外と役者だ。ふむふむ、今度は士郎もからかって…


って、ちょっとセイバー、もういいんだって、ちょっと、セイバー!

「セッ」

んちゅ。




…あ。
これは乗りすぎた罰だろうか。

何時の間にか…、
桜の背中越しには、真っ青になった…

士郎が、いやいやって、しながらこっちを見ていた。

「セ、セ、セイバー、ストップ、ストープッ!!
もう演技は終わり!」

「そうなのですか?これから良い所だったのですが…」

あんたはクレープ一つでここまでやるかぁ!

ダッ!士郎が目も合せず走り去ろうとする

「し、士郎っ、これは、ち、違うから、ね!事情を聞けば分るかから、…ね?
こっちにきて、座って…」

あ、士郎が泣きながら出て行った

「士郎っ!?凛っ、見られたのですかっ!!
士郎、誤解だっ!こ、これは凛がクレープをっ!!
貴方なら、肉じゃがで純潔を差し上げます!!」

そこまでやるんかい!!?
セイバーのフォローとも下克上とも取れる発言が空しく響き、
隣の大広間で、

「うわ〜ん、遠野えもん〜」

って情けない声と、

「あっはっはっはっは♪」

昨夜同様の、黒い嘲笑が響き渡るのだった…。






その嘲笑に掻き消され、

「セイバーさん×姉さん、萌え…」

と、桜の黒い呟きを聞くものは居なかったが…。










夕食の席は、不思議な席順だった。
セイバーと私の間に、なぜか士郎。
あのあと、志貴の協力も得てなんとか誤解も解けた…つもりだったんだけど。
時々、セイバーと私をみて、赤くなってる。
や、やめて。私も後悔してるんだから…。

セイバーは、

「士郎、先おどの発言はそのまま受け取っていてください。
貴方にならば肉じゃがで…」

ぼかっ!
新聞を丸めて、一撃。
この騎士は最近油断できない、まったく恐ろしい。

「ええっと、志貴はまだ起き上がれないの?」

話題を変えようと、そう言った。

「ん、ああ、遠野さんはまだ、だるいからって、大広間で飯食ってる。
桜も遠野さん一人じゃなんだからって、向こうで食べてるぞ」

志貴を襲った、不審な人物。
志貴自身、なにか知っているようだったが、はぐらかされてしまって、
私達は、けっきょく聞かされていない。
あのサーヴァントともあそこまで善戦したんだから、その相手がとんでもない事は分るけど―――

やっぱりまだ、志貴は何か隠しているっぽい。
もっとも、口では私もきつい事言うけど、今はそこまで疑っていない、全面的に信じたわけではないけど。
しかし、共闘しようというのだから、隠し事は余りして欲しくはないんだけどね。
志貴自身、これは臓硯とは関係ないから、との事。
関係が無いとは、臓硯の味方ではないということだろう。
それだけで充分とは言わないが、まぁ、臓硯前にきて立ちはだかる心配が無いのなら
後は、志貴が納得行くまで戦えばいい。

もっとも、桜の為に、味方位はしてやりたいとは思っているけど。


「フフ、桜もすっかり恋する乙女なのですね。士郎、残念でしたね」

士郎は、今セイバーと喋ってる。

「ん?なんでさ?」

相変わらずの朴念仁ぶり。
これからは、もっとあたしが素直にならなきゃいけないのかなぁと
考えていると、士郎が突然セイバーと私を見ながら、真面目に話し始めた。

「そうそう、セイバー、もうあんなことしたら駄目だからな。
もちろん凛も」

「ごめん、その悪ふざけが過ぎて、士郎、ごめんね」

「もういいよ、凛。それにセイバー、これだけは言っとくぞ。
凛は…、俺のだからな。今後はあんな事…しちゃだめだぞ!」

っ!
士郎が赤くなりながら、そんな事言ってくれてる。
…、嬉しくて泣きそうになる。
士郎に、こんな事言ってもらえるなんて…。
私を独り占めしたいって気持ちが伝わって、嬉しくって、恥かしくって
こっそり涙を拭った。

が、

「士郎、すいませんでした。もう二度と。
ああ、それと私も貴方のものですからお忘れなく」


ピシッ!
ピシピシシシシッ!!

私の何かがきしむ、これは本気で戦わなきゃいけないようだ。
でも、そんな風に、士郎、セイバーといっしょにワイワイやるのもいいかもしれない。
今度のごたごたが終わったら、桜、志貴の5人で、いや藤村先生、綾子、柳洞君もみんなで
ご馳走もって、ピクニックに行こう!
ここに居られるのも、後1年。それを最高の思い出にかえる為に。

だが、その前に使い間に躾を。
私は再び新聞紙を丸めて、躾その2を振りかぶった―――――










「桜ちゃん、皆と食べても良かったんだよ?
ここは少し寒いだろ?」

志貴さんは、まだ少し傷が痛いのか体の位置をぎこちなく変えて
こっちを向いた。

「いえ、それに一人きりのご飯は美味しくないですよ?
志貴さんは私を護っていて、怪我しちゃったんですから、私もここで食べます」

志貴さんは、すこし溜息をついて、ほらね。
こんなにも優しく微笑んでくれる。
だから、一緒に居たかった。
私もご飯が美味しいから。

志貴さんは、意外と小食なんだろう。
ゆっくり食べている、それがなんだか凄く可愛くて
つい口元が綻んでしまった。

「あれ?桜ちゃんどうしたの、急に笑ったりして?
あー、ひょっとして僕、御飯粒付けてるとか?
だったら取って欲しいけどな〜」

「ふふっ、違いますよ。
なんだか志貴さんの食べてる姿が可愛くて。ごめんなさい、笑っちゃって。
志貴さんて、実は小食だったりします…」


ガバッ!
最後まで言えずに、志貴さんの胸に引き寄せられる…!
えっ、えっ、こ、これって、いきなり…!?
いや、まだ会ったばかりだし、先輩への想いも、でも、なんだ恥ずかしくって

「し、志貴さん!?ど、どうしたんですか?いきな…」

気づく、今更―――
志貴さんの表情が…、怖くなってる…!!
それに、さっきまでは少し寒かった空気が、凍っていくような、
足の先から、氷水に鎮められて行く感覚…。
奥歯がガチガチ、目はその正体を探したいが
探すのが怖くて動かせない首。
全てがおかしくなっていく、寒い、寒い…

「桜!!立てるか!?いいかい、士郎達の所に行くんだ。
あいつが来た、でも決して手を出すな!死にたくなかったら…ね」

そう言って、志貴さんは見た目からは、考えられない位の速さで、外へ――――
庭へ続く縁側へ消えた。
わ、私も―――
と思ったが、志貴さんのいい付けどおりにと思いとどまり、先輩対が居る居間の方へ出る。
信じられないくらい、寒いのだ。
先輩、姉さんにも、この異変を知らせる為に、廊下へ走った――――――――――











それは、唐突にやってきた。
―――後ろから突きつけられる銃口。
―――首元に当てられる鋭利な刃。
―――どうしようも無い、深く早い穿たれる魔弾。
振り向けば、その瞬間にも眉間を打ち抜く――――


「り、凛。何なんだよこれ……!」

「し、知らないわよ、ぅ」

凛がカチカチなる歯を制しながら、俺の声に答える。
顔は、こっちを向かないまま、―――――
かといって、後ろは、俺と同じく振り向けないようだ…。

「士郎、凛、動いてはいけない!!
何か分らないが、とてつもなく悪いものが、今、ここに…」

セイバーはその『何か』を凝視するかのように、
後ろの方を向いている。

セイバーは思い切って、居間と縁側の仕切りである障子を
思いっきり開いた。



私は、その正体が、あっけないくらい、普通だったことに気がついた。
仮に、数々の幻想種、かのドラゴンと対峙した時も、恐れはしたが、
戦う前からどうしよもない絶望を、そんな私の闘志を根本から砕く殺気を感じることは無かった。
それを、それをこれは与えたのだ…。


きっと志貴が戦ったのはコレなのだ…。
絶望、どうしようもない喪失感、死という風下に立たされる、
背中には、奈落の闇が口を開けているのだろう。
逃げることも、引くこともかなわない。
そんなものが、そんな想いを一瞬でも与えてきたものが…たった一人の、
人間だなんてありえるのだろうか!?



庭には、知った影が一つ。
そんなものを受けても、彼の黒い男は立っていた。
やはり、昨夜と同じ構えで。

ただ、その手に握られているものは、昨夜の黒鍵とは少し様相が異なる。
それは、血塗られたように、紅く濡れているかのような刃だった。

今宵は弓のような細き月。
雲に隠れて、対峙する未だ人影は見えない。

「ここまで押しかけるなんて、よっぽど我慢なら無かったんだなぁ」

志貴は、笑っていない。
昨夜とは全く違った、その表情―――
口は真一文字、射殺すかのように目の前の人影に。
身に纏った殺気は昨夜のそれを凌駕する。
だが、それすらの心地よく感じる、ここを占める寒気の中では。


「ああ、お前を生かしておくとまずい気がするから。
それにその姿、全てが気に障るんだよ」

人影が、さも当然とばかりに答える。



影から発する声。口調は違えどもそれは…






「おいおい、殺人貴、お前がそれお言っちゃおしまいだろ?」






弓の月は、雲が通り過ぎたのだろう、
静かに、淡く照らし始める…。


「俺を姿をした奴だなんてな…。
嫌な奴お思い出す…、お前逃げようだなんて思うなよ。
…死ぬよ、背を見せるんなら――――――――――」


殺人貴と呼ばれた青年――――――

それは、彼のものと同じく。
ただ、その双眼は蒼く――――――。

今宵の月よりも、蒼く。

殺人式――滅びの起動が聞こえてくる。

カッチ、カッチ、カッチ、カッチ………、
居間の時計の音さえ聞こえてくる静寂の中―――

その目は、まるで志貴の死を『暗示』するかのような、
そんな不吉な音色に変えていく。








――――――――後書き


   ほわぁ!深夜は辛いです。
   誤字は、深夜にやってくる!
   今回は、また展開があってほっと一安心です。
   誤字注意しますね。

   もし、何かしろ思うところがあったら、批評、ご意見お待ちしています。
   愛の突込みを!
   似非金ぴかさん、穿さん、毎回ありがとう御座います(ペコリ
   他にも見てくださっている方が、いらっしゃいましたら、
   突っ込みお願いしますね(汗

   寝ます、唄子


記事一覧へ戻る(I)