凛様恋愛事情 M:凛 傾:ほのぼの


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1: 和泉麻十 (2004/03/23 12:34:40)[hayasi.koutarou at nifty.com]

注:これはセイバールート後のお話です。

























拝啓。
父さん、お元気でしょうか。
元気といっても死んでるし多分天国じゃないほうにいらっしゃると思いますので相応しい表現とは思いま
せんが、社交辞令と言うものです、気になさらないで下さい。
それよりも父さん、この度伝えたい事ができました。









恨みます。









っていうかむしろ呪います。









誤解しないで欲しいのですが私は別に遠坂に生まれた事を後悔しているわけでも魔術師になったことを後
悔しているわけでもありません。
私が憎むのはこの「肝心なところで大ポカをやらかす」と言う宿命です。
大抵の事は過ぎた事として気にしないことにしていますが、今日のこれだけは自分で自分が許せません。
まず状況を説明しますと、私の目の前には二人の人物が気持ち良さそうに眠っておられます。
一人は今回の聖杯戦争のセイバーの役割(クラス)のサーヴァントです。
真名はかの世に名高いブリテンの英雄アーサー王だそうです。
もっとも、伝承と現実はやはり違うものなのかセイバー自身は少し幼さの残る女の子でした。
私が言うのもなんですがかなりの美人です。
普段の彼女だけを見ていると彼女がサーヴァント中最強とはとても思えないでしょう。

で、もう一人はそのセイバーのマスターであるへっぽこ半人前魔術師の衛宮士郎です。

いやもうへっぽこです。

多分へっぽこという言葉は彼の為に生まれて来たのだろうと確信しています。
その二人が私の目の前ですごく満ち足りた顔をして眠りについてたりします。
まあ、マスターとサーヴァントが同じ部屋で眠るくらいならよくある話しだろうと仰られるかもしれませ
ん。
そんなことをわざわざ気にするやつがあるかとお怒りになるかもしれません。






ですが父さん、これだけは別問題です。








何しろこの二人。












同衾してやがります。












凛様恋愛事情













「はぁぁぁぁぁぁぁ。」

まだ肌寒い初春の朝の空気に、肺に溜まった熱っぽい空気を一気に吐き出す。

「勘弁してよねもぅ・・・。」

聖杯戦争が終結したのは数ヶ月前、ここは当時根拠地にしていた衛宮家ではなく遠坂家、つまり私の家。
簡単に言うと私もこの町も日常に戻ってしまったと言うわけだ。
正直かなりあっけなかった。
もちろん、一筋縄では行かなかったことは確かだ。
あの出来事で死んだ者も影響を受けた者も多いけど、最初に予想してたことと比べると実に小さいもの
だった。

「うわ、まだ5時。」

明らかに早すぎる。
最近は諸用でいつもより早く起きるのだがそれにしても早すぎる。

でももう今日は起きよう。
まだ春眠暁を覚えたくないと言った感じだが、二度寝すると起きれそうに無いし、第一あの夢の続きを見
そうだからだ。


ベッドからのたのたと這い降りて、スリッパを突っかけて台所に向かう。


あの夢、いや、夢ってわけじゃない、あれは実際にあったこと。
聖杯戦争の最終決戦2日ほど前にあった、戦争自体には些細なことだったけど、私にとってはとても重大だ
った出来事。

まあ、出来事と言っても二組の馬鹿ップルが同衾していたのを。
馬鹿丁寧にも起こしに言った私が覗いてしまったと言うだけなのだが。

      ――っていうか気付きなさいよ私。

もとから非常に気の通い合った二人ではあったが、あの日はもう二人しておかしかった。
何しろ士郎はその前の日の晩突然セイバーをデートに連れていくと宣言して今朝出かけて夕方に一人で帰
ってきて夜まで寝てるかと思えば突然出ていって半殺されて帰ってきたという有様。
セイバーはセイバーで、朝方はさすがに聖杯戦争と関係無いことをすると言うので不機嫌だったのに、
日付が変わって半死半生のマスター抱えて帰ってきた時の顔はもうすっかり恋する乙女に大変身。
こっちが怪我のを治そうとしたら。

『凛、大丈夫です、私がそばに居ればシロウは治ります。』

      ――そんなの胸張って言うこっちゃ無いわよ。


台所に着いて真っ先にいつものように冷蔵庫から牛乳を出す。


何でも、セイバー、つまりアーサー王が嘗て所持していて、盗まれてしまった「聖剣の鞘」。
それが衛宮士郎の体の中に埋め込まれているらしい。
今までの変態じみた回復力も、要はそれのおかげだったと言うわけだ。

いや、それはまあいいんだけど。


乱暴に新品のパックを開けて、お気に入りのガラスコップに注ぎ始める。


言うにことかいてセイバー、

『シロウは、私の鞘だったんです。』

って数奇な運命の巡り合わせに心から感謝してるふうに言わないでほしい。
考えれば当たり前、大体どこの馬の骨かも分らない半人前の魔術師がアーサー王なんか召還できたこ
と自体がおかしかったのだ。
それならアーサー王にゆかりの深い「何か」が絶対あったに決まっている。
そしてそれはあった。

つまりセイバーの感動は本末転倒。
よく考えれば当たり前の結末。

でもセイバーにとってはそれが何よりも嬉しかったらしい。
何しろ傷口がある程度収まるまで士郎の手をぎゅっと握り締めて・・・。
いや・・・、むしろ頬擦りしそうな勢いで掻き抱いて・・・。
ああもう、とにかく愛しい恋人を見る目だったわけだ、セイバーは。

その果報者の衛宮士郎がそこまでの傷を負った原因もそれに輪を掛けてこっぱずかしいものだった。
セイバー曰く、

セイバーを迎えに行ってあの昨日の晩の金ぴか野郎にかち合ってセイバーが敗れてどうかされそうになっ
た所を飛び出してあれだけやるなといっておいた投影をやらかした挙句に袈裟懸けにばっさりいかれた時
点で噴飯物だというのにその上ほとんど二つになった体で立ちあがって「聖剣の鞘」を投影して九死に一生
を得た

との事。


ああ、神様、信じてもいないですしこれから信じる予定も無いですし存在自体否定しておりますが神様。
もしいらっしゃいましたら。


      ――あのばかを何とかしてください。


いやもうばかだばかだと思ってはいたがまさかここまでとは思わなかった。
もし「馬鹿の壁」なるものが現実にあったらアイツが壁一面に埋まってんじゃないかと思うくらいばかすぎ
る。
自分の命を顧みないなんて言葉はあるがアイツの場合は自分の命なんかはなっから眼中に無い。
自分が死ねばセイバーは消えるって分ってんだろーかあいつは。
自分は殺されれば死ぬけどサーヴァントはその場からは消えるけど「存在」は消えないって分ってんだろー
かアイツは。

      ――わかっててもやるのよね、あいつのことだから。

それのフォローに回るこっちの身にもなれって話しだ。
特に今回は強くそう思った。
怪我の状態見ようとしただけで何か怒ったような顔してくるし・・・。
いつも通り服を脱がせて体を拭こうとしたら何か微妙な顔でじっと見てくるし・・・。
手伝うのはいいけど、士郎の裸見て動揺するのは止めてよねセイバー。

『こ、これは決してやましい行為ではなく、たんに私はサーヴァントとしてマスターの怪我の手当てを!』

      ――そんなのいちいち説明しなくてもいいわよ。

『シ、シロウの体は予想した以上にたくましいのですね・・・。』

      ――顔真っ赤にしながら恥ずかしいこと言わないでよ。

『・・・・・・・・・・・・・・。』

      ――胸板に手をやっただけで硬直しないように。

『シロウ・・・・・・・・・・・。』

      ――目、潤んでるわよセイバー。

もう邪魔にしかならないので見物だけにさせたのだけどもうその目が熱いのなんの。
ひょっとして士郎が溶けちゃうんじゃないかって言うくらいの視線でこっちを見つめられたら溜息しか出
ないわよほんとに。
それもまあ、普通の女の子が見つめるんならともかく・・・。
いや、セイバーはどこをどう見ても普通の女の子ではあるのだがいかんせん格好が。


返り血で真っ赤ってのはどうよ。


顔と言わず体中血で塗れちゃってた。
もともと私が貸した服は白のブラウスと青のスカートなのだがこれがもう見事なまでにどす黒い。
お腹空いたから帰り際に人一人食べてきましたって言われても違和感を全く感じないほどすぷらった。
おもわず歩く火曜サスペンス劇場と言う名誉ある二つ名で呼んであげようかと思ったわよ。

それで気持ち悪そうだからから風呂入ってきなさいって言ったら。

『いえ、これはシロウの血ですから、気持ち悪いなどと言うことはありません。』

      ――こっちが気持ち悪いわよ。

どうにも腹が立ったからからかい半分で

『そんな格好だったら士郎に嫌われるわよ。』

っていったら士郎はそんな人じゃないとかそんなことは気にしないとか言いながら自分の姿をためすがめ
つしてそそくさと風呂場に向かったときはもうお約束すぎて涙も出なかったわよ!


腹立ち紛れに手にぎゅっと力を込める。


ベコ


ん、いい音、なんかちょっとすっきりした。









      ――ベコ?







今手に持ってるパックって確か新品だったような・・・。
因みに現在パックの角度は正確に斜め45度、もちろん開いてるほうが下。
私のお気に入りのガラスコップはもちろん1000ml入るような面積は持ち合わせていない。


      ――んと、それって、つまり。


おそるおそる下のほうに視線を下ろしていく。
と・・・。











表面張力の限界に挑戦しているかのようなコップと









春の雪に覆われたかのような変わり果てた流し台がそこにあった。










「はあ・・・・。」

      ――何してるんだろう、私。

牛乳が零れるのも気にしないで、ぐいとコップの中のものを煽る。
わりと固い牛乳を一気飲みするとのどが痛いのだけど、その刺激が呆けた頭に丁度いい。
大分口から零れて襟元を濡らしてるけど、その冷たさが今はありがたい。

『凛、そのような姿を君の学友が見たら卒倒しかねんぞ。』

なんか懐かしい声がしたけど気にしない。
今私は腹を立てている、その原因はわかってる。
今日あんなことを夢で思い出したのも流し台が白くなったのもみんなそのせいだ。

ぐい、と袖口で口を拭うとどかどかと客間に向かう。
客間のテーブルにおいてある紙袋。
私の繊細な精神をかき乱した愚かモノがちょこんと立っていた。


『冬木クリーニング店』


あらかじめ言っておくが別にクリーニング店に問題があるわけじゃない。
いや、問題が無いことも無いが今は関係無い。

問題はその中身。
数ヶ月前、つまり聖杯戦争終了直前辺りに、私が最後のマスターを探しに行くついでに洗濯に出した物。
私自身昨日まですっかり忘れていたのに昨日になってひょっこり帰ってきやがったのだ。
一枚の詫び状と共に。



『いつも当店をご贔屓にして頂いてまことにありがとうございます。
 此の度お預かりさせて頂きました洋服ですが、血の汚れがあまりもひどく、できる限り染み抜きを試み
 たのですが、当店の設備ではどうしようもなく、その技術に優れた店員の居る店に送ったものの、その
 店員でも完全に漂白するのは不可能であったようです。
 此の度のお詫びと致しましてお代の方はこちらのサービスとさせていただきます。
 また、そのような次第でございますので数ヶ月も時間を掛けて真に申し訳ございませんでした。
 重ねてお詫び申し上げます。
 これに懲りず、また当店のご利用をお待ち申しております。

                                      冬木クリーニング』










そう、これに入っているのは、あのときの服。













セイバーと士郎が結ばれた夜に着ていた、服。

2: 和泉麻十 (2004/03/23 12:39:50)[hayasi.koutarou at nifty.com]

続く


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