Sweeper (Mオリ弓


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1: nameless (2004/03/23 09:02:42)[EmbryonRoad at msn.com]

Sweeper

剣戟 interlude

罵声、怒声、奇声、人だった物からあがる声の中
ふと、懐かしい日々を思い出した。
周りに溢れる雑音に反比例するかのように、思考は深い深い底へ
私が、正義の味方を目指したエミヤシロウが、本当の意味でセイギノミカタになるに至った日々を
そして、懐かしい人々を

召喚

燃え上がる家々、あがる叫び声に呻き声。
全てが紅かった、紅く紅く視界に映る全てが紅く
水汲みの為に何時も通る道も紅く、純白だった協会すらも紅く染め上げて
ダラダラとヌチャヌチャと、素足に纏わりつくナニカも紅く
道々に横たわるモノも紅く、紅く、紅く紅く紅く紅く・・・
村はたった一夜にして、紅い世界に侵食された。
そうして、私が住んでいた村は記憶の中でしか存在しなくなった。


「ハァ・・・ハァッ・・・、グッ・・・」

村から、両親から逃して貰ってから幾時走り続けただろうか。
喉が焼けるように痛い。目がチカチカとする。
手は、何物も掴めないと訴え
足は、もうこれ以上走れないと訴える。
しかし、脳だけは走れと、アレから逃げろと
ただただ、それだけを繰り返し命令する。
後ろからヒタヒタと、迫り来るモノから逃げろと。

「ハァアッ、あっ!」

縦横無尽に走る、鬱蒼とした草に足を取られる。
受身も取れぬまま、大地に身を投げ出す。
立ち上がろうと、手を起こすが力が入らずに崩れ落ちる。

「つぅ〜・・・ハァ、ハァ・・・」
顔を大地と草に埋め、荒い呼吸を繰り返す。
肺は酸素を取り入れようと、忙しなく動き
口はパクパクと、何時か見た陸揚げされた魚の様に動く。

「ハハッ、アハハハッ」
笑いがこみ上げて来る、その様子に。
何気なく見ていた魚のように自分がなっているとは
なんて笑いが、こみ上げて来る。
何とか体を仰向けにし、深く蒼い空を見る。

「あぁ、紅くないや。
 なんでだろ、さっきまであんなに紅かったのに・・・」

目を閉じると浮かび上がる。
馴染んだ家が、毎日歩く道が
皆の為に走り回っていた神父さんが、何時も遊んでいた友達が
笑い声が大きな近所のおばさんが、何時も優しく昔話をしてくれるおばあさんが
釣りの上手なおじいさんが、力持ちの漁師さんが

「あぁ!あぁ!!」

そして!!
何時も優しく接してくれた、父と母が
紅く染まるのを覚えているっ!
きつく目を瞑る、もう開くことが、紅いものを見ないようにするように
きつくきつく
溢れてくる涙を流させないように。

「あ・・・あぐ、うぅあ・・・ひっぐ・・・」

嗚咽が止まらない、でも涙は流さない。
流してたまるかと、こんな所で泣いてる場合では無いのだと
言い聞かす。
さぁ、立てと
休憩は此処までだと、手足に命令を
目を見開いて前を見ろ

そうして、私は出会うのだ
紅い紅い、セイギノミカタに


召喚 interlude

幾千の日々を戦って来ただろうか
あの日、助けた者に裏切られ
数多の剣が墓標の如く立つ丘で死んでから
そして、世界と契約し人類の守護者となってから
幾万の日々を戦って来ただろうか
今では記憶すら磨耗しきってしまった
理想を持っていたはずなのだ、たとえ借り物の理想といえども
誇りを持って、声高らかに言えた筈なのだ
正義の味方になると
しかし、今では言えぬ。
ただただ、敵を屠り続けるだけなのだ。

そうしてまた、今日
散らかされた世界を掃除しに行くのだ


ドシャッ! ズシャッ!
肉を絶つ
ガジャッ!ギィンッ!
骨を絶つ
二本の無骨な剣が月光に光り、線を描き出す
ただ相手を殺すだけの剣線

左手を繰り出し右手を切断し、右手を繰り出しては足を両断する
そして一閃

「まだ中心地でも無いのにこの敵の数、侵略範囲を広げている?
 それとも狩りでもしてるか」

ふんっと、両刃に付いた血を振り払う

「ま、どちらにせよ狩るだけか」

そうだ、やる事に変わりなど無い
全ては予定調和の如く
静かになった辺りを見回しつつ呟く
死屍累々と、人で在ったものが散らばっている
紅く大地を染め上げ、鼻腔に饐えた匂いを運ぶ
ズキッと、頭の奥が疼く
紅はあの場面を呼び起こす、磨耗しているはずなのに

「チッ、やはり原初だからか・・・」

頭を振るい、息を吐く。
目を瞑り、体を弛緩させる。
一度、二度と深呼吸。
そして、四肢に息を吹き込む。
前へ行くために。

そうして、中心部に向かうために走り出そうとすると前方に倒れこむ人影を見つける。
その数百メートル後ろに疾駆する影も。

「生存者?珍しい事が在るもんだ、今回は掃除だけじゃ無い様だな」

皮肉な笑みが浮かんでしまう。
そして私は踏み出した、その一歩が
懐かしい日々、そして人々との邂逅に繋がる一歩だったのだ

interlude out

邂逅

私は息を呑んで、目の前で起こっている光景をただ呆然と見ていた
理解が出来ない、頭が拒絶反応を起こし爆発しそうだ
情報を処理しきれず、口は開きっぱなしだ
喉はからからで、唾さえ飲み込めない
多分、阿呆な顔をしている事だろう
それだけは分かる

そして、脳が情報を咀嚼して理解出来る様になったのは
その紅い騎士が、皮肉と嘲笑と心配げな感情を織り交ぜた様な

「どうしたお嬢さん、阿呆な顔を晒したままで」

と言う、台詞を聞いた時だったのだ。

少し、状況を整理してみようと思う
5分も前だと思う、私が前を向き立ち上がろうとした時に
紅い騎士が目の前に立っていた

何の音も立てずに、目の前に立ち
其の身に纏う紅い外套をはためかせて
私の後方を、射る様な目で睨んでいたのだ
それに釣られる様に、私も後ろを見て
あの黒く疾駆する、村を人々を殺したモノを改めて認識したのだ

瞬時に前方に顔を戻し、大地を抉るくらいに力を込めて手を突き出す
逃げなくちゃっと言う一心で手を動かし、足を立てようとする
しかし、ふわっと
頭に乗せられた手によって一歩も進めなくなってしまった
どう言う理由かは知らないが、任せても大丈夫なのだと体が理解してしまった
すとんと体を落とし、その手の張本人を見上げようと顔を上げると
瞬時に、後方に移動する紅が目に
その影響で生まれた、強い風が顔に
もう嗅ぎ慣れてしまった血の匂いが鼻腔に
空間を裂く様な音が耳に

「あ」

と、惚けた様に声をあげ後ろに振り返る
そうして、呆然と魅入ってしまった原因を前にするのだ

それは千と線と尖の共演だった

数多の尖が、月の光りを浴び線になり、向かってくる敵に対してと千なる
そんな光景だった
いつか見た、見る人に憧れや尊敬を想起させる演舞じゃ無く
ただただ死や殺意しか感じられない、黒と白の織り成す必殺の演舞
しかし、それを美しいと感じた
その剣に慈悲を、誇りを見たのだ

散れじれに飛ぶ指らしきもの、頭を四つに切り裂かれて飛び出した目さえ両断
胴は袈裟に斬り、そして腹は一閃
飛び出す腸に、白を引っ掛け引きずり出し
黒で下半身に斬りかかる

そんな解体作業のような光景が、四つ
瞬く間に行われる
後に残ったのは、一人紅い舞台に立つ紅い騎士だけだった


そうして、そうして私は今
その紅い騎士に荷物の如く肩抱きにされて運ばれている

何処に行くのだろうか、肩に抱かれた状態で考える
あぁ、視点が高いなぁ
そういえば誰なんだこの人は
駄目だ、思考が支離滅裂だ。上手く考えが纏められない

と、揺れる体。痛みが走る

「いっつ・・・痛い、体が・・・
 もう少し、丁寧に運んでよ」

文句が出る、不思議だ。さっきまであんなに悲しい思いが胸に溢れていたと言うのに。
現金なものだ

「む、我侭なお嬢さんだな。助けた本人に、それに運んでやってるのにそんな口を聞くとは」

しかし、そんな憎まれ口を叩きながらもこの紅い騎士は丁寧に運んでくれた
そして、痛みによって覚醒した思考で私はこの騎士の観察をはじめた
まずは身長だ、190在るだろうか、かなり高い
均整の取れた体をしていると思う、すっきりとしていてそれで硬い
ゴツゴツと、村にいた力持ちの漁師さんみたな筋肉
そして目を少し上げる
頭髪は銀髪、いや白髪なのだろうか
くすんだ感じで、染めて出したような色じゃ無いと思う
肌も褐色でオールバックにした頭髪とよく似合っている
最後に身に着けている物だ
なんと言えば良いのだろうか、布でいいのだろうか。頬に当たる肌触りが今まで感じた事の無い感触だ。
紅に染め上げていて、それを身に纏っている。今思うと紅い騎士じゃ無いような気がしてきた
さっきは剣を持ってたからそう思ったが

「あれ、そういえば・・・剣は?」

腰に下げている形跡も無く、収納する様な物も持っていないので聞いてみた

「剣?あぁ、捨てて来た。少し刃こぼれしていてな」

「なっ!?それじゃ、またさっきの黒いのが襲ってきたらどうすんのよ!」

「フンッ、そんな事はお嬢さんには関係なかろう?
 そんな事より、大人しく担がれてろ・・って、暴れるなっおい!」

「うっさいわね!私はこんな所で死ねないんだからっ、こらっ聞いてるの!?」

ジタバタと手足を振り回してみるが、全然揺るがない
少し回復していた体力も、暴れて無くしてしまった。手足が弛緩する
顔が下がり、背中に目が行った。なんて大きな背中
自信たっぷりな背中を目の辺りにして、少し顔が赤くなる

「う〜、なんで私がこんなの見て顔赤くしなきゃいけないのよ・・・」

ボソリと呟く
「何か言ったか?」

「なんでもないっ!」

「む、何を怒っているのだ・・・」

そんな拗ねた様な声を聞き、少し笑ってしまった
気が抜けてしまった、あの紅い世界から逃げてきて
黒いモノに追いかけられて、緊張をし続けていた糸が
ぷつんと、音を立てて
視界が白く弾けた

「気を失ったか、君にひと時の安らぎが在らんことを・・・」

そんな優しい声を聞きながら
白い白い世界に

邂逅 interlude

私がその少女に出会った時、多分何かが始まったのだろう
それは小さな歯車だったのだと思う、そう、本当に小さな小さな歯車だったのだと思うのだ
そして、動きは連鎖を起こす
小さき歯車から大きな歯車へと
幕があがったのだ、暗い暗い舞台にスポットライトが差し込んでくる


私は少女の前に立ち止まる。こちらに気づいて無いのか動くそぶりを見せない
いや、手が、足が進もうとしている。前へ前へと
満身創痍の身、所々に裂傷が走り血が流れている
質素な白いワンピースを紅く染め上げ
こんな所でと、泣けないとかみ締めた唇からもらしながら
手は土を抉りつつ拳を作り、足は何度も何度も立とうと繰り返す

そんな姿が、何故か彼女と重なったのだ

interlude out

休息

ドサッ

「へ?あぁ?あぁ!?」

荷物を放る様に投げ出された、我が身
情けない声をあげて、地面と接着する。よかった、唇は守れた
眠気の醒めない頭でそれだけが浮かんだ

「って、何すんのよ!?ふ、普通放り投げるかっ?!」

そして、瞬時に覚醒。がぁーっと叫ぶ、多分髪も逆立っているはずだ

「何、寝ていたのでな、こうすれば嫌でも起きるだろうとな。
 いやいや、重かった。それなりの報酬を要求したいな」

方頬を吊り上げつつ、ふっと笑う
に、憎たらしい。それに重いですって!?私の何処が重いってのよ!
これでも村じゃ、一番のスレンダーボディで通ってたんだから!
口には出さずに心で思う、多分、スレンダーボディなんて口に出したらまた何か言ってくるのだ
絶対だ

「うぅ〜〜、もうっ、なんだってのよ!」

唸って、精一杯睨んで見ても相手はなんのそのだ
クツクツとこちらを見て笑ってやがる、あぁーもうっ
そして、また効きもしないだろう文句を言ってやろうと口を開きかけると
在ろう事か、優しげに目を細めてこう言ってきたのだ

「もう、大丈夫か?」


「うっ・・・」

駄目だ、絶対駄目だ。今赤い、顔赤くなってる
こんな奴に見られたくないので、瞬時に顔を下げる
声にならない呻きをあげてしまう
くそ、そんな不意打ち卑怯だ

「さて、少し傷を見よう。止血位しておかないとな」

こっちの気も知らずに暢気に言ってくれる
顔を上げられぬまま傷を見られる

「むふ、大小様々な裂傷・打撲に打ち身か。
 骨折などはしていないようだな、今の所は止血だけしかできんな」

テキパキと作業を行なっている、慣れたものなのだろう
沈黙が落ちる。
うっ、何この間は。
沈黙に耐え切れず、目の前で作業をしている紅い騎士に目をやる
すると目が合った、ずっとこちらを見ていたのだろうか

「な、何よ」

語尾が尻窄みしてしまう

「いや、何、体の方はなんとも無いかと思ってな。
 外から見れるのは限られる、内の事は本人しか分からんからな」

真剣な目と口調で言われる
何とか顔が赤くなるのを抑えながら

「な、なんとも無いわよ。大丈夫、意識もしっかりしてるし記憶も在る。
 少し喉が渇いてるって所ね」

「そうか、少し待ってろ。すぐ側に川が在る、水を汲んでくることにしよう」

「あ、ありがとぅ」

沈黙が流れる

「何よ!?」

「いや、顔を赤くしながらのお礼も乙な物だと思ってな」

にやりと、笑いながらそんな事を言う

「!!!?
 は、早くいけっこのバカ!!」

すぐ手元に在った石を投げつける、一発目
外れ
すかさず第二段、今度は少し大きめだ。手によく馴染む、これなら
ガスッ
やった、当たった!

「つぅー、何をするんだ君は!
 なかなかに効いたぞ今のはっ!」

「煩い煩いうるさーい!
 さっさと行け、このバカーーー!」

後はもう手当たりしだいだ、大小織り交ぜた石やら砂が飛ぶ
しかし、それらは当然の如く騎士には当たらず
そんな、私の癇癪を見てヤレヤレと少し苦笑を浮かべ
頭を掻きながら騎士は去っていった

「はぁー」

ため息が出た、大地に四肢を投げ出し空を見上げる
深い深い蒼だ、まだ夜明けには遠いのだろう
そしてさっきまで漂っていた、血の匂いはまったく感じられず
体験した紅い世界が幻だったかのように錯覚してしまう

目を、瞑る

そして次に目を開けたときは、暖かな日を受けてベットから起き上がるのだ
父に、母に朝の挨拶をし、昼は外で友達と遊び
夜は優しい老婆に昔話をねだろう
そうして、また眠るのだ。ふかふかの、太陽の香りがするベットで

なんて、夢想

それは逃避だと、全身に受けた傷が叫ぶ
じぐじぐと、ぎちぎちと
やめろ、むだだ、あきらめろ、みとめろ、めをひらけ
そう口々にがなりたてるのだ
そして、意識を現実に
思考はクリアに、記憶を見る
あの叫び声を忘れたのか、あの素足の裏に感じた感触を感じないのか
逃げる時の背後に迫る圧迫感が分からないのか、そして見た

あの、死と慈悲と殺意と誇りの剣舞を
そして担い手を
お前は忘れたのか

「そう・・・だ、そうだっ、あぁ・・・あぁ!」

涙が出そうになる、でも、泣けない
泣いちゃ駄目だと思うから、頑なにそう思ってしまう自分が居る
自分は生きた、あの紅い世界から生き延びた
ならまだ生きなくちゃ、これからもその先もずっと
だから泣けない
泣いちゃいけないんだ

「何故泣かない」
そんな酷く冷たい声が、耳に響いた

休息 interlude 

なんて無様
幾千幾万を持ってしても、いまだに自分を理解できない
少女がいつか見た彼女に似てる?
違う、違う、違う!
まったく似ていない、じゃぁ、誰に似てる?
私だ!

うっすらと、磨耗しきった記憶を持ってしても分かってしまう
あの紅い世界、焼け爛れた家屋や人々
そうして、天をもつかもうとする強大な禍々しきモノ
今までの自分が死に、新たに名を貰い生まれ変わった
だが、しかし、私のすぐ後ろには、あの惨事の時に見捨てた人々が
死屍累々と、呻き声と悲鳴と怨さの声に満ち溢れ
ほうほうと、手を伸ばしてくるのだ
そうして捕まり、私は己に呪いを掛けた
その身にかかる、重たい想いをやり過ごすために
救ってくれた者になりたいが為に

彼女は、私になるのだろうか
それとも

interlude out


「え?」

その、冷たい声によって全てが凍りついた
世界が凍り、感情が凍り、生きとし生けるもの全てが凍った
そうして、紅い騎士はまた繰り返すのだ

「何故泣かない」


思考が落ちる、深い深い場所へ
感情渦巻く表面より、さらに奥に
そうして、私の答えを見つけよう
この冷たい声の主に突きつけてやるのだ、偉そうに、胸を張って

「何で泣かないのか、か・・・
 私、村で聞いた叫び声が忘れられない。
 素足に感じたあの感触も、そして、あの黒い影も忘れられない。
 多分、ずっとこれからも夢に見て、何度も何度も起きて、泣いちゃうと思う。
 でも、でもね、貴方の見せたあの死と慈悲と殺意と誇りに満ちた剣舞も覚えてる。
 美しいと思った、悲しいと思った、凄いと思った
 そして、その担い手の貴方に笑顔を貰った。
 笑顔を貰ったんだよ、嬉しかった。
 だからだよ、私が泣かないのはそんな理由だと思う」

「そんな、たったそんな事でか。
 そんなちっぽけな事で君は泣かないと言うのか」

「ちっぽけじゃないよ、私に取っては凄い大きな事なんだよ?」
仁王立ちしている紅い騎士に近寄る
そしてきつく握られた手を両手で包み、彼を見上げる
「貴方にどんな悩みがあるのか、それは私には分からない。
 でも、でもね、その答えは多分凄く身近に在るんだと思う。
 私が貴方に笑顔を貰ったように」

にっこり笑う、貴方に貰ったものを返せるように
誇るように


剣戟 interlude 

罵声、怒声、奇声、人だった物からあがる声の中
ふと、懐かしい日々を思い出した。
周りに溢れる雑音に反比例するかのように、思考は深い深い底へ
私が、正義の味方を目指したエミヤシロウが、本当の意味でセイギノミカタになるに至った日々を
そして、懐かしい人々を

私は彼女に、今回の掃除・・・
いや、今回は守護者と名乗っておこう

彼女に欠片を貰った、小さな欠片だ
それは、懐かしい日々と人々とそして、かつて抱いた思いを蘇らせてくれた
しかし、まだ答えは見つかっていない。

「そろそろ私は行く事にする」

手を握り、私を見上げる彼女を見つめつつ

「行くって・・・行くって何処に?」

心配そうに言う声が、耳に心地いい

「村にだ。
 今回起こった厄災の後片付けにいかねばいけない」

「何それ、なんだってあんたがそんな事しなくちゃいけないのよっ。
む、この変わり様と健啖ぶり・・・やはり彼女か?
 ちょっと!きいてんのあんた!?」

「聞こえている、そんな大声を出すな。
 まったく、もう少し君はお淑やかにした方がいい。
 男が出来ないぞ」

ついつい、そんな皮肉が出てしまう。許せ

「またっ、またそうやって失礼な事いう!
 何だってあんたはそんなに失礼なのよ!もう、心配してるのに・・・」

「おや、心配してくれているのか?」

「うっ、ま まぁ、助けて貰ったしね。
 私は借りた借りは返す女なのよ、言うなればアレよアレ・・・
 えぇっと、なんだっけか」

「ふむ、等価交換か?」

「そうっ、それよそれ!」

笑いが込み上げて来る、彼女の口癖がこんな所で聞けるとは
守護者も中々良いものかも知れんな

「ちょっとー、何笑ってんのよ。聞いてる?人の話」

「あぁ、聞いている。それで等価交換の話だが、もう貰った」

笑顔が溢れる、久しく笑ってなかったが笑顔が出るとはな
本当に十分な物を貰った

「ありがとう」

「う、あ、う・・・うぅ〜〜」

クツクツと笑いが漏れる
此処まで赤いとはな、中々見れるものでは無い
周りに目をやる
地平沿いが白くなってきた
そろそろ夜も明ける
新しい一日がやってくる

「此処から川にそって下れば村が在る。
 君は今から其処に行って、この事を伝えるんだ。
 そして保護してもらえ」

「もう、本当に大丈夫なんでしょうね?」

「あぁ、大丈夫だ。それに、君らが来るまでには全て終わっている」

「・・・分かった、其のときは私も行くから。絶対、絶対だからね!」

頷くだけで、言葉は返さない
背を向け、村に向かって歩き出す
そうして、数歩行ったところで後ろから声が掛かった

「あっ!忘れてた!
 あんたの名前、名前なんていうのよー!」

今の今まで忘れていたようだ、本当に君は

「エミヤだ」

「エミ・・・ヤ、エミ・・ヤ、エミヤ、うんエミヤね!
 分かったっ、エミヤ死ぬんじゃないわよー!
 あ、後っ、私の名前!
 私の名前はー!」

さぁ、行こう
彼女に貰った欠片を抱いて
いつか得れるだろう答えを求めて

interlude out 

行っちゃったか、よしっと
体は動く、頭も万全、気合も十分
村から離れての道中は難しいかも知れない
でも、大丈夫
彼の笑顔が胸に在るから、あの仏頂面からは想像できないような可愛い笑顔だった
だから、大丈夫
私もエミヤも
だから行こう
日が昇り始める
新しい一日だ

interlude 

日が昇って来たな、この分なら彼女も無事村に着くだろう
彼女は強い、気高く強い
挫けぬ心を持っている、だから大丈夫だ
後は、私だけ
幾千幾万の戦いはこの為に在ったのかもしれん、だから、簡単だろう?
エミヤシロウ

村に着く、有象無象がひしめく天外魔境
だが、それをなんとする
両手に構えるは、干将莫耶
黒と白の一対の剣
さぁ、行こう
魑魅魍魎の跋扈する戦場を
ただ一人、孤高に舞おう

手始めに一匹、飛び掛ってきたところを黒で一閃し両断
そのまま続けざまに、左に居た一匹を白でニ閃し分断
捻る様な回転を体に加えながら、後方に居た一匹に向かい干将莫耶で四断する
味方がやられた事に気づき、集まってくる黒い影
歪に膨れ上がった、腕や足
拳を地面に引き釣りながら向かってくる巨体
思考も戦略も何も在ったものじゃない、ただ拳の塊を突き出すその様

ギィィィィンッ

火花が散る、黒が悲鳴をあげる
逸らされる拳を後ろにしながら、拳を支えきれなくブチブチと音を上げる腕を白で切り落とす
痛みに叫び声をあげ、狂ったように全身を投げ出し突進してくる
転がるように前方に飛び、両足の腱を絶つ
膝立ちにたつ巨体に向かい、黒で首を一閃
続々と現れる黒い影、どれも歪で統一性が無い
胴に顔が在る奴も居れば、一匹を腕の変わりにしている奴も居る
腰から下に足が八本生えてる奴も居る

そんな地獄から這い出たような奴らを、私は今から屠るのだ
周りを円に囲まれる、中央で干将莫耶を構え迎え撃つ
意味をなさない奇声をあげる黒い影
涎を垂らし、目を見開く黒い影
両手を地面に叩きつけ、威嚇する黒い影
少し離れた場所では、同士討ちさえ始まっている
そんな光景を見つつ、意識は冴え渡り思考は深い底へ
そうして私は紡ぐのだ、ただ一つにして絶対の魔術を

呟きがもれる、小さな小さな声
                    体は剣で出来ている
深淵より浮かんでくる呪文
                   血潮は鉄で、心は硝子
両手に下げていた干将莫耶が消える 
                  幾たびの戦場を越えて不敗
声を潜め、訝しげな声を上げる黒い影
                   ただの一度も敗走は無く
全ての魔力回路に鉄が振り下ろされる
                  ただの一度も理解されない
両手に魔力が流れ
               彼の者は常に一人、剣の丘で勝利に酔う
両足に魔力がこもる
                   故に生涯に意味はなく
エミヤを中心に渦がまく
                 その体はきっと、剣で出来ていた

       そうして、世界の侵食が始まった

無数に並ぶ剣の丘
幾多の戦場で見、数多の戦場で手に
そして今は此処に眠る

手を振り上げる
それに合わせるかのように浮かび上がる数々の剣
顔を上げ、周りを見る
固有結界に囚われ、静まり返った黒い影
手を振り下ろす
それで終わりだった

interlude out


運命

日が昇りきり、彼女が住んでいた村を歩く
水を汲むために毎日歩いた道を、純白だった教会を見上げながら歩く
痕跡は残る、過ぎ去ったものを変える事は出来ない
彼女はこの光景を見
また、慟哭をあげるかも知れない
しかし、泣かないのだろう
力一杯胸を張り、笑うのだろう
そう、目を瞑ると浮かび上がる
鮮明に

そうして、私もまた戦うのだ
彼女から貰った物を胸に抱き
答えを、私にとって唯一の答えを得るために
あの日、紅い世界
そこで掴んだ理想を

懐かしい日々を思い出した
そして懐かしい人々を

キリキリと歯車の音が聞こえる
今は小さい歯車だが
その動きは連鎖を起こす
そして、大きな歯車が動き出すのだ

幕が上がる、運命と言う舞台がもうすぐ始まる




To be continued
next stage Fate/stay night Unlimited Blade Works










あぁ・・・やってしまった、完全妄想弓オリジナル
こんなカップリング聞いたことねぇ!

ちょっと解説つうか、舞台設定なんですが
アーチャーが守護者となっている時のお話です、で、本編の一つ前が舞台
凛に呼び出される何万分の一の確立とかじゃなく、アーチャーが彼らを、凛を思い出したから呼ばれたと。で、磨耗しきった記憶から思い出させるのは至難の業、だったら追体験と言うかもう一度同じような状態や似た人に出会えば思い出すのでは、と。
そんな事を考えて書きました、SSというを書くのは初なので至らない、読みづらいとか在ると思いますが、楽しんで頂ければ嬉しい限りです。

それでは、また何時の日か


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