汝・超え行く者 前編  M:セイバー(桜ルート救済) 傾:シリアス・バトル


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1: るー (2004/03/22 07:23:03)[ruminasu901 at hotmail.com]


桜シナリオ「バースト」からの分技です。
よってオールクリア推奨。











セイバーとライダーの何度目かの衝突。
機会を待ち、赤い布を握り締める自分。
壊れた体は感覚のほぼ全てを放棄し、命を繋ぐことにのみ執念を燃やす。
ライダーの不利は明白。衝突を繰り返すたびにそのクラスに示された速さが失われていく。
自らの攻撃が功を奏さないとわかっていながら、それでもライダーは攻撃を繰り返す。
否、ライダーにとって今や、攻撃こそが唯一の防御でしかなかった。
負ける。
このままでは明確に、敗北という図式を描き出す。
それを覆す切り札は、ある。
腕に巻かれた赤い布。
緩める。
意識が壊れる。皹。砕ける音。否、砕けてなどいない。だが、確かに砕ける音が聞こえる。
はっきりとした心音。不自然に途切れるその音。途切れ、聞こえ、また途切れ。
自分が生きているのかすらの認識にすら皹が入る。

何かが砕けた。

それが何だったのか、もう思い出せない。
酷く大切だったものだった気がする。
雑念を削る。目の前の光景に集中。
黒いセイバーの剣が灼熱した。来る。
ライダーは、離脱。助走距離は確保――!
二人の英霊の意思が交錯する。


「”騎英の”――」
ライダーが自らの宝具の真名を開放するべく、紡ぎ上げる。
そして、セイバーもまた黒い光を掲げる。
「”約束された”――」
紡がれる名。黒と白。

「”手綱”――――――!!」
「”勝利の剣”――――――!!」

交錯。押し負ける。当然だ。
なぜなら、それはライダー自身が言っていたことなのだから。
だがそれを覆すために、自分はここにいる。

「投影、開始」

紡いだ言葉が酷く空虚に響く。
この言葉を紡ぐきっかけはなんだったか、ふとそんな思考が浮かび、振り払う。
検索。終了。
脳裏に浮かび上がるそれは美しき花の盾。

「”熾天覆う七つの円環”―――!」

それが、ライダーの白い輝きを覆う。
これが切り札。1で敵わぬならば2で挑む、ただそれだけの単純な、だが単純ゆえに強靭な切り札。
同時に自分の体が軋む。
止めろ。そうしなければ死ぬ。
何かが訴える。だが、そんなことをするわけには行かない。
やれば、ライダーが死ぬ。

自分が消えていく。
白が、優勢に回る。

「”約束された”――」

耳に聞こえたその言葉。
ありえない。
宝具の連続使用など、予想していない――!

「”勝利の剣”――――!!」

黒が二重。そう、単純な図式。自分達が今証明したとおりに。
もう考えなど無かった。
押し戻されるライダーの姿を見て、考えることなどできなかった。

  サーヴァントはマスターと同じ何かを持つ

そんな言葉が頭をよぎる。

  桜は私と似ていた。

内に闇を抱え、望まぬ呪いを受けた二人。
似ている。

  だから、俺は。

ロー・アイアスが消し飛ぶ。その一瞬、宝具の力を失ったライダーがその見を晒す。
間に合う。自分の手が、ライダーを突き飛ばした。
それは理屈じゃないけれど。
ここでライダーを見殺しにすることは、即ち桜を見殺しにすることと同じような。
そんな気がして。
黒い閃光が自らに襲い掛かる。視界が弾け飛ぶ。










だが、この感覚は何かおかしい。






「あなたが、私の鞘だったのですね」
ずたずたに切り裂かれ、それでも死ななかったこの体。



痛い。
何故だ?
この体はもう傷みも感じることができなかったはずなのに。



赤い騎士が立っている。
「アーチャー。お前、後悔してるのか?」
「無論だ。オレ・・・、いや、お前は、正義の味方になぞなるべきではなかった」
「――そうか。それじゃあ、やっぱり俺たちは別人だ」
赤い布に封じられた、アーチャーの、もう一人の自分の腕。



痛い。辛い。悲しい。悔しい。
一つ一つがまるで今生まれたかのように俺の中にあふれてくる。
自分が目指していたものの姿も。



様々な、自分の死に様、自分の生き様。
何もできず、諦めて死んでいく自分。
最後まで諦めず、絶対に敵わないとわかっている相手に挑みつづける自分。




「――その道が、今までの自分が、間違いで無かったって信じてる」




ああ、なんて単純な勘違い。
ずっとそう自らに言い聞かせてきた言葉。
桜を救いたいが故に捨てた理想。
理想よりも桜を選び、自らが切り捨てたものの思いを踏みにじった。
だが、もし許されるなら。
自分はもう一度。
皆のための正義の味方になりたい。
だって、そうでなければ。
衛宮士郎は、衛宮士郎として彼女の元に行かなければ。
彼女を余計に追い詰める。
優しすぎるが故に怯え、優しすぎるが故に憎む彼女を。
彼女は衛宮士郎を衛宮士郎でなくしてしまった自分を責めて、追い詰める。

単純なこと。
誰かのために戦う正義の味方。
でも、自分のために誰かが傷ついたとして、自分は我慢できたのか?
セイバーが傷つき、それでも戦おうとしたあの時は? 否。
切継が人知れず傷つき、戦っていたことを知ったあの時は? 否。
桜が、あれだけの傷を抱えながら賢明に笑顔を浮かべていたことを知ったあの時は?
・・・もう、応える必要も無い。
だから、自分は傷ついてなんかやらない。
傷つきながら誰かを救ったって、救った人を苦しめる。
だから、俺は。












衛宮士郎は、『自分も含めた全てを救うための正義の味方』に、なりたい。
















意識が戻る。黒に包まれた中で。
それでも俺は立っていた。痛い。血の流れまで感じる。
頭の中が今までのおぼろげな物を振り払ったようにすっきりしている。
セイバーはこの黒き光を何と呼んだか。
≪エクスカリバー≫
騎士王アーサーが持ちし聖剣。その光を正面から受けて立っていられるものなどいないはずなのに。
黒の向こう側で、セイバーが驚愕の表情を浮かべていることすらわかる。
「セイバー、お前に俺は斬れないぞ」
そう、斬れる訳が無い。
この身には、その聖剣を納め、その力を封じるためのものが宿っているのだから。

聖剣の力の一つや二つ、飲み込めずして何が『全て遠き理想郷』か。

黒が消える。いや、正確にはこの体の鞘が彼女の魔力を吸収したのだ。
「シロウ・・・、貴方は一体・・・!」
「・・・アルトリア」
俺が口にしたその名に、セイバーが身をこわばらせる。
「今のお前が正しいのかどうか、俺が試してやる」
そう、今の彼女が騎士王として聖剣を振るうに足る存在か。
だから、投影するのはあの剣以外にありえない。
「投影、開始」
その記憶は、自分ではない自分が見た記憶。
なぜこんなものが宿ったのか、半端な知識を繋ぎ合わせれば一応の説明はつく。
アーチャーの腕。
先行した遠坂が振るっているだろう、宝石剣。
そしてそれによって開かれた並行世界へのチャンネル。
いくつもの世界に存在している俺の、強い記憶と思い。
それが、アーチャーの腕という『もう一人の俺』を媒介として流れ込んだ。
その記憶の中、選び出した剣。
その剣の名は『王を選定する岩の剣』・・・、カリバーン。
「・・・!?」
「砕いて見せろ、今の自分が間違っていないと誇るなら・・・!」
「シロウ・・・!」
黒きセイバーの剣がカリバーンを打つ。折れない。
「・・・っ!?」
折れるはずが無い。なぜならカリバーンは正しき王を選定するためのもの。
王たらぬ者の剣に砕かれるようなものではない。
「りゃああああ!!」
気合。セイバーがその直感で避ける。
カリバーンの維持で魔力回路が爆ぜる。そのときになって気が付いた。
焼ききれていたはずの魔力回路が整然としていることに。
そう、さっき自分で言ったはずだ。
エクスカリバーの力を飲み込めずして、聖剣の鞘でありえるものかと。
そして、聖剣の鞘はあらゆる傷を癒し尽くす。
だから、この壊れかけていた体は既に、完全。
だが、最強のサーヴァントたるセイバーを上回れるはずが無い。
はずが無いのに、彼女の剣の一つ一つが今の俺には見て取れる。
そうだ、この身に宿った記憶にはあの赤い騎士との戦いすら刻まれているのだから。
受けに徹する限り、彼女の剣は十分に見切れる。だが、それだけでは勝てない。
「・・・!」
セイバーの顔が歪む。王を選定し、一度は彼女を選んだ剣が彼女に牙を剥く。
それは明確な傷を与えているわけではない。だが、何よりも彼女の心を追い詰める。
「カリバーン・・・! お前は、私が間違っていると言うのですか・・・!」
俺の手の内にある剣は聖剣の凄まじい一撃を何度もその身に受けておきながら、未だに刃こぼれ一つ見せない。
迷い。セイバーの剣にそれが浮かぶ。ひとたび戦闘に身を投じれば決して動じず、眼前の敵を圧倒したあの騎士の剣に。
カリバーンを消す。投影開始。
イメージは容易い。なぜならそれは俺自身でもあるから。
魔力回路が爆ぜる。いくつかが焼き切れ、弾け飛ぶ。恐れることは無い。
なぜなら俺が用があるのはその先だから。その先の、強化でも投影でもない、『あれ』を為すためにだけに特化した魔力回路。
「セイバァァァァァアアア!!」
武器も持たず飛び掛る俺を、自分のあり方に混乱を覚えた彼女は防げない。
この右手にある物を、彼女に叩きつける。剣でもなく槍でもなく弓でもない、それは鞘。
全て遠き理想郷、アーサー王が死後にたどり着くといわれるその名を受けた鞘、アヴァロン。
それをセイバーに叩きつけるように投げつける。
「あ・・・あ・・・、ああああああああああああああ!!!!!」
眩い光に捕われ、セイバーが悲鳴をあげた。





「・・・士郎」
ライダーが呆然と近寄ってくる。
光の球体の前に立つ俺に、ライダーが近寄ってきた。
「・・・契約不履行です」
「すまない、ライダー」
事故封印の眼帯を付け直したライダーは、その口元に微苦笑を浮かべている。
サーヴァントが守られた、というのは確かに笑い話だろう。
そして、その上さらに俺がセイバーを倒してしまったわけなのだから。
「士郎、これは?」
ライダーの目は光の球体を見つめている。光の中から闇が少しずつ流れ出ている。
「・・・浄化、ってやつかな」
セイバーを救う、そう思ってやったこと。だが、その手を取るかどうかはもう彼女次第だ。
俺が彼女に与えたのはきっかけ。
彼女に過ちを気づかせ、誇りを取り戻させる。全てを俺がする必要は無い。
鞘に守られた彼女には泥の影響は及ばない。だから、泥の意思に引きずられることも無い。
自分のなすべきことを自分の意志でつかめるはずだ。
だから。
光が消えたとき、そこに立っていたのはあの白銀の鎧をまとう騎士の姿だった。







Interlude―――

黒に飲まれてからの自分は一体なんだったのだろうか。
自分が守ると誓った少年に剣を向け、騎士の誇りなど無い戦いで狂戦士を圧倒した。
命じられるままに自らのうちにあった怒りをぶつけた。
そう、どうしようもない怒り。
それは歪みとも言えた。
滅びた国、部下の裏切り。
全てが自分が至らなかったせいだと責めつづけ、それゆえに求めた聖杯。
そう、あの闇に飲まれたのではない。あの闇に挽かれた。
自分なんて居なければ良かったんだ。
そう訴える闇が、自分の後悔とあまりに似ていて。
だから私は、あの闇から逃れることができなかった。
でも、闇の記憶の中にはあの男の姿があった。
衛宮切継。自分のマスターだった男。同じくマスターだった士郎の養父。
その男が、何年もの間耐え続け、苦しんでいたものと同じ物を受け、私は。

あっさりと、その全てを投げ渡した。

その差を、私は今否応無く思い知らされる。
切継は本当は強かったのだ。10を救うために冷然と1を犠牲にし、それを間違いでなかったと言うことができた。
私は彼に反発していた。否、きっと嫉妬していたのだ。
彼がアーサー王だったなら、私が起こしてしまったような悲劇を起こさずに済んだかもしれない。
そう思って、嫉妬していた。
そして、士郎も、私などよりもずっと強い。
今自分を守っているこの鞘は彼の半身。それゆえに長年刻みつづけた彼の傷が、長年抱えてきた彼の思いが、一つ一つ刻まれる。
多くの命と引き換えに生きのびた彼。
その罪の意識ゆえに、正義の味方に憧れた彼。
その全てを放棄してまで、たった一人救いたい少女のために命をかけた彼。
そして今、養父である切継すら超えて、10いるなら10全てを救う、そのあまりに困難で、同時にあまりに気高い意思で立つ、衛宮士郎という男の意思が。
その強さが悔しくて。悔しくて悔しくて泣けてくる。
だって、彼はこれから先の人を救うことにしか意思を向けていない。
過去の犠牲の上にたって歩いている。
亡くした者達の思いを背負って、歩いている。
亡くした者達の慟哭も何もかもをその身に背負い、切り捨てるべき少女すら救い、殺すべきだった障害すら救って。
一瞬一瞬で、自分も含めた何もかもを救うために戦っていく。
悔しい。
英雄と呼ばれたこの身のなんと矮小なことか。
だが、羨むだけでいいわけがない。
私の先などたかが知れている。それでも私は。




彼の様に生きてみたい。




そう、そのためにまず。
いまだこの身と契約が続いている、後悔に潰されかけた少女を救いに行こう。
私は二度もマスターを裏切る汚名など被りたくは無い。






     ―――Interlude Out











「シロウ、迷惑をかけました」
彼女は申し訳なさそうな、それでも凛とした意思のある顔でそこに立った。
「ああ、迷惑かけられまくったよ」
そう言って、俺はセイバーの肩を叩く。
「行くぞ、セイバー。俺たちにはお前の力が必要だ」
「もちろんです、シロウ。この身はマスターの心の剣となり盾となる。ならばサクラを苦しめるあの闇こそ私の敵」
そこまで言って、セイバーは瞠目した。
「シロウ。裏切り者の私に対する処罰はその後にお願いします。サクラを救う事もできずに死ぬのは」
皆まで言わせず、俺はセイバーの頭に拳を落した。
セイバーがえらく間の抜けた声で「あいた!?」などと悲鳴をあげるのを聞き、笑いが漏れる。
「な、何をするのですかシロウ!?」
「うるさい、それが処罰だ。黙ってもらってろ」
「・・・」
セイバーが沈黙する。その眼は、『こんなのが処罰ですか?』という驚愕と疑問に満ちていたがあえて無視。
その間に俺はライダーを振り返った。
「ライダー、いけるか?」
「大丈夫です、士郎。それより士郎こそ、あれだけ投影を繰り返して体のほうは・・・」
「ああ、もう大丈夫だ。だからライダー、それにセイバー」
俺は二人の英霊を見て、



「桜を、迎えに行こう」








作者より
FateSSは初挑戦です。雰囲気を壊さないように頑張ったつもりですがどうでしょうか。
ご都合主義でも全員ハッピーが好きなのでやっぱセイバーも助けたかったというか。
おかげでDEAD ENDを素で踏みましたが。
とりあえずありがちなセイバー救済SSですがお楽しみいただければ幸いです。
後編はこれにレスでつけますのでよろしく。


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