Re.聖杯戦争 ぁ〃后Дロスオーバー


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1: あるとす (2004/03/22 01:23:34)[zeru46 at hotmail.com]



 あぁ、なんて蒼い月。


 私は森の中から空を見上げ、黒い空の中一点輝く月を見据えながらそう思った。
 その月に向かって無意味に手を伸ばし、握る。
 やっぱり届かないな、なんて思って軽く自己嫌悪。なんだって月を掴もうと思ったんだろうか。
 それがあまりにも綺麗だから。それがあまりにも儚いから。それがあまりにも冷たいから。
 月が欲しい。月になりたい。冷たく、大きく、光を発する月が欲しい。何も考えず、ただ在るだけの月になりたい。
「なんてね・・・」
 吐く息が白い。季節的にはそんな寒くないはずなのだが、この森の中は何故か寒い。
 温度的なものもあるがそれ以上に”空間”として冷え切っている。夏に来ればいい避暑地になるのではないだろうか、肉体的にも、精神的にも。
 だがやはり避暑地にはなれないかもしれない。ここは血の気配が強すぎる、死の香りが近すぎる。
 要するに結界、森全体に充満する血の気配は酷く濃密。通常人であるなら、ここに三日居るだけで体調を崩すだろう。

 だが、それは私にとってとても好都合な結界だ。なぜなら人が寄ってこない。野宿には最適でもある。
「少し寒いのがネックだけどね・・・」
 一人旅するようになってまず増えたのは独り言。やはり一人でいるのは精神的にもよくない。寂しいと思うがそれを振り払って自分に喝を入れる。
「・・・うん、頑張ろう」
 小さく呟いてから視線を空からはずす。周囲には木々、時たまふく風に葉を揺らしざわめく。無音の静寂の中、木々の揺れる音だけが森の中に響く。
 暫しその音を聞いてから歩き始める。向かうのは森の出口。いい加減冬木の町に向かわなくてはならない。
 英蘭の情報屋から仕入れた情報から察するに、聖杯戦争が起きるまで後三日ほど猶予がある。

 それまでに冬木の町に到着し、出来ればサーヴァントを現界させる。

 私一人の実力では到底あの男には勝てない。否、不意をつきその一撃に全身全霊をかければ殺せるかもしれない、だがそれはあまりにも勝算の低い戦法だ。
 何故ならあの男の目的は聖杯だから。恐らくそれを得るためにサーヴァントを現界させ、正式な七人の魔術師の一人として聖杯戦争に参加しているだろう・・・最高の手札を用意して。
 理由は簡単、あの男は「痛いのはいやだ」と言った。嘘はない。自分が前面に出ずとも決着をつけることが可能なサーヴァントを、あの男は確実に引き当てる。無論、証拠など存在しない、存在しないが――

「それでも、あの男はセイバーかバーサーカーを確実に連れている」

 それだけは絶対。不可思議な言動、掴めない行動をとるあの男だが、これだけは絶対に予測できる。
 故に我が身一つであの男に挑むなど、無謀以外のなんでもない。
 必要な手札はサーヴァント、願わくばセイバーかバーサーカーが必要だ。あの男がセイバーならバーサーカー、バーサーカーならセイバーが。
 それで勝てるわけではない、勝てるわけではないのだが今の内に用意できるものは全てそろえておきたい。
 確実に現界させる事が可能なわけでもないが、この手元には私の祖国・英蘭の英雄の象徴すべきアイテムがある。
 然るべき魔方陣と、魔力。それさえ揃えば、セイバー、もしくはバーサーカーの英霊を呼び出せるはずだ・・・多分。おそらく。きっと。
 だから、早く冬木町に向かわなければならない。
 その二つが既に現界されていたら、勝ち目はないかもしれないのだから。
 私は背中に背負った荷物をよいしょと背負いなおして、再び歩みを再開させ――


「ですが貴方の命はここで潰えます、ティグリア=フォートリア」


 ――る前に素早く横に跳躍。迂闊、考えに没頭しすぎて敵の接近に気づかなかった。
 ゴロゴロと枯葉の地面の上を三回転してから飛び起き、走る。
 走りながら周りと状況を確認、木々の生息位置を即座に把握、傾斜から現在地を把握、脳内に叩き込んだ地図を展開、位置照会――完了。敵は恐らくサーヴァント、しかもあの男の息がかかった奴である。セイバーかバーサーカーならアウトなのだが――でも人語を話したという事は、バーサーカーではないという事だ。
「――ふ、はっ!」
 息を吐いて身体を前に倒し、加速。この程度でサーヴァントから逃げ切れるとは思えないが、それでも走る。
 現在地は森の中央近く。外に出るにはこの方向のまま三分走れば到着する――が、恐らく敵が待ってくれるのは後三秒前後。充満している死の香りに混じって殺意が追いついてくる。
 三秒でサーヴァント現界――不可能だ。ならば私が選ぶ選択肢は決まっている。

 ――生き延びる事。

「――Shift(移行)――」
 その一言は少女である私を魔術師である私に変える自己改革の言葉。
 敵が来るまで後一秒、その間に私はサーヴァントを迎え撃つ魔術を組み上げてみせる――
「っ!?」
 しかしそんなものは無意味。それに気づいたのは皮肉にも敵に追いつかれる時間と丁度。
 負け。そう、聖杯戦争が始まる前に、私は殺される。













 唯一の敗因は、私がサーヴァントというものを理解してなかったという点にある。





















       ――Re.聖杯戦争
                蒼眼の男、その名は――





















 場面は変わり冬木の町。
 聖杯戦争の三日前、間桐 臓硯は驚嘆し、そして歓喜した。
 一週間前、唐突に屋敷にやってきた女はこういった、「聖杯が欲しくはないか」と。
 無論彼は聖杯を求めた。その返答に女は酷く恍惚に歪んだ笑みを浮かべ、ならば戦争に勝利すればいいと言った。
 戦争――即ち聖杯戦争。それは確実に起こり得ない事象。三年前、聖杯は破壊され終わったのだから。
 再開するにしてはあまりにも早い。確かに魔力は充満していたが、それでも三年という月日は聖杯に至るには短すぎる。
 臓硯は女の「準備が出来たよ、サーヴァントを呼び出してみたまえ」という言葉を信じることが出来なかった。それが先日の事である。

 半信半疑に思いながら、臓硯は孫――とはいえ血は繋がってはいないが――である間桐 桜を呼び出し、前回と同じ条件下でのサーヴァントの現界を命じた。桜はその言葉に驚いていたが、それでも準備をしてサーヴァントの現界を試みた。
 今臓硯の目の前には長身、紫の長髪、そして眼帯をつけた一人の女が立っている。
 即ち。ライダーのサーヴァントを現界させることに成功したのだ。

 間桐 臓硯は驚嘆し、そして歓喜した。
 現界は成功、しかも完全な形で、である。聖杯に魔力が満ちているわけでもないのに。
 臓硯はそれを不思議に思い、近々あの女の居る大聖杯の洞窟へ様子見に行くことを決めた。
 だが、それをする前に一つやらなければいけない事が、臓硯にはあった。


「マキリの魔術師よ、僕の願い、聞いてはいただけるかな?」
 臓硯の眼前には金髪碧眼の優男が立っている。臓硯は彼に名を尋ねたが、優男は「僕に語るべき名前などありません」と答え、「不具合があるなら、仮名として”フォックス”とでも呼んでください」と言った。
 その言葉に臓硯は納得がいかないも承諾した。理由は明白。この男の掲示した”等価交換”というのが多少なりにこちらに有益に働くからである。
 フォックスは言った。
「僕の願いを聞いてくれるなら、僕は一人、サーヴァントを従えた魔術師を殺して見せよう」
 笑顔を貼り付けたまま、全く変わらぬ口調でフォックスは喋る。
 それに異質を感じた臓硯だが、それでもその提案はなかなかに面白いものだと思った。

 ――魔術師の基本は等価交換。

 サーヴァントを従えた魔術師を殺す、という事はこちらも何か大きな事をしなければならないのかと思ったが、フォックスは、
「いえいえ、私の願いは・・・そうですね、事態が変化しなければ、酷く安易なものなのですよ」
 と言う。老魔術師は暫し考え、そしてその等価交換を飲むことにした。
 その返答にフォックスは貼り付けた笑みに深みを増して、仰々しく礼をした。
 まるで道化。この男、一体何を考えているのか――
 そんな事、臓硯という名の魔術師には理解できるものではない。
 何故ならそれは―――



「では願いを。僕の願いは―――そう、一人の少女を殺して欲しいのですよ」


 ――それは、誰にも想像することの出来ぬ異形の中に在るのだから。








 死んだ、確実に死んだ。
 眼前に迫るは鉄の杭。それは私の喉元を貫かんと真っ直ぐに、ただ真っ直ぐに向かってくる。
 侮っていた。サーヴァント、聖杯戦争、そしてあの男を。
 まさかこんな早くに行動を起こすとは思わなかった――というより、自分がこの場に居るという事がばれているのは何故だろうか?・・・否、考えるまでもない、別に情報網を駆使すればわからないでもない事実なのだから。

 そんな事より今考えるべきはこの眼前に迫る杭。こんなものが直撃したら私はもう死ぬしかない。
 どうする、どうする?私は考える、考えて考えて考えて考えて考えて考えて答えを導き出す。
 右手に持った魔術発動の触媒。既に詠唱は終えている、ならば――

「―――Employment start(使役 開始)――!!」

 その間、コンマ一秒に満たず。

 触媒は木の枝。無論ただの木の枝ではない。樹齢200年を越える一応長寿の部類に入る木の枝である。
 知り合いの棚から少々失敬してきたのが、早速役に立つとは思わなかった。
 魔術が発動した瞬間、触媒となった木の枝は急速に成長し、杭を絡め、拘束する。
 一秒でも動きを止められるなら上等だ、私は首を捻って再び地面を転がる。
 拘束を逃れた杭は私の喉があった部分を貫き地面へと突き刺さった。
 ・・・と、地面に突き刺さったと思った次の刹那、それは引き抜かれ木々の奥、闇の中へと紛れてしまう。
 じゃらり、じゃらりと。鎖の音が聞こえた。
「・・・全く、なんなのよ、それ」
 周囲に気を配りながら身を起こし、私は盛大なため息をついた。右肩に激痛。避けたと思ったのだが肩を少し抉っていたらしい、血が腕を伝って地面に落ちる。

 鎖鎌――ではないか、そんな武器を使い、なおかつ剣まで使う英雄なんて私は聞いたことがない。ということは敵はセイバーではない、かと言ってバーサーカーでもない。要するにあの男が手を組んだ、誰かのサーヴァントという事だ。
 クラスは不明、今のところ確認しているのはキャスターが現界していることだけ。
 つまり敵は、アーチャー、ランサー、アサシン、ライダーのどれかである。

 まずアーチャーとランサーは論外である、という事はアサシンかライダー。
 武器は鎖と杭、どちらかというとアサシンのような気がするが――そういえば、ライダーってどんな武器使うんだろ。ライダーとは騎乗兵・・・騎乗時に有効な武器は剣、槍、戦斧・・・いや、結局は使い手によるか。鎖の武器を使う騎乗兵の話はあまり聞かないが、私が無知なだけなのかもしれない。

「これが何なのか、というのは貴方が知る必要はありません――ここで、死ぬのですから」

 闇に紛れて声が聞こえる。綺麗な女の人の声。聞こえた方向を見やると、この世のものと思えない程の美女が立っていた。

 紫の長髪に高い身長、豊満なバストに引き締まったウェスト・・・あ、羨ましいかも。
 その服装は扇情的。美しい女性と言える――が、異質なのはその眼帯。
 目を覆いつくす眼帯は正直彼女の風貌に合わない様な気がしたのだが、じぃっと見てると何だか似合ってるように見えてきた。美人の特権なのか。
 右手には短剣、そしてその柄からは鎖が伸びており、鎖の先を辿ると先ほど私を襲ってきた杭がある。鎖の長さはよくわからないが、結構長い。先の様子から察するに彼女はそれを変化自在に操ることが可能なのだろう。
「もう・・・本当に厄介。何だってマスターでもない私の命なんか狙うのよ」
「私はマスターの意向に従うまでです。理由には興味がありません」
 淡々と語る美しい女性。あぁ、声まで綺麗。ちょっと妬けるなぁ・・・なんて思いながら一歩後ずさる。
 勝ち目はない。とはいえただ殺されるのも芸がないし、何よりやらなきゃいけないことがある。
「逃げるつもりですか?無意味だと思いますが」
 事実だけを語る女性。うん、確かに無意味、逃げるなんてそんなの不可能。
「逃げないわよ」
 そういいながらもう一歩後ずさり。女性はその様子を見て少々疑問に思いながらも短剣を構える。
「私の間合いから遠ざかり、隙をうかがい――逃げるのではないのですか?」
 本当に、ただ疑問に思っただけなのだろう、女性はそんな質問を投げかけてきた。

 逃げるわけじゃない、私は、逃げることをもうやめている。


「逃げないわ」


 もう一度だけ言って、足を止める。息をすって呼吸を整える。
 魔力は十分、魔方陣はないが多分――否、絶対に何とかなる。
 右手からは流血、うん、即席程度なら出来るかもしれない。
 女性は私の一挙一動を見ている。右手の短剣、左手の杭。恐らく飛んで来るのは杭。どれだけ余裕があるかはわからないが、それでも私はやるしかない。


「――私はね、生き延びるの」


 右手を振るう。右肩から流れている血が流れ、雫が宙に舞う。
 一瞬、一秒、否、それ以下でも構わない。時間、私には時間が必要だ。

「――――っ!!」
 女性が杭を放つ。速い、もう少しびっくりしてもいいんじゃないのかしら――なんて、英雄に限ってそんな事あるわけないか。

 言葉は要らない、ただ来いと、ただ来たれと願う。血の雫の舞う空間に魔力を込める、開け、開け、開け開け開け開け開け開けっ!!

 身体に紫電が走った――気がした。

 その刹那。私は語るべき言葉を口にする。





「――Summons(召喚)――Motion(発動)―」





 今杭に狙われているのは頭。貫かれたら一撃で即死、でも痛いんだろうなぁなんて思いながら襲い掛かる杭を見つめる。
 今度こそ死ぬのかな、なんて思ってしまう。何も起こらない、即席の召喚は明らかに失敗――駄目だったかな、ていうより、やっぱり無茶があったかなんて思ってしまう。
 眼前には杭、そして私の血の雫。
 綺麗だなと思う。月光に照らされて、黒い闇の中杭と私の血の雫だけがキラキラと光る。


 そんな中、見えないはずなのに、その雫に自分以外の顔が映っているのが見えた。


「――嘘」

 呟いた言葉は誰のものか・・・いや、私なんだけど。
 一瞬チラリと見えた顔は私のものでなく。かといって杭を放った女性でもなく――

 ――ボサボサな黒髪の男。赤の血の中で映えたのはその蒼い眼光。


 驚愕に目を見開く私の瞳に、それははっきりと形を持って写り始めた。
 黒髪、青い目、長身、そして――日本の民族衣装と噂に聞いた、和服。
 私の持ってきたサーヴァントに縁のあるものに引寄せられたわけじゃない、だってあれは英蘭のものだし。
 という事は目の前に現界しようとしているこの男、この場に準じた武将か何かだろうか。
 血の気配が強い、死の香りが近い。多分ここは昔戦場だったのではないか。
 それならば合点がいく、武将、一体どんな武将なのかは知らないが、多分武将。

 まず考えなければなるまい、その男の正体を。

 昔戦場であっただろうこの地にて戦った武将の名前。それはこの戦場の名から連想することが可能かもしれない。
 だが、私は知らない。

 ”七夜の森”などと言う地名で行われた戦争なんて、私は全く知り得ない。

 和服の男が形を持った。男は私の方を向いていて、襲い掛かる杭には背を向けている。
 それはもう、あと一瞬で男の背中に突き刺さる。
「あぶな―――っ!」
 叫ぼうとして。
 刃を弾く甲高い音に全てを阻まれた。

「は・・・?」
 男は一瞬の間に振り返り、襲い掛かってきた杭を叩き落した。
 左手には何やら棒――撥だろうか?――を持っていて、右手にも同じものを持っている。
 その撥を振るってから男は杭を放った女性の方を見る。女性は驚いた表情をしてこちらの様子をうかがっていた。

 睨み合い、静寂。

 私は男を現界させた事によって脱力し、その場にへたり込んでしまった。
 ふと右手に目をやると、其処にはなにやら文様が絵かがれていた。

 令呪。サーヴァントを現界さえ、更に聖杯戦争に参加する資格を得た、という証。

 ちゃんと成功してよかった、と思う反面、一体なんの英雄なのか、と男の正体に不安が募る。
 だって私は七夜の森なんて知らない。そこで起こった戦争なんて史実には残っては居ない。だからこの男が一体なんの英雄なのか、皆目検討がつかない。
 セイバーではない、武器は撥だ――無論、バーサーカーでもないだろう、この男は恐らく理性を保っている。かといってアーチャーにも見えないしランサーにも見えない。という事はライダーかアサシンとなる。
 相対している女性もライダーかアサシン。どちらが暗殺者らしいか、と言えば女性の方かもしれない。
 って事はライダー?う、はずれ引いたかも・・・


 私は、確かにその時はずれを引いた、と思っていた。
 ライダーにせよアサシンにせよ、セイバーないしバーサーカーに太刀打ちできるとは思えなかったからだ。

 だが、私は認識を誤っていた。



 この男、トンデモない大当たりだと、私はその後すぐに実感したのだから。




       ――――聖杯戦争まで、あと三日。




後書きっぽく

 四話目です、オリジナルキャラクターが出っ放しです。
 さて、少女の詠唱なのですが英語です。んでテキスト英訳使ってます。
 もっと適切な言語があるだろーっ!と思うと思います。
 オレもそう思いましたから(駄目じゃん

 七夜の森です、正式な地名がわからないです・・・(汗
 さて、現界したのは一体誰で、クラスはなんでしょうか?

 ではまた次回。


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