終わりと始まりの丘 その8前編(傾:シリアス M:?


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1: オルガット (2004/03/21 19:06:43)[sktaguro at yahoo.co.jp]




 真っ赤な光景が視界を埋め尽くす。

 うめき声が、「助けてくれ」と耳に届く。

 しかし、その声を無視して俺は先に進んだ。

 自分では彼らを助けることができないとわかっているから。

 そうして、1歩進むたびに、自分が壊れていくのを感じながら、

 赤い荒野を一人、助けを求めて歩いた。




ほほに涙をつたわせながら。




 悪夢にうなされて、目が覚めた。

 最近見なくなっていた10年前の出来事を、悪夢を見た。

 あの日の記憶が消えることも、忘れることも一生ないだろう。

 アレは俺にとって文字通り『悪夢』であり、きっと死の具現だろう。

 とりあえず深呼吸して、心を落ちつかせ、現状を把握する。

どうやら昨日、ストーブの修理中に眠ってしまったらしく、土蔵の中だった。

 それを確認すると同時に思考を切り替える、あの『悪夢』の事を、

見なかったことにして、平常通りの思考パターンに戻す。

 現在の時刻はわからないが、桜が起こしに来ていないので、

 とりあえず朝食を作るべく、立ち上がり居間へと向かった。





 居間で家族とも呼べる藤ねえと桜の何時ものメンツで食卓を囲う。

 テレビでニュースを見ると、新都の方でガス漏れ事故が起きたらしい。

ここ最近、物騒な事件が多発しているな。

 そんな事を話ながら食事を終え、藤ねえが先に学校へ向かう。

 その後、俺と桜で登校する。登校するにずいぶん早い時間だが、

 桜の朝練に合わせるのと、一成に頼まれた備品の修理をするためだ。

 二人で料理の事を話しながら学校へ向かう。

 話をしながら、桜に洋食の腕前は抜かれてしまい、

この分だと最後の砦である和食だけは抜かれるのも時間の問題だなあ。

なんて思いながら、師匠として負けないよう努力するかな、と思っている。




 そうして学校についた。桜と分かれて、一成に会うため生徒会室に向かう。

 朝のHRまで、一成と備品の修理をして回る。

 修理して回る最中、寺に見慣れない女性がいて、僧たちが喜んでいる

 とか一成が言っていて、それとは別に僧たちを騒がしてる物があるらしい。


 「何やら寺の物置で立派な刀が見つかってな、
  値打ち物ではないかと僧たちが騒いでいるんだ」


 一成は精進が足りない証拠だ、渇などと言っているが、

 柳洞寺は古い寺だし何か見つかれば、

 値打ち物と期待してしまうのも無理もないだろう。


 「なあ一成、今日その刀見に行っていいか?」


 昔から剣に強い興味があったように、刀にも興味があった。それに柳洞寺に

自転車を置き忘れていたので、それをついでに回収してこよう。


 「む、本来は関係者以外には見せれないのだが、
 他ならぬ衛宮の頼みだ、親父殿も許してくれるだろう」


 何度か柳洞寺に行ったこともあるし、雷画さん繋がりで会ったことがある。

そんなわけか、一成の親父さんには結構気にいられている。

 で、放課後、柳洞寺に行って刀を見せてもらうと約束して教室に向かう。

 話をしていたためか、作業のほうはあまり進まなかった。



 今日は土曜日なので、半日で学校は終わった。

一成と柳洞寺に行く前に、朝できなかった備品の修理することにした。

 朝の作業が話して進まなかったので、これくらいはやらないと

無理して刀を見せてもらう身としては申し訳ない。



 結局、掃除に熱中してしまい、気がつけばもう夕暮れだった。

 一成には先に帰るように言っておいたが、

「手伝わせている手前、 自分だけ早く帰るわけにいかん」

 と言い、最後まで付き合ってくれた。

 遅くなってしまったため、学校の電話で桜に、今日の晩飯はいらないと言っておく。

 そして、一成とたわいもない話をしながら柳洞寺に向かう。



 そうして、柳洞寺についた。

 門をくぐった瞬間、そこが異界だと気付いた。

 半人前の俺にも分かるほど魔力が集中しすぎている。


 「なあ一成、なんか変な感じがしないか?」


 怪しく思い一成に尋ねる。

 すると、突然一成が倒れこんだ。


 「おっ、おい!しっかりしろ一成!」


 倒れた一成を揺さぶるが反応は無く、目が虚ろだ。

 くそ、一体何なんだよ。

 異常事態に救急車を呼ぶため、走り出そうとして―――。



 ―――ローブを纏った『人の形をした何か』の存在に気付いた。



 恐怖を歯をくいしばることでごまかし、なんとか口を開く。


 「・・・これはあんたがやったのか?」

 
 声が震えているのが自分でもわかる。


 「ええ、そうよ。未熟な魔術師の坊や。それじゃあ、さよなら」


 そう言ってローブの奴が何やら唱えると魔術が俺目掛けて飛んでくる。

 それを反射的に横に転がって避わし、一目散に逃げ出す。



 途中、何度か魔術がかすったが、浅かったので気にせず逃げた。



 なんとか境内に逃げ込んだが、すぐに追いかけてくるだろう。

なんとか応戦するため、強化するための武器を探す。

飾られている日本刀が目に入ったのでそれを手に取る。

そして、魔術回路を精製し強化を開始する。

 強化はこれまでにないくらい上手くいき、強化した刀を構える。

 が、その時背後に気配を感じて振り向く。


 「葛木先生!」


 視線の先にいたのは学園の教師である葛木先生。

 不味い、ただでさえワケがわからないのに、このままでは

 俺を殺そうとしていた、あの『人の形をした何か』に葛木先生まで殺されてしまう。


 「逃げ――――――」


 最後まで言い切ることなく、突然放たれた拳をまともに受ける。


 「え―――――――」


 またも言い切ることなく、両の拳が俺を目掛けて飛んでくる。

 俺はそれを避けることもできず、ただ呆然とつっ立っていた。






 激痛に耐えかね、朦朧としていた意識が覚醒する。

 皮肉なことに、痛みで気を失わずにすんだらしい。


 ああ・・・さっきの事から推測するに、俺は葛木先生に殴られたのか。


 落ち着いて現状の把握に努める。

とりあえず出血していることは感覚からわかる。

 後は顔面を殴られたのか、周囲が霞んでよく見えない。

見えない視力を補うため、魔力で強化して周囲を見渡す。

 10M程離れたところにあのローブの女と、葛木先生が立っていた。

 二人はなにやら話し込んでいて、俺には目もくれていない。

 二人気づかれないように、激痛に耐えながら、少しでも離れるために床を這う。



 逃げるのに邪魔だと言うのに、何故か手に持った刀を手放そうとは思わなかった。




 けど、逃げた先は境内の隅の部屋で、完全に行き止まりだった。

 床には自分のものではない血が付着しており、その血が赤い図形を描いている。

 足音がする、コツコツと徐々に自分に近づいてくる。



 ―――間違いなく、衛宮士郎はここで死ぬ。

 足音がそう直感させる。


 いやだ、いやだ、いやだ。

 こんなところで終われない。


 その一心で刀を杖代わりし、体を奮い立たせ、魔術回路を精製。

 その手に握る刀を強化すべく魔力を流す。


 まだ、俺は何もしていない。

約束を、果たしていない。


 生み出した魔力が体内をうねり、体内をナニカが這いずり回るような感覚。

 体内を駆け巡る魔力が内から体を熱くしていく。


 ダメだ、そんなのは認められない。

 こんなところで死んだら、

あの日死んでいった彼らに、どうして顔向けできようか。


 手に握る刀を解析し、自身を巡る魔力を注ぎ込む。

 成功率はコンマ以下。けれど失敗は許されない。

 失敗の代償は己の命。ならば是が非でも成功させるしかないのだから。

 
 こんなところで、絶対に殺されてやるものか―――!


「え―――――?」


瞬間、視界を白い光の奔流が埋め尽くした。



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