運命の輪 後編 (傾 シリアスとバトル


メッセージ一覧

1: (2004/03/20 17:08:51)[wallscantattack at yahoo.co.jp]



戦争は終結を迎えようとしている。
――The war starts facing the conclusion.

だがそれは必ずしも、平和への糸口とは限らない。
――However, it is not necessarily the beginning to peace.

愛する者に裏切られる者。信じた者の裏切りを知る者。
――Person betrayed by person who loves. Person who knows betrayal of person who
believed.

全てを知った時、人はいったいどのような行動をとるのか。
――What action on earth does the person take when it knows everything?

あらゆる立場のあらゆる思想が絡み合い、もう誰にも収拾をつけることなどできはしない。
――It cannot be done to intertwine all thought in all standpoints, and to have already
applied control to anyone.

全ての戦いが終わった時、彼らに残された物とは……
――When all fights end, what is the thing left by them ……?                   』

   ◇


――運命の輪―― 13話 ”An Impossible Desire.”


   ◇

夢、その中でも悪夢に分類されるだろう夢を見る。
目に映る風景は、十年前の聖杯による大火災の光景。
俺一人が生き延び、生き残った代償に自分というモノが消え去った。
それからの十年間の俺の生きた年月は、全てが贖罪に使われた。否、その為だけにあった。
救われなかった人たちに胸を張れるように使われ続け、それを代償として生きる意味を手に入れた。

――”かつての自分を裏切るのか?”

声が聞こえる。
大勢の助けを求める誰かより、少人数の大切な皆を優先しようとする今の俺。
そんな俺は、贖罪のために生きた己の過去を無駄にしようとしている。
過去の自分を否定しようとする俺は、

――”それを裏切るというのなら、おまえは”

衛宮士郎は、自分自身に裁かれる事になる――

   ◇

朝、何故か桜が外で倒れていた。
慌てて桜を客間まで連れて行き、遠坂に治療をしてもらう。
着替えをさせたりしたいそうなので、居間に追いやられた。
セイバーとほのぼのしながら遠坂の登場を待ち、入れ替わりで桜の看病をする。
外で倒れていた理由を看病ついでに訊いたところ。
散歩をしようとして倒れた、それが理由らしい。
どうにも腑に落ちないところがあるが、追求は止めておこう。

   ◇

居間で遠坂と話をする。
桜は手足の筋肉がズタズタで、自分では立ち上がれないそうだ。
綺麗なのは外見だけ。
中身はボロボロで、その痛みは身体だけじゃなく脳(ココロ)まで壊しているかもしれない。
俺のときはそうではなかったが、桜は遠坂のことが判らなかったらしい。
いや、判らなかったというのは正確ではない。
桜は自分の思っている『遠坂凛』を見ていたのだ。
それで、桜は本音を漏らし続けていたそうだ。
殺意を覚えたと言う遠坂は、寒気を感じるほど怖かった……

   ◇

昼、自室でアサシンに呼び出される。
臓硯が俺と会合を望んでいると言う。
場所は間桐の屋敷。一人だけで来い。
伝えたいことはそれだけらしく、返答を聞いたアサシンはすぐに消えた。
セイバーやライダーのも気付かれないアサシンの気配遮断は驚異的だった。

誰にも気付かれずに家を抜け出し、間桐邸へ。
間桐邸の居間で臓硯と二人だけで会合をする。
俺を殺す気など毛頭ないらしく、警戒さえもしていない。
俺から臓硯に言うことなど、一つしかない。

――今すぐ桜を解放しろ。

拒否するならば今ここで戦闘をしてもいい。
その覚悟で言った言葉は、考え付きもしなかった一言で答えられた。
曰く、桜を救うのは臓硯にも不可能。
聖杯の欠片――刻印虫を埋め込まれ、聖杯と機能している桜はもう救うことはできない。
あの影も臓硯とは深い関係ではなく、臓硯にはもう制御しきれなくなった。
あの影の正体は聖杯の中身、桜の影だった。
解っていた事だった。既に気付いていた、それを黙殺して否定していた。
それを受け入れる。
あの”黒い影”の罪は、全て桜に及ぶのだと認める。
そこからの臓硯の話は簡単だ、要約すれば

――桜を俺自身の手で殺せ。

   ◇

靄の掛かった頭で家路に着く。
その間、ずっと考え続けていた。
俺は大切な人の味方になると決めた。それは桜の味方になるということ。
それは多くの命を奪った、あの惨劇を繰り返させるという事だ。
決断したんだ。大切な人の味方になると。なのに、何故俺は迷っているのだろう。

――あの惨劇の中、唯一生き残ったおまえが、あの惨劇を許すというなら。
   今までおまえを支えてきたモノが、おまえ自身を否定する。
   どのような結末であろうと、死の際において。
   その罪が、許される事はなくなるだろう――

今夜も犠牲者が出るだろう。それでも、原因を殺さないのなら。
あの日の火災は、俺が火をつけたのと変わらない。
決断を、しなければ。生半可な覚悟ではなく。今後変わることがない、誓約を。

空を仰ぐ。今日の天気は、今の俺のように中途半端な曇天だった。

   ◇

午後二時前、遅い昼食を桜に持っていく。
桜の体は回復してきている。
一人で体を起こすことができ、お粥も一人で食べることができた。
その後、他愛もない話をする。
本当にくだらない、けれど幸せな時間を過ごす。
その間も、頭の中は一つの事で占められていた。

――桜を殺すか、否か。

見たところ桜は元気だ。しかし、助かることがないのは分かっている。
桜が治るかもしれない、なんて甘い幻想に縋る暇はない。
都合のいい希望は、それだけ自身を苦しめる。
何もかもが元通りになると信じて、決断の先送りをすることはできない。
それを理解していながら、IFの話をした。

 「――なあ、桜。体が治ったらさ、桜は何がしたい?」

本当に甘い、ある筈もないだろう未来の話をする。

 「なんか、これといってないみたいです。
 別に今のままでいいっていうか、先輩といられればそれでいいかなって」

そんな誰もが簡単に答えられる問いに、桜は自分の望みがないと答えた。
悲しかった。
望みがないと言う桜自信、望みを知らない桜の心。
欲しいものが判らず、幸福を知らず、些細なことでさえ大切そうに思っている。
どんな日常を過ごしてきたのか、恐らくまっとうな人生を過ごして来ていないのだろう。
だから、こんな事を言ったのだと思う。
幸せを知って欲しくて、心からの笑みを浮かべて欲しくて。

――どこか遠くに行こう、などと。

桜にどこに行きたいか問う。返ってきたのは、ささやかな願いだった。

 「じゃあお花見とかしたいです、わたし」

それが、桜の精一杯の心からの願いだったのだろう。
叶えることなど出来るはずもない約束。
凍った心は、温かな幻想をする。

――いつか冬が過ぎて。新しい春になったら、二人で櫻を見に行こう――

それは、桜だけでなく俺自身の願いでもある。
この別れは、アルトリアとの別れよりも辛いものになりそうだな。


to be Continued


副題の意味は『叶わぬ願い』です。(たぶん)

2: (2004/03/20 17:09:04)[wallscantattack at yahoo.co.jp]


   ◇


――運命の輪―― 13.5話 ”A Faint Hope.”


   ◇

決断の夜。夜の巡回はもう行わない。
時刻は夜の十時。
台所から持ち出したナイフを手にして、桜の部屋に向かった。


――Interlude 13-1――  桜視点


ドアが開く気配。そして、誰かがこの部屋の中に入ってきたのが分かった。

――誰だろうか?

分かっている。部屋に来たのは先輩。
今のわたしは、異常なほどに殺意に敏感だ。
先輩は、わたしが悪いわたしになる前に殺しに来た。

しかし彼には、痛々しい空洞があった。それは、空っぽの殺意。
だからこそ、先輩になら殺されてもいい、そう思った。
せめて最後に、と薄っすらと目を開ける。
死ぬ前に、先輩の顔が見たかったから。

――それが、間違いだった。

先輩は、わたしの上でナイフを振り上げていた。
それは、いい。
けれど、やはり見ないほうが良かった。
彼は手だけでなく体全体が震えて、今にもナイフを取り落としそうで。
涙を堪え、体の震えを堪え、漏れ出す感情を抑えている彼の姿。
その顔が酷く辛そうだったから。

――後悔した。

彼を苦しめているのは自分。
わたしを彼に殺させようとしているのも自分。
わたしは、怖いから自分を殺せない。だから、彼に殺されようとした。
死にたかった。これ以上、悪い自分に成りたくは無かった。
その、最後の願いが彼を苦しめていると知らず。

――思わず、泣きそうになった。

それは、駄目だ。
起きていることを知られたら、彼の決心は揺らいでしまう。
だから、最後まで――わたしが死ぬまで起きていることを悟られてはいけない。
けれど、もし大丈夫なら彼に謝りたかった。
苦しめると知りながら、自分を殺させてしまうこと。
そして、

――お花見の約束を守れないことを。


――Interlude out――  士郎視点へ


ナイフを振り上げたまま硬直する。
実際は硬直などしておらず、体は小刻みに震えていた。

――”沢山の人を救う為だ。殺してしまっても、おまえは大義名分を掲げて胸を張れる”

殺せ、と頭の中から声が命令する。
この刃を、桜の首に突き立てるだけでいい。そうすれば、多くの人が救われる。
なのになんで、そんな簡単な事が出来ない。
……いや、俺は分かっていたのではないのか?

――これは裏切りだと。

幾たびの聖杯戦争の中、答えを得ていた英雄。
アイツは、俺がアイツのように、大勢の為に少しでも少ない数の人を殺す。
そんな存在(モノ)にならないと信じて消え去ったのではなかったのか。

ここで剣を振り下ろさないのが、過去の自分への裏切りならば。
ここで剣を振り下ろすのは、あの英雄への裏切りではないのか。

過去の自分と、未来の自分。
その二つの自分が背負った罪は、同時に俺に襲い掛かる。

――”殺せ”

ナイフを構えなおす。
振り下ろすだけで、鋭い切っ先は桜の柔らかい首の肉を切り裂き、血を撒き散らす。
結果は解り切っている。あとは、これを振り下ろすだけ。
そして、

――”殺すな”

アイツの声で、それを止められた。
桜の首に振り下ろされようとしていたナイフは、胸の高さで止まっている。
もう既に英雄エミヤは存在しない。今の声は幻聴だ。
聞き入れる必要など無い。そう解っていて、

――俺は振り上げたナイフを戻した。

桜を殺さない。殺せるはずは無い。
既に決まっていたことではないか。
俺は、桜の味方だと、全ての罪から桜を守ると。

 「……迷うことは無かったんだ。俺に、俺を信じてくれたアイツを、裏切ることは出来ないのだから」

そう、迷う必要は無かった。
アイツの得た答えを、俺には裏切ることは出来ないから。
大勢の為に、大切な人を見捨てるなんて、俺に出来るはずは無かったのだから。


そして、部屋を出て行こうとして、

 「先輩。どうして、殺さないんですか」

桜に呼び止められた。

   ◇

桜は俺にあらゆることを話してくれた。
それはまるで懺悔のようで、自分の罪を心に刻み付けているように思えた。
俺は、桜を抱擁することで答える。
桜の味方であることを、その行動で示した。
同時に、懺悔する。
俺を、過去の自分を裏切った俺を許してほしいと。


――Interlude 13-2――  桜視点


ライダーに最後の令呪を使う。
命令は、

――この先何があっても、先輩を、最後まで守ってあげて。

最後の令呪がなくなれば、サーヴァントはマスターをはじめに殺す。
しかし、ライダーがそんなことをしないと分かっていた。
だからこその命令だ。
本当に先輩を守ってくれるかは、彼女次第だ。
でも、できればこの命令を実行して欲しい。


――Interlude out――


to be Continued


副題の意味は『ささやかな望み』です。(たぶん)

3: (2004/03/20 17:09:19)[wallscantattack at yahoo.co.jp]


   ◇


――運命の輪―― 14話 ”Change in Quality.”


   ◇

また、あの夢だ。
体は水の中に沈んでいるように、重力から解き放たれている。
視えるのは、細長く靄で霞んだシルエット。
掴み取ろうと手を伸ばすが、それはその分だけ遠ざかる。
ココまでは前回と同じ。しかし、今回は少し違った。
何度か手を伸ばすと、それは自然に手の中に収まっていた。
眺める。次第に靄が晴れ、それの全体がはっきりとしてくる。
その構造、理念、経験を読み取る。
それは槍。そう、歩兵が使うただの槍。
しかし、それは―者の―を、…………少し雑念(ノイズ)が混ざった。

ノイズに意識を向けると、俺を呼ぶ声だと解った。
意識を水面に浮上させる。
徐々にだが声がはっきりとしてきて、

   ◇

目を覚ました。枕元にセイバーが座っている。
セイバーが、俺に声を掛けていたらしい。
その内容が朝食を作れというものだと、何と無く気が付いた。
セイバーの足は、既に動いても支障はない程に回復しているようで、普通に歩き回っている。
朝食の準備をするために着替え始める。
セイバーに居間に行っていてくれ、と言おうとして振り返ると。
そこにセイバーの姿は無く、冷たい風の吹き込む開けっ放しの襖だけがあった。

 「…………寒い」

   ◇

朝食の後、遠坂と今後の予定を話し合う。
聖杯戦争はようやく二月十三日、始まりから十四日目だ。
いつもはあと数日、それこそ明日か明後日ぐらいには聖杯戦争は終わっている。
それに、遠坂も宝石剣の投影を今日行うといっている。
そろそろ、今回の聖杯戦争も結末が近づいているのだろう。
今回は先の見えない展開ばかり、結末がどうなるかはわからない。
しかし、一つ分かっている事は、

――この聖杯戦争で大聖杯を破壊する。

これは、決定事項。
大聖杯を破壊すれば、聖杯戦争なんていう狂った戦いは終わる。
そして、俺の逆行も起こらなくなる。
ハッピーエンド。そう、ハッピーエンドだ。
それが俺の望む結末。
誰も欠けることが無く、元の日常に戻ることが出来ればいい。

   ◇

遠坂に、俺にちゃんと休息をしろと叱られた。
たしかに昨日は一睡もしておらず、正直辛い。
桜は私にまかせてという言葉に甘え、自室に戻っている途中。
自室へ向かう廊下。歩きながら臓硯から聞いた話を整理していた。
そして、一つの疑問が浮かび上がる。

――臓硯が聖杯の欠片を手に入れたことに、言峰は気が付かなかったのか。

否、そんな筈はない。摘出時に刻印虫の一部を見ているはずだ。気が付かないほうがおかしい……!
善は急げだ、教会に向かう。廊下を抜け、玄関で慌てて靴を履く。そして、

 「シロウ。何処に行くのですか?」

セイバーに呼び止められる。
事情を説明すると急に真剣な顔になり、私も着いて行くと心強いことを言ってくれた。
もしかしたら、言峰と戦闘になるかもしれない。
そうなれば、セイバーが戦えるかどうかは解らないが、居ないよりも良い。
全速力で、弾丸のように教会へ駆け出した。

   ◇

言峰は、俺の来訪に驚いた様子も見せず質問に答えた。

 間桐桜が、臓硯に調整された黒い聖杯だということは知っていた、と。
 言峰はだからこそアレを生かす価値があるのか、と俺に忠告した。
 桜を助けたのは、あの黒い影を生かす為だった。
 聖杯の中に『人間を殺すもの』がいて、桜を蝕んでいる。
 それこそが復讐者(アベンジャー)、受肉した『この世、全ての悪(アンリマユ)』。
 聖杯の中身が漏れているのではなく、桜に浸透することで誕生しようとしている魔。
 ”黒い影”は、聖杯の中身ではなく、既に間桐桜そのものである。
 故に、聖杯戦争が終わろうとも桜を元に戻すことはできない。

言峰の放つ言葉は、一つ一つは紛れも無い真実。
しかし、言峰の言葉は毒が塗られたナイフのようだった。
傷口を抉り、毒を浸透させ、徐々に殺していく。そんな言葉。

話は進み、そして一つの部分で俺と言峰の意見は食い違った。

 『あれはまだ産まれていない。
 だから、あの影はまだ善悪の判断などできず、有りもしないモノを否定できない。
 誕生の為に人々の命を吸う。ただ生きることを欲する乳飲み子と同じ。
 無意識だからこそ、アレの行いに善悪は問えない。
 むしろ生まれることを止めるのが、悪ではないのか』

それが、言峰の言い分だった。
俺とは全く違う考え。
俺はあの影を『悪』として捉え、言峰は『善悪は問えない』と言う。
そして、解ったことが一つある。

 『やはり俺と言峰は敵である』

それだけだった。
そして、教会を後にする前に、恐らく最後になるだろう質問をした。

 「――言峰。桜は助けられるのか」

本当に淡い幻想。一欠けらでも希望は無いのかと訊いてみる。
言峰は、単純明確、それでいて確立は半々の答えを返してきた。

 『間桐桜が聖杯に人格を壊される前、ほんの数秒で彼女の内部に巣食うものを排除する。
 聖杯の力で刻印虫も、桜を依り代にする影も『殺して』しまえばいい。
 汚染された願望機は、『殺害』に関する用途であれば、殺せぬものはない。
 しかし、しくじれば十年前の惨劇を繰り返す。
 そして、数秒で聖杯を御するなど、衛宮士郎には奇跡でも起こさぬ限り不可能。
 凛が協力するなら少しは確立は上がるだろうが、彼女が協力するとは思えない』

答えた代わりに、私にも質問をさせろと言峰は言い、

 『人を殺した罪人、間桐桜を擁護するのか?
 罪を犯し、償えぬまま生き続けるなら、殺してやったほうが幸せではないか?
 そうすれば間桐桜は楽になり、命を奪われた者たちへの謝罪にもなる』

と言った。

 「――ああ。けど、それは償いじゃない」

あらゆるモノから彼女を、俺は桜を守ると言った。
俺の返答を聞き、言峰は独白する。
その言葉は誰に宛てられたものなのか。
この言葉には、この男には無いと思っていた本当の感情が込められていた。

独白の最後、言峰は俺に忠告する。

 「間桐桜を救いたいのであらば、間桐臓硯を殺す事だ」

臓硯は桜の精神が消え去った後、空になった肉体に乗り移る。
そうなれば、桜を取り戻すことも出来なくなる。
ぞの忠告は、臓硯は必ず倒さなければならないと言っているようだった。

   ◇

教会から帰り、またすぐに家を飛び出した。

――桜がいなくなった。

遠坂が言うには既に二時間も前のこと。
向かった先は臓硯のところ、つまり間桐邸。そうイリヤに教えてもらった。
体は朝から走り詰めの筈だが、一向に悪くなる気配は無い。
セイバーにも疲れの色は無く、まだ何度か往復することが出来そうだ。
間桐邸に向かってセイバーと二人、駆け出した。

   ◇

間桐の屋敷。生きている者の気配の無い、薄暗い屋敷。
その間桐邸の二階にある桜の部屋で、間桐慎二だったモノを見つけた。

――何も思わない。元親友の死骸を見ても、何の感情も浮かばない。

物言わぬ死体を見て何故か、これを桜がやったと解ってしまった。

――無感。あらゆるモノに無感。無感動、無感情、無感覚、無感傷。

屋敷に臓硯の声が響く。しかし、本体はここにはいない。いるのは端末、アイツの蟲だけ。

――思考を占めるのは一つの事柄。

桜の向かう先は、衛宮邸。アインツベルンの聖杯たるイリヤを攫い、聖杯を完成させようとする。

――桜を、止めなければ。

傍らで苦渋の表情をするセイバーを促し、またも自宅へと疾走した。


to be Continued


副題の意味は『変質する』です。(たぶん)

4: (2004/03/20 17:09:31)[wallscantattack at yahoo.co.jp]


   ◇


――運命の輪―― 14.5話 ”King of Hero.”


   ◇


――Interlude 14-1――  衛宮邸にて


衛宮邸の中庭で、桜と凛が対峙する。
中庭の端で、傍観するように佇むイリヤ。

――今、この中庭は異界だった。

桜から広がる影に蹂躙された庭。宙を飛び交う桜の魔術。
それを、ギリギリで避ける凛。
その戦力差は圧倒的。
桜の魔力は無尽蔵。凛に対抗する術はない。
凛という名の少女に出来る行動は、逃げ続けることだけだった。
そんな中、戦場と化した庭で重油じみた影の中から

――黒い鎧を纏った、金髪の青年が現れた。

見ただけで桁違い、いや次元の違う存在だと解る。

 「ふむ」

体の具合を確かめるような動作をして、興味深そうに声を上げる青年。
その彼に、桜が命令を下す。

 「ギルガメッシュ、聖杯を捕まえて」

ギルガメッシュ、半神半人の英雄王。
彼の金色だった鎧は黒く染まっており、辺りを見据えるその目は金色に変わっていた。

 「「な」」

凛とイリヤの声が重なる。
目の前に居るのは見たことも無い、しかも強力なサーヴァント。
しかし、二人の驚愕はそのサーヴァントに命令している桜に対してのものだった。

 「大方、令呪の紛い物でも使っているのだろう。拒否したくとも、体の自由が利かん」

ギルガメッシュは、桜を一瞥し、忌々しげに言葉を吐き捨てる。
そして、イリヤに向かうギルガメッシュ。
その顔には、歪な笑みが浮かんでいる。

桜の魔術は止まることが無く、凛の疲れも徐々にだが大きくなっている。
イリヤに戦おうとする意思は見られず、ギルガメッシュを倒せる存在もこの空間には居なかった。

彼女達の勝敗の天秤は、圧倒的なまでに片側に傾いているようだ。


――Interlude out――  


――Interlude 14-2――  セイバー視点


シロウの家に近づくにつれ、ある魔力が感じられるようになった。
それは、強力でありながら陰湿。
あらゆるものへの憎しみが、魔力という形を持ったよう。
シロウの走る速度が上がる。
それに合わせて、私も速度を上げようと足に力を込める。
そして、

――凛と繋がるレイラインから、魔力を吸い取られた。

 「あ――!」

足が縺れた。躓いて転びそうになる。
そして、顔から地面に激突する前にシロウに支えられた。
優しい声を掛けてくれるシロウ。

――凛が危機に陥っている。

それをシロウに伝えると、彼はすぐに衛宮邸の門を潜り抜けた。

 「桜――――!!!!」

彼の叫びが響き、残り少ない魔力で、駆け出す。
そして、私も門を潜り抜けた。

   ◇

そこで、なにかが起こっていたのは解っていた。
それでも、その光景には動揺する。
影に覆われた凛と、凛を抱えるシロウ、影を操る桜、庭の端に佇むイリヤスフィール。
そして、

 「アーチャー!?」
 「ギルガメッシュ!!」

前回の聖杯戦争のアーチャー。
彼の金だった鎧は黒、赤だった瞳は金になっている。
シロウは今、彼のことをギルガメッシュといった。
それがアーチャーの真名なのだろう。

世界最古の英雄、ギルガメッシュ。
全ての武器の原点となる財宝を集めた彼なら、あの武器の多さも納得できる。

彼が、その顔に皮肉げな笑みを浮かべ、私の方に振り向いた。

 「ほう、久しいな。我のことを覚えていたか騎士王」

私にとっては少し前、彼にとっては十年ぶりの再会だった。


――Interlude out――  士郎視点へ


桜と対峙して話す。
胸に抱く遠坂は魔力を奪われただけらしく、外傷は皆無。
遠坂を覆っている影は、桜を中心に中庭を埋め尽くしている。
既に桜は影と一体になっていた。

――桜は、自分自身の闇を受け入れたのだ。

闇を受け入れ、中身が変質した桜。
その言動は、全てが狂っているとしか言いようが無い。
俺と桜の間には、致命的な溝が出来ていた。

 『先輩が死ねば、私と永遠に一緒にいられる』

その言葉は狂った内容だが、籠められた感情は愛情、親愛の類。
そして、俺を取り込もうと影が伸びる。

多分、俺はここで死ぬのだろう。
体全体で、それを理解した。
ただ、桜を止めることが出来なかった。心残りといえば、それだけ。

遠坂を突き飛ばし、俺だけが影に飲まれる。
そして、何度味わおうと、慣れる事などできない感覚に包まれる。
体が溶解し、俺というモノが取り込まれていく。
抵抗する気さえ起きないその闇の中、一条の閃光を見る。
それは、斬撃。
斬撃は影を切り裂き、闇から俺の体を解放する。
俺は、『衛宮士郎』という存在が消え去る前に、何者かに助けられた。

   ◇

桜は、衛宮邸を立ち去った。ギルガメッシュも影が消えると同時に居なくなっていた。
桜が立ち去ったのは、イリヤが犠牲になってくれたからだろう。
イリヤは自分が生贄、否、犠牲になると言ってアインツベルンの城に向かった。
そして、これが最後になるとでも言うように、別れの言葉を告げられた。
苛立つ。情けない自分自身に、イリヤに悲しい顔をさせてしまった俺に。

二人の後を追おうとして、二つの影に止められる。
紫の髪の長身が目の前に立ちふさがり、金の髪の小柄な少女に腕を掴まれる。
一つはセイバー、もう一つは、影から俺を助けてくれたライダーである。
振り解く力も無く、膝が崩れ落ちる。

俺の視線の先で桜とイリヤが影に沈むように、俺の視界から消え去った。
そして、俺の意識も徐々に闇に落ちていった。


to be Continued


副題の意味は『英雄王』です。(たぶん)

5: (2004/03/20 17:09:50)[wallscantattack at yahoo.co.jp]


   ◇


――運命の輪―― 15話 ” Go to One's Death.”


   ◇

体の感覚が無い。

眼球が無い、腕が無い、脚が無い、内臓が無い、脳が無い、指が耳が鼻が血管が骨が神経が人体が思考が感覚が触覚が嗅覚が聴覚が視覚が思考が自我が存在が無い無い無いないないないないないなイなイナいナいナいナいナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイナイ

否、単純に繋がっていないだけだ。
体はある。そう、俺の体は存在する。
俺が体にではなく、他の「」に繋がっているだけ。

感覚を広げる。まずは爪先、体の末端から徐々に感覚を植えつける。
それは、ただの擬似神経のようなもの。
今、この状態で感覚を手に入れる為だけの手段。
偽りの感覚の中で、一番初めに機能したのは聴覚だった。

――では、最後の選択をしよう。

厳密に言えば聴覚ではなく、頭に響くように聞こえたのだが。
それでも、俺が問われたのは変わらない事実だ。

――桜を追いイリヤを助けるのか、それとも諦めるのか。

『諦める』……何を?
この戦いは、まだ終わってはいない。
終わっていない事を、途中で投げ出す真似はしない。

俺は、桜の暴走を止めなければならないから。
でなければ、桜は自分の犯した罪に押し潰されてしまう。
そして、イリヤも助け出さないといけない。
最後の別れがアレでは悲しすぎるから。

諦めない、とその少ない言葉に底知れぬ決意を込めて宣言した。

   ◇

俺は、教会で目覚めた。
セイバーがライダーと共に此処まで俺と遠坂を運んできたらしい。
ライダーは此処にはいない。
教会に着くと、すぐに消えてしまったそうだ。
遠坂は家で寝ているらしい。
……言峰の言い回しが気になるが。
『埋めておけば』ってそのままの意味か?

今は深夜三時。あれから十二時間も経ち、日付も変わっている。
一刻も早く桜を追わなければ。
イリヤを連れ戻す。桜を連れ戻す。
こんな所で足踏みしている余裕はない。
余裕は無いのだが――

 「何故着いてくる、言峰」
 「いや、おまえ一人では荷が重かろうと思ってな。イリヤスフィールが攫われたというのなら、私も静観はしておれん」

と言う神父を、どうにかせねばならないだろう。
仲間は多い方が良い。
しかし、このいけ好かない神父を仲間にするのは気が引ける。
ある意味、究極の選択だった。

 「……勝手にしろ。アンタが何を考えてるかは知らないが、臓硯を良く思っていない事だけは同じだからな」
 「なるほど、その共通点は大きいな。確かに、あの老人には少なからず縁がある」

坂道を下りていく。
俺たちは互いの表情(かお)も見ないまま、申し合わせたように教会を後にした。

……のだが、

 「――シロウ!!!」

剣を持った獅子の存在を忘れてしまっておりました。
突っ込んでくるセイバー。
その顔には俺が無事だった喜びと、忘れられていた怒りが浮かんでおりました。
後ろから抱きつかれて、大勢を崩す。
セイバーは体制を変えて、何故か覚えのある状態になった。
たしか、この技の名称は地獄車だったと思うのですが、……セイバーさん?
一瞬、セイバーが悪魔のような笑みを浮かべた気がした。錯覚と信じよう。
坂道を地獄車で転がり落ちる。大変危険なので、真似をしないでください。
血塗れになって思う。

――セイバー。正直、スマンかった。

   ◇

言峰が用意した運転手付きハイヤーで、郊外の森に到着する。
運転手に指示を出し、トランクを開けて中身を物色しだす言峰。
その中には、銃やら刃物やらの、兎に角物騒なモノが詰まっていた。
その内の刃物を一本、俺に向かって投げ渡す。
釘のようなイメージのある剣。
黒鍵というらしい。刺突、または投擲用の武器のようだ。
セイバーと言峰は空手で森の奥へ向かう。
その後ろを、鞘に収めた剣を持って続いた。

   ◇

窓をぶち破る。
両足を揃えて窓を蹴破り、城の中に侵入する。
一つ、言峰に言いたい。

 『普通、素人に壁登りなんかさせるか!?』

オマケに窓を割れときた。無茶苦茶だ。これでは隠密もへったくれも無い。
ブツブツと小声で愚痴を漏らしつつ顔を上げ、

 「…………シロウ?」

イリヤを見た瞬間、そんな怒りは消え去った。
彼女がこの後、どんな事を言うのかは大体分かる。

――何故、こんな無駄なことをしに来たのか?

そんなところだろう。
だから、そんなことを言われる前に、俺の気持ちを伝えたかった。

 「――――呆れ」「帰ろう、イリヤ」

イリヤがはっ、と息を呑む。
俺の一言で、彼女が言おうとした言葉は、虚空に掻き消えてしまった。

 「勝手に家を出て行った不良娘を連れ戻しに来てやったぞ。ほら、」

手を伸ばす。
イリヤは、その手と俺の顔を見比べて、言った。

 「だめ。わたしの事は良いから、シロウだけならまだ見逃してもらえる。だから、わたしの事は、」

――忘れて。

イリヤは、その後に続く単語を言葉にはしなかった。
俯いて、俺の顔を見ようとしない。
それを、

 「何、言ってるんだ。家族がヤバイ状態なのに、放って置けるわけないだろうが」

無理矢理だが、その体を引き寄せて歩き出した。
イリヤは抵抗せずに歩き出し、

 「ほんとに。こんなの、上手くいくはずがないのに」

そっと、幸せそうに、俺の手を握り返した。

   ◇

結論だけを言うと、窓から入ってきた言峰が、有無を言わさずイリヤを外に放り投げた。
唖然とする。
そして、文句でも言ってやろうと言峰に顔を向けると、言峰まで窓から飛び降りた。
またも、唖然。
慌てて窓から下を覗くと、イリヤを受け止めたセイバーと、軽々と着地した言峰を見た。
俺も後に続いたが、足が痛かった。
言峰は、セイバーからイリヤを受け取ると、

 「走れるな。ここからは命がけだぞ」

森の出口に向け駆け出した。

   ◇

――『バーサーカー』。

森で影に倒されたと思っていた、あの巨躯。
それが、俺たちを追う追跡者。死の鎌を振るう死神だ。
その姿に面影と呼ばれるものは無い。
治癒されもしない怪我を負い、影に操られるだけの存在(モノ)と化した狂戦士。

森の中を駆け抜ける。
セイバーは巧みに気を避けながら先行し、言峰はイリヤを抱えながら彼女と併走している。

――化け物か、アイツは。

恐ろしい。魔術行使をするでもなく、時速五十キロで走るなど人間の域を超えている。
それも、イリヤという名の足枷が存在しているというのに!

疾走の邪魔になる木々を避けながら、二人の後を追う。
別に俺が遅いわけではない。
後方からの襲撃に備えた戦闘要員として背走をしているのである。
……背を向けて森を走り、尚且つ二人に遅れをとらない俺も、十分に化け物ではないだろうか?

そんな思考に耽っていると、眼の端に白い仮面が見えた。

 「――アサシン――!」

俺の声で、二人の視線が白い髑髏に集まる。
僅かに言峰の走る速度が落ち、

 「――イリヤスフィールは頼んだぞ」

振り向きざま、俺にイリヤを投げ渡して、黒い暗殺者を一瞥した。

 「うおっ!?」

俺の直進する力と、イリヤの俺に向かう力が正面からぶつかり合う。
体を半身にずらし、イリヤの体を横から抱えるように抱きとめる。
膝を利用して衝撃を最小限に抑え、急停止。
もしも直撃していたら、骨の一つや二つは粉々だったと思う。
そして、急停止から急発進。
緩急どころではない速度の切り替えに、体が悲鳴をあげる。

 「シロウッ!!」

いつの間にか俺と併走しているセイバー。
言峰は戦闘準備を完了し、今にも暗殺者に向かおうとしていた。
俺たちはもう一度逃走を再開する。そして、俺の背中に向かって、言峰が言った。

 「――衛宮。助けた者が女ならば殺すな。
 目の前で死なれるのは、中々に応えるぞ」

後半は、実際に体験したかのような口ぶりで、妙に現実味があった。
恐らくこれが、コイツと交わす最後の言葉になる。
何故か、そう思ってしまった。


to be Continued


副題の意味は『死地におもむく』です。(たぶん)


6: (2004/03/20 17:10:03)[wallscantattack at yahoo.co.jp]


   ◇


――運命の輪―― 15.5話 機 Heroic Death.”


   ◇

真横からの襲撃を受け止める。
強化した黒鍵は容易く、まるで針金のように歪に曲がる。
衝撃に体が吹き飛びそうになった。否、飛んでいる。
地面が、森が眼下に見える。このままではいけない。
意地汚く持ち続けていた黒鍵を、脇を過ぎ去る樹木に叩きつける。
未だに強化の効果が持続していたのだろう。刀身が樹を貫通した。
腕に衝撃。肩が、脱臼した。
今度は落下する。その落ちる勢いを利用して、

ガコッ

 「――――」

肩の骨を嵌め込んだ。
激痛が走る。一瞬目の前が白くなり、意識が飛びそうになった。
泣き言を言っている暇はない。
顔を上げる。
目に映ったのは、イリヤを止めるセイバーと、自分の元サーヴァントに、魅入られたように動かないイリヤ。
そして、斧剣を振り上げる黒い巨躯。
その姿を確認して、俺は”投影”を使用した。


――Interlude 15-1――  セイバー視点


終わった。
バーサーカーの振り上げた斧剣は、イリヤスフィールと私を容易く両断するだろう。
今から武装したのでは既に遅い。
それ以前に彼女を両手で捕まえているため、剣を持つことが出来ない。
そして、

――私たちとバーサーカーの間に、斧剣を持ったシロウが割り込んだ。

一撃を防ぐ。そして、間髪いれず放たれた二撃目に斧剣は砕け散った。
シロウの体が、もう一度空を舞う。
この隙に、とイリヤスフィールを小脇に抱え、離れる。
シロウの着地、むしろ着弾地点に駆け寄る。
左腕を抱え、虚ろな眼を泳がせるシロウ。
明らかに、彼の様子はおかしかった。
数度、頬を叩くと彼は目を覚ましたように辺りを見回す。
その視線の先に狂戦士の姿を捉え、

 「一旦、退くぞ。イリヤを連れてきてくれ、セイバー」

そう言って、彼は背中を向けて駆け出した。

   ◇

中々に広い広場に出る。少しではあるが、何らかの戦いの傷跡が残っている。
シロウは、私たちに背を向けたままで、淡々と言った。

 「セイバー。イリヤと一緒に、この森を出ろ」
 「「シロウ?」」
 「殿は引き受けた。バーサーカーは俺が倒す」

彼は何を言っているのか。彼は既に満身創痍。
服も体も何もかもが、ぼろ雑巾のよう。なのに、

 「貴方は、何を言って……」
 「行け!!大丈夫だ、後から追いつく。絶対に、生き延びてやる」

彼の瞳には、騎士の誓いに勝るとも劣らない決意が含まれていた。


――Interlude out――  士郎視点へ


大地が震えている。
それは、あの巨躯の距離が近いことを表していた。
セイバーが頷き、イリヤを抱えて走り出すのは、敵の再来と同時だった。

   ◇

使えない、使わないと誓った左腕を封じる布に手をかける。
肩口から、一気に引っぺがすだけ。死への恐怖は微塵も無い。
ただ、自分が壊れてしまうのが、狂ってしまうのが怖かった。
自分が無くなり、彼女たちを救うということさえ忘れてしまうのが。
さあ、戦おう。俺が先に壊れるか、痛みを堪え切れるのか。
引き裂くように布を剥がす。

――世界は、光に包まれた。

体の崩壊が始まる。
壊れきる前に、あの光の向こうへと。
指が崩れた。
一歩を踏み出す。
眼球がめり込んだ。
二歩目、…三歩目。
血潮が逆流する。
……四、……五、……六、…………七。
体が溶ける。

――届かない。

体はもう進めない。後は『自分』が消え去るのを待つのみ。
その中で、あいつの姿を幻視した。

赤い外套がはためく。その、赤い騎士の僅かに見える横顔、広い背中が、

 ”――ついて来れるか”

そう、語っていた。

苦笑する。アイツに心配されるほど、俺は落ちぶれてしまったか。
動かないと思っていた足が、簡単に踏み出される。
八、九、十歩。
そして、俺は赤い騎士の脇をすり抜け、光の奥へと進んでいった。

   ◇

精神での体感時間は、数瞬にも満たない僅かな刹那。
腕に巻きつく布がはためく。左腕は、―に――れて……
余分な思考をカットする。全神系を敵を仕留める必殺の攻撃に集中する。

 「――投影、開始(トレースオン)」

魔術行使に気が付いた狂戦士が、木々を吹き飛ばして迫り来る。
狂ったまま、巨人は変わってはいなかった。
まだ、あの小さな少女のマスターを守る戦いの中に、この狂戦士は身を置いている。
ただ、気付いていないだけ。先程自分が殺そうとした相手も、ただ知らなかっただけ。
狂戦士の生き様は、正に英雄に相応しい。しかし、それは余りにも悲しすぎる。

 「――投影、装填(トリガー・オフ)」

その報われない気持ちも、何もかもを俺が受け止めてやる。
俺の持ち得る二十七の魔術回路を総動員し、一撃の下に叩き伏せる。
だから、俺がおまえを殺してやる。
その間違いに気付く前に、主を守る戦士としておまえを死なせてやる!

 「全工程投影完了(セット)」

狙いは上腕、鎖骨、喉笛、脳天、鳩尾、肋骨、睾丸、大腿の八箇所。
全てが相手を一度、絶命させるもの。

 「――是、射殺す百頭(ナインライブズブレイドワークス)」

音速の剣に、神速の剣を叩き付けた。
だが、バーサーカーは尚も健在。肉体の八割を失い、それでもまだ剣を振るう。
俺は、胸元まで持ち上げた大剣を槍の様に叩き込む。
僅かに俺の剣が早くとも、バーサーカーの一撃に負けた。
ギリギリで避けても、まだ掠る。掠っただけで人の体など簡単に吹き飛んでしまう。
振るわれた死神の鎌は、脅威的なスピードで迫る。
一拍遅れて、俺の剣もバーサーカーを仕留めようとその心臓を狙っていた。
そして、目前に迫っていたバーサーカーの一撃がピタリ、と止まっていた。

 「――――え?」

ドス

俺の持つ剣がバーサーカーの心臓を貫く。
黒い巨人は、前を見ていた。その目線の先を追う。
そこに佇んでいたのは、銀の髪を持つ白い少女。

命を使い果たした巨人は、今度こそ塵に帰っていく。
……その刹那。
消えていく赤い眼が、少女を見つめたまま、おまえが守れと告げていた。


――Interlude 15-2――  ???


少女は騎士に抱えられてから、二秒も経たずにその拘束を振り解いた。
少年は恐らく、あの聖骸布を外すだろう。
少女が危険な場所に向かったのは、少年を止める為。
しかし、騎士の駆け抜けた距離は、少女にとってはそれだけで苦しい道のりだった。
人としての基礎能力を持っていない少女に、人を超えた騎士の通った道は長すぎた。
騎士は、少女を止めようとせず、自身も戦いに赴こうとしていた。
それは時間にして十秒も無い短い時間。
少女が樹の影から飛び出す。続いて武装した騎士も、その広場に飛び出した。
少女の守り手だった巨人の手が止まる。
そして、巨人は少年の手によって倒された。
塵と消える巨人は、最後まで少女を見つめて、消えた。

広場に、戦いの終わりを告げる風が吹く。
少女と騎士は、少年の余りに変わりすぎた背中を見る。
力強く雄雄しい、迷いなど見られない背中。

――そして、引き返す道をなくしてしまった、愚かで尊い、ある一つの結末を。

もう一つ、少女だけが見てしまった。
布が巻かれた腕の中で、特にきつく巻かれた手の甲周辺。
手首の部分が、人とは違うモノに変化しているのを。


――Interlude out――


to be Continued


副題の意味は『英雄の死』です。(たぶん)

7: (2004/03/20 17:10:14)[wallscantattack at yahoo.co.jp]


   ◇


――運命の輪―― 15.5話 供 Trace”


   ◇

森を出た後、強引な強盗紛いのヒッチハイクを決行。
やっとの思いで家に帰った。

   ◇

夜。今の俺の戦力を確認する。
投影は残り三回、自分が消えることを覚悟して五回が限界。
左腕を見る。あの戦いの最中、俺は見てしまった。剣に覆われた左腕を。
目を閉じて耳を澄ます。
……心音に混じり、ギチギチと硬い音がする。
アーチャーの左腕から侵食してくる心。
剣製を使う度にヤツの、否、俺の固有結界が抑えきれなくなる。
アーチャーの固有結界より強い俺の固有結界が、同じものでありながら、その強さの違い。
つまり、矛盾に戸惑い暴走する。
そして、外ではなく内、体内で無限の剣製が作られる。
多分、三回目の投影を使った時点で、左腕だけでなく、俺の体も侵食される。
俺は内側から、千の剣で串刺しにされて死ぬのだ。

まだ、俺は死ねない。
死ぬのは桜を救い出してからだ。
その為にまずは、遠坂と連絡を取ろう。

   ◇

居間。そこには何故か、遠坂が居た。
八時ごろに来たらしい。今の時間は、九時過ぎ。
七時に夕食を食べ終わり、それから二時間も俺は考察をしていたのか……
何してんだよ、俺。

   ◇

イリヤが復讐者(アベンジャー)の説明を遠坂とセイバーにしている。
俺は、既にそれが何たるかを知っていたりするので、こうして暇を持て余しているわけだ。

話を背中で聞きながら、黒鍵の残骸を弄る。
魔力で編まれた刀身が消え、柄の部分だけとなった黒鍵。
もう一度魔力を通し、刀身のイメージで固めれば本来の姿に戻るだろう。
そうして、イリヤの話が大空洞(テンノサカズキ)の部分で一段落ついた時、

――庭の一角に、闇より昏いナニカが具現した。

空気が重圧に包まれる。黒いナニカが庭を、この家を覆いつくす。
力の差は歴然。しかし、それは虚像だ。影を使役するものの虚像。
俺は、敵対している相手との実力、戦力の差に絶望に近い感情を持ってしまった。

   ◇

桜は俺に、この街を離れろと言っていた。遠坂と共に。
それは無理な相談だ。桜を助けるのが俺の目的。
目的を達するまで、諦めることは出来ない。

時刻は夜の十時。
イリヤと二人、土倉の中で今から、宝石剣を投影する。
その前に、

 「イリヤ」
 「何?シロウ」
 「肩慣らしに、何か別の物を投影してもいいか?」

イリヤは不機嫌そうに俺を睨み、

 「……別に。シロウがそうしたければそれでいいよ」

苦々しそうに声を出した。

 「――サンキュ」

どんな葛藤をしたのかは解らないが、苦渋の決断をしたのだろう。
そのイリヤに感謝して、投影を開始した。

   ◇

不慣れなモノを投影したせいか、予想以上に魔力を持っていかれた。
イリヤの呆れ顔が、とても良く印象に残ったよ……

聖骸布を外さずに投影をしてみたが、やはり侵食されるのは変わらないようだ。
勿体無いことをした気がしないでもないが、使用すれば無問題(モーマンタイ)だろう。

   ◇

宝石剣ゼルレッチ。
魔法使いゼルレッチが作り出した、宝石を刀身に持つ儀礼用の剣。
それは、未知、理解不能、余りに今の技術からかけ離れた存在。
一応ではあるが、投影は成功した。
代償として、左腕が動かなくなったのだが。

土倉を出る。
セイバーに投影した宝具を渡して、部屋に向かう。
そして、

 「――――あれ?」

疲労からか、眩暈と共にぶっ倒れた。


――Interlude 15-3――  セイバー視点


 「セイバー」

シロウに、手の平大の球体をした何かを渡される。

 「肩慣らしに投影した武器なんだが、このまま消すのも気が引けるからセイバーが使ってくれないか?まあ、お守り代わりだよ」

そう言ってから、

 「――――あれ?」

シロウは草の上に倒れてしまった。

 「「シロウ!?」」
 「士郎!?」

叫び、私と凛とイリヤスフィールはシロウに駆け寄る。
脈を確認する。気持ち早く感じるが、大丈夫だろう。
呼吸を見る。乱れてもなく、一定の間隔で胸が上下している。

 「どう、セイバー?」
 「寝ているだけです。これなら、心配しなくても良い」
 「そう」

凛はそう言って、シロウを背負う。

 「凛?」
 「士郎を部屋に運ぶの。十一時半に起こしてあげてくれる?セイバー」

凛は、返答を待たずに部屋の中に入ってしまった。


――Interlude out――  


to be Continued



副題の意味は『投影』です。(たぶん)

8: (2004/03/20 17:10:29)[wallscantattack at yahoo.co.jp]


   ◇


――運命の輪―― 16話 ”Confrontation.”


   ◇


セイバーに起こされた。倒れて、今まで眠り込んでいたらしい。
……なんて緊張感の無い。

兎に角、セイバーに投影した宝具の使用法を教えて、準備をする。
準備といっても、特に何もすることは無いので部屋の中を漁っていた。
すると、あのペンダントを見つけた。
赤い宝石の付いたペンダントは、いつかの校舎で襲われたときに落ちていたものだ。
ポケットに突っ込む。
お守りのような感覚で、持って行こうと思った。
隠し持っていたアゾット剣を布で巻く。
それを脇に抱えると、時計の長針と短針が真上を指した。
時刻は零時。セイバーに教えられた約束の時刻だ。

   ◇

イリヤ一人を家に残し、俺たち三人は大聖杯の元へと向かっている。
場所は俺の知識の中に記憶している。
柳洞寺の聳え立つ山の、森の中を歩いていく。
獣道さえない道なき道を、ただひたすら進み続ける。
小川を流れる水の沸く、岩の折り重なった場所。
そこには魔術で偽装された壁があり、その奥に大聖杯は存在する。

チロチロと、水の流れる音が聞こえた。
一際高い藪を抜けると、その小川を見つけた。
遠坂とセイバーに説明する。
そして、その奥に行こうとして、

 「士郎」
 「何だ?」

ドゴッ

遠坂に呼ばれ振り返ると、後頭部を衝撃が走り抜けた。


――Interlude 16-1――  セイバー視点


それは、シロウを部屋に運んだ後に遡る。

   ◇

 「シロウを、戦闘に参加させない?」

凛の口から出た言葉に驚く。
少しでもこの戦いに仲間は必要だ。
その仲間を、自分から切り捨てるなんて思ってはいなかった。

 「士郎は気づかれてないと思ってるみたいだったけど、彼はもう駄目よ。
 顔面は蒼白で幽鬼のような顔してるのに、まだ戦おうとしてるんだから」
 「それは……」

確かにシロウは無理をしている。
今こうして寝ている間にも、何かに苦しめられているように呻いているのだ。

 「しかし、シロウは言われただけでは、まだ戦おうとしますし、私たちは大聖杯の位置を知らない。それに、シロウを騙すのは気が引ける」
 「大聖杯までの道順を案内してもらって、後は気絶させておけば良いの。お願いできる?セイバー」

令呪をこちらに見せながら、脅迫紛いの要求をしてくる凛。
私は、

 「……分かり、ました」

渋々、承知するしかなかったのだ。

   ◇

シロウの後頭部に手刀を叩きつける。
一瞬で意識を刈り取り、シロウの体は藪の中に崩れ落ちた。

 「……それじゃあ、行きましょう。セイバー」

凛はそれを見届けて、小川の上流の岩の奥に進んでいく。
凛を追う前に、シロウの耳元に口を寄せる。

 「私は、貴方の剣になると誓った。ですが、最後に裏切ってしまったことを、許して欲しい。
 シロウ。私の事を憶えていて下さい。憎い相手としてでもいい、私のことを忘れないで下さい。……では、」

恐らく、聞こえてはいないだろう。それでも、その言葉を口にした。
立ち上がり凛の後を付き従う。
この身に後悔など無い。
ただ出来るのならば、この世界で彼と共に日常を過ごしてみたかった。


――Interlude out―― 


――Interlude 16-2――  遠坂視点


岩の奥に続いていた地下に下りる道を出る。
狭い路は通路に変わり、闇の奥へと続いている。

そこは、余りに異状だった。
この場に満ち溢れる魔力の量はおかしな程、濃い。
生命力が余分な程詰まっており、余った分が腐ってしまった様。

洞窟内は光苔の一種か、緑色に照らされていた。
洞窟特有のデコボコした地面の上をしっかりと踏みしめながら無言で進む。
ここは既に敵地。無駄な話で気を割くわけには行かない。

   ◇

通路を抜けた。
大きく開けた空洞が、ポッカリと口を開けているようだった。
そこに、あの黒化したサーヴァントの青年が立っていた。
空洞で待ち受けていたのはその青年だけ。
両手を組み、待ち飽きたとでもいうような顔をしていた。

 「――――――アーチャー」

セイバーが呼ぶ。
あの赤い騎士ではなく、前回の聖杯戦争の生き残りである青年を。

 「騎士王か、待ちわびたぞ」

言いながら手を解き、片手を腰に当てた偉そうなポーズをとる。
律儀にセイバーの呼びかけに答えた黒いのは、

 「無粋な邪魔はいらぬ。娘、貴様に用が有るのはあの出来損ないだけだ。早々にあれの元に行くが良い」

呆気なくわたしを奥に通してくれた。

   ◇

アンリマユと同化、いやアンリマユそのものになってしまった桜。
宝石剣を片手に、変貌した自分の妹と対峙する。
否、あのような”魔”を自分の肉親と呼びたくはない。
あれはわたし、『遠坂凛』という名の魔術師が倒すべき”魔”。
慈悲も無く、感情も無く、ただ打ち倒すのみ。

魔力の塊が吸収という一つの方向性を持って、巨大な影として具現する。
四身の巨人は、守護する少女の敵であるわたしに迫る。


――Interlude out―― 


to be Continued



副題の意味は『対立』です。(たぶん)

9: (2004/03/20 17:11:24)[wallscantattack at yahoo.co.jp]


   ◇


――運命の輪―― 17話  ”King & King”


   ◇


――Interlude 16-3――  広大な空洞にて


下段、下から振り上げるための構えでセイバーが駆ける。
それを、上段からの振り下ろしで切り結ぶギルガメッシュ。
高い金属音と共に、宝具が弾け飛ぶ。
そして、セイバーの相手の懐に潜り込むような踏み込み。
剣を地面と水平にし、急所を狙った打突を放つ。
ギルガメッシュは体を捻りながらしゃがみ込み、それを避ける。
その勢いを利用し、足首を刈り取るような脚払い。
大きく後退することで蹴りを避け、乱れた呼吸を少しでも整えるセイバー。
既にギルガメッシュの手には新たな宝具が握られている。

――セイバーとギルガメッシュの剣戟は既に二十四合。

セイバーとギルガメッシュは互角。
セイバーは実力では遥かにギルガメッシュを上回っている筈。
しかし、ギルガメッシュにはそれに拮抗できる程の魔力が供給されている

セイバーがギルガメッシュの持つ剣を弾き飛ばす。
しかし、その一瞬のうちに新たな武器が弾丸として襲い掛かる。
大きく後退しそれらを避けるが、後を追う武器が容赦なく迫ってくる。
弾き飛ばしながら接近し、また剣戟。これの繰り返しを二十五回。
セイバーは息が上がり、ギルガメッシュは笑みさえ浮かべている。

二人の残りの体力差は歴然である。

 「まだ諦めぬか、懲りぬ女だなセイバー」

その問いに答えることも儘ならない状態のセイバー。
一気に畳み掛けようと突撃する。 
まるで砲弾。土台の安定した砲台から発射された、鉄の塊のようだ。
しかし、幾つもの宝具が彼女の進撃を阻止する。
減速して武器の迎撃を開始する。
弾き、受け流し、捌き、避ける。
その間にも脚は止まることが無く、徐々にだが二人の距離は縮まっていた。
宝具を全て撃墜する。
そこで、今まで以上の加速をしようとセイバーの体が沈み込み、止まった。
聖剣に魔力を籠め始める。
そんな彼女の目線の先には、

――乖離剣を発動しようとする英雄王の姿があった。

 「――”天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)”」
 「――”約束された勝利の剣(エクスカリバー)”!」

白と黒の極光がぶつかり合う。
目を潰す閃光は、しかし鮮やかなコントラストを生む。

押されているのは白い聖剣の光。
星の内部で創られた『最強の幻想(ラスト・ファンタズム)』は、無銘の剣に破れさる。
セイバーの体が吹き飛んだ。決して低くは無い洞窟の天井に当たり、地面に落ちる。
力なく倒れ、鎧はボロボロで既に破損していないところは無く、肌も所々露出している。
自らの聖剣が敗れた事に放心しているセイバー。
それでも未だ、双眼に灯る戦おうとする意思の光は、衰えはしなかった。
立ち上がろうとするが体は震え、体勢を整えることが出来ず、痛みに顔を顰める。
セイバーは痛む脇腹の傷口を押さえ、

――ふと、指先の違和感に気付いた。

指先に硬い感触。取り出してみると、それは球体の石だった。
手の平サイズのそれは、投石に使う礫(つぶて)のよう。

――衛宮士郎からお守り代わりに、と手渡された宝具。

それを握り締め、脇腹を押さえながら、聖剣を杖にして立ち上がる。

――ギルガメッシュはこの後、凛を始末しに行くだろう。それはさせてはいけない。私は英雄王の相手を任された。まだ戦える身である限り、彼女の邪魔をさせてはいけない――

衛宮士郎から聞いた説明を、一語一句正しく思い返す。

 『セイバー、これは所有者の魔力に関係なくダメージを与える宝具だ』

右手でそれを握り締める。魔力を通わせると、始めは淡く、そして段々と輝きが増していく。
ただの石と変わりなかったそれは、掴める程の大きさの丸い光球になる。

 『ただ魔力を籠めて、真名を唱えればいい』

ギルガメッシュがそれを見て、自身の持ち得る全ての宝具を呼び出す。
洞窟を埋め尽くす千の宝具が、セイバーに刃を向ける。
その様子は、今か今かと指の鳴る間も惜しむよう。
セイバーは魔力を籠めた光球を投げ放ち、真名を唱える。
同時に、千の宝具は、主の命によりセイバーに襲い掛かった。

 『これの真名は――』「――”太陽の如き石の魔弾(タスラム)”」

光球は空中で、一つ二つと幾つにも分裂し、英雄王の財宝に匹敵する数になる。
暫しその場に留まった光球は、弾丸のように加速した。

――『魔弾タスラム』別名太陽弾。ケルト神話の太陽・光の神、ルーの持つ武器の一つ。
暗黒神バロールを倒したルーの魔力が込められている石弾である。――

魔弾は、太陽弾の二つ名に相応しいほどの輝きを放つ。
それらは、獲物を見つけた獣のような俊敏な動きで、宝具の壁に突っ込んだ。
爆発音が連続して洞窟に響く。
耳を塞ぎたくなる程の爆音が、洞窟に響き渡った。
魔弾と宝具の威力は互角。あらゆる宝具は、魔弾と共に力なく地に落ちた。
魔弾一つ一つが宝具に突き進む様は、さながら流星のよう。
土煙が舞い上がり視界が塞がれ、セイバーの位置が確認できなくなる。

 「チィッ!」

乖離剣を構え、魔力を籠める英雄王。
自身の武器さえも巻き込み、セイバーを討たんとする。
同時に、土煙の中からセイバーが飛び出した。
宝具を発動する暇は無く、二人は魔力を籠めただけの自身の剣を叩きつける。
技も何も無いただ力のみの一撃、しかし勝敗を分かつ一撃を。

 「はああああああああああ!!!」
 「うおおおおおおおおおお!!!」

二人の怒号は爆発音に劣らず、洞窟に木霊(こだま)した。

ガギッッ!!

形容し難い音が鳴る。
そして二人から少し離れた地面に、一本の剣が落ちた。

   ◇

ドサリと人が倒れる音が洞窟に響き、二人の王の勝負が終わった。
その場に立っているのはただ一人。

――黒く染まった、英雄王だけだった。

余裕綽々といった表情で立ち尽くすギルガメッシュ。
足元で、セイバーが弱々しく呼吸をしている。

 「騎士王よ」

後ろを振り返りながら、言った。

 「良くぞ、我に傷を付けた」

ギルガメッシュの鎧は、左胸から右の脇腹まで袈裟に斬られている。
この傷を負わせた張本人は、敵前で昏睡している。

 「あのクー・フーリンの親(*1)の武具とは、これは偶然か必然か。まあ、どうでもよい」

振り向いた先には奇妙な形の乖離剣、エアが突き立っていた。
そして、セイバーの使った宝具に何か心当たりがあるらしいギルガメッシュ。

 「ならば、騎士王は神の代行者か?教会の者でもあるまいし」

軽口の独白は続く。

 「中々に愉しかったぞ。……もしかしたら我は、おまえに殺されたかったのかもしれん。
 我は本当におまえに惚れていたのかもな、騎士王。」

乖離剣を引き抜き、セイバーに止めを刺そうとして、

 「――ギルガメッシュ――!!」

誰かに、名を呼ばれた。
振り返る。その瞬間、彼の腹部に衝撃が走る。

 「――ガッ!?」

それは、剣。丁度セイバーに切り裂かれた鎧の隙間に刺さったのは、釘のような剣だった。
黒鍵。言峰綺礼が袖に隠していた教会製の武器。

――それが、何故此処に?

柄を握り締め、引き抜く。
ギルガメッシュの頭は今、痛みに勝るほどの激しい怒りに支配されていた。
剣を引き抜いた男の目に、何かを投げた後のような体勢をした少年が目に入る。

 「――――――雑種如きが、我を侮るな!!」

それは紛れも無く、衛宮士郎の姿をしていた。
ギルガメッシュは、引き抜いた剣を少年に投げ放つ。

――英雄王の間違いは、このたった一つの行動だった。

二人の間を往復した黒鍵は、刃を少年の指に挟まれ受け止められていた。
それを器用に持ち替え、またもギルガメッシュに向けて放たれる。
まだ体勢の立ち直りきっていない彼にとって、その一撃は致命的だった。
黒鍵が、右手に持った乖離剣を弾く。
思わず目で追ってしまい、僅かに隙ができてしまった。

ドスッ

胸に短剣が突き立てられる。
そして、

 「”läßt”――」

二度目の衝撃が、ギルガメッシュの全身を駆け抜けた。


――Interlude out――


to be Continued


*1 太陽神ルーはクー・フーリンの父親である


副題の意味は『王と王』です。(たぶん)

10: (2004/03/20 17:11:56)[wallscantattack at yahoo.co.jp]


   ◇


――運命の輪―― 17.5話  ”A Rider”


   ◇

肩を揺さぶられる。
ゆっくりと目を開けようとして、先程の出来事を思い出し勢いよく立ち上がる。
そして、

ゴスッ

 「ぐお!?」
 「きゃ!!」

頭の一番上を何かにぶつけた。
顔を上げると、そこに額を押さえるライダーの姿があった。
……どうやら、勢い良く上がった頭が、ライダーの額とぶつかったようだ。
とりあえず謝る。

 「スマン。ライダー」
 「折角起こしてあげましたが、もう一度眠らせてあげましょうか?」

うわ、怒ってる。絶対怒ってるよ。
でも、もう一度眠らせるって、……そうだ!遠坂たちは。

 「遠坂たちは、何処に行ったんだ?」
 「士郎を気絶させた後、洞窟の奥に行ってしまいました」

何故、俺を気絶させたのかは、まあ考えればすぐに解るだろう。
しかし、その時間も惜しんで遠坂たちの後を追う。
振り向いて、先程と同じところに立っていたライダーに礼を言う。

 「起こしてくれてありがとうな。ライダー」
 「いえ、このままでは桜が殺されてしまいかねませんでしたので」

何か、おかしな事を聞いた気がする。

 「――今、何て言った?」
 「桜が殺されかねないと言ったのです。セイバーは良く解らないサーヴァントと、凛は桜と闘っていますから」

多分、良く解らないサーヴァントとはギルガメッシュのことだろう。
今のセイバーが勝てるかどうかはわからない。
あの時よりまともな魔力の供給を受けているが、ギルガメッシュも黒化している。
倒されてしまう前に、援護に向かわなければいけない。
魔力回路を発現させる。魔力の通った体は、身体能力が急増する。

 「もう一度礼を言う。ありがとう、ライダー」
 「士郎」

急に真剣な顔になり、名前を呼ばれる。

 「――何だ?」
 「もし貴方が桜を殺そうとしたなら、容赦なく貴方を殺します」
 「……そんなことはないだろうけどな。わかったよ」

そして、満足そうに一度だけ頷き、霊体になったのだろう。ライダーは目の前から掻き消えるようにいなくなった。
俺はすぐにその場を駆け出し、洞窟に通じる道を滑り降りた。

   ◇

通路を駆け、広大な空洞に出る。
そこで、

――倒れ伏すセイバーと、彼女に背を向けるギルガメッシュを見た。

 「――ギルガメッシュ――!!」

激情に任せて名を叫ぶ。
腰に差しておいた黒鍵の柄に魔力を通し、刀身を編み上げ投擲する。
振り向いたギルガメッシュの鎧には裂け目が生じており、黒鍵はそこに突き刺さった。
ギルガメッシュが渾身の力で黒鍵を投げ返す。
それを指で挟みこみ、止めた。
もう一度黒鍵を放った後、布に巻かれたアゾット剣を取り出し、数十メートルの距離を一瞬で駆け抜ける。
胸に短剣を突き刺し、いつか言峰にしたようにアゾット剣に魔力を叩き付けた。

――ギルガメッシュの体の内部から光が迸る。

ギルガメッシュの体は地面に倒れた後、影に飲み込まれていった。
アゾット剣の解放の言葉は、あれで合っていたらしい。
もしも違っていたら、今の俺はいない。
……俺、凄い博打をしたのではないだろうか?

   ◇

 「セイバー!」

倒れ伏すセイバーに近寄る。
呼吸と脈を確認する。
……良かった。まだ、生きている。
セイバーの体を起こす。
頬をペチペチと叩くと、暫らくしてセイバーが目を覚ました。

 「あ、――シロウ」
 「大丈夫か?」
 「平気です。此処に満ちる魔力を補充すれば、すぐに回復するでしょう」

少し苦しそうにしながら、セイバーは説明してくれる。

 「凛の元へ行ってください。私も、後から向かいます」

その言葉に頷き、闇の奥を見据える。
ゆっくりとセイバーの体を地面に下ろし、立ち上がる。
放置された黒鍵は捨て置き、一刻も早く遠坂の元に向かう。


to be Continued



副題の意味は『騎手』です。(たぶん)

11: (2004/03/20 17:12:07)[wallscantattack at yahoo.co.jp]


   ◇


――運命の輪―― 18話  ”Take an Own Sword and Stand Up.”


   ◇

闇を抜ける。
そこには荒野が広がっており、高い崖がある。。
何故かは知らないが、崖の上から放たれる光が洞窟を破壊していた。
……あんな無茶な事をするのは、遠坂だ。洞窟が崩壊しても知らんぷりだろうなあ。
妙な感慨に浸ってしまった。
もう一度、崖の上を見る。
光が放たれている崖、そこに巨大な塔と黒い太陽が存在している。
『復讐者(アベンジャー)』
そいつはアレの中で受肉している。
遠坂の暴れっぷりに、自分の体を形成する塔を壊されかねない、と焦っているようだ。
急造の体で、この世界に現界しようとしている。

 「――――させるか!」

駆ける。駆けて崖をよじ登り、その上に出る。
途中、光と影の衝突が桜と遠坂のものと視認できるほど近づいた時、

――時間が止まったと錯覚するほどの閃光が放たれた。

同時に、泣きじゃくる声と共に洞窟が揺れ始めた。
これは今の光が原因ではない。あの塔のなかの巨大な影が、外に出ようとする惷動だ。

そして、洞窟が崩壊を始める。
そんな事を気にしている場合ではない。
俺は、桜の泣きじゃくる声から連想される、最悪の結果を振り払うように駆ける。
そして、

――うつぶせに倒れた、血の海に沈む遠坂を見た。

   ◇

桜は己を罵倒し、蔑み、憎み、自分自身を拒絶している。
あくまで冷静に、冷静に最善の行動をする。
遠坂の状態を見る。弱々しいが、脈も呼吸も有る。

 「桜。遠坂は死んでいない」
 「―――――――――?」

桜は、遠坂が死んだと思ったらしい。
遠坂の魔術刻印が、自分の主を生かそうと起動している。
傷口も塞がり始め、放っておいても暫らくは大丈夫だ。

桜は俺の言葉を聞き、安堵の息を漏らし、

 「っ――! だめ、逃げて先輩――!」

自身の影を押さえ込む。
遠坂に覆い被さり、影を受け止める。
振り返ると、桜の後ろから次々と影が浮かび上がるのが見えた。
くそ、俺が消そうとしてるのを知ってやがる。

 「往生際の悪い餓鬼だ。早く俺の家族から離れやがれ!」

桜に向けて歩き出す。
俺を狙う影は、桜の叫びで軌道を変えて掠るだけに留まる。

 「先輩! もう止めてください。それ以上来られたら、先輩を殺してしまいます!」

桜を覆う影は、減るどころか徐々にその数を増やしている。
それでも、脚を止めることは無い。

 「逃げて。姉さんと一緒に逃げてください……!わたしのことは忘れてください……!
 わたし、ひとりでもちゃんと死にますから……! これ以上、先輩にこんなわたしを見られたくない!」

その影の嵐の中を、紙一重で避けながら進む。

 「どうして、……どうしてわたしに構うんですか! もう、いいですから。来ないでください。
 それ以上近づいたら、先輩に殺される前にわたしが先輩を殺しちゃうんだから……!」
 「どうして、じゃない。俺は桜も遠坂も、大切な人たちを助ける。そう決めたんだ」

一歩を踏み出す。そこに、影が直撃した。
ずん、と衝撃。……ただの打撃だ、気にすることは無い。
桜が、自分で俺を押しのけようとしただけだ。

 「見たでしょう、先輩。わたし、もう駄目なんです。この子はわたしを放さない。わたしも今更元に戻るなんてできない。
 戻れても、――わたしは人殺しです。兄さんも、お爺さまも、姉さんも。町の人を大勢殺しました。
 そんな――そんな人間にどうしろって言うんですか……!
 取り返しのつかない罪を犯したわたしに、それでも、それでも生きていけって言うんですか、先輩は……!」

その言葉は、自分を傷つけるものであり、苦しみを訴えるものだった。
桜は、多くの人を殺しすぎた。
償う事さえできない罪が、桜を追い詰めていた。
救いなど無い。
人の命を奪った咎は、桜の心に在り続ける。
影から解放されたとしても、桜には昏い影が、重い罪が残ったまま。
それでも、

 「当然だろう。奪ったからには責任を果たせ、桜」

影の一つが左肩、聖骸布の結び目にぶつかる。
布が解け、左腕が露わになる。

 「――先、輩? 腕が、剣、に」

近寄る。近寄りながら、言葉を続ける。

 「そうだ。罪の所在も罰の重さも、俺には判らない」

影が体を貫通する。
血を吐きながら、まだ言葉を続けた。

 「けど守る。これから桜に問われる全てのコトから桜を守るよ。
 たとえそれが偽善でも、大切な人を守り通す事を、ずっと理想に生きてきたんだから――」

投影を始める。
契約破りの短剣を投影する。
関が無くなったせいで、剣の侵食が俺の体に到達した。
同時に、傷を負った部分が幾つもの剣に覆われる。

短剣を振り上げ、桜に近寄ろうとして、
なにか、鉄の音が聞こえた。
瞬間、腕に何かが絡みつく。
気を逸らしたせいで、数十の影が、俺の体を刺し貫いた。


to be Continued



副題の意味は『自らの剣を取り立ち上がる』です。(たぶん)

12: (2004/03/20 17:12:19)[wallscantattack at yahoo.co.jp]


   ◇


――運命の輪―― 18.5話  ”It is only it. ”


   ◇

腕を見ると、一本の鎖が腕に巻き付いていた。
視認すると、体が後方に引っ張られる。
影が勢いよく体から引き抜かれ、激痛に襲われる。
影に貫かれできた穴は、すぐに剣に覆われた。

宙を飛ぶ。どんな力で引っ張られたのだろう、体は、軽く三秒ほど滞空していた。
体が、ゴムボールのように地面を跳ねる。
何度かの衝撃の後、血を吐きながらも立ち上がった。
目の前には、

 「桜を殺そうとすれば、貴方を殺すと言った筈ですが」

紫の髪の長身が佇んでいた。
その距離は目測で十メートル弱。
ライダーには一瞬で間合いを詰めることができるだろう。

 「殺す? 俺が、桜を?」

莫迦を言うな。俺は、桜をあの影から解放しようとしていただけだ。

 「ええ、その手に持った歪な短剣で彼女の胸を刺して」

……そうだ。ライダーはこの短剣の効果を知らない。
勘違いして、俺が桜を殺そうとしていると思ったのか。
やはり、ライダーはドジっ子だ。

 「……なにが、おかしいのです」
 「は?」
 「口元が笑っています。それは、侮辱と思っても良いのですか?」

ヤバイ。知らないうちに顔に出てしまったようだ。
しかし、ライダーに短剣の効果を説明している暇は無い。

 「ライダー」
 「死ぬ前に言い残すことでも?」
 「ああ。一つ、訊きたい。桜を守るサーヴァントは、ライダー一人で十分か?」
 「当たり前です。自分の主は一人で守りきれます」
 「それを聞いて安心した、よっ!」

鎖を外す。しかし、その一瞬でライダーは目前に迫っていた。
ゆっくりと後ろに後退し、瞬間的な加速で前進する。
緩急の付いた動きに、惑わされること無くライダーは対応する。
しかし、次に俺が取った行動に彼女は反応しきれない。


――Interlude 16-4――  ライダー視点


 「なっ!?」

士郎の行動は、余りにも不可解なものだった。
緩急の付いた動きの後、彼は急にしゃがみ込んだのだ。
それだけならまだ対応できる。
しかし、彼はそのまま、私の足の隙間を滑り込むように通り抜けたのだ。
そのまま、両足首を払われるように叩かれる。

 「っ――――」

痛みはないが一瞬、隙が出来てしまった。
それだけあれば十分、と士郎は桜に駆け寄る。
そして、体に刺さる影など気にせず、

 「おしおきだ。きついのいくから、歯を食いしばれ」

高く掲げられた短剣。

 「――はい」

それに答えるサクラ。そして、

 「帰ろう桜。――そんなヤツとは縁を切れ」

短剣がサクラの心臓に突き刺さった。

 「サクラ――――!!」

駆ける。
サクラを殺した士郎の息の根を止めようと、渾身の力で走る。
しかし、

 「えっ?」

サクラは死んではいなかった。
それどころか、影から解放されている。

 「士郎。どういうことですか」
 「いや、説明しなくて悪かった。アンリマユとの契約を断ったから、桜はもう大丈夫だ」
 「私の、勘違いだったのですか?」
 「まあ、そうだな。それより、桜と遠坂を連れて、外に出ろ。すぐ終わると思うが、これが終わってから俺は行く」
 「……わかりました。それでは、ご武運を」

二人を抱えて出口に駆け出す。
士郎の体は、ほぼ半分以上が剣に変わっていた。


――Interlude out――  士郎視点へ


ライダーが去った。巨大な塔に向き直る。
それを破壊するために。
こんなことが、二度と起こらないようにするために。
それなのに、大聖杯と呼ばれるクレーターの前。
赤黒い炎に照らされて、死んだと思っていたアイツがいた。

 「――言峰、綺礼」

   ◇

先に、男の時間切れが訪れた。
死闘を繰り広げた俺と言峰に、呆気ない終わりが訪れた。

しかし、俺も死に体。
体の隅々は言峰に破壊され、剣に蝕まれ、取り返しの付かない状態。

キシキシ

体が軋む。骨が、ではない。
既にこの体には、人らしいものなど頭以外に残っていない。
剣が擦れ合い、軋みあい、侵食する。
それでも、俺は歩み続ける。

 「さあ、最後の、一仕事だ」

――投影しろ、アレを消しうる宝具を。複製しろ、彼女の扱う聖剣を。

頭の中では、そればかりが駆け巡る。
しかし、

――生きたい!

一つの思考が、それの邪魔をする。
それでも、やるしかない。

 「――投…影、……開、始」

イメージを、最強の、悪を滅ぼす、思考が、壊れる。

――それはわたしの役目だよ。
   この門を閉じるのはわたしだから。

 「イ……リ、ヤ?」

投影が中止される。
置いてきたはずの、場違いな少女の声で。

   ◇

少女は、光の奥。
大聖杯に向かって歩みだす。
剣と化した脚は、彼女を止めることさえさせてはくれない。
このままでは、彼女に会えなくなる。
そう、直感した。

早く。俺はどうでもいいから、早く止めないと。行ってしまう。いなくなってしまう。止めろ。行くな。足は棒立ちで動かない。くそっ、動け。ああ、行ってしまう。彼女が行ってしまうじゃないか。切嗣(オヤジ)の本当の家族。俺なんかより親父と過ごすべきだった少女。幸せ、彼女は幸せに過ごさないといけないんだ。動けうごけうごけうごけうごけうごけうごけうごけうごけうごけうごけうごけうごけ――――

――――動けっつってんだろこの糞野郎!!!


to be Continued



副題の意味は『それだけの事』です。(たぶん)

13: (2004/03/20 17:12:30)[wallscantattack at yahoo.co.jp]


   ◇


――運命の輪―― 19話  ”Last”


   ◇

大聖杯の中心に向かうイリヤ。
嫌だ。止めないと。まだ俺は大丈夫。そんな事をしたらイリヤが消えてしまう。
止めたいという一心でイリヤの元に向かう。

目が焼ける。関係ない、目蓋を切り取ってでも見続ける。
手を伸ばす。千切れてでも、あの白い少女の手を掴む。
一歩を踏み出す。何者にもこの歩みの邪魔をさせない。

 「シロウ!?」

驚くイリヤを、扉から引き摺り出す。

――天のドレスは触れた人間を金に変える筈。

金にならないところを見ると、俺は既にヒトとして認識されていないようだ。
ついでに扉を閉めようとする。
ただの人間に閉められない扉を無理矢理、それこそぶち壊す勢いで閉める。

 「シロウ!」

後ろから声をかけられる。振り返るとセイバーが居た。
やっと追い付いたようだ。
丁度いいので、イリヤをセイバーに投げ渡す。
悲鳴が聞こえたが気にはしない。

 「セイバー、イリヤを、外に、連れて行け」
 「ですが、シロウは!」
 「これは、命令じゃない、お願いだ。分かってくれ、セイバー。それで、終わったら、俺を迎えに、来てくれ。待ってる、からな」

声は、途切れ途切れに出すのがやっと。
その言葉に、解りましたとでも言うように頷き、セイバーは出口に走り去った。
その矢先、彼女の真上に巨大な岩盤が落下した。
それに彼女は気付いていない。いや、気付いていたとしてもアレでは防げまい。

 「――”熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)”」

投影した盾は、その巨大な岩盤の落下を止める。
それに気付いたセイバーが徐々に加速する。
すぐにその後姿は見えなくなった。
残された投影の数は一回。これで、失敗は許されなくなった。

 「……頼んだ。アルトリア」

投影を終了し、名残惜しむように声を出した。
岩盤は、既にセイバーの去った後の地面に当たり砕け散った。
前を見る。大聖杯の中で受肉している復讐者(アベンジャー)は、すぐにでも聖杯から出ようとしていた。
宝具を投影し、アレを消し去る。それには、セイバーの聖剣が妥当だろう。

 「――投影、開始(トレース・オン)」

聖剣が具現化される。
体を剣が侵食する。顔以外は殆どが剣。
これが限界、これを投影すれば帰って来れなくなる。

 「――”約束された勝利の剣(エクスカリバー)”」

発動した。剣が遂に頭をも覆いつくす。
だが、投影した聖剣は失敗作だった。
イメージの何処かに綻びがあったのだろう。
発動した聖剣は、大聖杯を壊すに至らず復讐者も消しきれていない。

桜の背後に居た影が、大聖杯の前に現れる。黒い影、あれは復讐者の残った一部。
アレを倒せるのは『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』のみだが、それは無理だ。
もう投影は出来ない。今の俺はただの剣、巨大な鉄の塊だ。
なのに何故、

――この体は、アイツを倒そうと躍起になっているのだろう。

解っている。それはまだ終わっていないから。
奴を倒さない限り、俺の体は止まることはない。
しかし、俺はアイツを倒す術を持っていない。何より、武器を投影できない。
否、投影など行わずともココに武器はある。鉄の塊、剣と化した俺の体が。

一歩を踏み出す。体は軋みながらも、滑らかに動いた。
目の前の敵を見据える。
影は公園で出会った時のままの姿で佇んでいた。
俺の技術ではアレを消しきることは出来ない。

――ならば、体を覆いつくす数多の剣から其々の担い手の技術を模範する。

身体が駆け出す。自分の意思ではなく、模範した剣の担い手の動き。
自分の物ではないその動きは、俊敏で複雑だった。
獣のように直進して、蜘蛛や蜥蜴のように這い回る。
影が近寄る物体、即ち俺を止めようと触手を伸ばす。
その数は二十三。幾つかは剣と化した両腕で防いだ。
両腕は防ぐだけに止まらず、触手を切り裂き霧散させる。
両手を伸ばして突きを放つ。一息で繰り出した突きの数は五。
それは、その倍にも及ぶ数の触手を消し飛ばした。
残りを足捌きのみで避ける。
避けたところに、美しいまでの弧を描く上段蹴りが放たれる。
武術の心得を持ったものがいたのであろう、綺麗に洗練された技を、淀みなく繰り出すことができる。
影が目前に迫る。拳に、残った力の全てを籠めて殴りつける。

影は、弱い攻撃くらいならば無効化することが出来るモノだ。
それから考えると、今の俺は宝具なのだろう

――『この生、全ての善(エミヤシロウ)』という名の宝具。

真名を唱える代わりに、アイツの呪文を呟く。
しかし、心の中では他の願いを囁いていた。

 「   体は剣で出来ている ――この身体こそが自身の武器
   ”I am the bone of my sword.
     血潮は鉄で心は硝子 ――本当に望んだのは平穏
   Steelismybody,and fireismyblood
     幾たびの戦場を越えて不敗 ――心は平和の日々を願う
   I have created over athousand blades.
     ただ一度の敗走もなく、 ――敗走は許されることなく
   Unaware of loss.
     ただ一度の勝利もなし ――勝利を望むこともなし
   Nor aware of gain」
     担い手はここに独り。 ――まわりには大切な人がいる
   Withstood pain to create weapons.
     剣の丘で鉄を鍛つ ――平和な世界に戦う相手はなく
   waiting for one's arrival」
     ならば、我が生涯に 意味は不要ず ――ならば、正義の味方は必要ない
   I have no regrets.This is the only path
     この体は、無限の剣で出来ていた ――この心は、永遠の平和を望んでいた
   Mywholelifewas“unlimited blade works”」


体が内側から光り輝く。その光は、全てのものを優しく包み込むように広がった。
影の中心を拳が貫く。途端、影は風船のように膨らみ、体の内から爆散した。
郊外の森では黒い闇が広がり、この大空洞では目を潰す極光を放って影は消滅した。

   ◇

足が急にただの鉄屑と化し、仰向けにぶっ倒れた。
先程までと違い、全身が本当にただの鉄と化す。
影を倒した達成感で、思わず目蓋を閉じた。

   ◇

……既に無くなった筈の意識が戻る。
目を開けた。剣となった目蓋は、不思議と簡単に開いた。
鉄となった眼がそれを視覚した。
大空洞は崩壊しかけていた。大聖杯は残っている。だが、復讐者は消えた。

地上までの数百メートルを繋ぐ小さな穴が出来ている。星が見えた。
雲も無くなっているその空に、瞬く星が見え、綺麗だと思った。
そして、これが最後に見える景色のはずだった。


to be Continued


副題の意味は『最後』です。(たぶん)

14: (2004/03/20 17:12:42)[wallscantattack at yahoo.co.jp]


   ◇


――運命の輪―― 19.5話  ”Holy Lance”


   ◇

何時までそうしていただろう。
意識が薄れかけ、今にも只の鉄槐に化そうとしている。

 「衛宮士郎。貴様は生きることを望むのか?」

ふと、聞こえるはずが無い耳にアイツの声が聞こえた気がした。
震えることが無い声帯が声を出そうとする。
開くはずも無い口が言葉を紡ごうとする。

――生きて、俺を迎えに来てくれるセイバーに会わないと。生きて、怪我をした遠坂の無事を確認しないと。生きて、この街がどうなったか知らないと。生きて、桜と一緒に花見をしないと。生きて、生きて、活きて、いきて、いきていきていきテいキテイキテイキテイキテイキテイキテ、――俺は俺の為に生きたい、と。

すると承知したというように、情報が頭に飛び込んできた。
それは、痛み。体をすり潰されて新しく創り変える感覚。
左腕が英霊の腕として機能する。左腕の末端、指先からなくなっていく。
剣と化した腕は、感じるはずが無い『痛み』という感覚を途切れることなく送ってくる。
指先が分解され、新たなモノとして再構築されていく。
それは手の平、肘を通過して遂に肩に到達する。

――自身の体の一部を、全く別のものとして創り変える。

本来、偽者を複製するフェイカーだったアイツが、唯一無二の筈の武具を創るのは禁忌。
アイツにとって禁忌のそれを行ったのだ。代価に必要だったのが丁度腕一本分というところだろう。

剣の左腕が全て再構築され、錬成されたのは武器だった。
否、武器ではない。
それは、聖人を刺した聖槍。
聖人の脇腹を突いた瞬間から聖槍となり、脇腹を刺した時に矛先が欠け、武器としては使えなくなった。
後に、聖人を十字架に打ち付けた釘が、槍の刃の中央部を切り取って埋め込まれた。
武器としての機能を失い、刃を構成する金属にダメージが与えられ、真二つに割れ、釘を刃で挟み、全体を4本のワイヤーで固定した。
その槍に武器という名称は相応しくは無い。
これで傷を付ければ治ることはなく、これで撫でればあらゆる傷、病を治療する。
赤く染まった穂先は、未だ滴り続ける聖者の血の色で染まったせい。
聖者の名はイエス・キリスト、そして『ロンギヌス』、それがこの槍の名であった。

――体が光に包まれる。

飛び出していた剣が一つ一つ消えていく。
しかし、この槍が癒すのは命を持つ生物で、無機質を癒すことは出来ない。
俺は、命を持つ無機質となっていた。なんて、矛盾。
その矛盾故か、聖槍は飛び出ていた剣を消すだけに留まり、傷を癒すことはしなかった。

アーチャーの置き土産は、どうやらこの槍だったらしい。
できれば、もっと早く俺に渡してくれないものかと思う。
この魔術は、投影というよりも『錬成』だろう。
あいつは、なんて無茶をするんだろう――

意識は、目蓋のようにゆっくりと閉じていった。


to be Continued


副題の意味は『聖槍』です。(たぶん)


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