運命の輪 前編 (傾 大体シリアス 改訂版だったり


メッセージ一覧

1: (2004/03/20 17:01:23)[wallscantattack at yahoo.co.jp]

セイバーEND後のIF話になります。
全ルートクリア&サイマテ必読?です。






偶然の悪戯か神の思し召しか?
――Is it chance, mischievous or God's liking?

単なる通過点と莫迦にしていた場所で、思わぬ戦いに巻き込まれる羽目に陥る。
――It is necessary to be rolled in an unexpected fight in a mere street point
and the place made foolish.

状況はさまざまなれど、共通しているのはそれが”特別な戦い”であるということ。
――In the situation, it is a variety of "Special fight. " however in common

何度も戦った場所なのに、ある日突然、全く違う状況に遭遇する。
――It suddenly encounters a quite different situation on a certain day though
the place against which it fought many times.

それが”特別な戦い”の証だ。
――It is proof of "Special fight".

あくまでも偶然の産物であり、意図的に引き起こすことはできない。
――It is an accidental discovery to the last, and it is not possible to cause it
intentionally.

たったひとつの条件を除いては……
――When you exclude only one condition ……                      』


   ◇

衛宮士郎は荒野の上に立っていた
聖杯を壊した後、僅かに目が眩む朝日のなかで風と共にセイバーは去った。
しばらく立ち尽くし別れの余韻に浸る。
そして朝日の全貌がはっきり見えるようになった頃、その場所に背を向ける。
そして、眩暈がしてたたらを踏んだ。耐え切れずに地面に倒れる。
体が落下する感覚と共に彼の意識は闇に包まれた

そして、運命の輪は回り始める――

   ◇


――運命の輪―― 0話 ”prologue.”


   ◇

初めは『騎士王』を救った。王であった騎士を『彼女』として信頼した。
彼の剣であり、彼の愛した少女。彼と彼女は剣と鞘。
聖杯で過去の自分の行いを消そうとした。
しかし、自らの間違いに気付き、汚れた聖杯を自分の意思で破壊することで、世界との契約を破棄した彼女。
黄金の荒野で「愛している」と言って彼女は消えた。
彼の者はアルトリア=ペンドラゴン。かつて、アーサー王と呼ばれた者。


次は未来の自分を救った。正義の味方を目指し、絶望した、彼の未来の姿。
男は英雄の一部、影だ。男を救っても英雄となっている『彼自身』は救えない。
これは彼の、一%にも満たないチャンスであった。
それでも、その男は答えを出した。「この世界の自分なら」と、主であった少女に過去の自分を託した。
黄金の荒野で優しく微笑み、男は消えた。
彼の者は英雄エミヤ。かつて、衛宮士郎と呼ばれた者。


彼は救った。しかし、その救いには意味が無い。
聖杯を壊し、荒野の上で彼は眩暈に襲われ、気を失う。
目蓋を開ければそこは過去。彼が巻き込まれた聖杯戦争の二日前。
彼は一月三十一日から聖杯を壊すまでの期間を、無限に逆行(ループ)し続けた。
彼だけ、結末までの全てを知っている。結末を知りながら、彼は前回と同じ行動をする。
無限の逆行は、終わる気配を見せなかった。

   ◇

何年分の同じ期間を過ごしただろう。

同じ一日、耳に入るのは同じ言葉ばかり。 
         ――何度も同じことが起こった。
何度も同じ人間を救った。
         ――しかし、それに意味は無い。
同じ結末を見てきた。
         ――経験のみが残る。
未来を知っているのは辛い。
         ――死ぬと解っているから助けれない。
幾度も同じ戦いをする。
         ――何度も殺し、殺され、何度も死んだ。

しかし、ふと思う。

 「同じ行動をしなければならないと誰が決めた?」

間違いに気付いた。

 「未来は変えられないと誰が言った?」

彼は気付いた。

 「変わらないなら変えればいい」

   ◇

毎回、違う遠坂に魔術の知識を教わった。
その知識でこの逆行は何故起こるのか仮定する。


――結論は聖杯の干渉による、魂のみの逆行。
精神的なものは、全て魂に付随しているため成長するが、肉体的な成長は無い。
逆行は聖杯を破壊した後に起こる。このことから原因は聖杯だと考えている。
やっと必要な知識が集まり、この結論にたどり着いた。
結論といっても、それは仮定。真実はまだ闇の中――


固有結界、戦闘技術、アイツのモノとなった数々の武具。
アイツから流れてくる情報は既に俺のものとしている。
既に俺はアイツよりも強力な存在だろう。
俺は決意する。その決意は未来の俺の決意と似通っている。

 「この運命の輪を止めてやる」

その決意は逆行の終焉であり、始まりの場所、荒野に吹く風に飲み込まれた。



to be Continued


副題の意味は『序幕』です。(たぶん)

2: (2004/03/20 17:01:44)[wallscantattack at yahoo.co.jp]


   ◇


――運命の輪―― 1話 ”A Summons.”


   ◇

眼を覚ます。今回もいつもと同じで一月三十一日。聖杯戦争が始まるまでは、いつもと同じ。
俺がセイバーを呼んでから、そこから未来を変えていく。
一日、二日と時間が過ぎる。少し変化があった。二日目の夜に間桐家の前で臓硯と名乗る老人に会う。
初めてのケースだった。少しずつ何かが変わっている。
終わらせることが出来るかもしれない。僅かな希望が生まれた。
そして遂にその時が来る。俺は、同じだった運命を書き換えた。

   ◇

セイバーを召還する。いつもの事だが、彼女とのレイラインは繋がらない。
マスターなのか?と問われるが、それには答えない。
彼女の剣の誓いが終了し、彼女はランサーを倒そうと外に向かおうとする。

 「待てセイバー。あいつは、俺が倒す」

それを静止し、彼女の横を通り過ぎて土蔵を出る。
俺の発言に驚き、反論する声が聞こえるが聞き流す。
外では、青の痩身が槍を片手に土倉の出入り口を見据えていた。
俺が外に出ると、驚いたように目を見開いた。

 「――ほお、そんなに死にたいか、坊主」

セイバーが戦うと思っていたのだろう。意外そうな声で話しかけられた。
ランサーは庭の中央に立っており、槍を構え直す。
槍の切っ先は確実に殺すために俺の全身の急所を狙っている。

ランサーには助けてもらったこともあった。
しかし、コイツはまだ敵対している相手でしかない。
恩を仇で返すようなものだが、致し方ないだろう。

魔術回路を開く。頭の中で幾つもの撃鉄をハンマーで叩き落とす。
一息で深層意識に潜り込み、剣を探す。何度も鍛錬した工程を通過しする。
基本と構成と制作と経験と年月を繰り返し――武器を創り出す。
手には確かな感触、創り出したのは双剣。

 「何?」

ランサーが目を細める。この手に在るのは、対極を表す双剣。
装飾が少なく、実用性を求められた二振りの剣。
先程ランサーが戦った、赤い外套の弓兵と同じ武器。銘は干将・莫耶。
双剣を無言で構え、ランサーに対峙する。ランサーが苦渋の表情を浮かべる。

 「何か、おかしなところでもあったのか?ランサー」
 「貴様、」

それは、弓兵との戦いの苛立ちを思い出したからだろう。
声は呻く様に吐き捨てられた。

――そして、蒼の槍兵と複製者(フェイカー)の戦闘が始まる。

   ◇

有利なのは俺。攻め手も俺だ。この剣技は既に模範などではない。
アイツから取り入れ、自分の物とし、更に技術を向上させた俺の剣技。
ランサーは防戦一方だが、所々で強烈な反撃をしてくる。
やはり、強い。相手は純粋なサーヴァント。一撃一撃が確実に殺そうとする攻撃だ。
今は追い詰めてはいるが、宝具を使われたら一瞬で終わる。
俺には”刺し穿つ死棘の槍(ゲイボルグ)”を避けられるような運は無い。
ならば、どうする。奴は生還能力が高く、生半可な攻撃では倒せないのは知っている。
答えなど既に解っている。完膚なきまでに殺すか、確実に首を切り落とす!

キキキキキキキ

その攻防はまさに風、飛び散る火花は閃光。それでもまだ、剣戟は速くなる。
槍の切っ先は弾丸のように突き出され、双剣は風のように振るわれる。

キーーーーーーーー

鳴り響く音はまるで、金属を切断しているかのように一つの音と化している。
振るう腕は神速、踏み込む足は霞み、その攻撃はヒトの領域を超えている。
胸を狙う一撃を受け流し、ランサーに向かって踏み込んだ。
ランサーは大きく後退し、こちらを見つめて目を細める。

――瞬間、空気が変わった。

どうやら手を抜かれていたらしい。ランサーがあの奇妙な構えを取った。
ランサーの体が沈む。悪寒が空間を包み込み、大気に満ちるマナが凍結する。

 「宝具!!」

土倉の入り口からセイバーが叫ぶ。
どうやら俺の予想外の健闘に、勝負に割り込むことが出来なかったようだ。
見えない剣を構え俺の元に駆け寄るが、遠い。それでは間に合わない。
魔力がランサーに集まる。その禍々しいほどの魔力の吸収に紛れ――違和感を感じた。
首筋がピリピリする。それはいつもの嫌な予感。
目の前の脅威にではない、だが確実に俺達を狙っている死の予感。
構える。ヤバイ。ナニかが来る。このままでは、俺もセイバーも死んでしまう!

思考を遮断する。ランサーの事を頭から除外し、深層意識に潜り込む。
探せ、探せ、探せ。そのナニかを防ぐものが有る筈だ。
魔術回路に設計図を走らせる。創作理念を引き出し構成材質を選び出す。
基本と構成と制作と経験と年月を繰り返す。その工程は自分でも驚くほどの早さで終わった。

 「”刺し穿つ死棘の(ゲイ・ボル)…”」

突っ込んでくるランサー。そして俺に駆け寄るセイバー。
そこに、三人を狙う得体の知れない攻撃が放たれ、俺はそれを防ぐ盾を創り出した。


to be Continued


あとがき

副題の意味は『召喚』です。(たぶん)

3: (2004/03/20 17:02:02)[wallscantattack at yahoo.co.jp]


   ◇


――運命の輪―― 1.5話 ”A Bystander.”


   ◇


――Interlude 3-0―― 遠坂視点


急ぎ、彼の家の傍まで来る。彼の家の方に閃光が見え、そして剣戟の音が聞こえ始める。
既に戦闘が始まっている。門の傍にまで来ると、何故かアーチャーは怪訝そうな顔をしていた。
中の様子を見るように頼む。アーチャーは塀の上に音も無く上り――目を見開いた。
声を掛けようとするがその前に大きく跳躍し、アーチャーは何処かにいなくなる。
慌てて門に駆け寄るが、閂が掛けられていたので魔術で身体能力を高め、跳躍。
先程のアーチャーのように塀に登り、中で行われている戦闘を眺め、絶句する。

――それは、先程の校庭の戦いの再演かと思われた。
否。再演ではない。その舞台に立っているのは赤い弓兵ではなく、あの少年だった。
槍兵が突き、少年が双剣で受け踏み込む。それによって槍兵は後退する。
攻めているのは少年。槍兵と互角の戦いを演じている。
その構え、剣筋は弓兵と同じ。しかし、少年は自分の弓兵を上回る技量を持っている。
だが、サーヴァントと人間が互角に打ち合うなんて、有る筈が無い。
双剣にも見覚えがある。自分の弓兵が何処からか取り出していた武器。
何故。何で。頭に浮かぶのはそんな言葉ばかりで、焦りを隠せないでいる――

頭の中でグルグルと思考が回転する。

思考のエアポケットに入っていた意識を、現実に呼び戻す。
戦闘は終盤に差し掛かっているようで、槍兵が大きく飛び退いた。
校庭の時のように、奇妙な構えを取る槍兵。体が沈み、大気のマナが凍結する。

 「宝具!!」

声は蔵のような所から聞こえた。見ると、そこには時代錯誤な鎧を纏う少女。

――何故だか、彼女が自分の求めたサーヴァント、セイバーだと分かった。

見えない何か、恐らく剣を構えて駆ける少女。
向かう先は少年。彼を、襲い来る一撃から助け出そうとする。
しかし、間に合わない、

 「”刺し穿つ死棘の(ゲイ・ボル)”……」

必殺の一撃を放つため、一瞬で少年に接近しその槍を放とうとする槍兵。
しかし、それは第三者の横槍によって止められた。

 「――”壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)”」

突撃する槍兵とその先に居る少年、駆け寄る少女。
その三人に向かって放たれた剣、いや『矢』によって。
槍兵は、宝具の発動を中断する。しかし、勢いは止まらない。
放たれたのは、この家の屋根から。そこには――居なくなっていた赤き外套の弓兵が。

 「何やってんの、あの馬鹿!」

と小声で自らのサーヴァントに激怒する。
あれは少年を助けるための攻撃ではない。むしろ殺そうとするものだ。
せっかく大師父が残した宝石を使って助けたのに、自分で殺せば大損だ。しかし、

 「――”熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)”!!」

少年は盾を展開した。七枚の赤い花弁が広がり、弓兵の『矢』を止める。

 「えっ?」

何の魔術だろう。止められた『矢』は一枚の花弁も貫くことが出来ない。
盾に当たった『矢』の魔力が爆発し、土煙を舞い上げる。
何も見えない。
しかし、その声ははっきりと聞こえた。

 「――――I am the bone of my sword.(我が骨子は捻じれ狂う。)

 ――”偽・螺旋剣(カラドボルグ)”」

少年の声と共に、土煙は螺旋状の風に吹き散らされた。
見えたのは”剣”しかしこれも『矢』。
先程の弓兵のモノとは比べ物にならない『矢』が放たれる。
家の屋根。庭を見渡せる位置に居た弓兵に、真っ直ぐそれは飛んでいく。

「!?――”熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)”」

弓兵が少年と同じ盾を展開する。驚きだ。何故あの二人は同じモノを使えるのだろう?
思考の海に溺れている間も、結末は刻一刻と近づく。
『矢』は彼の『矢』とは違い、盾を易々と貫通していく。

「おおおおおおおおおおおおおおお!!!」

最後の一枚に全ての魔力が注がれる。レイラインの繋がるわたしからも魔力が引き出される。
アーチャーは全力でその攻撃を防ごうとするが、最後の花弁は徐々に壊され、

――そして砕け散った。

令呪を使いアーチャーを霊体に戻そうとするが、僅かな差で間に合わない。
貫通した『矢』は弓兵を掠めて空へと消え去り、少し遅れて弓兵の姿も消えた――

   ◇

槍兵は、塀を飛び越えて逃げ去った。わたしもすぐに塀から飛び降り、駆け出す。

魔術による身体強化で速度が速まる。
アーチャーは消滅してはいない、ただ腕に重傷を負っただけ。
すでに弓兵はそこに向かっており、自身の傷を癒し始めるはずである。
向かうは自宅。自分の城であり工房。そこならば敵は侵入しては来ないだろう。
僅かな希望に賭けて疾走する。

――そして、急に景色が反転した。


――Interlude out―― 士郎視点へ


戦いは中断され、その原因となったアーチャーは深手を負った。
遠坂をセイバーが捕まえてきた。話を聞くと、遠坂は塀の外で転んでいたらしい。
ドジ体質な遠坂らしいと思ってしまう。
話を聞くと、アーチャーは勝手に飛び出して乱入したそうだった。

 一つ、アーチャーは俺を殺したがっている。
 一つ、あの場面は邪魔者を一気に始末できる絶好の機会だった。

ああ、非常に有りうる。少し考えただけで、それが真実だと分かった。
遠坂にはそれだけ聞いて、家に帰そうかと思ったのだが、

「殺さないの?」

と本人が言ってきたので

「殺して欲しいか?」

と笑いながら答えた。

ちなみにその後は、怒れるあかいあくまに教会に連れて行かれた。
遠坂から、聖杯戦争の説明を受ける必要は無い。
俺は既に聖杯戦争が何のか理解している。説明は省いてもらったが強制的に連れて行かれた。
必要以上に警戒してくるのに、妙に世話を焼く遠坂が、非常に嬉しかった。


to be Continued


副題の意味は『傍観者』です。(たぶん)

4: (2004/03/20 17:02:25)[wallscantattack at yahoo.co.jp]


   ◇


――運命の輪―― 2話 ”A Desperate Struggle.”


   ◇

教会からの帰り道でバーサーカーと戦闘を始める。

――運命を、書き換えた。

   ◇

坂の上にはイリヤ、その後ろにはバーサーカー。
俺にとって、バーサーカーの威圧は慣れているのだが、やはり辛い。
セイバーや遠坂にも辛いのだろう、顔が引き攣っている。
そんな重圧の中、俺は魔術回路を開き投影の準備を始める。
異質な魔術の流れを感じたせいだろう、イリヤが眼を細め

 「やっちゃえ、バーサーカー」

と、問答無用で背後の巨体に命じた。
巨体が飛ぶ。
それを見てセイバーが声を上げる。

 「―――シロウ、下がって……!」

俺に忠告し、セイバーが駆け出す。狙うはバーサーカーの着地の瞬間。
不可視の剣と、無骨な斧剣がぶつかり合う。
重い金属音が鳴り響く。セイバーは斧剣に弾かれそうになるのを堪える。
動きの止まったセイバーに、横薙ぎの一撃が迫る。

ギィィン

しかし、それは防がれた。セイバーにではなく、俺が投影した武器によって。

――銘は『童子切安綱(どうじきりやすつな)』

暴風の如き怒涛の斧剣を、刃こぼれ一つ無く受け止める。
鬼を斬った名刀は、古い歳月の間に強力な宝具(モノ)に昇華した。
干将・莫耶のように、宝具としてのランクは低いが扱いやすい。アーチャーの知識に在った刀である。
俺が戦闘に参加したのを見てセイバーは眉を顰めるが、すぐに目の前の敵に集中する。
体勢を立て直したセイバーが、バーサーカーに踊りかかった。

 「######!!!」

咆哮と共に振り戻された斧剣は、セイバーの剣を迎え撃つ。
そこに俺が斬りかかりバーサーカーの斧剣に止められる。
理性が無かろうと、相手は彼のヘラクレス。
セイバーは万全の状態ではなく、俺の剣技は彼女と互角かそれ以下。
一対二の戦いでやっと均衡が保たれ、桁外れの強さに圧倒される。
そんな中、刀の一撃がやっと届いた。
一閃。童子切安綱がバーサーカーを捕らえる。
酒呑童子の首を切り落とした刀は、鋼の肉体に傷を付けた。

ザクリ

と、肉を断つ嫌な音がして傷口から血が噴き出す。出血は多いが致命傷にはならない。
斬ったのは左腕。しかし、それに戸惑うことなく斧剣が振るわれる。
横に飛んで避け、後退する。

 「バーサーカー!?」
 「#######!!!」

イリヤが叫び、平気だと答えるようにバーサーカーは咆哮を上げ、片腕で剣を振りまわす。
暴風のような連撃を、刀で捌くことも出来ずにただ受けることしか出来ない。
最後に振るわれた豪腕の一撃は、刀を弾いて俺を吹き飛ばした。

――宙を舞う。クルリと一回転し、空中で体勢を立て直す。
刃で防いだが、どこかがイカレた。
口の中に鉄の味が広がる。痛みで戦闘に集中できない。

追撃はやって来なかった。
バーサーカーはセイバーと剣を交えており、そんな暇はないらしい。
流水の如きセイバーの柔剣と、烈火の如きバーサーカーの剛剣が打ち合っている。

――そのすぐ傍。セイバーの後方に信じられないものを見る。

民家の壁の側面に着地する。三角跳びの要領で跳躍し、地面に着地した。

 「いつまでも固まってると、死ぬぞ!」

先程から、全く動いていなかった遠坂の目の前に。
遠坂が驚いて、飛び退いたのを確認し、狂戦士に向かって駆け出す。
同時に、セイバーが見えない剣諸共弾き飛ばされる。
バーサーカーに対峙し、投影した干将・莫耶でセイバーへの追撃を阻止する。
大振りの攻撃を受け流しながら、徐々に反撃を試みる。
腕、手首、胴、胸、顔、首、脚…
様々な箇所を狙う攻撃を次々に弾き、同じ箇所に反撃する。
こちらの剣戟を、剛剣が阻み、衝撃で腕が千切れそうになる。
指の先が麻痺して剣を握っているのかも判らない。
そして、双剣が弾かれ斧剣が俺を仕留めようと振り下ろされる。
当たる寸前に、死を覚悟した。

 「バーサーカー、もういいよ、なんだかつまんない、
 守るはずのサーヴァントが守られてるなんて」

体は無事。変わりに傍の床が抉れていた。
それは、イリヤがバーサーカーを止めたからだった。
坂の上を見る。銀髪の少女は、俺の後方を見据えていた。
視線の先を追うと、どうやらセイバーを見ているらしい。

――その眼には汚らわしいモノを見るような、蔑みが含まれていた。

キッとセイバーが睨み返す。それを無視して、

 「リン、次は殺すから」

などと物騒なことを言い放つイリヤ。
バーサーカーは無言で少女に近づいていく。
白い少女は巨体の護衛と共に去っていった。

そして、俺は耐えていた血を吐き出した。
どこかの臓器が潰れたようだ、と冷静に診断する。
そして、少しだけ気を抜いて

――不覚にも激痛に耐えかねて意識を手放してしまった。


to be Continued


副題の意味は『死闘』です。(たぶん)

補足

名刀『童子切安綱(どうじきりやすつな)』、 刀身は80僉太刀としては標準かやや長め。
古刀らしく波紋は直刃、切先は小切先(*1)。平安時代の一振りだが、当時の刀には珍しく反りは十分。
現在は国宝として東京国立博物館に収蔵されている。
刀工は安綱という平安時代の名工。
童子切は、室町時代に天下五剣(鬼丸国綱、大典田光世、三日月左近、数珠丸恒次、童子切安綱)
に数えられるほどの彼の最高傑作。
源頼光が大江山の鬼、酒呑童子を退治した時に使用したと伝えられる太刀

(*1)小切先(こぶりな切先、平安〜鎌倉時代の刀に見られる)

5: (2004/03/20 17:02:44)[wallscantattack at yahoo.co.jp]


   ◇


――運命の輪―― 3話 ”High Jinks”


   ◇

四日目の朝は自分の部屋で目を覚ました。今回も遠坂に運ばれたようだ。

居間に居た遠坂は、俺に昨日の事について説明を求めてきた。
ランサー、バーサーカー戦で使った投影のこと。
俺の能力、固有結界の事は伏せて「剣なら何でも出せる」ということにして難を逃れる。
傷についても聞かれたが、完治したと言っておいた。
それについては「親父が俺に残してくれた、治療魔術だ」と言っておく。半分程、嘘でも無いし。
戦闘技術も同じく、「親父に教わった」と言っておいた。これもあまり嘘ではない。
しかし、

 「サーヴァントに人間が互角に戦えるのはおかしい!!」

と、遠坂に尤もな意見を言われ焦った。

 「それはだな、あ〜。え〜。(汗)」

悩む。本当のことを説明しても、嘘の一言で終わらされてしまうだろう。
それとも、ふざけるなとガンドで脅されるか。どちらも可能性は高すぎる。

「……そっ、そうだ、手を組まないか遠坂?」

それならば、と唐突にそして強引に話を逸らし難を逃れる。
それは、彼女がお茶を口に含むと同時だった。

――まさか自分のサーヴァントが襲い、そしてそれを打ち負かした相手が協力を求めるとは思わなかったのだろう。

盛大にお茶を噴き出す遠坂。その飛沫は霧吹きのように拡散し、俺の顔面に直撃した。
ポタポタと髪から落ちた水滴が、畳に染みをつくる。
それを見て早く拭き取らないと臭いが付くかもなあ、と呑気に考えていた。
謝られもせず

 「協力を求めるなんてどういう神経してるのよ!
 あなたの目の前に居るのは敵なのよ、て・き。
 此処には捕まったから居るだけで、自分の意思ではないの!
 こんな状況でそんな事言うなんて、莫迦じゃないの?
 ###############!?####################!########################!!!」

と暴言を吐き捨てられた。後半は既に言語にすらなっていない。
体はお茶で濡れ、いつの間にか正座をしており、叫びと化している説教を聴く。
協力しようって言っただけなんだが。なんでさ。(涙)

唐突に遠坂が立ち上がり、

 「その身体にマスターの怖さを叩き込んでくれる!!!」

高らかに宣言すると、左腕の魔術刻印が浮かび上がらせる。

 「もしかして……」

彼女の怒りを静めるためには、

ガガガガガガガガガガガガ(銃声)

――ボコられるしか無いらしい。

   ◇

なんとか機嫌を直した遠坂を見送った。
あの後の遠坂は、ガンドを乱射し暴れ回って、止めるのに甚大な被害を(主に俺が)被った。
ガンドには当たらなかったものの、教会地下のキャスターのように武術でボコボコにされた。
襲撃と勘違いしたセイバーが、鎧姿で飛び出して来てその際にも渾身のタックルで吹き飛ばされた。
体は打撲だらけで、鞘の加護も殆ど意味がない状態に追い込まれました。
そんな訳で、俺以外の被害は零。むしろ俺だけを狙ったようだ。

遠坂は協力するという提案には乗ってくれた。
曰く、

 「強力な戦力が簡単に手に入った♪」

だそうだ。
当たり前だが遠坂には家に泊まりに来ないように言っておいた。
慌てて否定していたのが、今回もいつもの遠坂と同じ事を考えていたのを肯定していた。
遠坂を見送り、回れ右して道場に向かう。

   ◇

道場では、セイバーに

 「あなたは戦わなくていい」

と一方的に通告された。もちろん拒否して、二人一緒に戦うということで無理矢理、納得させた。
昨日の戦闘で『まあ邪魔にならない程度の技量はある』、ということで了承してくれたのだ。
しかし、圧倒的に不利な戦いでは自分の身を守るのに専念しろと言われてしまった。
まるで、普通選挙制を承認する代わりに治安維持法を要求した旧日本政府だ、と思う。

切嗣が元マスターだったと聞いたが、既に知っていることなので驚きは無かった。
セイバーに、教会に行って言峰から詳しい話しを聞くか、問われた。

――結局、教会には向かわなかった。
あいつはマスターで、そう易々と会って良い奴ではない。
緊急時、特に無関係の人が襲われた場合のみ駆け込む事に決めた――

空いた時間には、俺の事について遠坂と同じ説明をした。
些か不満が有るようだが、これ以上は説明はできない。
その後、セイバーと話し合い、今後の予定は夜を待って街に出ることに決まった。

昼なるまでに、まだ些か時間があったのでセイバーと稽古をする。
セイバーは何故かフルアーマーダブルセイバーになっていた。
鎧姿のセイバーが持つ竹刀は何故か、人を殺せる凶器に見えた。
セイバー曰く

 「常に実戦を想定するのが訓練です。この模擬戦用の武器でも十分な威力は出すことが出来ます」

だ、そうだ。鎧は実戦を想定しているかららしい。
しかしセイバー、十分な威力というのが、人を殺せるモノではないのを信じています。
そんな、昨日イリヤに軽蔑されたのが俺のせいだ、という目は止めてくれ。
俺のせいだけど。
セイバーの姿が掻き消える。目の前には俺を狙う竹刀の切っ先。
心の中で、

 「ああ、死んだな――」

と思った。

ガスッ

しろうは、めのまえがまっしろになった。

   ◇

腹の減ったセイバーに起こされた。
訓練は、あの一撃で終わってしまったようだ。突かれた額が痛い。
今はいつの間にか昼になっていたので、昼食を作りテーブルに並べているところだ。
テーブルの隅には、ちょこんと座るセイバーがいる。
魔力を補充するためと言い張っていたが、ただ飯が食べたいだけ、という事は知っている。
真っ赤な顔で弁解されて、仕方なくそういう事にしておいた。

余り物を使って作った手抜きの炒飯は、とても好評だった。
口に含むごとにコクコクと首を振っている。
見ていて微笑が浮かぶほど可愛らしい仕草だった。
セイバーは美味しそうに、米でさえ一粒残らず食い尽くしてしまう。
そして、俺の食べていた炒飯を物欲しそうに見ていたので、分けてやった。
目が猛獣の目のように光り輝いて見えたのは、多分錯覚だ。そう信じたい。

その後はセイバーと二人、居間で午睡をとった。
背中合わせで眠る。

その感触は何故か、とても懐かしいものに感じた――

   ◇

夕方、セイバーと添い寝しているのを、藤ねえと桜に見つかり一騒動あった。
幾らなんでも寝過ぎたと反省する。

竹刀片手に暴れるタイガー。――その様は完全に野獣であった。
止めながらも横暴な暴力に屈する俺。――まるで奴隷のような扱いだった。
なぜかタイガーの手綱を放したままにする桜。――放し飼いは止めましょう。
自分の事なのに、『我関せず』なセイバー。――こんな時に王の威厳を見せるなよ。

それは、さながら地獄絵図のようだった。
藤ねえの持つ、妖刀『虎竹刀』は確実にそして的確に急所を狙っており、何故かそれを避けることは出来ない。
俺はぼろ雑巾を通り越してそこらの生ごみと変わらない存在になった。

タイガーの暴走も収まり、藤ねえ達には、切嗣の知り合いだと誤魔化した。
単純で助かったと思ったのは、この時ばかりではない。

   ◇

夜、巡回の最中に、人を襲った慎二とライダーに出会う。
セイバーがライダーを倒し、二日目に会ったあの爺さん、間桐臓硯が現れた。
奴は慎二を庇いそして消えた。あの爺さんは敵になると、直感が告げていた。
襲われた女性を教会に連れて行き、治療を依頼した。
後は言峰に任せて、家に帰る。

   ◇

――布団の中、眠りに着く前に間桐の事について考察する。

臓硯は、初めて会う存在だ。どんな能力かは知らない。
遠坂は、間桐の魔術は他人から奪う類のモノと言っていた。
恐らくそれだと思う。

慎二は俺と同じく正規のマスターではない。
そのサーヴァントを召喚したのは臓硯らしい。
あいつは狂気に囚われている。今回のことで諦めるとは思えない。
桜への虐待行為もエスカレートするだろう。

桜はこの事に関係は有るのだろうか?
通常、魔術師の家系は跡取りは一人のみ。
その兄弟や、姉妹は他の家庭に引き取られる筈。
廃れたとはいえ、いまだ神秘を追い求める間桐がソレを行わないのは可笑しい。
逆行前、遠坂が家に泊まった時にも聞いたが、今度詳しい事を聞こう。

色々と思い浮かぶが全て推測に過ぎない。
もっと有力な情報が必要だ。
やはり、ここはあいつに聞くのが最善か――

考察を終わらせる。
今後の予定は半分ほどは決まった。
後は明日になるのを待つのみ。
一日を思い返し、殴られてばかりの事実に気付き、涙が出た。
泣きながら布団の中に潜り、目を閉じるとすぐに睡魔が襲ってきた。


to be Continued


副題の意味は『馬鹿騒ぎ(どんちゃん騒ぎ)』です。(たぶん)

6: (2004/03/20 17:03:05)[wallscantattack at yahoo.co.jp]


   ◇


――運命の輪―― 4話 ”An Adviser. ”


   ◇

五日目の朝。
朝食時にジャーマンポテトを作り、桜の痣を発見する。
心の中に暗い感情が生まれ、手に持つ菜箸をへし折ってしまった。
昨日の戦闘の鬱憤を晴らすために慎二が殴ったのだろう。
その事を問い詰めると、桜は明らかな嘘で誤魔化す。
庇う必要は無いのに、桜は慎二を庇っている。
桜は優しすぎる。今まで何度か有った事だが、毎回桜は慎二を庇っている。
そして、それ以上は聞く気になれず、心の奥底にその激情を押し込めた。

   ◇

学校に着くと遠坂に呼び出しを受けた。
他人の振りをしていたら、廊下で擦れ違いざまに

 「昼休みに屋上」

と、一方的に。
我道を行く、な奴だ。

   ◇

教室では珍しいことが二つあった。
一つ目は、慎二と一成が休んだ。
これはまあ、有ってもおかしくないレベルだ。
異常なのは二つ目だ。
二つ目は、藤ねえがホームルーム開始のベルより早く到着した。
オカシイ。雪どころか雷雨がやって来るぞ。
そういえば、これは珍しくでは無く初めてではないだろか?

   ◇

昼、屋上にて遠坂と昼食を食す。
慎二と一成が休んだ事を遠坂に話し、そこから考えられる事を説明する。

 「一成と慎二が休んだ。慎二はマスターだ。昨日、俺と戦って敗北したせいだろう。
 一成は、キャスターの根城が一成の寺だからな。キャスターが活動し始めたなら休むのは必然だろう。
 どちらも警戒しなければいけない事だ。憶えとけよ」

しかし――

 「慎二がマスターなわけが無いわよ。あいつに魔術回路は無い。そんな奴がマスターには――」

真正面から斬り捨てられる。
しかしその考えは間違いだ。

 「成れるんだよ。教師の葛木もマスターだしな。魔術師しかとマスターになれない、と考えるのは止めた方がいい。ちなみに、葛木のサーヴァントはキャスターだ」
 「なっ!?」

驚愕している遠坂。
まあ、自分の通っている学校に自分以外のマスターがこれだけ居たらな。
誰だってこうなるだろうと思う。

 「なっ、何でそんな事を衛宮くんが知ってるの?」

ぐはっ!

ヤバイ。盲点だった。これを話せば情報元を聞かれるのは確実。
そんな事を言うのは失策だった。それならば――

 「そんな事よりも、慎二と一成の事を考えろ」

他の話題に逸らして誤魔化す。
…いつもこの手を使っている気がするのは、なんでさ。

 「誤魔化された気がするけど――まあ、良いわ」
 「まずは一成のことだ。一成はキャスターの根城に住んでいる。一成が休んだという事は、キャスターが行動を始めたからだろう。
 キャスターは放っておけば厄介な存在になる。魔力が溜まればサーヴァント三体分にはなるだろう」
 「嘘ッ!!今回のキャスターは何者なのよ!?」
 「ギリシャ神話の魔女の代名詞、メディアだ。キャスターは金羊の皮を持っていたから、間違いないだろう」
 「――――」

遠坂はまたも驚愕している。
暫らく沈黙が続く。
遠坂が先に口を開いた。

 「…はあ、貴方が何処でそんな情報を仕入れてくるのかは訊かないわ。けど、一つ教えて――貴方は一体何者?」

遠坂にはいつか聞かれるとは思っていたがこんなに早く訊かれるとは。
まあ、話し過ぎたってところか。

 「俺は、只の魔術使い。いや、運命の輪に囚われた囚人、だな」
 「運命の輪に囚われた?」
 「何でも無い。話を戻すぞ。キャスターは早々に手を打ち、殲滅する。だが、寺の門はアサシンが守っている。アサシンは佐々木小次郎。セイバー以上の剣技の持ち主だ。倒すのは難しい」
 「あのセイバー以上か――たしかに難しいわね」
 「驚かないのか?」
 「素直に受け入れることに決めたの。貴方の言う事にいちいち驚いてたら身が持たないから」
 「そうか。煩くなくて良い事だ」

確かに、今日の遠坂は驚き過ぎだな。
しかし、今のは失言だった。突き刺さる視線が痛い。

 「あの場所はサーヴァントにとっての鬼門だ。中に入れば問題ないが、それまでが難しい。今晩、俺とセイバーで巡回の時に寺に行くが、遠坂はどうする?」
 「行かないわよ。アーチャーは誰かさんのせいで動けないしね」

誰かさんって、俺?

 「根に持ってるのか、遠坂」
 「全然、優等生の私が根に持つなんてありませんよ」

スマン。正直、俺が悪かった。優等生モードは止めてくれ。

表面上は繕っていても、心の中で嘆く俺。

 「これでキャスターの事は終わりだな。次は慎二の事についてだ。間桐が魔術師の家系だっていうのは知ってるな?
 慎二は自分の事を特別な存在だ、と思っている。だから慎二は、劣等感には敏感だ。
 今の慎二は危ない。鬱憤の発散に桜が使われていて、エスカレートしていけば何を仕出かすか分からない。
 早く手を打たなければならないんだ」

   ◇

桜の事については、『俺が桜を保護する』という事になった。
意外と遠坂も協力的で、すんなりと終わったのだ。
残りの時間で遠坂に何故、桜は他の家庭に引き取られなかったかを訊くと

 「廃れた魔術師の考えることなんて分からないわよ!」

と何故か怒鳴られた。理不尽だ、と思う。
しかし、そう言う遠坂が悲しそうにしていたのが疑問だった。
遠坂は弁当を持ってきていなかったようなので、ウグイスパンを分けてやった。
お茶は缶ごと、さよなら俺の昼食。

   ◇

放課後、商店街に行った。
桜には先に夕飯の買出しを済ませ、部活から帰ってきた後、折を見て話すことにした。
スーパートヨエツでビニールいっぱいの食材を買い、家路に着く。
その途中で、――イリヤに会った。

イリヤは戦いに来たのではなく、俺に会いに来たらしい。
会って話がしたかったと、無邪気に微笑みながら話してくれた。
公園に連れて行かれ、他愛も無い話をする。
何故こんな戦いに参加したのかは分からない。
しかし、彼女は人を疑うという事を知らなさ過ぎる。
たった一言の嘘にも騙されるだろう。
前から知っていたがやはり彼女は、純真な子供だった。
去り際に、明日も会おうと約束してから家に向かう。

   ◇

家に帰ると、意気消沈した藤ねえと、いつもどおりのセイバーがいた。
話を聞くとセイバーが藤ねえを打ち負かしたらしい。
そして藤ねえ曰く、確実に殺る気だったそうだ。
色々と不幸な事が重なって、セイバーの本気が垣間見えたのだろう。
哀れタイガー、王たるライオンに立ち向かったのが間違いである。
藤ねえは夜這い禁止、などと不穏な発言をしたのだが、負けじとセイバーも、誤解を生む発言をして俺を困らせてくれました。
藤ねえがキレる。その背景にデフォルメされた虎が見えた気がした。

――タイガーのチョークスリーパーが決まったー!
おおっと、そこからジャーマンに派生ーー!!!――

脳内実況の声が、今の俺の状況を事細かに解説してくれる中、俺の意識は徐々に落ちていった。

   ◇

眼を覚まし、藤ねえに説教をする。
妙に聞き訳がいいのは反省しているからだろう。
決して飯を早く食いたい為ではない。そう信じたい。
セイバーも恨めしそうな顔で俺を見るな、悪いのは藤ねえだから。

桜を家に泊めるのは案外うまくいった。
理由を問われたが、本当のことは言えない。
桜のことが心配だからと答えたが、そんな足りない答えではダメだろう。
そう思ったのだが、意外にも桜は応えてくれた。
言葉ではなく、その笑顔で。

   ◇

「――――?」
「――――」

桜と藤ねえは着替え等のことで話し合っている。
色々と気恥ずかしい会話を目の前でされて、顔が赤くなるのが分かった。
俺も健全な男だ。そんな事を聞いたら、恥ずかしくて堪らない。
そういう話は俺のいない所でしてくれると助かります、女性陣の皆様。

その後、客間の準備を終わらして居間に戻るがまだ桜は居なかった。
心配になり、風呂場に様子を見に行くと、そこでは桜が倒れていた。
すぐに意識を取り戻したが、酷い熱があり、呆けているようだった。
見ただけで何らかの病気だとわかる。
抱きかかえたまま客間に運んだが、諸事情により色々とヤバかったです。
思ったよりも桜の熱は低く、一晩大人しく寝れば大丈夫だろう。


to be Continued


副題の意味は『相談相手』です。(たぶん)

7: (2004/03/20 17:03:22)[wallscantattack at yahoo.co.jp]


   ◇


――運命の輪―― 4.5話 ”A Slaughter. ”


   ◇

――Interlude 5-1――  山門にて

雅な着物を纏う男の手から、五尺という異様な長さの刀が落ちる。
長い階段を甲高い音を立てながら、刀は転がり落ちていった。
着物は血に濡れ朱に染まり、唇からは血を流す。
石段に膝をついて相手の姿を見る。それは影。ただ、影が存在しているのみ。

――闘いと呼ぶに相応しくは無い闘いは終わった。

一方的な虐殺。そんな単語が相応しい。刃を交えることなく、敵を敵と認識する間も無く終わった。
影は門番を幼子のようにあしらい、両腕を切断し、玩具のように弄んだ。
次元の違うモノに、偽りのモノが勝てる道理はない。

「――――なんと。よもや、蛇蠍魔蠍の類とは」

腹から腕が生える。いや、腹からナニカが這い出す。
その言葉はその影に向けられたものか、裂かれた胸中に生えた奇形の腕の持ち主にか。
山門を守っていた剣士は、自身の体が他のナニかに変わっていくのを、只見ているのみ。
五臓六腑を奪われ、両腕を切り落とされ自害も出来ぬ剣士は、ただ哂っていた。

「……よかろう、好きにするがいい。所詮は我が腹より這い出るもの、ろくな性根ではなかろうよ――」

唇は血糊の赤とは正反対に蒼白。その微笑は、幽鬼の見せる微笑かと思わせた。

   ◇

そして、偽りの”暗殺者”は消え、紛れもない真の”暗殺者”が召喚された。
偽りだったモノの血肉を奪い、その臓腑より這い出しモノ。

「キ――――キキ、キキキキキ―――――――――」

産声は蟲のソレに似ている。卵から産まれた蟲がそうするように、剣士の残骸を貪る。
貪れば貪るほど人の形に近づき、知識が脳漿に蓄えられる。
半刻ほどして、”暗殺者”は剣士をカケラも残さず喰い尽くし、自らの誕生を祝福した。
闇の中に白い髑髏が浮かんでいた。


――Interlude out―― 士郎視点へ


午後十一時を過ぎ、街が眠りについた後で巡回を開始。
柳洞寺へ行くことをセイバーに伝える。
予想していた事だが、セイバーはあまり乗り気では無いらしい。
柳洞寺の在る円蔵山はサーヴァントにとって鬼門。軽はずみな侵攻は避けたいそうだ。
しかし、何時かは戦うことになる相手、早々に決着をつけるのが吉であろう。
その意見には、セイバーも賛成してくれて正面から打ち破ることになった。
セイバーは桜の事を心配してくれているらしい。嬉しいことだ。

しかし、アサシン――佐々木小次郎を倒せるかは分からない。

――これは、賭けになるな。

今から向かうは敵地。戦闘になるであろう事は必至。勝つか負けるか、これは大きな博打となる。

   ◇

武装したセイバーと石段を登る。敵の襲撃に備え、身構えているために会話は無い。
あの寺にサーヴァントが侵入するには、この石段以外にあり得ない。
だというのに、危惧していた待ち伏せは無く、サーヴァントの気配さえしない。

 「……オカシイ、な」
 「?何がですか」
 「アサシンの気配がしない。あいつは山門を守るサーヴァントだ。居ないというのは、オカシイ」

そう、オカシイ。ナニカが違う。ドコカが違う。
嫌な予感の変わりに、今までの記憶との相違が違和感を教えてくれる。

ふと、セイバーが足を止めて視線を下げる。

 「セイバー……?何かあったのか?」
 「……いえ、私の気のせいでしょう。カタナらしき物が見えた気がしましたが、そのような物は何処にもない。――この山門に守り手はいません。境内に向かいましょう」

『カタナ』……佐々木小次郎の武器も刀だ。あいつが、倒されたのか?

 「いや、山門はアサシンが守っていたはずだ。居ないとすれば、倒されたか――」

――他のモノが召喚されたか。

おかしな考えが浮かんだ。
そんな訳は無い。今まで一度もサーヴァントが違ったことなど無い。
そんな訳は無いのだ。

 「どうか、しましたか?」
 「……何でも無い。行こうセイバー」

その考えを振り払うように早足で石段を登り、山門を潜り抜けた。

   ◇

境内は静かだった。
人の気配の希薄なこのナカで、俺とセイバーは居てはならないとさえ感じる。
風が強く、闇は濃く、此処だけ月の光が届いていないような錯覚。
しかし、月の光は確かに境内を照らしている。
そう錯覚するほど、境内は闇に沈んでいた。

 「セイバー、様子がおかしい」
 「ええ、ここまで来て反応が無いのはおかしい。それに――ここは静か過ぎます」
 「……中を調べよう。キャスターを探せば分かることだ」

寺の中に進む。周囲に人影は無く、無人であることを確認して寺の中へ進入した。

寺の人間は、一人として起きてはいなかった。
何をしても反応がなく、衰弱しきっている。ただ、規則正しい呼吸を繰り返すのみ。
全員の安否を確認し終え、板張りの廊下を移動する。
セイバーがキャスターの気配を感じたからだ。方角は奥の本堂。
寺の中心部にキャスターが潜んでいる。

   ◇

お堂に踏み入ると、床に広がっていく赤い血が目に付いた。少し眺め顔を上げる。
お堂の中心で、その血の源泉が倒れていた。
男が、胸を赤く染めて倒れ伏している。
致命傷。出血は、死に至る程の量が流れ出てしまっている。既に、死体。
死体の名は、キャスターの主(マスター)であり、学校の教師であり、何らかの殺人技術を持っていた男。

――葛木宗一郎。

傍らに呆然としたキャスターが立ち尽くしている。
手に持つは、歪な短剣『破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)』。

 「キャスター……!」

身構えるセイバー。反応しないキャスターに踏み込もうとする。

 「待てセイバー……!あれは只の短剣じゃない、強力な解呪能力を持つ宝具、マスターとサーヴァントの契約も断つ、魔術破りだ」
 「では――キャスターは自らのマスターを」
 「……」

それは、判らない。勝手な答えを口に出すのは、何故か誰かを侮辱している気がした。

   ◇

キャスターとセイバーの闘いは、一瞬で終わった。いや、戦闘と呼べるものではなかった。
キャスターの魔術は、全てセイバーの高い対魔力の前に無効化され、一撃でキャスターを仕留めた。
ある意味、一方的な虐殺だろう。

寺を後にする前に異様な視線を感じた。
俺の勘違いということで済ましたが、それが頭の片隅に引っ掛かった。
後ろ髪を引かれる感覚、そんな感じ。それを振り払い、寺を去る。
寺のことは言峰に連絡して、後を任した。


――Interlude 5-2――  本堂にて


物言わぬ屍を飲み込む影。
食すのではなく、自身の体の一部として吸収する。
男の死体と、それに付き従ったモノを欠片も残さず平らげる。
本来、消滅したサーヴァントの行き着く先は聖杯のみ。

 「―――――」

それを阻害し、妨げた影は音も無く泣いた。
悶え、咽び、苦しみ、暴かれながら、ようやく一人目を飲み込んだ。
ヒタヒタと歩く影には、それでは足りない。
声をもたないソレは、全身でイタミを表現する。

――嘆く、嘆く、嘆く、嘆く

言葉でもなければ、感情でもない。
もとよりそんな機能は付属していない。
しかし、自らの存在に、いま、初めて気が付いた”何か”のように、ソレは嘆く。
悲痛の嘆きに気付くものは、誰一人としていなかった。


――Interlude out―― 士郎視点へ


午後二時過ぎ、俺達は家に帰って来た。
桜の様子を見て、色々やっていたら午後三時。
一時間も掛かったのは、諸事情により色々とヤバかったからです。

 「修行が足らぬ。精進精進。色即是空、色欲断つべし!」

雑念、邪念を振り払い、布団に潜る。
一成の口癖を使ってしまうほど切羽詰っていたようだ。


to be Continued


今回の副題の意味は『虐殺』です。(たぶん)

8: (2004/03/20 17:03:54)[wallscantattack at yahoo.co.jp]


   ◇


――運命の輪―― 5話 ”A Cold?”


   ◇

夢を見た。それは子供の頃の夢。
今の俺では十年以上経っているのだが、世界では十年前の事。
酷い火事だった。自分以外の者達は全て死んでいった。
助けられる者も、俺は見捨てて逃げ去った。心に出来たのは空虚。
人を見捨てて逃げ去った俺には、正義の味方という幻想に憧れるしかなかった。
しかし、ソレも間違いだと知った。
俺がソレを追い求めても、辿り着くのは絶望だけだと、アイツが教えてくれた。
それなのに

――今日の夢は違っていた。

夢の中の空には、黒い太陽があった。
夜なのに太陽があることも、太陽が黒いことも、特別不思議に感じない。
周りの全てはあべこべだった。
酷く熱く、恐ろしく寒い。
沸点を越えたらぐるりと回って凍結温度。
燃える血はすぐに固まり止まる、目に映るものはあべこべ。
だからそれぐらいは、逆になっていても当然だと思った。

しかし、逃げ出す。コわくなって逃げダした。
火は怖くは無い。
あの黒い影に比べれば、焼け死ぬのはニンゲンらしくて正しいことだと思った。
逃げた。
アレに捕まったら、もっと怖いところにツれて行かれるに決まっていたからからだ。

――――そこからは何時もと同じ。

ぼんやりと空を見て、雨が降ると知って、伸ばした手はゆっくりと地面に落ちて

   ◇

目が覚めた。
いままでに何度も見た夢だったが、それは昔の話だ。
しかし、あれはなんだったのか。あんなものは、初めて見た。
知らないし、憶えていない、そもそも見てもいない。

 「っ――――」

……吐き気に襲われる。眩暈がして、体が倒れそうになる。
体は汗だくだった。早く起きて、着替えて朝食を作らなければと体を起こす。
が、力が入らなくて、立ち上がれない。

 「あ……れ?」

喋るのもままならない。手を額にあてると、少し熱かった。

 「風邪、かな」

風邪なんて引いたのは初めてだ。少し驚く。外傷は軽いのから、酷いものまで絶えなかったが病気は初めてだった。
風邪を引いているならおかしな夢の一つや二つ見るだろう。

 「―――、あ」

その考えが浮かんで一つの光景を思い出した。
それはもう一つの夢。世間一般で淫夢と呼ばれるものだった。
しかも年齢制限あり。色々と、ヤバイ。
なにしろ相手はあの遠坂で、しかも余りにもリアルだったからだ。

 「っ、なんで、どうして、どのように!?」

身を起こし、色々確認する。
だるいとか、風邪だとか言ってる場合ではない。どんな状態であっても確かめなければならないのだ。
なにかあれば秘密裏に証拠隠滅、すみやかに漂白・脱水しなくては今後の発言権に支障をきたす。
つまり、我が家での俺の地位が大貧民クラスになってしまう。

――良かった。別にそうゆうコトは、ないようでした。

ばふりと倒れる。
その音に気付いたセイバーが襖越しに声を掛けてくれた。
これだけで気付くんだ、あれはただの夢。俺の妄想の産物だろう。
襖が開きセイバーが入ってくる。

――さて、朝飯のことを我が家のエンゲル係数の悪魔にどう説明しよう…。

   ◇

俺の熱は三十七度六分。朝飯の調理は免除となった。
桜の方は熱が引いて、もう大丈夫だそうだ。
桜は俺の看病のために学校を休みたいとお願いしてくる。
有り難い提案だったので、昼食の事とかを色々頼んでおきました。

午前十時、お粥を食べて体は元気になった。
学校に行くぐらいのことはできる。
ただ、栄養が極度に足りなくなっただけじゃないか?と思い始める程だった。
桜に絶対安静と止められてしまったのだが。
その後は、布団を換えたり、着替えを持ってきてもらったりで桜の完璧な看護ぶりに感動し、

 「遺伝子にスキルが組み込まれてるんだー!」

と負け惜しみを言ってみた。

   ◇

昼食後、後片付けをしていると、セイバーに俺の魔力が不足していると言われた。
柳洞寺に魔力を奪うような仕掛けでもあったのだろう、とはセイバーの言い分。
まあ、そうだろうと納得してテーブルを拭いておいた。
案外、セイバーと桜は仲がいいようだ。和気藹々としている。
そんな二人の後姿を見ていると午後一時、昼休みにはちょうどいい時間になった。
そして、イリヤに明日も会おうと言っていたのを思い出し、コソコソと家を出た。
書置きは残しておいたので大丈夫だろう。

公園にはイリヤは居なかった。いや、居たのだけど俺が気付かなかった。
夕飯のおかずの材料を買うついでに買っておいた、たい焼きを献上した。
謝罪の気持ち、誠意というやつだ。
会話の途中でイリヤの住んでいる場所を見せてくれることになった。
本当は知っているが、好意は大事にしておきたかった。
イリヤは、魔術で俺の視覚を他のものに移し、道順などの説明をしてくれた。
”意識の転移”というらしい。
眼球から脳に繋がる神経を、眼球からではなく『違うもの』から脳に繋げる。
これの応用が遠見や憑依の魔術だそうだ。
いつかの遠坂の魔術講義で聞いたことがあった。
その時も同じ事をされたが、やはり気持ちが悪い。
それから、魔術講義らしきものを説明され、聴いていた。

午後三時。一時間が経った。
また明日も会おうと約束し、家に帰る。
その返答にイリヤは嬉しそうに笑って、去っていった。

   ◇

玄関で、怒れる二人の婦女子に出迎えられた。
書置きには二時に帰ると記しておいたが、二時間も遅くなってしまった。それが理由のようだ。
セイバーは俺の鍛錬をしてやろうと言っているし、桜も賛成している。
選択肢は一つしか残っていないらしい。

それから後は道場で剣の稽古を数時間はしていた。
セイバーは俺の実力を賞賛していた。
まだ五回に一回、セイバーに攻撃が当たれば良い方。
これから訓練すれば、それなりの強さにはなれるそうだ。

遠坂から電話があり、怒鳴られた。
無断で学校を休んだために、他のマスターに殺られたと思ったらしい。
明日は絶対に学校に来いと命令され、電話を切られた。

居間に居た桜に、遠坂からの電話を俺が喜んでいると言われた。
そんな事はないのだが…?

   ◇

朝、昼のお礼で、夕食は俺が作ることになっている。
調理の最中に来客があった。
桜が玄関に行ったが、胸騒ぎがして俺は玄関の様子を見に行った。
桜が鍵を開けると、扉を乱暴に開いて慎二が家に入ってきた。
桜は慎二に殴り飛ばされ、尻餅をつく。
まだ殴りかかろうとする慎二を止める。
慎二は侮辱する言葉を、止めることなく吐き散らす。
その傍若無人な態度に、いつか心に留めた暗い感情――殺意が溢れ出した。
桜の前で投影を使うわけにはいかない。両の拳を『強化』して殴りかかる。
当たり所が悪ければ、ヒトなど容易く殺せるだろうを威力を籠めた攻撃。
しかしそれは、

――またも、桜自身に止められた。

慎二は去り、夕食の支度を再開する。
そして、桜が倒れた。
風邪が治りきっていなかったのだろう。酷い熱があった。
風邪気味の体で無理をしていたせいだ。
先程のことで、心身ともに疲労が限界に達したのだろう。
また抱き上げて客間に連れて行く。

桜を寝かしつけて、部屋を後にする。
夕飯のメニューを変更してお粥を作ってやらないといけない。

十時前。夕飯を終え、巡回の支度を始めている時間になった。
しかし、桜の事が心配でそんな事をする気にはなれなかった。
セイバーはあっさりと提案を受け入れて、引き下がってくれた。
俺の体調も思わしくないために、無理をされて倒れられたら困る。
そう言ってくれたのは嬉しいが、褒美を要求されると、それ目当ての賛成と思えて仕方ない。
まあ、『お茶うけをください』という意思表示と判ったから良いのだが。

   ◇

投影の訓練中に桜が土倉に来た。
投影した武器を慌てて隠し、振り返った瞬間、固まる。
そんな桜の姿は見た事が無かった。変な意味ではなく『私服の』という意味だ。
しっかりとした足取りでやって来る、熱は引いているようだった。
眠れないようなので、少し話し相手になってやる。
昔の話から今の話まで、何気ないことを話し合う。
そんななか、

 「もしわたしが悪い人になったら許せませんか?」

ひとつの質問が酷く心に残った。
どういう意図かはわからないが、正直に答えておこう。

 「ああ。桜が悪いコトをしたら怒る。きっと、他のヤツより何倍も怒ると思う」」

その質問の後、桜は客間に帰っていった。
その質問の意味を考え、少し俺は不安になってしまった。
悪い予感がする。嫌な考えが頭を過ぎる。
どうか、この予感が本当にならないよう、願った。


to be Continued


副題の意味は『風邪?』です。(たぶん)

9: (2004/03/20 17:04:11)[wallscantattack at yahoo.co.jp]


これは、まあ外伝みたいなものです。

途中で誰かのキャラが壊れます。
読むなら――Interlude 6-1――のみにしてください。

読まなくとも次の話は読めますので、流してくださって結構です












   ◇


――運命の輪―― 5.5話 ”A Funny Short Story.”


   ◇

――Interlude 6-1――  柳洞寺にて


クチャ、クチャ、クチャ

嫌な音が響いている。
そこは、柳洞寺の裏にある池。
黒い影が、心の臓を抜かれた青い痩身――ランサーの屍を飲み込んでいる。
次第にヒトの形をなくし、魂を吸収される槍兵。
その池の傍らで、静かに佇むモノが居た。
白い髑髏の仮面。
包帯を解かれた片腕は、自身の身長を上回る長さを持つ。
槍兵の心臓を飲み込み、新たな知識を得たソレ。

 「ふむ」

先程までとは違うはっきりとした言葉で喋る。
その声はランサーの声と同一であった。

 「さすが、ランサー。心臓のみでココまでとは。なかなか有名な英霊だったようだ」

感心した声を上げるのはアサシン。
佐々木小次郎の血肉を奪い、その臓物から生まれし真の暗殺者。
彼の目は肉槐とも呼べぬほど、悲惨な状態になった槍兵の残骸に向けられている。
その残骸も影に飲まれ、跡形も無く消え去った。
そして生まれた一つの姿。

 「―した――を―どまら―るか、いや、まったく恐ろしいモノだ」

それはアサシンの声。言葉は掠れ、良く聞こえない。
賞賛している内容のようだが、込められた感情は限りなく無。
その声が向けられたのは――


――Interlude out――


――Interlude 6-2――  教会にて


 「む、」

声を上げたのは、教会の自室に座っていた、言峰のものであった。

 「どうした、言峰」

傍らに座る金髪の青年――ギルガメッシュが問う。
ソファーに座り、グラス片手に座る彼には、王たる威厳が存在した。
言峰はただ

 「なに、偵察に出ていたランサーが倒されただけだ」

そう答えた。
自身のサーヴァントを倒されても、焦りや苛立ちなどの感情は彼には見られない。
ギルガメッシュも何の興味も示さず、手に持つワインを飲み干した。

 「誰がアレを倒したのだ。雑魚とはいってもアレを倒せるものは限られるぞ」

言峰に問うギルガメッシュ。

 「アサシンのようだ。あの出来損ないの剣士ではなく本当のな。ヤツの宝具に気付かず、心臓を奪われたらしい」
 「サハンにか。所詮クー・フーリンも不意打ちに敗れ去ったか。我と同じ半神半人の英雄でも、器の違いというものだな。」

死んだ槍兵を嘲る英雄王。
その英雄王に、言峰がもう一つ付け加える。

 「ギルガメッシュよ、いいコトを教えてやろう。マキリの小娘、どうやら聖杯に適合しているらしい」
 「なに?」
 「聖杯の出来損ないを期待していたようだが、あのままではアレに届くやもしれん」

それを聞いたギルガメッシュは暫し沈黙する。
その手に持つワイングラスに赤い液体を注ぎ自分のものを用意する言峰。

 「……そいつの選別は我が行おう。暫し様子を見、アレに届くほど完成すれば、直々に手を下してやろう」

そう言って赤い液体を口に含むギルガメッシュ。
途端、その液体を噴き出し、ワイングラスを壁に投げる英雄王。

 「言峰!!貴様、これはなんだ!」
 「?なに、とは」
 「我のグラスに注いだ液体のことだ!とても飲めたものではない。辛すぎる」
 「――ふむ、ラー油はお気に召さないか」
 「ラー油はそのまま飲むものではない!」
 「ではタバスコを」
 「用意するな、我を侮辱しているのか!?」
 「我が侭が過ぎるぞギルガメッシュ」
 「人ならば(英霊だけど)当然の感想だ!!」

異様に辛いものを用意するマスターを叱るサーヴァント。
ある意味、衛宮士郎とセイバーの関係に似ているかもしれない。

 「何故、ボトルの中に年代モノの香辛料が詰められているのだーーーー!!!」

彼の悲痛な叫びは聞き入れてはもらえなかった。


――Interlude out――



to be Continued


副題の意味は『小話』です。(たぶん)

10: (2004/03/20 17:04:37)[wallscantattack at yahoo.co.jp]


   ◇


――運命の輪―― 6話 ”Good to Eat or Not Good to Eat”


   ◇

朝、特に何も無くいつもどうりの朝が過ぎていった。
一つ言うならば、藤ねえが久しぶりに飯をたかりに来た。それだけ。
その際、今日から朝練が中止になると聞いた。十人以上二十人未満の怪我人が出たかららしい。
キャスターは消え、もう魔力を奪われることは無くなったはずだが?

珍しく、桜が弁当を作ってくれた。中々嬉しい。
さりげなく弓道場で昼食を食べませんか?と遠回しに言われているのに気が付き、承知しておいた。

   ◇

学校、授業が終わり昼休みになった。

 「さてと、」

立ち上がり、廊下に出る。早く弓道場に行かなければならないのだが――

 「あ」

遠坂に会った。会った途端にソレは失礼ではないか?

 「遠坂、人の顔を見てそれは失礼だろう」
 「う、別にいいでしょう。いきなり出て来るから驚いただけ」

どうなのだろう?まあ、いいか。

 「それよりも、話したいことがあるから屋上に行きましょう」 
 「スマン、弓道場で昼飯を食う約束があるから無理」

早く行かねば、桜の不機嫌度が徐々に増えてしまう。限界になると凄いんだよ、無言の訴えが。
そういう訳で先を急ぐ。

 「放課後、俺も用事があるから後で話そう」

駆け出した。早く行かねば間に合わぬ。
後ろから叫ぶ声が聞こえるが、廊下には大多数の生徒が居る。
皆の前で、精々恥をかくがいい遠坂。

   ◇

弓道場では、やはり桜が待っていた。
美綴も居るが、別にたいしたことでもない。

 「おっ、衛宮の旦那。珍しいね」
 「旦那ってなんだよ、俺は桜と一緒に飯を食おうと思っただけだ」
 「ええっ!?」

俺の発言に桜が動揺している。朝に自分で誘ったのに、何故恥ずかしがるのだろう?

 「衛宮〜、随分と恥ずかしいことを言ってくれるねえ」
 「せ、先輩。そういうのはチョット」
 「?」

よく分からない。そんなに恥ずかしいことを言ったのだろうか?
……まあ、いいか。
急須を持ってきて、お茶を淹れる。
弁当の箱を開けると、恐らく二人分と思われる量が入っていた。

 「……衛宮。それは作り過ぎだろう」
 「作ったのは俺じゃない、桜だ」

そう指摘すると桜は恥ずかしそうに俯いてしまった。
自分でも分かっていたのだろう。
そんな。和気藹々とした雰囲気のなか昼食を始めようとすると、
ガラガラと音をたて弓道場の扉が開いた。

 「あれ?…桜?」

遠坂だった。しかし、その手には何も無い。
昨日もそうだったが、こいつは昼飯を他人にたかっているのではと思う。

 「遠坂、どうしたんだ。ココに来るなんて珍しいじゃないか。もしや、衛宮の旦那をお狙いで?」

ニヤニヤ笑いながら言う美綴、変なことを言うのはいい加減にしてほしい。

 「違うわよ、お昼忘れちゃったから綾子のを貰いに来ただけ」
 「お前に譲るような無駄飯は無い。スマンな」

一言で遠坂を切り捨てる。今日の美綴は毒舌だな。

 「遠坂、俺の弁当丁度二人分あるんだが、俺一人ではどうにも処理しきれない。遠坂も手伝ってはくれないか」

助け舟を出してみる。
遠坂は一瞬、桜の方を見て

 「止めとくわ、貴方のために作った桜に悪いし」

そう言って去ろうとするが、

 「せ、先輩ッ。べ、別にわたしは構いませんから」

桜にそう言われ、渋々輪の中に入ってきた。

……よく考えると凄いメンバーだ。女三、男一の割合は明らかにおかしい。
それも、何故か猫被りモードではない遠坂と、一年の中でも人気がある桜、おまけで美綴。
この中に俺が居るのは酷く場違いではなかろうか?
その事実に気が付いたのは、チビチビと俺の弁当を突付いていた遠坂が満腹になると同時でした。

   ◇

放課後、遠坂と会う。
その遠坂に連れられるまま、商店街の一角に向かう。
そこは魔窟。紅州宴歳館、泰山。
俺の中国料理に対する苦手意識は、この店が原因だったりする。
地獄的な辛さ。人の食すモノではない。
店長は通称ちびっ子店長だし、謎の中国人だし。
語尾にアルアルとつけるのは完璧なエセ中国人だと思う。

 「ココに、入る、のか?」

何故か言葉を区切って喋ってしまうほど、体のほうが拒否している。

 「そうよ。だから昼の間に説明したかったのに」

遠坂も嫌なのだろう。何故か逃げ腰だ。
じりじりと差を詰めて扉を開ける。
客の来るはずが無いこの店に、一人黙々とマーボーを食べている男がいた。
その姿はただひたすら異様。

 「む?来たか衛宮。時間があったのでな、先に食事を進めていた」

なんか、神父がマーボーを食ってる。

 「遠坂、これは、どういうことだ?」
 「アイツが貴方に会いたいっ、て言うからそれを伝えようと思ったの。ココには出来るだけ来たくは無かったけれど」

遠坂も顔が引き攣っている。
今、言峰が食べている麻婆豆腐の破壊力を知っているのだろう。
あれを平気な顔で食べられる言峰は、既にニンゲンの域を超えている。
茹った釜のような麻婆豆腐。その色は赤。これでもかっ!て位、赤!
おかしいよ。絶対にお国に叩かれるスパイスが入ってるよアレ!
アンナモノ犬モ食ベナイヨ、ゼッタイ。

 「ふむ、凛も来たか。まあいい。どうした、立っていては話にならんだろう。座ったらどうだ」

席に座るのを促され、ユルユルと席に座る。
その間も言峰の余りの食べっぷりに見惚れて?いた。
既に残りは二口分。本当に食べきるつもりだよコイツ。
緊張の瞬間に喉がなる。その音を聞きつけ、言峰の手が止まった。

 「――――」
 「――――」

視線が合った。
言峰はいつもの重苦しい目で俺を眺めて、

 「食うか――?」
 「食うか――!」

提案を切り捨てた。全力で、全身で拒否する。
まさかあのマーボーを勧めるニンゲンが居たとは。いや、そんなヤツはヒトではない、外道だ、人外だ。

 「落ち着きなさい」

遠坂の一言で我に返る。
俺の返答にがっかりしているように見える神父に、殺意が沸きました。

   ◇

その後の話は色々と吃驚する事実が満載だった。

一つ、キャスターはまだ消えていないこと。
――これは、倒される直前に何らかの魔術を使えば可能であろう。
一つ、俺達が柳洞寺に行った夜、アサシンが居たらしい。
――佐々木小次郎は居なかった。それも、言峰の言うアサシンと俺の知るアサシンは違う。
佐々木小次郎ではなく、他のサーヴァントが呼び出されたようだ。
俺にはそう驚く事では無かったが、遠坂にとってのもので、

 「私のランサーが柳洞寺でアサシンに敗れた。ヤツが消滅する寸前の映像を、マスターである私が回収したに過ぎん」
 「あんたがランサーのマスター!」
 「そうだ、しかしそれも昨日までの話だ。ランサーは消滅し、私は今回の聖杯戦争におけるマスターではなくなった。おまえたちの敵ではなくなったという事だ。
 これは情報交換だ。私の知ることは教えた。あとは代価を貰うまで。ここ数日の体験を教えてもらおう。ここ数日、何と出会い何を見た」
 「……」

答えしか許さぬと言うような言動に気圧される。
そして、俺の四日前から起こった事を出来るだけ詳しく話した。
逆行とかそういった部分は端折り、事実のみを伝えた。
これ以上詳しく知りたければ、代価となる情報をよこせと言っておいた。
遠坂も情報の代価には俺の体験で十分だろうと自身の体験したことを話さなかった。
……ずるいと思うぞ遠坂。

俺の話の中で、言峰が興味を示したのは、間桐臓硯という老人にだけだった。
間桐の魔術、臓硯の正体などを聞き、やはり臓硯は敵ということが解った。
そして、

 「アイ、マーボードーフおまたせアルー!」

――第二第三の麻婆豆腐がテーブルに置かれた。

言峰は、いつの間にかレンゲを持って準備が完了している。
あいつ、初めから御代わりを頼んでいたのだ。間違いない。

 「――――」
 「――――」

視線が合った。
言峰はやはり重苦しい目で俺を眺めて、

 「――食うのか?」
 「――食べない」

真顔で力の限り返答した。

   ◇

遠坂と二人、疲れた顔で店を出た。
遠坂は、用事があると言って何処かに行ってしまった。
仕方が無いので家に帰る。
俺はこのとき、背後に迫っていた襲撃者に気が付いていなかった。


to be Continued


副題の意味は『食べれるか食べられないか』です。(たぶん)


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