Der Wecker einer weisen Prinzessin−届け奇跡は聖杯へ 3-3 M:凛、他 傾:シリアス


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1: 唄子 (2004/03/19 13:40:50)[orange.peco.chipi@m2.dion.ne.jp]

/3 Dark Dark Pain’s

「で、改めて自己紹介しようかな。
 僕は遠野志貴。三咲町出身の21才、独身です♪
 よろしくね。」

 と、笑顔で遠野さんは凛に握手を求めていたりしている。
 凛はというと、少し驚きつつも、ぎこちな〜く握手し返していて、
 セイバーは、そんなのお構い無しに目の前の皿に、視線が釘付けだった。

 そう、
 今、衛宮家ではお茶の時間である。


 10分前―――

 どんどんどんどんどんっ!
 がらららららっ!!

「と、遠野さん!
 お、俺と凛は別に、そ、そんなことはしてな…」

「やぁ、士郎。
 勝手に上がらせてもらってるよ。
 なんか長くなりそうだったからね。」

 と、セイバーが入れたのか、お茶をすすっていた。
 
「あ、台所勝手に借りちゃったよ。
 いや〜、悪いかなって思ったんだけど、
 あ、一応セイバーちゃんには断ったからね。」

「あ、っとえー、いや、それは良いんですけど…。」

 はぁ、なんか今更つっこむのもなぁ、かくっ。
 むなしい気持ちに反応してか、手にもっていた
 干将莫耶が消え去ってしまった、ハハハ…

 くいくぃっ。
 袖を惹かれる感触に、後ろを振り返る。

「ねぇねぇ、士郎、あの人、…だれ?」

 凛が、小さな声で聞いてくる。
 そういや、俺たち遠野さんが入っていくとこ
 気がつかなかったんだよなぁ…
 まぁ、それだけ白熱してたってことだろうけど。

「えっとな、あの人はな、遠野さん。
 お前を尋ねてわざわざ三咲町からきたそうだ。
 そうそう、あの荷物な、半分は遠野さんに持ってもらったんだから、
 礼言っとけよ。」

「三咲町…?遠野……!?」

「なんだ、お前知ってるのか?
 遠野と遠坂、何か苗字も似てるし、
 …親戚か何かか?」

「遠野、遠野、とお………って!
 遠野ですってぇぇぇぇぇ!!」

 ばちいこーんっんんんん☆
 
 仰け反った凛。
 振り上げた両手。
 
 しろーへ とおさかのこうげき
 ズガガッ!
 クリティカル
 しろーはハナジがでた。

 ふがふが、鼻を抑える、あ、血だ。
 
「ちょっと、り、凛!?」

 凛はふるふる震えて、遠野さんを見つめていた。
 そんな凄い人なのかぁ。
 いや、悪い人じゃないんだけど、なんかそんな人には見えないけどなぁ。

「なぁ、凛。遠野さんってどんな人なんだよ?」

 凛は思いっきり真面目な顔で言った。
 
「金持ち」
 
 と、実も蓋も無いことを仰った。
 かね、もち…?

「金持ちって、遠野さんが…?」

「正確に言うと遠野家がね。
 はぁ、お金くれないかしらねぇ。
 私の魔術って、嵩張るのよねぇ。
 はぁ、いいなぁ、いいなぁ金ぴか、札束…」

 ああ、自分の彼女が…
 さっき愛を確認した愛しい人が、目が$になってるってのは
 どうなんだろう……かくっ。

「志貴は、富豪なのですか?」

 とセイバーが遠野さんに聞いてる。

「アハハ、実家はね。
 でも、妹が当主を務めているからね。
 そういう意味では、僕は長男だけど跡取ではないんだ。
 だから、高校のときなんか一日500円がお小遣いだったよ。
 寧ろ貧しかったんじゃないかなぁ。」

「志貴、それは貧しくありません。
 私は、小遣いなどもらったことはありませんから、
 むしろ羨ましい。
 500円…、どら焼きが5つも買える……。」

 セイバーが指を折って数えている。
 500円は確かに、お金持ちらしからぬ小遣いだ。
 遠野さんの妹って、厳しいんだなぁ。
 しかも、長男なのに跡取じゃないなんて、
 まぁ、跡取だったらそれはそれで違和感があるけど。
 なんか訳ありなんだろうなぁ。聞かないけど。

「って、聞こえてたんですか?」

 コクコクっと遠野さん。
 凛が少し赤くなって、気まずそうな視線を遠野さんへ送ってる。
 そりゃ、そうだよな、お金お金札束を連呼しちゃ……
 …って凛。気まずそうなのは勘違いだった。
 凛さま、金ぴかワールドへ突入されていました。
 せめてよだれは拭きなさい。そして諦めろ。
 お前ん家もあんだけ宝石あるんだから貧しくないだろ。
 ったく。

「まぁまぁ、立ち話もなんだから座ろうよ。
 ねっ?えっと遠坂さん、だよね?」

 はっ!凛がこちらの世界へ帰ってくる。
 
「す、すいません。つい…じゅるり」

 凛はよだれを拭いて、微笑み返した。
 よだれ拭いた手を、俺の背中で拭くのも忘れない。
 
「じゃぁ、紅茶いれますね。遠野さんのお茶も冷たくなってるだろうし。」

 凛の奴…。
 いそいそと紅茶の準備を始めやがった。現金な奴め…。
 こうやって、玄関をくぐっての、ようやくのお茶の時間と相成ったのであった―――




 握手もし終えてか、凛が口を開く。

「私に御用との事ですが、どのようなご用件でしょうか?」

 1日500円のお小遣い制を聞いてか(セイバーが嬉しそうに語った)
 凛もようやく冷静さを取り戻したようだった。

「ああ、そうそう。遠坂さんに聞きたいことが在ったんだよ。
 んで、士郎にもね。ちょうど良かった、二人が知り合いとは
 まぁ、分っていたとはいえ、一気に話が出来るね。
 とりあえずは、おめでとう。
 ―――聖杯戦争の勝利者たち。」

 ザワッ――――!!
 その言葉の意味を理解する前に凛から凄まじい
 魔力の高まりが伝わる!!

「ま、まてっ、凛っ!
 お前、まさか遠野さんをっ!?」

「士郎、甘い事言ってるんじゃないわよ。
 これだけの魔術構成編み出しても、この男は動じてないわよ。」

 遠野さんは、殺気立つ凛と対照的に涼しげにしている。
 いや、その顔には先ほどと変わらぬ微笑すら浮かべて…

 俺も驚いてる。
 遠野さんの口から出た言葉。
 ―――聖杯戦争。
 願いのかなう器、聖杯を勝ち取るためのバトルロワイヤル。
 人ではない者の戦い。

 一番最初は、凄まじい攻防。
 魅入って、離れるのが遅れた。
 そして、貫かれた心臓。

 土蔵での金髪少女との出会い。
 その身は、繊細、振るう剣は荒れ狂う風を身に纏う、
 ただ美しかった、セイバーとの出会い。

 ランサー、乱暴凶悪だが、無邪気で、憎めない、そして頼れる光の王子。
 凶悪なまでの破壊力、見るものには死のイメージを、バ―サーカー。
 セイバーを奪った策略の魔術師、キャスター。
 涼しき一刀流、セイバーとの戦いだけを望んで消えた剣士、アサシン。
 妖しいその身、こなしは俊敏。あの恐ろしい結界を張って待っていた、ライダー。
 
 そして、数多の法具を所有する太古の英雄、ギルガメッシュ。
 奴との戦いは思い出すだけで、寒気が走る。
 
 ギルガメッシュに心臓を射抜かれ、その身を沈めた幼子。
 いまでも、あの光景が過ぎるたびにやるせない気持ちになる。
 その小さき身に聖杯を宿して――
 イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。

 最後は聖杯の核とされた、親友・信二。
 
 あの戦いで勝てたのも、凛が居たからだ、そしてセイバーも。

 死んだ俺を生き返らせてくれた、今は大切な人、凛。
 
 …、そして凛をいつも守るように付き添っていた、赤い背中のあいつ―――
 最後まで、交わることは無かったが、俺の可能性の一つ。
 今の俺の身に授かる剣術、そして『固有結界』の所有者。
 
 英霊・エミヤ――――――

 たくさんの思い、悔しさ、恐怖、そして大切な思い、願い。
 それらを一気に思い出し、暫くはなにも考えられなかった。



「ああ、えーっと。落ちつきなって。
 こっちは話を聞きに来ただけだって言ったろ?
 セイバーちゃんも、剣を収めて、ねっ?」

 気がつかない間に、セイバーが不可視の剣――
 風王結界を纏った剣を遠野さんの首も元へ突きつけていた。
 
「…なぜ、これが剣と?
 志貴、私はこれが剣だとは一言も言ってはいませんが?
 …やはりあなたは凛が警戒するに値する。
 悪いが、主が許可するまで、この剣をあなたの首元から離す事は出来ない」

「セイバー、ちょっと待てよ。
 凛、お前も何考えてるんだ?
 遠野さんは悪い人じゃないぞ、多分」

 黒い人ではあるだろうけど、とは言わない、後が怖いし、多分。

 冷静になって考える。
 遠野さんは、聖杯のことを知っているようだ。
 だが、もうあの戦争は終わった。
 いま、なぜ?

「何言ってるのよ士郎!
 あんたまだ魔術師としての自覚が足りないんじゃないの!?
 私達はね、その正体を、魔術師と知られた相手をそうそう無事には
 返せないって言ったでしょ!
 しかも、彼は聖杯戦争のことも知っているようだし、ね。
 これはむざむざ返しちゃ、失礼でしょ?」

 フッフッフッと聞こえてきそうな笑顔。
 セイバーが居るから来ている絶対的な自信か
 凛の表情にも余裕が戻ってきたようだった。
 にしても、お前、誘拐とか考えてるんじゃないだろうな?
 いくら遠野さんが金持ちだからって。

「あはー、ちょっと参るなぁ。
 今日は一泊させて貰うつもりなんだったんだけど、
 寝かせては、貰えないみたいだねぇ…」

 遠野さんは、セイバー、凛の顔を交互に見てため息を吐いてる。
 しょうがないなぁ、ちょっと止めないとまずいだろ。
 それにこのままじゃ埒があかない。
 こちらも聞きたいことがあるし。

「凛、セイバー、そろそろいいだろ。
 遠野さんは、その、事情が色々在るんだろ。
 それにこのままじゃ遠野さんとも話しにくい。
 遠野さん、聞きたいことがあるって仰りましたよね?
 それじゃ、こちらの質問にも答えていただけますか?」

 遠野さんは、地獄に仏って笑顔を返しながら、

「こちらが答えれる事ならね。
 それじゃぁ、駄目かな?
 遠坂さん、セイバーちゃん?」

 ふぅっ、と凛はため息をついてこちらを少しにらんでいる。
 でも、凛は無闇に人を傷つけるタイプじゃないだろ?
 俺もそう思いながら、微笑みかけた。

「あー、もぅ!分ったわよ。
 何よ、士郎ったら。
 あんたの甘さにはきっつーい教育、いえ調教が必要ね。
 ねっ、セイバー?」

「そうですね。士郎は無闇に人を信じすぎます。
 それはいい意味でも悪い意味でもあることですから。
 士郎、あなたは凛と割ってようやく人並みです
 少しは人を欺瞞と疑いを持った、
 そう、時には罪も無い子犬を蹴り上げるような目で見なければ」

 あ、赤い悪魔が震えた。

「もっとこうですね、
 『兄ちゃん何こっち見みとん?あぁ!?』
 とか、こう高いところから哀れな蟻の群れを
 刹那的な、空虚な気持ちで見るような目つきでですね…」
 
 セイバー、君は凛から魔力以外になんか黒いもの
 貰ってるんじゃないのかね…?

「セイバー…、それは私のことよね…?」

 んで凛、その目だよ、俺たちをありんこの様に見るな〜
 コワイィィィィ!!

「アハハ、まぁまぁ、それくらいにして。
 んじゃ、まぁ、そっちの質問から聞こうか?」

 と、ここで、剣を突きつけられたままの遠野さんが救いの一言。
 遠野さん、ナイスです!
 こうやって、穏やかな、とは言いにくいが、
 ざわついた雰囲気が元に戻っていった。
 セイバーは剣を消し、凛も殺気を引っ込めて。
 はぁ、もう一時はどうなることかと。
 でも、まぁ、聞かなきゃいけないことはきっちりしとかないと。
 俺は遠野さんのほうを向き直した。


「で、遠野さん、さっきの続きですけど。
 なぜそのこと、…聖杯戦争のことを?
 それに貴方はいったい何者なんですか?
 やけに落ち着き払っているし、その、とても一般の人とは…」

 遠野さんは、やっぱりニコニコしてる。
 今までそれは唯の穏やかな微笑みに見えたが、
 事実、得体が知れない相手だと思うと、少し怖かった。

「あはは、もう少し秘密にしておきたかったんだけどなぁ。
 ちょっと残念。
 種明かしをすると、全然たいしたことは無いんだけど。
 様は、君たち側の人間なんだよ、僕は。
 ただ、所属する組織が異なるけれどもね。」

 そう言って、美味しそうにお茶を口元へ運んだ。

「違う組織ってなんなのよ。
 私達のってことは、協会になるのかしらね、やっぱり」

 凛もお茶を手にしている。
 セイバーはというと、警戒を解いているのか皿から一つ
 今日のお茶請けを頬張っていた。

 今日のお茶請け:イチゴ大福 by 如水庵

 セイバーは最近洋菓子より、和菓子がめっぽう好みだと知った。
 2つ目も2口で食べ終わり、最後の1つへ手が伸びている。
 お!もう終わった。
 今度はゆっくり、コクコクうなずいてる。

 お茶請けは、俺、凛、遠野さんには1つずつ。
 セイバーには、
 「私は、最近魔力が足りていないので、3つは頂かないと…
 しょうがないんです。しょうがなくですよ、やも得ない処置という奴です。
 なっ!士郎っ!何故笑うんですかぁー!」
 と、いう理由(いや、それだけじゃないよなぁ)で3つ置かれた。
 さすがはエンゲルの王様。
 そのあと、凛が
「魔力不足ですって?
 そうならそうと言いなさいよ。
 そしたら、その、ねぇ、士郎…?」

 「あー、そのような不純な白い魔力は結構です」

 とぴしゃっと、言放ちやがりました。
 そのあと、凛がむくれていたのは
 少し可愛かったが。

 
 と、いうわけで、セイバーは今はもう3つもあった大福を
 食べ終わってさびしそうにしていた。
 お、今度は遠野さんの大福をもの欲しそうに見てる。
 おいおい、それはお客さんのだろう?
 凛は、さりげなく遠野さんと喋りながら、食べているし、
 俺は、遠野さんが話し始めて直ぐに食っちまった。

 遠野さんは、あまり食欲が無いのか、手をつけてない様だった。

 二人は、お茶を口に運んだ後、また喋り始めた。

「そうだね、君達は魔術師。
 属するとしたら、そう、協会だろうね。
 あ、僕は魔術師ではないよ。分っているだろうけどね。
 となれば、後一つ。」

「フン、教会…ね。
 成るほど、綺麗の奴は記録かなにか残してたの?」
 
 遠野さんは頭を振って

「いや、彼はなにも。
 ただ、彼以外にもここの事は調べているから。
 それに、後で分ったことだけど、彼は二重登録だしね。
 まぁ、実力があれば誰も攻めはしないが」

 ああ、そんな事言ってたっけ、あいつ。
 ってことは、遠野さんは神父さん、エクソシストってことだろうか?

「でも、貴方からは特になにって感じないけど。
 組織には、体術かなにかで?」

「まぁ、そうだね…。
 それに僕も、言峰神父と似たようなもんでさ、
 正式な教会の人間ではないんだよ。
 ちょっと知り合いに調査を頼まれてね」

 調査?一体何を?聖杯の中身のことだろうか?
 義父、切継を追い詰めた悪夢。
 呪い、人の全てを否定するかの様な、
 偽りの聖杯。いや、聖杯はたとえ本物であっても、
 あれは『願いをかなえる』という可愛い代物ではない。
 それを聞き込みに?
 
「今更何をって顔だね。二人とも」
 
「そうね。もうあれは無いもの。
 私達で完膚なきまでに叩き壊したわ。
 だから戦争は終わったの。」
 
「でもセイバーちゃんは現界しているよ?」

「それは、私と、その、…彼の魔力で契約しているのよ。
 彼女を手放すのは惜しかったし、その一緒に居たかったから…」
 
 凛が、俺のほうを向いて少し赤くなってる。
 私だけの魔力で、っては言わず、俺も絡んでるって、
 言った時に思い出したんだろうな、あの晩のこと。
 俺も、すこしだけ赤くなったかもしれない。

「うん、まぁ二人とも真面目な話のときに、俯いて赤くなるのは
 いやらしい、もというらやましいぞ♪
 話を戻すけど、それでこっちが聞きたいことってのは…」



 その時、セイバー以外が、確かにそれを聞いた。
 セイバーは、大福の人になっていたから。
 
 『遠野くんは、教会とは関係ないですよー』

 と、女の声で誰かが言うのを―――
 
 
 沈黙。
 咳払い、
 そして沈黙―――





 あ、遠野さんが珍しく笑ってない。
 もう一つ咳払いした後、遠野さんが続けた。

「あー、どこまで話したかな?
 ああ、そうそう。こっちが聞きたいことはってとこまで、話したね。
 そうなんだ、僕が聞きたいのは…」

 『いつからカトリックになったんですかー?
 嘘つきはドロボーの始まりですよーとうのくーん』

 …。また聞こえた。
 遠野君ってことは、やっぱりこの目の前の…
 遠野さんのことなんだろう。
 遠野さんは、目を閉じてため息なんかでて来そうなは雰囲気だ。

「ねぇ、呼んでるんじゃないの?あなたのこと。
 知り合いか何か?」

 凛が、誰に遠慮しているか知らないけど小声で遠野さんに聞いている。
 セイバーはというと…
 ああ!おまえ、遠野さんの皿に手を伸ばそうとしてなかったか!?
 俺が目でセイバーに牽制していると、遠野さんはまた咳払いして
 話し始める。

「いやぁ、人様の庭で大声出すような知り合いは居ないよ。
 まぁ、一人思いつくとしたら、伊達めがねで、尻でか、カレーマニアくらいかな?」

 そりゃどんなんだよ?
 と、思わず突っ込みたくなる。
 伊達めがね、尻でか、カレーマニア。
 伊達めがねはともかく、残り二つにさり気無い遠野さんの悪意が見える。

「ああ、気にしないでいいよ、その、ちょっとうるさいし、カレーの匂いがしてくるかもしれな いけど、気にしないで、ね?」
 
 遠野さん、その心配掛けまいとしているのは分るんですが、
 余計気になっちゃいますよ。
 大体なんでカレーの匂いがここまでするんですか?

『へー、良くぞ其処まで言いやがりましたねー!!
 みなさーん、遠野君はろりこんで、5股かけるようなー、悪人さんですよー』

 ぴくくっ!
 おお!遠野さんの、眉毛が上がったとこなんか会って初めてみた。
 なんか、そんな雰囲気じゃないのになぁ。
 あ!セイバーがまた手ぇ伸ばしてる!
 はぁぁ、セイバー、お前少し意地汚くなったのか?
 それとも本当に魔力不足なのか?
 ちょっと先の未来に不安を感じてしまった。

「ちょっと、遠野さん、あー、志貴でいいわよね?
 志貴、なんとかしなさいよ。
 あんたの知り合いなんでしょ!?話が進まないじゃない!」

 凛がいらいらして、遠野さんに出て行ってなんとかしなさい
 と外の方指差している。

 遠野さんは眼鏡を撫でながら、
 
「まずいよ。そりゃまずい。
 話がややこしくなるからなぁ。無視無視。
 気にしないでおこうね。
 なーに、ほっとけばお腹が空いて帰るって、多分…」

 遠野さんは、最後の方は苦しそうにつぶやいた。
 逆に、俺と凛は、遠野さんの態度と、外の声の主の方が
 気になってきた。

「遠野さん?お知り合いなんですよね?あの、外の、その
 カレーマニアの人と…」

「うわっ!士郎、お前、俺以外でそんなこと言ったら…!」

 

 その頃、セイバーはと言うと――――
 しめしめ。
 志貴は、庭の方に気が取られているようですね。
 おお!士郎も志貴に何か言ってます!
 フッフッフ♪
 そもそも、この最強のサーヴァントである私に勝とうなどと、フッ!
 
 その手は閃光!最強たる彼女の手はいまや法具と化していた!
 セイバーのつまみ食い―(食するための黄金の手)が発動されたのであった。(A+++)

 そして、その手が大福に届かんとする時―――――

 ガシュ!!
 遠野さんの前にある、柔らかな大福を貫き、細い剣が、テーブルに生えていた。









 …………!!!!?
 俺、凛は顔を見合わせている。
 ちなみに、縁側へ繋がる方の障子は…!?
 綺麗に剣一本分空いていた…。
 遠野さんは、あーあ、って顔しているし、
 セイバーは突き刺さった大福を、ボーゼンと見つめていた。
 あ、突き刺さったのを取ろうとしてる。
 
 が、更に剣から突然の閃光―、発火。
 大福が燃えた。
 セイバーはフゥフゥとして火を消そうとしているけど…、
 ブスブスッと少し焦げ臭い、元大福だった物しか残っていなかった。
 テーブル、弁償してくれるのかなぁ。

「ちょっとぉぉぉ!志貴、もう我慢できないわよっ!
 あんたあれ何とかしなさいよっ!
 命に係わるとこだったわよっ!!」

 それに関しては同感だ!
 こんな事されて、黙っているほどお人よしじゃない!

「遠野さん、これどういうことなんですか!?
 剣がイキナリ!
 誰なんですか?これ投げてきた人って?」
 
「いや、その、わかった、わかったよ。
 何とかするから。」
 
 遠野さんが、重い腰を上げて出て行こうとする前に―――

 我らがセイバーが完全武装していた。
 
「聖杯戦争のさなかでも、食べ物を粗末にする者は居なかった…。
 士郎、凛ッ!!
 これは宣戦布告だ!
 あなた方の安全を守るために、私は行きますっ!
 はぁぁぁ!大福の仇ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」

 セイバーは前半と後半の全く繋がらない叫びげながら
 外へて行った。
 遠野さんも慌ててついていく。

「士郎、私達も…」
 
「あ、ああ」

 俺と凛も靴に着替えるため玄関へ向かった。
 急いでいかないと。
 セイバーの振るう剣の音が、聞こえてくる前に。
 遠野さんが大声で何か言っている。
 外では、もう、戦いが始まっているようだった。





 ―――外、衛宮邸は、庭が結構広い。
 ちょっとしたガーデンパーティーなら10人はゆったりできるだろう。
 もっともそんなのしたことは無いけど。
 時刻は、もう12時を回っている。
 今夜は月もなく、ここを照らしているのは
 先ほど居た居間から漏れる明かりぐらいだった。
 
 俺たちの目の前には、柳眉を逆立てて対峙しているセイバー、
 余裕を取り戻したのか、ニコニコしている遠野さん。

 そして、その向こうに、塀の上で、やはりニコニコしている女性が居たのだった。
 歳は、22,3位だろうか?
 明かりが少なくはっきりはいえないが、かなり美人だろう。
 だが、着ている服が、その尼さんっぽい法衣であるのがまた一味出している。
 青っぽい前髪が、さらさら流れる。
 髪は長いのだろうけど、後ろでまとめている、ポニーテールってやつだ。
 その女性は、セイバーを前に少しだけ困ったように言った。
 
「あー、まさか貴方の、その大福に当たっただなんて、すいません。
 遠野君のに当てるつもりだったのですが…」

 と、頭を下げている。

「まったくです!
 今まさに手に入るというところで、奇襲とは!
 返答しだいでは、ここで一戦交えることも厭いませんよ…?
 ああ!私の…、私の大福を…」

 セイバーは大福が燃えている時を思い出しているのだろうか、
 悲しそうに、何かをつかむように手を動かしている。
 …、ありゃ、遠野さんのだろ?
 そもそも大福より、あんなのが飛んできた方が問題だと思うんだが…
 セイバーにしたら、やっぱ私の大福の方が問題なんだろうなぁ。
 
 いちど、今後のセイバー食意識を検討しなければと真面目に考えていたら、
 横に居た凛が、女性に話し掛けた。

「で?あなたは…、教会の人よね。
 その服装といい、さっき投げたのは、黒鍵とか言うのかしら。
 言峰がもっているのを時々見たから。
 遠野さんの関係者、でいいのよね?」

「ええ。関係者と言いうのがまどろっこしく感じるくらいの関係者です。
 私は其処にいる黒い悪魔とは違って生粋の教会の人間ですよ。
 もっとも自分からばらしてしまうのは何なのですが、あなた方なら
 無闇に喋ることは無いでしょうし。
 それに、私もあなた方のことはある程度は知っていますからね。
 なにせ、あの聖杯戦争の関係者ともなれば、こちらではある程度有名ですから」

「で、その教会のひとが何の御用かしら?
 いくら無視されたからって、あれは無いんじゃない?
 事と場合によっちゃぁ、セイバーじゃないけど、私にも考えがあるわよ」

 ほぅ、っと女性の目が細くなる。
 
「ああ、あれは悲しい事故ですよ、事故。
 そもそも遠野君が、あること無いこと言うからいけないんです。
 そして、衛宮士郎君?あなたもね。
 私はカレー愛好者であって、マニアなどではありません。
 第一に、響きがわるいじゃないですか、マニアだなんて。
 さらに言うに事欠いて、でか尻などど、ふふ、胸もあるのですから
 そちらばかり強調しないで欲しいですね。」

 結局カレー好きってのは否定しないんだ…。
 じゃぁ匂いがしてくるってのは…聞かないほうが無難だろう。
 今度こそ串刺しにされるかもしれないし…、ぶるぶる。

 それに、胸…。
 たしかに…、ある!
 思わず魅入っているところを、凛に睨まれたが。


「私は、言峰神父が、その亡くなってしまったので、最終的な報告を
 提出する為に、あなた方に事情を簡単に聞こうと思っていたところ
 だったんですよ。
 もっとも、その黒い悪魔さんは別の狙いがあったようですけれど…?」


 遠野さんは、いきなり話を振られてちょっと詰まっている。

「い、いやだなぁ。シエル、僕はただ手伝ってあげようと思っただけで、
 他意はないよ。そんな…」

「あら、私の手伝いを?」

「ええ、そうなんです。ほらっ、昔はいろいろ手伝ったじゃないですか。
 今回もすこしでもお役に立てたらと思っていて、それで…」

 遠野さんは、すこし困りながら答えてる。
 よっぽど、シエルっていったか?
 あの人のこと怖がってるようだった。

「ほぅ、それはそれは。嬉しいことをおっしゃってくれますねぇ。
 へぇ、それに貴方があの城をでるなんて、聞いたときは疑いましたが、
 何年振りでしょうね。それが私の手伝いとは…
 気持ちの変化ですか?心変わりしてやっと私に振り向いてくれたのでしょうかね?
 だったら嬉しいんですけど…。
 それに2年前に遇った時より、激しく性格の変化を感じますよ?
 あの琥珀さんの影響でしょうかね?」

「ああ、そうなんだよ。琥珀さんがたまに夢で出てきてね。
 気づけばこんな性格に、困ったもんだ」

 と、苦笑する遠野さん。
 この性格のベースになったって事は、かなりアレなんだろうなぁ、琥珀さんって人。
 それに城って?遠野さんの家ってやっぱり金持ちだからお城みたいなんだろうか?
 
「もう、ちょっといい加減中で話さない?
 教会の、シエルさんもどうせ帰ってくれないんでしょ?
 このまま外に居て立ち話するのも疲れたわよ」
 
「ああ、そうだな。あの、良かったら上がってください。
 事情は説明しますから。
 こちらもまだ聞きたいことありますし。」

 俺も玄関の方に促して、凛に続く。
 シエルさんは遠野さんの方を見ていたが、

「はぁ、私も聞ききたい事が増えましたから、
 ありがたいです。
 遠野君は、ちょっと不信なとこがありますからね」

 と、とすっと塀から降りてきた。
 近くで見ると、最初の印象より若く見える。
 綺麗な人には違いないが、
 こう、ほわ〜とした人のようだ。
 教会ってなんかこんな人ばっかり?
 言峰は嫌な奴だったけど。

「私の話はまだ終わっていない!」

 セイバーが付いて来ながらこぼしてくる。
 
「セイバーも。あれは遠野さんのだろ?
 お前そんなに食べたいんだったらどら焼きがあるから、
 な?機嫌直してくれないか?」

「士郎、私は別に食べ物のことなど。
 ただ士郎や、凛の身の安全を確保しないことには」

 と、笑みがこぼれていた。
 身の安全は、考慮されていたのだろうか?
 食べ物って令呪並み、それとも令呪は食べ物並みって事なのか?
 少し悲しくなってきたよ…。

 ニャ―ン――――
 猫の声。
 すっかり忘れていたけど、遠野さんの黒猫、レンが庭の隅で鳴いていた。
 そういや、いつの間に外に出たんだろ?
 まぁ、猫だからどこからでも出て行くんだろうけど、と
 思っていると

「し、士郎!く、そんな馬鹿な!?」

 セイバーが狼狽の声を上げていた。
 
「どうしたのよ、セイバー?」

 凛が心配そうに声を掛ける。
 どうしたんだ、セイバーがここまで狼狽するなんて?
 
 シエルさんがはっと身構え、遠野さんは顔つきが険しくなってる。
 一体どうして…。

「この気配。人間じゃないですね。かといって死徒とも違うでしょう。
 サーヴァント、まさかサーヴァントはまだセイバーさん以外にも
 この町に居るんですか?」

「それこそまさかよっ!?なに、セイバーどうしたの!?」

「凛、そこの代行者の言うとおりだ。
 サーヴァントです。それも直ぐ近くに!!」

「!?
 そんな馬鹿な!聖杯は俺たちで壊したんだろ!?
 なんで、なんでなんだよ。」

 くっ!
 もう終わったと思ってた。
 これからは穏やかな日が続くと、そう信じてたのに!
 まだ終わってないのかよ、この戦争は!

「士郎、行きましょう。
 確かめてみないと何も分らないし、進まない。
 セイバー、先行してくれる?
 私達は、貴方の後ろから行くわ」

「ええ、その通りです。
 士郎、凛は私の後ろから。
 貴方たちも巻き沿いに成りたくなければ
 前には出ないでください!」

 そう言ってセイバーは駆け出した。
 俺たち、俺、凛に続き遠野さんたちがやってくるのを感じる。

 ――、聖杯戦争。
 もうあんな思い、誰かが傷つくのを見たくない!
 もう誰もあんな思いはさせない!
 俺は正義の味方になるって決めたんだから!!

 心の中で、改めて気合を入れなおし、門を出た。

 更に加速しようと思って、足が止まる。
 本当に直ぐ其処だった。
 家から10m行かない。
 
 それは其処にただ佇んでいたで居た。
 白い面。
 黒い装束。
 ボォとお浮き出るような白い面が不気味さをより一層―――――
 
「桜ッ!?」

 凛が声を上げる。

 桜だって…!?
 その黒い人影の足元には、女の子が…
 俺が良く知っている女の子。
 毎朝、食事を作りに来てくれる、可愛い妹のような…

「桜、おい、桜ぁっ!!」

 呼んでも、起き上がってこない。
 まさか、まさかまさか…

「衛宮君、落ち着いてください。
 彼女、息をしています。それに傷ついた跡も見られません。
 大丈夫です。気絶しているんでしょう。」

 と、シエルさんは、落ち着いた声で言った。
 良かった。
 この人も、その道の人だから、そういうのって分るんだろう。
 だけど、状況は変わってない。
 あいつ、あの黒いサーヴァントは以前と同じそこに居るし、
 桜が居るからセイバーも迂闊に飛び出せないでいる。
 どうする、どうすれば…


「これは、これは…。
 魔術師二人だけでなく、教会の代行者も居るとは。
 ふむ、ちと急ごうか―――」

 ブワッとあの黒装束、マントのようなものがはためく――
 
 ギ、ギンッンン!
 セイバーが何かを剣で弾いていた!
 
「ちょっと、あれナイフかなにかなの?」

「ええ、ダークと呼ばれる、彼らが好んで使う投げナイフ。
 これでアレのクラスは特定できます。
 ―――――アサシン。それが彼のクラス。
 前回のアサシンが意外だったのですが、これが本来のアサシンなのです」

「アサシンの?でもじゃぁ前回のは偽者だったての?」

「凛、細かいことは後で!今は目の前の敵に集中してください!!
 どういった理由かはわかりませんが、これはアサシンの力ではない!」

 凛が、いや俺も驚いていた。
 いくら聖杯のバックアップがないとはいえ、セイバーが
 あのセイバーが傷を負っていた―――
 ダークと呼ばれるナイフがセイバーの肩に深く刺さっている

「セイバー!!」

「士郎、落ち着いて。
 これくらいでは私はやられません。
 それより、どうかここから離れてください…!
 今のアサシン相手に守りきれる自信がありません。
 申し訳ない、ここから早く。
 心配しなくても、桜は必ず取り戻します。」

 セイバーがそこまで言うなんて。
 そりゃ、俺は凛と違って半人前だけど、
 こんなになっているセイバーをほっては置けない!

「セイバー、お前一人じゃ危ない!
 ここは俺も、凛もバックアップする!
 3人で倒すんだ!
 お前に、お前だけなんて駄目だ!!」

 「そうよ、今セイバーに倒れられたら困るじゃない!
 たまには私達も頼りにしなさいよね。
 あんたばっかりに負担はかけれないでしょ。」

「士郎、凛…。
 そうでしたね。
 士郎も凛もあの聖杯戦争を勝ち抜いた魔術師。
 それじゃぁ、3人で…」

 そう言って、傷口からナイフを抜き取ると、
 俺たちはセイバーを前に構えなおした。
 そしてセイバーが、駆け出そうとして―――
 
「ああ、ちょっと待って」
 
 なんて後ろから声を掛けられた。

「シエルはセイバーちゃんの傷を。
 サーヴァントとはいえ、治し方は一緒だろ?」

「それは、まぁ」

 シエルさんが答える。
 
「だったら頼む。
 ここは久しぶりに僕がやろう」

「志貴!?何を!!
 貴方がいかに体術に優れていようと、それだけでは…」

「まぁまぁ、ここは任せてよ、ね?」

 遠野さんはセイバーの制止を振り切って、前へ出る。
 俺たちはそれを呆然と見送った。
 いや、見送るしかなかった。
 遠野さんはどこから出したのか、二振りの剣―――
 先ほどシエルさんが投げたもの、黒鍵を携えて。
 凄まじいまでの殺気を纏っていた―――

「ほぅ、生身の人間が私と…?
 だがその纏った殺気は人としてはいささか規格外だな…」

 夜の路上。
 すこし涼しかった空気が、陽炎で歪むような
 そんな錯覚すら覚える――――

「ふふ、アサシンと言ったかな?
 サーヴァントと戦えるなんてめったに無い機会だしね。
 ――――――――――さぁ、殺し合おうか?」

 遠野さんが、突風のようにアサシンに向かって駆け出していた。



〜後書き

 やっと3話目が終わりました。
 ようやく進むことが出来るー!!
 だらっと書いていましたがここから展開を早くするつもりです。
 どうか飽きずにお付き合いさーい。

 唄子


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