Der Wecker einer weisen Prinzessin−届け奇跡は聖杯へ 3-2 M:凛、他 傾:シリアス


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1: 唄子 (2004/03/17 02:59:52)[orange.peco.chipi@m2.dion.ne.jp]

3.Drak Dark Pain's

/2  Pain night

 娘は行ったか―――


 闇が先ほど駆け出していった人間、
 間桐桜の小さくなっていく背中を観ていた。

「………」

 娘は器。
 そう主は言っていた。
 今、その器は知り合いの家に逃避を図っているところだ。
 自分はそれを遅れて追えばよい。

 正規の契約ではないがこの身は確かにこの地に。
 その身は確固たる力が漲っていた。
 
「時期遅れとは惜しいことをした。
 この身であれば、此度の戦争を勝ち得たかも知れぬな。」

 だが、それはあり得ぬ事。
 この身が感じる力は正規の契約では手に得られるモノ。
 戦争が終わり、濁ったものから生まれ出たモノ。
 
 だが、悔やむ気持ちはない。
 戦争が終わり、自分はここに居るのだ。
 ならば、自分はこれから成せばよい。
 
 娘には程なく追いつくだろう。
 ならば今暫くの間、この夜を―――
 

 闇は動かない。
 それはまるで一時の静寂を愉しんでいるかの様だった。






 
 み、耳鳴りがする。
 ここ最近はこんなに怒られたことは無かったせいか
 耐性が鈍ったか!?
 ごそごそ…
 耳の奥を指で擦ったが、まだ少し違和感があったりする。
 
「ちょっと士郎!聞いてるの!?」

「ん、聞きたいのは山々なんだが、その耳鳴りが…」

「耳鳴りって…、あんたまだ高2でしょう?
 はぁー、それとも何?
 私の声は耳鳴りがするほど雑音だっていいたいの?」
 
 う、うわ〜、ちょっとすごい目つき。
 遠坂は、日ごろ少しだけキツメの目を更に細めている。

 背中がゾゾゾッっと凍りつく感覚―――
 こりゃぁ、遠坂のやつ魔眼まで身につけてたのかぁ!
 さ、さすがは師匠!感心感心。
 
「…感心してるとこ悪いけど、まだそんなの身に付けた覚えないんだけど?
 クスッ、衛宮君は本当に素直でうれしいわ。
 思ったこと全部口に出してくれるんですもの。
 ねぇ?フフフ…」
 
 遠坂はすごく愉しそうに笑いをこらえてる…
 …ではないんだろうなぁ。
 口元は切り裂かれたかのように鋭利につりあがり、
 眼は、彼女の得意な宝石魔術、
 その奥に渦巻く炎のようにゆらりゆらりと怪しく揺れている…
  
「俺、そんな事言ってたか…?」

 あきらめるな!
 ま、まだ、救いはある!
 あの赤い悪魔が使う常套手段、カマ掛けの可能性が…

「あら、私って士郎にそんな風に見られていたんんだぁ、
 鋭利のような刃物の口元…フフフ…ヒヒ…」

「ヒヒ…って、遠坂さん!?
 なんでポケットに手を入れるしぐさをしてるんですか!?」
 
 状況は限りないどん底。
 セイバーは気づいてないのか、出てこない。
 もっとも、気づいたから出てこないのかもしれない。










 玄関に遠坂と二人っきり。
 熱い眼差しを送る遠坂。
 それを見つめ返す俺。
 照れているのか、彼女の頬は朱に染まっている。
 うつむき加減に、こちらに向かってすごい熱視線を送ってる。
 彼女は少しだけ微笑をま増し、ポケットから宝石を…
 
「ああ…遠坂、そんな高価な物なんてもらえないよ…
 …っておい!!」

「士郎、あんた命の取り合いの最中にまで寝ぼけてるのね…
 …ふっふっふ、よーっくわかったわよ!
 あんたやっぱり私の事、真剣に考えてないのねっ!
 セイバーと打ち合ってる時はあんなに真剣なくせにっ!
 …うっっく、ぐすっ、くぁーバカバカバカ士郎っ!!
 もう知らないんだからね!
 ああ!キメタッ!あんた殺して私も死ぬ〜!!」

「ちょーっと、落ち着けって!!
 遠坂がなに勘違いしてるかは知らないけど、
 俺はいつもお前のこと真剣に…」

「嘘ばっかり!
 じゃぁ、なんで家出て行く前に突き飛ばしたりしたのよっ!
 こっちはね、そりゃあもう恥ずかしい思いまでして…!
 どうせ…、どうせあんたになんか分らないわよっ!
 こんなに、こんなに好きなのにっ!!
 この朴念仁っ!鈍感!剣マニア!金髪好き!あと、ええっと…」

 もうどうにでもなれって感じだった。
 ただ、その瞬間真っ白になる思考―――
 彼女の、その唇の感触がさっきまでの緊張に、
 全然色褪せぬくらい刺激的で―――
 



「んんっ!?ふぁ………、
 えーと、し、しろー?へ?今、私に…?
 わ、わっ、えっ、えっ、ええぇぇー!!!!!?
 ちょっと、その、ど、ど、ど、どうしたのよ、そんなイキナリ…」

 遠坂が真っ赤になってごにょごにょっと下を向いてしまった。
 俺の方は、キスしちゃたんだなぁってボーっと今更思っていた。
 
 あぁ――――
 そうだったんだ。 
 遠坂も同じだったんだって、いまになって分った。
 
 思えば、あの戦争が終わった夜。
 遠坂を初めて抱いた日、遠坂が抱きとめてくれた日。
 あの時繋がったのは、魔力のラインだけではなかった。
 遠坂は俺を必要としてくれ、俺も遠坂の事が必要だと気づいた。
 だからあの戦争にも勝てたんだ。

 なのに、戦いが終わった時からどう距離をとっていいか、分らなかった。
 急に近くに居すぎて。
 俺も、遠坂も誰かに依存することなく今まで生きてきたから。
 誰かのこと必要だって思っても、どうして甘えていいか分らなかった。

 セイバーを維持する。
 確かにセイバーにはずっと居て欲しい。
 あの聖杯戦争を勝ち残った大切な仲間だから―――
 でも、そんな目的で遠坂を抱きたくはなかった。

 だから、お互いに不安定でもろい足場を歩いていたんだ。
 好きだよと言う事もなく、手すら繋がないまま。
 俺だけだと思ってた。
 俺ばっかり好きだと思ってた。
 遠坂には俺の気持ちは伝わってるって
 でも遠坂は気に掛けてくれてないんだって。
 ずっとそう思ってた。

 でもどうだ?
 自分のことばっかり、自分は自分はって気持ちばかり大きくなって
 遠坂へ自分の気持ちも満足に伝えないまま。
 
 同じだったんだ。
 遠坂も。
 俺の気持ちに不安だったんだ。

 遠坂は、なにかと俺をからかってきた。
 俺はそれが遊ばれてるんだってばっかり思ってた。
 本気で怒ったこともあった。
 こっちは真剣なのにって、心で落ち込みながら。

 でも違ったんだ。
 遠坂は俺と違って、慣れない甘えを精一杯
 俺へ向けてくれてたんだ。

 それにも答えずに俺は…

 どうしようもなく、今の自分がカッコ悪いと思った。
 相手が出さなきゃ出せない、自分の気持ち。
 それな俺に遠坂は最後の最後で本音で言ってくれた。
 『こんなに、こんなに好きなのにっ!!』
 そう言ってくれたんだ。
 
「士郎?どうしたの急に考え込んじゃって…?
 やっぱり…、キスしたくなかったの…?」

 不安そうな瞳。
 胸か痛くて、頭がくらくらする。
 何も考えられなくなって、グッと抱き寄せた。

「ちょ、ちょっとどうしたのよ!?
 士郎?
 さっきから何も言ってくれないから私…」

「ごめん!ごめん遠坂っ!
 俺すっごいカッコ悪かった!!
 ごめん、ごめんな、ごめんなぁ…」


「えっ?士郎っ!どうしたの…?
 あんたひょっとして泣いてる?」
 


 遠坂が言うとおり、俺は泣いてた。
 どうしようもなく申し訳なくて、悲しくて。
 だってこんなにも好きで好きで、大好きな女の子を
 大事にしてやれてなかった。
 それに気づいたから―――

「ごめん、ごめんなぁ…。
 俺さ、自分の気持ちばっかり、自分のことばっかりで…
 遠坂のこと全然考えてやれてなかった…。
 ごめん、本当にごめん、ごめん、ご…」

 ちゅっ。
 またあの暖かい感触。
 遠坂の顔が眼と鼻の先にあって…
 遠坂からは、彼女の持ってきたシャンプーの香りがした。
 
「ごめんは、もういいのよ。
 もういいの。士郎は私のこと、今は考えてくれてる。
 私もね、自分の事ばっかりだったの。
 ごめんね、士郎。
 おあいこだね。だから士郎ばっかり謝る、ことな…」

「え…、お前も…、泣いてるのか?」

「いいじゃない、あんたなんて男の癖に…。
 私にだって泣かせなさいよ…」




 こうやって、俺と遠坂の喧嘩は終わった。
 いや、喧嘩なんかじゃない。
 お互いを、お互いの思いを確認するための儀式――
 俺と遠坂。
 こうやってしか、不器用な者同士は気持ちを
 交換できないのかもしれない。
 これから何度もこんな機会がくるだろう。
 でも、その度こうやってお互いのわだかまりがなくなるのなら、
 それが一番の方法だろうと思った。






「それで士郎、やけに早かったじゃない?」
 
 お互い玄関の脇に座っていたら、遠坂が口を開いた。
 俺の手は凛の腰に手を回していて、
 凛は俺の肩に、頭を寄りかからせていた。
 そうそう、俺はあのあと凛と呼ぶように決めた。
 遠坂では、気持ちが伝わりに伝わりにくいと思ったから。

 『凛』
 ああ!なんて彼女らしい名前だったんだろう!
 と、今ごろ思う。
 凛は凛以外ありえない。
 それが一番彼女を表せる名前だと、今更だったが
 納得していた。

「やっぱり自覚あったんだな。
 お前一体どういうつもりだったんだよ?
 あんな荷物。
 俺一人じゃ持ってこれなかったぞ。」

 優しくにらみつけると

「だって、士郎一人じゃ無理だから、私の家からでも
 電話してくれるかもって。
 そしたら、二人っきりで話できるかもって、
 その…、悪かったわね、確信犯よ。」

 少しだけすねているのが、分って、その横顔がすごくかわいくて
 気持ちが暖かくなる。

「ったく。はぁ、…可愛過ぎるよ、凛は。」

「…!?し、士郎?なんかちょっと…、もう…。
 ふふ、ありがとう。大好き!」

 そう言って、凛が頭を方へこつこつっとぶつけてくる。
 俺も、凛も笑ってた。
 
 
  
 
 ん?
 笑ってた?
 微笑み、
 黒い微笑みの悪魔―――――!!


「で、士郎。さっきの質問の続きなんだけど、
 あんたどうやって荷物持ってきたのよ?
 ひょっとして、一人で?」

 凛は申し訳なさそうな顔をしてる。
 俺はというと、さっきから、
 居間で聞こえてくる、
 
「士郎と凛はまだ玄関に居るのでしょうか?」
 セイバーの声と、

「そうだね。やけに遅いな。
 さっきから怒鳴り声がしなくなって、えっと、…5分か。
 …セイバーちゃん、これはきっと…………じゃないかと。」

「し、志貴!?そんな、まさか!
 うーん、いや、しかし最近魔力不足を感じていましたから…
 ひょっとすると、…これは黙っていられませんね!!」
 
「うーん、セイバーちゃん、そんな駄目だよ、邪魔しちゃ、ね?
 士郎だって男の子なんだからさ、その、いろいろあるだろ?」

 黒い悪魔がセイバーを汚染していく会話が聞こえていた…。

「と、遠野さんっ!?」

「え、ちょっと、士郎、どうしたのいきなり立ち上がって!?
 なによ、その遠野っって?え、きゃっ!」

 俺は、凛の手を引っ張って居間へ急いだ!!
 
 ああ、赤い悪魔はこんなに可愛くなった。
 大好きだ!
 だというのに、
 黒い悪魔はとの戦いは、
 まだまだ終わってくれそうになかった。

「セイバーちゃん、今飛び出てったらまずいよ〜!!
 士郎が慌ててズボン履かなきゃならないだろ♪」
 
 ぷつっ!!
「投影開始…」

「し、士郎〜痛いってば、ちょっと!
 っ!あんた、何!?なんでアーチャーの剣なんか出して、
 あー、士郎君〜もしも〜し」

 衛宮士郎の戦いは、
 今始まったばかりだ!
 黒い悪魔には、負けない!

「凛との幸せ、セイバーの純粋なハートは俺が守る、守るんだぁぁぁ!」

 衛宮家は、戦場になろうとしていた。





 〜やっぱり、いいわけの後書き〜

  妙に、やっぱりキャラが立っている人はかってに話を伸ばしやがります。 
  次こそ先へ!
  すいません。

  唄子


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