終わりと始まりの丘 その7(傾:シリアス M:?


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1: オルガット (2004/03/16 19:44:09)[sktaguro at yahoo.co.jp]



夜が明ける。

 凛は昨日(正確には今日だが)話し合った通り、
学校に向かう凛に、護衛として憑いて行く。

 確認した通り、やはり結界は無かった。
まあ、学校の生徒に被害がでないのであれば、それは喜ぶべきことだろう。
 学校で優等生として演じる凛を見て、
 懐かしくて笑みがこぼれそうになったが我慢する。
 しっかし、昔の俺はこういう凛に憧れていたはずなのに、
本性を知ってしまうと、優等生を演じる凛は違和感がありすぎで怖い。

 そして、教室に入り、静かにHRの開始を待つ。

 朝のHRが始まる。俺は凛に付き纏っているのもなんなので、
 教室の外から、空を漂いながらボーっと教室を眺めている。

 懐かしい、目に映るもの全てが懐かしい。

 『俺』もこの校舎の何処かにいるはず、あいにく教室の場所は
 忘れてしまったので、探し出すのには時間が掛かりそうだが。
 探す理由も無いな、と思い苦笑する。

 ふと、凛の担任に目を向けると、そこには見覚えのある顔があった。

 名前は忘れたが顔は覚えている。キャスターのマスターである男だ。
 忘れていた、聖杯戦争で一番苦戦した相手は、他でもないキャスターだ。
 契約殺しの宝具を持ち、ルールを破りアサシンを召喚し、
 そして、セイバーをも自らのサーヴァントにした強敵だ。

 くそっ、ギルガメッシュの事ですっかり忘れていた。
 確か新都の方の事故もあいつの仕業だ。
 被害を食い止めるためにも、できれば今日倒しておきたい相手だ。
 本来ならマスターであるこの男を倒せばキャスターは現界できない
のだが、今、ここで仕掛けるわけにはいかない。
第一、今回も奴がマスターであるとは限らない。
 今夜にでもあの寺へ行ってみよう、寺の名前も忘れたが。

 HRが終わったのか、担任の男は教室から出て行ってしまう。
 あの男がマスターならば、俺は殺すのだろうか?
 心が揺れる、あの時は赤い騎士が殺した、それを俺が繰り返すのか?
 確かにあの男はキャスターの悪行を知ってして、止めなかった。
 
 いや、殺しはしない。凛に頼んで記憶をイジってもらえばいいだろう。

 さて、気持を切り替えて俺も授業を受けよう。
 懐かしいし。本来の目的から外れているが、まあいいだろう。

 二時限目が終わって音楽室から戻る途中。
 頼りない足取りで廊下を歩いている女生徒を見かけた。
 女生徒は何かの資料を運んでいるのか、見るからに大変そうだ。

 ――――って、あの女生徒、桜だよなあ。懐かしいな。

 倫敦へ渡ってからは、2年に1度日本へ戻る時しか会ってなかったしな。

 凛が桜の持っているプリントを半分持って同行する。
 俺も持ってあげたいが、姿を晒せない身なので我慢する。
 二人でなにやら話をしているが、俺には気になることがあった。

 凛が桜を助けたのは優等生を演じているからではなく、本心からの行動だ。
 けど、凛と桜ってそんなに仲が良かったっけ?
 知り合いだとは聞いたが、今の凛の行動を見てると、
友達同士といった関係ではなく、もっと深い関係である気がする。
 昔、なにかあったのだろうか?
 桜と凛から離れて、しばし思考に耽る。
 やめよう、あれこれ検索するのは失礼だ。
 二人を見ていると、邪魔は悪いと思ったので、先に教室に戻った。

 しばらくして、凛も教室に戻ってきたが、その顔はどこかうれしそうだった。

 英語の授業の時に藤ねぇと会ったが、俺の記憶と全然変わっていなかった。
 その姿に苦笑してしまって、凛に軽く注意されてしまった。

 そうして1日が終わる。

 夕暮れの中、次々と生徒が下校していく。
 凛も一度家に帰って、作戦を練るそうなので、それに憑いて行く。
 聡明な凛なら隣町で起きている事故が、キャスターの仕業と気づいているだろう。
 今回も起きているかは知らないが、キャスターが何かしでかす可能性は高いだろう。
 気づいているのなら、凛がそれを見過ごすわけがない。

 結局、柳洞寺に魔力が異常に集まっているため、今夜はそこを襲撃する事になった。
 あそこの結界や霊脈について、凛に話したからだろう。
 凛は偵察のつもりらしいが、俺は今夜キャスターを倒すつもりだ。
 あそこにいるのはアサシンとキャスター、俺が全力をだせば倒せない相手ではない。


 そうして、夜になるのを静かに待つ。
 時刻は午後8時。凛と柳洞寺へ向かう。
 キャスターは俺の対魔力があるから楽勝だろうと、凛が言うが。
 俺の本当のクラスは『アーチャー』で、対魔力はパラメーター化すると”D”だ。
 あのキャスター相手ではおそらく何の役にも立たないだろう。
 それでも、勝機があるから向かうのだが。
 それと、偽りのクラスを考え付いたことだし、戦いが終わったら
 本当は『セイバー』のクラスではない事を凛に告げよう。

 そうして柳洞寺へたどり着く。
 階段を一気に駆ける。凛が置き去りになっているが、
 周りにサーヴァントの気配は無いので気にしない。

 そして、門へたどり着く。

 ・・・おかしい、前回はアサシンが門番として召喚されていたはずだ。
 前回とは違うのはわかっているが、ここまで無反応だと逆に不安になる。
 思わずそこで足を止め、視力を強化して周囲を見渡す。

 そうしている内に凛が追いついてくる。
 目で非難してくるが気にせず門を潜る。
 境内の方にサーヴァントの気配を感じた。おそらくキャスターだろう。

 「凛、境内にサーヴァントがいる。準備はいいか?」
 俺の問いに無言で頷く凛。グラムを投影し、境内へ向かう。

 境内へ行くと、そこには群青色の侍。

 アサシンのサーヴァント、佐々木小次郎が優雅に立っていた。

 おかしい、何故キャスターがいない?
 いや、今は目の前の敵に集中するんだ。
 あいつと、正面から戦っても勝てないのはわかってる。
おそらく純粋な剣技のみなら、『アルトリア』を上回るだろう。
 無言でグラムを握る手に力を込める。

 「ふむ、客人か。だが何人たりとも我が主に近づけはせん」
 そう言って、優雅に間合いを詰めてくるアサシン。
 こちらは無言でグラムを構えなおし、意識を戦闘用に切り替える。

 「行くぞ!」

 そう言って、アサシンに斬りかかる。
 奴は長刀を弧を描くように振り、こちらの攻撃を防ぎ、
 返す刃でこちらの首を狙い斬りかかってくる。
 奴の刀はこちらの攻撃を受け流し、まさしくそれは柔の剣だ。
 そして、勢い良く斬りかかったものの、後は防戦一方だ。
 奴の弧を描く刀の軌道についていけず、かろうじで弾き、
 体制を整える間も無く、次の一撃が迫る。
 これを間一髪で弾くが、すぐさま返す刃の一撃が迫る。
 これを後ろに後退することで避けるが、アサシンは直ぐに
 間合いを詰め、追撃してくる。
 間合いを詰め、接近できれば奴の長刀は無力化できるが、
 今の俺の技量ではまともに近づく事さえできず、
 ただ剣舞に押され、後退を繰り返すだけである。

 何度目かの攻防が終わり、再び俺が後退する。
 アサシンは追撃せず、自然体に構えている。

 「ふむ、貴殿の得意とする武器は剣ではないハズだ。
  にも関わらず、剣で勝負を挑むとは、舐められたものだな」
 こいつ、見切ってるのか。
 確かに俺は剣で戦う者、担い手ではない。
 ランサーすら一応騙したが、見破られるとは。

 「出し惜しむのもいいが。構えよ、でなければ死ぬぞ、道化」

 そう言ってアサシンが構える。
 放つ技はおそらく、佐々木小次郎の必殺剣『つばめ返し』だろう。
 アレはゲイボルクとは違った意味で回避不能の技だ。
 あの構えをされたら、迂闊には近づけない。
 ならば、こちらも全力を持って応戦するのみ。

 投影を開始して、心の中で詠唱を唱える。

 ――――投影、開始
 ――――憑依経験、共感終了
 ――――工程完了。全投影、待機
 ロールアウト バレット クリア

 設計図は全部で21。投影は完了し、何時でも放てる。
 これだけあれば、如何にアサシンであろうと避けきれはしない。

 「秘剣・つばめ返し!」
 「―――停止解凍、全投影連続層写!!!」
  フリーズアウト、ソードバレルフルオープン!!!

 つばめ返しを迎撃し、アサシンを貫く、無数の剣の銃弾を放つその瞬間。

 「やめろーーーーーーー!!!」

 昔の、この時代の俺の声が聞こえた。

 
 あとがき
 
 ようやく原作におけるプロローグが終了。そして士郎も佐々木小次郎を従え無事参戦。
 次話から士郎視点による佐々木小次郎召喚の話になる予定です。
 誤字脱字の指摘や、感想をいただけると幸いです。


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