理想郷へ(1) M-セイバー(一応)  傾-シリアス


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1: ゆぐの〜 (2004/03/14 18:10:10)


【 Side 0 ―― Dream & Death 】

夢を見ていた、懐かしい夢、叶うことのない夢、忘れ去りたい過去の夢。
もはや、叶うことのない夢ばかりを見ている。
王だった私、戦い続けた私。
そして・・・一人の女として人を愛した私。



『いいのかい、その剣を抜けば、君はもうアルトリアではなくなる。
いや、人でさえなくなってしまうのだよ?』
遠い昔、私がまだ『アルトリア』だったころに、そう聞いてきた魔術師がいた。

『岩に刺さった名剣を抜いたものが、この国の王となる』

その剣を前にして魔術師は民衆に説いた。
「我こそはこの国の王と思うものは、試してみよ。」と、
けれど国中の勇士たちがいくらやっても抜けることのなかった。

私がその剣に手をかけようとしたときに、魔術師はそう聞いてきた。
魔術師は私に、未来を見せた、剣を抜いた後自分がどのような運命にあるのかを。

そして再度私に聞いてきた。
『本当にその剣を抜くのか』と、私はその問いに頷いた。
たとえ、自分が報われなくとも、この国を救いたかったから、迷わずに剣を抜いた。
剣を抜いてから、
王としていくつもの戦いを指揮し、先陣を切って戦い勝利を収め、
国を統治してきた。

しかし、幾たびもの戦を越えても、国に平和が訪れることはなく、私はいつしか伝説に語られる『聖杯』を求めるようになった。
伝承にいわく、『聖杯』を得たものは望みが叶うという。
聖杯を得れば
幾たびもの戦を越えてすら得られなかった平和を得ることができるかもしれないと考えていた。

「我が死後を約束する、ゆえに我に聖杯を与えよ。」
そして・・・私は世界と契約した。世界と契約するからには個人では行うことのできないことですら世界の力を借りることで行うことができるようになるものだ。
そして・・・その代償として死後は英霊として世界のために働き続ける。
だが、もとより国のために身を捨てた私には、国のために死後を約束することに抵抗はなかった。

でも、いくら時がたとうとも、いかな騎士を聖杯探しへ借り出そうとも
聖杯を得ることはできなかった。

そして、戦で私が国を空けたとき、私は――――国に裏切られた。
かつて自分の部下だったものたちを切り伏せながら自分の国へ帰った。
私を裏切ったものとの戦いで私は傷を負い、これ以上生きることが叶わない身となった。
『まだだ、まだ倒れるわけには行かない。私がふがいなかったから、私が王として相応しくなかったからこのような事態が起きたのだ。』
死に体の身体に喝を入れて意識をつなぐ。
『・・・・今一度、あの剣を抜く瞬間に戻り、王の選定をしなおせば、このようなことにはならないかもしれない。
・・・まだ、まだ死ねない。聖杯を・・・聖杯を、得なければ死ぬこともままならない。』
死に逝く身体、薄れゆく意識、そんな中、諦めきれない思いだけ募っていった。
そして・・・



『――――――かい?』
懐かしい声が聞こえる。

『―――――当に――ったのかい?』
私に、忠告を、助言を与え、今は湖の底にいるはずの人の声が、

『君は本当に、剣を抜いてよかったのかい?』
・・・わからない、でも私以外に相応しい人がいたとしたのなら、その人が剣を抜くのが待てばよかった。そうすれば国を滅ぼすことにならなかったのだから。

『聖杯を得たら、なにを望むつもりだったんだい?』
・・・国の平和だった。けれど今は・・・

『今はなにを望むんだい?』

剣を抜く瞬間に戻り、私よりも王に相応しい人にあの剣を・・・
あの剣を渡せれば・・・




【 Other Side 1 ―― Kiritugu Emiya 】

「キリツグ、此度の聖杯戦争を勝ち残って聖杯をわれらアイツベルンへ持って帰れば
貴様を我が一族として扱おう。」

アイツベルンの現当主であるクリストファー・フォン・アイツベルンは、自らの玉座に立ったまま
俺に確認の意味で命令をかけてきた。

「わかっている。それで、俺のサーヴァントはなにを使って呼び出すんだ。」

聖杯戦争において、優劣を決める要であるサーヴァント。
それを呼び出すにはサーヴァントとなる英霊との物理的因子が必要となる。
そのため、クリストファーがなにを起因とするかが気になった。

「そう急くな、しばらく待て。おいっ例の物を持ってこい。」

クリストファーはそばで控えていたメイドに何かを持ってくるように命じた。
メイドはしばらくして『鞘』を運んできた。

「この鞘はなんだ。鞘を宝具にしている英霊なんぞ聞いたことがないぞ。」

「『エクスカリバー』という剣を知っておるだろう。これはその剣の鞘だ。」

「アーサー王が所持していたという、傷を癒す鞘のことか?」

「そうだ、貴様にはそれを触媒として『アーサー王』をサーヴァントとして呼び出してもらう。」

奴は意見は許さんといった態度で俺に説明をした。

 アーサー王、どこの世界でもたいてい知られている英霊かつ、
彼の者が持つ聖剣は、『剣』は万物を裂き、『鞘』は傷を癒すという。
たしかに自らのサーヴァントとして最高のカードだろう。

「サーヴァントについてはわかったが、どこで呼び出せばいいんだ。
俺は工房を持っていないが、そちらが用意してくれるのか?」

「そちらのほうはすでに用意ができている、後は貴様の魔力が十分なときに呼び出してくれればけっこうだ。」

「そうか、ならば魔力のほうは十分だ。早速召喚の儀といこう。」

「うむ、ではついて来い。」

クリストファーはそう言うと玉座から立ち上がり玉座の奥の間へと去っていった。



玉座の奥の部屋には巨大な方陣が描かれていた。
そしてその周りには感情のないホムンクルスが数体設置されていた。

「あのホムンクルスは一体なんなんだ。」

「あれは主の魔力だけでは足りなかったときのための魔力の予備タンクだ。
あれを設置しておけば魔力が足りなくなるということはないだろうからな。
魔力切れで、英霊を呼べませんでしたなんぞ言われると―――」

奴の言葉を聞きながら、俺は方陣に近づく。

「では、今から召喚の儀にうつる。魔力に乱れが生じんように、クリストファーは入り口の近くへ移動しておけ。」

「いいだろう。」

奴が入り口のほうへ行ったのを確認し、自らの魔術回路をつなぐ。

『聖杯の導きに準じて我は乞う、汝は我が剣となり、我は汝を振るう腕とならん。
我が導きに応じるならば、汝は自らの鞘を標として我がもとに
汝は我が剣に、我は汝が腕に――――』
                  


 俺が詠唱を終わらせると、部屋の方陣の中心にそれはいた。

「汝が導きに応じて参上した、汝は私のマスターか?」
 
そう問いかけてくるのは、金髪碧眼で、似合わぬ銀のよろいを着込んだ美しい娘だった。

「・・・確かに私が貴様のマスターだ。だが、私は『アーサー王』を呼んだはずだ。
なぜ、君のような少女が現れるのだ?」

そう、俺はアーサー王を呼んだはずだ、だがそこに現れたのは娘であって王ではない、これは一体どういうことだ。

「私は紛れもなく『アーサー王』と呼ばれるものです、
あなた方の知る者と外見は異なるかもしれませんが・・・
私の言うことが信じてもらえないようなら
私も自らの宝具を開放して見せることで信じてもらいますが。」

少女はそう言い俺のほうをみすえる、
自身の宝具を解放するとまで言うのだからおそらくは本当のことを言っているのだろう。
しかし、彼の高名なアーサー王が少女だったとは・・・
一体誰が思いつこうか。

「どうなさいましたか、私は宝具を解放すればいいのでしょうか、マスター?」

「いや、その必要はない。君がそこまで言うのならば君は本当に彼の王なのであろう。
では改めて問おう。我とともに此度の聖杯戦争を切り抜けるか否かを。」

「知れたこと、私は聖杯を得るためにこの身を英霊としている。
聖杯戦争にでる意思がなければこの場には現れません。
もちろんあなたと契約を結びましょうマスター。」

少女は俺を見てそう答えた。

「では、我がサーヴァントよ。我が名は切嗣。汝は我が手に宿る令呪の縛りによって
我が従僕となる、異存はないな?」

「かまいません。私はあなたの剣となり盾となりましょう。」

「よし契約は完了した。ところで彼の王よ私は君の正体を隠すため、
君を役職で呼ぶつもりなのだが・・・君の役職はセイバーでいいな?」

「はい、私はセイバーのサーヴァントです。呼び方はマスターの自由にしてください、
ところで、私はマスターをなんと呼べばいいでしょうか。」

「呼び方など好きにしろ、それと君の鞘は私が持つぞ。」

俺が彼女の鞘を持つと言ったとたん彼女の顔が曇った。やはり自身の鞘を他者にもたれることには抵抗があるようだが、

「この鞘は持つものの傷を癒すのだろう?
ならば君のように丈夫なものが持っているよりも、私のような非力なものが持っていたほうが
此度の聖杯戦争で勝ち残れる率が上がるだろう。
ちがうか?」


「・・・承知しました。それでキリツグ、今後はどうするのですか?」
彼女は不承不承に承諾したようで、私に今後の方針を尋ねてきた。

「とりあえずすべてのマスターがそろうまでは私と君の合計魔力の残存量。
一度の戦闘で使える量、宝具の魔力使用量などを確認する。
そして、マスターがそろい、戦争が始まってから行動を開始する。」

私はそれだけを言うと方陣の部屋から立ち去るためクリストファーの立つ扉へむかった、

「キリツグ、用事のない間は私は霊体なりこの城の周辺にいますので、
用事があるときは呼んでください。」

そう言うとセイバーは霊体となり姿を消した。
たしかに、用事のない間は霊体となったほうが魔力を温存できる。

「キリツグよ、彼の王は呼び出せたのか?」

扉の向こうで待っていたクリストファーは俺に尋ねてくる。

「ああ、後はマスターがそろい戦争が始まるのを待つだけだ。
安心しろ、必ず聖杯は持って帰ってきてやるから。」

奴にそう言い残し、私は自分に当てられた客間へもどった。
                  


「キリツグさま・・・」

部屋へ帰る途中、一人の女が俺を呼び止めた。
本来なら決して他の魔術師の血と交わることがないアイツベルンの一族が
聖杯戦争の勝利と引き換えに俺に与えた褒賞、それこそがこの女との婚姻だった。

「一体なんのようだ。」

冷たく言い渡す、もとより愛などと言う俗物で結ばれたわけではなく、互いの利益のために交わることとなった関係ゆえに親しくする必要などもない・・・

「その、キリツグ様がもうすぐ聖杯戦争に行かれると聞きましたので、出てゆかれる前にお話をしようと思ったのですが・・・。」

だというのに、女は伏し目がちに俺を呼び止めた理由を話した。
愛などない婚姻の相手と一体なにを話したいと言うのだろうか、
こちらから話すことなどなく、聞きたいこともないと言うのに・・・

「・・・やはりお邪魔みたいですね。引き止めてしまってごめんなさい。」

「・・・気にするな、話したいことがあるなら私の部屋へ来い、そこでゆっくりと聞いてやる。」

俺もなにを考えているのだろうか、悲しそうに帰ってゆく女の横顔を見た瞬間、
自分の部屋でなら聞いてやるなど言って・・・

「ほんとうですか! その・・・お邪魔じゃないでしょうか・・・?」

「話しかけておいていまさらそのようなことを気にするな、さあ、私の部屋へ行こう。」

自分に反吐が出る、押し殺していた感情の一端を出してしまったのだから、自らの目的のために押し殺していた感情を・・・・

ЖЖЖ

「キリツグ様は・・・私との婚姻をどう思っています?」

「私と君の婚姻は聖杯の取引の代償としての意味を持つだけだろう?
だから君は俺のことを気にせずに自由にしてくれてかまわない。」

俺の答えたことに偽りはなく、本当の気持ちだった。
互いに取引でしかない婚姻で彼女の人生を奪う気にもなれない。
彼女が他に好いている者がいるならその者との交わりとて許す気でいた。

だが、彼女は俺の答えを聞くと悲しそうにうつむき、

「そう・・ですよね。私とキリツグ様は・・仮初めの夫婦にすぎませんものね・・・」

と呟いた。
彼女が一体なぜそんなことを呟くのか気にはなったが・・・
あえて問わないことにする。

俺が黙っていると、彼女のほうも話すことがないのか部屋には静寂が満ちる。

一体どれくらいの間、互いに黙り込んでいたのか、
突如、静寂を破って彼女が俺に話しかけてきた。

「キリツグ様・・・私に子ができていたら・・
キリツグ様は一体どうなさいますか・・・」

 ―――――彼女は今なんと行った? 彼女に子ができたらだと?
それは―――

「それは、私の子が君にできたと言うことか?」

「はい・・」

・・・彼女はそう言って俺のほうをみつめる。
俺の子を彼女が宿していたとしたら・・・

「少なくとも祝福はする・・・
けれどその子の親として、俺にしてあげることは・・・・
何もないだろう・・・。
 そして・・・君は本当に俺の子を宿しているのか?」

彼女に答え、かわりに問う

「はい、紛れもなく キリツグ様の子を宿しています。
でも、気にしなくてもけっこうです。私達は本当の夫婦ではないですから。
今日はこのことが言いたかったんです。
長い時間 居座ってご迷惑をおかけしました、
じゃあ、聖杯戦争のほうがんばってくださいね・・・」

彼女は軽く微笑んで俺の部屋から出て行こうとした。

・・・一体どうしてそのように笑える 
自分を愛していない男との間にできた子を宿しているのに笑えるんだ
 俺は彼女に何もしてあげることができず、挙句に子までつくってしまい・・・
目的のためとはいえ、これでいいのだろうか・・・

長い間一つの目的のために封じていた自己の感情が騒ぎ出した・・・
当の昔に押し隠していた、倫理観がうずきだした。

そして・・・無意識のうちに・・・立ち去ろうとしていた彼女を・・・
後ろから抱きしめた。

「!! キッ キリツグ様、なにを・・・」

「何も言わなくていい・・・いや、何も言わないでくれ。
ただ、もう少しだけお前を抱かせてくれ。」

「キリツグ様・・・・」

答える彼女の声は細く、抱きしめた彼女の体は小さく、暖かだった。

「今頃になって遅いかもしれないが、君は――私の妻だ、
私は君をいとしいと思う、ユリア・・・」

彼女を抱きしめたまま言う。偽りのない、本当の、魔術師としてでなく、
一人の人間としての気持ち、それを彼女――ユリアへ贈る。

ユリアが息を呑む声が聞こえる、それも当然だろう。
形式だけとはいえ、夫婦の仲となってからユリアを名で呼んだことなどなかったのだから。

「キリツグ様? その、私のことを名前で呼んでくれたんですか・・・」

彼女は俺を振り返り驚いたように俺を見つめ、その双眸に涙をあふれさせた。
私は彼女の涙をぬぐい、彼女の唇を自らの唇でふさいだ。
ただ触れるだけのキスをした。


「本当に私のことを愛してくださるのですか? その、私に子ができたから
だから仕方なし荷愛していると言うわけじゃないんですか?」

ユリアを抱きしめた後、ユリアは不安そうに俺に聞いてきた。
そんなユリアを見ながら俺は答えた。

「最初は責任を取るつもりではいた、だけど、ユリアの姿を見ていたら・・・
らしくもなく、抱きしめたくなった。
 今は責任がどうこうではなく、純粋に妻としてユリアを愛している。
遅すぎるかもしれないが・・・・」

「いいえ、私はキリツグ様に愛してもらえて、嬉しいです。
遅すぎてもいいです。
ただ、一つだけお願いがあります、聖杯戦争が始まるまでは私と
夫婦として過ごしてください。」

戦争が始まりまでおそらく一週間とないだろう、だがその間だけでも
本当の夫婦として過ごしてあげられるのなら―――

「ああ、夫婦として残りの時間を過ごそう。」

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作者の「ゆぐの〜」ともうします
この小説はいちおうセイバーをメインとして描くつもりですが
その過程として、キリツグの過去を描こうと思ったら・・・
予定より登場数が多くなってしまいました(滝汗)。

この小説内でのキリツグの性格がやたら柔らかいのは
私の脳内妄想です、本当はもっとひどい性格にしようと思ったのですが、
このような性格になりました。

また、文中に出てくる『クリストファー』やら『ユリア』と言う名は私が
歴史上の偉人やら物語の登場人物から引用したもので、勝手に決めてるものですのでお許しを。

次には、第4回聖杯戦争から5回戦争、そして現在までを描く予定です。
第4回聖杯戦争の部分では、音に聞く征服王をしっかり登場させるつもりです。

最後になりましたがへたれな文章を読んでくれた方ありがとうございま。
ご意見・感想などをくれると励みなります。

ではまた、次のお話で。
 
                       ゆぐの〜


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