Re.聖杯戦争 


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1: あるとす (2004/03/14 11:16:36)



「なぁティア、やっぱやめるべきだと思うんだが」
 と、友人は唐突にそんな事を言ってきた。
「どうして?」
「いやどうしても何も・・・そんな事のために人生を振るう必要ねぇだろ」
 彼は荷造りをする私を見ながらため息をつく。反論しようと彼の方を向いたがその目が本当にこちらを心配してる感じがあったので、やめた。
 友人の言う事には一理ある。確かにこんな事をするよりもっと人生を楽しんだほうが自分のためにも、そして家族のためにもずっといい。
 それでも私はやらなければならないのだ。言葉にはせず視線を荷物へと向け、荷造りを再開する。
 その様子を見て友人は再びため息をついた。
「まぁその程度で止まるとは思ってないけど、まぁ聞け」
「聞いてるわ」
「OK、んじゃ話すぞ」
 恐らくいっきに話すつもりなのだろう。友人は一度、大きく息を吸った。
「お前がそれをするのに至った理由は知ってる、多分俺でもそうするわな、だからこそ言って置きたい。その先には何もねぇぞ、満足感も達成感もない、自分すら満足できない結果しかでねぇんだ。ついでいうと自分の命を散らしてまでっていうのは愚問だ。んなの誰も喜ばない。お前が死んだら俺は悲しい」
 そういって友人はこちらの反応を見る。
 私はただ淡々と荷物をまとめながら、
「わかってるわ」
 と、答えた。
「そんな事わかってる。何もないことも、喜ばない事も、全部わかってる」
 本当はわかっていない。
「でも私にはこれしかないの、満足感も達成感も何もいらない。ただこれをしなければ私の気がすまないの」
 そう、気がすまない。
「本当に全て終えたとき、私の気が晴れてるわけじゃない」
 ただ、そうしないと。
「私が、私を許せないもの」

 その言葉に友人が息を飲む気配がした。驚いてるのだろうか、飽きれているのだろうか。
 しかし友人は驚いても飽きれてもいなかった。
「・・・そうか、お前自身がお前自身を許せないなら、それしかないのかもしれないな」
 酷く優しく、共感したような言い方で友人は呟いた。
 多少それに驚いて荷造りしていた手を止め、友人の方を見る。

 友人は泣いていた。

「誰に許されるでもない、誰に救われるでもない。お前が、それをしないとお前が壊れちまうんだな。他の奴等がそう思っていなくても、お前自身が自分を”咎人”と認定しちまってんだな」
 目を瞬かせ目尻にたまった涙を落とし、服の袖で拭いながら友人は続ける。
「お前が作った咎を許せるのはお前で、でもそんなのは許せるわけじゃなくて・・・自己満足でもなんでもない、お前がそれをやらなきゃいけねぇって思っちまってんだな」
「そう、だから私は行くの」

 最後に。両親から貰った魔力の篭った髪飾りをつける。
 荷造りは終わった、友人の話も終わった、ならばもうやることは一つしかない。
「たまには連絡くれよな」
「気が向いたらね」
 そう答えて私は荷物を持つ。わかっている。私も友人も、もう会うことが出来ないと。
 だから私は振り向いて、精一杯の笑顔を浮かべる。
「それじゃあ行ってくるわ、帰ってきたらお茶でもしましょう」
 最後は少し涙声になってしまったかもしれない。私はすぐに友人から目を離し身体を反転させる。
 友人は声をかけない、言うべき事は言ったのだろう。私も、言えることは全て言ったと思ってる。

 涙はもう出ない。目指す地はただ一つ。
 日本にある冬木町。そこであの男が待っている。


 あの日、私は全てを失った。
 そして私の全てを手に入れた。














 復讐のためにこの身は在るという意味を、私は手に入れた。





















       ――Re.聖杯戦争
                遠野 志貴の場合




















 吐く息が少し白い。
 旅行と称してやってきた冬木の町は他の町に比べて少し寒い気がした。

 俺、遠野 志貴は大学の長期の休みを利用して旅行をしている。
 アルクェイドや先輩や翡翠に琥珀さん、そして秋葉を何とか説得して行っている旅行である。
 「志貴についてく〜」とか「このアーパー吸血鬼と二人きりにするわけにはいきません!」とか「志貴様は無茶しがちです。お体に気をつけないと・・・」とか「体調管理が出来ない人が旅行なんかしちゃ駄目です!」とか「旅行に行くなら皆で行けばよいじゃないですか!!」といった言葉をなんとか振り切ってやってきた旅行である。いや、本当に疲れた。
 長期の休みを一杯使って旅行する。
 それは大学に入ってから何度も思っていた事である。しかし大学に入ってからの三年間、アルクェイドや先輩、秋葉により妨害により旅行なんて事はする事が出来なかった。
 しかし四年目、いい加減最後なんだから好きにやらせてくれ、というのが効いたのか、皆何とか納得してくれた。
 それなら旅行の理由は何ですか、と聞いてくる秋葉に「たまにはぶらぶらしてみたいんだ」を貫き通した自分は偉いと思う、うん、拍手。
 本当の理由なんていったら、きっと秋葉は止めると思っていた。


「志貴、貴方長くないわよ」


 いつだったかはもう深く思い出せない。
 でも覚えているのは先生と交わした最後の会話だ。

 先生に言われてはっきりとしたのは、余命が少ないという事。いつ死んだっておかしくはないという事だ。
 自分でもなんとなくわかってはいたが、先生の一言ではっきりした。
 その生涯で悔いだけは残したくなかった。否、悔いなんて死ぬ間際になれば何個も浮き上がってくるし、正直死にたくなんてない。
 でも、この旅行だけはしておきたかった。

 荷物を抱えて再び息を吐く。白い息は一瞬舞ってからすぐに消えた。
 よし、と意気込みをいれてから俺は後ろを振り返り彼女に声をかけた。
「それじゃ行こうか、琥珀さん」
「はいっ」
 そして、俺の後ろにいた大切な人――琥珀さんの手を握り、冬木の町を歩き始めた。



 五年前。有間に預けられていた俺は、遠野家当主の入れ替わりによって元の家――要するに遠野邸へと引っ越す事となった。
 その八年前に俺は大事故に合い、生死の彷徨う状態から蘇生。しかしそのせいで身体が弱くなり、頻繁に貧血を起こすようになった俺は遠野の家から有間の家に預けられるようになった。というのが表の話である。
 実際は複雑な事情があった。俺は遠野の人間ではなく今は滅びた”七夜”という退魔の家柄の人間らしい。
 遠野の家はその七夜を滅ぼし、その時の遠野家当主が気まぐれで俺を養子にしたそうだ。その意図はいまだわからない。
 そして養子になって暫くたったある日、俺は本当の遠野の子である四季によって殺された。
 殺されたのになんで生きてるんだ、という事を説明したらキリがないのでこの際説明は省こう。
 ――そしてその日から、俺の目には世界の死が見えるようになった。
 なぞればそれは”概念”や”意味”の死を迎える。アルクェイドとかが言うには、これは直死の魔眼というトンデモない代物だそうだ。
 事故の後病院に入院していた俺は病院を抜けだした先で”先生”に出会った。
 彼女は俺に魔眼殺しの眼鏡を渡してくれた。それをつけていると世界の死が見えなくなるというもので、俺は彼女に魔法使いみたいだ、と言った。そう、彼女は魔法使いだったのだ。

 眼鏡を渡して先生は何処かに行ってしまい、再会するのはその八年後だった。



「志貴さん?」
 と、考え事をしていると前から声がかかってきた。
 場所はカフェテリア。俺と琥珀さんは結構歩いて疲れたので、少し休もうという事でカフェにてまったりと紅茶を飲んでいるところだ。
「・・・えと、何かな。琥珀さん」
「もう、やっぱり聞いてないじゃないですか」
 ぷりぷりと怒り始める琥珀さん。赤い髪に白のリボン、そして整った顔立ちに琥珀色の目、黒いタートルネックが異様に似合っている。
「ごめん、ちょっと考え事してた」
 謝ってから軽く息を吐いて、再び物思いに耽る。
 そんな様子を見て琥珀さんは一回呆れてから、
「でもいいです、志貴さんのその表情、私好きですから」
 なんて事を言って、最上級の笑顔を浮かべてくれた。



 屋敷に戻ってからは色々と大変な目にあった。
 忘れてはいけない彼女の事。二十七祖と呼ばれる吸血鬼と殺しあった事。秋葉の事、自分の事、翡翠、琥珀さんの事、そして四季の事。
 最後に、俺と琥珀さんの事。

 俺は琥珀さんに白いリボンを返して、彼女と生きる事を決めた。
 琥珀さんもそれに頷いてくれて、俺達は遠野の屋敷で静かに暮らしている――いや、静かではないかも。
 そんな中で琥珀さんは一旦使用人をやめ、あるものを見つけてくれた。
 ――七夜の屋敷。
 記憶の奥底にあった森。自分の部屋。幼少の頃に得た記憶。
 俺と琥珀さんはたまにこの七夜の屋敷を訪れて、二人だけで寝泊りしている。
 その家の中で琥珀さんは、俺の事を「七夜 志貴」と呼ぶ。だから俺も「七夜 琥珀」と彼女の名前を呼んでいる。
 夫婦みたいですね、と彼女は言って、夫婦になるんだろ?と俺は平然と言った。
 赤くなる琥珀さんが可愛くて、俺達はそれなりに幸せに過ごしていたりする。



 そんな中でこの旅行。俺は二人だけの思い出というものを作っておきたかった。
 琥珀さんと行く、と言うと秋葉は大反対。なんとか落ち着かせて、俺と琥珀さんは旅行に出発した。
 もう既に数箇所の町を巡っていて、今日、俺達は今冬木町へと到着した。
「今日はここで一泊かな」
「そうですね、最近移動ばっかりでちょっと疲れちゃいました」
 舌を出しながら琥珀さんは控えめに笑う。俺もそれにつられて少し笑って、席を立った。
「それじゃあ宿を探そうか」
「はい」
 その言葉に琥珀さんも立ち上がり、伝票を持ってカウンターへと歩いてく。
「俺が出すよ」
「いえ志貴さん、ここは私が・・・」
「いや、その台詞は普通男の人がするもんだと思うけど」

 お金を支払って外へ出る。
 少し風が肌寒くて、左手が寂しかったので琥珀さんの右手を握る。
 彼女はすぐにその手を握り返して、二人して冬木の町をブラブラと散策しつつホテルを探す事にした。
「安いところがいいですよね」
「旅費限られてるからね・・・秋葉もケチだよな」

 新都の方を歩いているとホテルはすぐに見つかった。部屋を一つとって荷物を置き、二人で外へと出る。
 軽く新都を歩いてから、冬木大橋を渡って深山町の方へ行ってみることにした。
 深山町は住宅街があるそうで、和・洋館が多くあるらしい。ちなみに行く理由は、
「ちょっと見てみたいですね」
 という琥珀さんの一言が決め手である。
「え?いいんですか?」
「いいのいいの、俺もここら辺あんまり知らないし、どうせなら行ってみたい場所に行くべきでしょう」

 で、深山町。
 ざっと歩いてみる。柳洞寺を参拝してから商店街を抜け、住宅街へと向かう。
「しかしマウント深山商店街・・・って、凄い名前だね」
「マウントって一体どんな意味なんでしょうね?」
「うーん・・・なんだろう」

 そして住宅街に到着した。色々と寄り道したので、空はもう茜色に染まっている。
「あんまり周れないかもね」
「でも住宅街を見る、というのも少し変ですよね」
 なんて会話をしながら二人で歩く。
 と、目の前に純和風の家が見えた。入り口を大漁の人が出入りし隣にある家に何かを運んでいる。運んでいるものは・・・黄色い、黒の模様が入った大小様々の人形である。
「・・・なんでしょう、あれ」
「・・・さあ?」
 とりあえず見なかったことにして、俺達は一旦ホテルへ戻る事にした。




「結構広かったですね〜」
「そうだね」
 夜の新都。
 人の絶えぬ町中を歩きながらホテルへと向かう。
 空には白く輝く月。その光は町を淡く照らしていた。
 ゆっくりと歩きながら琥珀さんと取り留めのない話をする。
「明日は何処まで行こうか」
「たまには一つの町で三日くらいのんびりしませんか?」
「うん?いいねそれ。それじゃあ明後日くらいまでこの町にいようか」
「あはは、志貴さん、別にここでなくてもいいですよ」
「と、そうだね」
 クスクスと二人して笑いあう。幸せだな、と自然に思える会話に頬が緩む。自分が最も好きな人と、知らない町を二人きりで話しながら歩く。
 それがどうしようもないくらい楽しくて、悲しい。
 表情に出ていたのだろうか、会話はそこからはたと止まってしまった。


「志貴さん」
 数分歩いてから琥珀さんが声をかけてきた。
 足を止めて琥珀さんの目を見る。彼女も立ち止まり、俺の目を見ている。
 その表情はとても悲しそうで、見ているのが少し辛かった。
「志貴さん」
 もう一度俺の名前を呼ぶ。
「何?琥珀さん」
 笑顔を浮かべて答える。それでも琥珀さんの表情は変わらない。
 少し間をおいてから、琥珀さんは意を決して、
「志貴さん、もしかしたら―――」
 そこで、言葉が途切れた。


「そこにいるのは、誰だ?」


 誰もいないはずの路地裏。
 そこから香る血の匂いに向かって、俺は冷たい声をかけた。




 それが、遠野 志貴を聖杯戦争へと巻き込む引き金となるという事を知らずに。




       ――――聖杯戦争まで、あと一日。







    ――後書きらしきもの――
はい、二話目・・・というか二つ目です。
前回「聖杯戦争まであと三日」って書いたのにもう一日じゃねぇかー。
理由はあります、別に書き間違えじゃないです。

適当な敵キャラがいないので、苦肉の策でオリジナルキャラを出したのですが・・・
よくよく考えるとナイアさんがいるんですよね、失敗しました(汗
今回は志貴の出番だったので、次回は九郎が出てきます。
一通りやったら今度こそ聖杯戦争スタートです。始まるまでが長いですね(ぁ
では、また次回で会いましょう。


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