Fate / Sword & Sword 次雰后Дロスオーバー)


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1: ベイル(ヴェイル) (2004/03/13 10:14:15)[veill at arida-net.ne.jp]

 朝焼けの中、深山町の丘の頂上付近に建てられた洋館を眺め見て、四人の男女が静かに足を進めていた。
「なんつーか、いっちゃ悪いがお化け屋敷だな」
「当然、結界は張られているでしょうね」
 一人──九郎の呟きに、既に鎧姿となったセイバーが頷いた。その隣で無言のライダーが佇み、三人の前に立つ士郎が、振り返りながら言葉を放つ。
「二手に分かれよう。ライダーはマスターの気配が探れるだろ? ライダーともう一人で慎二を探し出して、その間、俺ともう一人が囮になる」
「陽動作戦というわけですね。では、シロウと私でその役を引き受けましょう」
 士郎の提案に、セイバーが我が意を得たりとばかりに微笑した。彼の剣となり戦うことが彼女の誓いである。しかし──、
「いや、囮の方は俺が引き受ける」
 セイバーの言葉に割り込んでそう言ったのは、大十字九郎であった。
「派手に暴れる方が向いてるしな。コソコソするのは性に合わねえ」
「そんな……」
「いえ、適任かも知れません」
 言いかけたセイバーを遮り、淡々とした口調でライダーが呟く。
「考えてみなさい、セイバー。現状を鑑みるに、今のアナタよりは彼の方が陽動に向いている」
「ッ──」
 断言されて、セイバーは思わず唇を噛んだ。
 陽動作戦では、いうまでもなく囮役の方が危険度が高い。故に、本来ならこちらにサーヴァントを投入すべきなのだが、現時点で最強の札であるライダーは慎二の探索のために不可欠。セイバーは聖杯との繋がりがないため本来の力を発揮できないでいる。ならば──一度はサーヴァントとも渡り合ったというこの男に士郎を任せた方が、成功の可能性は高くなるかもしれない。
「……分かりました。では、シロウを頼みます、クロウ」
「ああ、任せとけ」
 そう言って、九郎はきっぱりと頷いてみせた。




Fate / Sword & Sword




 玄関の呼び鈴を鳴らす。扉に手をかける。鍵がかかっていてノブがまわらなかった──蹴破る。
 一連の行動を一瞬の停滞もなくやってのけ、大十字九郎と衛宮士郎は間桐家に足を踏み入れた。
「たのもー、ってか」
 そう言ったのは、九郎。片手に魔書を、片手に大振りな偃月刀を握り、軽口とは対称的に油断ない視線で周囲を警戒している。対して、間取りを知っている士郎はその前に立ち、無言で玄関ホールを見渡した。
 深山町で最も巨大な洋館だけあって、ホールだけでもかなりの広さがあった。以前士郎が聞いた話では、この館は建築の際、建物の大部分を外国から直接運んできたらしい。それでも間桐の血が魔術回路を失っていったというのだから、よほど日本の土があわなかったのだろう。
「やれやれ、何とも騒がしい客人だの」
 と、不意に二人に向けて放たれたその声は、いつの間にかホールの奥に現れていた妖人のものであった。
 酸でも浴びたかのような深い皺だらけの顔、血の気のない青ざめた肌、一体どれほどの年月を経たのか、まるで内側に腐敗を抱え込んだような怪老人の姿は、紛う事なき間桐臓硯である。
「ほう、衛宮の小倅に、ミスカトニックの魔術師か。して、何の用かの?」
 問いかける怪老人の声は、言葉ほど驚いていなかった。まるで、二人がここを訪れることをあらかじめ知っていたかのように。
「間桐臓硯──慎二を渡してもらう」
 真っ直ぐに老人をにらみ据えながら、士郎ははっきりと言い放った。
「これは異な事を……慎二は確かに出来は悪いが、儂のかわいい孫じゃ。渡せといわれてものぅ」
「あの二人はもう聖杯戦争にかかわるべきじゃない。アンタが何を企んでいようと知ったことじゃないが、桜と慎二はウチで預かる!」
「力尽くででもな」
 士郎の言葉に頷いたのは、九郎である。元より、二人の役目はライダー達が慎二を助け出すまでの時間稼ぎだ。この家の主である間桐臓硯が直接出てきたのは幸運だった。彼をここに釘付けにしておければ、サーヴァント達の仕事がやりやすくなる。
「ふむ、それは困ったの」
 などと、臓硯はにやにや笑いながら言ってのけた。
「どうしたものか、儂のアサシンはお主にやられた傷が癒えておらんし、不肖の孫はライダーを逃がしてしまいよった。やれやれ、これではマキリに兵がおらぬことになるわ」
 そう言って、怪老人はカッカッカと笑う。そして──、
「兵がおらぬなら、借りるしかないわな」
 次の瞬間、老人の背後に横たわった闇の中から、同じ闇色の美女が姿を現していた。
「「!」」
 頭上に冠を戴いた、裸に近い衣装の黒い女──その姿は士郎に、そして九郎にも見覚えがある。
「キャスター!?」
 驚愕のあまり叫んだのは、士郎の方だった。
 そう、そこにいたのは紛うことなく──教会の前で士郎達を待ち伏せ、竜牙兵と黒いセイバーを呼びだして何処かへ消え去った──正体不明のサーヴァント、キャスターであったのだ。





「セイバー、上辺をどう繕おうと、この家は間違いなく魔術師の家です。気を抜かぬように」
「いわれるまでもない。そちらこそ油断せぬことだ、ライダー」
 互いに一瞥しあって言葉を交わし、二人のサーヴァントは、二階の窓から間桐家の内部へと侵入していた。
 士郎達と別れ裏庭にまわった二人は、そこから二階の窓へと音も立てずに跳躍したのだ。サーヴァントである二人にとって、この程度の芸当はできて当然のことだった。
「それよりライダー、シンジの気配は」
「こちらです、セイバー」
 セイバーの問いに答え、間桐家の廊下を奥へと歩き出すライダー。セイバーは知るよしもないことだったが、その先には間桐慎二の部屋がある。ライダーのマスターの気配は、間違いなくその部屋から放たれていた。
「どうやら、マスターは自分の部屋にいるらしい」
 そのことをライダーが伝えると、セイバーは途端に眉をひそめ、
「まさか──シンジは監禁されているのでは」
「監禁というよりは、軟禁でしょう。マキリ臓硯という魔術師は紛う事なき“化物”ですが、歪ながら孫のことを──無論、彼なりに、でしょうが──大切にしているようでしたから」
 そう言って、不意にライダーは立ち止まる。向かって右側のドアが、間桐慎二の部屋だった。
 セイバーが周囲を警戒し、ライダーがドアノブに手をかける。ここは敵地だ。たとえ馬が合わない二人でも、生きて帰るためには協力しあうのが当然だった。ライダーがノブを回すと、数ミリもまわらぬ内に硬い音が鳴る。
「やはり鍵がかかっている」
「魔術がらみのものか?ライダー」
「いえ、ただの鍵です。シンジは魔術師ではないから、これで十分だと思ったのでしょう」
 と、セイバーの問いに答えるやいなや、ライダーは表情一つ動かさずに手首をひねった。ガギン──という高い音が響いて、ドアノブが完全にまわりきる。
「壊したのか、敵に気付かれるぞ」
「その前にシンジを連れて脱出すれば済むこと。幸い、私の宝具は脱出に向いている。いざとなれば──」
 いいながらドアを押し開け、室内に踏み入るライダー。続いてセイバーが中にはいると、そこには椅子に腰掛け──ライダーの予想通り、縛られもせず軟禁されていたらしい──ていた慎二が、どこか呆然とした表情で二人を振り返っていた。
「ラ、ライダー?」
「シンジ、助けに来ました」
 淡々と言い放ち、早足で慎二に駆け寄るライダー。だが、慎二は──
「ッ──来るな、馬鹿!」
「な──」
 その言葉に、セイバーは唖然と、ライダーは相変わらずの無表情で足を止めた。
「シンジ、どういう意味ですか」
「言葉通りだ馬鹿! 祖父さん達はおまえ等が来るのを待ってたんだ!おまえ等は自分から罠に飛び込んだんだぞ!」
「それなら心配ない。シロウ達が囮になってくれている」
 激昂する慎二に、直立不動のまま答えるセイバー。彼女らとてその程度のこと、予想していなかったわけではない。
「違うッ!」
 しかし、それでも慎二はかんしゃくを起こすように首を振り、肩を震わせながら声を荒げた。
「二手に分かれようが意味ないんだ! あいつらは、おまえらの行動をあらかじめ全部知ってるんだから!」
「──!」
 その瞬間、

「さて、どうするかね?」

 セイバーの背後から部屋に入ってきた男の言葉に、二人のサーヴァントは、愕然と振り返った。





「投影、開始<トレース・オン>」
 詠唱とともに幻想を紡ぎ、士郎の両手に黒白の双剣が顕現する。
 ロビーの中央で奥を向いた彼の前には、無数の竜牙兵がわらわらと湧いて出ていた。
「バルザイの偃月刀!」
 片手に魔書、片手に偃月刀を携えて、大十字九郎は構えをとる。
 士郎と背中合わせに玄関側を向いた彼の眼前で、見慣れた──しかしおぞましさには慣れることがない──半漁人「深き者」どもの群がぞろぞろと押し入ってきた。
「なんて数……」
「冗談きついぜ、ったく」
 既に、ロビーの中は竜牙兵と半漁人に埋め尽くされている。彼らは士郎と九郎を遠巻きに包囲し、少しずつじりじり距離を詰めてきていた。それをロビーの奥から眺めているのは、黒い女サーヴァントキャスターと、怪老人間桐臓硯だ。
「では、ここは任せるぞ、キャスター」
「ええ、魔術師殿は奥でお待ちを」
 臓硯の言葉にキャスターが頷くと、老人はどこか満足げに笑みをたたえ、その場で踵を返してみせた。痩せ細った小さい背中が、間桐邸の闇の中へと消えていく。
「ッ! 待て!」
「貴方達の相手は用意してあるわ。せっかく“うつした”のだから、よそ見は無礼よ」
 咄嗟に追おうとした士郎に、キャスターの笑みを含んだ声がかかる。同時に、包囲網の中から飛び出した竜牙兵が二体、完全に統率のとれた動きで襲いかかってきた。
「ッ!」
 ゴーレムの得物は太刀。士郎は咄嗟に双剣で受け、流しながら竜牙兵を斬り捨てる。しかし、その隙に三体目の竜牙兵が、味方の残骸を踏み越えて太刀を振るってきた。双剣を振り切った姿勢の士郎は防御できず、後退するしか──
「衛宮!動くな!」
「!」
 次の瞬間、即座に動きを止めた士郎の背後から、漆黒の偃月刀が竜牙兵の頭部目がけて突き出された。刀身は、士郎の顔の真横を通り過ぎている。
「悪い、大十字。助かった」
「気にすんな、即席だろうが何だろうが、今は相棒だろ」
 あっさりとそう言い放ち、大十字九郎は逆手に持った偃月刀を順手に持ち替えた。同時に、反対側の腕で抱えていた魔書を掲げ、詠唱する。

「無銘祭祀書<ネームレス・カルツ>よ、我が威力となれ!」

 瞬間、バラバラになったページが虚空を舞い、九郎の体に寄り集って漆黒のマントへと変化した。
「形式選択:魔術衣装<マギウス>──認証式<パスワード>“我は神意なり(I am Providence)”」
 バサリ──とマントを翻すその姿は、威風堂々と敵を睥睨していた。
 彼の者は【魔書の王】。七つの魔導書を従え、ただ一冊の大いなる書を伴侶とするミスカトニックの魔術師なり。
「行くぜ、衛宮!」
「ああ!」
 頷きあい、九郎と士郎は同時に眼前の敵へと斬りかかる。竜牙兵が前に出るのとともに、半漁人の群も一斉に動き出していた。
「ふふ、投影魔術に魔術衣装<マギウス・スタイル>──どちらも真っ当な魔術師には見られない術法よね」
 そう言って笑ったのは、キャスターである。しかし、二人ともそんな言葉に耳を傾けている暇はなかった。
 竜牙兵の刀が空を切り、その首を士郎の干将と莫耶が切り落とす。深きものどもが伸ばす爪を紙一重でかわした九郎は、黒い偃月刀で魚面を真っ二つにした。
「衛宮──!」
 次の瞬間──不意に身をひねった九郎が、竜牙兵と斬り結んだ士郎の背中目がけて偃月刀を振り上げる。
「頭下げろ!」
 言葉と同時に士郎の頭が下がる。その頭上を偃月刀が通り過ぎ、竜牙兵の頭部を粉砕した。
「大十字!」
「任せた!」
 同時に、竜牙兵の太刀から逃れた士郎が身を翻し、九郎とすれ違って背後の半漁人に干将莫耶を突き立てる。
 ──九郎に斬られた竜牙兵が崩れ落ちるのと、士郎に刺された半漁人が倒れるのは、ほぼ同時であった。
「……へぇ」
「案外、うまくいくな」
 意外そうに呟いたのは、何と九郎と士郎の二人である。
 竜牙兵と半漁人はまだロビーいっぱいに残っている。その全てが、同士討ちすら恐れずに二人目がけて詰め寄ってきた。ゴーレムの剣が振るわれ、半漁人の爪が伸びる。しかし──!
「はっ!」
「りゃあッ!」
 右から竜牙兵の槍が迫れば士郎は左に避け、九郎が右に動いてバルザイの偃月刀を一閃する。逆に九郎が右へかわせば、士郎は左側の敵を双剣で斬りつけた。
 回避に、攻撃に、二人の戦士はめまぐるしく動き回り立ち回っているというのに、互いが互いを背にするというポジションだけは、一瞬たりとて揺るがない。
「フゥゥゥゥ──!」
「るぅぅぅぅぅ!」
 恐れない竜牙兵の部隊、止まらない深きモノどもの群。だが、どれだけ数が多かろうと、士郎と九郎に恐れはなかった。そんなものを感じる必要はない。雪崩の如く押し寄せる敵の波は、ただ切り払い打ち倒すのみ。
 二人の魔術師は、まるで舞うように数多の敵と斬り結び始めた。






「アナタは──」
「アンブローズ=デクスターか!」
 愕然と振り返った二人のサーヴァントは、ほぼ同時に跳びすさり武器を取り出した。ライダーの手には鎖で繋がれた釘。セイバーの手には、その姿を隠された不可視の剣。
 その視線の先に立つのは、不気味なほど黒く日焼けした長身痩躯の男性──アンブローズ=デクスターである。
「慌ただしい客人だな。もっとも、家主に挨拶もない来訪者を客とは呼ばんか」
 などと呟きながら、デクスターは大仰に肩をすくめてみせた。サーヴァント二体を前にしながら、その立ち振る舞いから余裕がなくなることはない。
「デクスター、覚悟!」
 瞬間、迷うことなく不可視の剣を振り下ろしたのは、セイバーであった。
 本来の力を出せないとはいえセイバーもサーヴァントである。その一撃は人間など容易く両断し、たとえ魔術を使おうともその効果より早く斬りつける自信があった。だが──!
『────』
 まさか──デクスターの背後から伸びた錫杖が、セイバーの剣を受け止めるなどとは。
「!、貴様は……」
「セイバー、下がりなさい!」
 驚愕の表情を浮かべるセイバーに、背後からライダーの声が届く。言われるまでもなく、セイバーは咄嗟に間合いを離していた。
 デクスターの背後──その影から突如として姿を現したのは、全身を奇妙な衣装で覆い、冠を戴いて錫杖を掲げた漆黒の男であった。
「サーヴァント!」
 サーヴァントはサーヴァントを感知する。セイバーとライダーには、その男の気配を感じた瞬間に彼がサーヴァントであることが分かっていた。考えるまでもなく、そのマスターはデクスターであろう。
「気が早いな、まったく。私のサーヴァントは戦闘向きではないのだ、少しは手加減をしてくれたまえ」
 などと、飄々と言ってのけるデクスター。その姿をかばうようにサーヴァントは錫杖を構え、表情のまるでない貌でセイバー、ライダーと睨み合う。
「……なぜだ」
 ぽつり、と呟いたのは、セイバーであった。
「なぜ、今の太刀筋を見切れた。力が落ちているとはいえ、我が剣閃、そこまで甘くはない」
「太刀筋を見切ったのではない。そこの少年が言っていただろう? ただ──君がいつ、どこを狙って斬りかかってくるかが“あらかじめ分かっていた”というだけなのだよ」
「な──!」
 セイバーの目が驚きに見開かれる。同時に、慎二をかばうように立つライダーの頬にも一筋の汗が流れた。
 二人とも歴戦の英霊だ。この瞬間、同時に敵の正体に思い至ったのである。
「そうか、アナタは……」
「未来予知の技能を持つクラス──予言者<リーダー>のサーヴァントか!」
 叫びに、デクスターが笑みを浮かべたまま頷いた。同時に──、
『────』
 閃いた錫杖が、何とセイバーに向かって振り下ろされる。
「クッ……!」
 咄嗟に剣で受け、無表情なサーヴァントを睨み付けるセイバー。しかし、敵──リーダーは眉一つ動かさず、無言でその視線を受け流した。
 セイバーとリーダーで鍔迫り合い……本来なら一瞬で片が付くはずの愚行だ。しかし、今のセイバーは聖杯との繋がりを持たぬ使い魔であり、その本来の力は失われていた。

 そして──それはライダーも同じこと。

「セイバー!」
「おっと、君は動かない方がいい、ライダー」
 助けに動こうとしたライダーを押しとどめたのは、何と、無造作に佇むデクスターであった。
「この狭い部屋の中で、君や私まで戦闘に参加するのは得策ではないと思わないか。特に、君のマスターにとっては」
「!」
 魔術師の言葉に、思わず動きを止めるライダー。彼女の真後ろには慎二がいた。
 デクスターも、マスターである以上は魔術師のはずだ。ここで戦ってもライダーが敗れるとは思わないが、もしデクスターの魔術が凛のもののように広範囲を攻撃する類のものであった場合、慎二まで巻き込まれる可能性がある。
 肩越しに振り向くと、慎二は悔しげに唇を噛んでいた。
「そういうことだ。何、我々としてはとりあえずセイバーを確保したいのでね。彼女を残していってくれるなら、君には帰ってもらってもかまわないのだが?」
「な……」
 ライダーとセイバーが、同時に声をもらす。それはつまり、
「私に、セイバーを裏切れというのですか、デクスター」
「まさか。そもそもサーヴァント同士は元より敵対者ではないのかね? 最初から敵対している者を、どうやって裏切るというのだ?」
 いともあっさりと答えながら、デクスターはその口元に笑みを浮かべてみせる。一見して悪意の欠片もないような微笑み──しかし、その実は悪意しかあり得ない。
 だが──その瞬間、

「……セイバー、僕の“令呪”を破壊しろ!」

 その叫びは、何と慎二の口から放たれたものであった。
「シンジ!?」
「早くしろ!」
「ッ!」
 切羽詰まった──しかし、決して自棄でも狂気でもない慎二の叫びに、セイバーは半ば直感で頷いていた。同時に彼女はリーダーを蹴りはがし、即座に身を翻して剣を振り下ろす。不可視の刃は、一撃で机ごと「本」を両断していた。
『!』
 その意味を知っているのか、リーダーが息を呑む音が聞こえた。そして──!

「……マスターからの魔力供給が途絶。“本来の”マスターにラインを繋ぎ直します」

 淡々とした言葉が、ライダーの口から紡ぎ出された。
「ライダー?」
「ッ、しまった!」
 唖然としたセイバーの声に、重なるデクスターの罵り。その瞬間、ライダーの気配が先刻までとは比べものにならぬほど強大なものとなったのが、二人には分かったのだ。
「リーダー! 退くぞ!」
 デクスターの叫びとともに、彼の腕から令呪が一つ消え去った。同時に、錫杖を持った黒いサーヴァントの姿は、まるで幻のようにかき消える。
 同時に、ライダーは慎二とセイバーに手を伸ばし、何と自らの武器で首筋に傷を付けたではないか。

<ペルレ──
「騎英の──

 刹那、ライダーの手が二人を捕まえ、有無を言わさず彼女のそばに引き寄せる。

 ──フォーン>
 ──手綱!」

 次の瞬間、間桐邸の壁をぶち破って、一筋の彗星が天へ登った。








「む──ッ!」
 突如、屋敷を襲った凄まじい震動は、当然のことながら一階のロビーにも伝わっていた。
「これは……」
「宝具を使ったのか」
 突然の事態に混乱するキャスターに対し、前聖杯戦争経験者である士郎は一瞬で状況を理解していた。セイバーは今、宝具を使える状態にないのだから、おそらくライダーが脱出のために宝具を使ったのだろう。
「作戦成功だ! 大十字!退こう!」
「分かった!」
 士郎の指示に即座に頷き、九郎は身を翻して玄関側の敵──半漁人「深きもの」どもの群を切り払った。漆黒の偃月刀が一振りされるたびに、無数の深きものどもが両断されていく。化物達の壁に無理矢理穴を開けた九郎は、そこから玄関の外へ躍り出た。
 その背中に続いて、士郎もまた間桐邸の玄関から飛び出す。そして、
「投影、開始<トレース・オン>」
 士郎の手から双剣がかき消え、代わりに漆黒の弓が現れる。
「──我が骨子は捻れ狂う(I am the bone of my sword)」
 そこにつがえられるのは矢ではなく、奇妙に捻れた一振りの魔剣!

「偽・螺旋剣<カラドボルグ>!」

 解き放たれた魔剣は間桐家の玄関からロビーへ飛び込み、次の瞬間、轟音とともに小規模な爆発を起こした。




 ──そうして、士郎達は誰一人欠けることなく、間桐の屋敷を脱出したのである。


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