聖杯はきみへの・・・11 傾;シリアス


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1: non (2004/03/12 20:26:21)[nonn at poppy.ocn.ne.jp]

聖杯はきみへの・・・11









「その左腕の正体には、もう見当がついた。」

セイバーをかばうように前に出ながらアーチャーが言う。


「ほう、聞かせてもらえるかの?」


「受肉されたヘラクレスの腕だ。
他の宝具を無効化できるほど神性を持つものは限られる。」


「どうやってそんな物を受肉させたんだ?」


そんなもの呼び出せるなら魔法レベルだ。


「・・・人の血肉を代償にしたのだろう。
もっともどんな秘術を使ったのかは知らんがな。」


その言葉を聞いた老人は満足そうに頷いた。


「そのとおりじゃ弓兵よ、使えぬゴミから利用価値のあるものを作り上げる。
まさに魔術だとは思わんか?」







「死ね、外道。」


その言葉を合図にアーチャーが弾丸のごとくバーサーカーに切りかかる。



「無茶です、シロウ! あなたにはもう魔力がほとんど残っていない!」



アーチャーの一撃ごとにバーサーカーの体が後退する。

新たに削り出す剣はすべて必殺。

存在は代償。

消え行く体が起こす最後の奇跡。

「シロウ・・・」







剣を作らなければならない。

神剣、聖剣、魔剣を凌駕し、

全てをなぎ払う絶対的な剣を、





「契約しよう、わが死後を預ける。その報酬を貰い受けたい。」






「ちょっと、士郎何言ってるのよ!」




作る者は作る物に全てを、

だから俺は剣を、


「現在、過去、未来において一振りの剣の存在を許可してほしい。」


世界の矛盾を含んだ剣は世界に
許可されてもその矛盾を内包する。


故にその剣に切れぬものなどなく、


俺の死後程度でつりあいがとれるものでもない。





でも俺は理解していた。

すでにあの剣は存在していた。

そう、契約はすでに成立していたのだ。

あとはあの剣を呼ぶだけでいい。








打ち合ったせいで、また剣が消えた。

右手にカリバーンを投影し、左手にアヴァロンを投影する。

ズタズタになった体は驚くほど魔力を通し、

この神懸かり的な投影を可能にしていた。


「剣の準備はできたか衛宮士郎?」


「待たせたなアーチャー、でもこれで終わりだ。」



「再会を確約された無限幻想の剣(アンリミテッド・ファンタズムブレード)」



それは金色の輝きで、その剣があげた産声だった。


防ごうとしたバーサーカーは左腕ごと蒸発し、老人は消滅した。


意識を失いそうになったら、駆け寄ってきた遠坂に支えられた。






投影していた剣と鞘を手から離す。


「俺の役目は終わってしまったな・・・」

バーサーカーがいた方向を見ながらアーチャーが言う。



後ろにはうつむいたセイバー、
伝えたい事は山ほどある、
でも時間はそんなに残ってないみたいだ。


「いいかいセイバー、幸せにならなくちゃダメだ。
誰よりも君が幸せにならなくちゃ嘘だ。」


「シロウ・・・、でも私はシロウを守れなかった・・・。」


「そんなこと気にしなくたっていいんだ。
こんな姿になったって、今でも俺の一番大切な所に君がいる。」


「セイバー、愛してる。」


存在は希薄でもこの心にある気持ちは嘘じゃない。


「シロウ!! 待ってください、また私のそばから離れてしまうのですか!!」


ああ、彼女の泣き出しそうな顔を止められるのなら
世界と契約したっていい、でももう俺は差し出す物を持っていないんだ。


「ごめん・・・」


アーチャーの存在は掻き消えた。
限界を超えた宝具の使用、
誰にも止められなかった。


最後に聞こえたのはセイバーの泣き声だった。



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微妙に切ない11話でした。アーチャー退場。
いつかきっとセイバーを捕まえられる日がくると思います。



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