夜の一族


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1: ぐまー (2004/03/12 17:14:43)




「ぅ、・・・・・・ここは。」

体のあちこちが痛む。
自分は確か伽藍の堂から逃げて、その途中にアイツが追っかけてきて、それから・・・・・・
体を起こそうとしたが手足を縛られていて思うように動けない。
幸い松明があって暗くはないので辺りの様子は伺える。
辺りはごつごつした岩肌で洞窟のような所だ。

「気がついたかい?」

声がした方に目をやる。
そこには、

「君はあの時の・・・・・・」

鮮花が連れてきた子だ。
これでも物覚えはいい方なので一度自己紹介された人なら忘れない。
間違いなく目の前の相手はあの時会った七夜志由だ。

「君の師匠は中々の相手だったよ。 けど所詮はあの程度。 僕の敵じゃない。」

「どうしてこんなことをするんだ。」

「人をさらってくる理由なんて二つくらいしかないだろう? 一つはその人自身に恨みがある場合。 もう一つは・・・」

「人質だろ。」

「その通り。 君は大事な大事な人質なんだ。」

「一体何のための?」

「そうだね、エースを倒す為にキングを動かさなきゃならなくてね。 その為の餌さ。」

「キング?」

「そう、二人の内の片方を動かす為の撒き餌さ。」

「・・・・・・・・・! まさか式を?」

「そう、君は両儀式を動かすための人質さ。 こうでもしないと両儀式は動かないからね。」

「君は一体誰なんだ。」

「僕は暗夜さ。 霊長の唯一絶対の存在。」

「君が暗夜だって? それじゃあ君が式に襲い掛かったっていう・・・。 一体何が目的なんだ。」

「ふふふ、世界を正すことさ。」

「世界を・・・正す?」

「これ以上は知らなくていいよ。 君にはもう少しここにいてもらう。 もう一人のキングを動かすためのクイーンがまだ手元にないんでね。」

その直後に後頭部に衝撃が走り意識は闇の中に落ちていった。





「はぁ〜あ、暇ね〜。」

ソファの上でゴロゴロと寝転がりながらアルクェイドが言った。

「何言ってんですか、アルクェイド。 暇ということは平和ということでしょう。 それに越したことはありません。」

対して私はソファの前で腰に手を当てアルクェイドを見下ろして言った。

「そうだけどさぁ〜、暇なんだもん。」

「全く弛んでますね。 もっと緊張感を持って欲しいものですね。」

「だって今からそんなに気張ってたら気疲れしちゃうわよ。」

「はぁ、貴方と話している方が気疲れします。」

「な〜んか、眠くなってきちゃった。」

「このアーパー吸血鬼が! いい加減にしなさい!」

「なによ〜、いいじゃない別に。 非常事態じゃ・・・!?」

ドゴンッ

と、すさまじい音がした。

「 !?」

「どうやら非常事態みたいね。」

そう言いながら立ち上がるアルクェイドは先程までとは別人のようだ。

「そのようですね。 ここの結界には認識させない効果もあると聞いていますがどうして位置がばれたんでしょうね。」

「妹は何処にいるの?」

「自室のはずです。」

「行くわよ。」

「ええ。 琥珀さん、翡翠さんと一緒に隠れていてください。」

「はい。」

パタパタと琥珀さんが居間を後にしたのを確認してから居間を後にする。
秋葉さんの自室へ向かおうと居間から出たら調度七頭目の人たちと鉢合わせした。

「気がつきましたか。」

「ああ、こんだけどでかい気配だ。 気づかない方がおかしいだろ。」

「敵の目的は遠野秋葉だ、・・・急ごう。」

秋葉さんの部屋は東館の二階の一番奥。
階段を駆け上った所で気付いた。
誰か足りないような気がする。
琥珀さんと翡翠さんは先程非難させた。
じゃあ一体・・・・・・!?
ああ、そうだ。
志由君がいない。

「貴方たち、志由君を見ませんでしたか?」

「ん? そういやいないな。 でも今はそんな事を言ってる場合じゃないぞ。」

「そうね。 敵の狙いが妹だからまず妹の方を優先しましょう。」

そう言ってアルクェイドは歩調を速めた。
仕方なくそれに続く。
長い廊下を少し行ったところで異変に気付いた。

「何かいるぞ。」

「油断するな。」

長い廊下の先は闇に包まれている。
だがヒシヒシとその異常なまでの気配が伝わってくる。
いや、この気配はもはや気配というよりは殺気に近い。
しかも生半可な量じゃない。
これではアルクェイドといい勝負だ。
アルクェイドに目をやると真剣そのもので一部の隙もない。

コツ、コツ、コツ、

廊下の奥から何かが近づいてくる。

コツコツ、コツコツ、コツコツ、

近づいてくる足音は一つではなく複数だ。
今日は新月の為月明かりが無く辺りは何時にも増して暗い。
だが廊下の先はその闇よりも更に濃い闇に包まれている。

コツコツコツ、コツコツコツ、コツコツコツ、

「来るぞ。」

廊下の先の闇から現れたのは三人の明らかに“人でないもの”だった。
一人は右肩と胸に灰色のプロテクターを着けていて、その下は和服だ。
上は緑で、下は藍色の袴をはいている。
髪は短く切り込んでおり緑の瞳をしていた。
もう一人は灰色の着流しの上から一枚羽織を羽織っているだけだった。
髪は後ろで一つに纏めてはいるが腰まではありそうだ。
最後の一人は一言で言うなら和風ネロ・カオスと言ったところか。
青い和服の上から更に濃い青の羽織を羽織っている。
髪は短く刈っており眼には光というものが無い。

「お前らが七頭目か。」

「だとしたら。」

「ならばお前らをここから先に通すわけにはいかんな。」

「そうかい、それじゃあ仕方ない。 力づくで通るだけだ。」

「貴様らごときにそれが出来るか?」

「試してみるか。」

「無駄だと思うけどな〜。」

「アラ、すごい余裕ね。 事が終わった後にその余裕が残っているといいわね。」

「真祖の姫か。 なるほど、・・・確かにお前の相手は易々とは行かんな。」

「ここで暴れたら屋敷が壊れます。 表に出ましょう。」

「いいだろう。」

プロテクターを着けている男が左手を壁にかざした。

ズゴンッ

ガラガラと音を立てて壁が崩壊していく。

「表でケリを付けるのだろう?」

「ああ、行くぜ。」

御鏡さんが壁の穴から外に出た。
続いて青い和服の男が外に出た。

「さっ、順番順番。 君たちの番だよ。」

「よかろう。」

巫浄さんが外に出る。
続いて浅神君が外に出る。
その後に草薙さんが外に出る。

「それじゃあ先に出てるね。」

着流しの男が外に出る。

「アルクェイド、奴らが向こうから来たということは・・・」

「妹はもう四人目に拉致されてるでしょうね。」

「最速で片付けます。」

壁の穴から外に出る。
以外にも先に出ていた人たちはまだ戦っておらず対峙していた。
後からアルクェイドとプロテクターの男が降りてきた。

「一応名乗っておこう。 我は九蛇。 暗夜に従いし七神の長だ。」

「初めまして、僕は鬼呑子。 御鏡さんと巫浄さんと浅上君はお久しぶりだけどね。」

「知り合いですか?」

「いえ、一人は違いますけど二人は俺らがここに来る途中襲ってきた奴らです。」

「我が名は鈴丸だ。 ・・・・・・さて、始めるとしよう。」

「でも人数が合ってないよ?」

「いや、これで調度いい。」

「なんで〜?」

「6対3なら2・1で釣り合うだろう。」

「あ、そっか。 なるほど。」

「えらく余裕ですね。 後悔しますよ。」

「貴様らごときでは無理だ。」

「シエル、私は九蛇ってやつの相手をするわ。」

「解かりました、援護します。」

「さてさて、巫浄さん? あの時のケリ付けようか。」

「俺も調度そう思っていた所だ。」

「援護します。」

「頼む、草薙。」

「ということは我の相手は貴様らか。」

「霊魔、頼むぞ。」

「はい。」

殺気が渦巻いていく。
何時弾けてもおかしくない。

「土送」

突如地面が揺らいで沈んでいく。
すぐさま地面を蹴ってその場から離脱する。
どうやら先程のを皮切りに始まったようだ。
アルクェイドはもう九蛇の所にいて爪で連撃を繰り出している。
対する九蛇は何処から出したのか三メーターはありそうな槍でそれらを全て捌いている。
普通槍は接近戦には向かず、中・遠距離戦用の武器だ。
しかも三メートルもの槍を振り回すなんて狂気の沙汰だ。
だがそれを物ともせず九蛇はアルクェイドの連撃を捌いている。
口で言うのは簡単だがアルクェイドの爪の速さは残像しか残らないほど速い。
黒鍵を両手に構えて九蛇めがけて投げつける。
だがアルクェイドの爪と一緒に難なく捌かれた。

「それなら。」

姿勢を地面ギリギリまで低くして距離を詰める。
一度敵を通り過ぎて左足を付いてすぐに逆方向に飛ぶ。
完全に背後を取った。

「セブンッ!」

呼び声に呼応するように第七聖典が現れる。
一瞬で九蛇に狙いを定め第七聖典の引き金を引く。

ズバン

と、大きな音を立てて第七聖典が射出される。
前方はアルクェイドの爪。
後方は第七聖典。
上空に逃げてもいいように第二射をすぐに構える。
だが九蛇はかわすでもなく捌くわけでもなくただ無造作に体を捻って左手をこちらに向ける。
驚くべきことに九蛇は第七聖典を左手一本で受け止めた。
更に右手だけでアルクェイドの爪を受け止めた。

「そんな。」

アルクェイドは少しだけ表情を曇らせ、尚も連撃を繰り出す。
さすがにこれには驚いた。
まさかアルクェイドの攻撃と私の攻撃を同時に受けれるなんて。

「たかだか八百年かそこらしか生きていない貴様ごとにき我を打ち倒すのは不可能だ。」

九蛇はそのまま右手を振り下ろしてアルクェイドを吹き飛ばした。
そしてその勢いを殺さずこちらに槍を振るってきた。
慌てて後ろに跳んでそれをかわす。
だがその考えは浅はかだった。
振り下ろされた槍は地面に当たり地面が弾けた。
その勢いで後ろに吹き飛ばされる。
空中で体勢を立て直そうとした時には九蛇はもう目の前にいた。

「一度は人外となった身であろうと所詮は人間。 その程度では話にならん。」

右手を引いていて次の瞬間には槍を突き出してくる。
今の自分にそれをかわす術はない。
ロアが死んだ今、不死ではない自分がこれをもらえば生きてはいないだろう。
何の抵抗も出来ない。
黒鍵を取ろうにも服の中に手を入れている余裕はない。
かと言って第七聖典では間に合わない。
蹴りを繰り出すにもこの体勢では大した威力にはならない。
正に八方塞だ。
どうしようかと思案した時、ガキンと音を立てて九蛇の体が左の方に吹き飛ばされた。
無理矢理体を着地させて態勢を立て直す。
見ればそこにはアルクェイドが立っていた。

「しっかりしなさい、シエル。 気を抜くとあっという間に殺されるわよ。」

「アルクェイド、一先ず礼を言っときます。」

とは言ったものの、アルクェイドを吹き飛ばすほどの力を持った相手にどう挑めて言うのだ。

「シエル、少しの間アイツの相手お願い。」

「それはいいですがそう長くは持ちませんよ。」

「十秒あればいいわ。」

「解かりました。」

九蛇に向き直る。

「何をしようと貴様らごときでは相手にならん。」

「試してみますか?」

「無駄だ。」

黒鍵を両手にそれぞれ三本ずつ持って一息で襲い掛かる。
右手を上から振り下ろし左手は下から振り上げる。
それらを苦も無くやり一本で捌かれる。
更に蹴りまで貰って少し後ろに飛ばされる。
両手に持った黒鍵を投げて反撃するがもうそこに九蛇の姿はなかった。

「どこに、・・・」

「ここだ。」

後ろから声が聞こえた。
コイツはどこまでデタラメなんだろう。
こんなのいくらなんでも反則だ。
アルクェイドの存在が反則だから成り立ってしまうのかもしれないけど。

「いっけぇぇぇぇぇ。」

背筋が冷やりとした時アルクェイドの準備が整ったらしく何とか助かった。
地上から何本もの鎖が出てきて九蛇を拘束していく。

「む、空想具現化か。」

「まだまだ。 どいてなさい、シエル。」

突然九蛇のほうから突風が吹き出した。
よく見ると突風が吹いているのではなく、空気が押し出されているのだ。
アルクェイドは重力の塊を発生させて九蛇を押しつぶそうとしている。
だが、

「さすがは真祖の王族、空想具現化の威力も他の真祖とは比べ物にならないか。 だが吸血衝動を抑え込んでいるお前に我を打ち倒すことはできん。」

信じられないことに九蛇は空想具現化で出来た重力の塊を押し返している。
本当に頭が痛くなります。
どこまでデタラメなんですか。
アルクェイドでも倒せない相手をどうしろっていうんですか。
そんな愚痴をこぼしたくなった。
だが愚痴をこぼした所で打開策が見つかるとも思えない。

「ハッ。」

九蛇は気合一発で空想具現化を吹き飛ばしてしまった。

「気は済んだか? ならば余興は終わりだ。 気にすることはない、すぐに皆後を追わせてやる。」

「アルクェイド、遺書でも残しておきますか?」

「生憎そんなもの書く気はさらさら無いし、そんな暇くれないでしょう。」

「それもそうですね。 最後ですし派手に行きますか。」

「覚悟は決まったか。 思い残す事ももうあるまい、消えるがいい。」

最後の悪あがきをしようとした時突然九蛇が止まった。

「もういいぞ、行くぞ。」

何処からかそんな声が聞こえてきた。




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