いぬみみせいばー でーとへんぁ複諭Цぜセイバー 傾:ほのぼの)


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1: てぃし (2004/03/10 23:31:26)

前回までのあらすじ
 セイバーに犬耳と尻尾が生えました。
 ただいまデート中です。




「なあ、やっぱりここじゃないと駄目か?」

「はい、当然です」

セイバーは、ごく自然に頷いた。

その尻尾は存分に振られ、これから行く場所がこの上なく楽しみであることを示していた。

エレベーターの階数表示を見る目もワクワクしてる。

「……頼むのは2人前だけ、だよな?」

「――――シロウ?」

にっこり。

極上の笑みだった。

そして、また前を向く。

頼む、セイバー、そこで言葉を止めないでくれ。まるで、「言うまでも無いことでしょう?」と言われた気がするじゃないか。

「な、なあ、セイバー。そりゃ今日は金を余分に持って来てるさ、でも、限度ってものがある。こんな高さと値段が比例してるような場所、普通のコース料理でも幾らになるか……」

「そういえば」

ふと、思い出した。

そんな感じでセイバーは喋った。

「とある私の知り合いなのですが、なんでもデート中に街中で身体中をさわられた挙句に、ラブホテルに連れて行かれそうになり、遊びのフリスビーでは凶器を投げつけられ、終いには目の前でたった一つしかない好物を遠慮なく食べてしまう人がいたそうです。シロウ、そのような者をどう思いますか?」

「……ゴメンなさい」

俺は謝るしかなかった。

「いえ、私も理解してくれて嬉しい」

セイバーは楽しそうだった。

まあ、そうだろうな。

納得だ。

おそらく冬木市で一番高いレストラン。それがこれから行く場所なんだから。

「はあ」

ちなみに、高いのは階数も値段も格式もだ。






Fate/stay night ss

いぬみみせいばー でーとへん

てぃし






「いらっしゃいませ」

丁寧に撫で付けられた髪、パリッとしたスーツが高級感を醸し出していた。

なによりもそのウェイターの物腰が、この職をただの『仕事』ではなく、誇りをもって行う『天職』なのだと語っていた。

こういう人は見ていて気持ちがいい。

だからこそ、その人が「おや?」って顔をしたのは心苦しかった。

そりゃ、こんなところじゃ仕方無いだろう。むしろ、普段着で来てる俺たちが悪い。

特に俺なんかジーパンにトレーナーだ。

ノーネクタイどころの騒ぎじゃない。

(このまま門前払いなんだろうなあ)

俺は心中で覚悟した。

なにせ冬木市で、もっとも格式高いレストランなのだ。

だけど、ウェイターさんは、なにか微笑ましいものを見るような目をした後、あらためて「いらっしゃいませ」とおじぎした。

俺も慌てて頭を下げる。

「あの、いいんですか?」

かなり意外だった俺は、そっと尋ねた。

ウェイターさんは、にこりと微笑み。

「はい、構いません」

当たり前のように言った。

おお、思ったよりも敷居は低いのか?

案内されながら、そのフランクな様子に戸惑いと安堵を覚えた。

簡単に言えば、ホッとしてたんだ。

でも、店内に入ったとたん、その認識は吹き飛んだ。

「セ、セイバー」

「はい」

「シャンデリアがある……」

「そうですね」

「天井、とんでもなく高いぞ。うわ、樹まで入ってる!?」

セイバーは、それが当然といった様子だった。

窓際のテーブルに案内される時も、椅子を引いてくれる時も、サービス業特有の控えめな笑顔を向けられる時も、彼女の方はごく平静な顔で、適切な対応をしてた。

一方の俺は、完全に気圧された。

雰囲気もそうだが、サービスされることに対して、どうしても申し訳ない気持ちが先立つのだ。

「そ、それぐらい俺がやりますから!」と言いそうになる。

シュークリームを奪ったお詫びの意味も込め、セイバーに昼飯の場所を選んでもらったんだけど、これは大失敗だったかもしれない。

ほんと、こういう時こそ、「セイバーって王様だったんだ」と納得ができる。

動作の一つにも気品が溢れ、似合ってないどころか、この店をより高級に思わせた。

「あの、お客様?」

「え! はい!」

「なんでしょう」

突然の声に慌てる俺と違って、セイバーは実に淡々としてた。

「帽子は、こちらでお預かりします」

丁寧な物腰で言ってくる。なんだ、そんなことか……

って、帽子を預かる!?

ここで犬耳を出す!?

それはヤバイ。

マズすぎる。

「か、かぶったまま、というわけにはいかないんですか?」

「すみません、この店のルールですので」

ウェイターである自分には変えられないと、申し訳なさそうに告げてきた。

ヤバ、ここを出ようか?

いやでも、ここで出たら逆に怪しまれるか?

どうやったら脱出できる!?

俺が混乱の極みにある中、

セイバーの冷静な声が聞えた。

「そうですね、『郷に入っては郷に従え』とも言います。失礼しました」

おい!?

「いえ、こちらこそ申し訳ありません。失礼ですが日本語が上手でいらっしゃいますね」

「ええ、キリツグから、ああ、私のパートナー・シロウの父君ですが、その方から教えてもらいました」

なんかほのぼのとした空気を醸し出してるが、ちょっと待って欲しい。

「セイバー!」

そりゃ、尻尾は注意すれば隠せるけど、耳の方は完璧に不可能だろ!

どうやったって見える!

俺は小声で呼びかけるが、セイバーはそれに気がつかなかった。

ウェイターさんの要望に応えて帽子をぬぎ、

「どうぞ」

渡した。

「……………………………………はイっ」

ウェイターさんは、しばらくの間フリーズしてた。

笑顔のまま凍りついてた。

無理も無い。

声も裏返っていたけど、それも仕方の無いことだ。

事務的な確認事項――飲み物やアレルギーの有無――を尋ねたことこそ驚嘆に値するだろう。

「? シロウ、食前酒は要らないのですよね?」

「あ、うん」

半分現実逃避をしていた俺に、セイバーが微妙にズレた心配をしてくれた。

「この国ではアルコールに年齢制限があるのですね、面白いです」

「……あ、ああ、俺たちが飲むと、急性アルコール中毒になりやすいって話だな」

「私の時は水代わりだったのですが」

残念なのか嘆息してた。

犬耳もペタンと下がってる。

しっかし、いいのか? なんか色々と。

帽子を持ったまま、ある一点を見つつ後ろに下がるウェイターさん。

口だけは笑顔で、目だけが「え、ネタ? トリック? ドッキリ?」と疑いのまなざしを向けていた。

周囲の客も その異様な行動に注目し出し、そのまま、その視線の先を追っていた。

交通整理並のテンポの良さで、どんどん注目が集まる。

セイバーは、まったくそれに頓着してなかった。

膝をそろえ、上品に座ってる。

その物腰だけ見れば、どこの令嬢だと言われても納得できただろう。

―――ある一点を除いては、なんだけど。

「なあ、セイバー」

「はい」

窓の景色を興味深く見てるセイバーに、顔を寄せた。

「ちょっとコッチ」

手招きして、セイバーにも顔を寄せてもらう。

「はい?」

その耳に俺は囁いた。

「その、マズくないか?」

「なんのことです?」

「犬耳の事だよ! 堂々と見せてどうすんだよ! ウェイターさんも呆然としてたぞ」

「そのことですか」

む、何故だがセイバーは冷静だ。

「心配はいりません。このようなものは髪飾りとして似たようなものが売っている。なので、向こうが勝手に偽物と判断してくれます」

自信満々だ。

えっへん、どんなもんだいって感じだ。

「セイバー、それはかなり無理があると思うぞ」

「? なぜです?」

「当たり前だよ。そりゃ確かに、髪飾りでそんなものもあるさ」

「はい」

「でも…」

っと、ウェイターさんがまた来た。

俺は喋るのを中断し、半分上がっていた腰を元に戻した。

メニューを、精一杯の冷静さを装ったウェイターさんが渡してくる。上座にいる俺の方からだ。

開いたままのメニューを見てみる。

……日本語が書いていなかった。

せめて、フリガナぐらい欲しかった。もっと言えば日本語訳も。

セイバーがウェイターさんに、なにか質問をしていた。

……日本語を使ってない。

せめて、通訳が欲しかった。

しばらく疎外感を味わう会話が目の前で繰り広げられた。

「あ、なので、どれにしましょうか? シロウ」

セイバーが、ハッと気がついたように言った。

「あ、う、うん」

頷くのがやっとだ。

俺にそれ以外の作業は無理だ。

ちょっとだけ自分が嫌になる。

ウェイターさんが俺の方へと近づいてきた。

注文を聞くためだろう。

その姿は、今の俺にとってバーサーカー以上の威圧感を与えてた。

歩くたびに轟音をさせてるのは、本当に俺だけの気のせいだろうか。

「……」

だけど、セイバーはテーブル下から俺の手を握り。

「?」

「……」

俺の手に『1』と書いてきた。

「お客さま?」

「あ、はい」

俺は慌ててメニューのページをめくる。

やがて、一番最初のページに戻った時。

「……」

とん、っと合図が送られた。

えーと、つまり、さっきの『1』はページ数を現していたのか。

次にセイバーは『3』と書いた。

彼女自身は、興味深そうに窓の外に顔を向けている。

でも、たまに目だけがこちらを向いた。

目線と、その手だけでどのメニューを注文したらいいか教えてくれていた。

最初のページ、上から3番目。もっとも安いコースだ。

確認を求めるウェイターさんに、俺はメニューを指し示して「このコースを2人分」と言おうとして。

「っ!」

「お客様?」

「いえ、やっぱり、3人――いっ!」

俺は目の前のセイバーを睨む。

知らん顔で窓の外を見ていた、けれど、並々ならぬプレッシャーを感じる。

オーラのようなものが、禍々しく湧き出ていた。

彼女は抓っていた指を離し、俺の手に『5』とだけ書いてきた。

「マジで!?」

「あの……?」

「あ、すいません」

うー、予算的に厳しいな。

微妙な力加減で、セイバーが手を握ってきた。

「だめですか?」っていう意味なんだろう。

はあ、まあ楽しみにしてたみたいだしなあ。

「5人分で」

決意を込めて言う。

「畏まりました、以上でよろしいですか?」

「はい」

セイバーの方を見た。

―――すっごい嬉しそうだ。

椅子が微妙に揺れてるのは、やっぱり、尻尾を押さえてるからだろう。

「セイバー……」

「シロウ、ありがとう」

くそう、そんな笑顔されたら、文句も言えないじゃないか。

テーブル下の手を、少し握ってから離す。

横ではウェイターさんがメニューを回収してた。

ウェイターさんは、俺たちの様子に、さらに訝しげな視線を向けていた。

まあ、無理も無いんだろうなあ。

だからなんだろう、回収し終わった後もウェイターさんはその場を立ち去らず、大きく息をすいこんで。

「………あの、失礼ですが、少々ご質問したいことがございます」

と尋ねてきた。

やば。

セイバーは意外そうにウェイターへ振り返った。

店中の視聴率が、ここだけ急激に上がる。

よし、ついに聞くのか! って雰囲気だ。

誰も彼もがこっちを興味津々で見てた。

「はい?」

「そ、その、お客様の頭に付いているものですが……」

「これですか?」

手で示した。

「ええ」

「髪飾りです」

「え?」

「髪飾り、です。まさか、これまで取らなければいけない、ということはないでしょう?」

「は、はい、で、ですが本当に、でしょうか?」

「無論です、他にどのように見えますか?」

いや、セイバー。

そう胸を張りながら答えても、犬耳が上でぴこぴこ動いてるんだが……



  ◆◇◆



その後、俺たち、正確にはセイバーは、周囲のお客、ウェイター、ウェイトレス、顔を覗かせてたシェフ、パティシエ、オーナーからの注目を浴びながら食事した。

はじめは好奇の視線だったのが、セイバーの犬耳のあまりに正直な動きに、だんだんと様
子が変わってきた。

子羊のローストを食べた瞬間、犬耳がビクぅっっっっっ! と起き上がりながら震え、その後も、一口ごとに嬉しそうに動くのだ。美味しいと百回絶叫するよりも、説得力があるだろう。

ちなみにこの間、セイバーはまったくの無表情。

せいぜい、コクコクと頷く程度。

視線が微笑ましいものに変わっていくのは、ある意味当然だった。

隣の老婦人からは直接フォークでデザートを分けてもらい、シェフからは新作を試食して欲しいと頼まれ、パティシエからは一番反応の大きかったデザートが黙っててもテーブルに来た。

その上、結構なサービスまでしてもらった。

5人分を2人分の料金にまで下げてくれたのだ。

これは嬉しい。

俺は金銭的に嬉しいが、セイバーは極楽そのものって顔をしてた。


――――とはいえ、ここからが問題だ。

この店はいい店だったし、働いてる人たちも良い人ばかりだった。

けれど、釘は刺しておかなければいけないだろう。

『完全に隠し通しました』と思い込んでるのは、店内ではセイバーだけなのだから。

最悪の場合、遠坂に頼み込んで、記憶操作をしてもらわなきゃいけない。

俺は店の入り口で、セイバーをヘッドロックしながら大声で言った。

「なにをするんですかシロウ!?」とか声が聞えるが、そんなの無視だ。

「あの、『コレ』は髪飾りですから! ちょっと動いて見えたのも、最新型の動く髪飾りだからなんです!!」

我ながら苦しすぎる弁明だった。

これで騙される人はいない。

どんな技術があれば、食べた瞬間、嬉しそうに身悶えする髪飾りが作れるってんだ。

俺だってこんな言い訳は信じない。

けれど、

「はい、そういうことにしておきます」

ニッコリと、ウェイターさんが微笑んで言った。

「え、あの?」

俺は予想外の成り行き驚いた。

そこかしこで「ああ、そうしよう」「仕方ねえなあ」「あなた、黙ってましょうね」「ああ」などなど。

秘密にしてくれることを確約する声が響いてた。

俺は狐につままれる思いだった。

隣の席に座っていた老婦人が、代表するように立ち。

「とても、いいものを見せてもらいましたからね。代償として、秘密にするくらいは当然ですよ、ねえ?」

各々から返事が来た。

どれもその言葉を肯定するものばかりだった。

「…………ありがとうございます」

俺は頭を下げた。

ヘッドロックしてるセイバーも強引に。

ここの人たちなら黙っていてくれる、なぜか、理由もなく確信できた。

「さ、セイバー、行こっか」

「シ、シロウ、いったい何だというのです!?」

「あー、その話はとりあえず外でね」

「……むー、分かりました」

セイバーが帽子をかぶる時、皆が残念そうに溜息をついたのは、俺の気のせいじゃないと思う。



  ◆◇◆



「シロウ、美味しかったですね」

外を歩きながら、セイバーが言った。

「ん、ああ」

冬の風に首をすくめた。

すでに「セイバー、犬耳バレてた」と説明した。

いまいち納得はしてくれなかったが、それでも理解はしてくれた。むしろ、「始めてこの姿で得をしました」と喜んでる節もあったけど……

「特にあの前菜のテリーヌが素晴らしかった。エビが中央に据えられ、単調になりがちな味にアクセントを加え……」

彼女の料理談義は続いていたが、俺はろくすっぽ聞いてなかった。

ただ、矢鱈と軽くなった財布と今月の生活費に思いを馳せた。

(ああ、しばらくは料理のランクを下げなくちゃいけないかな)

悲しいけど、そうしなければ生きていけそうにない。

雷画じいさんに頼るって手もあるけど、それは最終手段だ。

オヤジがいなくなってからも、なんとか一人でやってきたんだ。いまさら手を貸してもらおうなんて虫がよすぎる。

「……ですが、結局のところ、むっ? シロウ?」

「あ、ゴメン、ちょっとぼうっとしてた」

「大丈夫ですか?」

「あ、うん、なんでもない、それより何の話だっけ」

「いえ、あの店の料理の感想ですが」

「ああ、美味しかっただろ?」

なにせあれだけの値段だったんだ。もし、正規の料金を払わなきゃいけなかった場合。俺は今ごろ皿洗いの真っ最中だ。

「ええ、ですが」

とん、っと前に立ち、

誇らしげな笑顔で『その言葉』を言った。

「ですが、それでも、シロウの料理の方が美味しい」

「……」

「不思議ですね。きっとあちらの方が良い食材を使ってるはずですが」

うーん、と悩んでた。

「……」

足を止め、呆然とした。

「セイバー?」

「はい」

「その、本当にそう思うのか?」

「ええ、もちろんです」

何故そんな質問をするのか分からないといった様子だった。

「そっか」

「はい」

俺は、絶望と歓喜のごちゃ混ぜになったものを味わっていた。

自然とつり上がってしまう口を隠し、たぶん、これからもっと軽くなる財布の重量を予想した。

まったく、『その言葉』は、衛宮士郎にとっての呪いに違いなかった。

こんなことを言われては、今夜の夕食で「やはり、シロウの料理は美味しい」と微笑ませたくなるに決まってる。間違っても肩を落とさせるような事はさせたくない。

これは、料理人としての意地の問題だ。

ああ、本当に呪いだ。

相手は格式も値段も、おそらくは味も冬木市で一番の店。

対する俺は一介の主夫でしかない。

勝機なんてほとんど無いはずだけど。

「セイバー」

「はい」

「なら、今日の夕食は楽しみにしててくれ、絶対に、満足させるから」

彼女は一瞬、驚いた顔をしたが、

「はい! 楽しみです!」

花のような笑顔で応えた。


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