Fate / Sword & Sword 察雰晃:クロスオーバー)


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1: ベイル(ヴェイル) (2004/03/09 13:46:29)

 ……割と状況は混乱していた。

 まず、教会で情報を得られぬまま帰宅した士郎達は──作戦会議のため衛宮家に泊まり込むと言う遠坂凛とそれに反対しようとしてできない士郎のどうでもいい論争などもあったが省略──帰宅早々、衛宮家の結界がひどく不安定な状態になっているのを感知した。
 この家の結界は、前回の聖杯戦争時キャスターによって破られたことがある。そのときはただ結界を消されただけでなく、士郎の姉的存在である藤村大河が人質に取られ、その挙げ句にセイバーが奪われるという事態に陥った。今回も衛宮家で何かが!?と勢い込んで自宅に踏み入った士郎達は、そこでどこか茫然としている後輩と、明らかに見覚えのあるサーヴァント、そして、
「悪ぃ、勝手にあがらせてもらったぜ」
 などといいながら、おそらく自分で用意したのであろう紅茶を美味そうに啜っている自称探偵の姿を発見した。




Fate / Sword & Sword




 状況の整理には、若干の時間を要した。
「つまり、アンタは間桐の家から桜を連れ出すために奴らを裏切ったってこと?」
「それがマスターの命でしたから」
 確認するように問いかけた凛に、畳の上に正座したライダーのサーヴァントは頷いた。
 現在衛宮家の居間には、帰ってきた士郎、凛、セイバーの三人が並んで座り、テーブルを挟んだ向かいにうつむいた桜と平然としたライダー、そして、凛の紅茶を勝手に飲んでこっぴどく怒られた九郎が正座して(九郎だけはさせられて)いた。正確には九郎一人が正座を命じられたのだが、一応は恩人である九郎だけを正座させるわけには……と桜が自主的に正座し、ライダーが無言でそれにならったのである。
「しかし、裏切ったというのは正しくないでしょう。私は最初から彼らの仲間だったわけではない」
「そう。それじゃ、他のマスターについては何か知らない? どんな些細なことでもいいわ」
「……今の私のマスターは間桐慎二、アサシンのマスターは間桐臓硯だったようですが、それ以上は」
 続けての問いに、淡々と答えを返すライダー。顔が拘束具で隠れているせいか、その表情はまるで動かず──サーヴァントなのだから当然といえば当然だが──どこか人間離れした雰囲気があった。
「なあ、アンブローズ=デクスターって男もいただろ? そいつについては何か知らないかな」
 と、不意に割り込むように問いかけたのは、士郎であった。
「背の高くて肌の黒い外国人なんだけど……」
「ええ、その男なら間桐の家で何度か見かけました。ですが……」
「サーヴァントまでは分からないか。ま、当然でしょうね」
 ライダーの言葉を遮り、凛が納得したとばかりに頷く。
「たとえマスター同士が協力体制にあっても、そう簡単にサーヴァントのクラスや真名は明かさないわ。士郎みたいな例外はともかく」
 そう言って、最後の一言とともに士郎を横目で見やる凛。それに対して士郎は何か反論しようとしたが、それよりも早く口を開いた者があった。
「せ、先輩!」
「え?」
 おずおずとしたその声に、思わず士郎はおろか凛やセイバー、九郎までもが振り向いた。発言者──間桐桜は、その視線にさらされながらも膝の上で拳を握り、はっきりとした声で言葉を続ける。
「先輩、お願いがあります」
「サクラ……」
 言い出した桜を咎めるように、ライダーが小さく名を紡いだ。しかし、桜は真っ直ぐ前を見つめたまま、主に士郎に向かって言葉を紡ぐ。
「先輩──お願いです、兄さんを……兄さんを助けてください!」
 溜め込んでいた何かを吐き出すように、桜はそう叫んで深々と頭を下げたのだった。






「──言わなくても分かってると思うけど、私は反対よ」
「ああ、分かってる」
 淡々と言い放った凛の言葉に、士郎は何でもないように頷いてみせた。
 ともかく桜を休ませ、ライダーと九郎を居間に残した三人は、衛宮家の廊下で顔をつきあわせていた。士郎がどういう決断を下したかは、もはや言うまでもあるまい。
「魔術師の「城」にわざわざ出向くなんて、自分から処刑台に進んでいくようなもんだ。それくらいは俺でも知ってる」
「でも、行くんでしょう?アンタは」
「うん。ゴメンな、遠坂」
 苦笑し、士郎は謝った。凛が心配してくれていることはよく分かる。それでもなお、士郎は士郎であるが故に行かなければならない。
 なぜなら、彼は「正義の味方」だから。
「俺はあいつを助けてやりたい。慎二が桜を逃がすために残ったならなおさらだ。もしこのまま慎二が殺されたりするようなことになったら、桜だってきっと哀しむし、自分のせいだって思い込むかも知れない」
「そうね……あの子にはそういうとこ、あるし」
 士郎の言葉に、凛は不意にうつむいてそう呟いた。
 顔を上げた凛は、次に自らのサーヴァントへ視線を向ける。
「セイバーも?」
「はい、私はリンのサーヴァントですが、シロウの剣となる誓いは変わりません。どうしても私を止めたいなら令呪を使ってください、リン」
 確信を持った口調で、金髪碧眼の美少女ははっきりと言い切った。
「はぁ、そう言うと思ったわよ」
「すまない、リン……」
「気にしないで。私だって、かわいい後輩の頼みはできれば聞いてあげたいし」
 といって、茶化すように凛は肩をすくめてみせた。凛にとって、士郎は誰よりも大切なパートナーである。彼が行く以上、元より自分も付いていくつもりだったのだ。
 しかし、次に士郎が口にした言葉は、凛を驚かせるに足るものだった。
「それで、遠坂……遠坂は、ここに残っていてくれないか?」
「え──」
 唖然、と口を開き、士郎を見つめ返す凛。見れば、その横でセイバーも驚いて目を見開いていた。
「ど……」
「どういうことです、シロウ」
 凛の言葉を遮って、セイバーが彼に問いかける。対して、士郎は一つ頷き返し、
「遠坂には桜を護って欲しいんだ。さすがに桜を連れていくわけにはいかないだろ? その臓硯って爺さんは桜を連れ戻そうとしたらしいし、あの人の助太刀がなければ多分連れ戻されてたと思う。だから、もし万が一俺達と入れ違いにそいつらが桜をさらいに来たときのために、遠坂にはここに残って欲しいんだ」
 そう言った士郎の目には、本心からの真摯な光が宿っていた。
 士郎にも敵地に乗り込む危険性は分かっているはずだ。凛の自惚れでなく、士郎にとって最高のパートナーは凛とセイバーをおいて他にないだろう。できればともに行きたいはずだが、同時に士郎は桜を──そして彼女を護ろうとした慎二の意志を──護りたいと強く思っている。この配置は、士郎にとっても苦肉の策なのだ。
 しかし──だからといって、半人前の魔術師と本調子でないサーヴァントだけで敵地に乗り込むなど……、
「では、代わりに私が行きましょう」
「え?」
 逡巡する凛に背後から声をかけたのは、何と、居間に残したはずのライダーであった。
 いつの間にか廊下に現れた長身長髪の女サーヴァントは、相変わらず淡々とした口調で言葉を続ける。
「シンジは私のマスターです。サーヴァントの私が救出に向かうのは当然のことでしょう? それなら、同じ目的のものと協力した方がいい」
「何を……!」
 警戒心を露わにセイバーが振り向く。しかし、それを士郎が遮った。
「いや、ライダーが来てくれるなら心強い」
「シロウ!」「士郎!」
 セイバーと凛、二人の声がぴったりと重なったのは、さすがマスターとサーヴァントというべきだろうか。
「ライダーは信用できる、と思う」
「シロウ、シロウは甘すぎます。いえ、それが悪いとは思いませんが、かつては敵として相対したものまで簡単に信じるのは……」
「簡単に信じたわけじゃないぞ。俺だってそれなりに考えてるんだ。その上で、ライダーは信用できると思った」
「根拠も何もなさそうだけど……まあ、士郎がそう言うならしょうがないか」
 ため息混じりに、凛。彼女としては歓迎したくない事態だが、確かに自分が行くよりは一人でも多くのサーヴァントを連れていった方が効率がいい。
 だが、そうしてため息をついてから、凛は不意に視線をあげ、まるで刃のような鋭い眼光をライダーのサーヴァントに向けた。
「でもね、ライダー。一つだけ覚えておきなさい、裏切り裏切られは戦いの常だけど──少なくとも協力体制にある間に貴方が士郎に何かしたら、私はどんな手を使ってでも貴方を倒すわ。絶対に」
「……覚えておきましょう」
 凛の眼光に怯むこともなく、ライダーはただ静かに頷いた。そして──、
「なあ、俺もついていっていいか?」
 ライダーに続いて居間から現れた自称探偵が、何の前振りもなくそんなことを言い出していた。
「クロウ?」
「何でよ、あなたには関係のないことでしょう?」
「いや、関係なくはねえだろ。誰だって目の前で困ってる奴がいたら手を貸すくらいのことはしないか?」
 半眼で問いかける凛に、ごく当然のことのように言ってのける九郎。その肩には、初めて出会ったときから持っている黒い鞄が提げられていた。
 と……見ると、凛とセイバー、それにライダーまでもが、まるで呆気にとられたように九郎に視線を向けていた。
「呆れた。なんか、士郎が二人いるみたいだわ」
「同感です」
「な、何だよ、別におかしなことは言ってないぜ。なぁ?」
「あ、うん」
 同意を求められて頷いたのは、当の士郎であった。
 「困ってる人を助けるのは当たり前」だ。ただ、それは士郎が「正義の味方」を目指すことの一端である。誰も彼もを救いたくて、そのために何をすればいいのか分からずに、とにかく目の前にいる人を助けようと奔走してきた。悩んで、迷って、自分自身の理想に憎まれても、手探りで道を探して歩き続けてきた。
 ならば──彼はどうなのだろうか。士郎は初めてそう思った。
「……今は手が多い方がいい。手伝ってもらおう」
 凛達を見回し、士郎はきっぱりとそう言った。
「そうね。まあ、見ず知らずの人間よりは信用できるかな」
「シロウがそう言うなら、私も彼を信じましょう」
「…………」
 凛の言葉にセイバーが続き、ライダーのみ無言で頷く。不完全で半人前で、だが士郎は誰よりも信頼されている。
「前回は夜に戦うのがルールだったけど、今回は夜が明けてから出発しよう。攻め落とすならともかく、慎二を連れ出すだけなら昼間の方が都合がいいはずだ」
 士郎がそう締めくくって、即席の作戦会議は幕を閉じたのだった。






「にしても、呆れたわ」
 不意にそんなことを言い出したのは、作戦会議後も廊下に残った遠坂凛であった。
「何だよ、いきなり」
 対して、縁側に腰掛けた大十字九郎は、肩越しに振り返って眉をひそめる。今、廊下に残っているのはこの二人だけだ。
 士郎は桜に話を聞きたいといって、ライダーも一緒に客間にこもっている。そもそも士郎は今まで、桜は何も知らないのだと信じていたのだから。
 しかし、桜が全てを明かすこともまたないだろうと、凛は心中で確信していた。
「あなたのことよ。最初は何か企んでるのかと思ってたけど……要するにあなた、単なるお人好しなんじゃない。それも度を超えた」
「う……お人好しってのはよく言われるけど、別に度を超えちゃいないと思うぜ?」
「度をわきまえたお人好しは、単なるお節介で魔術師同士の殺し合いに首突っ込んだりしないわよ」
 九郎の弱々しい反論に、ぴしゃりと言ってのける凛。ただの「お人好し」なら、生きるか死ぬかの世界に首を突っ込んだりしない……少なくとも、凛の知る限りではそんな魔術師は──ただ一人の例外を除いて──存在しない。
「はぁ……つまり、あなたも士郎の同類なんだ」
 思わずため息をついて、凛は頭を抱えるように顔を押さえた。
「なんか、非常に不当な扱いを受けてる気がするのだが」
「気にしないで。それより、聞きたいことがあるんだけど」
 不満げな九郎の発言をあっさり流し、凛は不意に表情をあらためた。そして、何かを確かめるかのように柱に手をつき、
「この家の結界、不安定になってるわ」
 淡々とした、冷たい「魔術師」としての声で言葉を続ける。
「最初はライダーが入り込んだせいかと思ってたけど、彼女の魔力自体はそこまで並はずれて強力じゃないみたいだった。だとしたら考えられるのは一つ──あなた、何か年代物の神秘を持ち込んだでしょ」
「…………」
 その問いかけに、九郎は無言。ただ、微かに眉をひそめて、数秒後に「はぁ」とため息をついてみせた。
「あんまり、こいつらを見せびらかしたくなかったんだけどな」
 呟き、彼は肌身離さず持ち歩いている黒い鞄に手をかけた。よく見れば、その鞄の留め金にも魔力封じの刻印が刻まれているではないか。九郎は留め金を押して鞄を開けると、何の躊躇いもなく、それを上下逆さにひっくり返す。
 ──鞄から落ちたのは、見るからに古めかしい七冊の「本」であった。
 厚さも大きさもバラバラだが、どれも持ち運ぶのに苦労しそうなほどの重量があった。そして、それらの本は一冊をのぞいて全て、厳重に鎖で縛り付けられている。特に、もっとも古いものらしい一冊の本は、半ば狂気じみた執拗さで封印されていた。何重にも何重にも鎖で縛り付け、挙げ句の果てに鎖を固定する錠の鍵穴を何かでふさいであったのだ。
 そこには「決してこの書を開かぬよう」とでも言うような、無言のプレッシャーさえ感じられた。
「一冊だけ解放しちまったんでな。多分、こいつの影響だろ」
 そう言って、九郎は一冊だけ鎖に縛られていない、真っ黒な表紙の本を手にとってみせた。
「フォン=ユンツトの【無銘祭祀書<ネームレス・カルツ>】──「魂」も「神を召喚する記述」もない海賊版だが、力はある」
 漆黒の書、呪われし禁断の魔書の海賊版。その気配は鞄から出された瞬間に大きくなり、不安定な結界が更に揺らいだのが手に取るように分かった。
 だが、凛は結界の揺らぎも気付かぬかのように、唖然とした表情でその黒い本を凝視していた。
「魔導書……ミスカトニック最大の神秘じゃない」
「いや、所詮こいつは海賊版だからな。六冊しか残ってない本物の【無銘祭祀書】はこんなもんじゃない。
 ──最高位の魔導書ってのは、自ら魂を持って主を選定し、神をも召喚して自在に操るような代物なんだ」
「……【魔書の王】……」
 淡々と、その名を紡いだ凛の声は、まるで目の前にいるのが古くからの仇敵であるかの如く冷え切っていた。
「まさか……噂には聞いてたけど、ずっと眉唾だと思ってたわ。
 ──ミスカトニック大学の秘密図書館から、特別に七つまで魔導書を所有することを許された魔術師。唯一無二の魔書を無数に従えるがゆえに、付けられた異名が「魔書の王<ロード・オブ・グリモワール>」、あるいは七頭十角……」
「言うな」
 刹那──凛の発言を遮って、九郎は静かに、しかしはっきりと言い放った。

「俺を──「獣」と呼ぶのだけはやめてくれ」

 それは、ひどく長い一刹那だった。





 ──夜が明ける。
 冬木の夜が……六度目の聖杯戦争の、最初の夜が。
 まだ人々の大半が眠りの中にある時刻。衛宮家の門前には、凛と桜を除く四人の姿が既にあった。
 このうちの一人はイレギュラーだ。そして、これから向かう先にもとんでもないイレギュラーが待ちかまえている。加えて、姿を見せぬキャスターのマスター、まだ召喚されてもいない三体のサーヴァント──不確定要素はあげればきりがない。
 所詮、神ならざる身には未来は見えないのだ。しかし、それでも歩き出した彼らに迷いはなかった。
 二人の魔術師と二体のサーヴァント、でありながら、一人のマスターもいないという奇妙な構成。
 まだ眠りから覚めぬ冷たい街の中を、士郎達は間桐の家へと向かった。



※用語解説

【魔書の王】
 ロード・オブ・グリモワール。この話における大十字九郎の異名の一つ。
 実際にはあまりにも有名すぎる九郎の称号──【マスター・オブ・ネクロノミコン】──を隠すために意図的に流布されたあだ名であり、七つの魔書を日本に持ち込んだのも彼本来の“書”を使わずにすませるため(失われたはずの「アル・アジフ」が現存することが知られるのは、ロンドンにとってもミスカトニックにとっても喜ばしくない)
 しかし、七つの魔書を与えられたことから、九郎は望まずして宿敵の名を受け継ぐことになってしまう。


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