Fate/In Britain おうさまのけん 第一話 前編


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1: dain (2004/03/06 07:42:45)

”時計塔”
ロンドンにある魔術協会本部大英博物館の通称であると同時に、その最高学府兼研究機関である学院の通称でもある。
学院はさらに本科・専科に分かれている。
本科は我が遠坂凛嬢がこのたび入学した狭義の”時計塔”と呼ばれる最高学府だ。
そして専科、ここは少しばかり毛色が変わっている。もちろん魔術理論も学べるがそれはあくまでも余技であり、一つの魔術体系を極めたエキスパートを養成することを主眼におかれている学校だ。
         サイエンティスト                エンジニア
つまり、本科が魔術の学者のための学府だとしたら専科は魔術の技術者のための学校というわけだ。
その為か俺のようなぽっと出の魔術師が多く、基礎講座も充実している。
というわけで”時計塔”特待生遠坂凛嬢のおまけ、付人兼弟子兼手駒兼恋人の俺は必然的にこの専科に通うことになった。


その日、俺は遠坂に呼び出されて本科の方に出向いていた。なぜか四人前の弁当を持参させられている。
予科が周辺部のカレッジに密かに分散されているのに比べ、本科は大英博物館の別館とロンドン大学の一部を隠れ蓑にほぼ全ての機能が集中している。ロンドン大学のほうは講義で何度か足を運んだが、今日向かっている学生工房は、大英博物館の地下にあり初めて行く所だ。遠坂の工房もこちらにあるのだが今日向かう先は別の工房だ。
なんでも頼んでいたセイバー用の普通の魔剣と、俺用の補呪具の試作が出来上がったので取りにいくついでに微調整するのだそうだ。
セイバーの剣はともかく、俺用の補呪具なんかが何故必要かというと、つまり…その…
俺がへっぽこだからだ…



           おうさまのけん
           「剣の騎士」  第一話 前編
             セイバー



話は数日前に遡る。俺は初級の講座も終わり専科で地道に魔術の研鑽をはじめていた。学院で知識と理論を学び、家に帰って遠坂やセイバーの前でそれが身に付いたかどうか実践してみせる。そして遠坂がそれを評価して、問題点を抽出し対策を講じる。といった按配だ。
ちなみに週一回くらいだがルヴィア嬢宅でバイトの合間にお披露目することもある。結果は…聞かないでくれ…ただルヴィア嬢がどれほど品良く人を罵倒出来るかが分かったとだけ言っておく。

「駄目かな?」
疑問。

「駄目ね」
断定。

「駄目ですね…」
嘆息。

これが俺への評価。基本的な治癒呪符の構成と展開だったのだがバンドエイド程度の効果しかない。これなら俺の人並みはずれた自然治癒能力のほうが遥かにましだ。
 シンボル
「呪符にパスが全く通ってないわね。駄目、ぜんぜん駄目」

「俺が聞きたいのはそんなことじゃないぞ、対策とか…」

「無いわよ、まずパス通さなきゃ」

遠坂さんは呆れかえるほどきっぱりとそう断言してくれやがりました。

「呪符の構成とか発動の段取りとかは悪くないわよ、士郎そいうこと結構器用でしょ?」

便利屋さんだし、と付け加える。

「魔術回路や魔力そのものは随分と成長してるのにねぇ。いわば運動神経を無線で動かしてる状態ね」

我ながら上手い事を言うと楽しそうに笑う遠坂。

「笑い事じゃないぞ。確かに剣…ていうか白兵戦用の武器や防具以外はほとんどパスが通せないけどな」

「そうね、士郎の魔力は本当に特化してるわ。剣ってベクトルに固定されてる感じね」

遠坂は口に手を当てて考え込む。で、うんうんと頷きながら先生口調で俺に講義してくれた。

「今の治癒へのパスで言うとこんな感じかな。まず”剣”という概念から”刃”ね、そっから”剃刀”、”シェービング”と来て”泡”から”オキシフル”で最後に”治癒”」

「それは…つまり『風が吹けば桶屋が儲かる』ですか?」

脇で大人しく見学していたセイバーが余りの迂遠さに呆れたように呟いた。そら呆れるわな…

「そう、これだけ曲がりくねったパス、通そうとしてたって通るわけ無いじゃない」

「わざとやってる訳じゃないぞ」

俺は憮然として反論した。そう、わざとではない、こう…パスを通そうとすると針の穴のように小さい穴が見えてきて…それを通すとまた別の針の穴が…ってな感じだ。

「だからでしょ!次からはわざとやりなさい!」

うわぁ理不尽!
顔に出たのか、アンタ絶対分かってないでしょ、てな顔でぐぐっと迫ってきた。毎度のことなんだが…たとえ柳眉がきりりと逆立ってようが、口がへの字に結ばれてようが、目がジト目だろうが…近くで見ると遠坂は本当に綺麗なんだよな…
そんな俺の内心を知ってか知らずか、遠坂ははぁっと溜息をつく。

「本気で分かってないようだから説明するけど、良い?目的に向かうパスのバイパスを意図的に考えなさいって事。最近だんだんと分かって来たんだけど、士郎は普通の魔術師のやり方はまず使えないわ」

「普通の魔術師ってその…バイパスって使わないのか?」

「使わないわよ!普通。線の太い細いはあるけど、普通の魔術師は初歩の魔術なら対象にパスくらい通せるの!」

をを、分かりやすいぞ、自分の才能の無さがじつに具体的に良く分かる。喜んでいる場合じゃないか…
とにかく挫ける心を立ち上がらせて前に進むことにした。

「じゃイメージの問題なんだな、俺の場合」

「そうなるわね。剣にはぶっといパス通せるんだから、うまい抜け道見付けること大切ね、剣から連想して目的まで素早く検索できるようにするのよ」

「剣か…剣剣剣…」

俺は腕組みして思考を静めた。あ、いかん。今まで見た剣が次々と浮かんできて他所へ移らん…
剣…刀…ソード…セイバー…
セイバー?
青と金色の少女が浮かぶ…

「ああ、セイバーになら太いパス通せそうだ…」

俺は愚かにも口に出して呟いてしまった。

「衛宮くん」

遠坂の声が俺を思考から浮かび上がらせる…

「ん?」

顔を上げるとセイバーが真っ赤になって俯いている。そしてそのとなりで…


あかいあくまがわらっている


「へ?」

「衛宮くん、今なんて言ったのかしら?」

このうえなくあまったるいねこなでごえであかいあくまがほほえんだ


ここから先、俺の記憶は無い。





まぁ、なんだ。その日の晩、遠坂は俺に発想の貧困に頭を抱えつつ、一つの手段として補呪具を使ってみては、という事になったわけだ。なんで晩なのかは秘密だ、一応憶えてないことになっている。
そして今日、遠坂とセイバーは朝からその工房に行っており、俺は午前の講義の後、昼飯持参で合流する手筈になっていた。

でだ、迷った。
建物の構造は分かっている。なにせ俺の構造解析はルヴィア嬢のお墨付きだ、大まかな形はそれほど複雑でなかったので入ってすぐに把握できた。自分の位置も分かる。だが目的地がどこかが全く分からない。
教えてもらったのは工房は番号なのだが、どの工房入口にも番号なんぞ書いてない。いや前は書いてあったのだろうが、それぞれが独自の表札というか看板というか、そんなものに付け替えられているのだ。しかも読めない。
アルファベットならまだしも、ほとんどがルーン文字やら楔形文字、鏡文字にはては象形文字。俺みたいな一見のお客さんはお断りというわけだ。

すでに時刻は午後一時過ぎ、さすがにやばいとは思ったが、通行人も居らず。まさか見ず知らずの工房に入って道を聞くわけにもいかずで、いっそ正面の窓口まで戻ろうかと思った、その時だ。

―――――そこには

異形があった。
身の丈3m余、鋼の皮膚と溶岩の血潮を持った巨人。
かつての聖杯戦争で合間見えたバーサーカーのごとき巨躯。
それが目の前に居た。

「―――――ッ!」

即座に身構え、両の手に剣を投影しかける。

「退け」

「え?」

巨人の足元から若い男の声がした。
視線を下げると巨人の斜め前に面白くのなさそうな顔をした若い男が立っていた。

「退けといった」

男は不機嫌そうに繰り返した。
俺は男と巨人を交互に見、慌てて道を空けた。
男と巨人は返答もせずに俺の横を通っていこうとする。
俺は巨人を見上げた。よくよく見ればバーサーカーのような威圧感は無い。確かに巨大な力は感じる。しかしそれを行使する意思が決定的にかけているのだ。巨人の頭部に目をやる。
ああ、そうか…          ゴーレム
そこにあったのはただの巨大な円筒。機像だ。
なるほど意志を感じないわけだ。ただ全身金属というのは珍しい。
 メタルゴーレム
「金属機像?」

俺は誰に言うでもなく呟いた。
パンツァーゴーレム
「装甲機像だ」

なので返事をされてかえって驚いた。
                         パンツァーゴーレム
「粘土のコアを2ichのゼーダークルップ魔鋼で包んだ装甲機像だ」

なにか拘りがあるらしい。いかにも傲岸不遜で魔術師然とした男だが、こういったタイプには昔から慣れている。これ幸いと道を聞くことにした。

「凄いね。ところで274号工房って知らないか?」

男は自分の自慢を無視されたかと一瞬憮然となったが、それでも返事をしてくれた。

「274号?ああ、ボルタックスか」

ぼるたっくす??

「そこだ」

男は親指で一つ先の扉を指差すと隣の工房にゴーレムを引き連れて入っていった。
俺は頭をひねりながら指差された工房の前に立った。そこにはひときわ大きな看板が掛かっており、読み難い飾り文字で

―BOLTAC'S TRAIDING POST―

と書かれていた…

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一話の筈が長くなり二話構成となります。今回は少々冒険作。
ルヴィア嬢はお休みです。
                          by dain


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