Fate/In Britain きんのけもの 第二話−1


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1: dain (2004/03/05 01:03:05)

エーデルフェルト家と言うのは北欧の魔術の名家である。
といっても俺はつい最近までまったく知らなかった。
そのおかげで俺は命どころか魂の絶体絶命に陥ったりもした。まぁ間諜の嫌疑が晴れたから良しとすべきなのか…
とはいえ今は知っている。

ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルト

俺が勤めるお屋敷のお姫様。我が雇い主にして学院で主席争いを演じる容姿端麗、頭脳明晰、天性放逸なトップクラスの魔術師。
そして遠坂凛に匹敵する巨大な猫をかぶった「きんのけもの」
俺は彼女にその事を骨の髄にまで叩き込まれた。

さて、ルヴィア嬢に魔術師の使用人として正規雇用された晩、俺はその事を遠坂とセイバーに報告した。
正直、言い辛かった。俺がえらく大間抜けだったこともあるが、やっぱり魔術師の弟子として他の魔術師に使用人として雇われるってのは、なにか非常識な気がしたからだ。
とはいえ言わないわけにはいかない。ルヴィア嬢に遠坂の名前を出さなかったのと同じ理由で、遠坂にルヴィア嬢の名前は伝えなかったが、大まかな内容は伝えることにした。言い辛いとはいえ秘密にしておく物でもなかったからだ。



     きんのけもの
    「金色の魔王」 第二話 前編
     ル キ フ ェ ル



で、予想通り我が遠坂凛嬢の一言。

「馬鹿」

ぐぅの根も出ない。

「っていうか、なに?魔術師の屋敷に一週間通って気がつかなかった?この一年なに覚えてきたのよ!
へっぽこ」

うわぁ心ある人ならばあえて口にしない言葉を…

「へ、へっぽこはないだろ!そりゃ不甲斐ない弟子だが…相手が悪かったんだよ!ありゃ遠坂と甲乙つけがたい魔術師だったぞ」

あらゆる意味で…

遠坂がむぅーっと睨みつけてくる。どうやら相手を自分と同格扱いされたのが気に入らないらしい。
よかった…一瞬あとに考えた事を読まれたのかと思った…

「それでシロウ、どうするつもりですか?」

セイバーがえらく複雑な表情で聞いてくる。

「どうするって…なにが?」

「お仕事のことです。このようなことが有ったのですから辞めるのですか?このまま続けることは難しくも危ういことだとわかっていますが…」

ああ、セイバーが何を悩んでいるのかが分かった。我が家の経済的危機と俺に危機を秤にかけて思い悩んでいるのか。それなら簡単だ。

「辞めないぞ。あっちも納得してくれたし」

うん、納得してもらった……と思う…
セイバーはあからさまにほっとしたような、それでいてほっとしたことが心苦しくて心配で、といったまるで我が子を旅に出す母親のような表情をしている。
一方遠坂は、一瞬呆けたような顔をしたが、すぐさま今まで以上に不機嫌に口を尖らせてい俺を食って掛かってきた。

「なにそれ?普通じゃないわよ」

「そうなのか?」

「当たり前じゃない!魔術師がよ、他の魔術師と協力関係になるならともかく…召使?それも半人前の他人の弟子を!?絶対変!!」

遠坂はむぅーっと考えたのち、はっとしたように難しい顔で尋ねてきた。

「士郎、アンタまさか…あれを悟られたんじゃないでしょうね?…」

遠坂が心配した「あれ」それはおれの秘密「固有結界」
魔術師にとって最終目標の一つにして禁呪中の禁呪。
協会にばれれば俺は封印指定され、それこそ死ぬまで幽閉されかねない。もちろん他の魔術師にだって知られるのは論外だ。
少なくともロンドンでの学業を終え、日本に帰るまではここにいる三人以外に知られる事は絶対避けなくてはならない。だが…

「いや、それは無い」

うん、それはありえない。

「だいいち俺はあのお屋敷で魔術使ってないぞ」

そう、確かにお屋敷の構造解析はしたがあれは魔術というより技術みたいなものだ。

「じゃなんで?…魔術師としての力量や才能を買われたなんて絶対ありえないし…」

遠坂は失礼な事を呟きながら自分の世界に入って行った。こうなると一段落着くまで戻ってこない。

「士郎に他にとりえなんて…あ、確かに召使としては一流かも、ご飯おいしいし…」

これは当分帰ってこないな…俺はセイバーと話すことにした。

「あ、給料すこし上がるみたいだぞ、その分仕事も増えるけどそれは問題ない」

「ああ、それは嬉しい報せです。でも凛には黙っていたほうが良いかもしれません。できれば少しは蓄えをしておきたいですし」

「そうだよなぁ、いつ遠坂が教室ふっとばすかわからないからな」

「シロウ、言わないでください。それを一番危惧しているのです。今度あんなことがあったら損を覚悟で債権を現金化しなくてはなりません」

「う〜ん…俺もこれ以上バイト増やせないぞ。それにあんな割のいいバイトそうは無いし」

「あんたらねぇ…」

ようやく思考が一段落したのか、それとも俺たちの会話があまりに癪に障ったのか、遠坂が自分の世界から帰ってきた。

「あ、お帰り」

「もうあんな事しないわよ……………………多分……」

「凛…その最後の多分について詳しく説明してもらいたいのですが…」

「もう!今はそんな話をしてる場合じゃない!!」

バンッとテーブルを叩いて場を仕切りなおす遠坂。うまく誤魔化しやがったな…

「士郎、あんた何か弱み握られたんじゃないの?」

睨みつけながらもどこか心配そうに遠坂が俺を覗き込んできた。

「いや…別にないぞ」

多分

「わかんないのよねぇ…魔術師の召使がほしいなら自分の系譜からでも調達できるだろうし、召使がほしいならバイトじゃなくて本雇いすれば良い訳でしょ?給料アップするくらいなんだからお金をケチったってわけでもないし」

「凛…聞いていたのですね…」

セイバーが思いっきり残念そうに呟く。本気で危惧してたんだな…

「いや…まぁ今辞めたら違約金だとかは言われたけど、これって脅しにならないよなぁ」

「そうですね、シロウを引き止める口実にはなっても脅しではない」

セイバーも首をかしげた。そう、俺はあの時、放り出されるものと思っていたのに引き止められたのだ。

「まぁ向こうの理由はいいわ、それより士郎、よく勤め続ける気になったわね」

「いやだって金無いだろ?」

「貴方ねぇ…たかがお金でアンタが動くわけないでしょ?それに…下手すると押し込められてそのままどうにでもされかねないって状況じゃない」

「いや、そんな事されないぞ。そんなことする人じゃない」

ルヴィア嬢はたしかに傲岸不遜で傍若無人、我がままで負けず嫌いででっかい猫をかぶった女の子だけど、そういった陰湿な事をする人じゃない。ちゃんと筋が通った所もあるし可愛らしいところもあった。

はて?

そこで気がついた。
なんで俺はあそこで働き続ける気になったのだろう?
俺は心配そうに見つめる遠坂をぼんやりと眺めながら考えた。
お金の為…それもあった。だが全てじゃない。なのに何故?ずっとこういったことが普通じゃないと感じながら何故あの仕事を受けたのか…

あ、そうか…

俺はあの騒動のさなか、ルヴィア嬢がふと見せた魔術師としての孤独と寂しさを思い出した。
それはかって遠坂の中に垣間見たそれと同じものだった。

なんだ、簡単じゃないか。

ほっとけなかったんだ。

一生懸命がんばって、一番高いところに手を伸ばして、そしてその高いところで燦然と輝くようなやつ、そんなやつが高みにあるが故にポツンと一人孤独に寂しい思いをしている。そんな事をほっとけるわけないじゃないか。
ストンとパズルにピースがはまった。俺はようやく今まで心に引っかかっていた棘が取れた満足感を味わった。
「…にやけてるわね…」

遠坂がじっとり不機嫌な口調で呟いた。

「え?」

「にやけていますね…」

セイバーも俺に冷たい視線を向けて呟いた。

「な!なんだよ!」

「女ね…」

「ええ、女の人なんでしょうね…」

「何の話してるんだよ!」

何の話をしているかは充分理解できてしまったが叫ばずに入られなかった。

「衛宮くんの雇い主の事に決まってるじゃない。その人、女性の魔術師なんでしょ?」

背景を真っ赤に染めながら遠坂がにっこりと微笑んだ。大変可愛らしいのだが大変怖い。
ちなみにセイバーは「またか…」って顔で溜息ついている。
……ちょっと待てセイバー!またかってのはなんだ!またかってのは!?

「いや、確かの女の子だが、や、疚しいことはないぞ!断じて!」

「ふ〜ん…女の子なんだぁ…」

あ、墓穴掘った…
真っ赤な背景にぱちぱちと炎の爆ぜる効果音が加わってきた。
勘弁してくれ…俺は些か脱力しながら思った。そりゃルヴィア嬢もほっておけない。
でも俺にとって

「遠坂が一番大切なんだから…」

背景の赤がすっと引き炎の爆ぜる音も消えていく。

「……もういちど……」

「え?」

顔を上げると遠坂が睨んでいた。ただし顔を真っ赤に染め、瞳に微かな不安を浮かべながら。

「もう一度、ちゃんと私の目を見て言ってみなさい」

「うん、俺にとって遠坂は一番大切な女の子だ」

俺はきちんと遠坂の目を見てそう言い切った。すごく照れくさいし恥ずかしい台詞だが、これだけは誤魔化したり茶化したり出来ないことだ。その…遠坂を心配させたり不安にさせたりしたのも確からしいし…

「いいわ、信じたげる」

気恥ずかしげに視線をそらして遠坂が言った。

「士郎が誰にでも優しいのは分かってるしさ、困ってる人や助けを求めてくる人をほっとけないのも知ってるから…」

「だからバイトの件はシロウに任せるわ。でも無理したり一人で抱え込んだりはしないでよ。何かあったら私たちに相談する。いいわね?」

遠坂は顔をくっつけんばかりに近づけて俺に念を押した。ちょっと待て!セイバーの前だぞ!わっすんげぇ冷たい視線で睨んでるぞ!

「わ、わかった!わかったからちょっと離れろ!」

「うん、じゃこれで解決。ご飯にしましょ」

遠坂は途端にご機嫌になって席に着く。
まぁなんだ、いろいろあったけど一件落着だ。


「シロウ」

セイバーの機嫌も直ったらしい笑顔で話しかけてきた。

「ん?なんだセイバー」

「お金に困っても身体だけは売らないようにしてください」

一瞬の沈黙。
そして爆発音。
再び遠坂が紅蓮の炎を背負ってしまった…

セイバーは満面の笑顔でご飯を食べている。

セイバー…機嫌…直ってなかったんだな…

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現在執筆中の第三話にはルヴィア嬢が出演されていない為、シリーズ表題を変更しました。
なお、その後に再登場予定ですのでお楽しみに。
                                  by dain
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きんのけもの 第二話−1 801 が見れなくなっているため再アップします。
801 が読めるようになったなら削除の予定です。


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