自立駆動型戦闘機動兵器さーばんと 1


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1: にぎ (2004/03/04 22:38:35)



その一連の出来事は、

「士郎――――!」

遠坂の言葉から始まった。

「はい、これあげる」













自立駆動型戦闘機動兵器さーばんと
第一話『あーちゃ―君、大地に立つ!』










「遠坂、色々と言いたい事がある気がするが、何だこれは」
「ふっ、これぞ私とイリヤが遠坂とアインツベルンの秘法を駆使して作り上げた最高傑作!
 自立駆動型戦闘機動兵器さーばんと。その試作第1号『あーちゃ―君 01』よ!!」



―――――――――。



「で、なんだそれは」
「へ?だから自立駆動型戦闘………」
「いい、繰り返すな。そういう意味じゃなくて、何だそれは」

遠坂のいう戦闘兵器とやらに目を移す。
そこにあるのは、なるほど確かにアーチャ―のやつを真似て作られている。
髪の色も肌の色も、トレードマークの赤いマントだってばっちりだ。
唯一つ問題があるとすれば……

「遠坂、これぬいぐるみじゃないのか」

丸いつぶらな小さな瞳。
極限までデフォルメされた手足。
その割りに大きな丸い顔。
極め付きは全長およそ30cm。

うん、完璧にぬいぐるみだ。
なんかイリヤの部屋にでもありそうなやつ。

「むっ、見た目はそうかもしれないけど、ただのぬいぐるみじゃないわよ。
 さっきも言ったけど、私とイリヤの最高傑作なんだからね」
「これがか?」
「ええ、そうよ。私の魔力を込めた宝石を動力にしてイリヤの魔術で人形を動かすの」

さっ、挨拶しなさい。という遠坂の言葉に素直に従って、ぺこりとお辞儀するあーちゃー君。
意外と礼儀正しいやつらしい。

「いや、というかそれってイリヤが動かしてるだけじゃないのか?」
「ふふん、そこがこの『さーばんと』の凄い所よ。
 一度動き出せばあとは完全自立思考。
 自分の意思で自由に動く事が出来るのよ」

どうよ、とばかりに胸をはる遠坂。
が、そんなものもらってどうしろと言うんだ、俺に。

「あ、なんかまだ胡散臭そうな目してるわね」
「いや、それは信じるけど。なんで俺にくれるんだ?これを」

というか欲しくない、はっきり言って。

「ん〜、何でって言われると困るんだけどね。
 せっかくうまく出来たから士郎にでもあげようかな、と」
「……なんか、不用品を押し付けられてる気がするんだが」
「む、言ってくれるわね。言っとくけどあーちゃー君の身体能力は士郎のざっと数倍はあるんだからね。
 そうだ、士郎これを護衛にすればいいじゃない」

これをか。
これに守られろって言うのかお前は。

「ふふふ、見てなさい。
 『さーばんと』の量産の暁には!冬木市などあっという間に征服して見せるわ!」
「するのか」
「しないわよ。なによ乗りが悪いわね士郎」

いや、むしろ何でそんなにノリノリなんだ、遠坂。
一体お前の身に何が起こったんだ。

「はあ、どうやら士郎は『さーばんと』の凄さが全く分かってないらしいわね。
 いいわ、ならこのあーちゃー君がどれほど優れた存在であるか、とくと見せてあげるわ」
「いや、べつにいいよ俺は」
「ふん、今更恐れをなして逃げようって言っても無駄よ。
 士郎には特別に『さーばんと』の怖さをその身に焼き付けてあげるんだから」

何故だか1人宿命の炎に燃える遠坂嬢。
なんか自分が不思議空間に迷い込んでいる事だけは分かったが、
それに逆らえるほど俺には力もなければ勇気もなかったのである。



「ふっ、士郎。もう謝っても許さないわよ、あーちゃー!!」

遠坂の声が響く。
その声に反応して、なにやらごそごそと手を動かす。

すっ、とその手に現れたのは、あーちゃー君にあわせてデフォルメされた干将・莫耶。

「ふっ、安心しなさい。刃はついてないわ。
 あくまで木製のレプリカだから」

私ったら優しいでしょ?などとのたまう遠坂。
だが遠坂、それは戦闘用としてはなおさら問題がある気がするんだが。

「さっ、始めましょ士郎。
 行きなさい!あーちゃー!!」

遠坂の指が俺を真っ直ぐに指し示す。
その指をたどるように、足元のあーちゃー君が疾走する!

確かに、その小さな足でどうやればと思えるくらいに速い。

そして――――

ダンッ!

俺の前で床を蹴り、実に自分の身長の何倍もの距離を浮き上がる。
俺の身体能力の数倍と言うのは嘘じゃない。

確かに、これが量産されれば冬木市は簡単に征服できるかもしれない。
だが、それも、


ぺちっ


「へ……?」


体の大きさが一緒なら、の話だが。

「な、そんな、あ、あーちゃー君が一撃なんて…」

俺の足元には、蹴り一発で再起不能に陥ったあーちゃー君。
いかに俺の数倍の身体能力であろうと、あくまでその大きさで考えればの話し。

実際には身長で5倍程度、リーチにして10倍以上の差がある。
そんなことにも気づかないとは…いや遠坂らしいが。

「くっ、まさかこんな事になるなんて…」

本気で悔しそうに歯軋りする遠坂。
聖杯戦争の時にも見なかったぐらいの悔しがりぶりだ。

「士郎!」

きっ、とこちらを睨みつけてくる。
ちなみにちょっと涙目だったりする。

「見てなさい!この次はこうはいかないんだから!!」

まるで悪役のセリフを残して走り去っていく。
その目からは、もはや堪えきれないものがキラキラと光っていた………。






そして、1つの戦いは終わった。
この上なく心が虚しい。
戦いが虚しいだけだ、といったのは誰だったか。

だが、遠坂の野望はまだ始まったばかりだ。
そしていまだその姿を見せない、もう一人の首謀者イリヤの影。

俺は止めなくてはならない。
そんなこと、絶対にやらせるわけにはいかないんだ。

そう、俺は、

俺は正義の味方になるんだから。



俺は心にそう誓いながら、


「遠坂……2号を作るなら、せいばーちゃんか、らいだーちゃんにしてくれ…」


嘘偽りのない本音を口にした。




   しーゆー ねくすと さーばんと


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