聖杯はきみへの・・・6


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1: non (2004/03/03 22:59:32)

聖杯はきみへの・・・6








その剣は禍々しい魔力を放ちながらも青く澄んだ刀身を見せていた。

世界における矛盾の具現。

その究極の一。



それゆえに偽者の剣として生まれ、偽者が担い手となる。



気がつけば体は前に走りだしていた。



剣に求められるままに剣を振り下ろす。



バーサーカーの剣斧が何の抵抗もなく二つになる。



体をひねり、半瞬で横薙ぎに移る。



バーサーカーのクラスといえど、この剣の非常識性を理解したらしい。
その横薙ぎはバーサーカーの後退によってかわされた。



剣が躍動する。



「アーチャー、避けろ!」


今まで一度も使わなかった令呪を咄嗟に使った。
剣が目前の敵の殲滅を求めて動きだしていた。
もう俺にも止められはしない。



目の眩む閃光の後、すべての魔力を使い切った俺は
崩れ落ちるように倒れて気を失った。







気がつくと自分の家の布団で寝ていた。
どうにかバーサーカーに勝つことができたらしい。
そうでなければ今頃は、現世に存在していないだろう。


あの時、自分が作った剣を思い出す。
設計図を頭に描こうとするだけで頭がひどく痛む。
たしかあの剣を持った瞬間に
剣の真名をつぶやいていた気がする。

「アンリミテッド・ファンタズムブレード(再会を確約された無限幻想の剣)・・・」



「士郎、目が覚めたの?」


「ああ、おはよう、看病してくれてたのか?」

枕元に座っていた遠坂がぐいっとこちらに顔を寄せる。
今になって額にタオルが乗っていることに気がついた。

「おはようじゃないでしょ、何であんな無理するのよ? ほんとに死にかけてたんだから!」


何、のんきなこと言ってるの?と
いきなり耳元で怒鳴られてしまった。
心配をかけてしまったな。それにとっても顔が近い。

「心配かけて悪かった。次から気をつけるよ。」

それでも俺には引けない理由がある。
それより今は現状把握だ。

「あのあとどうなったんだ?」


剣を振った後の記憶がまったくない。


「・・・・・・・」


急に遠坂が黙ってしまった。


しばらく悩んだ後、

「後で見てくるといいわ。」

とポツリと言った。




アーチャーの話では、バーサーカーはほとんど死んだと見ていいらしい。

殺しきれていなくて宝具の効果で
復活している可能性もあるから断言はできないが。


「アレは昔から使えたのか?」


アーチャーに聞かれたので首を横に振った。
ほとんどまぐれか偶然と言ってもいい、
カリバーンを超える剣なんて俺は知らないから、
それなら全てをぶつけてやろう、なんて思っただけだ。
開き直りとも言えるかもしれない。


「アレはもはや魔術と呼べない、固有結界でもない。」


アーチャーがこちらを見据える。その目は真剣そのものだ。


「アレは宝具だった。 ・・・ならお前は何者だ?」


「そんなことお前だって、知ってるだろ。」

何者?別になんてことはない。単なる半人前の魔術師にすぎない。
ただ一つの事に特化している事は自分でも自覚しているが。


その答えに満足できなかったのかアーチャーは黙って部屋から出て行った。
さっきから遠坂といいこいつといい、なんだか妙ではないか。




居間に向かう、そこはかなりの不思議空間と化していた。


当然、とばかりにキッチンにいるアーチャー。
早く食わせろと言わんばかりのランサー。
やけに堂々として座っている遠坂。
なんだか気まずそうな桜。

そして見知らぬ二人を観察している藤ねぇ。


「士郎、この人たち誰?」


静かにこちらに寄ってきた藤ねぇが耳打ちする。

どうしようか。
アーチャーの急な出現ですっかり言い訳を考えるのを忘れていた。
そういえば二人とも弓道の大会で泊りがけで出かけていたんだった。


「日本観光ついでにキリツグの墓参りをしようと思ってな。」


キッチンから顔を出したアーチャーが言った。
こちらに一瞬、目配せをする。


<後は適当にごまかせ。>


<わかった。>


無駄に正確なアイコンタクトを決めると再びキッチンに戻っていった。



「そんなわけで二人を泊めたんだよ。部屋なら無駄に多いしな。」


わざわざ来たのにホテルに泊まってもらうのも何だろ?
うむ、完璧な言い訳だ。


う〜ん、と腕組みして悩む藤ねぇ。

「まあ、男の人なら問題ないか。」

妥協点に到達したらしい。


いつもより静かな朝食を終えて、藤ねぇと桜を学校に送り出す。


とりあえず、昨日の戦いの痕を確認しに行こう。
遠坂も気にしてたみたいだしな、




「・・・なんだよ、これ?」


俺が目にしたのは道路を垂直に伸びる一本の亀裂だった。

底が見えない。

どれほどの鋭さと威力を持ってすればこんなことが可能なのか。


その線は俺の視認できる範囲を超えて続いているようだった。






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ようやく6話です。今回から量を多くしようと心がけたんですが、
どうにも増えません。とりあえず5000以上を目標にしていきたいと思います。


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