葛木宗一郎 対 暗黒翡翠流 M:翡翠 傾:ギャグ


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1: 岡崎 (2004/03/03 00:36:50)

「はあ、私と翡翠ちゃんで出張ですか。」
 琥珀は要領を得ない顔で主人に尋ねた。
「そうよ、あなたたちに冬木市で行われる聖杯戦争という儀式を調べて欲しいの。」
 遠野秋葉は思いつめた顔で答えた。
「聖杯…戦争ですか?」
 戦争という言葉に怯える翡翠。
「何でもその聖杯はどんな願いも叶えるという代物よ。それをめぐって幾たびの戦いが繰り返されたといいます。」
「どんな願いもですか。」
「そう、もしそんな物が悪人の手に入るような事になったら世界の終わりです。だから何としてもそれを奪取してここに持ち帰りなさい。」
 遠野家当主は虚空を睨みながら未来に思いを凝らす。

「ははあ、つまりその聖杯とやらの力で秋葉様の胸を大きくしようと。」
 ずばっと真実を看破する琥珀。
「・・・。」
 無言の抗議を向ける翡翠。
「くっ、私の胸を大きくするのはついでです!あくまで危険を排除するのが目的です!」
 焦る秋葉。
「いやいやいや、絶対胸を大きくする方がメインっぽいですよ〜。なにせあらゆる手をつくした秋葉様はもう奇跡にでも縋るしかありませんものねー。」
「姉さんの意見に賛成です。」
「・・・それ以上追求する気なら、それなりの覚悟があるのですね」
「はーい、ここでストップします。」
「・・・チッ。」
「翡翠の態度が気になりますがまあいいでしょう。では明日の早朝に発ってください。」
「しかし秋葉様、私はともかく何で翡翠ちゃんまで?翡翠ちゃんはこのお屋敷から出たことが無いですから情報収集なんて無理ですよ。」
 確かにこの仕事は琥珀1人で十分であった。翡翠は足手まといでしかない。
「秋葉様や志貴さんのお世話をする者がいなくなってしまいますよ?」
「い、いいんです!その、兄さんのお世話は私がしますから!」
 つまり休日を兄と2人きりで過ごしたいから使用人を追い出すつもりであった。
「はあ、秋葉様も計算高くなっちゃいましたねえ。」
 琥珀はしみじみと溜息を漏らす。
「誰のせいですか。ともかく明日は早いのですからもう休んで結構よ。」
「わかりました、ブラコンお嬢。」
「翡翠?」
 琥珀は引きつった笑いを浮かべて翡翠を連れて行く。


「じゃあ、翡翠ちゃんは好きに観光をして羽を伸ばしてて。」
 お姉ちゃんがんばるからねー、と琥珀は雑踏に消えた。
 取り残された翡翠は途方にくれた。
 旅行などしたことのない翡翠には異国に1人取り残されたようなものだった。
(困りました。これなら無理をしてでもお屋敷に残るべきでした。)
 しかし今更、悔やんでも仕方が無いと思い直した翡翠は意を決して街の中に歩み出した。

「何、あれメイドさん?」
「コスプレか?」
 休日のため通りには大勢の人間がいる。
(・・・?)
 翡翠は困惑した。どうやらこの服が目立っているらしい。

(騒がしいのは嫌いです。)
 人ごみを避け、なるべく静かな通りを歩く。
 そのため翡翠はだんだん新都から離れ深山町に向かってゆく。
(橋のこちら側は静かですね。)
 翡翠は少し安堵した。
 商店街に出ると白いメイドが居た。
「・・・メイドです。」
「私は翡翠です。あなたはメイドですか。」
「リーズリットはメイドです。」
「私もメイドです。あいむふぁいんせんきゅ。」
 人指し指の先を重ねる2人のメイド。そのとき重ねた指の先が光った。
「リーズリットお家帰る。」
「さようなら、また会う日まで。」
 別れる2人。

(ここの麻婆豆腐は絶品でした。)
 翡翠はナプキンで上品に口を拭く。
 となりでは神父がカツカツとレンゲを休まず動かしている。
「お持ち帰りをお願いします。」
 志貴と秋葉のお土産にテイクアウトを希望する。
(さて、どうしましょうか。)
 翡翠は目的も無くふらふらと商店街を歩く。
 もし、その男に出会わなければ彼女は平穏な休日を過ごしたであろう。
 その男、葛木宗一郎は切れた電球の玉の代わりを買いに来ていた。
「・・・。」
「・・・。」
 無言で視線を交わす両者。
 どちらも何も言わず路地裏に足を進める。


「・・・戦う理由はないのだが。」
「強者が出逢った。それだけで充分です。」
「確かに。」
 お互い相手の間合いを計りながら距離を取る。
「お名前を聞きましょう。」
「葛木宗一郎。現代社会と倫理の授業を受け持つ教師だ。」
「私の名は翡翠。仮の職業は洗脳探偵。本業は遠野家のなんちゃってメイドさんです。」
「ふむ、では死合うとするか。」
 構えを取る葛木。
「・・・できる!」
 葛木の一部の隙も無い構えに衝撃を受ける翡翠。
 このような男がいるとは。
「では、私も最大の力を持って応えましょう。」
 翡翠の両手が回転し真円を描く。
 ゴゴゴゴ・・・と燃え上がる翡翠のコスモ。
「それは暗黒翡翠流の構え。いまだその流派を受け継ぐ者がいようとは。」
「暗黒翡翠流は一子相伝の暗殺拳。貴方に見切れますか?」
「試してみよう。」
 葛木が一歩踏み込む。
 何の動作の起こりも見せず葛木の拳が点となり翡翠に襲い掛かる。
「ふ。」
 だが翡翠の腕はその必殺の一撃を円の動きで受け流す。
「む。」
 相手の動きが読めない葛木は間合いを僅かに開く。
「どうやら買いかぶりすぎたようですね。」
「・・・。」
 無言の葛木は微動だにしない。

「では、こちらから行きます。」
 翡翠の腕の回転が速まる。
「・・・!」
 葛木が初弾をかわせたのは僥倖だった。
 翡翠の描く円の動きから次々と繰り出される拳の嵐!
「萌えあがれ、私のコスモ!!」
 翡翠の拳は音速を超える。
 一秒間に百発繰り出されるデタラメな連打。
「暗黒翡翠流メイド流星拳!!」
 常人では防ぎようも無い筈の必殺拳。
 だが葛木はやはり動じない。
 音速の拳の嵐がそれを上回るスピードでさばかれる。
「・・・まさか!?」
「ふ、君の流星拳の中で音速を越えるのは、ほんの数発。それでは私は倒せんよ。」
「・・・くっ!」
 やはりこの男は相当の使い手だ。

「最後に聞いておきましょう。私の部下になる気はありませんか?貴方なら姉さんよりいい働きをしてくれそうです。」
 主に掃除で。
「私がそんなことを受け入れるとでも思うか。」
「残念です。殺人鬼というのは皆、馬鹿で愚鈍で朴念仁ですね。」
「・・・。」
「貴方は本気で戦うといいながらまだ余力を残している。しかし私の計算では50パーセント、つまりMAXパワーの半分で貴方を宇宙の塵にできる。」
「何?」
 対峙する2人。
「それははったりが利き過ぎている。」
「・・・。」
(こいつ、はったりじゃない!)
 全ての動きを止めていた翡翠の体が爆ぜた。
 ガキィ!!
 強烈な肘が葛木の顎にヒットする。
「くっ!?」
 よろめく葛木。
 翡翠は葛木を見ずに正面を見据えている。
「くっ!!」
 葛木の拳があらぬ軌跡を辿り翡翠に打ち込まれる。
 だが、翡翠は宙を舞い一閃の回し蹴りで拳ごと葛木を薙ぎ払う。
「ぐはぁっ!!」
 地に倒れる葛木。
「どうやら、息が上がってきたようですね。しかし今ので死なないだけでもたいしたものですよ。」
 葛木は荒い息を苦しそうに吐いている。


「まずい、隠していた実力に差がありすぎたようね。」
「押忍!ししょー質問であります!何で我々はこんな不思議空間にいるんでしょーか?」
「ばかちんの弟子1号!我々はデッドエンドあるところには必ず現われるコバンザメの様な存在!したがって死に逝くものへの嗅覚は抜群なのよ!」
「コバンザメつーかハイエナね。」
 ぱきん!
「百獣の王の虎に向かってハイエナゆうな!!」
「痛ーい!百獣の王はライオンでしょ!?」
 カチッとスポットライトが照らされセイバーが照らされる。
「却下!あんなヒモみたいな生活している動物を王様なんて認めません!」
 カチッと消されるスポットライト。
「ぬうう、しかしなんじゃあ、あのコスプレ娘のデタラメな動きは!あれでは勝利・友情・努力を謳った80年代の漫画雑誌の登場人物のようじゃ!」
「トラ丸のゆうとおりじゃあ・・・って何でこんな喋り方?」
「いいから続けなさい。」
「はーい。ぬう、あれはもしや伝説の暗殺拳、暗黒翡翠流!?」
「知っているのか、ライディーン!?」
「誰がライディーンじゃ!!」


 暗黒翡翠流とはメイドの仕事を根本的に誤解した欧州のメイドが生み出した一子相伝の暗殺拳である。
 その修行はあまりにも過酷で、主人と恋に落ちたメイドは即、暇をだされた。
 階級社会の壁に阻まれた彼女らは山に籠もり方眉を剃り熊と戦ったという。
 ちなみにわが国で食すおはぎが餡子に包まれているのはこの流派の名「暗黒」に由来し、この菓子をお彼岸で食す風習があるのは「メイド」が「冥土」と誤って伝えられたためである。

民明書房館「誰でも作れるお弁当・サンドイッチ編」より


「ショック!餡子の語源が暗黒だったなんてショック!」
 ぱこーん!
「驚く所が違ーう!」
「ともかく我々の出番はこれで終わり!次回のタイガー道場でお会いしましょう!」
「まったねー。」


 完全に敵対者を見下す翡翠。
「猿が人間が勝てると思うか?この翡翠にとってお前はモンキーなんだよ、葛木ィィィィィ!!!!」
 翡翠は大きく跳躍した。
「無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄、無駄アアアーーーー!!!!」
 翡翠の時が止まったような猛ラッシュ!!
「ぶっつぶれろーーーー!!!!ウイリィィィィィィーーーー!!!!」
 爆風が舞い一瞬で視界が粉塵で覆われる。
「フハハハハハハ!!勝ったぞ!これでこの翡翠が地上最強の生物と証明された!そして支配してやるぞ愚鈍な人間共!!」
 翡翠は狂った哄笑を路地裏に轟かす。
「そして、止められる時間も十秒に達した。ハハハ!最高にハイッって奴だ!」
 頭を掻き毟る翡翠。
「・・・!?何だ!?体が、動かない!?」
「お前が十秒の時を止め終えたとき、私が時間を止めた。」
 葛木は翡翠の背後を取っていた。
「・・・!!」
「どうだ、時間を止められて背後に立たれる気分は?例えるなら体育祭で鬼妹と鬼メガネにどちらの弁当を選ぶか迫られる絶倫超人の気分という所か。」
「・・・!」
「だが奴の場合、可哀相とは思わん。自業自得だ。」
 葛木は強烈なローキックを放つ。
 鈍い音が響き、地面に転倒する翡翠。
「このまま貴様を嬲り殺しにするのは私にとって後味の悪いものを残す。貴様の傷が治るまで何秒かかる?治った瞬間この拳を叩き込む。」
 超然と翡翠を見下ろす葛木。
(くっ!舐めやがって!!だが葛木、やはりお前は人間だ。限られた時間しか生きられない者の考え方をする。)
 翡翠は目に憎悪を滾らせた。
(この翡翠の考え方はシンプルだ。勝利して支配する、それが全てよ!)
「過程や経過などどうでもよいのだーー!!」
 昼食でお持ち帰りにしたマーボーのパックを握りつぶす。
 葛木の顔に向かって飛び散る灼熱の豆腐!!
「うっ!?」
「どうだ、このマーボーの目潰しは!?そして勝った!!死ねぇーーい!!」
「うぬぅ!!」
 翡翠の全身全霊を込めたハイキックを拳で迎撃する葛木。
 ガッシーン!!!!
 お互いの全力の一撃はちょうど両者の中間で激突する。
「くっ!!」
「ふ。」
 勝利を確信する翡翠。
 しかし・・・。
「何ぃ!?バカなあ!?この翡翠があああーーー!?」
 葛木が打ちつけた翡翠の脛の部分から亀裂が入りそれが翡翠の身体を駆け上ってゆく。
「ばっ、ばかなあああーーーー!!!!」
 爆裂する翡翠。
「貴様が負けた理由はシンプルだ。貴様は私を怒らせた。」

 勝者は散乱した翡翠の残骸を見下ろす。
「何!?」
 翡翠の肉片はまるで生き物のように蠢き、互いにくっつき合い、そしてやがてメイドの姿を取る。
「ふふ、私はメイド大臣の血に連なるメイドの王族。つまりメイドを越えた超メイド。貴方ごときに私は殺せませんよ。葛木さん。」
「急にマイナーなキャラを選んだな。」
「今のは痛かった・・・。」
 再び構えなおす葛木。
「今のは痛かったぞおおおーーーー!!!!」
 頭から突進する翡翠。
「ぐあぁっ!!」
 まるで砲弾のような翡翠の頭突きが炸裂する。
「この翡翠が死にかけたんだ。」
 再び円の動きを見せる翡翠の両腕。
 暗黒翡翠流最大奥義御奉仕推奨拳の構えだ。
 高まるコスモはセブンセンシズにまで到達しスカウターを破壊する。
「ははははは!!もうこの銀河を破壊できる程の気が溜まったぞ!!」
 もはや常識とか物理法則とかが通用する世界では無い。
「さたでぃ・ないと・ふぃー・・・。」
 世界の終わりが唐突に訪れたその瞬間。
「宗一朗様!?」
 キャスターが現われた。

「宗一郎様の帰りが遅いので心配して探しにくればこんな事に。貴女は何のサーヴァントですか?」
「私は遠野家のメイドです。」
「遠野家?ええい、あなたのマスターは誰です?こそこそ隠れてないで出て来る様にいいなさい!」
「私のご主人様は志貴様です。志貴様は愚鈍です。」
「????」
「キャスター下がっていろ。お前の敵う相手ではない。」
「嫌です!マスターを守るのはサーヴァントの当然の役目です!」
 マスター?サーヴァント?
 この2人は・・・。
「その男性は貴女のマスターなのですか。」
「いや、私の婚約者だ。」
「宗一郎様・・・。」
 翡翠を前にして感極まるキャスター。
 マスターでサーヴァントで婚約者・・・。
 何て羨ましい。
 殺意を消す翡翠。
「止めを刺さんのか?私は敗者だ。貴様にはその権利がある。」
「今日は良いものを見せて頂きました。それに免じて今回だけは見逃してあげましょう。」
 無防備な背中をさらして去っていく翡翠。
「宗一郎様、あのメイドはいったい?」
「さあ。」


エピローグ

「翡翠ちゃんお待たせー。」
 姉さんが駅の待ち合わせ場所に時間通りにやってきた。
「ご苦労様です、姉さん。」
 私は精一杯暖かく迎える。
「翡翠ちゃんも1人で大丈夫だった?お姉ちゃん心配したんだから。」
い つまでもこの人は私を子供扱いする。おかしくて私は微笑んだ
「あれ?翡翠ちゃんが笑うなんて珍しいね。何かいいことあったの?」
「はい、とても良いことが。」
「そう・・・。良かったね翡翠ちゃん。」
「はい、姉さん。」
 私と姉さんは鏡を挟んだ像の様に微笑みあう。
「さあ、帰りましょう。夕飯までには帰りたいわ。」
「はい、姉さん。」
 初めは怖かったけどとてもおもしろい一日だった。
 帰ったら志貴様にも話してあげよう。


「えっと、このセイバーさんという方の真名はアルトリアと言って、なんと正体はアーサー王なんですよ。」
 屋敷についた姉さんは早速、秋葉に報告している。
「それで監督官の言峰綺礼神父、この人は実はランサーとアーチャーのマスターです。」
「何で2体もサーヴァントを保有しているの?」
「アーチャーは前の聖杯戦争の生き残りで、元々この神父さんのサーヴァントですね。ランサーはバゼット・フラガ・マクレミッツという魔術協会から派遣された魔術師さんから奪い取ったようです。」
 姉さんはすらすらと秋葉様の質問に答える。
「これは今回のマスターの名前と所在地をまとめた表です。わかる範囲で各マスターの能力とサーヴァントの能力、それに真名と宝具も書き込んであります。」
 姉さんはてきぱきと書類を指し示す。よく半日であれだけの情報を集められたものだ。
「それで肝心のブツは?」
「はい、要となる大聖杯は柳洞宗の地下空洞にあります。しかし、聖杯を使えるのはサーヴァントだけです。」
「そう・・・、つまりサーヴァントを使役できる魔術師の知識が無いと駄目ということね。」
「そういうことになります。」
「今から身に付くものでもないし、誰かを懐柔するしか・・・。」
「それはどうでしょう?聖杯戦争は2週間程で終結してしまうそうです。今から工作しても・・・。」
「くっ、間に合わないか!」
 心底悔しがる秋葉様。
「それでどうします、秋葉様?」
「今回は諦めざるを得ないようね。」
 やれやれといった私の溜息を秋葉様は耳ざとく聞き当てた。
「翡翠もご苦労様。貴女も大変だったわね、慣れない仕事をして。」
 それは労りではなくただの皮肉。この小姑が。
「秋葉様にお土産があります。」
「私に。」
「はい、本当は志貴様の分も買ってきたのですが1つ駄目にしてしまったので。」
「兄さんではなく私に?」
「勿論、秋葉様は遠野家の当主ですから。」
 ふん、と顔を赤らめる秋葉様。この方もいつもこうだと可愛らしいのだけど。
「まあ、せっかくの好意を無下にするわけにはいかないわね。」
 秋葉様はパクッとマーボーを食べた。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!」
 ざまあみろ。
「翡翠――――!!!!」
 爆発する秋葉様。
 私はアクションヒーロー並の動きで窓をぶち破り庭に脱出した。
 追いかけてこないところを見ると辛さが脳天を直撃したらしい。
 ほとぼりが冷めるまで庭を散歩しよう。
 冷たい冬の空気は澄み切っている。
 空には満天の星。
 あの人達も同じようにこの星空を眺めているのだろうか。
「翡翠?」
「志貴様。」
 私のマスターはいつも唐突だ。
「秋葉様は・・・。」
「琥珀さんが看てるよ。」
「すみません、志貴様。」
「いいよ、あいつにもたまにはいいお灸だ。」
 くくっ、と悪戯坊主の顔をする志貴様。
「寒いから屋敷に戻れよ、翡翠。」
「お心遣いはありがたいのですがもう少し散歩をしたいので。」
「そっか、じゃあ俺も付き合おうかな。」
 私達は並んで歩く。
 空には満天の星。
 きっとあの人達もあの星空を一緒に眺めている。

END





後書き

エピローグが長くなりすぎました。


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