いぬみみせいばー でーとへん (M:犬耳セイバー 傾:ほのぼの・コメディ)


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1: てぃし (2004/03/02 06:06:08)

前回までのあらすじ
 セイバーに犬耳と尻尾が生えました。
 ただいまデート中です。


「……シロウ、何の冗談ですか?」
「んん? まだルール把握できてない? じゃ、もう一回説明すると……」
「いえ、そういうことではありません、だいたいルールと呼べるほど複雑ではないでしょう」
「まあ、そっか」
「私が尋ねてるのは、そういった意味ではありません、本当にこのようなことをするのか、という意味です」
「だから、さ。ほら、セイバー身体を動かすの、得意だろ」
「それは認めます」
「で、楽しむってことから見れば、競争するのより、こういうものの方がいいだろ」
「……争いごとでは熱中してしまうのも、認めましょう」
「だから、平和的で、身体を動かせるこれは、最適だなと思って」
「ですから! もう一度、尋ねます」
有無を言わせぬ迫力だった。
貫き通すような目で、こっちを睨んでる。
「何故、フリスビー投げなのですか!?」


Fate/stay night ss

いぬみみせいばー でーとへん

てぃし


「ん、不満?」
「不満とかそういうことではありません」
「というと?」
「私はこのようなものを生やしてますが、決して完全に犬というわけではありません」
「ふんふん」
「ですから、そのような遊びは、今の私に適さないということです、ですから…」
「ほ〜ら」
俺は軽くフリスビーを投げてみた。
回転力を得た円盤は、ゆっくり飛ぶ。
「むっ」
セイバーは、それを認めて追いかけた。
その様はまさに猟犬、尻尾は横一直線になびき、目は細められていた。
「はっ」
ジャンプしながら身体を捻り、まだ空中にある円盤をキャッチした。
「おお〜」
手を叩く。
着地しながら、セイバーは、ハッ! とした顔をした。
「すごいすごい」
「ち、違います、今のは…」
「よし、いい子いい子」
撫でる撫でる。
「……ぅ……」
ぱたぱた
「さて、もう一回、いくよ?」
「え、いえ、先ほどのは間違い…」
「そ〜ら」
先ほどよりも遠くに飛ばした。
海岸沿いの風がフリスビーに変化を与えていた。
右にくくっ、と曲がる。
すでに走っていたセイバーは、タイル張りの地面を蹴り、それに対応した。
走りながらバックハンドでフリスビーを掴む。
まるで円盤と並走をしながら、バトンタッチで受け取ったようだった。
「セイバー! ナイスっ!」
とてもいい笑顔でセイバーは応えた。
「っと、ち、違います! シロウ、これは違うのです!」
「うし、いい子だ、よしよし」
近づき、彼女のうなじから背中にかけて撫ですさる。
「ん……ぁ…」
ぱたぱたぱたぱた
「気持ちいい?」
「う、そんなこと、ありません」
目をそむけて言った。
「こんなに尻尾、振ってるのに?」
かなりの勢いだ。
「あ、これは、その……」
恥ずかしそうに俯いた。
「そうだ、次に取れたら、ご褒美にこれをあげる」
尻尾が、ぴんっ、と上がった。
「これは」
「そう、新都で売ってる、すごく美味しいシュークリーム。皮には塩が入ってて、中身のクリームも甘さ控えめ。絶妙の配分で幾らでも食べられる奇跡の一品!」
「あ、あ」
「おすわり!」
…本当に座るとは、思わなかったよ……
セイバーの目は、俺が取り出したシュークリームしか見てなかった。
口元に、ちょっと近づけてみる。
…少し、セイバーの口が開いた。
もっと、近づける。
…さらに、セイバーの口が開いた。
けっこう大きめなシュークリームなのだが、まるで「ひと口でたべちゃる」と言わんがばかりに、小さな口を精一杯あけていた。
もう、目と鼻の距離になってから、セイバーはちらっと此方を見上げた。
許可を求める視線だ。
尻尾は「もう、待ちきれません!」と全力で主張していた。
正座で、尻尾を全力で振るセイバーは、正直、ちょっとかわいかった。
「でも、ダメっ!」
「ああ!!」
悲しげに、遠ざかってゆくシュークリームを追いかけた。
「こ、こら、セイバー」
「シ、シロウ、シロウ!」
こどもみたいに、俺の持っているシュークリ―ムに両手を伸ばしてくる。
俺はわずかにある身長差を利用し、真上に上げてそれを守った。
「ダメだって、うわっ、ジャンプするな」
「で、ですが」
……涙目になるくらい悔しいのか、セイバー。
あと、身体ごとジャンプしたりしないでくれ、ちょっと柔らかくて小さいのが当たったぞ。
「だから、このフリスビーを取れたら、あげる」
「……」
セイバーは真面目な顔で、コクっ、と頷いた。
「魔術の基本は等価交換、それは現実でも変わらない。セイバーがフリスビーを取れたら、このシュークリームを手に入れられる。OK?」
「了解です、シロウ、万難を排して、手に入れてみせます」
ここまで真剣なセイバーは、見たことが無かった。
まるで、人生最大の試練が訪れてるような、気合の入り方だった。
「よし、じゃあ、行くよ」
「はい」
海沿いの海浜公園。
左には海と川の端境があり、特徴的な橋がかかってる。
目の前は真っ直ぐなタイル張り。茶色と白の織り成す模様が目にやさしい。セイバーの背中もそこに見える。
右はしばらく先にバッティングセンター、球を弾き返す音が断続的に響いてた。
(さて……)
考える。
実はこのシュークリーム、あまりに人気が高くて一つしか買えなかった。
よって、仮にセイバーにあげてしまうと、俺の分がなくなる。
前からこのシュークリームには目をつけていたのだ。本来ならセイバーが取っても取らなくても食べさせる予定だったのだが、少し変更を加える。
(俺が勝ったら、俺が食べる!)
料理人として、デザートとはいえ、美味しいものには興味がある。
セイバーは、俺の迫力を感知したのか、より神経をぴりぴりさせた。
その判断は正しい。
(悪いな、セイバー)
この勝負、負けるわけにはいかない。
『強化、開始(トレース・オン)』
撃鉄の引かれる音が響いた。
フリスビーの立体図面が脳裏に浮かぶ。どこが弱く、どこに補強が必要なのかが手に取るように分かった。
遠坂のお陰で、『強化』に関しては、かなりの成功率を得ている。
もはや、失敗することはない。
図面から、魔力をどこにどれだけ流せばいいか判断し、自分の魔力を細く、それこそ絹糸よりも細くして流し込む。
想定するのは『鋭さ』。大気を切り裂き、障害物を切り裂き、地面までただ走り抜ける、チャクラムじみた『鋭さ』をイメージする。
『アイツ』も言っていたではないか。
俺が勝てないなら、勝てるものを想像すればいい。
俺の運動力では、セイバーに勝てない、ならば、補って有り余るだけの道具を用意するのだ!
目を開くと、そこにはもはやフリスビーとは言うことのできない、銀色の円盤があった。
……こりゃ、『強化』というよりかは、むしろ『変化』に近いかもしれない。
中心から最外まで平面だった。湾曲が失くなってる。
凶器以外のなにものでもなかった。
「レディ」
でも、ためらい無く構える。
ここまできたら男は退けない。
セイバーの腰が一段、下がる。
「スタート!」
掛け声と共に、二つの矢が放たれた。その速度はまさに閃光。タイルに二条の直線が刻まれた。
一つは俺が放った銀円盤、もう一つは魔力を纏ったセイバーだ。
「あ、ズルっ!」
魔力なんか使ったら、勝てるわけないじゃないか。
「シロウに言われたくはありません!」
そんな声が返ってきた。
む、実はどっちもどっちか?
「もらいました!」
同じ速度で並走してるのだ。
手を伸ばせば掴める道理だった。
だが、
「きゃっ!」
バシっ、と弾かれる。
「よしっ! 『強化』は成功だ!」
「シ、シロウ! いま防御しなければ、切れてましたよ!!?」
あー、ちょっと『鋭く』しすぎたかな。
「ゴメーン! ちょっと注意して!」
「これは既にフリスビーではありません!」
「いや! ちゃんと回転しながら飛んでいる!」
拳を握って力説してみる。
「どんな理屈ですかっ!」
たしかに枝とか斬りながら直進する銀円盤を見てると、我ながら言ってることが無茶苦茶だなあ、とは思う。
「くっ、ならば!」
ふたたび銀円盤に近寄るセイバー。
今度は両手をつかって、その中心を挟み込もうとした。
「わっ」
ヤバイ。
その方法では確かに捉えられる。
「はっ!」
ブンっ
「へ?」
銀円盤が、突如として横に移動した。
セイバーの両手をすり抜けるように、離れていった。
「わっ、わっ」
彼女は、崩れそうになる自分の体勢を、なんとか立て直そうとしてた。
転がり倒れる寸前だったのを、自分の尻尾を勢い良く振ることで立て直してた。
その間、銀円盤は川の上を飛んでいた。
かなりの突風を切り裂き、優雅に水上を飛んでいる。
「くっ」
セイバーは悔しげに眉を吊り上げ、睨みすえた。
鉄柵を挟み、再び、一人と一つは並走した。
彼女が息を吸い込む様子が、俺の魔術で強化された目に映った。
まさか?
彼女の周りを幾つもの光輪が囲んだ。
急激に、その数と種類を増やし、そして、弾けた。
光の爆発の後には、鎧を身に纏ったセイバーがいた。
「お、おい!?」
そして、そのまま鉄柵を破壊しながら突っ込み、川の上を『走った』。
「水上歩行か!」
魔術炉心とでも言うべき、『血肉がそのまま魔術回路となってる』セイバーだからこそできる芸当。
足の下は虹のような魔力を踏み締めていた。
「とった!」
籠手に包まれた拳を使い、アッパーカットで叩き上げた。
否。
そうしようとした。
「!?」
叩こうとした銀円盤は残像だった。
「む!」
セイバーはその場で回転しながら、裏拳を放った。
拳に火花が散る。
銀円盤の『本体』が、弧を描いてセイバーに攻撃したのだ。
……てーか、俺は一体、どんな『強化』をしたんだ?
銀円盤の攻撃は一撃で終らず、弾かれながらも次々とセイバーに迫った。
「くうっ!」
彼女はそれらを全て弾きながら、右手を伸ばした。
そこには風を巻き上げながら出現する、見えない剣が。
「って、おい!」
「はあっ!」
セイバーは魔力を注ぎ込み、『風王結界』を展開した。
「! そうか!」
いくら常識外の動きをしても、所詮は円盤。
どうしたって風の影響は受ける。
彼女は素手で掴むことを諦め、風で捕縛することにしたのだ。
セイバーの持つ愛剣がその姿を現し、突風というにも烏滸がましい、強力な烈風が俺の所まで届く。
「終わりです!」
水の上に立ち、百万の軍勢を指揮するように風を操っていた。
その剣は軍勢の行方を的確に示し、凛とした立ち姿は、それだけで敵の意気を挫く。
銀円盤は、見たことも無いような複雑な軌道を描き、セイバーの風から逃亡を試みてた。ほとんどは回避成功したようだが、
「あっ……」
一つ、ただ一つの風が銀円盤を打ち据えた。
ひょろひょろと力なく失墜し、
「「あ」」
ぽとん、とタイルの上へと呆気なく落ちた。
セイバーの手に収まることなく。

「ということで、悪いねセイバー、これも勝負だから」
俺と彼女は、地面に敷いたビニールシートの上で向き合っていた。
中央に置いてあるのは勝利の証、シュークリームだ。
セイバーは口をへの字にして、俺を不満そうに睨んでた。
尻尾を上下にバッタバッタと揺らしてる。
「さて」
取ろうとした俺の手を、
「!」
はっしとセイバーが掴んだ。
「セイバー、離して?」
「あ、ああ、そうです。シロウが勝利者でした……」
手が離れる。
にっこりと微笑みかける。
セイバーも、口の端が引きつってたけど、笑い返してくれた。
「さて、と」
ガシぃっ!
「……セイバー?」
こんどは両手でだった。
「……」
目を横にそらしながら、赤い顔で尋ねてきた。
「あの…」
「うん?」
「全部、食べるのですか……?」
「うん、そりゃあそうだよ」
大きめではあるけど、残すほどじゃない。
「ちょ、ちょっとは残しませんか?」
「いや、そんなもったいないことはしないさ」
セイバーは、む〜、て視線で見てくる。
だが、しぶしぶ両手は離してくれた。
「じゃ、いただきまーす」
パクリと一気に半分を食べる。
「ああっっ!!」
なんか、この世の終わりのような声が聞えたような。
まあ、気にしない気にしない。
勢いのまま、全部食べきる。
「あ、あ〜〜!!!」
さすがだ。
このサクサクした皮、トロリとしながらしっとりとしたクリーム、隠し味として入ってるであろう、この芳香はなんだろう? とにかく絶品の名にふさわしかった。
「ごちそうさま」
両手を合わせてペコリと頭を下げる。
美味美味♪
「さあーてと、じゃあ、セイバー」
次の予定を言おうとして、
「おっ!?」
両肩をガッシリ掴まれた。
「……シロウ……」
「な、なに? セイバー、なんか目つきが尋常じゃないんだけど」
「知っていますか?」
「ん、何を?」
「子犬は、飼い主の口の周りをなめたがります」
「へ?」
押し倒された。
背中からビニールシートに叩きつけられる。
「かはっ」
呼吸が一瞬とまった。
身動きができない。
「セイバー! 何を……?」
目の前に、彼女の顔があった。
身体は、密着してる。
「シロウが、悪いんですよ?」
すごくやさしく微笑み、
「うおっ!!??」
唇を舐められた。
ぺろぺろ、口とその周りを舐める。
「お! おお!?」
逃げ出そうにも、両肩が押さえられてるので動けない。
俺は固定されたまま、セイバーにぺろぺろ舐められつづけた。
「んっ、んっ、んっ……」
セイバーの身体が、俺の上を前後に移動してるのが、すごく良くわかる。
てーか、これは犯罪級だ。
「ん……ご馳走さまでした」
にっこり。
あう。
「たしかに美味しいですね、噂に違わぬ味でした♪」
バタリと俺は四肢を投げ出した。
もう、
これは完全な負けだ。
俺は試合に勝って、勝負にも勝って、ただ、結果で負けた。



――――――――――――――――――
あとがき

はっはっは。
なんていうか、アレです。
前々回はやりすぎたので、おとなし目、ほのぼのとしたものを主路線で!
とか誓ったのは一回で終りました。
書き出すと、果てしなく悪ノリしてしまうみたいです。
けど、この方が書きやすいんですよね。
たぶん、本能のおもむくまま書いてるからでしょうが……
この先の展開がちょっと不安です。
あ、あと、魔術関連はかなりいい加減ですので信じないでください。
では


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