運命の輪 4.5 (傾 シリアス


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1: (2004/03/01 23:38:13)


抱きかかえたまま客間に運んだが、諸事情により色々とヤバかったです。
思ったよりも桜の熱は低く、一晩大人しく寝れば大丈夫だろう。

   ◇


――運命の輪―― 4.5話 ”A Slaughter. ”


   ◇

――Interlude 5-1――  山門にて

雅な着物を纏う男の手から、五尺という異様な長さの刀が落ちる。
長い階段を甲高い音を立てながら、刀は転がり落ちていった。
着物は血に濡れ朱に染まり、唇からは血を流す。
石段に膝をついて相手の姿を見る。それは影。ただ、影が存在しているのみ。

――闘いと呼ぶに相応しくは無い闘いは終わった。

一方的な虐殺。そんな単語が相応しい。刃を交えることなく、敵を敵と認識する間も無く終わった。
影は門番を幼子のようにあしらい、両腕を切断し、玩具のように弄んだ。
次元の違うモノに、偽りのモノが勝てる道理はない。

「――――なんと。よもや、蛇蠍魔蠍の類とは」

腹から腕が生える。いや、腹からナニカが這い出す。
その言葉はその影に向けられたものか、裂かれた胸中に生えた奇形の腕の持ち主にか。
山門を守っていた剣士は、自身の体が他のナニかに変わっていくのを、只見ているのみ。
五臓六腑を奪われ、両腕を切り落とされ自害も出来ぬ剣士は、ただ哂っていた。

「……よかろう、好きにするがいい。所詮は我が腹より這い出るもの、ろくな性根ではなかろうよ――」

唇は血糊の赤とは正反対に蒼白。その微笑は、幽鬼の見せる微笑かと思わせた。

   ◇

そして、偽りの”暗殺者”は消え、紛れもない真の”暗殺者”が召喚された。
偽りだったモノの血肉を奪い、その臓腑より這い出しモノ。

「キ――――キキ、キキキキキ―――――――――」

産声は蟲のソレに似ている。卵から産まれた蟲がそうするように、剣士の残骸を貪る。
貪れば貪るほど人の形に近づき、知識が脳漿に蓄えられる。
半刻ほどして、”暗殺者”は剣士をカケラも残さず喰い尽くし、自らの誕生を祝福した。
闇の中に白い髑髏が浮かんでいた。


――Interlude out―― 士郎視点へ


午後十一時を過ぎ、街が眠りについた後で巡回を開始。
柳洞寺へ行くことをセイバーに伝える。
予想していた事だが、セイバーはあまり乗り気では無いらしい。
柳洞寺の在る円蔵山はサーヴァントにとって鬼門。軽はずみな侵攻は避けたいそうだ。
しかし、何時かは戦うことになる相手、早々に決着をつけるのが吉であろう。
その意見には、セイバーも賛成してくれて正面から打ち破ることになった。
セイバーは桜の事を心配してくれているらしい。嬉しいことだ。

しかし、アサシン――佐々木小次郎を倒せるかは分からない。

――これは、賭けになるな。

今から向かうは敵地。戦闘になるであろう事は必至。勝つか負けるか、これは大きな博打となる。

   ◇

武装したセイバーと石段を登る。敵の襲撃に備え、身構えているために会話は無い。
あの寺にサーヴァントが侵入するには、この石段以外にあり得ない。
だというのに、危惧していた待ち伏せは無く、サーヴァントの気配さえしない。

 「……オカシイ、な」
 「?何がですか」
 「アサシンの気配がしない。あいつは山門を守るサーヴァントだ。居ないというのは、オカシイ」

そう、オカシイ。ナニカが違う。ドコカが違う。
嫌な予感の変わりに、今までの記憶との相違が違和感を教えてくれる。

ふと、セイバーが足を止めて視線を下げる。

 「セイバー……?何かあったのか?」
 「……いえ、私の気のせいでしょう。カタナらしき物が見えた気がしましたが、そのような物は何処にもない。――この山門に守り手はいません。境内に向かいましょう」

『カタナ』…佐々木小次郎の武器も刀だ。あいつが、倒されたのか?

 「いや、山門はアサシンが守っていたはずだ。居ないとすれば、倒されたか――」

――他のモノが召喚されたか。

おかしな考えが浮かんだ。
そんな訳は無い。今まで一度もサーヴァントが違ったことなど無い。
そんな訳は無いのだ。

 「どうか、しましたか?」
 「……何でも無い。行こうセイバー」

その考えを振り払うように早足で石段を登り、山門を潜り抜けた。

   ◇

境内は静かだった。
人の気配の希薄なこのナカで、俺とセイバーは居てはならないとさえ感じる。
風が強く、闇は濃く、此処だけ月の光が届いていないような錯覚。
しかし、月の光は確かに境内を照らしている。
そう錯覚するほど、境内は闇に沈んでいた。

 「セイバー、様子がおかしい」
 「ええ、ここまで来て反応が無いのはおかしい。それに――ここは静か過ぎます」
 「……中を調べよう。キャスターを探せば分かることだ」

寺の中に進む。周囲に人影は無く、無人であることを確認して寺の中へ進入した。

寺の人間は、一人として起きてはいなかった。
何をしても反応がなく、衰弱しきっている。ただ、規則正しい呼吸を繰り返すのみ。
確認し終え、板張りの廊下を移動する。
セイバーがキャスターの気配を感じたからだ。方角は奥の本堂。
寺の中心部にキャスターが潜んでいる。

お堂に踏み入ると、床に広がっていく赤い血が目に付いた。少し眺め顔を上げる。
お堂の中心で、その血の源泉が倒れていた。
男が、胸を赤く染めて倒れ伏している。
致命傷。出血は、死に至る程の量が流れ出てしまっている。既に、死体。
死体の名は、キャスターの主(マスター)であり、学校の教師であり、何らかの殺人技術を持っていた男。

――葛木宗一郎。

傍らに呆然としたキャスターが立ち尽くしている。
手に持つは、歪な短剣『破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)』。

 「キャスター……!」

身構えるセイバー。反応しないキャスターに踏み込もうとする。

 「待てセイバー……!あれは只の短剣じゃない、強力な解呪能力を持つ宝具、マスターとサーヴァントの契約も断つ、魔術破りだ」
 「では――キャスターは自らのマスターを」
 「……」

それは、判らない。勝手な答えを口に出すのは、何故か誰かを侮辱している気がした。

   ◇

キャスターとセイバーの闘いは、一瞬で終わった。いや、戦闘と呼べるものではなかった。
キャスターの魔術は、全てセイバーの高い対魔力の前に無効化され、一撃でキャスターを仕留めた。
ある意味、一方的な虐殺だろう。

寺を後にする前に異様な視線を感じた。
俺の勘違いということで済ましたが、それが頭の片隅に引っ掛かった。
後ろ髪を引かれる感覚、そんな感じ。それを振り払い、寺を去る。
寺のことは言峰に連絡して、後を任した。


――Interlude 5-2――  本堂にて


物言わぬ屍を飲み込む影。
食すのではなく、自身の体の一部として吸収する。
男の死体と、それに付き従ったモノを欠片も残さず平らげる。
本来、消滅したサーヴァントの行き着く先は聖杯のみ。

 「―――――」

それを阻害し、妨げた影は音も無く泣いた。
悶え、咽び、苦しみ、暴かれながら、ようやく一人目を飲み込んだ。
ヒタヒタと歩く影には、それでは足りない。
声をもたないソレは、全身でイタミを表現する。

――嘆く、嘆く、嘆く、嘆く

言葉でもなければ、感情でもない。
もとよりそんな機能は付属していない。
しかし、自らの存在に、いま、初めて気が付いた”何か”のように、ソレは嘆く。
悲痛の嘆きに気付くものは、誰一人としていなかった。


――Interlude out―― 士郎視点へ


午後二時過ぎ、俺達は家に帰って来た。
桜の様子を見て、色々やっていたら午後三時。
一時間も掛かったのは、諸事情により色々とヤバかったからです。

 「修行が足らぬ。精進精進。色即是空、色欲断つべし!」

雑念、邪念を振り払い、布団に潜る。
一成の口癖を使ってしまうほど切羽詰っていたようだ。


to be Continued


あとがき

ついに五日目も終わり、そろそろ本題に入っていくな〜と悩む日々、どうも鴉です。
なんか一番長い話だな、これ。
バトルの予定が、シリアスに変更です。

今回の副題の意味は『虐殺』です。(たぶん)
この話のイメージにピッタリだね。

次回、アレのことでどうしよう〜、な感じ


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