いぬみみせいばー でーとへん◆複諭Д札ぅ弌叱ぜ・尻尾つき 傾:ほのぼの)


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1: てぃし (2004/03/01 23:00:50)

前回までのあらすじ
 セイバーに犬耳と尻尾が生えました。
 ただいまデート中です。
 士郎は前回、暴走してます。



「……」
「な、ゴメンって」
「……」
「俺が悪かった!」
「……」
「本当にゴメン、反省してる」
「……」
セイバーの肩からは怒りのオーラが立ち昇り、足はズンズンと、その体重ではあり得ない音をさせていた。
向こうから来る人は、皆、彼女を避けて通ってる。
たまたま進行方向のガラスに反射した彼女の表情は、戦場を駆け抜けるそれだった。
とても凛々しく、凄く恐い。
はあ。
やっぱり、まだ許してくれないか。


Fate/stay night ss

いぬみみせいばー でーとへん◆

てぃし


ぴたり、と。
セイバーの足が突然、止まった。
むむ?
ゆっくりと、振り向いた。彼女の背後で炎が舞ったようにさえ見えた。
「……シロウ……?」
「は、はい! なんでしょう!!」
思わず敬語になった。
気分としては、のどもとに剣先を突きつけられてる感覚。
それほど鋭い視線だった。
「ひとつ、質問があります」
「はい!」
「なぜ、あのような真似をしたのです?」
え、えーと公衆の面前で、セイバーを失神寸前まで撫でたことか?
「そ、そりゃ、セイバーがあの巨大な犬と闘おうとしてたからじゃないか。あの巨大犬・ゴロちゃんとの戦いを静止するにはあれしかないと思ってさ」
「……ですが、それは途中で止めても良かったのではないですか?」
「あ、うん」
「では、なぜ」
「それは、セイバーがもの欲しそうな目で、俺を誘うから仕方無く…」
「そ、そんな筈ありません!!!」
がおーっ、てな感じで吠えた。
尻尾は天を突き、かぶっていた帽子は跳びあがる。
「いつ! 私があのようなことを望んだというのです!? あ、あのように、私が咽もとやおなかや頭や背中を撫でて欲しがると!?」
「うん」
「シロウ!! それは私に対する最大限の侮辱です! 撤回してください!!」
「でも、セイバーも撫でられてる時は、嫌じゃなかったよね?」
「な、そんなわけは…」
「ない?」
無言で頷いてた。
うむ。
「じゃあ」
一歩、セイバーに近づいた。
ビクリ、と彼女の肩が震えた。
「試してみよっか」
手を、伸ばす。
「ひゃ!?」
彼女は一瞬で十メートルを跳んだ。
微妙におびえた表情をしていた。
俺は距離を縮める。
脳裏に思い浮かぶのは、俺の腕の中で、全身を使って悶えてた彼女の表情。
「ち、近づかないで下さい! 分かりました! 私にも若干の責任がないこともないです!!!」
手のひらを向け、止めてきた。
「む、そうか?」
「は、はい、認めます!」
「じゃあ、喧嘩両成敗ってことで……」
とか言いつつ、近寄ろうとしたが、
「で、ですが!」
彼女はキッとした目つきでこちらを睨んだ。
「問題は他にもあります」
「え」
「私が気がついた時、らぶほてるの入り口を、シロウが開けようとしていたのは何故です!!」
あー、そういえば商店街ズから本能的に逃げた先が、そこだった気が……
形勢が逆転してるのを感じた。
一歩、下がりながら言う。
「きゅ、休憩のため?」
「なぜ半疑問形なのですか!」
セイバーが踏み込んできた。
「休憩場所ならば他にもあったはずでしょう!」
踏み込む。
うっ!
「個人医院も近くにはありました!」
踏み込む。
ううっ!
「意識の無い私を連れ込んで、いったい何をするつもりだったのですか、シロウは!!」
うううっっっっっっ!!!!
形勢逆転。
でも、あの時は本能だけが暴走してたんだよなあ……
「え、えーと」
助けを求めるように周囲を見渡してみた。
道行く人は、みな顔を背けた。
世間の風はとても冷たい。
もう、かなり近くまで詰め寄ってきたセイバーに、苦し紛れに俺は言う。
「た、たしかブラッシングするために、かな?」
ぴく、っと彼女の眉が動いた。
「ぶらっしんぐ、ですか……?」
「うん、ブラッシング」
でも、興味を引いたみたいだ。
ここぞとばかりに俺は畳み掛ける。
「例えば、セイバーのその尻尾」
指を差す。
彼女はサッ、とおしりに手をやった。
「ちょっと毛玉とかできてるだろ? それをコームって名前のブラシで梳かして、ふかふかにしたりする」
「……ふかふか……」
「そう、毛と毛の間に空気をいれる感じになるし、皮膚呼吸も楽になるらしいよ、もちろん、色つやも良くなるし」
「……」
顔には何の表情も出てないけれど、スカートがかすかに動いた。
「あと、ブラシで皮膚を刺激するようなものだから、マッサージ効果もあるみたい。血行が良くなって新陳代謝も促進されるって」
ウズウズしていた。
眉を寄せて考えてる。
これはもしかして……
「そ、そういえばさ」
「はい」
「ラブホテルって、どんなところか知ってる?」
様子を窺うように聞いてみた。
「……」
セイバーは困った顔で、
「いえ、タイガからは、まだ私には早い場所。リンからは、私がどのような理由があっても行ってはいけない場所とだけ……」
よし! 説得の余地あり!
「そ、そうなんだ」
「はい、一体どのような場所なのですか? シロウからあり得ないほどの邪気が出ていたので、決して良い場所ではないとわかるのですが」
けど、見透かされてる!?
「ホテルと言うからには泊まる場所なのでしょう? それなのに時間単位でも清算できるのは、おかしいと思うのですが」
鋭い……
「シロウのようにぶらっしんぐをする為だけに行く場所とも思えませんし」
そ、そりゃあ。うん。
「シロウ? 教えてはもらえないのですか?」
「そ、それは、セイバーにはまだ早いというか、教えたくないというか」
「入ろうとしたのにですか?」
ちょっと冷めた目で言ってくる。
「は、ははは……」
笑って誤魔化すしかない。
セイバーは溜息をつきながら。
「まあ、それなら仕方ありません。今度、アヤコに聞いてみることにします」
と言った。
「? なんで美綴なんだ?」
「いましたから」
「え……」
顔から血が引いた。
「おぼろげな記憶でしたが、シロウが扉を開けようとしていた時、後ろでアヤコが非常に驚いた顔で私たちを見ていました」
「……まじ?」
「マジです、シロウを「そんな馬鹿な」という表情で見てました」
「……!」
俺は全力で左右を見渡した。
もちろん、誰もいない。
ガンド撃ちが飛んで来たわけじゃなかったけど、美綴も発見できなかった。
けれど、想像の翼は羽ばたいた。ラブホテル前で目をまん丸にした美綴、慌てて離れ、すばやく携帯で電話する、すごい勢いで喋り、伝えた相手の受話器がメキぃ、っと音を立てて握りつぶされる、その様子まで幻視できた。
ヤバイ。
本当にヤバイ。
俺の命脈は尽きようとしてる。
美綴に知られるって事は、遠坂に伝わるってことだ。
俺、死ぬ!!?
今時めずらしい公衆電話を発見し、俺は走った。
ポケットの中から電話帳を取りだす。
「シロウ?」
セイバーの不思議そうな声が聞えるが、答えてる暇がない。
まだ美綴が伝えてない、その一縷の希望にこの身を賭ける!
俺は、震える指で番号を押した。

「シロウ、良く分かりませんが、お疲れ様です」
「あ、ああ、ありがと……」
公園で、俺はぐったりとしながら、缶ジュースを受け取った。
激戦だった。
あれから一時間、美綴に「あれは錯覚だった」と納得してもらうまでに、『一ヶ月間弁当作成』と『部への限定復帰』と『絶対命令権三つ』を渡さなきゃいけなかったのだ。
悪夢だ。
けど、まだ遠坂に伝えてなかったのは、幸運だった。
もし、伝わっていたら生きていない。
あかいあくまの名前は伊達じゃない。
美綴には、セイバーが病気にかかっていて、一刻も早く休ませたかったという、完全にウソではないけど、90%ぐらいウソの釈明をしておいた。もちろん、実際には入ってないことも伝えた。
(しかし……)
帽子を抑え、風に飛ばされないようにしてる少女を、ぼんやりと見た。
俺は、セイバーのことをどう思ってるんだろう?
そんな疑問が湧いた。
無意識にでも、抱えてラブホテルに行ってしまうぐらいだ。
好き……では、あると思う。
絶対に嫌いなんかじゃない。
でも、それがどういう質なのかと言われると、とたんに分からなくなってくる。
ん? というセイバーの視線が、俺に向いた。
「どうしたのですか?」
「い、いや」
プルトップを開けながら、公園のベンチに座った。隣にセイバーも、ちょこんと座る。
コーヒーの香りが口内に広がった。
舌には複雑な苦味、鼻には独特の匂いが満ちる。
「ん。やはり、缶の紅茶は駄目ですね、苦味が強い」
「やっぱり、セイバーは紅茶派?」
「はい、このように熱いものはあまり飲んだことがありませんが、いいものです」
「本当に美味しく淹れた紅茶とかは、苦味もまったく無いしね」
「はい」
自慢げだった。
冬の、殺風景な光景が、目の前に広がってた。
木々は葉を落として針金みたいだ。遠くのクラクションの音が良く聞え、風は障害物の少なさに歓喜しながら吹き付ける。
セイバーは、紅茶缶を両手で抱えながら、ふーふー冷まして飲んでいた。
今は出している犬耳が、飲むたびにビクッ、と震えてる。
「セイバー、熱いなら、無理して飲まなくてもいいよ?」
「ん、ですが、せっかく熱いものが冷めるのはもったいないです」
「そんなもん?」
「そんなものです」
「結構な猫舌なのに、無理しちゃって」
いや、この場合は犬舌なのか?
「む、なんですか? 私は無理などしていません」
「でも、熱々のラーメンとか食べられないしさ」
「あのような温度は、人類の限界を越えてます」
「いや、普通に食べれるし」
「そんなことはありえません」
「あ、あと納豆も食べられないだろ、あれ美味しいんだぞ」
「シロウこそ、あれに関しては分からない。なぜ、あのようにおぞましいものを食べろというのです?」
「お、おぞましいって」
「あれは腐敗物です」
「食べないで断言しない」
「むっ 食べなくとも分かります。糸をひいてるんですよ?」
「そこが旨みなんだぞ」
「むむっ」
「今度、食べてみようよ」
「断ります」
「何事も、踏み出して見なきゃ分からないもんだぞ?」
「絶望だけに繋がる道を踏み込む気はありません」
「絶望って」
「それほど破滅的です、アレは」
「そこまで言われると、逆に食べさせたくなってきたぞ、絶対に今度は食べてもらうからな」
宣言する。
犬も納豆はたしか好きだ。
好きになってくれる可能性はあるはず。
俺は無意味な使命感に燃えていた。
「………………………シロウは、イジワルだ」
ちょっと、口を尖らせてる。
「はは、大丈夫だって」
「知りません」
ソッポを向く。
「もう、まったく……」
犬耳を撫でてやる。
不満そうな顔だが、尻尾は揺れていた。
セイバーは、筋金入りのいじっぱりだ。嬉しくても滅多に顔に出さない。
まるで気難しい優等生。まあ、だからこそ、こころを許してくれた時は、何よりも嬉しかったりする。
少し、笑う。
セイバーの犬耳が、「もっと撫でてください」と言ってるみたいに動いたのだ。
その耳を、指と指で、こするように掻いてやる。
「ん……ゅ…」
顔が、赤い。
周りの気温が寒いから、なおの事、耳の温度が伝わってきた。
生きているんだなあ、と妙な感動を覚える。
そのまま、しばらく耳を掻いていると、突然、冷たい風が吹き付けた。
落ちていた紙が弾かれ、公園に落ちている塵や埃が一斉に疾走する。
「うっわ、寒いなこりゃ」
さすがに手を外して、ポケットに入れた。
「え、ええ」
セイバーも寒そうだった。
「こういう時に、ホッカイロとか欲しくなるな」
「え、ええと、湯たんぽのようなものでしたか?」
「あ、うん。それをもうちょっと簡単にしたようなもの。ここ風が強いから、手とかに欲しくなるよ」
「そうですか、寒い、のですか……」
「うん」
「……」
「……」
「……」
「ん、なにセイバー?」
「い、いえ」
「……」
じー、っと俺を見てる。
睨みつける、というよりは、逡巡してるようだった。
「え、えーと?」
「寒い、のですよね?」
「あ、うん」
「……」
「……」
彼女は口をちょっと開け、閉じた。
腕を組み、考えだした。
何かを悩んでいるみたいだった。
突如、なにかに気が付いたように真っ赤になり、そわそわした。
「え、えーと、セイバー?」
その挙動不審な様子に、思わず声をかけた。
「いえ、なんでもありません」
そういいながらセイバーは、反対側へと顔をやった。
顔が見えない。
「…あの、その、寒いのなら……」
「ん?」
その体勢のまま、
ぽんぽん、と自分のふとももを叩いた。
そして、そっと、その手をどける。
「ん?」
「……」
どんな顔をしてるのか分からない、まだ向こうを見たままだ。
ただ、尻尾がすごく無軌道に揺れていた。
まるで、指揮者のタクトだ。バッタバッタと、あちこちに揺れてる。
「んん?」
何がしたいんだ、セイバーは?
俺が訳も分からずに座っていると。
彼女はポツリと、
「……ここ、あいてます……」
と自分のふとももを、てのひらで示しながら言った。
「へ?」
セイバーの顔は真っ赤っかだった。
もう、うなじまで赤い。
まるで湯上りみたいだと思った。
???
しっかし、何が、どういうわけで「あいてる」んだ?
俺はとっておきの謎々を出された気分だった。
冬の公園で、デート相手が真っ赤になりながら、ぽんぽんと自分のふとももを叩く。
さあ、これが何を意味してるのか、正解は……?
悩んでいると、いつの間にか、彼女が腰に手をあてながら睨んでた。
「あ、セイバー、一体どういう…」
最後まで言い切れずに彼女は俺の頭を押さえ、
「うわっ」
膝の上に乗せられた。
身体全体も、くるん、と回転して横になってた。
「……」
「……」
逆さまな顔。
目が合う。
頭の下の、この妙にしっくりする触感は、やっぱりセイバーのふとももなんだろうか。
俺の視線と、聖緑の瞳が繋がった。
「これなら、寒くないです」
ちょっと嬉しそうだ。
って、いや、ちょっと待った。
「セ、セイバー、これ恥ずかしいよ」
「そうですか?」
「そ、それに、別に暖かくはならないし」
頭しか接してないから、温度は特に変わらない。むしろ身体を横にしてる分だけ寒い。
だから、止めようと言葉を続けようとして、
「ならば、こうすればいいのですね」
と言いながら、
ふわ、り。
とても軽くて暖かいものが、俺の胸あたりに掛けられた。
毛布?
いや、違った。
「遠くからは私の尻尾だと分かりません。そして、誰か近づいてくれば把握できます。安心してください」
さわさわとした感触が、胸の上に乗っていた。
ふんわりと暖かい。
「う……、なんか、すごく気恥ずかしいぞ、これ」
「どこがです?」
つんと澄まして言う。
セイバー、実は、ちょっとだけ復讐してないか?
頭をゆっくりと撫でられる。
「……」
膝枕されながら、頭はやさしく撫でられていた。
尻尾は、さわっ、と時折うごいた。押し出された空気でさえ、なぜか暖かい。
自分の中で荒れ狂っていた感情が、ひとつひとつ、なだめられていくのを感じた。
ささくれ立っていたものが、元に戻る。
「……」
「……」
見詰め合っていた。
俺は無心で、何も考えてなかった。
ただ、ふとももと尻尾のあたたかさに陶酔してた。
冷たい風も、俺たちの周りだけ避けて通ってるみたいだ。
頭の下の感触も心地いい、安心できるやわらかさだ。
セイバーの目が、とても優しくて、嬉しそうだった。
「……」
「……」
「セイバーって、お姉さんタイプだ」
気がついたら、そんなことを言っていた。
「そうですか? 実際には妹だったのですが」
「へえ、でも、そんな感じがする」
「なら、シロウは手のかかる弟ですか」
「きっと、イタズラが大好きな、ね」
「困ったものです」
厳しいのに、この上なく優しい、そんな姉だと思った。
「そんなことを言っているとタイガに怒られますよ?」
「あー、私が士郎のお姉ちゃんなんだー、とか言いそう」
「……」
「……」
自然と、会話は少なくなっていた。
「……」
「……」
そのうち、
「あー」
「……」
「ごめん、セイバー、実はウソついてた」
なぜか、言わなきゃいけないな、と思った。
「……」
「ホテルのことなんだけど、実は、ええと、なんて言ったらいいか……」
「……」
「ちょっと、特殊な目的専用のとこで、あまり俺たちが行ってはいけないとこで……」
「知ってました」
「へ…?」
「私の『直観力』を舐めてもらっては困ります、なんとなく、ですが、分かってました」
「それは、なんというか。あー、ゴメン……」
「まったく」
仕方がありませんね、シロウは。
なんて言ってくる。
それは、間違いなく、いたずらっ子を見る目だった。
胸の尻尾は、子守唄でも奏でてるように、俺の胸でリズムを打っていた。
ゆったりと頭を撫でられ、尻尾はテンポを合わせるように動く。
とても優しい目。
「セイバーが、頭撫でられるの好きなの、分かる気がする」
「そうですか?」
「うん、後でお礼として、心ゆくまで撫でよう」
「……」
おー、揺れてる揺れてる。
セイバーの心情もだけど、尻尾も。
見上げる彼女の顔は赤かった。たぶん、恥ずかしさだけのせいじゃない、この寒さの影響もあるはずだ。
手を、伸ばした。
セイバーの頬にそえてみる。
「あ、すごい冷えてる」
「そうですか?」
「うん、セイバーの頬、冷たいじゃないか」
「……シロウの手は、あたたかいです」
「ん、そっか?」
セイバーは、首を傾げてきた。
目を閉じ、頬で俺の手を味わっていた。
「あったかい……」
微笑んで、そんなことを言ってくる。
ドキドキした。
手から伝わってくる感触が、艶めかしい。
心臓がどうにかなってしまいそうだ。
感覚が、すごく鋭敏になってるのが分かる。
小指が触れてる鎖骨、人差し指が触れてる耳たぶ、そして、てのひら全部がさわっている、セイバーの肌。
「セイバー……」
「はい……」
空いてる手で、セイバーの手を握った。
自分が、何をしたいかよく分からない。
ただ、このままじゃ悔しかった。
なんだか、俺だけが緊張してるみたじゃないか。
握った手を、胸元に持ってくる。
その手も、ちょっと自分の頬にふれさせてから、
「えっ」
その甲に、キスをした。
数秒、続けて、離す。
呆然としてる彼女の頬から手を下ろし、
握っていた手を開いた。
セイバーは、目をまん丸にして固まっていた。
「あー、そこまで硬直されると、なんか恥ずかしいんだけど」
「い、いえ、あの、いま」
「ほら、騎士の忠誠みたいなもの」
「そ、そうですか……」
セイバーは、その手の甲をまじまじと見ていた。
なんか照れるな、そんな凄いことをしたつもりはなかったんだけど……
「ちゅ」
「えっ!?」
丁度、俺がした位置に、セイバーも軽くキスをした。
「ちょ、いま、セイバー!?」
俺は思わず身体を起こした。
「シロウの錯覚です」
「ウソつけ! いま!」
「気のせいです!」
「セイバー、ちょっと手の甲、見せてみろ!」
「断ります!」
俺たちは、馬鹿みたいに追いかけっこをした。
頭の中では、さっきのセイバーのキスが何度もリフレインしてた。
セイバーは、手を自分の胸に抱きながら走ってる。
俺は、凄い勢いで振られている尻尾を追いかけた。
「こら! セイバー! なんでそんなに嬉しそうなんだ!」
「知りません! シロウの気のせいです!」


俺はセイバーのことが好きなのか。
その答えが出た。
きっと、彼女はそういう区分けをすることが出来ない。
それが答え。
好き・嫌い、とかじゃなく。俺にはセイバーが『必要』だ。
身体が生存するのに必須なビタミンがあるように、
俺にはセイバーが、ただ必要なんだ。
なんとなく、そう思った。




――――――――――――――――――
あとがき

えー、前回がはじけ過ぎ、予定していた話と繋げられなくて、書いた話です。
閑話的な軽いものの筈が、いつの間にかいつも通りに……
あ、あと、当初の予定では、燈子師が出てきてセイバーを着せ替え人形する予定だったのは、ここだけの秘密です。
チャイナ服で恥ずかしそうに尻尾振るセイバーは、ちょっと書いてみたかったかもです。
では。


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