士郎の裏側(1) M:凛 傾:真剣


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1: sylpeed (2004/03/01 04:57:00)

■凛ちゃんと一緒 エピソード2 士郎の裏側(1/3)

I am the bone of my sword.
―――――我は剣なり。

Steel is my body,and fire is my blood.
炎の血潮にて鋼の肉体を鍛え、剣と為す。

I have created over thousand blades.
我はあまたの刃を生みし者。

Unknown to Death.
死を恐れず。

Nor known to Life.
生を愉しまぬ。

Have withstood pain to create many weapons.
ただ一度も敗走は無く、ただ一度も理解されること能わず。

Yet,those hand will never hold anything.
それ故、その手には何も掴み得ず。

So as I pray,unlimited blade works.
それ故、ひたすら無限に剣製を為す。


目の前には正眼の剣士。
俺も正眼に構える。

一太刀毎に体勢を崩されていく、
一太刀毎に死に体になっていく。
決して太刀筋が見えないわけではないが、避すことにより崩れた体勢は、
次々とその後に取れる手を減らしていく。
たとえて言うなら詰め将棋。
一手の過ちもなく俺は目の前の剣士に追いつめられていく。
否、己が傷ついても構わないなら幾らでも遣りようはある。
肉を切らせても、髄を絶つやり方なら幾らでも知っている。
致命傷を受けない攻撃なら避けなくて良い。
いや、そもそも致命傷を受ける攻撃など、ない。
何一つ脅威を感じず、にもかかわらず追いつめられていく。

「くっ……!」

逆抜き胴を放つ。

だが、相手の小手が一瞬早く決まる。
相手は俺の逆胴を受けて倒れる。

俺は腕一本だが相手は致命傷だ。
どちらが勝ったかなんて言うまでもない。

そして、胴を斬られたヤツは優勝を勝ち取り、俺は準優勝、という結果に終わった。

藤ねぇが、俺にタオルを投げて寄こして、言った。

「う〜ん。残念だったね、士郎。」
「実力差だ、仕方ないよ。」

相手が、触れただけで死ぬような宝具を持っていたとしたら、
俺はやっぱり殺されてしまったのだろうから、
これは実力差と言っても問題はない。
……と無理矢理自分を納得させる。

「剣道やり始めてまだ二ヶ月でしょ。
確かに昔チャンバラめいたことは切嗣さんとやってたにせよ、二ヶ月で県大会準優勝は凄いって。
士郎、本気で剣道やってみない?」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

穂群原学園高等部、学園のヒロインこと私、遠坂凛は微妙に気分を害していた。

事の始まりは一ヶ月前、いつもの様に士郎を道場に迎えに行って、買い物に行く時のことだ。

「県大会に出る?」
「うん。雷画爺さんが、個人戦の枠が一人分余ってるから出てみないかって。」
「ふーん、勝てるの?」
「自信は無いなぁ。なにせ競技だから、何しても良いってわけには行かないし。」
「でも士郎は目が良いんだから、相手の太刀筋なんか見えるでしょ?サーヴァントの打撃を受け止められるわけだし。」
「見えてても全部避わせるとは限らないんだよ。竹刀なんて鉄剣じゃないんだから、死ぬほど早く振り回せるし。」
「…………それって、実戦では意味無いんじゃないの?
 全く無駄だと知っててやるのは心の贅肉よ。」
「む、それはそうだけど、全く意味が無いわけじゃない。」
「そう? ならいいんじゃない、出てみれば?」
「…………正直意外だ。凛のことだから、魔術師たる者、不必要に目立つなんてとんでもない、
 とか目をつり上げて怒ると思った。」

む、さりげに非道いこと言ってる。
最近甘やかしすぎたか、ここらでガツンと言ってやろうかしら。

「衛宮くん、魔術の師匠である私のこと、何でも予測できちゃうんだ。すごいね〜。
 そこまで成長したならもう魔術は教える事無いわよね〜。
 残念だけど、時計塔は私一人で行く事になるのかしら。」

士郎は顔を白くさせたり赤くさせたりで、なんか困ってる様子だ。
口をぱくぱくさせてみたり、恨めしそうに私を睨んだりしたあと、はぁとため息をついて謝ってきた。
ふふふ、楽しい。これだから士郎いじりは止められない。

「……ごめん、凛、まだ俺魔術のことなんで全然分かってなかった。今だって予測が外れてるし。
 だから……師匠を続けてください。お願いします。」
「どうしよっかな〜。こんな出来の悪い弟子なんていらないかな〜。」
「そこをなんとか。」

拝み倒す士郎。
可哀想になってきたので、この辺で止めて講釈を続ける。

「でも士郎は魔術師を目指すんじゃなくて魔術使いを目指すんでしょ。
 自分が助けようと思っているヒト達と交わらないっていうのは不自然だし、
 そういう接点があっても構わないと思うわ。
 自分を抑圧して楽しまないことによって誰かが救えるわけじゃないし。」

ぽんぽんと士郎の頭を撫でてやる。あ、コイツ最近また背が伸びたな。

その後、一体誰がこの話を嗅ぎつけたのかは知らないが、
学生の部からではなく一般の部からの出場にもかかわらず、
いや、むしろ一般の部から出場という逆境からの挑戦が生徒達の琴線に触れたのか、
学園内で臨時のファンクラブなるものが創設され、
あれよあれよというまに士郎は一躍学園の有名人になってしまったのだ。

県大会には学生の部と一般の部があり、一般の部の方が一般に高難易度だ。
出場者のほとんどが学生ではなく、社会人になるからだ。
所詮学生の修練は長くても十年程度、一般の部ともなると二十年選手などざらだ。

そりゃ、士郎の評価が上がるのは私だって嬉しい。
しかし、困る、何が困るって、多分に気分的なモノなのだが、
私の秘密の花園が踏み荒らされていくような怒りがふつふつと沸いてくるのだ。

ん? てことは、士郎は私の秘密の花園だったのか??

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

8月某日

「面、一本、勝者、衛宮士郎」
「胴、一本、勝者、衛宮士郎」
     ・
     ・
     ・
     ・
きゃあきゃあと嬌声(応援とも言う)が聞こえる中、士郎は我関せずとばかり、
勝利を重ねていった。

まったくの当然だ。士郎は、人の身でありながら、サーヴァントであるアーチャーを倒し、
ギルガメッシュを倒すという大殊勲を成し遂げているのだ。
そもそも一般人にまじってこんな所で油を売っている方が不自然なのだ。

それでも、まあ、勝ち続けているわけだし、少しは労いにいってやってもいいかなと思って、
士郎の控え室へ向かった。

そして、目撃した光景にまた顔をしかめてしまった。
なんか今日はずっとこんな調子だ。
廊下に一杯の穂群原学園生徒達。
しかも一〜二年の女生徒ばかり。

あまり腹が立ったので、彼女の貫禄というものをこの小娘達に見せつけてやろうかと思う。

まずは、顔。
えい、引きつるな、私の顔。そうそう、満面の笑みで士郎を労ってやるんだ。

「衛宮士郎の控え室はここでよろしかったかしら―――――」

女生徒たちの嬌声が収まり、静寂を取り戻していく廊下。

「あ、遠坂先輩…」

なによ、言いたい事があるならはっきりおっしゃい。

「あれが遠坂先輩?」

あれとはなんだ、あれとは。

「あちゃ〜。こりゃ勝ち目無いな〜」

当然だ。士郎は誰にも渡すもんですか。こっちは士郎の心を掴む為に日夜修行してるんだ。

さながらモーゼの奇跡の様に女生徒達が私に道を開ける。
控え室の前まで辿り着くと、こんどは廊下側に居る女生徒達ににっこりほほえむ。

「皆さん、今日は士郎の応援にきて下さり、有り難うございます。午後の応援もよろしくお願いしますね。」

ペコリと頭を下げ、礼儀正しく清楚な士郎の彼女を演じる。

「お、凛、来てたのか」
「遠坂先輩、こんにちは。」
「お〜、遠坂、遅かったじゃないか。」

士郎と桜と綾子が私に声をかける。
…………あれ?

「美綴綾子、なななんで貴方がここに…?」
「あら、ファンクラブの主催者がここにいちゃいけない?」

なっ、諸悪の根元はこの女か〜。
しかも見ると、士郎は桜達と一緒にお弁当を食べていやがるではないか。

「士郎、お弁当、持ってきたんだけど……その様子じゃ、要らない?」

目を伏せ、肩を振るわす。傍目には悲しみに耐えている儚げな美少女に見えるに違いない仕草だが、
もちろん違う。
怒りをこらえてこうなってしまったのだ。

ギロリと桜を睨む。

(士郎にお弁当作る役は私って家族会議で決めたでしょー)
(私じゃないですよー、美綴先輩が勝手に持ってきたんですってば)

実の姉妹ならではのアイコンタクトで弁当の出所を突き止めた私は、
完璧な感情コントロールで再び笑顔を取り戻すと、綾子に言った。

「美綴さん、これはどういうことか教えてくださらない?」
「いや〜、悪い、ファンクラブの子達が弁当作るって聞かなくてさ〜、
 仕方ないからファンクラブの子達の合作ということで、
 各自一品づつ持ち寄って作った弁当を衛宮に食べて貰ってるトコ。」

コイツ、謝る仕草はしているが顔が笑っている、くっそ〜、絶対わざとやってるな。

「あ、凛、弁当ありがとう、……いや、丁度腹減ってたとこなんだ。助かったよ。」

ばか、もう食えないって顔に書いてあるわよ。
綾子にはムカつくが、これ以上士郎に無理に喰わせて午後の試合に差し障ったらいけないから、
私の弁当は引っ込めるとしよう。

「いいわよ、もう、今日の主役は士郎なんだから、意地の張り合いの犠牲になることなんかないのよ。」
「いや、だから。……そうだ、凛、デザート持ってきてるだろ、それを頂くよ。」

…こんな時でも士郎は優しい、いや、こんな時だからか。
本来なら私たちが士郎に気を使ってやらなければいけない場面なのになんで士郎が気配りしてるんだ。
なんか自分が情けなくて、同時に士郎の優しさに不意に涙が出てきた。

「う。」

涙ぐんだ私を見て動揺する綾子と士郎。桜はおろおろして士郎と綾子を交互に見ている。

「ごめん、美綴。凛、こっちこい。」

士郎が私の腕を掴んで廊下に駆け出す。
お〜、青春しとるね〜なんて美綴の呑気そうな声がかかる。

「あ、ちょっと、士郎、どこいくのよ。」
「落ち着けるトコ。」

廊下から階段をあがり2階客席へ、そこからベランダに向かう。
士郎の指が私の腕を拘束し、痛いほどだ。
別にいいけど、この指の跡、数日残るだろうな…。

「ほら、ミルクティー」
「ん。ありがと。」

口の触れる所だけを、ハンカチでふき取り、プルタブを立て、飲み口を開ける。
両手で缶を掴み、一口だけ口に含む。
そんなことをしている間に随分頭が冷静になってきた。

「凛、ごめん。きっぱり断れば良かったんだが、皆の合作の弁当だって聞いて断り切れなかった。」
「こっちこそ、ごめん。急に泣いたりして卑怯だわ。私、なんか最近、情緒不安定っぽい。」

士郎はこちらをチラチラ見ると、なんだか照れくさそうに目をそらす。
なんか意識している様子。
こういう時の士郎はエッチなこと考えてるだけだからあえて無視して話を進める。

「さっき泣いたのはお弁当が食べて貰えないのが悔しくてとかじゃないの。
ほんとは士郎のこの時間は自分のコンディション調整の為の時間なのに、皆でよってたかって邪魔してる。
それなのに士郎に気を使わせちゃったのが悔しいの。」
「凛……。」

そして、抱きしめられた。

「うふ、勝利の女神から祝福のキスをあげる」

ちゅ。と軽くおでこにキスしてあげた。

最近の士郎は抱きつき魔で、私はキス魔だ。
これはもう、バカップル一直線といった所だろうか。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

その後も士郎は順調に勝ち進み、あれよあれよと決勝戦。
だが、決勝戦ともなると、簡単に勝たせてはくれない。

先ほどまでの、士郎の神速で、面または胴を持っていく作戦は、決勝戦の相手には通用しなかった。
まず、胴は抜けるほど隙がないし、面は首を横に倒して避けられる。
くっそ〜、アイツ陰険だ。
実戦でそんなことしたら肩口からばっさり持って行かれる。
競技ならではの避け方だ。
そして、相手の詰め将棋のような連続攻撃にあっけなく敗北した。
攻め手にもいろいろあるだろうが、士郎のようなまっすぐな剣の使い手は、
ああいう絡め手で来る奴は苦手な筈だ。
それでも士郎は頑張って、相手の小手の一瞬後に逆胴を放って相手をぶっ倒した。

ああ、これも、士郎は片手、相手は胴体を持ってかれるんだから実戦では勝敗は明らかだろう。
負けず嫌いの士郎のことだ、試合の後は随分荒れてるだろうな、と想像しながら控え室に向かうと、
泣いている女の子は沢山居るのだが当の本人はしれっとしたものだ。

「士郎、結構冷静ね。もっと悔しがってるかとおもったけど。」
「ああ、凛、着替えるからちょっとまってて。」
「衛宮はこと試合に対しては、淡泊なのだよ、弓道の大会でも淡泊過ぎて廻りがやきもきしたもんさ。」

綾子が控え室の主みたいな顔をしてうんうんとしたり顔で頷く。

「なんでさ。別に、命の取り合いしてるわけじゃなし、試合なら次があるからべつに悔しがることないじゃないか。」
「かー、こういうヤツだよ。遠坂も何か言ってやれよ。」
「ん。べつにいいんじゃない。さっきの決勝だって試合には負けてるけど勝負的には士郎の勝ちよね。
真の勝敗は人の心の中にあればいいと思うわ。」
「うわ、淡泊夫婦だよ。お前ら仙人にでもなるつもりか。」
「でも、衛宮先輩みたいに強い人が全力を尽くした上でそれが言えるのって、格好いいです。」

いつのまにか桜まで議論に加わっていた。

「おまえら、いい加減にでてけ、着替えられないだろ。」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

帰りは遠足みたいになるのがイヤだったので、ファンクラブ、及び雷画道場の皆さん、桜、綾子には遠慮して貰った。

なんか今日は怒ったり泣いたり抱きしめられたりで、自分は何もしてないのに疲れてしまった。
特に聞く事も話す事も無かったので無言で二人で歩いた。
なんか、べったりっていう気分でもなかったので小指と小指だけ繋いで、歩いた。

武道館から出て、駐車場を突っ切って駅に向かう。
すると、目の前に見知らぬが男が一人。
穂群原学園の制服ではない、他校生だろうか。

足を止める士郎。
士郎は目の前の他校生を睨んでいる。
その眼光は尋常じゃない、なにか深い恨みでもあるのだろうか。

「県大会一般の部で準優勝か、大活躍じゃないか、衛宮士郎。しかも彼女連れか、随分とカタギのように振る舞うのだな。」
「柿崎、いまさら何の用だ。」
「俺の方には無い。が、若干一名、お前とカタをつけたがっている馬鹿がいる。相手にしてやらんと冬木の街で暴れるそうだ。」
「………誰だよ?」
「二年生だよ、藤堂一馬。今の代の番を張ってる。偉くガタイのでかいヤツでな。
二年前の話を聞かせたら、戦いたいんだそうだ。まったく、恐れ知らずも良いところだ。
あ、分かってるだろうが一対一なんてやらないぞ。お前のゲリラ戦を恐れて総力戦で行くということだ。」
「………分かった、俺もそう暇じゃない。一回でワル共が冬木で悪さをしなくなるって言うなら相手してやる。
……場所と時間は?」
「話が早くて助かる。来週、9月4日の午後六時、場所は音無橋の河原だ。二年前と同じだな。」
「分かった。」
「まあ、有名税だと思って諦めてくれ、餓鬼共にお灸を据えてやってくれてかまわん。じゃあな」

士郎が柿崎と呼んだ他校生は、ひらひらと手を振って歩き去ってしまった。

しかし、いまの会話はなんなんだ。まるでヤクザの出入りのような会話だったけど。

「士郎、今の…「凛、帰ろうか」」

見事に私の言葉の上に被せてくれる士郎。顔は笑ってるけど、心は笑ってない。
うわ、士郎でも顔で笑って殺気を漲らせる事ってあるんだ。吃驚というか意外というか。

…いつしか、私の手をぎゅっと握って早足で歩く士郎。

「士郎、ちょっと、歩くの早い。」
「あ、ごめん。」

無意識に早足になっていたようで、私が指摘すると士郎は歩をゆるめてくれた。
士郎の横顔、真剣になにか考えている時の士郎の顔はちょっとおっかない。
…………私は、この向こうに踏み込んでも構わないだろうか。
…………私は、この向こうに踏み込む覚悟が出来ているだろうか。

「なんて、考えるまでもないことよね」
「?」
「士郎、その、二年前の話、聞かせて。」
「……今、じゃないとダメか?」
「今ここで話しにくいなら後でもいいけど、できれば今日中に。」
「わかった、夕食後に客間で、いいか?」
「ん。わかった。」
「……助かる。」

ふと、思い出す。
アーチャーとレイラインが繋がっていた所為で、かいま見てしまった英霊エミヤの記憶。

―――――幾たびの戦場を越えて不敗。
―――――ただ一度も敗走はなく、ただの一度も理解されない。
―――――彼の者は常に独り 剣の丘で勝利に酔う。

そうだ。アーチャーの正体が分からなかったのは、他にも理由がある。
全てのピースをもっていたにもかかわらず、うまく組み合わせることが出来なかった理由の一つ。
衛宮士郎があのような戦場に立っている所を想像できなかったからだ。
現代日本にあのような場所は存在しない、と迂闊にも考えてしまっていたからだ。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
エピソード1 0678、0679,0680参照


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