夜の一族


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1: ぐまー (2004/02/29 18:50:44)




「ただいま。」

「お帰りなさいませ、志貴様。」

ロビーに入るなり翡翠が頭を下げてきた。
そして頭を上げて俺の後ろにいる人物を見て怪訝そうな表情をした。

「志貴様、そちらの方は?」

「ああ、・・・・・・えぇっと、・・・・・・その・・・・・・なんていうのかな、・・・ほら・・・」

「私達の兄弟です。」

もごもごと言いにくそうにしていると後ろから雪之が代わりに答えた。

「御兄弟・・・・・・ですか?」

気のせいかなんか翡翠不機嫌そうだ。

「ああ。 ・・・・・・ほら、雪之がここに来た時言ってただろ? 生死不明だけどもう一人弟がいるって。」

「はい、確かにそうおっしゃられておりました。」

勘違いだ思うけどなんか翡翠俺のこと睨んでる?

「その弟がたまたまこの町に来ていてさっきばったり出会ったからさ、連れてきたんだけど。 まずかったかな?」

「いえ、そのようなことはありません。」

杞憂だと思うけどなんか翡翠は不満そうだ。

「ならいいんだけど・・・」

「ただ、秋葉様にもご説明ください。」

「ああ、解かってるよ。 秋葉は居間?」

「はい。」

「そう、わかった。」

はぁ、なんだってこんな緊張しなけりゃいけないんだ。
ただ弟が来ただけだって言うのに。
いやいや、ここはしっかりしなけりゃ。
そう思って居間のドアを開けた。

「秋葉、ちょっ・・・「一体あなた方は何を考えてるんですか!」」

ものの見事に俺の声は秋葉の怒鳴り声にかき消された。
おまけに秋葉は大変ご立腹と来ている。
これじゃあとてもじゃないけど割り込む余地はなさそうだ。
ていうか割り込んだらその怒りの矛先がこっちに向きそうだ。

「まぁまぁ、秋葉さん。 落ち着いて。」

「これが落ち着いていられますか! 今日一日で三回目だということがわかってるんですか!」

「はぁ、・・・・・・すいません。」

「すいませんですむなら警察も裁判所も要りません!」

「いいじゃない、妹。 部屋の一つや二つ。」

「全然よくありません! それに一つや二つでもありません! 大体あなた方に常識がないのは前々から知っていましたが、こともあろうに人の家の部屋を五つも壊すとは常識がないにも程があります。」

「いえ、ですから秋葉さん。 このあーぱーが勝手に遠野君の部屋に入ろうとしてたのでそれを止めようとした結果でして・・・」

「なるほど、つまりお二人はこう仰りたいと。 確かに兄さんの部屋にその未確認生物が入るのは許されませんが、それを阻止する為ならどれほど犠牲を払ってもよいと。」

「いえ、決してそのようなことは・・・」

「じゃあどういうことですか! それとも何でしたらあなた方にはこれから外で寝泊りしてもらいましょうか?」

「いえ、それは・・・」

「何もけちけちしなくてもいいじゃない。 あの部屋どうせ使ってなかったんでしょう?」

「そういういう問題じゃありません!」「アナタは黙ってなさいあーぱー吸血鬼!」

どうもまだまだ入り込めそうもない雰囲気だ。

「どうしようか?」

振り返ると困惑顔の三人がいた。

「とりあえず話が終わるまで待ちましょう。」

「そのほうがよさそうだな。」

「それでは志貴様、その間こちらにどうぞ。」

そういって翡翠は歩き出す。

「翡翠? 何処に行くの?」

「客間です。 居間とは別に客間があるんです。」

「へぇ、そうだったんだ。」

「はい。 ですがここ最近は使用してないため施錠してありましたが。」

とりあえず翡翠のあとに続いた。
翡翠はロビーを出て東館の一階の一番手前側の部屋の前で立ち止まった。
そしてポケットから鍵の束を取り出すと鍵穴へ通す。
ガチャリと音がして扉は開いた。
中は翡翠が定期的に掃除しているのだろう、塵ひとつなかった。
とりあえず内装は居間と大差なかった。

「雪之、志由。 とりあえず座って待ってよう。 翡翠、悪いけど向こうの話しが終わったら呼んでもらえる?」

「はい、かしこまりました。」

失礼しますと言い残して翡翠は部屋を後にした。

「それはそうと志由、あなたに聴きたいことがあるんだけど。」

「なんですか?」

「七夜の家が遠野に襲撃された時のことは覚えてるわよね?」

「ええ。」

「そのときどうしてたの?」

「あの時はと母さんが僕を逃がしてくれました。 襲撃を受けた直後に僕は目を覚まして母さんに言われたんです。 『森の奥の湖に逃げろ』って。 言われたとおり湖で隠れていたら人の声が聞こえまたのでそっと覗き込んでみたら見たこともない人でした。 七夜の家の人は一通りは見たことがあったのですぐに敵だとわかりました。 僕は息を潜めて隠れていたんですが、そいつらは必要に周囲を探索してたんです。 その時見知った人が逃げてくるのがわかりました。 その人は深手を負っていて、とてもじゃないけどそこにいた奴らの相手ができる状態ではありませんでした。 だから僕はそのときあえて敵の前に出て注意をひきつけたんですがそしたらそいつらは『やっぱりここにも生き残りがいた』と言ってました。 これが何を意味するかわかりますか?」

「 ? どういう意味だ?」

「『やっぱり』と言っていたということは内通者がいたということです。 それが誰かはわかりませんが七夜に裏切り者がいたということです。」

「そ、そんな莫迦なことあるわけないでしょう。 だいたい七夜に裏切り者がいたのならその者は今も生きているはずでしょう? でも今退魔機関には七夜の者は私しかいないのよ?」

「ではこう考えてはどうですか? 七夜の家を襲ったのは遠野だけではなく、他にも退魔機関のものが手引きしていたとしたら? そうすれば密告者は自分たちにとって邪魔者になる。 そいつが生きていればいつ自分たちが裏切り者と発覚するかわからない。 だから口封じのため・・・」

「そんなはずないっ!」

志由の言葉は雪之の叫びでさえぎられた。

「そんははず・・・・・・あるわけないでしょう」

まるで自分自身に言い聞かせるかのごとく呟いた。

「雪之・・・・・・。 志由、一つ聞いていいか?」

「なんですか?」

「お前はどうしてそう考えたんだ?」

「・・・・・・・・・だから言ったでしょう? 僕が先ほど話した内容を僕の目の前で話している連中がいたからだと。」

「・・・・・・・・・でも・・・・・・それだけじゃ私たちの中に裏切り者がいるとは限らないじゃない。」

「確かに言い切ることは出来ません。 ・・・・・・・・・ですが・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「いえ・・・・・・なんでもありません。」

そうして押し黙ってしまった。
なんとも気まずい空気が流れる。
と、その時

「志貴様、秋葉様のお話しが終わりました。」

「ああ、わかったよ。 それじゃあ行こうか、二人とも。」

いいタイミングで翡翠が来てくれた。
とりあえず二人とも俺の後についてきている。
二人とも一言も話さないがなんとなく気まずい雰囲気だ。
そんな空気を変えようと居間の戸をあけた。

「秋葉、ちょっといいか?」

「なんですか兄さん?」

思っていたより秋葉は機嫌が良さそうだ。
一体どうやったらあの二人を相手にした後上機嫌でいられるんだと思いながらも用件を済ませることにした。

「あのさ秋葉、実はちょっと頼みたいことがあるんだけど・・・だめかな?」

「一体なんですか? あまりおかしなことなら聞きませんよ。」

なんだかすごく気疲れしてるように見える。
それもそうか、あの二人を相手にしてたんだから。

「ああ、実はな、・・・その・・・・・・なんというか・・・・・・えっと・・・」

「なんなんですか。 言いたいことがあるならはっきりどうぞ。」

「いや、あのな・・・・・・その・・・」

「はあ、・・・私が代わりに話しますね。」

「それで、なんなんですか?」

「私と兄さんにはもう一人弟がいるとお話しましたよね?」

「ええ。」

「七夜志由というんですがここに来たからこのゴタゴタが終わるまでのここで寝泊りさせて欲しいんです。」

「・・・・・・兄さん。 一つ聞いてもいいですか?」

「ああ、な、なんだ?」

あ、やばい。
なんか秋葉の上が風も吹いてないのになびいている様に見える。

「なぜそのくらいのことをご自分の口から仰れないんですか。」

「いや、・・・あの・・・その・・・」

あ、なんか秋葉怒ってる?
まさかそんなことを頼んだら絶対に許す分けないと思ってたとは言えない。

「兄さん。 今何か失礼なことを考えませんでした?」

「いやいやいや、そんなことはない。」

「ふ〜ん、そう。 まあいいわ。 私は別に構いませんよ。」

それでなびいていた様に見えた髪は治まった。

「ほんとか、秋葉?」

「兄さん、貴方は一体私がどうすると思ってたんですか?」

「えっ、いや、別に。」

「ふ〜ん、そう。 つまり私には言えないような内容ですか。」

「いや、決してそんなことはない。」

「どうだか。 まあいいわ。 それで、その子が兄さんの弟の・・・」

「七夜志由です。 ご迷惑をおかけするとは思いますがどうか宜しくお願いします。」

「え、ええ。 こちらこそ。」

「兄さん。 この子本当に兄さんの弟ですか?」

「 ? どいう言う意味だ?」

「兄さんと違って礼儀も作法もできているので。」

「なっ、それどういう意味だよ。」

「言ったとおりの意味です。」

「お二人で何を話しているんですか?」

「「えっ、いや別に。」」

「?」

「あ、そうだ、秋葉。 志由の部屋を用意しなきゃ。」

「あ、そうですね。 琥珀。」

「はい、秋葉様。 志由様の部屋のご用意ですね。 少々お待ちくださいね。」

そういって琥珀さんは居間を出て行った。
が、その直後。

「志貴さん志貴さん志貴さん志貴さん志貴さん志貴さん志貴さん」

居間に入ってきたのはつい先ほど出て行って、取り乱しまくりながら戻ってきた琥珀さんだった。

「琥珀さん、まず落ち着いて。 一体どうしたの?」

「ゴホッ、ゴホッ。 志貴さん、何暢気な事言ってんですか! とにかく大変なんです。」

「何がどう大変なの?」

「屋敷の外が大変なんです。」

「屋敷の外?」

「ああもう、とにかく見ればわかります。 さっ来てください。」

グイグイと琥珀さんは俺を引っ張っていく。
とりあえず雪之や志由、秋葉に翡翠もついてきた。
琥珀さんは西館一階の奥へ続く道をずいずい進んでいく。
そして廊下の途中の窓の前で止まった。

「志貴さん、外を見てください。」

言われて外に目をやるとそこには異様な光景が広がっていた。
屋敷の周りには結界が張ってあるため魔のものは屋敷には入れない。
だが、そとにはその結界を囲むように魔のものが溢れかえっていた。

「これは・・・」

「迂闊でした。 確かに結界でここには入れませんが周囲にとどまることは出来ます。」

「コイツら、放って置いたら・・・」

「ええ、町に下りていくでしょうね。」

「ならここで叩けばいい。」

「正直この数は総出で出ても少々てこずりますよ。」

「先輩、でもやらなきゃ。 俺たちがやらなきゃコイツらは町に下りていって関係の無い人まで巻きこんじゃうだろ。」

「ええ、わかってます。 やらないとは言ってませんので。 のんびりしてると町に下りていってしまいます。」

「行きましょう。 私は草薙と八雲を呼んできますので先に行っててください。」

「わかった。 行こう、アルクェイド、先輩。」

「兄さん、僕も行きます。」

「えっ、志由も?」

「はい、少なくとも戦場に連れて行くなら遠野秋葉よりは役に立つはずです。」

「言ってくれますね。 何なら今ここで試してさしあげましょうか?」

「秋葉、そんな事いってる場合じゃないだろ。 ・・・・・・志由、戦場に出たらお前を助けてやれないからな。」

「解かっています。 自分の身ぐらいは自分で守ります。」

「解った。 なら行こう。 秋葉は居間で待ってろ。」

「・・・・・・・・・解りました。」

「それじゃあ行きますか。」

窓を開けて外に飛び出す。
後ろで窓が閉まったのを確認してから走り出す。
ポケットから七ツ夜を取り出し眼鏡を外す。
大丈夫、ちゃんと点も線も見える。
これなら問題なく殺せる。

「ふっ。」

一番手前にいた奴の胸にあった点を突く。
それだけで終わり。
ソイツは灰になって消え去った。
ここ最近魔を相手にしているせいか体が七夜よりになってきている。
七夜の持つ身体能力を完全ではないにしろ引き出せるようになってきている。
先輩とアルクェイドは草薙さんからこっちの魔の倒し方を聞いたとかで確実に仕留めている。
まあ、あの二人に限って簡単にやられるなんて事はないと思う。
だが問題は志由だ。
実力が解らない以上万が一ということもある。
だがそんな心配は杞憂だった。
そこには何もなかった。
俺ら四人はそれぞれ四方向バラバラに向かっていった。
なのに志由が向かった先にはもう魔は影も形もなかった。
志由がこっちに振り向く。
先程まで閉じられていた瞳が開かれておりそこには青よりも蒼い瞳。
そう、アレは知っている。
なぜなら、アレは・・・。

「志貴後ろ!」

「遠野君!」

我に返って振り向きざまに七ツ夜を振るった。
後ろにいた魔はその一撃で死んだかと思われたが不覚にも線をわずかにはずしてしまった。
敵は液体になって襲い掛かってきた。
とっさのことでよけ切れそうもない。
だが全力でできる限り後ろに跳んだ。

「遠野君!」

「志貴!」

やはり足りない。
だめか、と思ったそのとき、突然何の前触れもなくソレは灰になった。
何が起こったのかわからなかった。
アルクェイドも先輩も何が起こったか解からないといった雰囲気だ。
ただ志由は・・・

「気を抜かないで、まだ敵は残っています。」

一人だけさも当然といった風に戦っていた。
その一言で二人とも我に返ってくれた。
自分の周りには敵はそう多くは残っていない。
なら、とっととかたずけてしまおう。


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