Fate / Sword & Sword 掘雰后Дロスオーバー)


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1: ベイル(ヴェイル) (2004/02/29 10:54:43)

 そのものは数多くの名を持っていた。
 人呼んで魔書の王<ロード・オブ・グリモワール>
 人呼んで書に愛されしもの
 人呼んで漆黒の魔術師<マギウス>
 人呼んで巨匠<グランドマスター>

 人呼んで──魔導探偵。
 そして、またの名をマスター・オブ──




『……ひどいな。背中から斬りつけるなんて、君らしくもないことをするじゃないか』
 そう言った女の声を、あらわれた魔法使いは鼻で笑い飛ばした。
「あんただけ例外だ。前のときのこと、忘れたのかよ」
『ああ、そういえばそうだったね。まったく……情事の最中に女の子の頭を吹っ飛ばすなんて、無粋の極みじゃないか』
「何が情事だ、言い訳のしようもなく強姦だったじゃねえか。それに、一体何処の誰が「女の子」なんだよ、バアさん」
 嘲笑う声を斬って捨て、魔法使いはその眼前で振り返りもしない黒人に刃を向ける。真横に薙いだ漆黒の鉈は、ただ一撃でその首を斬り飛ばした。
 だが──!
「……ふむ」
 よもや、その首が何事もなかったかのように言葉を吐こうとは。
「まったく、「君」が舞台に上がるのはもう少し先の予定だったのだが……いつもいつも、君は私の予想を裏切ってくれる」
 そう言って、男──アンブローズ=デクスターは空中で口元を歪めるや、瞬く間に西日の中で塵となって消えてしまったではないか。
『まあいいさ、君とはいつだって会えるんだ』
「できりゃ二度と会いたくねえよ、あんたとは」
 最後に虚空から放たれた一言に、吐き捨てるように言ってのける魔法使い。いつの間にか、デクスターの胴体の方も消えてしまっていた。
 そうして、衛宮家の庭に残った黒ずくめの魔法使いは、いまだ状況を把握し切れていない士郎達に振り返り、

「まー、何だ。とりあえず不法侵入に関しては大目に見てくれると助かるんだが」

 などと、緊張感もへったくれもない声でのたまったのだった。




Fate / Sword & Sword




 そのとき、彼らの中で真っ先に行動を起こしたのは、セイバーだった。
「へ?」
 呆気にとられたような青年の声。それも無理はない。ほんの瞬き一つ分程度で、鎧姿に変じたセイバーが居間から庭に飛び出していたのだから。
 夕日を背景に庭の草を踏みつけ、瞬く間に懐に飛び込むセイバー。その手に握られた剣は不可視──剣の姿を隠す風の宝具<風王結界>!
「ハァッ!」
「どわぁっ!」
 セイバーの気合と、青年の間の抜けた悲鳴が重なった。下段から胴を薙いだセイバーの剣閃を、青年が真後ろに転がってかわしたのである。
「あ、危ねえじゃねえか!」
「私の剣を、手加減したとはいえかわしましたか。やはり、ただ者ではない」
 青年の叫びを無視して、再度見えない剣を構えるセイバー。その目は既に少女ではなく、一撃のもとに敵を屠る一人の騎士<サーヴァント>のものとなっていた。
「何者かは知りませんが、武器を捨てるならよし、捨てぬなら相応の対応をさせてもらう!」
「って、斬りかかってから言うことかそれ! かわいい顔して、実は猪突猛進型なのか!」
「問答無用!」
 悲鳴も無視し、再び跳躍して剣を振るうセイバー。殺すつもりはないが、士郎の訓練のときなどとは比べものにならぬ一撃だ。当たり所が悪ければしばらく病院のベッドの上だろう。元より、正体不明の魔術師(らしき者)に対して、下手な手加減は命取りだ。
 しかし、青年は、
「ッ、“バルザイの──

『ギィィンッ!』

 ──偃月刀”ッ!」
 何と、咄嗟に掲げた漆黒の刃で、セイバーの不可視の剣を受け止めてみせた。
「な──!」
「あのなぁ……俺も、ここまでやられて不戦主義貫くほど、お人好しじゃねえんだぜッ!」
 だんっ、とセイバーの体を蹴り飛ばし、偃月刀を両手で構える青年。その気迫は紛れもなく、死線を幾度もくぐり抜けた戦士のもの。
「だあああぁっ!」
「ッ!」
 草を蹴り、一瞬でセイバーの頭上まで跳躍した青年が刃を振り下ろす。漆黒の偃月刀はセイバーの剣に防がれ、再び甲高い音を立てた。
「やりますね──ですが!」
 青年の一撃は、型こそデタラメだが力のこもった見事な攻撃だった。セイバーは偃月刀を弾き、自ら一歩下がって間合いを開ける。無論逃亡のためではない、剣士の体に染みついた、最適の間合いを本能的に選択したのだ。
 青年の攻撃には見事なまでに迷いがない。しかし、その体さばき、剣さばきは明らかに剣士のものではあり得なかった。直感だが、この青年の本来の戦闘スタイルはもっとなりふり構わぬものであるはずだ。
 ならば──剣同士の戦いである限り、剣の英霊である自分が後れをとることなどあり得ない。
「次で、決める!」
「やああああっ!」
 地を蹴るセイバーに対し、青年は迎え撃つかのように偃月刀を振り上げた。その、瞬間──!


「──投影、開始<トレース・オン>」


 第三の声が紡ぐ呪文が、この一瞬の全てを停止させた。
「!」
「な……!」
 驚愕は、青年とセイバーが同時にあげたものであった。セイバーが握った不可視の剣と、青年が持つ黒い偃月刀……そのどちらも、互いに噛み合うことなく、間に入った人物の双剣によって止められていたのである。
 黒き陽剣干将、白き陰剣莫耶。
 その二つを手にした魔術師は、内心で冷や汗を流しながら、言葉を紡いだ。
「ちょ、ちょっと落ち着いてくれ。二人とも」
 それが、戦いを無理矢理に中断させた衛宮士郎の言い分だった。






「……とりあえず、事情を説明してもらえるかしら?」
「いや、そう言われても事実俺にもちんぷんかんぷんなんだが」
 苛立ちを含んだ凛に言葉に、魔法使いの青年は困ったようにあさっての方を向いて頬を掻いてみせた。

 ……現在、静寂を取り戻した衛宮家の居間には、家主である衛宮士郎を含めて四人の人物がいる。

 一人は言うまでもなく衛宮士郎。現在テーブルに並べられているお茶は彼が用意したものであり、彼自身は畳の上にあぐらをかいて、どうしたものかと宙を仰いでいる。
 二人目は、セイバー。士郎の右隣に座って、真剣な表情で目の前の人物を見据えていた。足を崩すことなどせず、きっちりとした正座をしている。この中では唯一の外国人でありながら、一番正座が様になっているというのはどういうわけか。
 三人目が遠坂凛である。彼女は足がどうこう言う以前に、仁王立ちであった。セイバーの隣で、相手を威圧するかのように腕を組んで見下ろしている……いや、実際威圧してるんじゃないだろうか。
 そして四人目は、その三人の対面に座らされた自称“魔法使い”の青年であった。
「俺は別にあいつを追ってきたわけじゃなくて、ただ行きがかり上……なんつーか、不穏な空気だったし」
「それで人に斬りかかるわけ? 貴方は」
「んな、人を危険人物みたいに言わないでくれよ。今回のは、相手があいつだったからだ。俺は至極真っ当な人間だよ」
 と、困ったように眉を八の字にして、青年はぼそぼそと言葉を返す。
 ぱっと見、年齢は二十代前半といったところか。士郎の目に狂いがなければ、肉体の方は相当に鍛えられているはずだ。肩にかけていた荷物は今は横に置かれ、本人は居心地悪そうに苦笑いを浮かべていた。
 何というか、とても魔術師には見えないのだが、何せ士郎は聖杯戦争に巻き込まれるまで同級生の遠坂が魔術師であることにも気付かなかった男である。ことこれに関してはあてになるまい。
「ええと、遠坂、ちょっといいかな」
「何よ」
「いや……あのさ」
 ギロリ、と振り返る凛に頬を引きつらせながら、士郎は苦笑いを浮かべている青年の方に向き直った。彼が魔術師であろうとなかろうと、確かめておかなければならないことが一つある。
「確か、昼間会ったよな?」
「へ?」
 士郎の問いかけに、きょとんとして首をかしげる青年。しかし、それから改めて士郎の顔を眺めると、やがて思い出したように手を打って、
「ああ、あんときの!」
「やっぱり、人違いじゃなかったんだな」
 声をあげる青年に、士郎は思わず苦笑をもらした。
 今日の昼過ぎ、学校からの帰り道で士郎がぶつかったのは、彼だったのである。
「え? 士郎、この人と知り合いなの!?」
「いや、今日の昼にぶつかっただけ。いっただろ、「魔法使い」って名乗ってる人に会ったって」
 驚く凛に改めて振り返り、肩をすくめてみせる士郎。その発言に眉をひそめたのは、二人に挟まれたセイバーであった。
「魔法使い? ……では、この方も魔術師<メイガス>なのですか?」
「<マギウス>」
「え?」
 不意に、セイバーの言葉を遮った呟きが、その場にいた全員を振り向かせた。
「メイガスじゃなく、<マギウス>って言ってくれ」
 そう言って、発言者──魔法使いの青年は微笑を浮かべてみせる。
「ともかく、まずは自己紹介といかないか? そっちのお嬢さんとは初対面だしな」
「そうですね、私もそれがいいと思います」
 と、青年に指さされたセイバーが頷いてみせたことで、士郎と凛は顔を見合わせ、ややあって二人とも同意を示した。ともかく、互いの情報がなければ話にもならない。
 そうして、ようやく話をする体勢になった一同を見渡し、青年がまず口を開いた。
「それじゃ、まずは俺からだな。

 ──俺の名前は、大十字九郎。アメリカのマサチューセッツ州で探偵をやってる。よろしくな」

 あっけらかんとした口調と声で、彼はまるで子供のように笑いながらそう名乗った。








「マサチューセッツ州……アーカムシティ」
 そう、まるで敵を見るかのような鋭い視線を彼に向けて、遠坂凛は呟く。
「なるほど、つまりミスカトニック大学の関係者だったわけね、貴方」
「ミスカトニック大学?」
 おうむ返しに問いかけたのは、士郎である。
「マサチューセッツ州のアーカムシティって街にある大学よ。表向きはただの大学だけど、その実体は協会からも教会からも、政府からも完全に独立した魔術機関──“第二の時計塔”とまで呼ばれてる組織だわ」
 そう言って、凛は苛立たしげに髪をかき上げた。名門遠坂家の当主である凛にとっては常識と言うべき知識だが、非合法の魔術師であった養父から魔術を習い、父の死後は独学で魔術訓練を行っていた士郎には、時計塔以外の魔術組織の詳細など知るよしもないことだった。
「こりゃ、門前払いして正解だったわね」
「へ? 遠坂、それ、どういうことだ?」
「言ったでしょ。昼間、頭に来たから客を追い返したって」
「つまり……彼がシロウにぶつかる前か後に、彼はリンの家も訪ねていた、ということですか?」
 きょとんとして問いかけたのはセイバーだ。それに対して、青年──大十字九郎がうんうんと頷く。
「ちなみに、時間軸的にはそっちの子の家を訪ねた帰りにぶつかったんだけどな」
「そんなことはどうでもいいわよ!」
 緊張感のない九郎に、凛がキレた。
「落ち着いてください、リン。それに、相手が名乗っているのにこちらが名乗らないのは失礼でしょう」
「う……」
「それもそうだな。ええと、俺は衛宮士郎。半人前だけど、一応魔術師を目指してる。こっちが遠坂凛で、こっちはセイバー」
「よろしくお願いします、クロウ」
「ああ、よろしく」
「って、何を和んでるのよ二人とも!」
 うがー、とばかりに声を荒げ、凛が紅潮した顔を士郎達に向けた。
「どうしたんだ遠坂、なんか、荒れてないか?」
「荒れもするわよそりゃ! ミスカトニック大学って言えば、協会に所属しないアウトロー魔術師よりも更に質が悪い黒魔術師の集まりじゃない! 曲がりなりにも協会側の私達にとっちゃ宿敵よ宿敵!」
「いや、そんなドきっぱりと宣言せんでも」
 暴走気味の凛に、口元を引きつらせる九郎。ある意味常在戦場がモットーとも言うべき凛とは、どうにも相性が悪いらしい。
「確かにまあ、ミスカトニックには変人が多いけどな。そんなに時計塔と変わるもんでもないぞ?」
「……まるで、時計塔<ロンドン>を知ってるような口ぶりね」
「あー……まあ、何度か行ったことあるからな」
 と、何かを誤魔化すように笑いながら、わざとらしく頬を掻いてみせる。
「だいたい、変人っていうなら時計塔も変人の巣窟だと思うぞ」
「う……それは、否定はしないけど」
 思わず口ごもってから、すぐに問答が無意味な方向へ向かっていることに気付いて首を振る凛。改めて表情を引き締め、自称魔法使いにして自称探偵の青年に視線を向ける。
「とにかく……最初に一つ確認しておくわ。貴方は私達の味方? それとも、敵?」
 まるで最後通告のような凛の問いに、九郎は何とも困ったような笑みを浮かべ、

「強いていうなら──“正義の味方”、かな」

 いとも簡単に、しかしはっきりとそう言ってのけた。


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