藤村大河の夕食事情


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1: にぎ (2004/02/29 03:10:02)






「ふんふんふんふ〜ん」

鼻唄でも歌いながら、いつものようにセイバーちゃんと一緒に食事を待つ。
少し前なら待ってるのはわたし1人だったんだけど、今では見慣れたいつもの光景だ。
ちなみに桜ちゃんは、夜は兄さんを1人にはして置けません、って事で最近は一緒じゃない。
少し寂しいけれど、兄弟仲が良くなることはいい事だ。

だからわたしとセイバーちゃんは2人で食事の準備が出来るのを待っているのだ。
セイバーちゃんも、いつもどうりお行儀よく座って晩ごはんの完成を待ち受けている。

―――でもわたしには分かる。
あれは戦いの前の獣の空気だ。
これからの大一番に向けての精神統一に他ならない。
うう、ものすごい集中力。
さすがはセイバーちゃん、でもわたしもそう簡単には負けてやらないんだから。

む、そうこうしてるうちに台所から美味しそうな香り。
このピリリと辛さの効いてそうな匂い。
ずばり今日は中華と見たぁぁぁぁ!

うんうん、中華は遠坂さんの得意ジャンルだもんねぇ。
それはもう独壇場。
その味は士郎も桜ちゃんもセイバーちゃんも、もちろんわたしだって認めているお味なのだー。



………ふう。
ちょっとため息。

もちろんその味に不満があるわけではないけど。
いや、量の方も問題ないけど。

「ううう、久しぶりに士郎の晩ごはんがたべたいよぅ」












藤村大河の夕食事情















「あら藤村先生、私の作ったご飯じゃお不満ですか」

その声が聞こえちゃったのか、台所からむっとした顔でエプロンをつけた遠坂さんが出てきた。
近頃は士郎の帰りが遅いせいもあって、その姿もすっかり見慣れたものだ。

「ん〜別にそうゆうわけじゃないんだけどね、士郎の作った晩ごはんってもう随分食べてないなあ、って思って」

うん、確かに随分長い事食べてない。
最後に食べたのは…何時だったか、少なくともここ数ヶ月は食べてない。

「む〜士郎ったら最近帰るのが遅すぎなんだから。
 バイトが悪いとは言わないけど、もう少し少なくすればいいのに」
「あら、先生。衛宮君がバイトで忙しいのは誰のせいだと思ってらっしゃるんですか?」

う、遠坂さん、その目怖い。
先生をそんな目で睨むのは問題があると思うんだけど、そこんとこどうなのよぅ。

「え、え〜っと、そうよねぇ、
 セイバーちゃんっていう家族が増えちゃったんだから、そりゃお金も掛かるわよねぇ、あははは…」
「まあ、先生の罪悪感が痛まないとおっしゃるんならそうゆう事にしておきましょう、一応それも事実ですから」

うう、なんか凄く冷ややかな視線がそそがれてる。
わ、分かってるわよぅ!
そりゃ確かに最近はちょっと…うん、ほんのちょっとだけごはん食べすぎかなあ、とか思ってるけど、
そんな風に言う事ないじゃない。
それもこれも士郎のごはんがおいしいせいなのよ―――――っ!

「リン、シロウとの時間が減って寂しいからといって、人に当たるのはよくない」

と、突然横から放たれたセイバーちゃんの一言で、一変させて顔を真っ赤にする遠坂さん。

「な、なにいってるのよ、セイバー!わ、私が寂しいなんてそんなはずないでしょ!」
「そうですか、それは失礼しました。最近シロウを不満そうに睨んでいる事が多いので、つい勘違いを」
「〜〜〜〜〜〜っ!」

体をわなわなと震わせてセイバーちゃんを睨みつける遠坂さん。
でも、セイバーちゃんはいたっていつもどうりに、その視線を受け流している。

「と、とにかく!衛宮君の料理なら毎朝食べてるんだからいいでしょう!夜は私の料理でも我慢してください!」
「う〜ん、確かに遠坂さんの料理もおいしいんだけどねえ、まだまだそれを衛宮家の味と認めるわけにはいかないのだ」
「タイガ、それではまるで姑ではないですか」
「あはは、それじゃ遠坂さんは若奥さんだねぇー」
「先生!それにセイバー!」

もはや体まで真っ赤にする勢いでテーブルを叩く遠坂さん。
はははは、遠坂さんは、この手の話を出されると滅法弱い。
ふふん、年長者であるわたしとしてはまだまだこうゆう話しなら分があるのだ。

「それにしても士郎ったら、今日はまた随分おそいなあ、ううお腹すいたよぅ」
「先生、そんなに我慢できないなら先にお食べになっていてはどうですか」
「む、魅力的な提案。でも断る」
「あら、どうしてですか?」

その言葉そんなに意外だったのか、遠坂さんは聞きかえしてきた。
遠坂さんだけでなくセイバーちゃんも不思議そうな顔でこっちを見ている。
でも、そんな理由決まってる。

「だって、わたしは別にごはんを食べにここに来てるんじゃなくて、
 士郎とご飯を食べるためにここに来てるんだから」

その答えにぽかん、とした顔をする2人。
でも、それが本当。
士郎に1人でごはんを食べさせるなんてそんな事できっこない。
そう考えたから、わたしはずっとご飯を食べに来てたんだ。

「ああ、でも」

そっか、今ではこの家には、士郎1人じゃない。
セイバーちゃんもいるし遠坂さんもいる。
だったら、わたしがわざわざここに来なくったって、士郎は寂しい思いなんてしないのかもしれない。

…………む、ちょっと悔しいかも。

「―――タイガは、シロウの事が大切なのですね」
「うん、だっておねえちゃんだもんね。それに士郎ってほっとけない奴だし」
「ええ、それは私にもよく分かる」

ふわっと、とってもやわらかい笑みを浮かべる、セイバーちゃん。
その笑顔を見ただけで、セイバーちゃんも士郎の事を想ってくれてるなんてすぐ分かる。
まったく、士郎ったら。
遠坂さんといい桜ちゃんといい、なんでこう女の子にもてちゃうんだろう。
しかも本人は全く気がつかないしさ。

……なんでそうゆう似ないでいい所まで、切嗣さんに似ちゃうのかなあ。




それから何となく黙り込んじゃって数分後。

「ただいまー」

がらがらがら、と戸を開ける音がしてようやくこの家の主が帰ってきた。

「わるい遅くなった、どうしても帰れなくってさ…」
「はいはい、言い訳は後。ほら、さっさと座りなさい料理持ってくるから」
「う、わ、悪い遠坂。なんか手伝えないか」
「いいから座ってなさい、疲れてるんでしょ。どうせ運ぶだけだから人手はいらないわ」
「うう、重ね重ねすまん」

ははは、士郎ったらもう尻に叱れちゃって、こりゃあとが大変だ。

「士郎、おそいわよう。全くお腹ペコペコじゃない」
「すまん、藤ねえ。でもなんだったら先に食べてくれててもよかったんだが…」

あ、まったく士郎までそうゆうこと言っちゃうんだから。
うう、おねえちゃん拗ねちゃうんだもん。

「なにいってるのよ士郎、食事は皆でとるものでしょう?」

ふふっと、さっきのセイバーちゃんみたいな優しい笑みを浮かべながら遠坂さんはそう言った。

「ね、そうでしょう先生?」
「――うん、遠坂さんの言うとおり」

同じく笑みで返すわたし。
士郎はなんだか不思議そうに、わたしたちを見比べたりしている。

「ええ、わたしも同感ですシロウ。やはり食事は家族でするものだ」
「ちょ、セイバー!か、家族って、私はそんな……」

セイバーちゃんのセリフで再び赤く燃え上がる遠坂さん。

「うんうん、遠坂さんもセイバーちゃんももう立派な家族だよね。ね、士郎」
「なに言ってんだ藤ねえ、そんなの当たり前だろ」

と、こともなげに士郎の言った言葉に止めをさされたか、燃え尽きるように遠坂さんはよろよろと台所に消えていった。

「?一体どうしたんだ、遠坂のやつ」
「はあ、士郎ったらこれだもんねえ。遠坂さんも苦労するわ、このばか」
「む、どうゆうことだよ、何で俺がばかなんだ」
「そうゆう所がばかなの」

??と首を傾げる士郎。
思わず遠坂さんに同情したくなってしまう。

「シロウ、私はリンを手伝ってきます」
「あ、じゃあ俺も……」
「いえ、あなたが来るとおそらく余計に遅くなってしまいますので結構です、私もさすがに空腹だ」

言うだけ言ってすたすたと台所に向かうセイバーちゃん。
それを聞いてシロウはますます首を傾げてる。

「…ま、士郎らしいって言えば士郎らしいんだけどねぇ」
「む、さっきからなに言ってんだよ」
「べっつにー」

いまだにさっぱり分からない士郎を置いて、セイバーちゃんはどんどん料理を運んでくる。
……うん、よほど空腹だったんだろう。いや、わたしもだけど。






それがそろえば食事の始まり。
昔とは違う、4人で食べる楽しい食卓。

―――それが逆に、少し寂しいわけだけど。

ま、ここは士郎の幸せのため。
潔く譲ってあげましょう。


だって、わたしは―――




―――士郎のおねえちゃんなんだから























「時にタイガ」
「ん?なにセイバーちゃん?」
「いえ、シロウを気にかけるのは結構ですが、タイガ自身は身を固めないのでしょうか?」
「……………セイバーちゃん……それ禁句なのにぃぃぃぃ……」






                    [END]


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