Fate / Sword & Sword 機雰后Дロスオーバー)


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1: ベイル(ヴェイル) (2004/02/27 13:38:00)[veill at arida-net.ne.jp]

「──を封印すること、それが条件です」
「……つまり、信用されてないってことか」
「いえ、私個人としては信用しています。ですが、それだけで組織は動きませんので」
「分かった。分かったよ、会長殿。あんたの言葉に従おう」
「──……」
「……悪い、少しだけ我慢してくれよ。ちょっと窮屈かも知れないけどさ」

「さて……それじゃ行ってきますか、その冬木市とやらにさ」



Fate / Sword & Sword



 冬木市・新都、その駅前パークのバス停ともなれば、休日平日の区別なく、それなりの人が集まっている。
 しかし、その集団の中に、この日だけ異物が混ざり込んでいた。
「……ほう、これはこれは」
 長身──一分の隙もない立ち振る舞いで、その男は冬木の地に降り立つ。
「なるほど、確かに“ここ”なら申し分ない。
 ──冬木の大聖杯、どうやら侮っていたようだ」
 そう言った男の口調には、ひどく楽しげな笑みが潜んでいた。





「衛宮、今日はもう切り上げよう」
「ん、了解」
 友人──柳洞一成の言葉に頷いて、衛宮士郎は工具箱を手に取った。
 彼の運命を変えた戦い──五度目の聖杯戦争より既に半年。半人前の魔術師にして魔術使い、衛宮士郎は、相も変わらずスパナ片手に学校の備品を修理してまわっている。
 土曜日の午後ということで、校舎内に人気は残っていない。部活動のため残っている生徒は無論いるが、それでも校舎全体に、どこかだらけた雰囲気が蔓延していた。
 しかしそれも、あと数日で夏休み、という条件の前ではむべなるかな。長い休みを目の前にした学生に、浮き足立つなと言う方が酷である。例外は衛宮士郎自身と、その友人の生徒会長くらいであろう。
「それじゃ、俺は工具箱帰してくるから」
「いや、職員室に用があるから、それは俺がやろう。衛宮はもう帰ってくれていいぞ」
「いいのか? じゃ、御言葉に甘えて」
 あっさり承諾して、一成に工具箱を手渡す士郎。半年が経過しても、スパナがやけに似合う出で立ちは相変わらずだ。
「それじゃ、あとはよろしく」
「ああ、じゃあな、衛宮」



 一度教室に戻って鞄をとり、一人で校門をあとにする。グラウンドや道場からはクラブ活動をしている生徒の声が聞こえていた。
 こうして一人で下校するのも実は久しぶりのことであった。ここ数ヶ月──聖杯戦争が終わって無事三年生になってからは、何かと彼のまわりが賑やかになっていたのだ。主として、聖杯戦争をともに戦い抜いた仲間によって。
 その二人──魔術師としての師でもある同級生とその使い魔となったかつてのサーヴァントは、今日は遠方から来客があるとかで、さっさと自分達の屋敷に帰っていた。
「……そういや、わざわざ遠坂の屋敷まで訪ねてくる客って、何だ?」
 何となく遠回りなルートを選んで下校しながら、士郎はふと思い至って首をかしげる。
 衛宮士郎にとって、遠坂凛というのは永遠に謎な存在ではある。が、決して理解不能な女性というわけでもない。彼女がわざわざ屋敷で待ちかまえるということは、十中八九“裏”の関係者──つまり、魔術関係の客であろうと予測できた。
 だが、結局はそこまでだ。魔術関係の客であろうということは予測できるが、逆に言うとそこまでしか予想できない。
「まあ、本人に聞けばいいか」
 考えても結論など出ないから、思考放棄。問題の先送りともいうが、元々それほど興味があるわけでもない。
 そのとき──、

「うわっ」
「お……?」

 道端……ちょうど衛宮家と遠坂家に挟まれた交差点で、士郎は出会い頭に人とぶつかってしまっていた。
「っと、すいません」
「ああ、いや、こっちこそ」
 慌てて謝る士郎に、その相手は苦笑混じりにそう言った。視線をあげると、目に入ったのは士郎よりやや年上で、頭一つ分ほど背の高い青年。
 夏だというのに黒いシャツとズボンを纏ったその青年は、肩から大きめの鞄を提げていた。黒ずくめの出で立ちは、どこかおとぎ話の魔法使いを思わせる。

 ──その姿が、何故、似ているなどと思ったのか。

「?、どうした? どっか打ったのか?」
「あ、いや……」
 不意に問いかけられて、士郎ははっと我に返った。そして、
「なんか、魔法使いみたいだな、って」
 などと、自分でもよく分からないことを口にする。無論、口にした瞬間に後悔した。初対面の相手に向かって、一体何を言ってるのか。
 だが……青年は、一瞬きょとんとした表情を見せたあと、

「そりゃ当然。こう見えても、俺は魔法使いなんでね」

 そう言って、屈託なく笑ってみせたのだった。





「……はぁ」
 昼下がり、間桐桜がため息をこぼしたのは、実は珍しいことであった。
 場所は自室──地下にある本当の“部屋”ではなく、二階の部屋の方だ──で、彼女は物憂げに窓の外を見つめていた。今日は朝から体調が優れず、部活には顔を出さずに帰ってきたのだ。あの一件以来、彼女の兄が無理を言うことは少なくなっていた。
 だが、桜のため息の理由は体調不良だけではない。というか、その体調不良で彼女の“先輩”の家へ行くことができなくなったことが主な原因であった。せめて微熱が収まらなければ、顔が赤いまま行っても逆に心配されるだけだろう。
 自分のことには鈍感なくせに、彼女の“先輩”は他人の不調には敏感な人間だから。
「……あれ?」
 そのとき、ふと庭を見下ろした桜の目が、そこから玄関へ歩いてくる一人の男性を映した。
 遠目でも分かるくらいの長身痩躯。一分の隙もなくきっちりとスーツを着込んだその人影は、奇妙なくらいに日焼けした真っ黒な肌をしていた。
「お客様かしら」
 この家を訪ねてくる客人がいるとも思えなかったが、実際に玄関に向かっている以上、客なのだろう。桜は慌てて腰を上げると、来客を迎えるべく部屋をあとにした。
 間桐家の本来の主──彼女の祖父、間桐臓硯は間違っても自分から客をもてなすタイプではないし、兄である慎二は部活で家にいない。
 そうして桜が玄関まで辿り着いたとき、ちょうどその男性は、間桐家の扉をくぐったところだった。
「失礼……ゾウケン氏はご在宅かな」

 ──その夜、桜は幾度となく悪夢に眠りを妨げられることとなる。元より悪夢に等しい人生を送ってきた彼女をも脅かす悪夢は、どれもその客人──アンブローズ・デクスターと名乗った男が登場していた。






「……初めまして、かな。マキリの魔術師殿」
「さてな。わしもこの通りもうろくしておっての。過去におぬしと会っておったとしても、もう思い出せぬわ」
「それはそれは……クク」
「何がおかしい?」
「いえ……人間、ここまで醜悪になれるものかと感心してしまいまして」
「ふん──何とでも言うがいいわ。死にたくないというのは人類共通の願いではないかな?」
「しかり……それが「生きている」といえるのなら、だが」
「何?」
「いえ、なんでもありませんよ、魔術師殿。
 それより……」
「分かっておる……幸い、前回の聖杯戦争で街の魔力濃度は更に上昇した。今なら、もう一度挑むことも可能であろうな」
「それは結構」

「さて、では始めようか──我々の聖杯戦争を」


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