死線の一 F×月クロスオーバー


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1: ちぇるの (2004/02/27 02:54:00)

※ネタばれもありありかなー。
改稿とかしてないのでどうなるやら分からず。
台詞回しも恐らく変でしょう。
プロットじみてるかも。直接書き込むので。
時間軸はFate桜ルートTrueEnd後、凛は一回ロンドンに帰る。その間に月姫進行、歌月十夜、メルティブラッド終了後の冬となっております。
流して流して流し込んでみてください。では。


『死線の一』



タタリという現象があった。

噂を媒介に吸血鬼が現界するという現象。
その発生した吸血鬼を殺しても次にまたどこかで発生するだけ。
発生するものは意思を持った吸血鬼でも存在するのはただのシステム。

そしてそのシステムは一つの街で終焉を遂げる。

冬木市。

だが、その町には一つだけ秘密があった。
一つの大きな魔術装置であるという秘密。
その時消滅したはずのタタリというシステムは噂を媒体にして。
その魔術装置は願いを受け入れる装置であり。

ああ、そうそう、『噂』と『願い』って言うのはその本質は同じな分けで。



 時計塔から少しばかり長めのお休みを取った遠坂が不意にどたどたと士郎の家にやってきた。
 懐かしい友人であり師匠である遠坂の期間を喜びもてなそうとお茶を一杯出した後、遠坂が突然言葉を切り出した。
「は? 吸血鬼? 吸血鬼がどうしたって?」
 と衛宮士郎は当然ともいえる疑問符を浮かべた。
「どうもこうもしないわ。吸血鬼が夜な夜な新都の方に出てるって話」
 対する遠坂凛は少々息巻いていた。
「最近ニュースでやってるやつか?」
「ああ、もうそのよく分かってないって顔が微妙に憎たらしいわね。夕食にはビーフストロガノフ作りなさい」
「いや、それはいいんだけど」
 士郎は遠坂の言ってきたことが実際によく分かっていない。
 吸血鬼と言えば映画に出てきて美女がキャー、という奴で、何で遠坂がそんなゴシップに噛み付いているのが理解できなかった。
「いや、何でそんな熱くなってるのさ?」
「だから、吸血鬼! 本物。血を吸う鬼!」
「……?」
「あんた、魔術師なんてやって、ペガサスなんて幻想種まで見て吸血鬼は信じられないっての?」
 ようやくことの重大さに気付き始める。
 つまり。
「その噂って本物なのか?」
「本物も本物。なんか帰ってきてから」
 悔しそうに歯を食いしばる遠坂を見つめて士郎はなんとなく確信めいたことを考える。
 きっと、正義の味方には遠坂みたいな奴こそが相応しい。俺みたいに甘くないのに、どこまでも甘い考えの遠坂みたいな奴が。きっと。
 俺はそのキレイな何かを追いかけるのが精一杯。
 そのことを後悔はしないし、諦められるほど賢しくないのが自分という人間なのだけれど。
「でも具体的にどうするの?」
「私たちで見つけ出して、すぐにぶっ叩く、といきたいんだけどね」
「? 実力的には大丈夫じゃないのか? 前に遠坂、自分たちは最強ね、みたいなこと言ってたし」
「ああ、うん。ほとんど、ね。何事にも例外っていうのはあるから」
 そこには冷静で冷徹な魔術師としての遠坂がいる。
「ライダーと桜にも頼んでこの近辺を回っていきましょう。まずは偵察。戦えそうに無かったら何がなんでも逃げるからね」
 まあ、この程度の慎重な作戦ではおっちょこちょいをする人間で無いことを士郎はよく知っている。

 だから、まあ。


 目の前に吸血鬼がいるなんてこの状況は偶然にすぎなくて。
「まずったか〜・・・」
 なんて顔に手を当てて少々真剣に悩んでいる遠坂の様子を見るに大変まずい状況にあることは分かった。
 眼前にそびえる新都の灰色の塔の前に佇み、人を殺して恍惚の表情を浮かべるその人影は金の髪をさらり、と零してこちらを振り返った。
「あら、こんばんは」
 なんてご近所付合いの延長みたいな気軽さでこちらに金色の凶った視線を向けるその人影を遠坂は睨んでいる。
 まるでそれしかやることがないみたいにしばらく睨みあった後。
「人違いだと嬉しいんだけど、もしかして真祖のお姫様だったりする?」
 なんて挑戦的に、そして余裕なんてひとかけらもなく遠坂は言い放つ。
 対する影は至って友好的に両手を広げながらにぱり、と場違いな笑顔を浮かべ。
「ブリュンスタッドとして生を受けたわ」
 といった。
 俺には意味が分からなかったが隣にいる遠坂が半ば絶望しながら、腰にある宝石に手をかける。
“まあ、並みの吸血鬼なら使う必要も無いし、ちょっと強いのが来ても一個あれば逃げるぐらいはできるから”
 と、豪語していた遠坂が(ついでに言うとお金にはちょっっっっっとばかり執着する遠坂が)何の迷いもなしに全弾を握り締める。
「士郎」
「なんだ?」
「私が、5……ううん、10秒はなんとか耐えてみせる。だから逃げて。そしてこの街から離れて」
 遠坂はそんなことを言いやがった。
「俺も戦う」
「無理よ。あれは……ううん、説明なんていらない。あれは出会っちゃいけなかったもの。最悪27祖と鉢合わせかな、とは思ってたけど。これは予想外」
 遠坂は自嘲気味に笑う。
 言いたいことはよく分かる。だってこっちの様子を見て手出しもしないでにやにやと笑うその吸血鬼は、いつだってこっちを殺せると分かっているから余裕なのだ。
「いい? 多分私が突っ込めば士郎なんて魔力の薄い奴、簡単に逃がしてもらえる。そうしたらもう戻ってきちゃいけない」
 これが、最後、とばかりに、ふっ、と溜息をついて遠坂は困ったような凄く優しい表情を浮かべて。
「うん、月並みだけど、桜には大好きだ、って伝えておいて。後、士郎のことも結構好きだったな、私」
 一瞬言われたことを理解するために体が停止し、その隙を逃さずに遠坂は走り出す」
「―― 1番から4番まで全開放、衝撃、火炎、電撃、浄化! ――」
 そんな呪文が聞こえて初めてエミヤシロウという魔術師の体は反応を始めた。
 立ち止まりながらやることなんてない。
 走りながら己の魔術回路の撃鉄を引く。

 順番を間違えられても困る。
 そんな言葉だけ残されても悲しいだけだし、何より。
「男がそういう役目をするもんだろうがっ! ―― 投影、開始!」
 走りながら、頭が沸騰しながら、そんな状態で投影できるものなんて決まっている。
 遠坂の放った、それ一つ一つが英霊すらも傷つけるはずの四つの違う属性の魔力の塊が影にぶつかる。
 破裂音が四回。上半身ぐらいが吹き飛んだ音。本来ならそれで安心できるはず。
 ――だが、遠坂が油断もせずに新たな宝石を取り出そうとしているのはどういうわけか。
「ああ、痛い。特に四番目のね。頭きちゃう」
 なんて煙の中から背筋を凍らせるなんて、笑えるぐらい文学的な表現を実践する声が聞こえてきた。
 煙が晴れる前に遠坂が紅い宝石を二つ煙の中に投げ込む。
「5番、6番、開放、爆撃!」
 その呪文が響くと同時に
「そんな、攻撃は な い 」
 と、重い言葉が響き。
 びしり、と何かが砕ける音だけがしてその後に響くはずの爆発音がなかった。
 俺は迷わずに遠坂とソイツの間に夫婦剣を投げ入れる。
 がん、と鈍い音が鳴って、ソイツの首に攻撃が当たったのを確認もしないで遠坂は転がる勢いで後ろに跳び退った。
 俺の剣にはじかれて不思議な表情をしながら3メートルほど吹き飛んだ後、あっれー? と不思議そうな表情でその“両腕を失ったまま”ソイツは立ち上がった。
「うん、ちょっとなめてたみたい。夜じゃなきゃ一回ぐらい死んでたかも」
 とにっこり笑った後、ずりゅ、と嫌な音を立ててその両腕が生えてくる。
 俺は急いで遠坂に駆け寄ってかばうように立つ。
「ちょ、バカ! なんで逃げないのよ! もう宝石残ってないのよ!?」
「分かってる。分かってるから。バカとか言うなバカ」
 そう、分かってる。さっきのチャンスを逃したからこれから二人で死ぬんだってことぐらいは。
「でもな、男が残って盾になるもんなんだよ、普通」
「こ、このアンポンタン! 帰ったら殴り倒すわよっ!」
 ああ、実際に帰ったら殴り倒されるんだろうけど。
「ん? 最後のお話終わった? ちなみに帰らせるつもりはないわよ?」
 そう、死刑宣告が下った。


「待てよ、アルクェイド」

 唐突に響き渡った声に吸血鬼はその声に振り返る。
 俺たちもおもわずそっちを見てしまうと、そこには。
 冷たいぐらいに死んだ碧い眼をした自分と同い年ぐらいの青年が立っていた。
「アルクェイド、どういうことだよ、これ」
 と、あの化け物に対して旧知の仲のように話しかける。実際に旧知の仲なのかもしれない。
「どうもしないわよ、志貴。ただ血を吸っただけ。だって私吸血鬼だから」
 にこっと、無邪気に笑うアルクェイドと呼ばれた吸血鬼に対して、志貴と呼ばれた少年はかけていた眼鏡をすっ、と外した。
 そしてその怖いぐらいに死んだ、死ぬ、死ね、死の、視線を。
 その死線を。
 すっと細めた。
「お前、誰だ?」
 そういって少年は惑い無く懐から短刀を取り出した。
 何を持って戦うのかは知らないが、危険だ。
 あんな化け物に敵うわけが無い。
「くっそ!」
 俺は全速力で投影を開始して敵に突っ込んでいく。
 ああ、もう! せめて遠坂の最後の台詞にたいしていろいろと悩むぐらいはしたかった!
 なんて死を前提にして走り出した俺の方には注意も向けずにアルクェイドとやらは志貴を向かえうつつもりらしい。
 その馬鹿にしてる様が悔しくて、ちょっと、吸血鬼に効きそうな武器を思い出してしまった。
「イメージは悪いんだけどなっ!」
 細身のツルギのイメージ。
 言葉で紡がれた剣。
 邪悪なるモノの否定。
 否定、なるほど、あんなものを否定することには共感する。
 数多の吸血鬼を屠ったその武器の名前は。
 黒鍵という。
「投影、完了!」
 俺はその手に持った武器を投げつけた。
 見たこともやったこともない投げ方だが、剣が教えてくれたその投げ方は、弾丸のようなスピードと破壊力でその剣をアルクェイドに打ち込む。
「残念、それはもう慣れてるの」
 と、こちらも見ないでそれを片手でかるくあしらうアルクェイド。
 そうしている間に志貴って奴は死に直行している。
 うわあ、もう吸血鬼に効くのなんて思いつかない。
 にんにく!? 心臓に杭!?

 心臓に?

 どくり、とすでにふさがりきった胸の傷が蠢動する。

 真っ赤な。
「これまたイメージが悪い」
 苦笑しながら、ばちばちと神経が焼ききれるのを覚悟でそれを投影する。
 時間をかけなければならないはずのソレの投影を一瞬で終わらせるには相応の対価が必要。
 例えば、ちょいとばかし衛宮士郎を構成する何かを焼ききるとか。
 ぶちん、と懐かしい感触。
「投影、完了!!」
 片手に現れたそれをしっかりと持つ。
 アルクェイドはこっちを見てもいない。
 志貴はまっすぐに突っ走ってくる。
 どいつもこいつも無視しやがって。

 青い死を思い出す。
 すっと右手で持った槍に左手を添える。
 ああ、偽者をつくるぐらいなのだから物まねだって少しはできる。
 桜から少しずつ分けてもらってる魔力の貯金を全部下ろしてその真名を言うために用いる。

 そうして、空気が凍る瞬間に至ってようやく気付いたアルクェイドが振り返る。
 だが、もう遅い!

「刺し穿つ死棘の槍“ゲイ・ボルグ”!」

 もちろんオリジナル程の無茶はできない。
 だけど、命中補正ぐらいならできる!
 アルクェイドがとっさに片手でその槍を大きく右に弾く、だが。

――その程度の因果は逆転する――

 ぐさり、と多分、アルクェイドは何も分からずに自分の右胸を貫く紅い魔槍を見つめていた。
 もちろん、その程度でこの化け物は壊れないし。死にもしない。
 ただの数瞬動きがとまるだけ。
 こんなことでは志貴とやらも救えないのでは、と思ったときに。
「助かる」
 なんて一言だけ志貴は呟いて。

 首の付け根から左肩。
 左肘。
 右の上腕。
 腹部から胸部にかけて斜めに。
 右大腿部。

 一瞬で五箇所を切り取り。

「アバヨ亡霊。二度と祟るな」
 なんて言って、驚愕したままの吸血姫の頭に短刀を刺した。
 たったそれだけで吸血鬼はばらばらに崩壊しさらさらと砂になっていく。

 その行為でようやく自分の目の前に立つ人間が死神なんだって気付いた。
 そいつの行為は全て殺すためにある。
 自分の体が無限の剣で出来ているから気付いた。
 それは殺すことのみに特化した存在。
 自分すらも殺す。
 ただ殺す。
 その蒼い眼で。
「えっと、ありがとう、助かった」
 なんて人の良い笑顔を向けられると今の自分の感想に自信をもてなくなるが。
「え、あ、うん」
 なんていった瞬間に。
 焼ききれた神経の後遺症なのか。
 ばつん、と急速に意識が遠のいていった。
 遠くで聞こえる遠坂の声。

 それで思い出す。
 うあ、遠坂、いくら死にそうだったからって告白しやがって。
 誰だ、こんな言葉に悩むぐらいは生きたかったって言いやがったのは!?



次回予告

意識がまどろんでいる。
「え!? 本当!? 6千万よ? 6千万」
「その程度は管理しています。兄さんが止まらないと言うならそれ相応の安全策をとっていただきたいですから。簡単に言えば保険ですね」
「で、でも」
「いいんです。私がそうしたいと言っているんですから。似非カレーは公務員ですから勝手にやるでしょうけど、ちゃんとした仕事をする人にはちゃんと給料を払わないと。もちろん必要経費も」
「む、聞き捨てなりませんね。神父らしくないのは認めますけどカレーに関しては真剣です」
 突っ込むところそこなんだ。
「えと、じゃあこいつ、衛宮士郎って言うんだけど。こいつも労働力に入れたらいくらくれる?」
 ……なんでさ


 遠野家に連れてこられた士郎。
 困ったタイガーも登場でおお暴れだ!
(注:一部明らかな嘘があります)


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