いぬみみせいばー でーとへん 複諭Д札ぅ弌叱ぜ・尻尾つき 傾:ほのぼの・コメディ ちょっとクロスオーバー)


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1: てぃし (2004/02/26 21:17:00)[1192tisi at mail.goo.ne.jp ]

前回までのあらすじ
 セイバーに犬耳と尻尾が生えました。
 なので、今度こそデートに行きます。


決行だ。
デートプランは既に考えてきた。
今のセイバーなら絶対気に入ってくれるだろう。
服装はとりあえず帽子必須、スカートも長めで、犬耳・尻尾を隠すことにした。
考えてもみて欲しい。
ただでさえ美人で注目を集めるセイバー、その上さらに犬耳・尻尾のオプション付き。
明日からご近所の評判は確定だ。
それは、どんなことをしてでも避けなきゃいけないことだ。


Fate/stay night ss

いぬみみせいばー でーとへん 

てぃし


午前中は、のんびり散歩にした。
いままで、ゆっくりとこの町を案内したことは無かったし、落ち着いて散策するのも悪くない。
まずはマウント深山商店街に向けて歩いた。
遊び場はないけど、見ていて飽きないところだ。
「うん、いい天気で良かった」
まっさらな、どこまでもどこまでも続いてる青空だった。
「そうですね、太陽が心地良いです」
「セイバーもずっと家の中だったしね」
「はい、気持ちが広がります」
彼女は両手を上げて深呼吸した。
ん〜〜っ、と背伸びする様子は、とても気持ち良さそうだった。
いつでも真っ直ぐなこの少女には、陽の下がやっぱり似合う。
「それで、どこに行くのですか、シロウ」
「商店街の方に行こうと思ってる、ほら、夜に通ったことはあったけど、昼には行ったことなかっただろ」
「はい、そうですね、随分と雰囲気も違うことでしょう」
「うん、全然違うよ」
「どのような店があるのですか」
「ん、食料関係のものが多いかな、ウチの食材は大抵あそこで買ってるし」
「そ、そうなのですか」
「そうだ。なにか好きな物あれば買っていいよ。お金もそこそこ持ってきたし」
「そういえば、以前に買った。あの甘く丸い」
「どら焼き?」
「はい」
「うん、あれも商店街で買ったやつ」
「……」
「ちょ、セイバー、尻尾おさえて」
スカートの下がバッタンバッタン蠢いてた。かなり怪しい。
「は、はい」
自分のお尻を恥ずかしそうに押さえた。
その後、顔を赤くしながらも毅然と歩く様子は、セイバーらしかった。
サーヴァンの立場から離れたためか、自然な表情で、興味深げに周囲も見渡していた。
「あ」
「うん?」
「シロウ、あれはなんですか、なにかいい匂いがしてますが……」
「えーと……」
セイバーが指し示しているのは、屋台だった。
この匂いからすると、
「焼き鳥か、セイバー、欲しい?」
「え、ですが、先ほど朝ごはんを食べたばかりですし」
「構わないって、俺も買うから、セイバーも買おう」
俺は半ば強引に彼女を店先に連れて行った。
興味津々なのは、見てれば分かる。
「考えてみれば、セイバーってまだ焼き鳥は食べてなかったんだっけ」
「はい、ですが、意外と単純なものなのですね」
ちょっと残念そうだった。
彼女は基本的に、手の込んだものを好む傾向がある。
「あ、いらっしゃい、お客さん?」
店主は、こういった屋台には似つかわしくない。おっとりとした雰囲気の、全身を黒ずくめにした大人の男性だった。
黒ぶちめがねとその笑顔だけで、人柄の良さが滲み出ていた。
「あ、はい。えーとネギマと皮と、あ、あと砂肝、それぞれ2つで」
「はいっと」
タレを浸け焼きはじめた。
手馴れてはないけど、着実だ。
「あ、それと、セイバー。焼き鳥って単純だけどね、意外と奥が深いよ」
「そうなのですか」
「うん、特にタレと炭火の具合によって、ぜんぜん変わるしね」
「は、はあ」
何か納得のいってない様子だった。
「ほら、この匂い、嗅いでみなよ」
「ん……」
ちょっと顔を前に出して、鼻をくんくんさせてた。
「…………!!」
ぱた
「あ」
ぱたぱたぱたぱた!!!
「ちょ、セイバー、尻尾」
俺の方から見ると、スカートの下がとんでもないことになっていた。
まるで、誰かが中に入ってデンプシーロールしてるみたいだ。
っていうか下着まで見えてるじゃないか!
その風圧で今やスカート全開だ。
なんて打撃力、なんて眩しい白……!
「シ、シロウ、これは……」
「セイバー、頼むから前向いててね」
俺は振り返ろうとする彼女の腰を持って、強引に屋台側に向けさせた。
「はい……?」
そんな子犬っぽく小首を傾げないでくれ。そして、そんな無垢な瞳で見ないでくれ。
なけなしの良心がチクチクと刺激される。
「ちょっと、ゴメンね」
俺はセイバーの尻尾を掴んで押さえようとした。
今は人通りが少ないからいいけど、このままだと危険だ。
微妙に不思議そうな店主を視界の端に捉えつつ、むんずと、掴んだ瞬間。
「むゃ!」
彼女の背筋がビクッ、とそり返った。
見た目としては、そう、ちょうど背中に氷を放り込まれたみたいだった。
こちらに凄い勢いで振り返り、
「シ、シロウ、なにをするのですか!」
涙目になって睨んでくる。
中腰になって半ば臨戦体勢だ。
「え、そんなに嫌だった」
「い、嫌だなどという程度ではありません、シロウ! このような人目のあるところで何と破廉恥な!」
ハレンチ、なのか? セイバーにとって尻尾を掴まれるのは。
「シロウ! 聞いてるのですか!! 公衆の面前でこのような非道な行いをする、正統な理由があるとでもいうのですか!?」
「いや、でもね、セイバー」
「なんですか!」
「その尻尾が……」
あ、店主さんが呆然とした顔をしてる。
それもそうだ。
そりゃそうだ。
だって、俺から見えるくらい尻尾が逆立ってるんだから。
店主さんからは尻尾と、ヘタすれば下着まで丸見えになってるだろう。
この不可思議現象に、黒ぶちメガネさんは焼き鳥をひっくり返す手を止め、ただ凝視してた。
俺は何よりも優先して、セイバーの身体を店主に向けた。
「なっ」
後ろからも見られないよう、身体を密着させる。
「はは、あの、いい天気ですね」
「あ、うん」
「ちょ、シロウ!?」
暴れる彼女を両手で拘束した。
他人から見たら単なるバカップルなんだろうなあ。
「あの、彼女の後ろから」
「こういう日は光科学スモッグが大量発生して、きっと、ありもしない幻覚が見えるんですよね!」
「けど、ぱたぱたって音が」
「全部買います!」
俺は絶叫した。
「え」
「ここにある焼き鳥、全部買います」
鋼鉄の意志を込めて、黒ぶちメガネの向こうを睨んだ。
鈍そうな人ではない。
言外の意味も汲み取ってくれる筈だ。
「あ、ああ、でもいいのかい?」
「は、はい」
今月の生活費が……
ただでさえ食費がかさんでいるっていうのに……
涙がでそうだ。
でも、背に腹は変えられない。
暴れるセイバーには「尻尾、見えてる」と囁いた。
「え……」
ようやく、尻尾も止まった。
一安心だ。
じつは密着状態で、彼女の尻尾が動いていたから、結構ヤバかったのだ。
具体的には想像しないで欲しい。デンプシーロールがどこを打っていたかなんて。
「……」
黒ぶちの店主さんは考えていたが、
「いや、買わなくてかまわないよ」
「え、けど」
「どういう理由があるか知らないけど、秘密にしておくさ」
「それは、助かるんですけど」
「納得いかない?」
「はい、正直に言えば」
「ひょっとしたら、なんだけど」
「……」
「君の周囲に、からかうことを生きがいにしてる人とかいない?」
「! はい」
「しかも、ええと、なんて言ったらいいのかな、普通とはちょっと違ったことのできる人?」
「は、はい」
ひょっとしてこの人も?
胸元にいるセイバーを見てみるが、首を左右に振っていた。
俺では分からないが、この人はどうやら一般人のようだ。
だとしたら純粋に巻き込まれてるのか。かわいそうに。
「やっぱりね。僕の上司にも、そんな人がいるんだよ……」
なぜか遠い目をしてた。
「恋人の前で妙な誘惑をして修羅場を嬉々として作ったり、何百万もの品を平気で買い込んでは給料を払ってくれなかったり、妹に一般常識からかけ離れたことを教えて自分の弟子に仕立てたり、その妹と恋人と決闘させようとしたり、後輩との仲を囃し立てたり、魔術の実験台に僕をしようとしたり、逆切れしたり、そのせいで今日も出張ついでにこんなアルバイトを……」
だんだんと頭が下がってた。
浸けダレに顔を突っ込みそうな勢いだ。
「あ、あの、焦げてますが」
焼き鳥から出てる煙が黒かった。
「ああ!」
その後も色々と話したが、結論としては「魔術師は性格がひねくれてる」だった。
……セイバーが、それにとても深く同意したのが印象的だった。

「あっ」
「ども」
「よお」
「あ、久しぶりです」
商店街には結構知り合いが多い。
買い物に行く関係で当然なんだけど、
それでもこれはちょっと失敗したと思った。
これじゃあセイバーと会話もできない。
「おっと衛宮んとこの! おう、どうだい? いい鮭あるよ!」
魚屋のおじさんに声をかけられた。
ここは結構、利用してるとこだ。
「あ、本当にいいですね、帰りに寄らせてもらいます」
「なんでい、今日は遠坂の譲ちゃんじゃねえのかい? かー、やるねぇ!」
「ちょ、おやじさん、痛い」
「色男がなぁに言ってやがる!」
「誤解ですよ」
「おう、おまえも来な! 珍しいもん見えるぜ!」
「あら、シロさん、お久しぶりですね。また別の女性なんて、あらあら」
「ちょ、誤解されるようなこと言わないでください!」
「この前は、桜さんと凄く楽しそうに歩いていましたし、つい先日は凛さんが連れまわしていましたし、さらにその前は藤村さんが甘えてましたね?」
「い、いや、それはそうですが」
「おお! なに、また新しい彼女!?」
「おう、清さん、聞いてくれよ!」
わいわいがやがや。
商店街に入ってから5分、あっという間に囲まれた。
この事態は想定してしかるべきだった。
けど、予想外のノリの良さだ。
泰山の店主まで出てきてるし。食べ物屋がいいのかな。
セイバーは戸惑った様子だった。
「あの」
「ん? なんでい」
「シロウは、そんなに他の女性と良く来てるのですか?」
「おお、そりゃもちろんさ! いや、もちろん一人の時もあるけどよ、最近は遠坂の譲ちゃんと、一年前は桜ちゃんとよく一緒に帰ってたよ、なあ!?」
「……」
そんなん、俺にどうやって答えろっていうんだ。
ウソは言いたくないけど、事実も言いたくないぞ。
「シロウ? それは、真実、ですか?」
にっこり。
「私が家で留守番をしている間、そのようなことをしてるとは知りませんでした」
セイバー、不自然なほど優しい笑みを浮かべてるのは何故なんだ?
あと、鎧が半実体化してるように見えるのは気のせいなのか?
「あ、えーと、誤解だ。そりゃ最近は、遠坂と一緒のことが多いけど、それはたまたま時間が合っただけだし、桜だって同じ部活してて、その後に晩飯を食べるんだから必然的にそうなってただけで、別に他意は無い。だいたい、そんな風に誤解されたらきっと向こうが迷惑だろ」
周囲の人間が一斉に溜息をついた。
なぜ?
「まったく衛宮んとこのは、親は女泣かせで子どもは朴念仁かい」
「因果は巡るっていうけどねえ」
「桜ちゃんも報われない」
「親の因果に子が報い、ってのとは違いますかね、この場合」
「いや、これで切嗣のみたいになっちまったら、そっちの方が手がつけられねえだろ」
「本妻・愛人・恋人・不倫相手ってところになるな」
「その場合、誰が何になるんだ?」
えーと、失礼なことを言われてる気もするけど、このテンポに割り込めない。
本人を放っておいて、ますます商店街ズは盛り上がっていた。
話もどんどん発展しいて、すごい方向に走ってる。
どうやら俺は、誰と結婚しても他の人と隠し子を作ってしまい、ドロドロの愛憎劇を繰り広げる運命らしい。
「…シロウ、行きましょう」
セイバーが、俺の手を引きながら、その場を離れた。
この上なく不機嫌なのは、俺の気のせいだろうか。
「……」
「……」
「シロウ……」
「な、なにさ」
「これから朝夕、学校の行き帰りは、私が送り迎えをします」
「な! ちょっと待て! 勝手にそんなの決めるなんて」
ギロリ
「決・定・事・項です。いいですね?」
俺と腕を組みながら、むすっと睨んできた。
その膨れたほっぺたとかは、すごくかわいいし、思わずつつきたくなる。ああ、腕に微妙な曲線も当たってるし……
で、でも、これは、ダメだ。
想像の中だけでも修羅場誕生なんだ。
具体的には男連中の嫉妬とか、エロ学派の連呼とか、あかいあくまの微笑みとか、あと、何故か黒い影も見えた気がする。
通学するだけで冬木市は壊滅状態になるだろう。聖杯戦争なんか目じゃない。
「考え直さないセイバー? ほら、俺にも学校生活ってものがあるんだし」
「いえ、考えてみれば、シロウが歩く途中で襲撃を受ける可能性もあったのです、それを防ぐ必要があります」
ごく冷静に彼女は言う。
「襲撃って、もう、そんな物騒なこと起きないだろ」
「いいえ、そうとも言い切れません。シロウは曲がりなりにもあの戦争を生き残ったマスターです。他の魔術師が情報を得ようと攫う可能性もないと言い切れません。また、他にも車による事故、事件・災害からシロウを守る必要があります」
……こう聞くとすごく客観的な意見だけど、そのためにこの町の守護役、遠坂がいるんだ。
他の魔術師が入り込む余地は無いと思うんだけど。
「なんですか?」
やっぱり俺の腕を両手で抱え込みながら、がるるー、って視線でセイバーは見上げてくる。
「なあ、俺ってそんなに頼りないか? そこそこ剣の腕も上がってると思うんだけど」
「いいえ、そういうことではありません。これはサーヴァントとしての役目の問題です」
そこで視線を外されると、微妙に傷つくんだけどなあ。
「あー、でも考えてみれば英霊がまだ現界してるって、あんまり他に知られない方がいいだろ。だから、朝夕の迎えはとおさ…」
抱え込まれてる手に、ギリッと、尋常じゃない力が込められた。
「痛たっ! セ、セイバー、極ってる、腕が極ってる!」
「……なにか、言いましたか? シロウ? 良く聞えなかったので、もう一度、ゆっくり、はっきりとした発音でお願いします」
「セ、セイバー、ギブ! ギブっ!」
…結局、セイバーによる送り向かえを承認させられてしまった。
さよなら俺の日常……

俺は腕を擦りながら歩き、その横でセイバーがそっぽを向いて歩く。
だけど、手は俺と繋いだままという、仲が良いのか悪いのか、ちょっと微妙な状態のまま歩いた。
でも、数メートルも行かないうちに、
「おっと、エミヤん」
俺のアルバイト先・コペンハーゲンの店長の娘さん、通称ネコさんにまた捕まった。
これは、ちょっと不味いかも。いや、ネコさんが、というより、
「珍しいじゃん、彼女連れ?」
「ち、違いますよ」
「そう?」
「……」
「お、ゴロちゃん、どうしたん?」
ネコさんが、大きな犬を連れてることだ。
巨大な体躯の、物騒な犬だった。
生涯一度も笑うことなどない、ただ敵を叩き潰せればいい、そう言わんばかリの面構えは、今はセイバーだけを注視してる。
咽の奥で唸り声を上げていた。
セイバーも、ハッと気が付いたように睨み返し、中腰で構えてる。
まるで、敵サーヴァントが出てきたかのように、緊張感に満ちた様子だ。
こめかみからは一筋、汗が流れてる。
俺は逆立ってる尻尾が周囲から見えないよう、彼女の後ろに陣取った。
セイバーは今にもゴロちゃんに襲いかかりそうだったし、それは相手も同じだった。
一人と一匹の間には、余人を通さぬ気迫が満ちていた。
「グルルゥゥゥゥゥゥ〜〜」
「……」
ゴロちゃんは四肢をたわめつつ、じりじりとセイバーに迫った。
セイバーも相手との間合いを計りながら、歩を進める。
お互いに、出会った瞬間から敵と認定したらしい。
「ガルゥっ!」
「はあっ!」
「おお、ゴロちゃん!?」
「ちょ、セイバー!」
ネコさんは首輪で、俺は咄嗟におなかに回した手で、それぞれ、突進する動きを止めた。
「どうどう、ゴロちゃん! 落ち着いて!」
「セイバー! なにいきなり戦おうとしてるんだよ!?」
俺たちは力尽くで、離れさせた。
一人と一匹は、フーフー言いながら睨みあっていたが、
ゴロちゃんはネコさんへ重々しく振り返り、「男には、闘わなきゃいけねえ時がある……」と視線で伝え。
セイバーは、
「シロウ! 離してください、王には決着をつけねばならない時があるのです!」
と暴れてた。
互いに一歩も引かない。
てか、なんで闘うんだよ!?
「ああ、もう、仕方無いな、ゴロちゃんは」
ネコさんは、凶暴な唸り声をまるで無視して、巨大な背中をよーしよーし、ってな感じで撫ではじめた。
張り詰めてた四肢が緩む。
ゴロちゃんは、むぅぅ、ってな様子で戦意が少なくなった。
よし! これだ!
「セイバー」
「なんです!」
「いーこいーこ」
「ひゃっ……!?」
片手でセイバーのおなかを手で固定したまま、背中を撫でた。
小さな背中。その微妙な起伏をぜんぶ撫でる。
「シ、シロウ……あの…」
セイバーから張り詰めたものが消えていった。
左手を調子よく往復させる。
「ふぁ………!」
顔は赤く、尻尾はビィンっ! と伸び上がる。
良し。
さて、次は……?
あ、ゴロちゃんの咽をさすってる。
たまに声をかけながら、顔をこすったりしてた。
む。
俺は、身体をより密着させるようにしながら、セイバーの咽もと、つるつるの肌をさする。
撫でるというよりも、セイバーの産毛を整えてあげる感覚で。
「ぁ…………ぃゃ……」
本気で嫌がってないのは、尻尾が痛いくらいの勢いで揺れてることからもわかる。
頬や髪も撫でながら、「いい子いい子」と耳もとで囁いてやる。
「ぅ………」
彼女の全身から、だんだん力が抜けていった。
俺に寄りかかる体勢になる。
息もちょっと荒い。
「うりゃうりゃ」
ネコさんは、仰向けになったおなかを撫でてた。
ゴロちゃんはアウンアウンいいながら喜んでいた。手足の先も軽く握ってやってる。
へー、あんな風にしても喜ぶんだなあ。
俺はセイバーの帽子に手を突っ込み、犬耳の裏側をカリカリ掻きながら、そんな感想を浮かべた。
はっ。
何気なく胸元を見てみると、潤みきった、なにかを期待するような目でセイバーが見上げていた。
え、あれもなのか?
あれもしなきゃダメなのか?
もう全身の体重が、俺にかかってる状態だった。
全身脱力状態。
戦いが再開することはないだろう。
だから、これ以上は、無意味な筈だ。
これ以上のグルーミング(?)は必要ない。
なのに、俺の手は俺の意志を離れて、勝手にセイバーの手を握り、いや、拘束し、もう片方の手をおなかに近づけていた。
手が接近するごとに、尻尾の振る勢いも強まった。
息も荒くなってる。
その目が、何よりも俺の理性を溶かしていた。
深緑の瞳に囚れる。
ごきゅり、と唾を飲み、
「セイバー? おなか撫でるよ……?」
彼女はこくん、と頷いた。
俺は半ばヤケになりながらも、彼女のおなかをテンポ良く撫でた。
セイバーはもはや声もなく、ただ呼吸を荒くした。
泣きそうな目で俺を見てる。
呼吸の不規則さが、てのひらから伝わった。
体温と共に、彼女の内部の様子でさえ分かりそうだ。
冬の空に、彼女の白い吐息が、吐き出されつづけた。
「はアッ、シ、シロウ……!」
セイバーが、荒い呼吸の合い間に俺の名前を呼ぶ。
その時、ちょっと特殊な使用限定のホテルが目に入ったのは偶然だろうか。
俺は自分に囁いた。
(うん、続きはあのホテルの中で!)
いやいや、グルーミングも大変だ。
たしかこの後は、器具(クシとブラシ)を使ったり、お風呂にもいれてシャンプーさせなきゃいけない。
特に尻尾は念入りに洗わないといけない。
うん。
たいへんだ。
もっとせいばーのしゅじんとしてがんばらなくちゃ。
漢字変換もできないくらい、俺の脳みそが壊れ始めてた。
だから、
ぞくっ!!
背後から、圧倒的な人数の気配に、気が付くのも遅れた。
そう、忘れてた!!
後ろを振り返る。
商店街ズの、なまあたたかい目が当然のようにあった。
全員の口元に、「ああ、分かってるさ」と言わんがばかりの笑みが張り付いてる。
八百屋の清さん、魚屋の柾さんとみーさん、泰山の店主にその他大勢。
彼らの目は、一様に、こう言っていた。

『やるねえ、若いの。調教済みかい?』

「違います!!!!」
皆の目は変わらない。
腕の中には息も絶え絶えで、半ば失神した状態のセイバー。
俺の両手が散々、彼女を撫でまわしていた事実は変わらない。
誰もが見守っているだけなのに、黙って立っているだけなのに、万雷の拍手が鳴ってる気がするのは、俺だけの錯覚か?
カメラ屋の若夫婦の子ども、りっちゃん(5歳)が両親に、「ねえねえ、しゅうちぷれい、ってなーに?」と無邪気に尋ねてる。
旦那さんが、目線を合わせながら「それはね、りっちゃんが、大人になったら分かることだよ」と優しく諭してた。
魚屋の柾さんが「そうそう、衛宮んとこも大人になったんだなあ」と嘆息し、みーさんが「あらあら、私たちも今夜、頑張りますか?」などと尋ねてる。
もはや弁解すら不可能!?
皆、俺を微妙に褒め称える会話をし始めてた。
俺はセイバーを抱きかかえながら、その場を逃げた。
逃げることしかできなかった。
涙で前がよく見えない。

……後日、俺は商店街を通るだけで、スッポンの生き血とニラとニンニクとバイアグラを貰うことになる。
ちくしょう。


――――――――――――――――――
あとがき

……えーと、わたしゃ何を書いてるんでしょう?
でーとじゅんびの後書きで、少し書いた電柱ネタ。あれはどこをどういじっても18禁になったので封印したのですが、これじゃあ、あんまり変わらないような……
インターネットで『シャンプーの仕方(犬)』とか見たのがいけなかったんでしょう、きっと。
あ、あと、前半に出てきた黒桐君は、別に伏線でもなんでもありません。
式vsセイバーとか、燈子師vs遠坂凛とか、無限の剣製vs直死の魔眼とか、浅上藤乃と間桐桜の友情とか、黒桐君が突き止める聖杯の真実とか、鮮花黒化とか、甦るバーサーカーとかありませんので。マジで。
こうやってアイディア書くだけなら簡単なんですけどね。
では。


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