究極のマーボー対至高のカレー 前編


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1: 岡崎 (2004/02/26 01:53:00)[qqpu9ud9 at sweet.ocn.ne.jp]

究極のマーボー対至高のカレー(前編)

ここは埋葬機関、地下秘密社員食堂。
埋葬機関第七位と極東の聖杯戦争監督官は偶然同じ席に着席した。
「む。」
「む。」
短い抗議をお互いに交わす。
「言峰神父、またマーボーですか。」
「シエル君、またカレーかね。」
やれやれといった顔でお互いのメニューを一瞥する。

「人の嗜好をとやかく言うつもりはありませんが、その目が潰れそうな湯気をこちらによこさないで貰いませんか?」
「君こそ、黄色い臭いが飛び散らないように鼻で全て吸い取って貰えないかね。せっかくの食事が台無しになる。」
むっ、とシエルは顔をしかめる。

「そんな味も風味も唐辛子で塗り固めた食品に台無しになる余地など残っているのですか?」
「お子様ランチの一歩手前の食事に比べれば充分余地は残っていると思うが。」
「お、お子様ランチの一歩手前――!!!!」
「違うのかね?」
「違いますっ!!カレーこそ人類の発明した至高の料理!!マーボーなどこのスパイスの芸術に比べれば屑同然っ!!カレー最高っ!!ハイル、カリー・ド・マルシェ!!」
右手をズバッと掲げ、異国の朋友に敬意を表するシエル。

「代行者が吸血鬼を称えるなど誉められたものでは無いな。君はインドに行ってからいささか味覚に異常をきたしたようだ。」
「あなたこそ、その中国かぶれを治したらどうですか?何でも中国のものをありがたがるのは爺臭いですよ。」

「シエル、餅食うか?」
唐突にシエルに餅を勧めるナルバレック。
「いりません。」
即答するシエル。
「言峰、餅食うか?」
「つまり君はカレーなどというものが中国四千年の味を凌駕するなどという戯言を主張するつもりなのかね?」
「少なくともその狂った食品などとは天と地の開きがあります。」
ビシっと言峰のマーボーを指差すシエル。グツグツと怪しい気泡が湧き上がり、赤い湯気を立てている皿は地獄の釜としか形容できない。

「狂った、などというのは人の傲慢だな。君に正しい味の判断ができるとは思えんが。」
「…このように話し合っても水掛け論ですね。いいでしょう、客観的にカレーがマーボーより優れていることを証明しましょう。」
「ほう、どうするつもりかね?」
「お互い5人ずつ知人を招き、カレーとマーボーを食べ比べて貰うのです。多数決で勝敗を決しましょう。」
「どっちのリョーリショーみたいだな。」
「負けたほうが好物を一年間食さないというのはどうです?」
ニヤリと不敵に笑うシエル。
「いいだろう。人の苦痛が私の幸福だ。」
「では、1週間後、冬木市でお会いしましょう。」
「了解した。」
「シエル、煎餅食うか?」
「いりません。」


「で、何で俺の家が会場なんだ?」
衛宮士郎は怒気を隠さず発言した。
「何、特別意味は無い。ただ私の知人を招くのにここ以上の場所が無かっただけだ。」
淡々と答える言峰神父。
彼が揃えたメンバーは衛宮士郎、セイバー、遠坂凛、間桐桜、イリヤスフィールの五人だ。

「誰が知人だ。そもそも何で俺達がお前の味方をしなきゃいけないんだ?そんな義理は全く無い。」
うんうんと頷く一同。
「味方などする必要は無い。ただ客観的な事実を追認してくれればいいだけだ。」
このエセ神父はあの地獄の食いモノが他の食べ物に勝ると本気で思っているらしい。

「だいたいなあ…。」
「待って、士郎!!」
ガバッと士郎の口を塞ぐ凛。それを、はらはらとしながら見つめる桜。
「これは言峰をへこますチャンスよ。あいつのやり込められた顔を見たくないの?」
ボソボソと耳元で囁く凛。
顔を真っ赤にしながら耳を貸す士郎。
後ろで黒化する桜。それに巻き込まれてセイバーはBセイバーになっている。イリヤは事態を収拾すべくパーフェクトイリヤになっている。

「わかった。ただし俺達は、ズルはしないぞ。正当に味を評価する。」
「それでよい。私もお前達に多くは望まん。」
最後まで皮肉を言いながら人外魔境に突入した衛宮邸を後にする言峰。神父はゼルリッチの宝石剣の光が屋根をぶち破る音を聞きながら馴染みの中華飯店に足を向けた。


そして一週間があっという間に過ぎ去った。
必勝の文字が書かれた鉢巻とたすきを身に装備したシエル一行が冬木市に降り立った。
「皆さん、これは聖戦です!正当な正義が行使されるよう全力を尽くして下さい。」
ズバッと右手を掲げるシエル。むろん異国の朋友に敬意を表するためだ。

「何でこんなくだらないことのために休日を潰さなければならないんですか。」
ぶつぶつと文句を言う遠野秋葉。
「あら、秋葉さんなんて誘った覚えはありませんよ。私は乾君を誘ったはずです。どうして秋葉さんが来てるんですか、遠野君?」
ニコッと極上の笑顔で脅迫する鬼メガネ。
「有彦は事故に会いました。なんでも割烹着を着た通り魔に妖しい注射をうたれて生死の境を彷徨っているそうです。」
「あらあら、怖いですね〜。」
朗らかに笑う琥珀さん。

「薄汚い陰謀の臭いがぷんぷんしますがまあいいでしょう。しかしそちらの存在は何です?」
アルクェイドに微笑みかけるシエル先輩。きちんと説明つけろや、このボケがと笑っていない瞳が告げる。
「まあ妹といっしょよ。貴方に志貴をまかせらんないだけ。」
「弓塚さんはどうしました?遠野君。」
「彼女は行方不明中だそうです。最後に路地裏で金髪の外人女性と会話をしていたのを見かけた人間がいるという話です。」
チッ、つかえねぇと唾を吐き捨てる神の代理人。

「くっ、のっけから不利な立場になってしまいましたね。」
遠野秋葉とアルクェイドが不倶戴天の敵シエルに協力的である筈がない。
更に秋葉の行動に遠野家の使用人である琥珀、翡翠の姉妹が同調したら彼女の味方は遠野志貴だけになってしまう。自分のメンバーの80パーセントが潜在的な敵だということだ。
ここはなんとしても琥珀をこちらの陣営につけねば。

「琥珀サン、今日もお美しいですネエ。」
「なんだか、薄汚い陰謀の臭いがぷんぷんしますねー。」
「うぐっ。」
「つまり私達に秋葉様を裏切れと?」
「流石、琥珀さん話が早い。」
「しかし、私達にどんなメリットがあるのでしょうか?」
「彼奴らの狙いは私からカレーを取り上げて廃人に追い込むつもりです。そうなれば今までの三すくみの状態が崩れます。あーぱー吸血鬼と秋葉さんが一騎打ちとなると生き残るのはどちらでしょうか?」
「うーん、確かに遠野家乗っ取りが成功するまで秋葉様には生きていてもらわないと困りますねー。」
「忠誠心などを期待した私がバカでしたが利害が一致するならば文句なしです。最も信用できるのは共犯者ですから。」
うふふふ、と忍び笑いをもらす陰謀コンビ。

「姉さん、このような背信行為が秋葉様にばれたら…。」
心配そうに姉に話しかける翡翠。
「大丈夫よ、翡翠ちゃん。私達は公平な審判をするだけ。それにシエルさんが言う通りパワーバランスが崩れたら志貴さんが誰かのモノになっちゃうかも。そうしたら志貴さんを毎朝起こすのは誰かしら。」
「っ…!」
「ここはシエルさんを生き残らせてアルクェイドさんと秋葉様を牽制しつつ共倒れになるように仕向けるべきです。その間に遠野家乗っ取りを済ませて、志貴さんを監禁してタナトスの夢です。パライソです。」

「秋葉さんもいい部下を持ちましたねえ…。」
「あらー、できれば秋葉様には生き残って欲しいです。地下王国も誰か住まないと痛みますから。」
「地下王国のことは言うなーーー!!」
琥珀の襟元をつかみガクガクと揺さぶるシエル。ヘラヘラと笑う琥珀。
そのころ遠野志貴は右手をアルクェイドにがっちり掴まれ左手は秋葉に掴まれ逆方向に引っ張られていた。アルクェイドの目は金色に輝き、秋葉の髪は真紅に染まっている。このままいけば見事大岡裁き真っ二つになるだろう。


「…来たか。」
神父は、衛宮邸の庭に設置されたコの字型のテーブルの一番右端に座りながらシエルの到着を迎える。
「言峰神父、泣きを入れるならば今のうちですよ。」
「その言葉、全て君にお返ししよう。」
バチバチと空中に放たれる両者の視線が中央で放電する。

「何あれ吸血種の真祖じゃないっ!」
「むう、私の時代でもあんな強力なヴァンパイアには出会ったことはありません。」
身構える遠坂凛とセイバー。
「あの金髪外人女性、そんなにすごいのか?」
「おそらく私の4倍の戦闘力は持っているはずです。」
「げっ、セイバーの4倍!?あんな美人が?」
ゴゴゴゴ…とまたもや黒化する桜の後頭部を虎竹刀で強打するイリヤ。

「あれって英霊?それも相当強力なヤツだわ。」
「なんだよ、アルクェイド、英霊って?」
「まあ、簡単に言うと超強力な使い魔ね。普通の魔術じゃあんなの呼び出せないはずなのに。」
「あっちで倒れてる地味な女の子も何だか変な感じがするぞ。アルクェイドを殺したときのような衝動がきてる。」
「ホント、物凄い魔力の量だわ。あんな人間がいるなんて信じられない。なんだか規格外の連中ばかりね、シエルの同僚の友達は。」

ピリピリとした空気をやぶるように大音声の銅鑼が鳴った。
「レディース&ジェントルマン、用意はいいか?」
「…何やってんのよ、ランサー。」
タキシード姿でマイクを持ったランサーがスポットライトに照らされながら立っている。
「いやあ、言峰に司会をやれっていわれてよ。」
「断りなさいよっ!!」
「令呪を使われちまった。」
「こ、こんな下らない事に…。」
マスターの命綱とも言える令呪を何だと心得ているのだろうか。

「青コーナー、埋葬機関第七位シエル嬢と三咲町御一行様――!!」
わあー、ドンドンドンドン、パフッパフッと虎ジマの半被を着た琥珀、翡翠姉妹が太鼓を鳴らし紙ふぶきを舞い上げる。
「赤コーナー、聖杯戦争監督官、エセ神父言峰と深山町御一行様――!!」
ファイトー、オー!!と凛を中心に円陣を組み、手を重ねる深山町側。
「さあ、究極のマーボーと至高のカレー、どっちが美味いかという本日の味勝負。どちらに軍配が上がると思いますか、解説の藤村先生。」
「私、今日は和食がいいんだけどなー。」
「成る程、今回の勝負の意味を根底から崩す発言ありがとうございました。さて勝負の行方はCMの後の後半でお伝えします。皆さんチャンネルは変えずにそのままで!」

後書き

無理のないクロスオーバーをやろうと思ったら、こんなのになっちゃいました。
完全にパラレルワールドだと思って下さい。
自分で書いててなんですが、タキシード姿のランサー見てみたいです。
どこかのサイトでイラスト書いてもらえないでしょうか。


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