「あの」アーチャーの物語、遠坂の夢  傾:ギャグ、シリアス


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1: (2004/02/25 22:19:00)

注:これは「あの」アーチャーシリーズ?の同列世界の話です
  ネタばれです
  今回は短い上に弱いのでご了承ください


――――そうして、そいつの夢を見る。

英雄の座に祭り上げられた男の記憶。
最後まで誰にも理解されなかった、或る騎士の物語。

それは簡単な話だった。
ようするに、そいつはどうかしていたのだ。
それなりの力があって、それなりの味覚もあった。
なのに力の使いどころを終始間違えて、あっけなく死んだだけ。

それも当然だろう。
力っていうのは、自分自身を叶える為のものだ。
情けは人の為ならず。
綺礼もよく言うけど、あらゆる行為は自身に返ってくるからこそバランスがとれている。
行為はくるっと循環するからこそ元気が戻ってきて、次の活力が生み出されるのだ。

それが無いという事は、補充が無いということだ。

そんなんだから、そいつは、結局。
色々なもの色々な辛味物を食わされて、食ったうち”どれか”の物にあたって、
その生涯を終えていた。


一転

―――の地獄に、そいつは立っていた。
おそらくは何かの事故現場で、どうみても食堂の惨状じゃない。

”契約しよう。我が死後を預ける。その報酬を、ここに貰い受けたい”

契約の言葉を紡ぐ。
その後、そいつは何かに憑かれたように様変わりして、本来食べれる筈のないメニューを制覇していた。
・・・ああ。ようするにコレが、そいつが『英霊』になった事件なワケだ。

・・・そうしてみると、なんだ、わりあいあっけない。
そいつが制覇したメニューは、きっと100皿に満たないだろう。
そんな事では”英雄”と呼ばれる事もないし、”英霊”として登録される事もない。

けど、重要なのは事でもないし数じゃない。
要はあれだ、本来食えるはずもない紅州宴歳館のメニューを制覇したかどうかこそが、
この場合の英雄、人間を超えたモノの資格なのだ。

それは運命の変更。
規模は小さくとも、もうどのような手段を用いてもあそこの店の料理を制覇したのなら、そいつ本人に英雄としての力がなくともかまわない。

否。
もとよりその奇跡の代償として、世界は”英霊”を手に入れるのだ。
そいつは英雄になって、食べれない筈の料理を食べた。
いや食べれない筈の料理を食べて、商店街の英雄になったのか。
とにかく、救えない筈の店を救った。
その結果、死んだ後は英霊となって、あんな物で戦う事を繰り返している―――

つまりは奴隷。

死んだ後も他人にマーボーを食わせ続ける、はた迷惑で使い勝手の悪い道具になることが、奇跡の代償という事らしい。

英霊。
人間から輩出された優れた霊格、人類の守護精霊。

そいつはもしかしたら望んでいたのかもしれない。
死んだ後にでも普通の食事ができるなら、それは願ってもない事だと。
英霊になればあらゆる料理を制覇できると。
そんな事を思って、世界との取引に応じて死後の自分を差し出して、一つのお店を救ったんだ。

…その後は。
もっと多くの、何万種類の料理を食えると信じて。

―――なんて、馬鹿。

そんな事あるはずがない。
だって、英霊が呼び出されるという時点で、そこは死の土地と化しているのだから。
とてもじゃないが店など開いてる状況ではないし、行ける状況でもないはずだ。

食事。辛味。激辛。借金。

食を愛して、その為になろうとしたそいつは、死んだ後も同じものを見せられ続けた。

―――食って。

食って食って食って食って、人間っていう全体を救う為に、呼び出された土地にある辛味を食いつくした。

それを何度繰り返したか私には判らないし―――これから何度繰り返していくかも、わたしには知る術もない。

…だから、言える事は一つだけ。
そいつはずっと、色々なものに裏切られてきたけど。

結局最後は、唯一信じた食事にさえ、裏切られたという事だ。







「あっちゃあ――――」
目が覚めて、とりあえずはそんな言葉しか言えなかった。
「アレ、やっぱりアイツの記憶だった」

はあ、とため息をついて天井を見つめる。
・・・やり辛いなぁ。

「―――起きよ。今日もやる事いっぱいあるし」

ベットから体を起こす。
朝に弱い体質を恨みながら、もそもそと寝間着から制服に着替える。

「けど、まあ」

納得したというか、意外だったというか。
あいつ、昔はまともな味覚の持ち主だったんだ。
商店街の英雄で英霊になれるかどうかは良くわからないけど。

なれるの?




世界の在り方にまた一つ疑問が増えた遠坂凛の朝であった。





オチ弱し;


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