空の月11


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1: うり坊 (2004/02/18 20:22:00)

19、





――――結局・・・・俺は楓さんを救う事が出来なかった・・・・・













「・・・・・・・」
遠野志貴は湖の岸でただ、ひたすらと地平線を眺めている。
鬼との戦いは終わった・・・・
けど・・・何かを守る為には何かを失なわなければならない。
その結果がこれなのか・・・
「こんな所にいたのか・・・」
と橙子さんが後ろから声をかけてきた。
「・・・橙子さん」
首をだけを後ろにやり、声の主を確認する。
「腕の調子はどうだ?」
「ええ、大丈夫です。」
あの夜、楓さんに腕を切り取られてしまった。
そこで橙子さんが武器と一緒に持ってきた人形のパーツで事を成した。
つまり、今の自分の左腕は義手だ。
義手はとてもよく出来ていて本物の腕とは見分けがつかない程のモノだ。
正直、今後の生活の為に助かった。
「そういえば・・・・」
ふと思った・・・
「んっ?」
「この旅館どうなるんですか?」
旅館は秋葉達が戦った為に5分の1が倒壊した。
ここの主はもういない・・・
「・・・・・・・退魔組織がじきに壊すと思う。」
「そうですか・・・・・」
短い間だったがこの旅館には思い出ができた。
新しい出会い・・・
楽しかった事・・・
それらがこの旅館と一緒に消えるだろう・・
「志貴君・・・・君がした事は間違いではない。どの道、結果は同じになる・・・・・」
鬼達が此処から逃げても結局は退魔機関に追われる。
「ええ・・・・」
分かっている。
分かっているけど・・・・
「そういえば真祖の姫から聞いたか?彼女と鬼の頭目の関係を」
「はい・・・・夫婦だったんですね・・・・」
だがこの事を話したのは志貴と橙子の二人だけ・・・
他のみんなは楓さんが今回の首謀者だとは知らない・・・
知ったら悲しい・・・
この悲しみを背負うのは自分だけで十分だ。
「ああ、そうだ。」
「なぜ・・・彼女は生き返ったのでしょう?」
疑問、過去に彼女は死んだのに生き返った。
魔でもなければ彼女は何者だったのか?
「・・・・・それは今となっては解らん」
「1000年に一度、鬼を封じた結界が弱くなる時に丁度、我々が来た・・・・これも運命か・・・・」
―――彼等の存在はこの星にとって危険すぎた。あの力・・・覚醒して間もないからせいぜい10分の1程度の力しか引き出せなかったのだろう・・・
「皮肉なものですね・・・・」
「それが運命というものだ。」
―――だから私達がこの地に呼ばれた。これも抑止力か・・・
「確かに・・・」
―――遠野くん、それは違う・・・・我々は『』に踊らせられていたんだよ・・・・
「遠野君」
橙子が志貴の方を向く。
「はい?」
「プレゼントだ。」
と橙子さんは僕の眼鏡を取った。
「なにを?」
世界が変わる。
意識して視ないから大丈夫だけど・・・
「少し、我慢してくれ」
なにかしているようだ?
「・・・・・いいいですか?」
「まだだ・・・・・・よし、いいだろう」
と眼鏡を返してくれた。
さっきと別に変わった所はない。
「何をしたんですか?」
「君の眼鏡を少しバージョンアップしただけだ。妹が加工していたみたいだがアイツは魔術が空っきり駄目なんでな、だから私がちゃんと加工しておいた。」
「それって・・・・・」
魔眼封じの強化
「礼はいらん。今回の報酬だ。」
「ありがとうございます!」
「あと、これを・・・・」
と一枚の名詞を差し出した。
「これは?」
「私の事務所の場所だ。何かあったら何時でも連絡してくれたまえ」
―――これで仕事が楽になるかな?
「はい」
「志貴〜!」
とお姫様の声が・・・
「橙子さん〜!」
ついでに自分の社員も・・・
「じゃあ、お別れだ。遠野君」
「はい、橙子さんもお元気で」
「「また、会いましょう。」」
二人は握手を交わしその場を後にした。








帰りは琥珀さんがバスをチャーターしてくれた。(今回は運転手付き)
「ねえ、志貴?」
と後ろの席からお姫さま少し拗ねた顔で尋ねた。
「なんだ?」
「さっき、橙子と何を話していたの?」
「少しな・・・・」
あの話をすると思い出してしまう・・・・
「む〜、白状しなさいよ!」
「また、今度話すさ」
話すつもりは無いけどな・・・・
「嘘〜!絶対!話誤魔化す気だ!」
なんで女性はこんなにも勘が鋭いんだ?
ん?何か俺のアタマにヤワラカイ感触が?
おそるおそる視線を上げると・・・・大きな、大きな桃が二つ・・・・・・
って!アルクェイドの胸が!?!??
「わっ!やめろってば!」
嬉しいが首が痛いぐらい重いです・・・
「話すまでやめない!」
さらに圧し掛かるモノ
本気で重いよ!?
あっ!今、首がゴキッ!って鳴った。
ヤバイ!このままでは首の骨がへし折られる!
「おい!」
いいかげん、怒らないと・・・・
「兄さん・・・・随分と楽しそうですね?」
ゾクリ
「あ、秋葉・・・・・」
ヤバイ・・・・アカイカミノヒトヲオコラセタ・・・・
そんなに髪を染めて・・・・兄は悲しいぞ?
「本当ですね、遠野君?」
「先輩?」
ジーザス!
今度はカレー魔人が・・・・
お願いですから第七聖典の入った鞄で殴るのは勘弁してください。
「あはー、お注射、一本いきますか?」
割烹着の悪魔のこと・・・マジカルアンバー
「いいです!」
その金色と銀色の派手な注射はなに!?
ありえない色ですよ!?
「志貴様を最低です。」
そして姉がいるのなら妹の・・・・洗脳探偵も・・・・
「翡翠まで・・・・」
まあ、わかっていたけど・・・・
「志貴・・・・」
「ああ・・・シオン、助けて!」
ここは錬金術師のお力で!
そのすぐれた頭で回避行動の手掛かりを!
「見損ないました。」
「み、見捨てないでくれ!」
神は我を見放した。
「・・・・・・・」
―――むー!
「怒るなってレン・・・今度、ケーキをご馳走するからな?」
秘儀、甘いモノ攻撃
――駄目
「そんな・・・・」
秘儀、破られたり・・・・
「くそ・・・」
ん?待てよ・・・・・
前にもこんなシュチュエーションがあったような・・・・・
あまり思い出したくないから忘れたのか?
「遠野・・・・・・」
ユラリ・・・オレンジの頭がきた。
「おお!有彦!心友よ!」
さすがは人生の友だ!
「この抜け駆けやろー!」
有彦、怒りのコースクリューパンチ
「ぐはっ!き、効いたぜ・・・これこそが幻の右・・・・・」
うむ、さすがは人生のライバル・・・・
「さて、気を失ったとこでアレをしましょう。」
ああ・・・なんか先輩が恐い事を言った様な・・・・
そして思い出した。この後に待ち受けているのは・・・・
「「「「「賛成!」」」」」
第二回、遠野君、黒ひげ危機一発の刑、勃発・・・・・






さて一方、式達はまだ旅館の近くにいた。(大輔さんが車のキーを失くしたから・・・)
「ところで式」
今は眼鏡を着けているが表情は険しい
「ん?」
気だるそうに返事をする。
「『視たのか』?」
「ああ・・・・『視た』」
『視た』・・・・そう式は樹鬼との闘いで「直死の魔眼」の本当の力に覚醒した。
「そうか・・・しばらく『眼』を使うな」
「!、なんでだ!」
この力があったらなんでもできるのに・・
「お前のために言ってんだ。それに力に溺れたら後は己の破滅しかない」
見透かされている。
「だからなんで!」
式は反論するが・・・
「まだ『開花』してから間もない、今ならまだ間に合う。」
「分かっている筈だろ?鉱物の『死』は脳に負担が大きすぎる。お前の寿命が減るだけだ。」
―――っ!たしかに・・・アレを視た時は気がオカシクなりそうだった。ん?待て・・・それじゃ・・・
「じゃあ・・・遠野のは・・・・」
アイツはどうなるんだ?
だってアイツは私よりも前にその力を持っていた。
「残念だが・・・・彼は手遅れだ。彼自身、寿命が短い事も知っている。」
「そんな・・・・」
奴、自身がすでに死を受け入れているのか・・・・
やっぱり、アイツは強いな・・・・
オレがどうあがいても敵わないだろう・・・
「だからしばらく『眼』を使うな、永遠に封じるわけではない。3,4週間もすれば元に戻る。」
と橙子が包帯を出した。
「これは魔眼封じの包帯だ。これを巻いとけ、それにお前が死ねば悲しむ奴がいるだろ?」
「わかった・・・・・」
そうだな・・・・
俺が死んだらあの馬鹿が悲しむ。
「それでいい。」
「で、目が見えない間はどうする?」
そうだ。包帯なんて巻いていたら目が見えないぞ?
「ん?それか?それなら・・・幹也にでも頼め。しっかり看護してもらうんだぞ?」
「なっ!待て!なんであいつの所なんだ!?橙子の事務所は!」
「無理だ。あいにく私の事務所はホテルなんかとは違うのでな」
「くっ!」
絶対、この事を狙ってやがったな!
「けどそれじゃあ幹也が困る!」
「なんでだ?」
「それは・・・その・・・・・・」
分かって言っているなこの女は!
「そうか?じゃあ・・・本人に返事を聞いてみるか?」
ニヤリと悪魔以上に恐い笑み
「へっ?」
はい?今、なんて言ったんだこの女は?
本人に?
「別に僕はいいけど?」
と幹也の奴がソコに立っていやがった。
「幹也・・・何時からそこにいた・・・・・」
表情を崩さず聞いてみる。
「初めから・・・・・・」
初めから?
気配が感じ取れなかったが?
しかし、そんなモノはどうでもいい・・・・
「そうか・・・全部聞いたんだな?」
「式、もしかして怒っている?」
ああ・・・まるで子犬の様に震えている。
「そんな事はないよ、黒桐くん?私は決して怒っていないから・・・」
「・・・・・」
―――嘘だ。式の口調が女言葉になっている。この時の式はかなり怒っている。
「黒桐くん?」
にっこりと微笑む
「は、はい!」
もう駄目だな・・・・そう確信した。
っているか橙子さん、笑っていないで助けてください。
「さっさとこっちに来やがりなさい」
ひょいひょいと手招きする式
その顔はワラキアの夜を凌駕する程の笑い・・・・
「・・・・・・」
体が勝手に動く・・・
脳はニゲロ!ニゲロ!と叫んでいる。
式の目の前まで来てそして・・・・・・・
ゴスッ・・・・・
だから、いくらなんでも顔にパンチするのはヤメテ欲しいな・・・・
かならずこの恨みはベッドの上で晴らしてあげるから。
と闇に落ちていく意識の中、そう考えて逝った。


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