空の月9


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1: うり坊 (2004/02/04 23:04:00)

17、
湖の近く・・・先程の奇襲で開いたクレーターの中央に近づく男が一人・・・
男は黒髪で顔は穏やかで普通の人にも見える。体も成人男性の平均的なものだが・・・
クレーターの中心に刺さっている剣を引き抜いた。
その剣は大人が5人でも持てない程の重量と大きさだが、ソレを軽く土を振り払う。
「・・・・・出てきたらどうだ?」
そう呟いた。
男の表情が一変する。
冷たい眼光
「ばれていた?」
とアルクェイドが木の上から出てきた。
「なぜ、貴様だけ散らなかった?」
「そうね・・・・強そうな奴としてみたいからかな?」
ニコと笑う、その笑顔はただの好奇心
「ふっ・・・死ぬと性格は変わるのか・・・・」
呆れたように笑う
アルクェイドは驚愕しすぐさま睨む。
「なぜ・・・私が死んだって知っているの?」
そう・・封印されていた筈の奴はアルクェイドが殺された事を知らない筈
けど、奴は知っている。
「アカシック・レコード・・・世界の記憶・・「」様々な呼び名があるが私はそれを見ただけだ。」
アカシック・レコード、世界の記憶、「」魔術師達が望むモノしかしそこに行くのは容易ではない。
「どうやって?」
「なに・・・偶然さ・・・肉体が封じられた私は気がついたらどこでもないどこかにいた・・・・そこで見ただけだ・・・この世界の記憶をな・・・そして貴様と七夜志貴・・・いや、遠野志貴との出会いもな。」
――志貴の事まで知っている・・・狂言じゃない・・奴は間違いなく辿り着いた。
顔には出さないが心の中で心底驚いた。
「そう・・・アレに辿り着くなんて凄いわね・・・・」
アルクェイドに冷や汗が流れる。
アレに辿り着いたとすれば魔法を使用できるかもしれない。
もしくは神話級の魔眼の所有の可能性がある。
最悪、自身の消滅も考慮に入れておかなければならない。
「違うな・・・」
否定の言葉
「?」
アルクェイドは今の意味が解らなかった。
「私は視ただけだ。辿り着いたわけではない・・・」
「けど・・・それでも凄い事に変わりないわ?」
アルクェイドの言う通りだ。
『』に辿り着いていなくても『視る』だけでも凄い事に変わりない。
「そうだな・・・」
苦笑する
「一つ聞きたいのだけど・・・」
「なんだ?」
「貴方はこの先どうするつもり?」
そうこの先に何があるのか?
この世界で彼を知る者なんていない
いたとしてもソレは敵だろう・・・
「もう一度、『』に行く・・・」
「どうして?」
「・・・全てを壊す」
壊す・・・破壊
「!?・・・本気?」
「そうだ・・・」
「なら止めないとね・・・」
アルクェイドは止める・・・大切なモノ、好きな人、好きな町・・・アルクェイドの居場所、それを守る。
「私も聞きたいが・・」
男が尋ねた。
「何?」
「何故・・この地に来た?」
「ただの偶然よ」
「偶然?違うなコレは・・・」
少し呆れたがすぐに表情が険しくなる。
「これも制止力の一つ・・・・貴方を止める為の壁。」
「運命か・・・だが私は前に進まなければならない。たとえ壁があったとしてもそれを乗り越えるだけだ。」
「それは簡単な事ではない事ぐらい分かる筈よ。」
世界の記憶を見たのなら分かる筈
「知っている。数多の者達がそれに望み、潰えたことも・・・」
最初は偶然、二回目に行くのは至難の道だろう。
「じゃあ・・・・そろそろ始めましょう・・・・」
アルクェイドが構える。
「よかろう。五行衆の頭目、地鬼が相手をしよう。」
地鬼、それが彼の名
地鬼も同じく剣を構える。
彼が持つ巨剣は形状こそ剣だが刃先が磨かれておらず光沢はない。
ならば『斬る』と言うよりも『叩く』方が適切だ。
そして両者が沈黙なる。
「はっ!」
「ふん!」
一瞬、二人は消えた。
言葉どおり消えたのだ。あまりの速さで見えないからだろう・・・
そして地鬼は剣を振るいアルクェイドはそれを受け流し攻撃、しかし地鬼も攻撃を受け流す。
二人は無傷
「やるわね!」
アルクェイドと地鬼の間合いが離れる。
「貴様もなかなかやるな!」
「なら・・・」
大気が震える。
「空想具現化か!」
地鬼も感じる。世界に干渉する能力・・・「空想具現化」
「風よ切り裂け!」
アルクェイドが叫ぶと同時に地鬼に向かって不可視の刃が向かう。
「鎌イタチか・・・・だが、甘い!」
一振り、それだけで四方から襲う全ての鎌イタチを叩き落した。
「うそ!」
「本物の鎌イタチはこうするのだ!」
と見本を見せるかの様に横に剣を振るう。
アルクェイドの鎌イタチは見えないが奴のは見える。
発気、覇気、闘気それらと違うただの風の塊だ。
「!?」
アルクェイドは跳んだ。
アレは受けてはイケナイと本能が告げる。
「外したか・・・」
「森が切れた・・・」
アルクェイドの顔が蒼くなる・・・なぜなら彼女の後方の森が伐採されたかのように斬られたのだ。
おそらく避けなければ自分もアノ森と同じ運命だっただろう。
「よそ見している場合か!くらえ!土豪裂覇!」
すかさず地鬼が攻撃、今度は地面を抉るように剣を振るう。
地面は大きく抉られその地面であったモノがアルクェイドを襲う。
「くっ!」
大中小、様々大きさの土塊が散弾銃のように襲う。
とても避けられない。そのためアルクェイドはガードにするがそれは間違いだ。
「でえやぁぁぁ!」
土塊の雨に紛れて地鬼が剣を振るう。
「しまっ・・・!」
間に合わない。
「かはっ!」
ガードの上から想像以上の衝撃がくる。
そのまま後方に吹き飛ばされる。
「どうした!真祖の最終兵器はこんなものか!」
「まだよ!」
アルクェイドは地面に手をつきながら立ち上がる。
その小さな口から一筋の血が流れる。
「そうでなくてはな!」
「風よ切り裂け!」
再び空想具現化、しかし今度は初めに放った数とは違う。
2,3倍・・・いやもっとだろう。
「数が増えただけで攻撃が通じると思うのか!」
今度は剣を振るうのではなく『回す』
剣は回され円形の盾の様に見える。
そしてアルクェイドの攻撃を全て防ぐ
「本命はこっちよ!」
アルクェイドの声が真横から聞こえる。
「なに!」
二人の距離は20メートル
風も吹いていないのにアルクェイドの金色の髪が揺れる。
「これで・・・」
とアルクェイドが手を地鬼に向かってかざす。
手には光が収束されていく。
「ぐっ!?」
離れているアルクェイドを攻撃する手段はあるが間に合わない。
向こうの攻撃が早いからだ。
「終りよ!」
光が放たれた。
一筋の光が地鬼を狙う。
木は一瞬で灰になり地面を焦がしていく。
そして光は森林に穴を開けながら空に消えた。

「はぁ!はぁ!さすがにこれは疲れたわ。」
肩で息をしながら額の汗を拭う。
「やったのかしら?」
地鬼がいた場所は白煙で包まれている。
あれで生きていたらそれこそ神か魔神の類だろう。
「うおおおっ!」
しかし奴は生きていた。
白煙から突進しながら出てきた。
「えっ!?」
アルクェイドは驚いた。
体を動かす事さえ忘れていた。
そしてアルクェイドは地鬼の突進を受けてしまった。
「つっ!」
そのまま勢いで木々をなぎ倒してアルクェイドはやっと止まった。
「さすがは真祖か・・・空想具現化で光を凝縮、ビームを造りだすとは・・・威力だけなら『約束された勝利の剣』と同等、流石の私でも危ないとこだった。」
地鬼の体は無傷だ。
「どうして・・・・・・」
解らない・・・アレは確かに直撃した。
27祖でも再起不能の攻撃だった。
なのに奴は無傷・・・いや無傷といえば違う。
接近戦の傷などがあるが今の攻撃の傷がない。
「言った筈だ。威力だけなら同レベルだが・・・ソレはただの光を集めモノにすぎんな・・・アレとは違う、この剣を鏡の様に変化すればいい事だ。」
とアルクェイドは見た、奴の手に握られた剣・・・・月光を反射する剣・・・・鏡の様な剣を
「物質変換・・・・それが貴方のもう一つの力?」
物質変換・・・今の魔術師達では扱うのは難しい魔術だ。
しかし地鬼は闘いの最中・・・あの一瞬の内にしてしまったのだ。
「奥の手は隠すものだ。だがこれは手に触れないと効果が無い。」
――自分から能力の弱点を喋った?余裕?それとも・・・
「いいの?私にそんな事を教えても?」
「かまわんさ。今はオリハルコンをも凌ぐ物質に変換しているがな・・・・」
と剣が鏡から別のモノに変わる。
見たことのない光沢・・・虹の様な美しい輝きと混沌の様な輝きを持ったソレ
魔性の剣がそこにある。
「そう。」
「吸血鬼は満月の夜は死に難いと聞くが本当のようだな・・・」
「これでも真祖だしね。」
――普通の死徒なら瞬殺ね・・・・
「ではいくぞ!」
再び駆ける。
「いいわよ!」
―――奴には並大抵の攻撃は通じない・・・空想具現化で『無』をイメージ・・・いや奴の前では無意味ね。長距離戦は無駄・・・接近戦で必殺並の攻撃を繰り出す!
「物質変換はこんな事も出来るぞ!」
地鬼が地面に手を触れた。
「地盤が!?」
足が沈む。
地盤が脆くされた。
バランスを崩し・・・
「隙あり!」
地鬼が勢い良く剣を振るう。
「いない!?」
剣はアルクェイドを斬らず脆い地面に沈む。
「ここよ!」
上・・・
「がっ!」
顔面にパンチが決まった。
「はあぁぁぁ!」
そして休まず攻撃の嵐
「ぬおっ!」
「これで!」
必殺の一撃・・・これが決まれば勝ちだ。
「がはっ!まだだ!」
しかし地鬼は怯まない。
アルクェイドが必殺の一撃よりも速く拳を決めた。
「かっ?!」
腹に重い一撃
アルクェイドの思考が一瞬、飛んだ。
あの真祖にここまでやる者は少ない・・・
「甘く見るな!」
「そうみたいね・・・」
アルクェイドは地鬼から離れて口元の血を拭う。
アレで決まると思っていないが少し甘くみたようだ・・・
「このままでは埒があかんな・・・」
たしかに・・・このまま闘い続ければ永遠に続きそうな気がした。
「そうね、次で・・・・」
「「決着をつけよう・・・・」」
両者が揃えて言う。
「手加減無用よ!」
「うむ・・・ならば・・・」
徐に自分の剣を放り投げた。
そして手刀で自分の手首を切った。
「!?」
「何を驚いている?手加減無用の筈だろう?こちらの最大の秘奥技で相手するまでだ。」
と地面を紅く染め上げる。
「何をする気?」
「武器を取り出す。」
「大地よ・不動の神よ・眠りの地よ・怒り狂う神よ・永久の盟約にて・・・」
地鬼が唱え始める。
「この呪文は・・・」
聞いた事がない・・・これはおそらく東国の秘術中の秘術・・・・
「我に力を・慈悲と憎しみにて・先人の秘奥・大蛇を滅ぼせし・其の力・・・・」
「・・・」
――これは既に魔法の域よ・・・何が見ただけなの・・・しっかり辿り着いているじゃない!
「スサノオウの剣よ・我が命・ツルギとの引き換えに・・・」
「!」
――スサノオウの剣!?神剣じゃない!
「現世に蘇らん事を!」
と地面から一本の剣が生えた。
見た目は粗忽な剣・・・しかしソレは素人の目から見ても鳥肌が立つぐらいの覇気がある。
「それが・・・・」
「そうだ・・・スサノオウの剣・・・・」
「いいわ・・・やりましょう・・」
――もしかしたら勝てないかもね・・・
アルクェイドの心に不安が過ぎる。
しかし、それでも彼女がすべき事は奴を倒す事だ。
「はぁぁぁぁ・・・・・・・」
アルクェイドを中心に風が渦巻く
「最大出力での空想具現化か・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
静かに時間が流れる。
「はあぁぁぁぁぁっ!!」
「うおぉぉぉぉぉっ!!」
アルクェイドは空想具現化で今、出せられる最大の『力』を放つ
地鬼はスサノオウの剣を渾身の一撃を込めて振るう。
この一撃で全てが決まる。
ぶつかり合う純粋な力と力・・・・
そして力と力は弾けた。
その弾けたエネルギーで周りの木々がなぎ倒された。
煙・・・それが晴れた時、二人は立っていた。
しかし・・・・
「・・・・・くはっ!」
アルクェイドの口から血が吐き出され地に膝を着く。
もう立てない、アルクェイドはそう苦笑した。
「ふっ・・・・・ごふっ!」
少し口元を笑わせ自分よりも多い血が吐き出され地面に倒れた。
スサノオウの剣は折れ地面に融けるかのように消えた。
終わった・・・ただアルクェイドはそう思った。
「私の負けだ・・・殺せ・・・」
蒼い空と輝く月を見ながら負け見とめる地鬼
「人質は?」
「解放した。」
「そう、最後に教えて欲しいのだけど・・・」
「なんだ・・・」
「貴方の物質変換なら私を倒す事も簡単な筈よ・・・私の体に触れて細胞組織を炭素に変換したりすればよかったのに何故しなかったの?それに最後の攻撃・・・手を抜いたわね?ちゃんと白状しなさい!」
そう彼程の力量なら真祖を後退させる事も出来るはずだ。
「ばれたか・・・」
ふっ、と笑う。
「壁を乗り越えるためには手段なんて選ぶ必要なんてないのじゃないの?」
「・・・・・そうだな、鬼なのに甘い考えをするとは・・・どの道、私は貴様を倒しても先にあるのは死だろう・・」
心を染めないといけないのに、まだ自分に躊躇が有ったことにに苦笑する。
「本当の事を教えて欲しいと言っているんだけど?」
「・・・・・ただ・・・思った。」
もう一度、空を見た。
晴れ渡った空、満天の星々、輝く月を見上げた。
「?」
「貴様と私が同じだったからだ・・・・貴様と同じように昔、私は一人の人間を愛した・・・だが貴様みたいに殺されたりはしていないがな。」
「悪かったわね。」
少しムッとする。
「昔・・・いや私には最近の事にも思える・・・・」
「・・・・」
アルクェイドは黙って聞く。
「話を続けよう・・・私は昔、人間に仕える式鬼だった。当時、我等の仕事は高貴な者を殺すことだった。つまり暗殺だ。ある使命で我等は屋敷に忍び込みその家の者を全て殺せと命を受けた。私はまず当主を殺しそれから手当たりしだいに殺していった。そして最後の一人となったその娘はやたらと強気で私に向かってきた。まったく面白いものだ。」
「それで?」
「本来は殺さなければならない筈の相手だった。何故か知らんが私はその娘を見逃そうとした。」
「・・・・」
「娘はいきなり『殺すなら殺せ!』と叫んだ。その後、散々に罵声を浴びらされた。」
「殺したの?」
普通に考えて見逃そうとしてくれている相手に罵声を言うと殺されても可笑しくない。
「違う・・・嫁にした。」
「!?・・・貴方もなかなかのね・・・・」
少し・・・いや、かなり皮肉げに言う
「娘は快く頷いてくれた。そして二人の間に子が生まれた。幸せな日々がしばらく続いた・・・しかし幸せも長くは続かなかった。陰陽師達は我等を危険視した。そして・・・あの夜、陰陽師達は大勢の兵を率いて来た。戦ったが次々と仲間が封印されていった。残ったのは私と妻そして私の子だけだ。だが私も途中で捕まり封印された。」
遠い思い出を思い出すかのように呟く。
「そして私は世界の記憶・・・アカシック・レコードで見た。妻の最後・・・そして私の子の最後も・・・・・」
「そう・・・」
「だが、これには続きがある。それは・・・・・」
シュッ!
「ぐっ!」
地鬼の心臓に日本刀が刺さる。
「!?」
辺りを見回すが誰もいない。
「ごふっ!し・ろ・・の姫君よ・・・・最後に聞いてくれないか・・・」
もう心臓は止まっている。
けどそれでも地鬼は喋ろうとする。
「なに?」
アルクェイドが地鬼の口元に耳を近づける。
「・・・・・・・・・・・」
彼が最後に言ったの果たして聞こえたのか?
否、聞こえなくてもアルクェイドに分かる。
「・・・・・誰が・・・誰がやったの!」
アルクェイドの肩が震える。
それは怒りからくるモノ
「我々だ。」
と闇から5人現れた。
しかしこれは見えているだけの数、もっと多くの者が隠れている筈
「日本の退魔組織・・・・」
その5人の中からリーダーらしき者が前に出る。
「ごくろうであった。それは我等が回収する。」
「勝手な事はさせないわよ!」
「手を出さないで貰おう。真祖の姫君殿。今の貴女ではこの数と戦っても無事にすまないはずだ。」
今の状態ではコイツらに敵わない
「・・・・・」
手が出せない、それはあまりにも屈辱的だった。
「素直でよろしい。引き上げるぞ。」
彼等が去りその場に残ったアルクェイドは約束するかのように囁く
「最後の言葉・・・たしかに聞き届けたからね。」


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