夜の一族 改


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1: ぐまー (2003/12/27 19:37:01)[moonprincess_type_moon at yahoo.co.jp]




まず結論から言うと玄関で待っていた人は有参ではなかった。
そこにいた人物の第一印象は“こっち側”の人間だということだ。

「お前が七夜志貴か?」

「えっ、ああ、そうです。」

――――――なんだ、こいつ。

七夜の名を知っている時点でこの男は普通ではない。
そもそも俺の家は十一年前に遠野家によって滅ぼされているのだから。
だというのに、目の前の男はいきなり俺を七夜と呼んだ。
一体何者だ?

「おいおい、そんなに警戒するなよ。 俺は別にお前を殺しに来たわけじゃないんだから。」

ますます警戒した。
目の前の男の風貌はと言えば、上下紺色の和服の上に藍色の羽織を纏っている。
髪は肩よりも長く後ろでまとめて束ねている。
年のころは時南のじいさんとタメぐらいだろうか?

「もう一度言うが俺はお前の敵ではない。 ただお前に話があって来た。」

「話?」

「ああそうだ。 もし聞かないというのなら別に強請はしないがその代わり、お前の義妹が死ぬだけだ。」

「・・・・・・どうゆうことだ?」

知らずに殺気を出していた。
だが相手は全く動じた風ではなく、

「言ったままの意味だ。 このまま放っておけば遠野秋葉は間違いなく殺されるということだ。 どうだ、詳しく聞く気になったか?」

「ああ、なったよ。 もしお前が秋葉を殺すって言うならこのまま帰すわけにはいかないからな。」

「やれやれ、人の話を少しは信じろよ。 もう一度だけ言うぞ、俺はお前等の敵じゃない。 遠野秋葉を殺そうとしているのも俺じゃない。」

「お前の話を信じるかどうかは、話を全部聞いてから決める。 ついて来い。」

「何処に行くんだ?」

「人のいない所だ。 ここで話せる内容じゃないだろう?」

ふぅ、とため息をついてそいつは俺のあとに続いた。
居間の扉を開けると琥珀さんがいた。

「あ、志貴さん。 今お茶をお出ししますね。」

そういい残して琥珀さんは厨房に消えていった。
居間には翡翠が壁の方に立っている。

「翡翠、悪いけど席外してもらえないか?」

「お断りします。」

「えっ、・・・なんで?」

「秋葉さまから志貴様がまた余計なことに首を突っ込まないよう監視しろと言いつけられていますので。」

秋葉の奴結局部屋に戻ったふりして隠れて聞いてたな。

「でもそういう訳にはいかないんだ。 翡翠、秋葉には俺から言っとくから席をはず・・・・・・」

「お断りします」

「うん、そうして・・・・・・って、えぇぇぇぇ、な、なんで? 秋葉には俺から言っとくから問題ないだろ?」

「私個人としてもこれ以上志貴様を厄介ごとに巻き込ませるつもりはありません。」

痛い所を突かれた。
よっぽど信頼がないんだろう。
客人の方に目を向けると仕方あるまいと小さな声で言ってきた。
俺とそいつがソファーに座ると、すーっと翡翠が俺の後ろにやってきた。

「はい。 お待たせしました。」

と、タイミングよく琥珀さんがお茶を持ってきた。
カートからテーブルにお茶を降ろすとそのまま俺の左側に立ったままだった。

「琥珀さん? あの、なにか・・・・・・」

「あら、翡翠ちゃんは良くて私はダメなんですか、志貴さん?」

なんてことを笑顔で言ってくるあたり、断ったら後が怖いので諦めることにした。

「それじゃあ聞かせてもらおうか。」

「・・・・・・・・・まあいいだろう。 予定より邪魔者が多いが人外よりはましか。 それじゃあ・・・・・・」

「ちょっと待て、人外ってどういうことだ?」

「どうも何もそこにいるのは遠野の家のものではないのだろう? そういう意味だ。 さて、それじゃあ話すぞ。 あまり時間がないから聞きたいことがあるならそのつど聞いてくれ。 後でまとめて聞かれたら面倒だからな。 いいな?」

黙って頷く。
男は満足そうに頷くと話し始めた。

「まず結論から言うと遠野秋葉を狙っているのは暗夜のものだ。」

「暗夜?」

「そうだ。 その様子だと暗夜を知らんようだな。 まずそこから説明するか。 いいか、暗夜っていうのはな今の退魔組織の元を作った一族だ。 正確には暗夜だけではなく明朝っていう一族とで作ったんだ。 今から五百年前、まだ退魔組織がなかった頃の話だ。 その当時はまだ魔が街中を闊歩していて夜はおちおち外も歩いていられないような状況だった。 だが何処からやってきたのかは知らんが、二人の男と女が現れた。 それが初代当主暗夜暗闇と明朝明光だった。 その二人はわずか一晩でその町に巣食っていた何万という数の魔を全て滅ぼしたそうだ。 その後もそいつらは他の場所の魔もつぶして廻ったそうだ。 そうするうちにその二人は子孫を残しそいつらにだけ自分たちの技術を伝承し代々退魔を生業として生きてきた。 だが今から三百年前、暗夜の家から分家が派生した。 元々暗夜の家では婚姻できたのは長男だけで次男以降は結婚せずに退魔師として生きていくそうだがその世代でそれが変わった。 さすがにそれでは全の間を取り払うのは無理と考えその台の当主が分家を作ることを許可した。 その分家の当主こそが歴代の退魔七頭目というわけだ。」

「ちょっとたんま。 退魔七頭目ってなんだ? そもそも退魔組織自体知らないんだが。」

「退魔七頭目って言うのはな、退魔組織の七人の幹部のことよ。 歴代的に長はその中で一番力のあるものがなっている。 退魔組織は、そうだな、おまえの知る所で埋葬機関だ。 退魔七頭目も埋葬機関風に言うなら七司祭の事よ。 お前の知り合いに第七司祭・弓のシエルがいるだろう? それと同じだ。 で、埋葬機関とも退魔組織成立とほぼ同時期から付き合いがあるわけよ。 たまに手も組むしな。 ほんとにたまにだが。 まっ、犬猿の仲だけどな。 でだ、俺もその退魔七頭目の一人というわけだ。 おっと、そういや名乗るのを忘れていたな。 俺の名は八雲雨夜。 暗夜より派生した分家の一つだ。 俺のことは雨夜で構わん。 それで、何処まで話したっけ? ああそうだ、退魔七頭目のことだな。 ついでに言っとくと他の六家は御鏡、草薙、巫浄、浅神、両儀、そして七夜だ。」

「七夜? っていうことは・・・・・・」

「おうよ。 お前の一族も退魔七頭目の一角。 おまけに歴代党首のうち半分くらいはお前の家から出てるんだぞ。 もう半分は両儀からだがな。 お前の親父七夜黄理も七頭目の長だった。 だが不運にも七夜の分家が着ているときに襲撃を受けた。 もし分家がいなけりゃ七夜だけでも防ぎきれたかもしれねえが分家の奴らがいたため黄理はそいつらも守らなきゃいけなかった。 もしいなけりゃ守るのはお前らガキ共だけですんだから百倍楽だったろうな。 何しろ七夜の分家と本家では天と地ほども戦闘力に差があったからな。 それで当然お前の家が襲撃を受けたと知ってすぐに俺らは駆けつけた。 だが間に合わず一族はお前ら兄妹を残して全滅。 そりゃあ・・・・・・」

「ちょっと待て。 今なんていった? 俺ら兄妹って言ったか?」

「おうよ。 なんだ、知らなかったのか? お前の妹は今も生きているぞ。 お前が退魔組織に戻るまでの間って期限付きで七頭目の長の座についてるぜ。」

「俺に、妹が・・・・・・全く覚えてない。 なあ、名前はなんていうんだ?」

「なんでぇ、覚えてねえのか? 槙久の野郎どうやらお前に暗示を掛けたらしいな。」

「遠野槙久を知っているのか?」

「知るも何も遠野家と退魔組織は敵対してるからな。 俺も何度か戦ったことがあるが技術面では話にならんな。 だが紅赤朱になれば話は別だ。 そうなった野郎に勝てたのは七夜と両儀だけだった。 おっといけねぇ、妹の名前だったな。 お前の妹の名は七夜雪之だ。」

「七夜、雪之・・・・・・」

「で、話を戻すぜ。 ええっと、そうだ。 お前の家が滅ぼされたとこまでか。 お前なんで自分の家が滅びたか知ってるか?」

「えっ、・・・・・・それは、・・・遠野にとって七夜が脅威だったからじゃないのか?」

「表向きにはそうなっているが真実は違う。 俺も詳しくは知らないがどうやら七夜の家が滅びたのは暗夜の生き残りのせいだそうだ。」

「生き残り?」

「おっといけねぇ、そうそう。 いい忘れていたが暗夜の家は今から十二年前、つまりお前の家が滅ぼされる一年前に滅びている。」

「理由は?」

「それは誰も知らない。 ただ一人、暗夜の生き残りを除いてな。」

「そいつの名前は?」

「そいつは誰も知らねぇ。 ただ暗夜の生き残りがいて、そいつの望みはこの世から魔を抹消すること、って事だけだ。」

「だからって秋葉が狙われる理由にはならないんじゃないのか?」

「ところがそうもいかねぇのよ。 なぜかは知らんが暗夜は遠野を毛嫌いしててな。 遠野の生き残りがいると知っちゃ黙っちゃいねぇだろうよ。」

「じゃあそいつは九年前の事故も知ってるのか?」

「ああ、その手の情報は筒抜けだからな。 それで、どうすんだ? はっきり言ってこのままじゃ間違いなく殺されるぞ。」

「どうすればいい?」

「そうだな。 退魔組織に連れて行くってのはどうだ?」

「ふざけるな。 そんなとこに連れて行ったらそれこそ秋葉が殺されるだけだ。」

「いいか。 少なくとも七夜に逆らおうとする馬鹿はな奴は退魔組織には殆どいねぇぞ。 しかもお前は七夜の当主だろうが。 七頭目の中で一番強い奴が長になれるんだからお前は両儀に勝てばそれでお前は間違いなく長になれる。 ただでさえ七夜の当主って言う時点で逆らう奴は殆どいねぇっていうのに七頭目の長ともなれば誰も逆らわねえぞ。 まず七頭目の長の親族って事にしとけば誰も手はださねえってことよ。」

「でも、そのためにはその両儀っていう奴に勝たなきゃならないんだろ?」

「おうよ。 なあに、お前が本当に黄理の息子なら勝てる。 だが・・・・・・」

「だが?」

「その前にお前の実力を見せてもらおうか。」

そういって八雲雨夜は立ち上がった。

――――――くっ。すごい殺気だ。

「いいよ。 けど屋敷を壊したくない。 外に出よう。」

「いいだろう。」

「志貴様。」

「志貴さん。」

翡翠は心配そうに、琥珀さんはちょっと怒ったように俺を呼び止めた。

「二人とも危ないからここで待っててくれ。 すぐ戻る。」

「志貴さん、無理しちゃダメですよ。」

「志貴様、どうかご無事で。」

「ああ、ありがとう。 行ってくる。」

そういい残して居間を後にした。


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