月影后Act.9


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1: アラヤ式 (2003/12/11 00:11:00)[mokuseinozio at hotmail.com]

急いたな。



蛇よ。 妾はこのようなことをせずとも、蘇るのは必定であった。



娘はすでに、妾を受け入れずにはいられない。



蛇よ。 おまえはあせりすぎた。



何が欲しいのだ。おまえは何を望むのだ。



蛇よ。 おまえの欲はなんだ。



体か。心か。力か。



「なんなの……? あなたは誰なの?」



娘よ。



妾の娘よ。 器の娘よ。



妾の器と約束された娘よ。



このさだめもまた、因果なのかも知れぬ。



「志貴を、わすれろっていうの? いやよ!」



無益。



賽は投げられた。



妾が望んだわけではない。 おまえも望んだわけではない。



歯車は動き出せば止まらぬ。 それが必定。



機械はただ、動くのみ。



「私は、もう歯車にはなりきれないよ」



抑止はそれでも、おまえを求める。






「ハハハハハハハ! 
 姫君、高密度精神体である父上を受け入れるのです!
 正直、完全のなかに不完全をやどすあなたもそれなりに愛らしいのですが、志貴に囚われたままではいけません。
 しばしの苦痛を我慢していただけませんか?」

ロアは両腕を高らかにかかげ、自らの野望の扉が開け放たれたことに狂喜乱舞している。

地にかかれた六芒星の極点から、六つの光が放たれる。

光は、ブラックホール状の異空間ゲートを押しひろげ、葬られた超々越種を呼び起こす。

すでにロアは、鍵を開いていた。

古、宝石の老人がやむを得ず異空にとばした月の王、その復活の扉を。

この世への顕現は膨大なエネルギーを必要とするため、月の王は六つの力を残していた。

人間にたいし凶悪な絶対の暴力をもつ魔犬。

自らを葬り、真祖を超越した老人。

強者としての死徒に、絶望的なまでに強い鴉。

血によって論理を超越する力を行使する不完全な娘。

全ての水をあやつり、生命を握る水魔。

五つを集めたものは、全てを握る。

異空間は黒い渦をまき膨張していく。ロアの野望とともに。

「うぁ!」

アルクェイドは同時に、凄まじい頭痛に襲われた。

「アルクどうした、しっかりしろ!」

「痛い、痛いよ……」

アルクェイドは顔を真っ青にしながら荒い息をはく。

膝から崩れ落ちる彼女を志貴は支えたが、アルクェイドに尋常ならぬ事態が迫っていることは理解できた。

「はやいとこ奴を片付けねえと、まじでやばいぜ」

アルクェイドのただならぬ容態に、エンハウンスの顔にも不安がよぎった。

もともと彼女は、志貴を巻き込まないために、オーテンロッゼと戦おうとしていた。

吸血衝動の増幅もいとわなかった彼女の思い。

志貴は、アルクェイドをシエルに託した。

「アルクェイド。 もう、奴との追いかけっこは終わりにしてやるから安心しろ。 俺が必ず」

「志貴……」

「先輩、本当に勝手を承知で、こいつ頼みます」

「わかりました。 ……ロアは、おまかせしますよ」

シエルは無言で頷く。

「遠野志貴。 おまえもまるでわかっていないな。 私の愛を」

巨大な水槍を握りしめ、ロアはため息をもらした。

ロアのあまりに感情の起伏が激しすぎる様に、志貴も同様ため息をつくしかないのだが。

「なにが愛だ。 アルクェイドを八百年も苦しめたのはどこの誰だ。 おまえのいっていること、さっぱりわからないぞ」

「白々しい。 姫君を殺そうとする邪悪な男め」

まるで意味のわからない論理。

アルクェイドを邪な企みで手に入れようとしたのはロア当人であるが、彼は志貴を邪悪と罵る。

「志貴。 おまえは姫君に感情の起伏をあたえ、彼女の高潔な使命を汚した。
 この罪、言い逃れはできない。
 おまえは何故、姫君のまえにあらわれた?」

怒りをむきだしにするロア。その顔は憤怒の極地に達している。

志貴の鼻先に水槍の先端を突きつけ、ロアは眉間を寄せている。

憎しみの対象となった志貴はそれに揺るぎもせず、ロアと目を合わせるのみ。

「俺は、アルクェイドの笑顔がみたいんだ。
 あいつが笑っているときが一番好きだから。 おまえなんかに奪われてたまるか」

「そんなくだらない理由で姫君をよくも惑わしてくれたな。
 おまえのやったことは単なる自己満足に過ぎない。
 姫君の寿命をいたずらに削り、彼女を陥れているだけではないか!」

一人の女をめぐり、二人の男は互いを睨みつけながら、静かな火花をちらしている。

「おまえは偽善者だ。
 それも最悪の部類、自らを省みない偽善者だ。
 ヒューマニズムの皮をかぶったエゴイズムで、姫君を滅ぼされてはたまらないよ!」

「エゴしか押し付けないおまえよりはまともだろ」

ロアは許せなかった。

八百年間、狩猟者と獲物の立場であったアルクェイドとロア。

彼は永劫の月日に渡る奇妙な関係、それがたまらなく愛しかったのだ。

だが、志貴という横から現れた男が、全てを台無しにした。

長年積み上げてきたロアの玩具を、志貴は全て叩き壊してしまった。

鬱屈した感情は複雑に絡み、志貴への怒りに変貌する。

「姫君が完璧のままあり続けるには、おまえが邪魔なのだ。
 遠野志貴、おまえは今すぐ死ね。姫君をこれ以上ひっかきまわすな」

ロアは先ほど壊された眼鏡を復元し、怒りをおさえる鞘のようにかけなおす。

その彼に一番憤りを感じていたのは他でもない。

シエルだった。

この傲慢な男は何をいっている。

他人を引っ掻き回していたのは他でもない、ロア自身ではないか。自分のことを棚に上げるとはまさにこのことだ。

怒りを通り越してシエルは絶望すら感じた。

殺したい。

許せない。

癒されかけていたロアへの恨みは再び沸騰し、一気に爆発しそうになる。それ以上に

「お父さんにも、お母さんにも、恥ずかしくて顔向けできません……」

今さらだが、改めてロアという男の残酷さと卑屈さ、

ロアに一時でも意識を乗っ取られてしまった自分に、シエルはこらえていた涙をながす。

彼女の頬に、白いハンカチがおしあてられる。

「シエル、悪いのはあいつだ。 百パー、ロアが全部悪い」

「でも」

「でももへちまもあるか。 
 おまえは何回死人に謝れば気が済むんだよ。
 死んだ奴は、もういないんだ。
 おまえはとっくに許されてお釣りがきてるんだぜ。 いい加減気付けよ」

エンハウンスの気遣い。シエルはそのハンカチを、大事ににぎりしめる。

志貴たちは、ロアとの最後の闘いにいく。

「今度は殺し合いだ。 ミハエル・ロア・バルダムヨォン」

「カミさんと愛娘の敵だ。 てめえはぶちのめす」

「来い、愚か者ども。
 もはや抑止力の恩恵を一心にうけるこの私こそ、姫君の婿にふさわしいことを証明してやろう!」

彼の背後から伝わってくる真っ黒なオーラ。

水でできた旋風のような螺旋がロアを取り巻き、彼の間合いすら侵略できない障壁をつくる。

スミレやブラックモアの力を自在に操ることが出来る怪物となったロアは、まさに無敵。

禁断の林檎に手をかけた蛇、悪魔の知恵者である。






「お爺様……。 ブライミッツ・マーダー……。 リィゾが、私のせいで……」

無言の男を抱え、むせび泣く痛ましいアルトルージュの姿に、

ゼルレッチは目を閉じ、静かに黙祷を捧げた。

魔犬は血だらけになった体を意に介さず、ゆっくりと四肢をひきずるように歩み寄る。

人形のように冷たい、シュトラウトの顔。

ブライミッツは鼻先をそっと近づけ、彼の頬をやさしくなめた。

―― シュトラウト。 レイヲイウ。

魔犬は夜空を見上げた。

星空にきらめく、天にのぼる月にむかって、吠えた。

葬送の遠吠え。

魔犬のつぶらな黒い瞳から、涙がながれる。

荒野一面に響き渡る笛の音のようなその叫びは、魔犬の悲しみを込めたもの。

姫君を守りきった騎士への、最高の弔慰であった。

遠吠えが響き渡ったと同時に、シュトラウトの傍らで突き刺さっていた魔剣ニアダークが、軋むような音をたてる。

次の瞬間、張り詰めた力がはじけるように、ニアダークは粉々に砕け散った。

シュトラウトの死とデジャヴするような魔剣の最後。

だが、その現象には拭いきれない違和感があった。

一番驚いたのは、他でもないゼルレッチである。

「おかしい。 シュトラウトが生きる屍となったのならば、契約中の魔剣が崩壊する理はない」

魔剣との契約で不死の呪いをシュトラウトは受けた。

生きる屍は、魔剣の存在なしでは成立しない結果である。

「となればシュトラウトは精神崩壊ではなく、魂魄がどこかへ弾き飛ばされたと考えるのが妥当じゃ」

「お爺様。 それでは、リィゾはまだ生きていると……!」

「その可能性はある。 じゃが」

アルトルージュが放った空想具現化のエネルギーで、シュトラウトの魂魄が飛ばされたのはまちがいない。

ゼルレッチは飛ばされた場所にも見当はついていた。

だが老人は答えを渋る。アルトルージュは老人の様子に、何かを思い出す。

「まさか、あなたがお父様を葬った異空に、リィゾの魂が……」

ゼルレッチの渋い表情は、アルトの問いを肯定するものだった。

―― ナラバキマリダ。 ゼルレッチ、ワレヲツキノオウガイルトコロマデトバセ。

魔犬は固い決意とともに、自らシュトラウトの捜索をすすみでた。

「だめよ! ブライミッツ・マーダー、いかないで……」

魔犬の名乗りに一番拒絶反応を示したのはアルトルージュだった。

「お爺様がなぜお父様を異空へとばしたか知っているでしょう?
 大地の精霊種であるあなたも、力の供給を切られてしまうわ。
 それに、リィゾの魂が本当にそこへ飛ばされたのか、保証はないのよ……」

これ以上、大切なものを失うことにアルトルージュは耐えられなかった。

ブライミッツ・マーダーまでいなくなってしまうことなど、到底考えられなかった。

魔犬はそれでも、ゼルレッチにむける決意の眼差しを曲げない。

―― コレイジョウ、ヒメサマガナミダニクレルノヲミルノハツライ。 タノム。

「わかった。 お主の好きにせい」

ゼルレッチは魔犬の嘆願を受け入れる。

手をかざした老人の赤い瞳が見開かれると同時に、巨大な丸い黒いゲートが現れた。

この世の理を超越するのが魔法。

―― シュトラウトハカナラズ、ツレモドシマス。

「……約束して。 リィゾが見つからなかったとしても、必ず帰ってきてね」

アルトルージュは魔犬の体を、そっとだきしめた。

別れの抱擁。その温もりをもう一度味わえることを信じて、少女は魔犬を見送った。

魔犬はゲートに向かい勢いよくとびこみ、ゲートは縮まって消えてしまう。

アルトルージュの見た、魔犬の最後の姿であった。







ロアに最初に仕掛けたのはエンハウンス、右手から隆起した黒い大剣を横になぎ払う。

魔剣との融合で驚異的な運動神経を獲得した彼は、ロアのわき腹を狙った。

「『. Leviathan』」

ロアの眼鏡が怪しく光る。

地面から巨大な亀裂が走り、大量の水が吹き出る。

その壁と水圧はエンハウンスの斬撃をものともせず、軽くはじき返した。

はじきとばされたエンハウンスの後ろから、志貴が飛び出す。

七つ夜を構えた志貴は、流水の死点をみる。

だがそれを突くのは容易ではない。流水の死点は水壁のなかを縦横無尽に動き回っているからだ。

だが、七夜の血は、いつまでも同じ障害に屈さない。

あらゆる障害を乗り越え、音もなく敵を暗殺するサイレントキラーとしての志貴は、死点の軌道を予測する。

「(第一点二尺三寸の移動。 ここか)」

赤い点が移動する瞬間、追尾レーダーとかした志貴の右腕は、見事に死点を捉えた。

水は、音も立てずに、飛沫すらたてず消滅する。

がらあきになったロアの懐に、志貴は迷わず侵入した。

確実にロアの死点をつける位置、



――  マズイ!!



ロアは懐に踏み込まれたにもかかわらず、不敵な笑みを崩さなかった。

嫌な悪寒が走る、だがこの決定的なチャンスは逃せない。

「『. Primate』」

短刀をロアの右胸に突き刺そうとしたとき、志貴は急に力の衰えを感じた。

「……なんだ!?」

錯覚ではなく、急に全身の筋肉が萎えてしまう脱力感、志貴は立っていることすらできなくなる。

目の前のロアが、見えない。

足がふらつく。

吐き気すらおぼえる。

ロアはその隙を見逃さず、左手から過負荷を放つ。

瞬間、飛び出したエンハウンスが体の盾となって、志貴をかばった。

精神と肉体を同時に破壊する結界オーバーロードは、エンハウンスを焼き焦がす。

「ぐああああ! ……くそったれが!」

エンハウンスは志貴を抱えると、ロアが放つ攻撃の射程外に離脱する。

「ハハハハハ! 残念だったな」

勝どきをあげるロアは、余裕綽々で逃げたエンハウンスに追撃はしない。

頭をおさえる志貴の様子に、エンハウンスはあせる。

「どうした志貴。 いつもの頭痛がきちまったか?」

「いや、違う……。 ロアの前に、全然立てないんだ」

志貴は弱音を吐かねばならぬほど、いや、彼のいうことは事実だった。

ロアはThe dark sixの全てを手に入れた。

すなわち、人類に対する絶対的な殺人者の力も手中におさめている。

「ハハ! 無様だな遠野志貴!
 私はおまえの存在を遥かこえた頂に立っている。
 殺し合いにならないよ。
 一方的な惨殺だ!」

異常な迫力とともに、ロアのポテンシャルは全身をほとばしる。

「姫君どうですか! この私こそ、あなたの婿にふさわしいでしょう!?」

志貴を退けたことに喜びを感じるロアは、アルクェイドにむかって得意げに尋ねた。

ロアの眼差しを一心に受けるアルクェイドは、

無言。

もはやロアを罵倒する気力も失せ、彼女は精神的に疲れきっていた。

その眼差しは、厳しいという言葉では言い表せないほどの、侮蔑が込みきったものだった。

月の王の顕現が近づき、頭痛が襲うなかの、アルクェイドの無言の抵抗。

「……ひめ、ぎみ?」

ロアはアルクに睨まれた途端、急におろおろしはじめる。

アルクは深くため息をつくと、ボソリと呟いた。




「あんたなんか大嫌い」




ロアは一瞬、自分の耳を疑った。

「……ひ、め、ぎみ? な、なにをいっているのですか?」

「聞こえなかったの? あんたなんか大嫌いよっ! 死ぬほど嫌いよっ! もういやなの!」

アルクの恫喝は、今まで志貴がきいたこともないようなボリュームで、ロアの心に突き刺さる。

完全な決別宣言。

ロアの整っていた面立ちは見るも無残に崩れ、目が血走っていた。

「……あ、あ、ぅあ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、」

白い顔がますます顔面蒼白になり、ロアは膝から崩れ落ちる。

「……こんなにも、こんなにも愛しているのに、どうして」

頭をかかえ、うわごとを呟く。

「あぅぅぁぁぅぅぁぁぁぁっぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!!!!!!!!」

もはや嗚咽とも慟哭ともとれない、野獣のような叫び声でロアは泣く。

転げまわり、涎を撒き散らし、駄々をこねる子供のように涙をながす。

何をやっても手に入らない、どうしても手に入らない。

なぜこんなにも不合理なのか、ロアは自分だけが不幸のどん底にたたき落とされた気がした。

「ロア、おまえは姫君にフられたんだよ」

「うるさい! だまれー!!」

「もう一度言うぜ。 おまえはフられたんだ。 決定的にな」

エンハウンスは事実を述べたまでである。床をのたうちまわるロアは納得しない。

「半人半死徒のおまえになにがわかる!
 私と姫君はずっと一緒だった、ずっと一緒だったんだ!!」

「そういうのを粘着質っていうんだ。 しつこい男は嫌われるんだよバカ」

「そんなはずはない! 姫君に限ってそんなはずはない!」

エンハウンスの額に青筋が浮かぶ。振り上げられた右足はロアの顔面を見事に捕らえた。

「ガキが。
 てめえみてえなアダルトチルドレンがいるから、世の中軋みたてて腐ってくるんだ。
 ガキがいい気になって世界は全て俺のものなんておもっているから、泣かされる奴らが次から次へとでてくる。
 てめえにシエルの垢、せんじて飲ませてやろうか?」

蹴飛ばされ、壁にずり下りるロアは、いきなり顔を上げた。

「エレイシア?
 あんな売女に入れ込んでいるのか? おまえはやはりバカだな」

「なんだと」

顔面に鼻血をながすロアは、シエルとエンハウンスの顔を交互にみると、鼻を鳴らして笑う。

「あの女は済ました顔してかなりの淫乱でな、自分で殺した男を我慢できずに屍姦していたほどのインバイだ」

「……おい、もう一回言ってみろ」

「おまえの妻と娘とやらもそうだよ。 ブラックモアの死者相手に、逝く直前までよがりまくっていたのだろう?」

「死にたいのかてめえ!!!!」

エンハウンスは本気で殺意に駆られた。

ロアの恥辱にまみれきった暴言。聞き捨てることはできるわけがない。

右腕の大剣はエンハウンスの憤怒を吸収するように肥大し、その刃を研いでいく。

だがそれよりもはやく、志貴の拳がロアの顔面をとらえた。

吹っ飛んだロアを志貴にらみつける。彼も完全に堪忍袋の緒が切れる。

「クズはおまえだ。 これ以上、アルクや先輩に汚い言葉を吐いてみろ。 殺してやる」

ロアのあごを砕いた拳は、衝撃で血を噴き出していた。

志貴に襲い掛かっているはずの痛覚は、彼の中を駆け巡る怒りのボルテージでかき消されている。

なにを遠慮することがあろうか。

この男の存在自体が、もはや害悪の何者でもない。

一刻も早く、息の根を止めてやる。

志貴とエンハウンスの思いは、一致した。

ロアは殴られた拍子で、再び思考レベルを標準に戻す。

「……痛いな。 この痛み、何倍も倍返しにしてやる。 障害物どもが!!」

ロアの背後から、巨大な水流が飛び出してくる。

同時に土の魔術グラウンド・ゼロを起動、

地下室をうめつくす水流は土石流とかし、志貴とエンハウンスを押し流そうとする。

「蛇。 まったくもって、君は美しくないねぇ。 ヴァン=フェムとリィゾの敵、とらせてもらうよ」

バレードの髑髏兵士が一斉に部屋に雪崩れ込み、ロアの土石流を体で止めた。

「ヴラドさん!」

「志貴くんのためなら例え火の中水の中、何処へでも助けにいくさ!(激萌)」

ヴラドにきらめく白い歯が怪しく光る。吸血鬼は歯が命。

だがそんなおふざけしているうちに、土石流の勢いは髑髏兵士たちでは支えられなくなる。

その後ろから透明な丸い壁が、幽霊船団をサポートするように水流を押し上げる。

激烈な勢いの土石流をそのままロアに押し返した。

「あたしの力、パクっといて調子こいてんじゃねえよ!」

髑髏兵士の群れを必死こいて掻き分けて、スミレも駆けつけてきた。

志貴たちにとって力強い援軍だ。

「エンハウンスおひさー!
 ありゃ、あんたなんか顔の血管浮きでっぷりがネロにくりそつだぞ? 髪もワイルド無造作だね〜♪」

「姐さん……。 ちょっとイメチェンしてみたわけさ」

スミレは、シエルに支えられているアルクェイドに気が付いた。

過去に、スミレはアルクェイドに手をあげた。

「アルクちゃん、約束どおり助けにきたよ。 大丈夫?」

スミレはアルクェイドに罵倒されるのを覚悟で、彼女にそっとはなしかける。

「水魔、きてくれたんだ。 ……ありがとう。 うれしいよぉ」

スミレの姿をみた途端、アルクェイドは顔をくしゃくしゃにして、張り詰めていたものが落ちたように泣いた。

精神的にロアに追い詰められつづけ、やっと安心したのだろう。

アルクェイドの頭を優しくなで、スミレは少しでも贖罪をできたことに安心した。

同時に湧き上がってくるのは、

水流をくらい、それでも再生しようとするアカシャの蛇に対する怒り。

「あんたみたいなクソのために、どうしてリタが死ななきゃいけないのさ……。 ふざけんなあ!!」

再生しようと蠢いていたロアの肉体に、スミレの空想具現化が炸裂した。

スミレのイメージを具現化した透明なドラゴンは、水の助力なしでも肉隗をことごとく引き裂く。




「. Crow」



ロアの残った、たった左手一本が、固有結界ネバーモアを地下室全範囲に展開させた。

あっという間にバレードを消し去り、死徒を蝕むその威力は、

ヴァン=フェムとの激闘でダメージが蓄積しているヴラドにも、

第五の権利を奪われて力が半減しているスミレにとっては効果的、行動すら不能になる。

その隙にロアは再び五体をとりもどす。きりがない。

「木端がいくら集まろうが結果は変わらないよ。
 水魔。 リタ・ロズィーアンもおまえも、二セットでとんでもない役立たずだったな。
 そこで地べたを舐めていろ」

「ちくしょう……! くそぉ! ヴァン爺ぃ! リタぁぁぁぁ!!」

親友の敵を目の前にしながら討つことができない悔しさに、スミレは拳を叩いて泣いた。

ネバーモアがほとばしる中、ヴラドは疾走してロアに近づく。

レイピアを煌かせた鋭い斬撃を、ロアは具現化した水のバスターソードで受け止める。

「ヴラド。 おまえは私の愛をわかってくれるよな? お互い似たもの同士だろう?」

「この僕を君と一緒にしないでもらいたいねぇ。 不愉快だ」

「フ。 所詮おまえも俗人か」

ロアはレイピアをなぎ払うと、水の剣をヴラドの胸に突き刺す。

「……あとはまかせるよ。 真祖の騎士。 復讐騎」

倒れるヴラドの背後から、志貴とエンハウンスが全力で飛び込んできたことにロアは気付かなかった。

七つ夜と魔剣アヴェンジャー。 二つの刃は今、邪悪な蛇を切り裂く。


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