月影后Act.8


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1: アラヤ式 (2003/12/06 02:49:00)[mokuseinozio at hotmail.com]

『魔剣アヴェンジャー』

俗称 ネクロス。 

サンプルナンバー666。

有機元素魔剣属でも最高峰の再生能力と攻性を誇り、

『復讐者』の名を冠する、自らの思考で行動パターンを決定する擬似生命。

自分の認めた術者の思念で形状を変え、様々な武器に変化する。 (銃などの複雑な兵器は不可)

自己意思が覚醒すると、体組織に対象物を吸収することによって、精神構造、身体能力、超抜能力を全てコピーする。

ただし、一度侵食能力を行使すると、前の収奪データはリセットされてしまう。

現在、二十七祖前18位に横流しされた後、それを滅殺したエンハウンスの手に渡る。

そして、今。






「うそ、いやぁ!」

アルクェイドの絶叫が響き渡った。

無理もない。 取り返した魔剣アヴェンジャーの巨大な切っ先を、自らの胸につきたて、

自害としかおもえないエンハウンスの行動が、にわかには理解できていないからだ。

「キャキャキャ! ご主人様正気か〜!? このクレイジー野郎〜〜〜〜!!」

魔剣自身も、彼の凶行としかとれない行動に驚嘆しているようだった。

シエルはその目を覆いたくなるような光景を、最初から黙ってみている。

志貴も、そのことを知っているかのようだ。

「志貴! なんで黙ってるのよ! エンハウンスが自分の、むね、むね、むね刺しちゃったよー!!」

「落ち着け。 あいつは自殺なんかしないよ」




―― 志貴。 おまえにわがまま承知で頼みがある。

―― 何だよ。 最後の頼みっていうのはナシだぞ。

―― ロアと、サシで闘りてえんだ。



エンハウンスの胸部から滴り落ちる血の量は、刀身をつたって流れ、明らかに絶命するのではないかというほどのもの。

「ばかめ。 この期に及んで怖気づいたのか? 半人半死徒」

ロアも彼の行動が理解できていなかった。

胸に魔剣がささったまま、エンハウンスはあきれるロアにむかって、不敵に笑う。

「後で吠え面かくなよ。 サイコ」

エンハウンスの顔に、血管が浮き出た。

その数は徐々に増し、体中の毛細血管が動脈のように図太くなっていく。

同時に刺さっていた魔剣は、エンハウンスの胸に吸い込まれるようにとけこみ、

魔剣の体を構成する有機素体が体細胞と融合し、死徒の身体構成に劇的な変化が生じていた。

エンハウンスの紅い魔眼は、その色を極限まで高め、筋肉の膨張が彼の羽織るオーバーコートからでもみてとれる。

「この世には、おまえの想像をはるかに超えた、未知の力が存在するんだよ」

手に伸びた鍵爪は、アルクェイドを彷彿とさせる鋭さを放ち、

口元の吸血鬼独特の犬歯は、野獣のように光る。

銀髪は怒髪天のように逆立ち、顔に浮き出た血管が、いかつい刺青のようにくっきりと浮き出ている。

それはまるで、彼のなかに潜む『死徒』を色濃く浮き立たせたようだった。

「アルクェイド、よくみていなさい。 あれがエンハウンスの魔剣、第三形態です」

シエルは彼の変貌ぶりを見届け、静かに呟いた。





―― 譲るよ。 ブラックモアのとどめは、俺がさしたからな。 交換条件だ。

―― 志貴。 ありがとうよ。





銀髪の死徒は覚醒する。

野獣のような気迫をはなち、エンハウンスは凄まじい音量で吠えた。

「なるほど。 ネクロスの侵食を自分の精神力で抑制しているのか。 なんと不合理なことをする」

ロアの顔から、嘲笑が消えた。

エンハウンスは魔剣を媒体に吸血衝動を増幅させた。 それはロアが、アルトルージュに対してやったことと全く同じ。

だがロアは恐れてはいない。

自らの体を猛獣に差し出すような真似をして、エンハウンスに勝機などあるわけない。

ロアは荷電粒子を右手に集束させ、過負荷の準備をする。

だが、

「高そうな眼鏡してるじゃねえか腐れ神父さんよ。 ええ?」

丸眼鏡を奪って片手で弄び、おまけにロアの右肩に肘をつけているエンハウンスがいた。

ロアが驚いて振り向いた瞬間、強烈な肘鉄が炸裂、ロアはそのまま壁の隅に吹っ飛んだ。

エンハウンスは奪った眼鏡を楽しそうに眺めると、両レンズに指を当てる。

彼の指から、黒鉛色の刃が飛び出て、レンズは綺麗に削り取られた。

「ハッ! チョーすてきな伊達眼鏡ができあがりました! こっちの方がおまえに似合ってるぜ」

エンハウンスは嘲笑った。

殴られた頬をおさえ、立ち上がろうとするロアに、眼鏡を投げつけた。

「……私をバカにしているのか。 なめるなよ!」

怒ったロアは、右手を地面にあてると、魔方陣をつくりだす。

エンハウンスの下から、巨大な土の隆起が飛び出る。

「『グラウンド・ゼロ』!!」

ロアがオーテンロッゼから奪い取った『土』の魔術。巨大な土でできた塔はエンハウンスの体を粉々に飛ばした。

勝利を確信したロアは笑う。半人半死徒がこの爆砕で復元することなど、データからいって到底不可能。

「フ。 所詮おまえは、招かれざる客というわけだ」

だが、ロアの誤算はまだ続く。

砕いたはずのエンハウンスの体が、肉片一個一個から黒い刃が飛び出て複雑により合わさる。

邪魔な土を吐き捨てて、肉同士が繋ぎ合わさり、エンハウンスは五体満足で再生した。

驚くロアは尻目に、再生した途端鋭い踏み込みをみせたエンハウンスは、超人的な脚力で疾走する。

天井、壁、地面のあらゆる方向を、志貴の三次元運動のごとく移動し、ロアを翻弄する。

ロアはあまりに速い移動に追いつけず、魔術による攻撃目標も定まらない。

そうこうしているうちにエンハウンスは、天井に止まっていた。

右手から巨大な鍵状の刃を伸ばし、蝙蝠の如く張り付いている。

「どうした神父?
 聖職者なら吸血鬼はちゃんと葬らなきゃダメダメだろー?
 あ、ていうかてめえも死徒だったっけか? むり? むだ? ひゃひゃひゃひゃひゃ!!」

エンハウンスは唖然とするロアに、これ見よがしに笑い、刃を放して飛び掛った。

落下のスピードをそのまま生かし、エンハウンスの広げた両手から何かが伸びる。

黒い、巨大な大剣。

二振りの刀剣を手から生やしたエンハウンスは、ロアに接近すると一気に斬りかかる。

「なんだ、なんなんだおまえはっ!?」

「俺は俺だ」

叫ぶロアの首をはね、胴体を横に丸太斬りにした。

舞う血しぶきのなか、刃を収束させたエンハウンスはロアの頭をつかむと、

右手から数え切れないほどの小刀を飛ばし、微塵に切り裂いた。

まるで本能を剥き出しにしたようなエンハウンスの姿に、アルクェイドは開いた口がふさがらない。

「すごい、運動能力が比較にならないくらい向上しているわ」

「あれが、あいつの本気か」

「彼は長年に渡る死徒との闘いで、大きな弱点が露呈しています。 
 半人半死徒では、一般の死徒より復元呪詛はどうしても弱い。
 その欠点を克服するために彼が考えたのは、アヴェンジャーを自らの体に融合する法でした」

「そっか! 強力な再生能力をもつアヴェジに補ってもらえば、ロアの復元呪詛とも、互角に渡り合えるわけね」

「そうです……」

喜ぶアルクェイドの隣で、シエルは神妙な面持ちを崩さない。

エンハウンスはロアの残った髪の毛をつかみ、持ち上げる。

「おいどうしたフニャ○ン野郎。 少しはキばれや腐れイ○ポ! ひゃっひゃー!!」

とってもお下品で放送禁止用語を吐きまくるエンハウンスは、いつもと様子が違っていたりする。

「先輩。 なんだかあいつの性格、変わってない?」

「ほんと……。 なんか、節々の言動が卑猥この上ないわよ」

「どうやら、前頭葉の抑制が、いまいちというか、かなり効いてないようですね……」

二十四時間性的欲求を満たそうとする魔剣と、融合した故の弊害であった。



「なるほどなるほど。 
 時に予測しがたい行動をする個体は全く先が読めない。
 多少不覚をとってしまったようだ」



不敵に満ちた声。

切り刻まれた肉片から、霧が集まるようにロアは再び姿を取り戻す。

「だが、おまえの底は知れたな。 半人半死徒」

エンハウンスの圧倒的な運動能力を目の当たりにしても、ロアの自信は揺るがなかった。

「ホムンクルスの再生能力に目をつけたか。
 着眼はいいが、果たしておまえはいつまでその状態を維持できるかな?
 ネクロスの侵食は、精神で抑えていられるほど甘くはないよ?」

指をさし、第三形態の弱点をロアは得意げに当てた。

杵柄をとったようなロアに対して、エンハウンスは、一切動揺しない。

「いいや。 アヴェンジャーは、しばらく俺を戦わせてくれるぜ?」

「フ。 虚偽もほどほどにしろ。
 大体なんなのだ? おまえはネクロスをまるで相棒のような扱いをしているが全く、理解に苦しむな。
 実験動物は、創造主の命令どおり動くものだよ」

「じゃあ、なんでこいつはおまえの支配を逃れて裏切った?」

「……?」

「教えてやるぜ。 魔剣アヴェンジャーはな、創造主のズェピアも、実験に協力したおまえも、大嫌いなんだとよ」

「……!?」

「おまえたちはコイツが産み落とされた実験のために、一万を超えるホムンクルス幼体を犠牲にした。 そうだろ?」

エンハウンスは手から一振りの刃を伸ばし、ロアにむかって指をさす。

「フ。 そうだ。 純粋な完成品を生み出すには多くの生贄がいる。 それがどうした?」

「そのイケニエたちは、
 培養管のなかで自分たちが生まれた事実もしらず、無意識のなかで実験を繰り返され、無意識のまま死んでいった。
 存在を人からも、自分ですら知覚できずに消えていく地獄。
 アヴェンジャーはそんな同胞たちの死に様を、ずっと見つづけることをおまえに強要されてきたんだぜ?
 そりゃ性格も、ひん曲がっちまうわけだ」

エンハウンスが語る事実は、融合するアヴェンジャーの深層意識から流れてくる記憶から得たもの。






『同胞の死を、未来永劫、忘却の淵に落としはしない。
 おまえたちに身も凍る報復を。
 我が名は魔剣アヴェンジャー。
 復讐者の名のもとに、おまえたちに報復を』






エンハウンスとはまるで違う声色。思考レベルを上昇させた魔剣アヴェンジャーの、魂の叫びだった。

「死徒に対して、憎悪ともよべる敵愾心に燃える魔剣と片刃。
 『復讐騎』とは、二対の剣をもって冠される称号なんです」

復讐者の由来をシエルは静かに締めくくる。

エロス全開の狐に壮絶な重い過去があった。その事実に、アルクェイドは同情をせずにはいられない。

「そうだったんだ。 だから志貴は、ロアとの決着をエンハウンスに譲ったんだね」

「あいつがどうしてもっていうから、譲っただけさ。
 俺、あいつの頼みはなるべく聞いてやりたいんだ。
 ロアは、あいつの家族の敵だからな」

エンハウンスの故郷を襲ったブラックモアと死者の群れ。それをけしかけたのはロアだった。

真の敵をまえに、エンハウンスはゆっくりと近づいていく。

「なんだ、この不確定要素は!?
 何故計算どおりにいかない?
 何故私のおもいどおりにならない!?」

ロアは、尻餅をつくと叫んだ。

すべての駒は手の平の上。すべて自分の意図で支配できるとおもっていた。

だが、アルクェイドには拒絶され、アヴェンジャーは取り返され、

揺るぎのない計画にヒビがはいるとき、ロアの精神は再び幼稚なものとなる。

「いつもそうだ。
 極東の国では志貴に邪魔をされ、今度はおまえか!
 何故私の邪魔をする?
 私の愛を、何故邪魔するんだ?
 どいつも、こいつも、あいつも、何故、私の深い愛がわからない!?」

「世間は計算通りにいくことばかりじゃねえ。 不確定要素なんて日常茶飯事だ。
 おまえのいう『愛』ってよ、どこかが致命的にずれているぜ。
 嫌がる相手をつかまえて、むりやり押し付けるもんじゃねえだろうが」

狂気の愛を必死で説くロアに対し、エンハウンスはばっさりと切り捨てる。

ロアの発祥はたしかに、純粋なアルクェイドへの好意だったかもしれない。

だが、彼の邪な精神は純粋な想いを捻じ曲げた。

それが悲劇のはじまりだった。

他人の命を奪い尽くし、決して手の届かぬ相手を追いかけつづける。

永遠に繰り返す負の連鎖は、この世に多大な不幸を招く結果となった。

「そろそろ年貢の納め時だな。 ロア、おまえはやりすぎた」

エンハウンスの両手が、先端が四角い剣の形状に変化した。

エグゼキューショナーズ・ソード。

罪人の首を落とすため、その剣に切っ先は不要。

有機素体と体細胞が融合したその切れ味は、柔軟にして強靭である。








同時刻。

地面が途方もなく巨大な広さと深さで、円形状に削り取られた大地。

そこに蠢く人影があった。

「いたた……。 あ、ありゃ、あたし、まだ生きてるっぽい?」

気絶して仰向けに倒れていたスミレは意識を取り戻した。

気が付けば、巨大隕石が落ちたようなクレーターができているではないか。

スミレは同時に凄まじい頭痛を覚えた。

アルトルージュの滅びの月と、シュトラウトの魔剣ニアダークの衝突で、凄まじい爆発があったことだけは覚えている。

「あ、ヴラド!」

スミレは隣でばたんきゅーしているヴラドに気が付いた。

意識のない彼の頬を、スミレの左手がびしばしビンタしまくる。

「おきろヴラド! しっかりしろよ、おきろー!」

「……ウォーター・ボトル。 痛すぎるからやめてくれないか?」

意識をとりもどしたヴラドは、ビンタで真っ赤になった頬をさすり、現状を確認する。

惨状とよぶにふさわしい、跡地であった。

彼が気になるのは、アルトルージュとシュトラウトの行方。

いったい、何処にいるのか。




「リィゾ、起きて……。 おねがい……」



遠くのほうで、すすり泣く声が聞こえる。

ヴラドは走った。クレーターのなかで、自分たちのいた南側とは逆方向に聞こえる。

行き着いた先に彼を待ち受けていたのは

「リィゾ。 私より先に逝ってしまうの……? いやよ、そんなの、いや……」

金髪をとりもどし、正気を取り戻したアルトルージュと、その膝枕で死んだように眠る、シュトラウトの姿だった。

呆然とするヴラドの後に続いて、スミレもその場に駆けつけた。

彼女は眠るシュトラウトを見た瞬間、血の気が引いた。

「あんたまで……。 そんな……」

シュトラウトを抱いたまま泣き崩れるアルトルージュは、顔を上げるとヴラドにようやく気が付いた。

「フィナ。 おねがい、リィゾを助けて……」

赤い瞳を潤ませ、アルトルージュは必死で懇願する。

ヴラドは主の願いを叶えたかった。だが、それはできなかった。

「姫様。 リィゾは、姫様を救うために死力を尽くしました。
 魔剣ニアダークの能力を極限まで高めるため、リィゾは全てを使い果たしたのです」

シュトラウトの顔は、まるで彫像のように生気が感じられない。

夜風でゆれる彼の前髪だけが、生きていた証のように揺らめいている。

ヴラドは断腸のおもいで、顔を伏せた。

自分ができることは何一つないという、苦渋の意思表示であった。

アルトルージュも最初から理解はしていた。

もはや、シュトラウトの精神は完全に崩壊し、生ける屍になってしまったことを。

彼の墓標のように、地に魔剣ニアダークは、雄々しくつきささっていた。

もはや戻ることのない男を抱き、アルトルージュの涙はとめどなくあふれる。

「リィゾ、ごめんなさい。
 あなたは、私のそばにいつもいてくれた。
 私が挫けてしまいそうなとき、あなたは口数こそ少ないけど励ましてくれたわ。
 でも、私はあなたの想いに応えられなかった。
 あなたはいつもそばにいてくれるのに、私は届かない人たちのことばかり追いかけて……。
 リィゾ。 私、あなたに謝りたいの」

物言わぬ男に、少女は語りかける。

「あなたは、私の大切な人よ。 おねがいだから、起きて私に返事をして……」

アルトルージュの謝罪だった。

朱い月。エンハウンス。

届かない者たちに囚われていたとき、影から自分を守ってくれていた騎士。

彼の誠実さに気づいた時には、遅すぎた。

シュトラウトを抱きしめ、アルトルージュは誰の目にもはばかることなく泣いた。

傍らでヴラドは耐えていたが、体を震わせていた。隻腕のスミレは、張り裂けそうな悲しみで涙をこらえられない。

「……姫様。 僕は蛇を討伐します」

ヴラドは突然、悲しみを振りきるかのように宣言する。

「なにいってんのよ? ヴラド、あんたはアルトちゃんの傍にいてやれよ!」

「リィゾの敵をこのまま放置しておくことなど、僕にはできないんだよ。 姫様、申し訳ありません」

ヴラドは、悲しみにくれるアルトルージュに深々と頭を下げた。

スミレはアルトを放っていってしまうヴラドに怒りを覚えたが、すぐに消えた。

彼の金色の双眸が輝いていた。

リタ、ヴァン=フェム、シュトラウト。逝ってしまった者たちへの哀悼と、ロアに対する義憤が彼を動かす。

ヴラドはひざまずくと、シュトラウトに語りかけた。

「リィゾ。 君は、姫様の最高の守り手だった。 そして僕の、永遠の友だよ」

一厘の薔薇をシュトラウトの遺骸に捧げ、ヴラドとスミレは居城へむかう。

彼らが去った直後、魔剣ニアダークの刀身に、一本のながいヒビがはいった。







エンハウンスの、蛇を狩る剣。

「もう、転生ごっこはお終いだ。 じゃあな」

勢いよくふりあげられたエンハウンスの剣は、因果の鎖を断ち切る。

「フ。 フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

ロアは突然笑った。

「ハハハハハハハハハハハハハ!
 勝ったつもりか!
 鬼の首をとったつもりか?
 ハハハハハハハハハハ! ばかめばかめばかめばかめばかめばかめばかめばかめぇ!!
 おまえはどうしようもないほどバカだなぁ!!」

立ち上がったロアは、虚勢にしかみえない笑いを振りまき、手をたたいて喜ぶ。

突然のことに、エンハウンスは戸惑った。

「なんだ、気でも違ったか?」

「甘いんだよおまえは!
 ネクロスの役割はすでに終わっているのだ!
 ゲートを構築できた時点でなあ!」

ロアが指をさす天井近く、紫の光と混沌がうずまく、ブラックホールのようなものがあった。

その闇は底がみえず、全てを飲み尽くすような暗黒が漂う異空間。

「ハハハハハハハ!
 The dark six とは、月のアリストテレスが宝石の老人に滅せられたとき、この星に残した六つの道標!
 アルトルージュが空想具現化を行使した際に生み出したエネルギーが、固く施錠されたドアを開ける鍵となった!
 もう何をしても遅い!
 姫君は確実に私のものだ! 残念だったな!」

ロアの高笑いが意味するもの。

それは、朱い月の復活であった。

「さあ、姫君こちらへどうぞ! 吸血衝動は限界に近いのでしょう!」

ロアの悪夢に近い手招きに、アルクェイドは震えた。

再びおそってくるロアの邪悪な誘惑。

だがアルクェイドは、もう負けない。

「お断りよ! 絶対、あんたなんかの女にはならない! 死んだってならないわよ!」

「ならば仕方ありません。 力づくでも」

「おいこら、無視すんな」

アルクェイドに迫ろうとしたロアを、エンハウンスの処刑の剣が粉々に切り裂いた。

魔剣との融合で繰り出される斬撃は、目では追えない流星の速さ。

「てめえは自分の実力をよくわきまえろ。 姫君はおまえ如きじゃ手におえないぜ」

だがロアの復元呪詛は、悪魔のようにしつこい。

すぐに五体をとりもどすと、エンハウンスを睨みつける。

「実力か。 そんなに見たければ見せてやる」

ロアの右手から、水蒸気が凝縮されていく。そこから具現されたものは、志貴を驚かせた。

「あれは、スミレさんの……!?」

水で形づくられた槍。それは紛れもなくスミレの水分子操作能力。

さらにロアは左手から、薄紫半透明の空間を全身に纏わりつかせるように展開した。

「化け鴉の、固有結界じゃねえか……!?」

驚く二人の様子がたまらなく可笑しいのか、ロアは絶対強者の高みから、志貴たちを見下ろす。

「これが実力だ。
 ネクロスにThe dark sixの保有者、そのDNAサンプルを吸収させ、私にも還元させたよ。
 つまり、私はこの星の因子の操作、その全てを統括する
 第六の権利、『ガイアに対する支配権利』の保有者となった!」

ロアの高らかな宣言は、絶望への片道切符。

さっきまでの弱腰とはまるで違う邪悪な自信をみにつけ、悪魔は笑う。

「野郎でたらめだぜ。 志貴、やっぱり手を貸してくれるか?」

「言ったことはやりとおせとか、そんなこと言っている場合じゃないみたいだな」

志貴の七つ夜が、刀身を光らせる。

エンハウンスは右手から大剣を隆起させ、ホルスターから聖葬法典をとりだす。

立ち向かおうとする二人の背中。

無限転生者の悪意から、アルクェイドを守りきれるのか。

第七聖典を構えるシエルは、紅い男の背中を、ずっとみていた。


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