月影后Act.7


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1: アラヤ式 (2003/12/05 00:32:00)[mokuseinozio at hotmail.com]

棺のなかの蛇がみた、つかの間の夢。



―― 蛇よ。 きさまのすすむ道にわずかながらの希望があることを願おう。



混沌の男は、一言を残し消えた。 予言か、悪夢か。

「案ずるなネロ・カオス。 希望には困っていないさ」







「ふぇぇん、姫君、申し訳ありません。 僕は汚れてしまいました……」

「メレムくんシケてちゃだめだぞ〜♪ 何がそんなに悲しいの?」

「君のせいだよ!!」

半泣きのメレムは、隣の頬が艶やかにテカってる酔っ払いスミレにキれた。

彼は今日、自分の大事なものを失ってしまった。

「……ぐすん。 大体、なんで流れ者の君がこんなところにいるのさ」

涙をふき、メレムは尋ねた。

水棲の死徒であるスミレが、陸上にいること自体不可思議なことである。

「アルクちゃんにヘルプミーコールもらったからとんできたんだよ♪ 姫様には返しても返しきれない借りがあるんだわ。
 それと」

言葉を続けようとしたスミレの顔から、陽気が失せた。

「オーテンロッゼの、命とりにね」

身も凍る殺気をスミレは放つ。

彼女は忘れているわけではなかった。リタと、ヴァン=フェムの敵である、殺しても殺し足りない死徒への報復を。

「スミレ。 残念ながらオーテンロッゼは死んでるよ」

「え?」

「オーテンロッゼの中身は、ロアだったのさ」

「うそ、でしょ?」

「真だよ」

メレムの告げた真実は、スミレをどん底の淵に叩き落した。

「……そんな、ちくしょう! それじゃなんなのよ! リタが信じたのも、ヴァン爺が体張ったのも、全部ロアの……!?」

「ウォーター・ボトル。 残酷だがそれならば合点がいくのさ。  
 今までの辻褄の合わないパズルが一つになる。
 蛇め。 まさか姫様に残る傷を、抉り出そうとしているのかな?」

スミレに一発食らわされていたヴラドが,いつのまにか復活した。

ヴラドはヴァン=フェムの遺言を、忘れていない。

オーテンロッゼの皮をかぶった蛇。

ホ○の再登場にメレムは再び危機感を覚えつつも、ヴラドの冷静な分析に同意していた。

「そうだろうね。 ロアのえげつなさは君たちも知ってのとおりだと思うけど、
 奴は目的のためなら手段はいちいち選ばない」

真の敵を認識したヴラドは指をならすと、幽霊帆船を一隻具現する。

ゴーレムとの戦いで消耗しきったヴラドには、これが精一杯の力だった。

「ヴラド、あたしも連れてけ! リタとヴァン爺の弔い合戦だっ!」

「もちろんだよ。 メレムくんも乗っていくかい?」

「結構。 ていうか君の船には死んでも乗りたくないし」

ヴラドは残念そうに天を仰ぎ、船に乗り込む。スミレもあとに続いた。

天に飛び立つ古びた船は、居城に向かう。

ただし、ヴラドの腹部に、おおきな血のしみができていたことに、スミレは気付かない。




お父さん。 お母さん。 故郷のみんな。

ごめんなさい。 

ロアはまだ、生きていました。

私は討ちます。

今度こそ、今度こそあの男を。

第七聖典のメンテナンスは万全。黒鍵の数も問題なし。




「アルクェイド、いきますよ」





八百年。

長かったな。

志貴が断ち切ってくれた連鎖、まだつながってたんだね。

でも、もう終わりにするよ。

吸血衝動に支配されてもいい。 あいつを殺せれば、それでいい。




「私は問題ないわ。 シエル」




アルクェイドは鍵爪をたて、シエルはナイフを構えた。

もはや彼女たちにネオは敵にすらならない。

城の地下深く、もはやそこで行われる悪事は周知の事実であった。

螺旋階段の行き着いた先にあった地下の実験場。

エンハウンスが魔剣を奪われ、ロアの脅威ともいえる復活劇のあった舞台。

鋼鉄の扉を叩くように押し開け、二人は突入した。

「姫君。 ようこそ」

アルクェイドが前に突入したときとは、様変わりしていた。

正方形の壁でかためられた部屋は、何一つ余計なものがない無機質な空間。

ネオの培養管も、培養プールもない。

あるのは床に描かれた巨大な白の六芒星と、中心にある真っ黒な肉の塊。

コントラストで彩るように、傍らには白マントの魔術師、ロアの姿があった。

「部屋はきれいに掃除しましたよ。
 姫君がいつ、私の元へお戻りになられても恥ずかしくないように。
 やはり私たちは離れられない運命の下にあるのですね」

「いい加減にしてよ。 気色わるい」

ロアはアルクェイドの罵倒にも全くこたえている様子がない。

にやにやと白い肌にも浮き立つような真っ白な歯を見せ、恍惚の表情をみせる。

アルクェイドは背筋が寒くなるのを感じた。

怖い。

今までロアとの戦いで恐怖を覚えたことなど、一度として彼女にはなかった。

だが目の前の魔術師は、なにか不安定な得体の知れないものを感じる。

アルクェイドの背中に、冷や汗のしみができる。

「ひゃっ!」

「ここまできて何をびくついているんですか。 しゃきっとなさい!」

緊張で固まっていたアルクェイドを解き放ったのは、背中をぱんと叩いたシエルの一言だった。

シエルはナイフをを構え、ロアを睨む。だが当の男は歯牙にもかけず、アルクェイドを見つめつづける。

「そうそう、姫君申し訳ありません。
 あちらの壁の周りは、少々散らかっていますね。 黒の姫君はまったく、加減を知りません」

「あんた、アルトルージュに何をしたのよ!」

「あなたが気にすることではありませんよ」

部屋の左側面の壁に、巨大な穴があいている。

散乱した瓦礫の多さが、穴をあけた力の大きさを如実に物語っている。

「ロア。 輪廻の輪、今度こそ断ち切らせてもらいますよ」

「フ。 あいにくだがエレイシア、私はおまえに興味はない」

「あなたに興味はなくとも、こっちはいろいろと大有りなんです……!」

シエルはすぐに強靭な踏み込みで、ロアに突進した。

ロアは呪文を詠唱すると、電撃による壁を作り出す。

エンハウンスの聖葬法典を防いだバリアに向かって、シエルはナイフをつきたてた。

「感電死したいのか? 愚かな」

「そっくりお返しします」

嘲笑するロアの背後に、目にも止まらぬ速さでアルクェイドが侵略していた。

「消えてよ!!」

アルクェイドの空想具現化、巨大なチェーンが地面から飛び出し、ロアの五体をあっという間にバラバラにする。

シエルは巻き込まれぬうちに、後方にジャンプして退避する。

彼女の手袋は電気絶縁樹脂製のものであり、ロアが『雷』属性の魔術師だと見越しての装備であった。

血の雨と化したロアは、肉片の雨粒を降らせて消える。

「これで終わり、なわけないわね」

あまりにもあっけなさ過ぎる最後。

当然のことながら、アルクェイドとシエルは警戒を怠ってはいない。

周りを見渡すが、ロアの姿はない。

「素晴らしい! やはり貴方は完璧だ!!」

アルクェイドはとっさに振り向いたが、遅かった。

彼女よりも早く、部屋の中心にあった黒い肉隗から、黒鉛色の鞭が伸びた。

最初の一撃をアルクは体を反転させてよけた。

次々と連続で襲ってくる刃は、シエルにかまわずアルクェイドしか狙っていない。

彼女は紙一重で肉の刃をよけつづける。

「こんな単調な攻撃で私を仕留めるのは不可能よ!」

アルクェイドが肉隗の本体に攻撃を加えようとした瞬間、

「うあ……!?」

まったく逆の方向、後ろの壁から飛び出した一本の刃が、彼女の心臓を貫く。

黒鉛色の鞭は同時に鋭い剃刀のような刃でもあり、アルクェイドのハイネックを血に染める。

「アルクェイド!」

シエルは黒鍵を取り出し、アルクェイドを拘束している肉隗に投げつけた。

火葬式典の発動で、肉隗の鞭は焼き払われてアルクェイドは拘束を逃れた。

アルクェイドは力の供給を胸部にまわし、心臓の再構築を促す。

「反射神経! 身体能力! 霊的ポテンシャル!
 大自然が与えし抑止力の代弁者としての力!
 姫君、あなたはまさに完全そのものだ!
 美しい! なんと凶悪なまでに麗しき姫君!
 歓喜とはまさにこのことです!」

喜びの台詞を吐き、霧のように飛散した体からロアは驚異的な再生を果たす。

「あんたこそ何なの。 そのでたらめな復元呪詛は」

「お忘れですか? ネオという駒を造ったのは私ですよ?
 オーテンロッゼの標準的な死徒の肉体で、私は到底満足しません」

ロアは服装をオーテンロッゼの装いとは違うものに復元していた。

丸眼鏡に長い金髪、蒼い神父の服に身を包むヴラドを彷彿とさせる優男。アルクェイドを唖然とさせる。

「姫君にはこの姿のほうが馴染み深いことでしょう。 これでも私なりに苦労しているのですよ」

初代ロアの装い。これもアルクェイドに対する、効果的な揺さぶりである。

「オーテンロッゼの肉体は、私の魂魄を受け入れるにはいまいち馴染みませんでした。
 精神分裂症に似た障害に悩まされていまして、思考レベルを一定にすることが難儀なのです」

「知らないわよ。 あんたの苦労話なんか聞きたくない!」

ロアは指を軽く鳴らした。

黒い肉隗がぐにゃぐにゃと変形し、黒鉛色の魔剣アヴェンジャーの姿にもどる。

背後に空間のゆがみが発現し、そのなかを渦巻く光と闇が混沌を極めていた。

魔剣アヴェンジャーの六つの眼が刀身に浮きでた。

「姫君。 私はあなたが欲しい。 だが」

眼の一つ、六つ眼の左下が光った。

「非常に由々しきことですが、あなたの心はニンゲンに囚われている」

魔剣に宿る圧倒的な容量の魔力。シエルはその桁外れのポテンシャルに驚愕する。

部屋の粒子をかき集め、エネルギーを取り込む様は、アヴェンジャーがありとあらゆるものを『飲』むようにみえた。

「あなたを縛る心の鎖、私が解き放して差し上げましょう」

「ふざけないでよ。 わたしは縛られてなんかいないわ」

「いいえ。 あなたはシキというニンゲンに縛られ、
 高潔な使命も存在価値も、あまつさえ命もドブに捨てようとしているのですよ」

「違う! 違うわ! そんなことない!」

アヴェンジャーの六つ眼、右下が光る。

「私はあんたが思い込んでいるみたいに完璧なんかじゃない。 いいえ、完全生命体なんて存在しないわ。
 私は、志貴が教えてくれた無駄が好きよ。 
 意味のないことがとても大事だし、志貴はそんな私が好きだって言ってくれた。
 私は縛られてなんかいないわ!
 今ここで、自分の意志であんたと戦うんだから!」

アルクェイドは、全ての思いを吐き出した。

肩をふるわせて、それでも自分の思いをはっきりというアルクェイドの姿に、シエルは感銘を受けずにはいられない。

真祖としての役割だけに徹していた彼女が、ここまで変わるとは。

彼女の決意を最後まできくと、ロアは力が抜けてしまったかのように俯いた。

「姫君……。 哀れな……」

ロアが、泣いた。

赤い瞳から零れ落ちる魔術師の涙。嗚咽とともに紡がれる。

アルクェイドも、シエルも、突然のむせび泣く男の様に、唖然とするほかない。

その涙は彼の頬にとめどなく筋をつくりつづけ、彼が眼鏡をあげて、涙をふいても収まらない。

「うぁぁぁ、うぁぁあああああああ……!  私には耐えられません……! 
 あなたが奈落の底へ落ちていく様を、黙ってみていろというのですか!?」

膝をついたロアは、そのまま顔をおさえて泣き崩れる。

演技ではなかった。策謀でもなかった。

心の底から溶け出した邪悪なカタルシス、ロアから流れる滂沱の涙はやまない。

ロアは本気で心の底から哀れんでいる。もはや、アルクェイドは硬直したまま、絶句するしかなかった。

「……いい加減にしなさい。 そんな見苦しい涙を見せて、傲慢にも程があります」

ロアのむせび泣きがこだまするなか、さえぎるようにシエルは吐き捨てた。

体を震わせ、彼女は怒りを露にする。

「『奈落の底』? 何を寝言いっているんですか。
 アルクェイドはあなたと違って、自分の意志で未来を決めているんです。
 彼女にとっての地獄とは、あなたが存在しつづけること以外にあり得ません。
勘違いしないでください」

「……エレイシア。 おまえに姫君のなにがわかる」

膝をついたロアは顔をあげると、涙の残渣を残したままシエルを睨みつけた。

激しい憎悪。

「わかっていないのはロア、あなたです。
 縛られているのはアルクェイドではありません。
 邪な愛をおしつけるあなたの薄汚れた心こそ、がちがちで錆だらけの鎖に縛られつづけているんですよ」

シエルがロアに浴びせる断罪の杭であった。

ロアはゆっくりと立ち上がり、その額に紅い血管を浮き立たせる。

彼がはじめてみせる、憤怒に燃えた様相である。

「エレイシア。 私は今日もう一つの感情を思い出したよ。
 『怒り』だ。
 おまえのような利用するしか価値のない残りかすに、ここまで罵倒されるとは心外だ。
 私と姫君の語らいに、土足で踏み込む野蛮な女め」

「自分の邪心を一方的に吐露することを『語らい』というんですか? 救えないほどトチ狂ってますね」

ロアはシエルに向けて呪文を詠唱すると、空気中に帯電する原子の収集をはじめた。

シエルに向けられる殺意は、固有結界『過負荷(オーバーロード)』。

肉体と精神に強烈なダメージを与える結界、ロアの魔眼がシエルを狙った。

「よく言ったぜ。 シエル、おまえいい女だ」

かざしたロアの右手が、炸裂音とともに二の腕から吹き飛んだ。

薬莢がおちる。デザートイーグル二丁を構えたエンハウンスが、シエルの危機を救う。

「半人半死徒への招待状は、すでに期限切れだが?」

「うるせえぞガイキチ。 屁でもこいて寝てろ」

エンハウンスはデザートイーグルの弾丸をすべてロアに浴びせた。

ロアはとっさに電撃の壁をつくり、弾丸を全てはじいた。

エンハウンスは空になった二丁拳銃を捨てると、銀色に光るショットガンをすかさず抜く。

むけられた銃口に、ロアはわずらわしそうにため息をつく。

「うっとうしい奴だ。おまえはゴキブリか?
 オベローンはおまえのようなものを、『イレギュラー』とよんでいたが、まったく迷惑甚だしい」

魔剣アヴェンジャーの制御をといたロアは、攻撃目標をエンハウンスに移し変える。

刹那、アヴェンジャーの塊を、長四角に切り取られた壁の塊が押しつぶした。

「……おまえもか。 姫君を惑わす毒、遠野志貴!!」

ロアの咆哮を浴びせると同時に、ナイフを構える少年。

「言ったはずだぞ、ロア。 アルトルージュにつきまとうな。 アルクェイドに手をだすな……!」

蒼い双眸の死神が、再び無限転生者の前にあらわれた。







「……姫……様」

シュトラウトは、城の外、森が囲う裏庭にいる。

真っ黒い髪をたなびかせる魔王、アルトルージュ・ブリュンスタッドが、長身のシュトラウトの首を片手で捕まえていた。

シュトラウトは、一切抵抗しなかった。

アルトルージュを傷つけてしまうのを、心底恐れていたからである。

「ん? あれは、アルトちゃん、なの……?  ヴラド! シュトラウトがやばいよ!」

「リィゾ!?」

帆船の甲板から頭をひょっこりだしているスミレは、修羅場を目撃する。

アルトルージュの右手から、蒼白い閃光がシュトラウトを巻き込んで爆発した。

彼の体は粉々に消し飛ぶ。

時の病の発動で、シュトラウトは再び傷一つなく再生される。

「シュトラウト!」

スミレは甲板から飛び降りると駆け寄り、倒れたシュトラウトを抱き起こす。

「だめだよ! あんたがいくら再生するつっても、受けた痛覚はそのままなんだろ!?
 このままアルトちゃんの攻撃受けつづけたら精神崩壊起こして、再生するだけの屍になっちゃうぞ!!」

「……はなせ」

「アホたれ! 死ぬ気かよ!」

シュトラウトはスミレの警告に全く耳を貸さない。

ふらふらのシュトラウトをスミレは止めようとした。だがそれをヴラドは制す。

「フィナ。 ヴァン=フェム殿とは決着をつけたのか?」

「ああ。 人形師は、逝ったよ」

「そうか。 ならば私も、おまえやブライミッツ殿にばかり、負担をかけるわけにはいくまい」

すでにふらふらの体に鞭をうち、シュトラウトはたつ。

黒髪のアルトルージュは、その様子をただみつめていた。

彼女の威圧感は時間をおうごとに増していく。

漆黒の『朱い月』。

アヴェンジャーに吸血衝動を増幅されたことによって、アルトルージュは第二段階に移行している。

吸血衝動の増幅、それはすなわち月の王にちかづく早道である。

シュトラウトはゆっくりと、飲み込むように語り掛ける。

「姫様、たしかにあなたは、お父上の幻影にとらわれていました……」

「リィゾだめだ! それを言ってはいけない!」

シュトラウトの語りかけを聞いた瞬間、アルトルージュの表情が紅く染まった。

アルトルージュは残像をのこすほどのスピードで消える。

ヴラドとスミレですら、彼女の速さに目が追いつかない。

しばしの静寂。

ふっと、空気が押し戻されたように、再び蒼い閃光がほとばしった。

アルトルージュはシュトラウトの真上、上空にとんでいた。

艶やかな髪は風でたなびき、異様なまでの美しさをはなち、アルトルージュは右手をかざした。

三人の死徒にむかい、アルトルージュが放つ攻撃。

夜空の月とは別に、蒼白い巨大な月が具現される。

「ヴラド、あれ何さ!?」

「姫様の空想具現化、『滅びの月』だ。
 有効範囲は直径十m強、目標を、空間ごと反物質作用で消滅させてしまう」

「うそ、激やばいじゃん! ……あれ?」

スミレは咄嗟に、水のバリアを張ろうとする。

「あれ? うそ? なんで?」

水が召還できない。

スミレの攻防の要、水分子の操作が一切できなかった。

だが滅びの月は肥大を続け、飲み込もうとする。スミレは咄嗟に切り替え、自身も空想具現化を展開した。

「あたし単体の空想具現化は慣れてないんだよー! 消されちゃうー!」

「それでもいい! ありったけの力を振りしぼりたまえ!!」

ヴラドも固有結界バレードを展開し、二重のバリアと滅びの月が衝突した。

ポテンシャルの違いが、如実に現れた。

滅びの月の圧倒的なパワーに、空想具現化もバレードも、地面ごと押しつぶされていく。

スミレとヴラドの顔に、苦悶の色が浮かぶ。



「姫様、あなたは強い御方です。
 父上の呪縛から、あなたはとうの昔に解き放たれているではありませんか!」



シュトラウトの右手に、魔剣ニアダークが発現する。両手持ちに切り替え、構える。

「ニアダーク。 私の生命を全て、おまえの生贄に捧げよう……」

「シュトラウト、あんたなにすんのさ!」

「リィゾ、まさか」

シュトラウトは強靭な跳躍をみせると、滅びの月に斬りかかった。

「姫様を、救う力を私に―――――――――!!」

滅びの月に、暗紫色の魔剣ニアダークが突き刺さる。

すさまじいエネルギーを秘めた球体に、亀裂が走る。

大爆発が起こった。

滅びの月の反物質と、魔剣ニアダークの極限まで増幅された超振動が激突。行き場を失った破壊力は周りを全てのみ尽く

した。

その光は、ネオの集合体を撃滅したブライミッツ・マーダーとゼルレッチの元にも届く。

「なんということじゃ……」

―― ア、アルトルージュサマァァァァァァァ!!

魔犬の慟哭ともいえる遠吠えが、空しく響く。







「きた。 時はきたぞ」

爆発の余韻は地下の実験場にまで響いた。ロアはそれに気付くと、歓喜にもえる。

「フハハハハハ! 集まったぞ! みろ! ネクロスの六つの眼が全て輝いた! ここからだ!」

ロアの横で、もだえるように蠢くアヴェンジャーの肉隗。

その後ろに巨大なブラックホールのような空間が広がった。

七つ夜を握りしめる志貴は、ロアの企みを未だ知らない。

「おい、おきろクソ家畜! ご主人様が迎えにきてやったぞ!」

エンハウンスは大きく息を吸い込むと、凄まじいボリュームの怒鳴り声を浴びせる。

「フ。 無駄なことを。 ネクロスの意識は私の支配下にある」

「情けねえ奴だぜ。 サイコ野郎の『下僕』になっちまったのか? てめえは俺の得物だろうが!!」

魔剣アヴェンジャーの刀身が、わななきだした。

「おい、ご主人様……。 黙って聞いてりゃ言いたい放題ぬかしくさりやがって〜〜〜!!」

「何度でも言うぜ。 やーい下僕。 くそ下僕。 犬に踏まれて死ね下僕」

エンハウンスは小ばかにしまくった。

「この2003年度ベスト・アニマルに選ばれたほど愛らしい僕ちんを、『下僕』よばわりするたぁよ〜〜〜!!
 てめえの汚ねえケツの穴、犯して掘ってやりまくるぞコラァァァァァァァァァ!!」

下品な口上をたれて、アヴェンジャーは再び蘇る.

ロアは驚いた。

オベローンの実験室で、培養液のなかで育っていたアヴェンジャーに、ここまで強い自己意思はなかった。

エンハウンスの呼びかけ一発で、ロアの制御を解いてしまった。

アヴェンジャーは四足歩行形態に姿をかえると、エンハウンスの手にもどり、大剣になる。

造反した魔剣を、ロアは睨みつける。

「ネクロス。 おまえ、私をうらぎるつもりか?」

「ゲキャキャキャ!! うぜえよ鶏がら!!
 僕ちんの絶倫道を邪魔する奴は盟友だろうと切り刻んでやるぜ、腐れインテリぃ!
 ご主人様、あのメス真祖を僕ちんに『飲』ませろ!
 ガイアの最強種を犯して取り込めば、あんな鶏がら一発でノしてやるぜ!?」

「いいや。 おまえが飲むのは姫君じゃねえ」

エンハウンスは魔剣をかかげると、笑った。

「俺を『飲』め。 魔剣アヴェンジャー」

次の瞬間、彼は魔剣の切っ先を、自分の胸に突き立てる。


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