◇―月下錬金―◇ episode01前編 


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1: キクロウ (2003/11/10 23:56:00)[sadaharu at enjoy.ne.jp]

◇―月下錬金―◇ 
episode 01 /新しい力






――――夢だ!こんなの夢に決まってる!!




無人のはずの廃工場
コンクリートは剥き出しでところどころ壊れている
原型を半分ほどしかとどめていない建築物
少年は物陰に隠れ目の前のモノを否定する



――――じゃなきゃ、あんな怪物、在るはずがない!!



こんなイカレた眼は持っているけど、あんな怪物実際に存在するはず無い
あんなデカイ蛇みたいな怪物!!

よく考えろ!!!よくモノを考えろ!!

スゥースゥーハ―

深呼吸をして自分を落ち着かせてもう一度、怪物を見る


「(・・・・・!?誰かいる?・・・・・・アレは)」

人がけらしきモノを見る
怪物の近くの人影

「(女の子?・・・・・まさかあの子気付いていない!?)」

女の子の直ぐ後ろに迫る怪物


まずい、アレに・・・・・・・・・・殺される!

ポケットに手を入れる、コツン、と冷たい感触がある
これは・・・・・確かナイフ、よし!これで


静かにメガネを取る、すると少年の目は青味を帯びて微かに煌く
ナイフをポケットから取り出し、バチンッ、と刃が飛び出す


「(これで・・・・・・なんとか・・・・・・・・!!!)」


怪物が少女めがけて大きな口を開き襲い掛かる!



「危ない!!!!!」



少年は勢いよく飛び出し

ドン

女の子を突き飛ばす

そして



ズガァ!!


「あ・・・・・・」

「!?」

怪物に胸を貫かれた


「しまった、巻き込んだ!!」






















「うわああッ!!!!!」

がばぁ

暗闇の部屋
ベットから勢いよくとびおきる

「はぁはぁはぁはぁはぁ・・・・・・・・」



ガララ
「うるせーぞ志貴!!!!!!」

「どうした?どうした?」

乱暴に部屋のドアを開けて隣室の乾有彦が言ってきて苦情を叫ぶ
それに続いて右隣の高田陽一も何事とはいってきた

「・・・・・・・・・・俺が殺された」

「はぁ寝ぼけてんじゃねぇのか志貴?今何時だと思ってんだ!」

「殺されんた・・・・・・・・俺が」

「だから寝ぼけるのは寝てからにしろってんだ!!!!!」


バコン!!
就寝中に起された苛立ちも手伝い志貴の意味不明な言動についに有彦がキレた
その結果、まだベットで呆けている志貴に、怒りの鉄拳が落とされた

「いてぇーーーーーーー!!!なにすんだ有彦!!!!」

「うるせぇ!!!てめぇが俺の睡眠を妨げるのが悪いんだ!!!もう一発くらえ!!」

ドガッ!!

ゴス!!

バコン!!

「おい二人とも暴れるなよ」



ヴィルルルル!誰にも気付かれず携帯が震える






ドタン バタン ザワ ザワ ゴン 
二人が暴れた結果被害は一回の女子の部屋にも行き渡っている

「ちょっとォうっさいわよ男子!!」
「どうしたん〜〜〜〜?」
「なんか二年生の人が暴れてるみたい」
「えーーーーー誰ェ」

「また七夜くんと乾くんかな、この声」




ドタン バコン ガス ドス 痛ェ!!













寄宿舎の外まで響く騒音
外では一人の少女が佇んでいる

パチン、少女は手にもっている携帯電話を閉じ収める
そして、静かに寄宿舎に振り向く

「・・・大丈夫そうね、といあえず今は感謝しなさい」



―――――――”錬金術”の力に―――――・・・・・・・・・・



























翌日
何事も無く学校に登校する
昨日のことはよく覚えていないが朝食の際に色々な人から
「昨夜、寝ぼけて暴れたんだって?」
なんて言われた
正直よく覚えていない、なんか気分が悪いと言うのだけは覚えている
でも、暴れたことは本当らしい、その証拠が食堂に現れた悪友の有彦が

「よくも傷物にしてくれたな!てめえが作ったんだぞこの傷、全て!!」

と叫び傷だらけの腹を見せた、しかし傷物にしたとは人聞きが悪すぎる
でも、怪我を負わせたのは事実のようだし素直に謝っておいた
しかし、まさか俺の拳が殺人拳まで昇華されてるとは恐るべし俺
昔から宗玄じいさんの暇つぶしに付き合わされて色々と変な武術を叩き込まれたからな
体は人一倍弱いけど、たぶん素人相手なら勝てるくらいの腕はあると思う、実践したことはないけど

まあ、そんなこんなで自分の新しい一面をいやいや発見させられた朝だった



「おっとのんびりとしていると遅刻するかな?」

朝のことを思い出しながら歩いている
寄宿舎から学校まで歩いて20分くらい、今日はちょっとのんびりし過ぎたかな?
あと5分で遅刻かくていだ、うちの学校はその辺は非常に厳しい
だからかもしれないけど、この時間になると、もう殆どの生徒は学校に着いている
こんな時間にまだ歩いているなんて俺か少し前を「私は怒ってます!」なんて雰囲気を出してる
我が悪友の有彦くらいだろう

「しかしよ志貴?」

「なんですかい有彦さん?」

不機嫌そうに見えた有彦が普通に話し掛けていた
でも、相変わらず前を向いたままだけど

「おまえ昨日、どんな夢みたんだ?尋常じゃなかったぞ、お前の顔」

「ん〜それがさぁ、痛いは恐いはで最悪の夢、おまけにハッキリと覚えてるし」

「へぇーそれで内容は?どんなモンだ?ゴジラにでも追いかけられたか?」

「違うよ、学校裏の廃墟、あるだろ?」

「ああ、オバケ工場ね」

「そう、そこに知らない制服の女の子がいて、変な怪物に襲われそうになったところを助けて――――」

「ふみふみ、それで?」

「ソレで―――代わりに殺された」

「はぁ?倒すんじゃないのかよ!はぁーまったくそんなオチか」

「そんなオチって、こっちは夢とは思えないほどリアルだったんだぞ」

「へいへい」


こいつは自分から聞いておいて、話をまったく信じちゃいない
でも、俺も半分疑ってる、だって殺されてるならこうして有彦と話なんてできない
けど後半分は、自分が死んでいく時にみた”死”を忘れていないせいで信じている
あの痛みはしってる、昔にあの死の痛みを知っていた気がする


「おい志貴、すこし走るぞ、この調子じゃ遅刻確定だ。もう点数ないんだよ俺」

「ああ、そうだな」

思考を中断して遅刻を免れるように走り出す
とは言ってみたもの、俺は幼い頃の事故の後遺症で激しい運動はできない弱い体になってしまった
おかげで年中貧血に悩まされている
でも、もう校門まで200メートルもないから大丈夫かな?


ダタタタタタッ

やばい、ちょっと胸が痛むかも


「やべッ!今週の門番、巳田だ!!急げ!!!!」

確かにやばい!巳田は一秒の遅刻も見逃さない硬い教師
遅刻となったら情状酌量の余地は皆無


はぁはぁはぁはぁ
久しぶりに全力で走る

「セ―――――――――フ!!!」


有彦が先に校門を抜けた、アイツあんに足速かったか?

「遅いぞ志貴!!急げ!!」

「無理言うなよ、コレでも全速力だ」


まったくその通り、これ以上無理をすれば一日中保健室だ


ハァハァハァ

「お!」

「あ!」

後ろから物凄いスパートを掛けてくる生徒がいた
その生徒は容易く俺に追いついた

「おはよう、弓塚さん、珍しく遅刻?」

「おはよう七夜君、遅刻なんてしないよ!まだ間に合うよ」

「そうだね、急がないとね」

タタタタタタ!!!
ほんとにハードな朝だ


「急げ志貴に弓塚!!」気楽に手を振る有彦、なんか頭にきた


キーン コーン 

ヤバイ、ベルが鳴り始めた
でも、大丈夫だろ


キーン

「セーフ!七夜くん?」(くるり)


カーン コーン

「アウト・・・・・・・・・・・・・・」

あんなに必死で走ったのに、もう意気が切れ切れだ
隣の弓塚さんも軽い酸欠だし

 ガァァアアア!!

!!校門の鉄扉が行き成り弓塚の頭めがけてぶつかってきた

「危ない!!」

咄嗟に弓塚を押し出し鉄門を手で止める

――――ドクン

「っう!」
胸が痛い

ガシャアアア ゴ
校門は盛大な音を立てて閉まった、どうやら間一髪で避けれたみたいだ

「おい志貴、大丈夫か?」

「七夜君大丈夫?」

「ああ、なんとか・・・・・・・」

閉まった鉄製の門を見て少し冷や汗が出てきた
こんなモノを勢いよくぶつけられたら、たまったものじゃない


「一秒遅刻、減点1!!」

教師の巳田が何事も無かったように俺たちに近付き減点を告げる
巳田という教師は堅物、生真面目、几帳面、と三拍子そろったお堅い教師だ
大半の生徒から毛嫌いされている、融通の効かない教師というわけで
だとしても、この状況でよくそんなことを言えるな、この教師は

「3で罰当番だ、覚えておけ」

「まってください、弓塚さんはセーフですよ」

「い、いいよ七夜君、それより早く保健室に!」

「アウトだ」

まるで最終判決を告げる裁判長みたいに、結果は変わらないといった風な言い方をする

「じゃ、弓塚さんの分も引き受けて、俺が減点2ってコトで」

「・・・・・・それならよかろう、もう行って良し」

「はい」

これで弓塚さんの減点はなくなった
俺の分の減点は増えたけど大したことはないし
このまま教室にいこう、別に痛むところはないから


「大丈夫か志貴」

「左手痛くない?七夜君」

「大丈夫だよ」

まあ、すこしヒリヒリする程度だから何てコトは無い筈だろう

「ちっ、相変わらず何考えてんのかわかんねー目してやがるな巳田の奴」

「し、聞こえるぞ有彦」


「待て」


ビクン!!

ほら言わんコトない、また呼び止められたじゃないか有彦
こんどはお前が減点だぞきっと、俺はもう減点2だからダメだぞ


「カバン・・・・・・お前、学校指定のカバンはどうした?」

俺のカバンを指差しながら巳田が言った
カバン?
あ、そうだった、今日は学校指定のカバンじゃなかったんだ俺

「すみません、朝起きたら見当たらなくて」

「なくしたのか、帰りはどこに寄った?」

「えーーーっと」


・・・・・あれ?どこだったけ
俺、どこかに寄ったか?


「・・・・・まあ、いい、減点3で罰当番だ、放課後に中庭の草むしりしろ」

「ええ!?」

「終わるまで帰るな、夜までかかっても構わん」

「えええ!?」

「予鈴が鳴った、行け、それともまだ減点がほしいか?」


これ以上はもうイヤです
急いで教室へ向かおう

「行くぞ志貴」

「あ、ああ」









・・・・・・・・・見ツ   ケタ・・・・・・・・・




























キーン コーン カーン コーン♪

四時限目の授業の終了を告げるベルがなる
はぁー今朝は夢のことや減点のことがあってちょっと、気の滅入る授業だった

「おい志貴、屋上いこうぜ、今日は高田様のおごりだ」

「ちょっとまてよ、だれが奢るなんて言った」

「俺が今言った、聞こえなかったか陽一君?」

「おまえなぁー!!」

「相手にしないほうがいいぞ高田、それより早く売店に行こう、いいものが無くなるから」

「そうだな七夜、っと言う訳で絶対に奢らないからな乾」

「オーーーショック!!」


この二人の漫才はある種このクラスの名物になりつつある
オチが今一なのは有彦のせいではあるが

早々に売店で昼食をかって屋上に向かう
天気のいい日は中庭か屋上で食べるのが定番

因みに昼食のメニューは山賊おむすび、から揚げ、蒼汁DX(微かにレモン味)である
どうも、有彦たちは俺が蒼汁DX(微かにレモン味)を飲んでるのを不思議な視線でみる
けっこう飲むと癖になる、どくとくの味があるのだが別に不思議と思われるものじゃないが
でも、売店のおばちゃんも、はじめてこれを買ったとき引きとめたっけ
でも体に良いと宗玄じいさんに飲まされた怪しい漢方薬よりかは、うまいぞ

「なんかよ―巳田のヤツ、最近おかしくねぇか?」

山賊むすびを食べていると早々とサンドイッチを片付けた有彦が話し始めた

「そうかな、僕は前から学校一とっつきにくい教師だと思ったけど?七夜はどう?」

「ん〜〜〜〜そうだなー・・・」

「あ、見つけた!」


言葉を遮るように一人の生徒が屋上に上がってきた
こちらにむかって声を掛けてきた

「オウ、弓塚じゃねーか、どうしたんだ珍しいじゃないか」

「うん、今朝のお礼を言いたくて」

弓塚は俺の目の前まで歩いて来て
目の前で立ち止まった

「今朝はありがとう七夜くん、それと罰当番私も手伝うよ」

「いいよ別に草むしりくらい、それに遅くなると危ないから」

「でも・・・」

「ならさ、俺の分の夕食をちゃんと取っておいてくれる?夕食に間に合わないかもしれないから」

「うん、わたった」

「頼んだよ」

弓塚さんは笑顔を向けて、待ってるからね、なんていって下に下りていった
弓塚さんはクラスでもアイドル的な存在らしいけど、あの笑顔をみると、ソレも頷ける
たしかに可愛いから、男子から人気がでるもの当然だ、それに性格もいいから女子からも人気がある

「どうした志貴?ぼーーっとして」

「ん?いや何でもないよ」

「まさか弓塚に惚れたか?」

「マジか七夜!!」

「ちがうって、適当なこと言うなよ有彦」

「いや嬉しいよ、女なんて興味ありませんってお前が弓塚にねぇー」

「俺は女の子にも興味を持つ健全な男だよ、変なこというな」

「ならやっぱり、弓塚に惚れてるんじゃないかよ」

「あのなーーー!!」

「ライバルは多いぞ七夜君よ、でも俺は応援するぞ」

「・・・・・・お前らここから落とすぞ」

「あははははっは、今日はめでたいな高田!」

「まったくだ乾」

はぁー、こいつらと乾杯なんかする二人
一緒にいると疲れる、昼休みで疲れてどうするんだ俺
せめて残りの時間はや済ませてくれ

「そういえば、今何時だっけ」

内ポケットから携帯電話を取り出して時間を確認する
屋上はくつろぐで昼食をとるにはいいのだけど、時計が無いから遅刻の可能性が大、という欠点がある

パカ、と折りたたみの携帯を開くと『メール1件』という表示がある
多分授業中にでもきたのかな?
とりあえず読んでみよう

『新しい命 大事にしなさい。』

え?
『新しい命


「・・・・・・・なんだ、コレ?」













「平和な街・・・・・けど、敵は必ず潜んでいる―――――――」







これはいじめだ、ボヤク声も空しい

放課後に直ぐに開始した罰当番の草むしり
中庭といわれたが・・・・・・・・・広いよ中庭
これは一人でやる広さじゃない、全校生徒でやる清掃作業の時に一クラスが任される広さだ
教室二つ分以上の広さはある確実に!
俺でも言われたからには何とかやり抜いた

ゼェゼェゼェゼェゼェ
いつ貧血で倒れても可笑しくないほどの重労働だった

「やっと終わった」


もうすっかり夜
暗い中、よくやったと自分を褒めてやりたいよホント

「うわ!もう、こんな時間、どーりで誰もいないはずだ、報告済ませて早く帰ろう」

校舎をぐるりとまわって玄関に向かう
昼間はさわがしいほど人がいるのに夜になると誰もいなくなってシーーンと静まり返る
キョロキョロと辺りを見渡すが・・・・・

「しっかし、夜の学校ってどうしてこう―――――――あ!」

学校の塀の向こうに見える建物
ボロボロになったコンクリートの塊

「裏山の・・・・・・オバケ工場・・・・」


『新しい命』


っう、思わず昨日の夢を思い出してい待った
思い出しただけでも震えそうな悪夢を


「なんか今日はロクでもない日だな、報告は明日にして早く寄宿舎に帰ろ」



「―――――どこへ行く?」














寄宿舎

「あれ、どこ行くんだ?」

「え?」

「こんな時間にどこ行くんだ弓塚?まさか志貴のお迎えか?」

「う、うん」

「偉いねぇ」

「それに、もしまだ罰当番が済んでなかったら、やっぱり手伝おうとおもって」








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