月影検Act.9


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1: アラヤ式 (2003/08/17 16:58:00)[mokuseinozio at hotmail.com ]

「リタぁ……」

「スミレ……」

予想だにしなかった再会に、歓喜の涙を流す二人の死徒。

しばらくリタと抱き合っていたスミレは、なぜか鼻をクンクンさせる。

感動の出会いに涙していたリタは、犬みたいなスミレの行動に、徐々に顔をしかめる。

スミレは、鼻をつまんで一言。

「う〜ん。 化粧くさい」

お貴族さまの右コースクリューブローが、スミレの頬に炸裂した。

/1.

「いった〜。だって、リタの厚化粧は鼻にしみるんだもん」

「おだまり。 この酔っぱらい」

いい雰囲気をぶち壊しにされ、リタはトサカにきていた。真っ赤に腫れたホッペをスミレは痛そうにさする。

泉のほとりで、リタとスミレは仲良く座っていた。

今は怒っているリタも、本当は嬉しくてしかたがない。

スミレに、また会うことができたのだから。

「スミレ。 どうして、ここにきたの?」

「あ、うん。 遠野たちを城に送ってからさ、なんとなく気になって来てみたんだよね。 そしたらリタがいた」

「なんだかお粗末ね。 あなたらしいわ」

リタは、安心したように微笑んだ。

スミレは、あの日から何もかわっていなかった。相変わらず24時間泥酔状態に、陽気で粗忽ないい加減さ。

何一つかわっていなかった。

「いいわね。 あなたはむかしのまま。 それに比べて、私は……」

「リタだってかわってないよ。 厚化粧とか〜、ヘンテコリンなお絵かきとか〜、フタナリ好きとか♪」

「おほほほほほ。 ぶっとばすわよ?」

ひきつった声で笑うリタの額に、太い青筋が浮かぶ。

「ほんと、リタは優しいまんまだよ。 あたしは知ってる」

森の静寂が、二人の死徒を包んだ。

生き物の息吹が聞こえない薄暗い森は、リタとスミレしかこの場にいないのではないかと思わせる、ある種の聖域となっていた。

「どうして、こんなことになってしまったのかしら」

「リタ?」

「ううん。 理由はわかっているのよ。
やぶをつついて蛇に噛まれてしまったのよね。 自業自得だわ」

自嘲気味にリタは、呟いた。

ナルバレックの姦策にのり、アルトルージュと敵対する側についた、自分の選択。

それがどれほど無謀で、おろかしいものであるか、頭のいいリタはわかっていた。

暇つぶしの好奇心もあった。ただそれ以上に、彼女はオーテンロッゼをまもりたかった。

リタとトラフィム・オーテンロッゼの出会いは、約250年前にさかのぼる。

当時、二十七祖前15位が、自身の城に崇拝するオーテンロッゼを招待した時のこと。

給仕の死者であったリタ・ロズィーアンは、食事を運び込んだときに転倒し、彼の着ていたマントを汚してしまったのだ。

本来死者は主の命令どおりに動き、ミスなど犯すはずがないのだが、

スミレとの出会いで自我を触発され、なおかつ、もともと高い霊的ポテンシャルを有していたリタは、無意識のうちにその支配から逃れていたのだ。

怒りにかられた前15位は、その場でリタを処断しようとしたが、

―― フハハハ。 この白翼公の装いを汚すとは、なかなか太い者ではないか!

彼の尊大な一言で、リタは処刑から免れた。

その後、オーテンロッゼの寵愛を受け、リタは前15位から正式に領地を継承されることとなるのだが、

それが彼の厚顔の中に隠された優しさであったのか、一時の気まぐれであったのか、今となっては知る由もない。

「私は、あの方には返しきれないほどの恩義があるの。
でも、私は今こうして裏切っている。許されざることよね」

リタの懺悔に、スミレは渋い顔をかくせなかった。

「あたし、あなたに嫌われたくないけどさ、これだけは言っておかなきゃいけないとおもうの。
あのクソジジイとは、はやめに縁切っとくべきだよ。
ていうかこのまま切っちゃえ」

スミレはリタの過去を知っている。彼女の想いを知っている分、語調を控えめにおとして諭す。

恩人をクソジジイと罵るスミレに怒ることもなく、リタは、予想していたように笑った。

「おほほほほ。 あなたは顔合わせるたびに、いつもそればっかりね」

「だってあのクソジジイは、サンゴ礁食い荒らすオニヒトデだよ。
あいつは、あなたの純粋な思いに応えるような奴じゃない。
そのことはもうわかってるんでしょ?」

リタは口を閉ざす。

スミレのいうことは間違いなく核心を突いている。一片の曇りもなく真実だ。

「スミレ。 それでも私は信じたいの。 信じていたいのよ」

泉に写る自分の顔をみつめながら、リタはいった。スミレは、彼女の顔をのぞきこんで、ため息をつく。

「おばかさんだね」

「おほほ。 酔いどれ娘だけには、いわれたくありませんわ」

「ふふ。あたし、リタのそういう所が好きだよ♪」

立ち上がったスミレは、泉から何かをひきあげた。

網に包まれたビール缶が三本。

「冷やしといたんだ。 飲もう♪」

網から取り出した缶をほほにつけて、キンキンに冷えてることを確認してから、スミレは差し出した。

受け取ったリタは、蓋を開ける。

プシュッという気持ちのいい音がした。久しぶりに飲むアルコールは、リタの喉を潤していく。

「……美味しい」

「かぁ〜。やっぱビールが一番♪」

森の葉の香りが、ビールの香ばしさとあいまって、今までの疲弊を、全て洗い流してくれる。

癒されたリタに、もう思い残すことはなかった。

「スミレ。 ありがとう」

「あはは。 お礼の気持ちならピンクのドンペリで示してね♪」

「私は、きっとオーテンロッゼ殿に処刑される。 最後にあなたに会えて」

「……やめてよ」

缶が、握りつぶされていた。スミレの右手がビールの泡で濡れている。

リタはかまうことなく、話を続ける。

「私決めたの。 城に戻って、然るべき裁きをうけるわ」

「何いってるのよ!!」

スミレは、陽気をかなぐりすててリタにつかみかかった。彼女の魔眼が、嵐のような激情をおびて血走っている。

「あのクソジジイがあなたになにかやったら、あたしは絶対に許さない!!
首ねっこもぎとって魚の餌にしてやるっ!!」

「私はもういいの。 死ぬべきなのよ」

つかまれたまま、リタは動揺することなく呟いた。スミレは怒りにまかせて髪を振り乱し、わめき散らす。

「うるさいばかっ!!
今度そんなこといったら殺すっ!!
死ぬなんていったら殺してやるっ!!
殺してやる……」

リタの襟首をつかんでいた手が離れた。スミレは、その場に崩れ落ちて泣いた。

開放されたリタは、うずくまっているスミレを抱き寄せた。

「スミレ。 あなたの最大の欠点は、熱くなって、すぐ見境がなくなるところね」

「……うるさい……死んでいいわけないじゃない……リタのばかぁ……死んでいいわけ……ばかぁ……」

/2.

「ひどいな」

志貴は、吐き気を抑えた。

そこは、腑物でできた地獄の釜。

砂利道に飛び散る、人の臓物。

壊された家。壁がはがされ、金具が剥がれかかった扉から、カソック姿のシエルがでてきた。

「先輩」

「ダメですね。 ここはもう手遅れでした。
私は死体を葬りますから、トオノくんは見回りを続けてください」

シュヴァルツヴァルト山間、中腹にある村。

生きている人間はもういない。死体の山だけが築かれていた。

原形をとどめている死体は、何一つ見当たらなかった。骨の髄まで食い荒らされ、うち捨てられている。

志貴は、鬼畜の所業に憤りをおぼえながら、壊されたある民家に入っていった。

玄関に入ると、血だらけの靴がある。サイズは、小学生くらいのものだろうか。

瓦礫の散乱する廊下を歩く。

右の扉を開け、居間に入った志貴は、彼の姿を見付けた。

エンハウンスは、血だらけになった写真をみつめている。

志貴は彼に声をかけようとしたが、押し止めた。その写真にうつっていたのは、この家に住んでいた家族らしき人々。

エンハウンスは時間が止まったようにそれをみつめ、うごかない。

彼の黒い皮手袋が、軋みをたてる。

「クソが……」

白煙をあげる左手の聖葬法典は、この家でおこなわれた死者との死闘を如実に物語っていた。

「志貴」

写真たては、静かに元の棚に置かれた。

振り向いたエンハウンスは、銀色の銃を手に、決意をあらたにする。

「狩りにいくぞ。 立場をわきまえてないくされ死者どもを、一匹残らず根絶やしにしてやるんだ」

彼に呼応した志貴は、眼鏡をはずす。

「ああ。 一匹残らず、殺してやる」

七つ夜と聖葬法典が、怒りの鼓動をうちはじめる。

/3.

死者たちの軍勢約500体は、シュヴァルツヴァルト北部へ向け、侵攻を開始していた。

「次は観光地でもおそって、一網打尽といくか」

下卑た笑いをうかべて先頭をあるくスーツ姿青年風の死者は、この500体の統率者である。

田舎の村をおそった、おぞましき死霊の軍隊は、次の獲物をねらって森の中を行進する。

「教会や死徒の姫君が動いた気配もないな。 もう少し派手にいこ……!!」

突如、後方から悲鳴が聞こえた。

統率者は、驚いてふりかえる。その眼にうつったのは、死者たちの崩壊の序曲。

手という手、足という足が切り裂かれ、次々と死者たちは隊列を乱し、倒れていく。

「なんだ!!何が起こった!?」

夜の森でおこる惨殺劇に、統率者は、かりそめの理性を失う。

「私のこと、知らないの?」

統率者が振り向いた瞬間、白い閃光がその腹部を真っ二つに両断した。

男の眼が最後に確認したのは、月明かりにはえる、金髪の女性の姿だった。

「培養管で純粋育ちのあんたたちじゃ、当然かもね」

アルクェイドが、死者の前にたちはだかる。

上半身が崩れ落ち、統率者は息絶えた。

はずだった。

「ヒ……ヒヒヒヒ……ハーッハハハハハハハ!!」

上半身のみとなった身体を両手でおこし、目をぎらつかせながら統率者は、けたたましく笑う。

「そうか! おまえがアルクェイド・ブリュンスタッドか! 白翼公から聞いてるぜぇ。
真祖の姫君でその唯一の生き残り!
いまじゃ人間の男にイカレちまって、もっぱらベッドでご執心らしいなぁ?」

「工業製品にいわれる筋合いないわ。 クズ」

腕をくむアルクェイドは、死者の下卑た嘲笑を歯牙にもかけない。

彼女の尊大な態度が、下卑た統率者は気に食わなかった。

「いきがるなよ! いまやカスのてめぇなんざ、恐れるにたりねえよ!
気付かないのか! 切り裂かれたはずの俺が、なんで灰に還らないのかよぉぉぉぉ!!」

雄叫びをあげる統率者の傷口から、桜色の肉隗が蠢きだす。

引き裂かれた死者の肉体同士が複雑怪奇にからみあい、二人分の肉体をもつ一人の死者が立ち上がってきた。

それは一言でいうなら支離滅裂。本来手であったものは腹から飛びでて、足が肩から生えている。

極めつけに、二つの頭が一つの肉体を共有していた。

二つの口をもった統率者は、二重音でけたたましく笑う。

「「あひゃひゃひゃひゃ!! きゅうきょくがった〜い!!
俺たちはなぁ、完成したんだよぉ!
時代のニーズにこたえた新世代の死者なんだぜ〜!
ネバーモアのコントロール完璧ぃ!! 磨きがかかった究極の復元呪詛ぉ!!
いくら粉みじんに切り裂こうが俺たちは肝臓一つから再生できる!!
今や二十七祖すら、おれたちの相手にはならねぇ!!
辺ぴな村で補給はすませたが、へなちょこ真祖が本日のメインディッシュかい!! あひゃひゃひゃひゃひゃ!!
身体を生きたまま引き裂いてやるから、せいぜい泣き叫んで俺たちを楽しませてくれよぉ!!」」

異形の死者は、己の圧倒的有利に歓喜し、口からとめどなく唾液を垂らして笑っていた。

「残念だったわね」

「「へ?」」

アルクェイドの一言と共に、統率者の両腕は忽然と消える。

間抜けな声を出す統率者は、きれいに上腕部がなくなった己の腕をみて愕然とする。

再生をうながす肉隗が、いくら待っても隆起してこない。狂喜にわいていた死者の表情は一転、恐怖にそまる。

「泣き叫ぶのは、あんたよ」

アルクェイドの背後から、蒼い双眸をもつ少年が姿をあらわす。その手には、短刀が一振り握られている。

「「なんで? ど、どうして再生しねぇんだよぉ!!」」

統率者の二つの頭は、予想外の事態と激痛に地べたを転げまわる。

「あんまり無茶するなよ」

「へへ。遅かったね」

にっこりと笑うアルクェイドのもとに、遠野志貴が駆けつけてきた。

統率者は、刃物をもつ少年が、自分の腕を奪った犯人だと悟るが、にわかには信じられない。

「「てめえ!! いったい何しやがったぁ!?」」

「おまえにいうことなんかない。 オーテンロッゼに聞いてみろ」

「「ふざけるなぁ!! 新世代の俺たちを敵にまわしてタダで済むと」」

「『たち』ってのは、どいつのことだ?」

志貴が指をさした方向に、統率者はふりむいた。

統率者四つの目が、驚愕の光景を目撃する。

500体の死者たちではなく、もう二度と再生できない、ただの肉隗が散らばっていた。

肉隗が散らばる中心には、赤いオーバーコートを羽織る銀髪の死徒と、カソックに身をつつむ代行者が、背中合わせで佇んでいた。

開いた口が塞がらない統率者に向かって、聖葬法典と第七聖典の銃口が向けられる。

「二十七祖すら相手にならないだ? 笑えねぇぞ。 クソ野郎」

「まったくです。 さっさとあの世に送ってあげましょう」

アルクェイドが硬直する統率者にむかって、死刑宣告を告げる。

「強力な復元呪詛も、その元を断つ概念武装の前じゃ歯が立たないみたいね」

「「……かかか、かかかか」」

途端に縮こまり、統率者はその場にへたり込んだ。志貴は目の前の矮小な姿に、怒りが沸々とにじみでる。

―― あいつにそっくりだ。

―― アルクェイドやアルトルージュを姑息な姦計で苦しめて、追いつめられると途端に小心をあらわにする。

―― あのオーテンロッゼに腹が立つくらい、こいつは似すぎている。

「「ゆ、許してくれぇ……。 お、お、俺たちはただ、白翼公に命令されただけなんだよぉ……」」

みにくい命乞いをする二口の死者の姿は、志貴の怒りのボルテージを上昇させていく。

「おまえ、ただ操られてうごく死者とは違うみたいだな」

「「そうなんだよ!! 俺は死者たちの司令塔だから!」」

質問をぶつけられた統率者は、自分が興味をしめされているという、救いようのない勘違いをしている。

死者のあまりに浅薄な精神を見透かした志貴は、七つ夜を持つ手に力がこもる。

「司令塔なら、人間の集落をおそうことに、多少なりともためらうことはできたんじゃないのか?」

「「お、俺たちは命令通り動いただけなんだよぉ! 白翼公が力を供給しろっていうから」」

「そうか。 命令通りか」

「「そうだよぉ!! だからゆるシ」」

死者の『点』が、七つ夜に貫かれた。二口の統率者は灰燼と化し、風に吹かれて消える。

唇から苦汁の血を流し、志貴は吐き捨てた。

「何も考えずに命を奪うことが一番最悪なんだよ。 クズ」

/4.

死者の犠牲になった村人たちは、火葬されることとなった。

本来、ヨーロッパ圏は土葬だが、遺体がバラバラで判別できないこともあり、共同で葬ることになったのだ。

エンハウンスは、積み上げられた木材に向かってガソリンをかけ、火を放った。

途端に立ち上る、赤い葬送の炎は、天にまで届く。

シエルとエンハウンスは、召される村人たちに向かって、静かに十字を切った。

志貴とアルクェイドも、見様見真似で十字を切る。

生き物を焼く匂いは、その異臭に例えようがない。志貴はそれ以上に、悔しかった。

「こんな、理不尽なことってあるかよ。
普通に生きて、普通に暮らして、普通に幸せだったのに。 こんな結末、あんまりだ」

志貴の右手が、これ以上ないくらい強い握りこぶしをつくっていた。流れ出る苦汁の鮮血。

隣のエンハウンスは、炎をみつめたまま呟く。

「志貴。 その『普通』を奪うのが超越種であり、吸血種っていう化け物だ。
アルトルージュも、シュトラウトも、ヴラドも、犬っころも、姐さんも、俺もふくめてな。
今回の襲撃は、リタがいってた死者『デビュー戦』の第二幕といったところだろ。
オーテンロッゼにとって今回の襲撃は、いつもどおりの単なる実験にすぎないのさ」

エンハウンスは自嘲気味にいった。

あの時、壊れた民家の居間で、写真をみつめていた彼は、昔失った家族を思い起こしていたのだろうか。

彼に一瞥した志貴は、炎のなかに、唾棄すべき敵の影をみていた。

「……俺、スミレさんやアルトルージュたちに会って、吸血しなくちゃどうしても生きていけないっていう苦しみがさ、
驕りかもしれないけど、少しわかった気がするんだ。
生き物の命を奪うってことは、俺たち人間だってやってることだし、一枚岩でそれを否定することなんてできない。
だけど、だけど!!
オーテンロッゼは違う! あいつは弄んでるだけだ!!
自分の薄汚い欲望のために人間をころして、同じ仲間の死徒すら苦しめて、あいつだけは俺、絶対にゆるせないんだよ!!」

燃え盛る炎の前で、苦汁をかみ殺す。

あの醜い死者を生み出した元凶、オーテンロッゼを倒さなければ、悲劇は再び繰り返されるだろう。

たぎる彼の拳は、冷たい細い手につつまれる。

「志貴、私も同じだよ。
正直いって、あの古狸にはハラワタ煮え繰り返ってる。 殺しても殺したりないくらいね」

「アルクェイド……おまえ……」

同じ苦しみを抱え、なおかつ必死であらがう真祖のおもいに、志貴は胸がしめつけられる。

「私も同じ気持ちです。 この罪は、百の拷問にかけてもお釣りがきます」

「そのとおりだ。 今まで好き勝手やってくれたツケ、きっちり払わせてやろうぜ。
クソ偉そうな二十七祖の王サマによ」

シエルとエンハウンスも、思いは一緒だった。

吸血鬼によって、理不尽に家族を奪われた二人は、仇をとると決め時から、死徒殲滅の人生がはじまった。

ロアとブラックモアを倒したことによって、お互い仇をとることはできたが、

これ以上、同じ苦しみがひろがることだけは、是が非でも防がなければならない。

「ありがとう。オーテンロッゼ、必ず、倒してやる」

志貴の決意に、三人は拳をかかげる。たちのぼる炎にむかって、四人は悪逆の死徒討伐を誓約した。

「さ〜てそうなりゃ、今ごろ柩で呑気に眠ってやがるクソ騎士叩きおこして、白翼公ぶちのめす算段でも練るか」

「おい不良死徒。 また魔剣でシュトラウトさん起こすなよ。この前、お腹に大穴開けさせて大喧嘩してただろ 」

志貴の目撃談に、シエルは噴き出してしまう。

「な〜!! 教会とアルトルージュさんの全面戦争引き起こす気ですかぁ!? このヤサグレ吸血鬼、懺悔なさい!!」

「ちょっとしたギャグじゃねえかってウソですウソ! すいませんっていた! いててアゴ!! うわ、ちょっとまって○×△□……」

第七聖典の鋼鉄グリップで、エンハウンスはタコなぐりの刑に処された。

アルクェイドは頬にゆびをつけて考え込んでいる。

「……全面戦争ね。 いいかも。 むふふ 」

「アルクェイド。 もう姉妹ケンカはやめろよな」

/5.

「ひ〜めさま♪」

夕方の戦いを終えて、

ベッドで眠っていたアルクェイドは、能天気な声で起こされた。

時刻は、午前零時。

スミレが、彼女の眠る部屋に入ってきた。

アルクェイドは眠い目をこすり、起き上がる。

「……どうしたのよ水魔。 こんな時間に」

「姫様。あたし死徒だよ。 夜の方が元気溌剌なんだから♪」

まあ、そりゃそうね。と夢見ごこちでアルクェイドは納得した。

「遊びにいかない? いいところに連れてってあげるよ」

「ほんと!? 今度はどこの海……」

刹那、アルクェイドの額が、不可視の槍に貫かれた。

アルクェイドは反応することすらできず、徐々に目の光が消えていく。

スミレが、あらかじめ背後に隠していたペットボトルから、水の尖槍が具現されている。意識を失い、アルクェイドはベッドから昏倒した。

無言で、スミレは倒れたアルクェイドを肩に抱える。

スミレの双眸が、淡い蒼に染まっていく。

「連れていってあげるよ。 もう二度と、月が拝めないところにね」


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