月影検Act.7


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1: アラヤ式 (2003/08/10 21:18:00)[mokuseinozio at hotmail.com ]

「どうしても、退くつもりはないのね」

「愚問よ」

夜の海に浮かぶ月。

やわらかな光は屋上という舞台を鮮やかに照らし、古代ギリシャを彷彿とさせる決闘場と化す。

二人の吸血姫は、各々の信念を胸にいま、対峙する。

黒の姫君は、ふりかかる火の粉をはらうために。

白の姫君は、心をかよわせた死徒を守るために。

/1.

屋上に吹き付ける風は、夜の冷たさを運び、絹糸のような髪をゆらしていた。

アルトルージュは自然体でたたずみ、みえない殺気の刃で牽制する。

「断言しておくわよ。
この私が、弱体化しているあなたに敗北を喫することは万に一つもない。
でも安心して。しばらくうろちょろできない程度ですませてあげるわ」

彼女の魔眼は、自らが本気であることを示すように、月の光と競うように輝いていた。

「自惚れないで。
手心くわえて勝てるほど、私はあまくないわよ。」

対するアルクェイドも、彼女と拮抗するように魔眼を輝かせる。

二人は構えを低くとり、常にお互いの間合いをはかる。

100mを世界新余裕で走れるほどの、身体能力同士の対決は、一瞬のまばたきも許されない。

アルクェイドは正直なところ、自分の不利を理解はしていた。

日に日に高ぶる吸血衝動の押さえ込みで、自らの力をかなり消費しているのはわかっている。

だが、スミレの命をねらうアルトルージュを止める手段は、実力行使以外に他はない。

「昔からあなた、変なところで融通のきかない石頭よね。
水魔を排除して危険は去るの?どうしてそんなに凝り固まった考えができるのよ」

アルクェイドは、あえて小ばかにしたように言い放つ。

安い挑発にのるほど、アルトルージュに隙はない。

「アルクェイドさん。人の上に立つ者は、配下を責任もって守らなければならない義務があるの」

「だからって水魔を殺していいわけ?おかしいわよ!そんなこと私はぜったい納得しない!」

殺気をはなちアルクェイドは怒鳴る。怒鳴られたほうのアルトルージュは一息つき、爪をおさめた。

沈黙をおいて、彼女は、その魔眼を見開く。

「『水魔』スミレは、『第五の権利』をもっているのよ」

アルクェイドの表情が驚愕に染まった。

「The dark sixの第五権は、『無機流動体に対する絶対干渉権利』。
この世のありとあらゆる生命体は、水がなければ生存していくことはできない。
水分子は体内で化学反応の受け皿となり、生命活動を維持するための媒体として重要な役割をになっている。それは死徒も例外じゃない。
水魔はその『水』を、あらゆる形状に変化させ、性質を変化させることができるの。
これがどういう意味かわかる?
彼女がその気になれば、空気中の水分をプラズマに変化させ、この城ごと消滅させることも可能なのよ」

「おおげさだわ。そんな効率の悪いことを」

「もちろんこれは極論よ。
でもね、体内の水分を凍らせて行動不能にする。水圧を変化させて内臓をおしつぶす。
想定される攻撃のバリエーションは、思いつくだけでも百を下ることはないわ」

アルトルージュは再び爪をとぎすます。

「これほどの危険因子を放っておいて、権力者の資格なんてない。私は、水魔を討つ」

レンガ畳が、破砕と共に白煙をあげた。開戦の狼煙があがる。

同時に、唇をかむアルクェイドの怒りは頂点に達した。

「このわからず屋、あなたは水魔をしらないのよ」

/2.

レンガ造りの城は、もともと砂糖でできていたのであろうか。そんな錯覚をしてしまいそうなほど、城の屋上はあっさりと破砕されていく。

繰り出されたアルトルージュの爪が、アルクェイドの右肩を貫いている。

バケツをぶちまけるようなおびただしい出血。だが彼女はそれに構うことなく、左手の爪をアルトルージュの腹に食い込ませた。

肝臓をつらぬかれたアルトルージュは、激しい吐き気におそわれた。

「前と同じだとおもったら、その首ふっとぶわよ!!」

血反吐と内容物がおりまじったものをアルトルージュは吐く。

「……どうしてわからないの!?
水魔を放っておくことがどれだけ甚大な被害をおよぼすか、あなたはなんで理解しようとしないのよ!!」

鈍い音が闇を走った。アルクェイドの意識が飛ぶ。

アルトルージュは腹をつらぬかれたまま、強烈な頭突きをかました。

脳を揺さぶられたアルクェイドは、あたまを抑えてふらつく。

その隙にアルトルージュは彼女の左手をぬき、身を低くかがめると、右足の下段蹴りをくりだす。

細い足には似つかわしくない遠心の剛力が迫る。アルトルージュ渾身の一撃だ。くらえば両大腿の粉砕骨折はまぬがれない。

行動不能になる危機に、アルクェイドの瞳が、禍々しく見開かれた。

「あなたのよこしまな猜疑心なんて、理解したくもないわ!!」

正気を取り戻したアルクェイドは、アルトルージュの蹴りに対抗し、自らもローキックを繰り出す。

空気が、割れた。

「うあ!!」

「ぐう!!」

衝突した二人の蹴撃は、吐きもどしそうな嫌な濁音をかなで、双方の骨を粉砕する。

骨が飛び出ていきそうな激痛に、血だらけでたおれこむ双方の吸血姫。

復元呪詛があるとはいえ、突き刺すような痛みはしばらくひかない。

うずくまるアルクェイドを余所に、アルトルージュは片足をひきずって、いち早く立ち上がった。

「皆を、危険に晒すわけにはいかないの。
アルクェイドさん、これ以上私の邪魔をしないで!!」

怒号とともに、アルトルージュの右の拳が、立ち上がりかけていたアルクェイドの頬にめりこむ。

白磁のような皮膚をはぎとるほど、強烈な一撃だった。吹き飛ばされ、スケートリンクをすべるようにアルクェイドの体は転がった。

「終わりね」

人形のように横たわったアルクェイドを一瞥し、アルトルージュは冷たく呟く。もう彼女が起き上がってくることはない。

脳をゆさぶる二度の衝撃は、立ち上がる気力以前の問題だ。しばらくは指一本うごかすことはできないだろう。

アルトルージュは屋上の階段へ向かった。スミレに止めをさすために。だが、

「か、は?」

アルトルージュが、階段を下りることはできなかった。彼女の復元したばかりの脇腹を、白い爪がつらぬいている。

喀血するアルトルージュが後ろをふりむくと、

「やらせない」

頬肉をはぎとられ、くだけた足をひきずっているアルクェイドが、渾身の力を振り絞って立っていた。

彼女の頬に、一滴の涙がつたう。

「水魔はね、私を抱いてくれたの」

アルトルージュの腹をつらぬいている腕が力みをます。

「私の頭をなでてくれたんだよ。
優しいんだよ。
水魔は、志貴と同じくらい優しいの。だから……」

アルトルージュは、彼女の底知れぬ怒りと膂力に、身体の芯から寒気を感じた。

頬の筋肉がみえる痛々しい姿で、アルクェイドは恫喝する。

「あなたが水魔を殺すというなら、私はあなたを殺す!!
このまま腕を振り上げて頭を真っ二つに裂いてやる!復元できないように切り裂いて粉みじんにする!!
それでもいいならやってみなさいよ!水魔を殺すというなら、私の屍越えてからいきなさい!!」

本気だった。

今の彼女は、スミレを守るためなら、実の姉を手にかけてもかまわないという気迫が、空気を介して感じられた。

純粋な殺意があった。大事な人を守るためなら手を血に染めてもかまわないという崇高かつ悲壮な殺意があった。

だがアルクェイドは読み違えている。悲壮な殺意をもつのは、アルトルージュも同じこと。

「……私は弱いのよ。完成品のあなたと違って」

鈍重な音が響いた。

腹から飛び出ているアルクェイドの爪を、万力のような握力がにぎりつぶす。

アルトルージュの気迫が、アルクェイドのそれと拮抗していく。

「私は弱いの。
力が不安定で、いつ理性を喪失して魔王になってもおかしくない。こうしている今だって、必死で感情の起伏をおさえているのよ」

彼女は目を血走らせて泣いている。

「真祖の完成品としてうまれたあなたにこの苦しみがわかる?
死徒と真祖の混血である私は、いつも未完成品の烙印をおされ、姫などと持ち上げられ、蔑まれてきた」

その苦しみは、アルクェイドにもわかる。

「でもね、もうそんなことはどうでもいい。
私には守るべき人がいる。リィゾ、フィナ、ブライミッツ・マーダ―、志貴くんたち、私の守るべき人よ」

アルトルージュの腹筋が隆起する。その圧力がアルクェイドの爪を圧砕した。

「私は弱い。だから強大な敵は討つべきときに討つ。
卑怯だっていわれてもいい。卑屈だっていわれてもかまわない。
あなたがどんなに邪魔しようと止めることはできない!!離しなさい!!」

アルクェイドの手の形がスプーンの形状で曲げられた。その痛みは人間ならばショック死するほどのものだ。

だが、アルクェイドはひるまない。使い物にならない左手を捨て、残った右手を槍のようにとがらせる。

アルトルージュも左手を、おなじく鋭い凶器と化した。

/3.

壮絶な憤怒をたぎらすこの戦いに、思慮や打算などは一切なかった。

ただ、気に入らなかったのだ。

そんな単純な理由で、今、二人はお互いの心臓を貫いた。

「は……か……」

「く……はぁ……」

心臓をつらぬく二人の一撃は、お互いがしゃべることすら許さない。

体内の血液を循環する臓器に、手という異物が入ったままでは、復元呪詛も役には立たない。

それでも、アルクェイドは声を振り絞る。

「……はや、く……ギブ……しなさいよ……死ぬ……わよ……」

同じく血を吐きつづけるアルトルージュも、ひくつもりは毛頭ない。

「……あなた……だけには……誰が……するもんで……すか……」

すでに原形をとどめていない心臓をさらにお互いは握りつぶす。

再生しようとする体組織が行き場を失い、その苦しみは窒息を遥かにこえた肺への圧迫となってあらわれた。

苦悶にうめく二人の姉妹。華麗とは程遠い血みどろの決闘。

体中の血管が破れ、循環が行き渡らない身体は、手足から壊死していく。

身体が死にかけようと、二人が後ろに退くことはなかった。退けばそれは、お互いの信念を失うことになるのだから。

アルクェイドは心臓をつかむ手にさらに力をこめた。体内のあばら骨をへし折り、肺につきさそうとする。

アルトルージュはそれに対抗し、はらわたをまさぐり肝臓の位置を確認した。

「そこまでだ」

「「え?」」

突然、二人の吸血姫は宙に舞った。

視界がさかさまになったアルクェイドは、自分がなんで吹き飛ばされたのかわからない。

レンガの破片や土ぼこりが自分と共に舞っている。

地面に目をやると、何やら鉛色の金属が、蛇のようにうねうねと動いていた。

「ど派手な姉妹ケンカだな。これ以上の続行はバイオハザードだぜ?」

くたびれたYシャツを着る、エンハウンスがいた。

彼は普段着のまま、魔剣アヴェンジャーをもちだしていたのだ。

地面につきささった大剣は鞭状に変化して地中をもぐり、致命の一撃を与えようとしたアルクェイドとアルトルージュを叩き飛ばしたのだった。

アルクェイドが落下していく地点に志貴がまちかまえていた。どすんという衝撃と共に、アルクェイドを受け止める。

「志……貴……!?」

「しゃべるなよ。たく、胸がもうグロ画像みたいだぞ」

一足違いで地面に落下しそうになるアルトルージュは、エンハウンスが受け止めた。

「はいよ。いっちょあがり」

「……エン……ハウ……」

胸に大穴を空けているアルクェイドを抱える志貴は、彼女の心臓が再びつくられはじめていることに安堵をおぼえた。

ただ、おもむろに何故か咳払いをする。

「アルクェイド」

「……なに?」

嫌な予感がしつつも、アルクェイドは志貴のささやきに耳をそばだてる。

志貴は空気を思い切り吸い込む。

「この、ばか女ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

お約束だ。

「いった〜い!?何すんのよ!!いっつもバカバカ怒鳴ってたら本当にバカになるわよ!!」

「バカなやつはバカだろ!!
俺たちが水道管なおしてるあいだに、なんで血みどろのケンカやってるんだよ!!」

スミレが水を使役したとき破裂させた水道管を、現在シュトラウトとヴラドが急ピッチで修繕している。

「姉さんと仲直りするんじゃなかったのか?」

「だってあいつ、水魔を殺すとかいいだしてっイタ!!」「あいつとかいうな!!」

アルクェイドの頭に志貴のゲンコツがヒットする。

一方アルトルージュは、エンハウンスに抱きかかえられて、その頬をピンクに染めていた。

「あの……」

「アルトルージュ。姐さんを殺る気か?」

エンハウンスは厳しい眼差しをむける。つきさすような彼の魔眼に、彼女は黙り込む。

「言っておくが、姐さんに手をかけるなら姫君同様、俺も黙ってないぞ。いくらおまえさんでも、容赦なくぶった斬る」

彼の厳しい言葉に、アルトルージュは正直泣きそうになる。

少女の泣き顔をみるには忍びないのか、エンハウンスはすぐに助け舟をだした。

「ま、なんか理由があったんだろ。ケンカは両成敗っていうからな。
今夜は早々に寝て、頭冷やしとけよ。」

屋上に繋がる階段から、でかい足音がきこえてきた。

「エンハウンス!!まだ水道管の穴ふさがってないんですよ!!さっさと魔剣で……何ですか?この惨状は?」

階段から上ってきた、全身ずぶぬれのシエルは、屋上のあまりの損壊ぶりに絶句する。

綺麗にしきつめられているはずのレンガ畳はほとんど割れて、壁などは穴があいてない箇所を探すのが難しいくらい破壊されていたのだから。

血みどろの姉妹をかかえた志貴とエンハウンスをみて、シエルは一体どんな戦争があったのかをすぐに理解した。

「なるほど。そこの天然災害姉妹が、壮絶なケンカおっぱじめたわけですね」

「そういうことだ。お姫さま、もう立てるか?」

「……ええ」

お姫様抱っこからアルトルージュは降ろされた。彼女の顔は少し名残惜しそうだ。

シエルに耳をひっぱられて連れて行かれるエンハウンスの手を、彼女はにぎる。

「何だよ」

アルトルージュは、志貴に抱えられているアルクェイドの、ある一部分に一瞥した。

エンハウンスを連れて行こうとするシエルの、ある一部分にも目をむける。

「……大きい人のほうがいいの?」

「は?」

「……胸が、その、ふくよかな人が、やっぱり、好み?」

アルトルージュは指をもじもじさせている。いわれてみれば確かに、彼女の胸部はいささかボリュームに欠けている。

突然の質問にエンハウンスは、たいして考えもせずこたえた。

「まあ、大きいに超したことはないな」

答えを聞いた瞬間、アルトルージュは瞳が潤み、ダッシュでその場を去っていってしまった。

意味がわからず呆けるエンハウンスの頬に、シエルの鉄甲ビンタが炸裂する。

「あなたという人はお金もなければ、デリカシーもないんですね!最低です!」

おこったシエルはそうそうに階段を下りていく。

ぶたれた男は、『なんで今日一日2回もビンタされなきゃいけねえんだ???』的な顔で、とりあえず彼女のあとを追っかけていった。

屋上に、志貴とアルクェイドは取り残される。

「何なの?さっきまであんなに息巻いてたくせに、途端に大人しくなったみたいだけど」

「アルクェイド。世の中にはな、おまえじゃわからない苦しみを抱えている人が、それはもう数多くいるんだぞ」

「なに?それ?」

そのころ日本では、(時差の関係で朝である)

「琥珀……」

「どうなさいました?あらあら、グラスが粉々ですよー。」

「いえ、なぜだか急に殺意をおぼえてしまって。どうしてかしら?」

ナイチチの悩みは、全世界共通らしい。

「ちょっと待ってよ!!」

何故か志貴にアルクェイドはつかみかかる。

「妹と同じコンプレックス抱えているわけね。じゃあもしかして、水魔を殺そうとしたのって!?」

ちなみにスミレはB83である。

「じゃあ私は、そんな個人的かつとばっちりな嫉妬で足折られて心臓つらぬかれたわけ!?
冗談じゃないわよ!!あのヒステリー女!!やっぱり決着つける!!」

「いやそれもありそうだけどそれだけじゃないだろ!?落ち着け!!」

いまだ塞がっていない傷からアバラ骨をみせ、アルクェイドは暴れまわった。

/4.

屋上での姉妹ケンカもおさまり、水道管もなおった居城は、ようやく静けさを取り戻していた。

傷もふさがって、満身創痍のアルクェイドは床につく。

「……志貴。となりにいてよ」

「甘えるんじゃない。ケンカした罰だ。」

冷たくあしらう志貴ではあったが、彼女に包帯を巻いたり、血を拭きとってやったりとやるべきことはやっている。

「スミレさんの様子みてくるから、大人しく寝とけよ」

「……うん。……ありがと」

アルクェイドをなだめた志貴は、スミレのいる寝室に向かった。(エンハウンスは強制退去中)

音をたてないように部屋に入る。

スミレは一連の騒動にもまったく目を覚ますことなく、暢気に寝息をたてていた。

彼女の寝ている横で、志貴は椅子にこしかける。

ヴラドの用意した洗面器は、静かな水面をたたえている。

「志貴くん」

突然の声に、志貴が驚いて振り向くと、そこにはアルトルージュが立っていた。

「傷は、もういいのか?」

「うん。
アルクェイドさんを傷つけて、ごめんなさい」

素直にアルトルージュは会釈した。

志貴は首を横に振り、彼女に椅子を用意する。

子供のように眠るスミレをみるアルトの目は、殺意ではなく哀しみに満ちていた。

志貴は、優しく問い掛ける。

「アルクェイドから聞いたよ。
みんなのことおもって、スミレさん殺そうとしたんだろ?」

うつむいた彼女は、しばらく何もいわなかった。

アルトルージュの脳裏に浮かぶ、アルクェイドの壮絶な姿。

何度でも立ち上がるその地力は、自分を一瞬ひるませた。そして同時に興奮させた。

彼女に対する憎しみ以上の闘争心が、死徒の姫君に芽生えていた。

「それは、キッカケにすぎないわ
もちろん最初はそうじゃなかった。水魔を殺さなければ後悔することになると思ったから。
でもね、戦っていたら、頭に血がのぼっちゃって、本気でアルクェイドさんを殺したくなったの」

物騒な物言いに、志貴はちょっと身震いする。

「私、結局アルクェイドさんと戦いたかっただけなのよ。
よく男の人の戦闘で『拳をまじえる』っていうけど、こういうことなのね。なんか、すっきりしちゃった」

スミレをみつめながら、アルトルージュは思いを吐露する。

「今までのわだかまりが解けたっていうか……あ、ごめんなさい」

「いいよ。アルクェイドのやつは元気みたいだったしさ」

そういって志貴は、洗面器のおしぼりで、若干汗をたらすスミレの額をぬぐう。

彼女の細いまゆが、一瞬、ピクっと動く。

「「あ!」」

スミレは、突然起き上がった。

驚く志貴とアルトを余所に、寝ぼけたマナコでスミレは辺りをみまわす。

そして一言。

「お酒〜zz」

スミレが寝起き酒を要求すると、廊下をうるさい音で駆けてくる奴がいた。

水道工事の疲れで爆睡していたはずのエンハウンスが、これまた寝ぼけマナコでやってきた。

扉にもたれかかるエンハウンスと、起きたまま止まっているスミレ。

二人は、夢うつつで会話する。

「どうした〜姐さん〜zz」

「あ〜、ひとっ走り町までいってさ〜、ビールでもワインでもいいから買ってきて〜zz」

「姐さんしつも〜ん。こんな時間に空いてる店は皆無に近いぞ〜zz」

「そんなもん気合でカバーしろ〜。ワイン30本は必須ね〜zz♪」

「らじゃ〜zz」

エンハウンスは半眠りにもかかわらず額に手をかかげ、ダッシュで買出しにでかけた。

夢遊病患者がショートコントしているような奇妙な光景に、志貴とアルトは絶句しかける。

「あいつ、完全にでっちだな……」

「いったい、どんな調教されてきたのかしら?」

夜が深まると同時に、

スミレの謎も、さらに深まっていく。


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