初めての冬休み〜雪の日1(続き2)〜


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1: 混沌DAI (2003/08/05 00:19:25)[daiching19 at msn.com]

秋葉の部屋を出て、門の前でレンと合流する。
それから街に出て、まずはドレスからだ。
志貴「でも、この街にそんなの用意してくれる店があるのか?」
琥珀「はい、ほとんど遠野家専用みたいなお店ですけど」
さすがは金持ち。いきつけの仕立て屋があるという時点で浮世離れしている。
レン「・・・・・・」
レンはどこか緊張した面持ちでついてきている。
やっぱり初めてドレスを着るというのはどきどきなんだろうか。
琥珀「レンちゃんだったらちょっと大胆なドレスが似合うんじゃないかな?やっぱり色は黒がいいの?」
レン「・・・・・」
当然、と言わんばかりにレンがうなずく。
しかしレンの場合黒でも地味だとか暗いとか言うイメージがまったくわかない。
むしろ清楚というかおしとやかというか・・・。とりあえずレンには本当に真っ黒の服が似合ってると思う。
アルクェイドとまったく逆なんだな・・・。
そんなことを考えているうちに店に着いたらしい。
自動ドアをくぐって中に入る。
店員も時期が時期なだけに買いに来たと分かっているのだろう。その応対は素早かった。
店員「いらっしゃいませ。これは琥珀さん。クリスマス用の衣装ですね?」
どうやら前までも琥珀さんがドレスの注文に来ていたんだろう。店員とはすでに顔なじみだった。
琥珀「はい、この子なんですけど・・・」
レン「・・・・・」
店員「はい、わかりました。じゃあ寸法を測りますね。お二人はあちらでお待ちください」
琥珀「あ、この子ちょっと人と話すのに慣れてないんで、私も付いていきますね」
店員「そうですか、それではこちらへ」
琥珀「じゃあ少し待っててくださいね。志貴さん」
志貴「ん、レン。いってきな」
レン「・・・・・・・」
とまどいながらもレンは琥珀さんと店員についていく。
今まで外の世界にふれることのなかったレンにとってこういう一つ一つが新鮮で、驚きに満ちているんだろう。
アルクェイドと同じで、何百年も生きているんだろうけど、本当に子供みたいな奴だ。
世話好きな琥珀さんは庭掃除のときなんかによく話しかけている。
それは翡翠も同じようで、レンも俺の次に翡翠になついている。
でも琥珀さんの場合は年下の妹か娘みたいに接しているが、翡翠の場合は自分と似た友達という感じだ。
レンも翡翠の自分と同じような雰囲気のせいか、翡翠には警戒なく抱かれたりしている。
だが秋葉に対してはレンはやたらに警戒している。
視界の中に秋葉が入った途端に走り去っていくらしい。
でもまあ秋葉は可愛げないと言いながらも大して気にした様子もなかった。
秋葉に言わせると誰かみたいに私の邪魔をしたり家を荒らしたりしなければかまいません、とのことだ。
秋葉も先輩やアルクと争うのに手一杯でこれ以上のものにかまっていられないのかもしれない。
まあレンは話さないことを抜きにしても、アルクェイドや先輩みたいにあからさまな攻撃色は示さない。
でもたまにやきもちをやいてるような、そんな顔をすることはある。
それでも秋葉はあら、この子やいてるのかしら?なんていって子供をなだめるような感じだ。
まあ見た目も心もまったく子供みたいなんだが・・・レンは。
っと、どうやら終わったみたいだな。
琥珀「お待たせしました」
レン「・・・・・・」
なんとなくレンの様子がおかしい・・・というか顔が赤いような・・・?
・・・そうか、体の寸法を測るときに裸にされたからか。
志貴「もういいの?」
琥珀「はい、このお店に合ったものをレンちゃんのサイズに合わせるだけですから。幸いレンちゃんの気に入るデザインのものがあったみたいで」
店員「早ければ今日の夜か、明日の午前中にはお届けできると思います」
琥珀「はい、ありがとうございました。じゃあいきましょうか」
ガーと自動ドアをくぐって外の空気を吸い込む。
琥珀「私は他のものを買っていきますからお二人は先に戻っていてください」
志貴「いや、俺も行くよ。男手が必要だろ?」
琥珀「いえいえ、志貴さんは他にすることがあるんじゃないですか?」
琥珀さんがにこやかにわけの分からないことを言う。
志貴「友達に電話ならもう誘う友達はいないけど・・・」
琥珀「時南さんたちにはもう連絡なさったんですか?」
志貴「あ・・・・」
すっかり忘れてた。
やぶ医者(宗玄)はともかく朱鷺恵さんはちゃんと誘わないといけなかった。
琥珀「ちゃんと朱鷺恵さんだけじゃなくて宗玄さんも誘ってあげてくださいね」
俺の心を見透かしたように琥珀さんが注意する。
志貴「・・・はい、じゃあ早速連絡します。レン、帰ろうか」
レン「・・・・・」
普段屋敷か庭で暮らしているレンは、あまり外に出るのに慣れていない。
人が少ない公園とかはたまに行っているらしいが、特に今日はドレスの仕立て、ということでいろいろと気疲れしたんだろう。
志貴「じゃあ琥珀さん、またあとで」
琥珀「はい、気をつけて帰ってくださいね」
朗らかに笑って琥珀さんは歩いていく。
俺達も屋敷へと向かって足を進めることにする。
志貴「レン、疲れたか?」
レン「・・・・・・」
予想に外れてレンは首を横に振った。
疲れたけど楽しかった。
そう言っていた――

屋敷に戻ってからは琥珀さんに言われたとおり時南医院に電話をした。
朱鷺恵さんはもちろん、何故か宗玄のおっさんも乗り気で承諾してくれた。
秋葉のほうはというと晶ちゃんは二つ返事で了承。後は浅上女学院のころ同室だった友達二人を誘ったらしいが、一人は用があるらしくだめだったがもう一人は来れるとのことだったらしい。
一応おれは久我峰のおっさんの名前も上げたのだが瞬時に秋葉と翡翠に却下された。
名前を出した途端、秋葉の髪が赤くなったんだから逆らえるはずもない。
多分、呼んだとしても秋葉に消されてしまうことだろう。
というわけで明日のパーティーの参加者は・・・
俺―遠野志貴  秋葉  翡翠  琥珀さん  アルクェイド  シエル先輩  レン  晶ちゃん  秋葉の友達(三澤羽居)  時南宗玄&朱鷺恵さん
以上の十一人(?)だ。
メンバーを見る限り、とても普通の賑やかなだけのパーティーで終わるとは思えない。
まあ一波乱どころか十波乱は覚悟しておくべきだろう。
それを考えると屋外にしたのは大正解だ。何かあったらこのメンバーじゃあ屋敷が無事である保証がない。
屋敷が全壊したりしたら翡翠はショック死してしまうだろうし、俺も大変に困ったことになる。
まあ屋外にしても気が倒れたり植木が壊されたりは覚悟しておこう。
三人はケンカしないと誓ったが、おそらく、いや確実に明日はアルコールが出回る。
となるとアルクェイドと先輩はわからないが、秋葉は酒が回るとやたらと絡む癖がある。
その被害は間違いなく俺かアルクェイドか先輩に向けられることだろう。
まあ、よほどの覚悟が必要だろうな。もしかしたらロアとかネロと戦ったとき以上の力が必要かもしれない。
と、明日のことで臆病になっていくうちに部屋がノックされた。
入ってきたのは翡翠だ。おそらく明日のタキシードを届けに来たのだろう。
翡翠「失礼いたします」
そういった翡翠の手にはやはりたたまれた服があった。
志貴「それが明日の服?」
翡翠「はい。寸法は間違ってないと思いますが、後で試着してみてください」
志貴「うん、ありがとう。ところで翡翠のドレスはどうだった?」
といった途端、翡翠は顔を赤くしてうつむいてしまった。
翡翠「そ、それは明日ごらんになればおわかりいただけるかと・・・」
翡翠もドレスを着ることがあるとは思ってなかったのか、緊張と恥ずかしさが入り混じった顔だ。
志貴「やっぱりドレスを着ると緊張とかするのかな」
翡翠「はい・・・緊張というよりも変じゃないかと・・・」
志貴「ああ、なるほど。馬鹿だな、翡翠なら大丈夫だよ。・・・って翡翠は去年まではドレスは着なかったの?」
翡翠「え・・・、あ、はい。このままでした」
なるほど、それじゃ仕方ないのかもしれない。
まあ琥珀さんの場合はいつもどおりなんだろうけど・・・。
志貴「うん、じゃあもういいよ。翡翠も明日はドンチャン騒ぎになるだろうから休んでおいた方がいい」
翡翠「はい、志貴様もゆっくりお休みください」
そういって翡翠は部屋から出て行った。
翡翠が行ってから言われたとおり一度袖を通してみた。
サイズはちょうどよかったが、やはり着慣れない服なので違和感は抜けなかった。
それに、やっぱり自分も恥ずかしいという気持ちを感じていた。
いつもと違う自分、それを意識してなんとなく一人で咳払いをしてみたりした。
とりあえず外から見たら変には見えないと思うが、本人である俺が一番変だと感じている。
でもやっぱりこういうのがいいんだろうな。
本当に特別な一日として心に刻み込むには、何から何まで非日常にするのが最高だ。
明日どんなにすごいことになっても、やっぱりそれは楽しかった事として思い出せる。
だから、
明日は晴れるようにと月に願った。


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